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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R
管理番号 1150943
審判番号 不服2006-16753  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-06-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-08-03 
確定日 2007-02-13 
事件の表示 平成 9年特許願第313009号「スピーカ」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 6月 2日出願公開、特開平11-150790、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.経緯
(1)手続
本願は、平成9年11月14日の出願であって、平成18年6月29日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月1日付けで手続補正がなされたものである。

(2)査定
原査定の理由は、概略、下記のとおりである。



本願の請求項1に係る発明は、下記刊行物1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

刊行物1:特開平9-238389号公報
刊行物2:特開平9-275596号公報

2.審判請求時の補正の適合性
平成18年9月1日付けの手続補正(本件補正)は、特許法第17条の2第3項ないし第5項(同項で準用する第126条第5項)の各規定に適合する。詳細は、以下のとおりである。
(1)補正の内容
本件補正は、次のような請求項の補正を含むものである。
(a)補正事項1
請求項1について、
「上記ヨークの壁部の内周側と上記プレートの外周側に磁気ギャップを設けた界磁部」(補正前)とあるのを「上記ヨークの壁部の内周側と上記プレートの外周側に磁気ギャップを設け、内周部に空間を有する界磁部」(補正後)と、
「外周部を上記プレートに結合して磁気ギャップよりも内周側に配置されたダンパー」(補正前)とあるのを「外周部を上記プレートに結合して磁気ギャップよりも内周側に配置されるとともに、上記界磁部の内周部の空間を振幅スペースとしたダンパー」(補正後)と、それぞれ補正する。
(b)補正事項2
上記補正に対応して発明の詳細な説明を補正する。

(2)補正の適否
(2-1)補正の範囲(第17条の2第3項)
上記補正事項1ないし2は、願書に最初に添付した明細書及び図面の記載(段落【0017】、【0020】)に基づくものであり、本件補正は、願書に最初に添付した明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてする補正である。

(2-2)補正の目的(第17条の2第4項)
補正事項1は、補正前に記載のあった「界磁部」及び「ダンパー」の内容を限定するものであり、しかも補正の前後において、産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、特許請求の範囲の減縮に該当する。
補正事項2は、補正事項1に伴ってなされたものであり、誤記の訂正に該当する。

(2-3)独立特許要件(第17条の2第5項)
補正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるので、以下、その独立特許要件について検討する。

(a)補正後発明
補正後の請求項1から請求項6までに係る発明(以下、補正後各発明という。)は、下記のとおりのものである。
記(補正後各発明)
【請求項1】 底面とその外周に上方へ延びた壁部を有するヨークとこのヨークの上記底面に配置されたマグネットとこのマグネット上に配置されたプレートからなり、上記ヨークの壁部の内周側と上記プレートの外周側間に磁気ギャップを設け、内周部に空間を有する界磁部と、この界磁部に結合されたフレームと、このフレームの周縁部に外周部を結合したエッジと、このエッジの内周部に外周部が結合された主振動板と、この主振動板の内周部に上記界磁部の上記磁気ギャップにはまりこむボイスコイルを結合して構成したスピーカであって、外周部を上記プレートに結合して磁気ギャップよりも内周側に配置されるとともに、上記界磁部の内周部の空間を振幅スペースとしたダンパーと、このダンパーの中心部を副振動板の中心部に結合し、上記副振動板の外周部を主振動板の上面のボイスコイルと主振動板との結合部より外周側で結合したスピーカ。
【請求項2】 ダンパーの中心部と副振動板の中心部とをセンターキャップを介して結合した請求項1に記載のスピーカ。
【請求項3】 副振動板の外周部にエッジ部を設けた請求項1に記載のスピーカ。
【請求項4】 主振動板または副振動板の上面にダストキャップを結合した請求項1に記載のスピーカ。
【請求項5】 ダンパーの内側のセンターキャップとプレート間に他のダンパーを接合した請求項2に記載のスピーカ。
【請求項6】 センターキャップを下方に延長し、界磁部でガイドさせた請求項2に記載のスピーカ。

