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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C11B |
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管理番号 | 1151003 |
審判番号 | 不服2006-6107 |
総通号数 | 87 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-05-06 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2006-04-03 |
確定日 | 2007-01-09 |
事件の表示 | 平成8年特許願第270174号「粉末香料、その製造方法及びその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成10年5月6日出願公開、特開平10-114897〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 本願発明 本願は、平成8年10月11日の出願であって、請求項1?17に係る発明を包含するものであるところ、その請求項1に係る発明は、平成17年10月27日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「粉末(多孔質粒子、及びBET法による比表面積が50m2/g以上の微粒子を除く)リン酸カルシウムに香料が吸着していることを特徴とする粉末香料。」 (以下、「本願発明1」という。) 2 原審で通知された拒絶理由 原審の平成17年8月25日付けの拒絶理由通知に記載された拒絶理由は、本願発明1は、その出願前日本国内において頒布された下記刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるという理由を含むものである。 刊行物A:特開昭60-83662号公報(拒絶理由通知では「刊行物2」とされていた。) 3 刊行物Aの記載 (3-1)「Ca/P(モル比)=1.0?2.0、BET法による比表面積が50?800m2/gであるリン酸カルシウム系化合物を基材とする徐放体。」(【請求項1】) (3-2)「基材としての徐放性物質(・・・)に香料等の被放散物質(以下香料を代表例として説明する)を吸着させた徐放体は、公知である。徐放性物質に対して要求される主な性質としては、以下の様なものがある。 (1)所定量以上の香料を吸着し得ること、 (2)吸着した香料の保持性に優れ、しかも香料を長期にわたり少量ずつ放出すること、(3)吸着した香料に何らの化学的変化をも生じさせないこと。」(()数字は丸数字を示す。1頁左下欄15行?同右下欄7行) (3-3)「本発明者は、この様な現状に鑑みて種々研究を重ねた結果、P1モルに対しCaが1.0?2.0モルの範囲内にあり且つBET法による比表面積が50?800m2/gの範囲内にあるリン酸カルシウム系化合物が、前記の徐放性物質に要求される性質(1)?(3)の全てを具備していることを見出し、本発明を完成するにいたった。」(()数字は丸数字を示す。1頁右下欄15行?2頁左上欄3行) (3-4)「Ca/P(モル比)が1.0未満であるか又は2.0を上回る場合には、吸着した香料の変質を生ずる傾向がある。Ca/P(モル比)は1.5乃至1.7とすることが好ましい。Ca/P(モル比)=1.5?1.7のリン酸カルシウムは、水酸アパタイトとして知られるものである。又、BET法による比表面積が50m2/g未満の場合には、香料の吸着量が十分でないのに対し、800m2/gを上回る場合には、吸着量は十分となるが保持性及び徐放性が却って低下する傾向を生ずる。比表面積は、100?250m2/gとすることがより好ましい。リン酸カルシウム系化合物は、粉体をそのまま容器に入れた状態で使用しても良く、或いはバインダーを使用することなく加圧成形したものを使用しても良い。更に、造粒機によって機械的に造粒したものでも良い。」(2頁右上欄9行?同左下欄7行) (3-5)「本発明の徐放体に吸着保持さるべき物質は、通常の条件下に大気中に揮散し得る香料及び水分の存在下又は加熱により徐放体外部に拡散する香料等である。」(3頁左上欄14?17行) 4 対比・検討 (1)引用発明 摘記(3-1)及び特に摘記(3-4)の「リン酸カルシウム系化合物は、粉体をそのまま容器に入れた状態で使用しても良く、或いはバインダーを使用することなく加圧成形したものを使用しても良い。」