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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B41F
管理番号 1151096
審判番号 無効2004-80116  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-09-03 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-07-30 
確定日 2007-02-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第3304252号発明「印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3304252号の請求項3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3304252号の請求項1ないし2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
主な手続の経緯は以下のとおりである。
出願日 平成 7年11月17日
優先権主張日 平成 6年11月17日
(先の出願の出願番号 特願平6-307055号)
登録(請求項1乃至3) 平成14年 5月10日
無効審判請求(請求項1乃至3に対して) 平成16年 7月30日
答弁書提出(被請求人) 平成16年10月18日
答弁理由補充書(被請求人) 平成17年 3月29日
答弁書に対する弁駁書提出(請求人) 平成17年 5月12日
口頭審理陳述要領書(請求人)提出 平成17年 7月21日
口頭審理陳述要領書(被請求人)提出 平成17年 7月21日
第1回口頭審理 平成17年 7月21日
上申書(請求人) 平成17年 8月22日

第2 当事者の主張
1.請求人の主張
(1)特許第3304252号の請求項1に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)特許第3304252号の請求項2に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)特許第3304252号の請求項3に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証乃至甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特開平6-250406号公報
甲第2号証:特開平4-229268号公報
甲第3号証:特開平5-200983号公報
甲第4号証:特開平5-307265号公報

2.被請求人の主張
(1)特許第3304252号の請求項1乃至3に係る発明は、本件出願前に頒布された刊行物である審判請求書の前記甲第1乃至4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第3 本件特許発明に対する判断
1.本件特許発明
本件特許第3304252号の請求項1乃至3に係る発明は、その願書に添付された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至3に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
【請求項1】
A.くわえ辺に、印刷機にセットする為の一対のU字形パンチ孔が設けら
れている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
B.1版目の刷版を作成するときには、その刷版に絵柄とともに焼き付け
られている左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線と
が一致するように刷版を移動させて、そのときの前記トンボの位置を
記憶させるとともに、その位置で刷版を固定した後、その刷版のくわえ
辺に前記パンチ孔を形成し、
C.2版目以降の刷版を作成するときには、その刷版に焼き付けられてい
るトンボの位置が、記憶されている前記1版目の刷版のトンボの位置に
合致するように刷版の位置決めして固定した後、その刷版のくわえ辺に
前記パンチ孔を形成することを特徴とする、
D.印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。
【請求項2】
E.くわえ辺に、印刷機にセットするための一対のU字形パンチ孔が設け
られている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
F.あらかじめ、刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間
の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致する前記トンボの
位置を記憶させておき、
G.刷版を作成するときには、その刷版に焼き付けられているトンボの
位置が、記憶されている前記トンボの位置に合致するようにその刷版を
位置決めして固定した後、その刷版のくわえ辺に前記パンチ孔を形成す
ることを特徴とする、
H.印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。
【請求項3】
I.くわえ辺に、印刷機にセットするための一対のU字形パンチ孔が設け
られている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
J.あらかじめ、未露光の刷版のくわえ辺に前記一対のパンチ孔を形成し
ておき、それらのパンチ孔によりその刷版を位置決めして固定した後、
K.それらのパンチ孔間の中心線と絵柄の中心線とが一致し、かつ、その
絵柄が前記パンチ孔から所定の距離に位置するようにしてその刷版に
絵柄を焼き付けることを特徴とする、
L.印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。
(以下、請求項順に「本件特許発明1乃至3」という。)

2.甲号各証の記載内容
審判請求書の無効理由に引用された甲号各証には、以下の記載がある。

(1)甲第1号証
(1-1)【特許請求の範囲】
「【請求項1】絵柄と複数の位置決めマークとが焼き付けられた多色刷り用の複数枚の色版間の相対的位置決めをするために前記色版にパンチ孔を開けるパンチ装置であって、
前記色版を載置するテーブルと、
前記位置決めマークを検出して、前記色版を前記テーブル上の一定位置に、前記色版の中心基準で見当合わせする見当合わせ手段と、
前記色版にパンチ孔を開けるパンチ手段と、
前記見当合わせ手段によって見当合わせされた色版と前記パンチ手段とを相対移動させる相対移動手段と、
前記相対移動手段の移動量を記憶する記憶手段と、
を備えたパンチ装置。」

(1-2)段落【0001】
「【産業上の利用分野】本発明は、パンチ装置、特に、絵柄と複数の位置決めマークとが焼き付けられた多色刷り用の複数枚の色版間の相対的位置決めをするために前記色版にパンチ孔を開けるパンチ装置に関する。」

