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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M
管理番号 1151055
審判番号 不服2004-9892  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-05-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-12 
確定日 2007-01-25 
事件の表示 平成 7年特許願第294135号「転写シートと転写シートを用いた化粧板とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月20日出願公開、特開平 9-131960〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年11月13日の出願であって、その請求項1及び2に係る発明は、特許法第17条の2の規定によって平成16年5月12日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、
「ポリプロピレンラミネート紙やポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムやポリ塩化ビニル樹脂フィルムなどからなる基体シートに絵柄層を剥離可能に設け、さらにシーラー層を設けた転写シートを、該シーラー層と樹脂系が同じであるポリイソシアネート硬化型エナメル樹脂ベースコートを設けた化粧板基材表面に、前記転写シートのシーラー層が接するように載置し絵柄層を転写し、この絵柄層を保護するトップコート層を設けたことを特徴とする化粧板。」にあるものと認める。
なお、請求項1には「転写シートの、該シーラー層」と記載されているが、「転写シートの、」に続く文が認められないので「転写シートの、該シーラー層」の記載は、「転写シートを、該シーラー層」とすべきを誤って記載したものであると認め、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)を上記のように認定した。
なお、平成16年5月12日付の手続補正は、特許法第17条の2第4項第1号に規定された請求項の削除を目的とするものに該当する。

2 引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、特公昭60-58717号公報(以下「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
(1)「基材表面にイソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂塗料をベースコート層として施す工程...該ウレタン塗料中にイソシアネート基が残存する段階において、イソシアネート基と反応する水酸基を含む樹脂をビヒクル成分とする印刷インキによって所望の図柄層を基体シート上に形成した転写紙を上記ベースコート層と図柄とが接触するように重ね合わせる工程...上記図柄層を上記ベースコート層に加熱転着せしめる工程、上記基体シートを引き剥がす工程、イソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂塗料をトップコート層として施し、硬化せしめる工程からなることを特徴とする化粧板の製造法。」(特許請求の範囲)
(2)「本発明において、ベースコート層...を形成するために用いる2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂塗料としては、自体公知のポリオール成分とポリイソシアネート成分とからなり使用時に混合して用いられるものである。ポリオール成分としてはアクリルポリオール...がある。」(2頁右欄21?28行)
(3)「転写紙としては、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルムなどの合成樹脂フィルム、アルミ箔、上質紙などの基体シート上に必要に応じて剥離層を設け...所望の図柄を形成したものである。この場合の印刷インキのビヒクル成分としてはイソシアネート基と反応する樹脂成分を含有するものであり、例えば、その樹脂成分としてはアクリルポリオール...がある。」(3頁左欄42行?右欄8行)
(4)「イソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン塗料の基材への優れた密着性、この塗料によるベースコート層への印刷図柄の転写性、並びに転写図柄層に存在する水酸基とベースコート層...の過剰イソシアネート基との化学反応による一体化によって所期の目的を達成した化粧板が得られる。」(3頁右欄25?33行)
(5)「第1図はベースコート層2を施された基材1であり、これをAとする。」(3頁右欄38?39行)
(6)「第2図は部分的に図柄層4を形成した場合を示しているが、全面に図柄層が形成されていても差し支えない。第3図は、上記Aおよび転写紙Bとを重ね合わせ...図柄層4はAの表面に転写し...第4図は最終製品である化粧板の断面図であり、透明なイソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂塗料をトップコート層12として施したものである。」(4頁左欄8?30行)
(7)「実施例1...コート紙を基体シートとしてグラビア印刷機により、アクリルポリオール樹脂22部(以下、重量部で表す)、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂72部、セルロース樹脂6部から構成される樹脂組成物をビヒクルとし...からなるグラビヤ印刷インキを使用して、3色刷の松の柾目柄を通常の印順と逆の順序で印刷し、最後150線60μのベタ版を使用して陰ぺい性を有する着色ベタ刷を行い転写紙を作製した。一方基材として...上にイソシアネート基が...過剰に配合されているアクリルポリオール樹脂19部、ヘキサメチレンジイソシアネート系プレポリマー6部...からなるアクリルウレタン塗料を調整し、ベースコート層として...塗布し」(4頁右欄10?31行)

