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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1150970
審判番号 不服2003-4368  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2001-07-03 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-03-17 
確定日 2006-09-12 
事件の表示 平成10年特許願第537723号「リーンボディーマスを増進させ、感情の障害および体重異常の治療に用いるフォルスコーリン」拒絶査定不服審判事件〔平成10年9月3日国際公開、WO98/37883、平成13年7月3日国内公表、特表2001-508801〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件発明
本件は、平成10年(1998年)2月26日(パリ条約による優先権主張:1997年2月27日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項に係る発明は、平成15年4月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?56に記載された事項により特定されるとおりのものである。

2.原査定の理由の概要

原査定の理由は、
「本願明細書の記載において、請求項に記載された発明の効果が、薬理試験の結果等の定量的データ等により具体的に裏付けられていないので、効果の確認ができず、本願明細書の発明の詳細な説明は当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」
というものである。

3.当審の判断

(1) 医薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその有用性を予測することは困難であり、発明の詳細な説明に有効量、投与方法、製剤化のための事項がある程度記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途において有用性があるか否かを知ることができないから、発明の詳細な説明に薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をしてその用途の有用性を裏付ける必要があり、そのような記載がなされていない場合には、特許法36条4項に違反するものというべきである。
そこで、本願明細書の発明の詳細な記載が、当業者が請求項に係る発明を実施できる程度に記載されているか否か、検討する。

(2)請求項1に係る発明について

請求項1に係る発明は、同項に記載された「フォルスコーリンを含む、動物のリーンボディマスを増進させるための医薬組成物」によって特定される発明であるところ、「リーンボディマス」について、本件明細書の発明の詳細な説明には以下事項が記載されている。

ア)「体脂肪の平均量は、米国人男性では22%?25%...特に肥りすぎの人では、脂肪組織が体重の70%までを構成することもある。
体の組成の残りの割合がリーンボディマス(lean body mass)に相当する。リーンボディマスは筋肉、生命器官、骨、体内の結合組織および他の脂肪組織、および体液の大部分である。体の代謝率はリーンボディマスの量に直接比例する。それ故、リーンボディマスを考慮することはあらゆる体重減少方法にとって重要である。」(明細書2頁1?12行)
イ)「前記の体重制御手段は体重減少の過程におけるリーンボディマスの増加または維持の重要性を考慮していない。実際、体脂肪を減少させる摂生法はしばしばリーンボディマスの異化消費に寄与する。...体脂肪を減少させると同時にリーンボディマスを維持または増加させることにより、体重減少の摂生法は人の全般的な健康を改善するという一般的な目的に適うものとなる。」(明細書2頁13?22頁)
ウ)「フォルスコーリン(forskohlin)が単離された脂肪細胞内のインビトロでの脂肪分解に関係することは文献でよく知られている。...しかしながら、リーンボディマスを増進するためのフォルスコーリンの使用は報告されていない。」(明細書3頁3?14行)
エ)「本発明は、リーンボディマス(lean body mass)の増進を必要とするほ乳類のリーンボディマスを増進する方法であって、リーンボディマスを増進するために有効な量のフォルスコーリン(forskohlin)をほ乳類へ投与することを含む方法に関する。...
本発明はまた、ほ乳類のリーンボディマスを増進させるか、またはほ乳類のリーンボディマスを増加するようにリーンボディマスと脂肪組織部分の比率を変化させるための組成物を調製するためのフォルスコーリンの使用に関する。」(明細書4頁10?20行)
オ)「本発明はまた、ほ乳類のリーンボディマスを増進するか、またはほ乳類のリーンボディマスと脂肪組織部分の比率をリーンボディマスが増加するように変化させるための組成物であって、活性成分としてフォルスコーリンを含む組成物に関する。」(明細書4頁25?28行)
カ)「本発明の実際の健康効果は、病的状態と死亡率のよい予測因子である、ウエストとヒップの比(WHR)および体重指数(body mass index、BMI)の減少によって測定可能である。」(5頁22?24行)
キ)「いかなる説に縛られることなく、本発明は酵素アデニル酸シクラーゼ(AC)を刺激して、それによるcAMPのレベルを向上させることによってリーンボディマスを増加させると、本発明者らは考える。組織におけるcAMPの増加レベルは食物に対する発熱反応の増進とよく対応している。同様に食物に対する発熱反応の増進は、栄養分の吸収とそのリーンボディマスへの優先的取り込みを向上させる。よって、リーンボディマスの形成が促進される。」
(5頁下2行?6頁4行)
ク)「再びいかなる説に縛られることなく、本発明者らは本発明のメカニズムは具体的には以下のように働くと考える。すなわち、
-フォルスコーリンが交感神経系から放出されるアドレナリンを刺激しβ-アドレナリン受容体と相互作用し、...
-βアドレナリン依存代謝機能が上昇し、これがリーンボディマスの増加につながる。すなわち、骨格筋肉のホスホリラーゼ、インシュリン分泌、および同化ステロイドホルモンの合成および分泌が活性化される。」
(6頁5?19行)
ケ)「リーンボディマスを増進させるための本発明の方法において、フォルスコーリンは1日あたり約10?約60mgの服用量で投与されるべきである。」
(6頁末行?7頁1行)

上記ア)及びイ)によれば、「リーンボディマス」とは、体の組成から脂肪組織を除いた部分を意味し、「リーンボディマスの増進」とは単なる体重の減少や体脂肪の減少ではなく、体重が減少するにもかかわらずリーンボディマスを維持または増加させることを意味すると解される。
そして、リーンボディマスを増進させるためのフォルスコーリンの使用は本願出願前には報告されていない(上記ウ)のであるから、本願発明はその作用を新たに見い出し医薬として利用することを本質とするものと認められる。

しかし、本願明細書には、フォルスコーリンの投与によってリーンボディマスが増進することを具体的に確認するに足りる試験結果は何ら記載されていない。

請求人は上記カ)に言及し、本願明細書には本願発明の効果を確認できる試験方法が記載されている旨主張しているが、試験方法の記載によってフォルスコーリンのリーンボディマス増進作用が確認できるものではなく、そもそも、カ)に記載されたWHRやBMIは肥満度を表す指標であって、リーンボディマスの量を示す数値ではない。
また、請求人は上記キ)及びク)について言及し、本件出願当初の発明の詳細な説明には、本願明細書に本発明の組成物がリーンボディマスを増進するメカニズムが理論的に説明されている旨主張しているが、上記のメカニズムは発明者による推測にすぎず、これを裏付ける資料は何ら示されていない。

そうすると、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明には、フォルスコーリンがリーンボディマスを増進することを確認できる薬理データ又はそれと同視すべき事項が記載されておらず、フォルスコーリンの用途の有用性が裏付けられていないから、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が請求項1に係る発明を実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載されているということはできない。

4.むすび

以上のとおりであるから、本件出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許法第49条第4項の規定により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-03-31 
結審通知日 2006-04-03 
審決日 2006-04-24 
出願番号 特願平10-537723
審決分類 P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 森田 ひとみ
特許庁審判官 齋藤 恵
横尾 俊一
発明の名称 リーンボディーマスを増進させ、感情の障害および体重異常の治療に用いるフォルスコーリン  
代理人 名越 秀夫  
代理人 生田 哲郎  
代理人 浅井 賢治  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 平山 孝二  
代理人 小川 信夫  
代理人 松本 雅利  

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