(1-3)段落【0002】
「【従来の技術】・・・、印刷機にセットされる刷版は、未露光の刷版に集合フィルムの絵柄を焼き付けて作成される。集合フィルムは、刷版サイズのフィルムに画像や文字を集版した状態で焼き付けたものであり、透明シート上に複数の原版を貼り込んだものを刷版サイズの感光フィルムに焼き付けて作成される。」

(1-4)段落【0003】
「このようにして作成された集合フィルムの絵柄を焼き付け機で刷版に焼き付ければ印刷用の刷版が作成できる。この焼き付け機による焼き付け工程では、刷版のパンチ孔と集合フィルムのパンチ孔とをピンで一致させ、集合フィルムと刷版とを密着させて露光する。これを印刷色に応じた回数行い、複数枚の刷版を作成する。」

(1-5)段落【0004】
「得られた刷版の絵柄は1枚の紙に重ねて刷られるので、集合フィルムで位置合わせを行う構成では、各集合フィルム間で絵柄とパンチ孔との間の相対位置関係が正確に一致している必要がある。この要求を満たす従来装置として、特開昭58-36333号公報(審決注:特公昭58-36333号公報の誤記と推察される。)に開示されたパンチ装置がある。このパンチ装置は、集合フィルムや刷版等の色版をその一部がパンチ部に臨むように載置するライトテーブルと、絵柄に対応して色版に焼き付けられた位置決めマークを検出する受光手段と、受光手段をライトテーブル上で縦横に移動させるための移動ガイドと、受光手段の受光結果に応じてライトテーブルを縦横に移動させる移動手段とを備えている。」

(1-6)段落【0005】
「このパンチ装置では、まず、基準となる第1の色版を1辺がパンチ部に位置するように、ライトテーブル上の所定位置にセットする。そして、受光手段を縦横に移動させて、色版の位置決めマークと対向する位置に配置する。装置の動作が始まると、受光手段の受光結果に応じてライトテーブルが移動し、受光手段の中心に位置決めマークが配置される。そして、色版にパンチ孔が形成される。その他の色版に対しても同様にしてパンチ孔が形成されるが、この場合には、受光手段は固定したままとする。この結果、各色版間でパンチ位置が統一される。」

(1-7)段落【0006】
「【発明が解決しようとする課題】
前記従来の構成では、最初の色版の見当合わせを行う場合には、受光手段を縦横に移動させて受光手段を位置決めマークに対向させなければならない。この受光手段を移動させる操作は、色版のサイズを変更する都度行わなければならない。このとき、受光手段を縦横の2方向に動かさなければならないので、受光手段を位置決めマークに対向させることが容易でなく、操作が煩わしい。」

(1-8)段落【0007】
「本発明の目的は、色版に対して正確なパンチ孔を簡単に開けられるようにすることにある。」

(1-9)段落【0008】
「【課題を解決するための手段】
本発明に係るパンチ装置は、絵柄と複数の位置決めマークとが焼き付けられた多色刷り用の複数枚の色版間の相対的位置決めをするために前記色版にパンチ孔を開ける装置である。この装置はテーブルと見当合わせ手段とパンチ手段と相対移動手段と記憶手段とを備えている。」

(1-10)段落【0009】
「テーブルは、色版を載置するものである。見当合わせ手段は、位置決めマークを検出して、色版をテーブル上の一定位置に、色版の中心基準で見当合わせするものである。パンチ手段は、色版にパンチ孔を開けるものである。相対移動手段は、見当合わせ手段によって見当合わせされた色版とパンチ手段とを相対移動させるものである。記憶手段は、相対移動手段の移動量を記憶するものである。」

(1-11)段落【0010】
「【作用】本発明に係るパンチ装置では、一番目の色版をテーブル上に載置すると、見当合わせ手段が位置決めマークを検出して、色版をテーブル上の一定位置に色版の中心基準で見当合わせする。そして、相対移動手段により、見当合わせされた色版とパンチ手段とが相対移動し、パンチ手段が色版にパンチ孔を開ける。この相対移動量は記憶手段に記憶される。続いて同一絵柄の次の色版にパンチ孔を開ける場合には、同様に色版の中心基準で見当合わせを行った後に、相対移動手段を記憶された移動量だけ移動させ、パンチ手段がパンチ孔を開ける。」

(1-12)段落【0011】
「ここでは中心基準で見当合わせするので、色版のサイズが変化しても、見当合わせ手段は複雑な移動を行うことなく簡単に位置決めマークを検出できる。したがって、色版に対して正確なパンチ孔を簡単に開けられるようになる。」