上記記載(1)の「図柄層を基体シート上に形成した転写紙を上記ベースコート層と図柄とが接触するように重ね合わせ...上記図柄層を上記ベースコート層に加熱転着せしめ...上記基体シートを引き剥がす」、上記記載(3)の「基体シート上に必要に応じて剥離層を設け...所望の図柄を形成した」にみられるように、図柄層は、ベースコート層に転着されると、基体シートから引き剥がされるものであり、基体シート上に必要に応じて剥離層が形成されるものである、すなわち、基体シートに剥離可能に設けられている。
上記記載(6)の「透明な...塗料をトップコート層12として施した」によれば、「トップコート層」は図柄層4を保護することは自明である。
これらの記載から、引用例には、
「ポリエステルフィルムなどの合成樹脂フィルムからなる基体シート3に、イソシアネート基と反応するアクリルポリオール樹脂をビヒクル成分とするインキによって図柄層を剥離可能に設けた転写シートを、アクリルポリオールをポリオール成分とするイソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂をベースコート層として施してなる化粧板用基材表面に、前記転写シートの該図柄が接触するように重ね合わせ図柄層を転写し、この図柄層を保護するトップコート層を設けた化粧板。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比
本願発明と引用発明を対比すると、その機能・作用からみて、引用発明の「図柄層」、「化粧板用基材表面」、「接触するように重ね合わせ」は、 本願発明の「絵柄層」、「化粧板基材表面」、「接するように載置し」に相当する。
引用発明の「ポリエステルフィルムなどの合成樹脂フィルム」は、本願発明の「ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム」に相当する。
引用発明の「アクリルポリオールをポリオール成分とするイソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂」と、本願発明の「ポリイソシアネート硬化型エナメル樹脂」は、「ポリイソシアネート硬化型樹脂」である点で共通する。
したがって、両者は「ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルムなどからなる基体シートに絵柄層を剥離可能に設けた転写シートを、ポリイソシアネート硬化型樹脂ベースコートを設けた化粧板基材表面に、前記転写シートが接するように載置し絵柄層を転写し、この絵柄層を保護するトップコート層を設けた化粧板。」で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)ポリイソシアネート硬化型樹脂が、本願発明は、エナメル樹脂とされているのに対して、引用発明はその点について記載されていない点
(相違点2)基体シートに絵柄層に加えて、本願発明は、さらにシーラー層を設け、該シーラー層と樹脂系が同じであるベースコートを設けた化粧板基材表面にシーラー層が接するように載置し絵柄層を転写するのに対し、引用発明はシーラー層を設けていない点

4 当審の判断
上記相違点について検討する。
(相違点1)について
ポリイソシアネート硬化エナメル樹脂について明細書にはどのような構造のポリイソシアネート硬化型樹脂なのか記載されていないが、「エナメル エナメル‐ペイントの略。エナメル‐ペイント ワニスと顔料とを混合した塗料。乾燥が速く、塗膜の光沢や硬さがすぐれている。」([株式会社岩波書店 広辞苑第五版])を参酌すれば、ポリイソシアネート硬化エナメル樹脂は、ポリイソシアネート硬化型樹脂で、その塗膜が光沢や硬さに優れたものを意味していると解される。
しかしながら、ベースコートとして、どのような光沢や硬さの塗膜を採用するかは当業者が適宜選択する単なる設計事項にすぎず、エナメル塗料を用いて意匠性や耐久性に優れた塗膜を設けることは本願出願前から広く行われている事項であるから、ポリイソシアネート硬化型樹脂として、ポリイソシアネート硬化型エナメル樹脂を採用することは当業者が必要に応じて容易になし得る程度のことである。