との記載からみて、刊行物Aには、「BET法による比表面積が50?800m2/gの粉体リン酸カルシウムからなる徐放体」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 (2)対比 本願発明1と引用発明を対比すると、粉体は、粉末と同義であるから、本願発明1と引用発明は、いずれも粉末リン酸カルシウムを用いた物の発明である点で共通し、以下の点で相違する。 [相違点1]本願発明1が「香料を吸着している粉末香料」の発明であるのに対し、引用発明が「徐放体」の発明である点 [相違点2]用いる粉末リン酸カルシウムが、本願発明1においては、「多孔質微粒子、及びBET法による比表面積が50m2/g以上の微粒子を除く」ものであるのに対し、引用発明においては「BET法による比表面積が50?800m2/g」のものである点 (3)検討 [相違点1について] 引用発明の徐放体に吸着保持されるべき物質は、摘記(3-5)によれば、香料等であり、摘記(3-2)及び(3-3)によれば、引用発明の徐放体は吸着した香料の保持性に優れ、長期にわたり香料を少量ずつ放出するものであるから、引用発明の徐放体に香料を吸着させて、それを粉末香料として用いることは、その効果を予期の上、当業者が容易になし得ることである。 [相違点2について] 本願発明1において、粉末リン酸カルシウムから、多孔質微粒子を除いている点については、引用発明においては、粉末リン酸カルシウム自体が多孔質化したものであるかどうかは記載がなく、また、本願出願時の周知技術を参酌しても、粉末リン酸カルシウム自体が多孔質化したものであると解することはできず、さらに、請求人の平成18年6月28日付けの手続補正書(方式)の6頁29?33行における、「ハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウム多孔質体は、例えば、バインダーや繊維等の、焼成すると消失する物質を水酸アパタイトの粉体に加えて造粒し、該造粒物を焼成するなどの特殊な工程をわざわざ採用しない限り得られないのであって、通常の方法でハイドロキシアパタイト等のリン酸カルシウムを製造しても多孔質体とはなりません」との主張からしても、引用発明における粉末カルシウム自体は多孔質体でないと解するのが妥当である。そして、引用発明においては、摘記(3-4)にあるように、粉体を加圧成形したり、造粒したりして用いるのみならず、粉体自体をそのまま徐放体として用いることもできるのであるから、引用発明は多孔質微粒子でない、粉末リン酸カルシウム自体を徐放体として用いる場合を包含しているものと解され、この点では、引用発明と本願発明1とは相違しない。 また、本願発明1において、粉末リン酸カルシウムから、BET法による比表面積が50m2/g以上の微粒子を除いている点について、引用発明は、BET法による比表面積が50?800m2/gである粉末リン酸カルシウムを用いているが、摘記(3-4)には、「BET法による比表面積が50m2/g未満の場合には、香料の吸着量が十分でない」ことが記載されているだけであって、BET法による比表面積が50m2/gという点に臨界的な意義があるものと解することはできないので、粉末リン酸カルシウムとして、BET法による比表面積が50m2/g未満である、その近傍のものを用いてみることは当業者が容易になし得る程度のことにすぎない。 そして、本願明細書には、多孔質微粒子でもなく、BET法による比表面積が50m2/g以上の微粒子でない、粉末リン酸カルシウムを用いることにより格別顕著な効果が奏されることについては何ら記載がなく、また、平成18年1月30日付けの上申書を検討しても、BET法による比表面積が47m2/gと85m2/gのリン酸カルシウム粉末を用いた場合を比較しているだけであり、BET法による比表面積が50m2/g以上のものを除いた点に臨界的な意義があるものと解することもできない。 (4)まとめ してみると、本願発明1は、刊行物Aに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、その出願前に頒布された刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-11-07 |
結審通知日 | 2006-11-13 |
審決日 | 2006-11-27 |
出願番号 | 特願平8-270174 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C11B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 渡辺 陽子 |
特許庁審判長 |
脇村 善一 |
特許庁審判官 |
井上 彌一 岩瀬 眞紀子 |
発明の名称 | 粉末香料、その製造方法及びその応用 |
代理人 | 廣田 雅紀 |