(1-13)段落【0012】
「【実施例】図1及び図2において、本発明の一実施例としてのパンチ装置は、主としてテーブル1と、テーブル1内を移動可能な3個のCCDカメラ2,3,4と、原板移動用の位置決めアーム5とを備えている。位置決めアーム5の奥側上方には、CCDカメラ2,3,4にそれぞれ対応する3個のCRT7,8,9を備えたモニタ部10が配置されている。テーブル1上には、さらに、CCDカメラ2,3,4をマニュアルで移動させるための1対のつまみ11,12と、キーパネル13と、原板の1辺にパンチ孔を開けるパンチ部14とが設けられている。」

(1-14)段落【0020】
「次に、上述のパンチ装置の動作及び操作手順を説明する。まず操作者は、位置決めアーム5を上方姿勢にし、第1色目の原板をテーブル1上に載置する。ここでは、原板の中心がテーブル1の中心にほぼ一致するように配置する。・・・。」

(1-15)段落【0021】
「操作者がキーパネル13を介して動作開始指令を入力すると、原板に形成された4つのトンボのうちの3つをCCDカメラ2,3,4が映し出しているか否かが判断される。・・・。なお、ここでトンボは、原板に焼き付けられた絵柄に対して中心基準に焼き付けられている。各CCDカメラ2,3,4がトンボを映し出していない場合には、・・・調整を行う。・・・。」

(1-16)段落【0022】
「トンボがCCDカメラ2,3,4の視野内に入ると、位置決めアーム5が吸引動作を開始する。これにより、原板は位置決めアーム5に吸着された状態となる。そして、画像処理結果により原板をテーブル1上の所定位置に見当合わせする。ここでは、CCDカメラ2,3,4からの画像情報に基づいて、原板のトンボとテーブル1上の基準の位置とが一致するように原板が移動させられる。この原板の移動は、原板を保持する位置決めアーム5がテーブル1上を水平移動及び回動することによって実現される。」

(1-17)段落【0023】
「見当合わせ動作が完了すると、操作者は、パンチ部14を図2奥行き方向に移動させて、原板の所望パンチ位置に配置する。そして、操作者は、一番近い孔33に差込ピン32をねじ止めする。なおこのとき、必要に応じ微動ダイヤル34を回動して、ピンガイド30を前後に微動させる。パンチ部14の配置が完了すると、操作者は、動作レバー25を回動させ、パンチ機構22を動作させて原板に5つのパンチ孔を開ける。そして、・・・操作者は、・・・、パンチ孔が開けられた原板を取り出す。」

(1-18)段落【0024】
「2?4色目の原板にパンチ孔を開ける際には、1色目の原板に対してパンチ孔を開けた際に移動位置を固定した状態でパンチ部14を使用する。ここでは、中心基準で見当合わせされた2?4色目の原板に対して、1色目の原板に形成されたパンチ孔と正確に一致するパンチ孔が形成される。ここでは、テーブル上の一定位置に、原板の中心基準で原板が見当合わせされる。したがって、原板サイズが変わっても原板の中心は変化しないことから、見当合わせの際のCCDカメラ2,3,4の動作は、原板サイズに関わらず一定方向の動作で足りる。このため、装置が簡素化し、また、簡単に精度のよいパンチ孔を開けることができる。」

(1-19)段落【0028】
「【発明の効果】本発明に係るパンチ装置では、色版がテーブル上の一定位置に中心基準で見当合わせされるとともに、色版とパンチ手段との相対移動量が記憶されているので、色版のサイズが変化しても、色版に対して正確なパンチ孔を簡単に開けられるようになる。」

(2)甲第2号証
(2-1)2頁1欄34?37行
「[産業上の利用分野]
本発明は、多色印刷における写真製版用の刷版を、多色印刷機にセット後、一度の見当合わせで自動的に本刷を行なうことを可能にする、レジスタパンチシステムに関する。」

(2-2)2頁1欄43?48行
「[従来の技術]
従来、多色印刷における写真製版用の刷版を多色印刷機にセットするに当たっては、トンボを上下左右に描画した版材下端に穿設した1対の丸孔、長孔を、印刷胴の万力のピン孔に一致させたのちに、いちいちピンを差し込み固定するという手間を要し精度も悪い作業を行なっていた。 そこで、さきに本出願人のうちの1名は、特願昭62-28050(審決注:特開昭63-197952号公報)をもって、多色印刷機による印刷の直前に印刷所で、各色用版材のトンボを正確に位置合わせしたうえU字の如く一端開放の形状の穴(以降U字形孔)をパンチする、刷版用トンボ合わせ及びU字形孔パンチ装置を提案した。」

(2-3)3頁4欄21?28行
「そしてステップ4において第3図に示すトンボ22を描画された版材20のような版材を版材載置テーブル2上に乗せ、版材センタ出し機構3により版材の水平方向の中心を取る。この版材センタ出し機構3の突起しているピンバーで刷版の左右をつめていき両方のピンバーに接触した時点で内蔵センサが働いて停止することにより、センタ出しが行われる。」