(相違点2)について
本願明細書には、「樹脂系を同じ」と判断する基準が示されていないが、段落【0016】に「同種の樹脂」との記載があり、又、唯一の実施例に、シーラー層として「透明なアクリルポリオール樹脂」(【0017】)、ベースコートとして「イソシアネート硬化型ウレタン樹脂」(【0018】)を用いたものが記載され、「前記ベースコートのポリオール成分は、転写シートのシーラー層に用いた樹脂と同一のものを用いた。」(【0018】)の記載があることから、少なくとも、アクリルポリオール樹脂をベースコートのポリオール成分に用いたものは、シーラー層と樹脂系が同じであると認められる。したがって、アクリルポリオール樹脂をポリオール成分に用いたポリイソシアネート硬化型樹脂は、アクリルポリオール樹脂と樹脂系が同じといえるので、引用発明のアクリルポリオールをポリオール成分とするイソシアネート基過剰の2液型ポリオール硬化ポリウレタン樹脂と、イソシアネート基と反応するアクリルポリオール樹脂をビヒクル成分とするインキも樹脂系が同じであるといえる。
絵柄層のベースコート層への転写性、密着性を向上させるために、ベースコートのポリイソシアネート硬化型樹脂の樹脂系を、本願発明では、転写シートの絵柄層にさらに設けたシーラー層の樹脂系と同じくしているが、引用発明では、転写シートの絵柄層を形成するインキの樹脂系と同じくしている。
一方の層を他の層に転写する場合に、層同士の接触面積を多くすることによって転写性が向上することは、従来からよく知られた事項であるから、引用発明においても、化粧板基材表面との接着性に優れた層の化粧板基材表面との接触面積を増大させて、更に、転写性を高めようとすることは当業者が容易に思い付くことである。一方、転写シートによる化粧板の製造において、転写シートの絵柄層にさらに、化粧板基材表面との接着性に優れた層を設け、絵柄層と該層を化粧板基材表面に一緒に転写し、転写性を向上させる技術は従来から周知である(例えば、特開平7-89005号公報の接着層4、特開平4-307240号公報の第2プライマー層1c、特開昭62-83073号公報の熱接着性樹脂参照。)。
してみれば、上記従来周知の技術を適用し、化粧板基材表面との接着性に優れた層の化粧板基材表面との接触面積を増大させるために、転写シートにシーラー層を設けること、すなわち、同じ樹脂系の層を、引用発明のベースコートと絵柄層とする構成に代えて、ベースコートと絵柄層上のシーラー層とする構成を採用することは、当業者が容易に想到しうることである。

なお、シーラー層を設けた点の効果について、請求人は「引用文献1においては、インキ層に限定したもので、インキ層ではベタで設けていないことから密着度が低く、本願発明の強固な接着は想定されていない。」(審判請求書第3頁18?20行)と主張しているが、引用発明を認定した引用例には、「全面に図柄層が形成されていても差し支えない。」(上記記載(4))と記載されており、全面に図柄層を形成すれば、ベースコートと図柄層の接触面積は、本願発明のベースコートとシーラー層の接触面積と格別の差があるとは認められないから、層間の強固な接着を可能とし転写性を向上するという作用効果にも格別の差異はない。
更に、上記引用例には実施例1として、柾目柄を印刷し最後ベタ版を使用して隠ぺい性を有する着色ベタ刷を行う(上記記載(5))ことが記載されており、最後に施されるベタ刷は、ベースコート層に直に接着する層であり、引用例の他の記載「図柄層に存在する水酸基とベースコート層の過剰イソシアネート基との化学反応による一体化」(上記記載(4))等からみて、当然ベースコートと強固に接着するものでなければならないから、着色ベタ刷の印刷インクも、柾目柄を印刷するインク同様ベースコートと樹脂系が同じと認められ、着色ベタ刷を行った場合、ベースコートと着色ベタ刷の接触面積は、本願発明のベースコートとシーラー層の接触面積と相違せず、層間の強固な接着を可能とし転写性を向上するという作用効果において両者に差異はない。
してみれば、インキ層をベタで設ける点は引用例の中に示唆されている。

以上、相違点1及び2に係る構成を含む本願発明全体を検討しても、引用発明及び上記周知技術から予測される以上の格別の効果を認めることができない。

5 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-24 
結審通知日 2006-11-28 
審決日 2006-12-13 
出願番号 特願平7-294135
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B41M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 國田 正久  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 藤井 靖子
藤井 勲
発明の名称 転写シートと転写シートを用いた化粧板とその製造方法  

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