(b)補正後各発明が備える特定事項
(b1)査定で引用された各刊行物のいずれにも、補正後各発明が備える下記の特定事項(以下、「特定事項A」ともいう)は記載されていない。また、各刊行物を組み合わせても、同特定事項を導くことはできない。 記
底面とその外周に上方へ延びた壁部を有するヨークとこのヨークの上記底面に配置されたマグネットとこのマグネット上に配置されたプレートからなり、上記ヨークの壁部の内周側と上記プレートの外周側間に磁気ギャップを設け、内周部に空間を有する界磁部と、外周部を上記プレートに結合して磁気ギャップよりも内周側に配置されるとともに、上記界磁部の内周部の空間を振幅スペースとしたダンパーと、このダンパーの中心部を副振動板の中心部に結合し、上記副振動板の外周部を主振動板の上面のボイスコイルと主振動板との結合部より外周側で結合した点。
(b2)そして、補正後各発明は、上記特定事項を備えることにより、「従来のスピーカに比べ、振動板が主振動板11と副振動板12に2分割されているため、一般のスピーカ同様、スペーサ13を用いて組み立てることが可能で、磁気ギャップ5より内側にダンパー9を配置し、その振幅スペース6として内磁型の界磁部1の内周部の空間を利用する薄型スピーカにおいても、ボイスコイル8を磁気ギャップ5に対して傾斜や偏心のない状態で結合できるため、異常音を発することがなく、薄型化と低不良率とを両立させることができるものである。」(段落【0020】)等の明細書に記載の顕著な効果を奏するものと認められる。
(b3)以上によれば、補正後各発明は、査定で引用された各刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(c)引用刊行物の記載等
各刊行物の記載について検討する。
(c1)刊行物1(特開平9-238389号公報)
刊行物1には、図面と共に以下に掲げる事項が記載されている。
ア.「【0015】本発明に係るスピーカ装置は、図1に示すように、磁性材料により形成された円盤状のヨーク2を有している。このヨーク2は、前面部中央に、一体的に突設された円柱状のセンターポール1を有している。
【0016】上記ヨーク2の前面部には、円環状の駆動マグネット3が、接着剤により固定して配設されている。この駆動マグネット3は、上記センターポール1に対して同軸状となされている。すなわち、この駆動マグネット3の中央の透孔部内には、上記センターポール1が進入されている。
【0017】上記駆動マグネット3の前面部には、磁性材料により中央部に透孔を有する円盤状(円環状)に形成されたトッププレート4が、接着剤により、取付けられている。このトッププレート4は、上記センターポールに対して同軸状に配設されている。上記トッププレート4の中央部の透孔には、上記センターポール1の先端側部分が進入されている。
【0018】すなわち、上記トッププレート4を上記駆動マグネット3に取付けるときには、上記センターポール1の外周面とこのトッププレート4の中央部の透孔の内周面との間にギャップガイドを挿入して、このトッププレート4を該センターポール1に対して位置決めした状態で、このトッププレート4を該駆動マグネット3に対して接着させる。そして、上記トッププレート4を上記駆動マグネット3に対して接着させる接着剤が固化した後に、上記ギャップガイドを取り除くことにより、このトッププレート4は、上記センターポール1に対して位置決めされた状態で、固定される。
【0019】上記トッププレート4の中央部の透孔の内周面部と、上記センターポール1の先端側部分の外周面部とは、互いに対向し、磁気ギャップ部15を形成している。
【0020】上記トップレート4の前面部には、略々円錐状に前端側が拡径された円筒状のフレーム8の後端側部分が取付けられている。
【0021】そして、上記フレーム8の前端側の保持部には、中低音用振動板5の周囲部分が、エッジ部13を介してガスケット14により取付けられている。このエッジ部13は、可撓性を有して形成され、前後方向に変位可能となっている。上記中低音用振動板5は、中央部分に透孔を有する略々円錐形状に形成されている。
【0022】上記中低音用振動板5の中央部分には、後方側に向けて、第1のボビン6が取付けられている。この第1のボビン6は、円筒状に形成され、前端部を上記中低音用振動板5に対して取付けられている。この第1のボビン6は、高い剛性を有しながら、軽量に形成することが望ましい。したがって、この第1のボビン6は、ベークライト板、エポキシ樹脂を含浸した紙や布、ガラス-エポキシ板(エポキシ樹脂で固めたガラス繊維材料)等の如き合成樹脂材料、金属箔、紙を円筒状に丸めて形成することが望ましい。
【0023】上記第1のボビン6の後端側の外周面部には、中低音用ボイスコイル7が接着されている。この中低音用ボイスコイル7は、引き出し線(錦糸線)10を有して、巻回されて円筒状に形成されている。上記引き出し線10は、上記フレーム8のフレーム部に設けられた接点部11に半田付けされて接続される。
【0024】そして、上記中低音用振動板5の前面部分には、高音用振動板18の周囲部分が、エッジ部19を介して取付けられている。この高音用振動板18は、上記中低音用振動板5よりも、小径、かつ、軽量に形成されている。このエッジ部19は、可撓性を有して形成され、前後方向に変位可能となっている。上記高音用振動板18は、中央部分にドーム状のキャップ12により閉蓋された透孔を有する略々円錐形状に形成されている。
【0025】上記高音用振動板18の中央部分には、後方側に向けて、第2のボビン16が取付けられている。この第2のボビン16は、円筒状に形成され、前端部を上記高音用振動板18に対して取付けられ、上記第1のボビン6の内方側に位置し、この第1のボビン6に対して同軸状となされている。この第2のボビン16は、上記第1のボビン6と同様に、高い剛性を有しながら、軽量に形成することが望ましい。
【0026】上記第2のボビン16の後端側の外周面部には、高音用ボイスコイル20が接着されている。この高音用ボイスコイル20は、上記中低音用ボイスコイル7に対し、前後方向について略々同一の位置となされている。
【0027】この高音用ボイスコイル20は、引き出し線(錦糸線)10を有して、円筒状に巻回されて形成されている。上記引き出し線10は、上記接点部11に半田付けされて接続される。すなわち、これら中低音用ボイスコイル7及び高音用ボイスコイル20は、上記接点部11に対して、互いに並列に接続されている。このスピーカ装置においては、これら2個のボイスコイル7,20が並列に接続されているため、1個のボイスコイルによってスピーカ装置を構成する場合に比較して、ボイスコイルを構成する線材として細い線材を使用することができ、1個のボイスコイルあたりの重量を小さくすることができる。
【0028】そして、上記第1及び第2のボビン6,16間は、軟質接着剤17により、互いに弾性的に保持されている。この軟質接着剤17としては、例えば、ゴム系接着剤(例えば、ソニーケミカル社製SC801、SC108等)や、ノガワケミカル社製のDBボンド1105やDBボンド1101等、あるいは、いわゆるロックワニス、各種のダンプ剤等が適している。
【0029】上記中低音用ボイスコイル7及び上記高音用ボイスコイル20は、上記磁気ギャップ部15内に位置されている。すなわち、上記中低音用ボイスコイル7は、上記センターポール1に対して同軸状となされて、このセンターポール1と上記トッププレート4の中央部の透孔の内面部との間に進入されている。
【0030】すなわち、上記中低音用ボイスコイル7が巻回された上記第1のボビン6を上記中低音用振動板5に取付けるときには、上記センターポール1の外周面とこの第1のボビン6の内周面との間にボイスコイルスペーサを挿入して、この第1のボビン6を該センターポール1に対して位置決めした状態で、この第1のボビン6を該中低音用振動板5に対して接着させる。そして、上記第1のボビン6を上記中低音用振動板5に対して接着させる接着剤が固化した後に、上記ボイスコイルスペーサを取り除くことにより、この第1のボビン6は、上記センターポール1に対して位置決めされた状態で、固定される。
【0031】そして、上記第1のボビン6の前端側部分は、可撓性及び振動吸収性を有するダンパ9を介して、上記トッププレート4に対して接続され支持されている。
【0032】このスピーカ装置においては、上記接点部11及び上記引き出し線10を介して上記中低音用ボイスコイル7及び上記高音用ボイスコイル20に電気信号が供給されることにより、これら中低音用ボイスコイル7及び上記高音用ボイスコイル20は、上記磁気ギャップ部15内の磁束中を上記中低音用振動板5及び上記高音用振動板18を伴って移動し、これら中低音用振動板5及び上記高音用振動板18を振動させ、音響を発生させる。」
イ.第1図の記載からみて、高音用振動板は、中低音用振動板の前面側で、かつ、第1のボビンが取り付けられた箇所より周囲方向側の場所に取り付けられている。
しかしながら、上記特定事項Aについては記載がなく示唆もない。

(c2)刊行物2(特開平9-275596号公報)
ア.「【0015】以下、本発明の実施の形態について図1?図7により説明する。
(実施の形態1)図1は本発明のパッシブラジエータの一実施の形態の側断面図である。同図によると、11は底面に開口部11aを有するフレームであり、15はこの開口部11aに周縁部を接着結合してなるダンパーであり、中央にはウェイトリング16を載置するための平坦部15aを有している。
【0016】12は上記フレーム11の上端に周端のエッジ部13を介して接着結合するとともに、上記ウェイトリング16をダンパー15とで接着挟持する振動板である。
【0017】12aは上記ウェイトリング16を上記ダンパー15とで直接接着挟持するダストキャップであり、振動板12と一体に設けたものである。
【0018】以上のように本実施の形態においてはウェイトリング16を挟持して装着するように構成したので、ボビンを削除できるとともに、従来の突き合せてのボビンの支持に比較して、装着の信頼性の向上が図れるものである。
【0019】また、フレーム11、ダンパー15、ウェイトリング16、振動板12を下から順に積み上げて組立てできるので、接着などの結合工程も含め、自動組立化にも適した構成となっている。
【0020】なお、本実施の形態においてはダストキャップ12aを振動板12に一体に設けたが、外観上問題がなければダストキャップ12aを特に設けず、振動板12自体とダンパー15とでウェイトリング16を挟持しても良いものである。」
イ.第1図の記載からみて、振動板は、その中央部でウェイトリングをダンパーとで接着挟持するとともに、その周辺部をエッジ部を介してフレームの上端に接着結合するものである。
しかしながら、上記記載によれば、上記特定事項Aについては記載がなく示唆もない。

(d)前置審査報告
前置報告書においては、各刊行物の記載箇所を、それぞれ上記と同様に挙げているが、上記「(c)引用刊行物の記載等」で検討したように、それら記載箇所のいずれにも補正後各発明の上記特定事項Aについて記載も示唆もない。また、各刊行物及び周知技術を組み合わせても同特定事項Aを導くことは容易とはいえない。
すなわち、刊行物2(上記報告においては「文献2」)記載のパッシブラジエータは、所定の質量を有するウェイトリングを備えて重低音を増強するパッシブなもの(段落【0002】)であり、しかも単体で使用し他の振動板と接着するものでもないから、刊行物1(上記報告においては「文献1」)記載の、軽量であって中低音用振動板に接着しておりボイスコイルにより駆動されるアクティブな高音用振動板に置き換えて刊行物2のものを採用することは不自然といえる。そして、外磁型のスピーカを周知の内磁型のものに単に置換すること自体は適宜なし得るとしても、それにより界磁部内側に空間を設け、上記不自然な置き換えにともない、ダンパを上記空間に配置しつつその中心部を(ラジエータの)振動板の中心部に結合(ただし、高音用とするためには上記ウェイトリングを除去してダンパと振動板を結合する必要があると解される)しなければ本願発明を構成できないのであり、周知技術を考慮したとしても、上記発明過程を経て本願発明を構成することが刊行物1、2及び周知技術から当業者が容易に推考しえたとはいえない。また、上記過程が本願発明における薄型スピーカの作成の容易さを想起するものともいえない。

(e)その他の理由
また、他に、補正後各発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。

(f)小括(独立特許要件)
以上、補正後各発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(2-4)まとめ(適否)
以上、本件補正は、上記各規定に適合する。

3.本願発明
本願の請求項1から請求項6に係る発明は、本願明細書及び図面(平成18年5月19日付け及び平成18年9月1日付け手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1から請求項6までに記載した事項により特定されるとおりのものである(上記補正後各発明と同じ、以下「本願各発明」という)。

4.査定の検討
本願各発明は、補正後各発明の独立特許要件についてした上記判断での理由と同じ理由により、査定で引用された各刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1から請求項6までに係る発明が上記各刊行物に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるという原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。
また、他に、本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-01-31 
出願番号 特願平9-313009
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 原 光明
特許庁審判官 南 義明
北岡 浩
発明の名称 スピーカ  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 永野 大介  
代理人 岩橋 文雄  

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