(2-4)3頁4欄45行?4頁5欄11行
「次いで操作盤15上の移動スイッチによってCCDカメラ6をおおまかにトンボ22の上に持ってくる。 このトンボ22のだいたいの位置は学習機能によって記憶され、2版目からは自動的にある程度の位置までCCDカメラ6が移動しこの時に、トンボの形状や種類をも把握しやはり学習機能によって記憶される。続いてステップ6において、トンボ22の位置をコンピュータに予め記憶してありCRTディスプレイ16に表示される基準トンボに合わせるために操作盤15上で操作を行なう。 これを標準の版材上では3点について行なう。上記までの見当合わせの行程を全て終わらせると、ステップ7において、版材載置テーブル2の図示せざる真空吸着装置によって版材を固定し、固定した状態で、ステップ3で選択したパンチ孔の深さ通りに、U字形孔パンチ機構10によって、第3図に示すU字形孔24のような1対のU字形孔を版材の下端にパンチングする。」

(2-5)4頁5欄44行?同6欄13行
「(2) 多色印刷機の刷版は、一色の色を出すのに1枚必要であるので同じ絵柄の刷版を何枚も必要とする。しかし従来技術においては多色印刷機の版胴に刷版をセットする際に何度も見当合わせによってトンボを調整していたため時間も長くかかり印刷精度も悪い場合が多かった、本発明ではだいたいのトンボの位置までCCDカメラが自動的に移動し、更にCCDカメラで撮像したトンボとあらかじめコンピュータに記憶してある正確な位置の基線トンボとを、CRTディスプレイに同時に表示しそれを感知して、操作盤より版上ピンとセンター出し機構とを介して基線トンボに撮像したトンボの位置を合わせる事ができる。 これにより、刷版とその絵柄の位置が各色、ズレていてもトンボの位置で見当合わせしU字形孔パンチを行うので多色印刷機の版胴に刷版を取り付けた状態において刷版の絵柄は常に同じ位置になる。」

(3)甲第3号証
(3-1)段落【0001】
「【産業上の利用分野】
本発明は、印刷版の印刷画像露光製版に使用する薄板状PS版材料(プレセンシタイズ版材料)を各種サイズの印刷機の版取り付けサイズに合うように裁断し且つそのPS版材料に版胴に設置されている版取り付け位置決めピンに合致するようにパンチング孔を穿孔するための印刷版裁断穿孔装置に関する。」

(3-2)段落【0003】
「【発明が解決しようとする課題】
上記写真原版を用いて焼付け露光する刷版工程の段階では、既に、これから印刷工程にて使用すべき印刷機の機種や印刷機のサイズ及びそれによる印刷版材料のサイズ及び版取り付け用ピン孔の位置は決定されているものであり、万一何らかの作業進行上の都合により使用すべき印刷機の機種や印刷機のサイズを刷版終了後に変更する場合には、再度、その印刷機に合ったサイズの印刷版材料を準備し、ピン孔を穿孔して、刷版をやり直さなければならった。
よって、従来は、印刷に使用すべき印刷機の機種や印刷機のサイズが決定される以前に、前もって印刷すべき印刷版の刷版を終了しておくことができないといった不都合もあった。」

(3-3)段落【0004】
「本発明の課題は、印刷に使用すべき印刷機の機種や印刷機のサイズ決定前に、予め印刷に使用する印刷版を刷版してストック(所謂、溜め焼き)しておき、決定後にその印刷版を所定の寸法に裁断して使用するシステムが実施できるようにすることにあり、そのために、印刷機に合致した所定の版サイズに自動的に裁断でき且つその印刷機に合致した所定の位置に版取り付け用のピン孔が自動的に穿孔できるようにすることにある。」

(3-4)段落【0027】
「次に、一対の穿孔手段Bについて図1に従って説明すれば、版テーブル2の一端部(図1の図面における版テーブル2の下端部)に平行な線上の2個所に一対の穿孔上板30が両側に取り付けられ、該穿孔上板30,30のそれぞれ穿孔雌孔30aが孔設されており、図2に示すように、該穿孔上板30は、穿孔基台40上に一体に取り付けられる。
又、必要に応じては、該版テーブル2には、該穿孔上板30,30の間の中間点に、印刷版材料1の左右方向の載置位置を決める縦線状の位置決めマーク4を設けるようにしてもよい。
あるいは又、該位置決めマーク4に換えて、板状若しくはピン状の版側端当接部(図示せず)を、版テーブル2の印刷版材料1載置相当部外側の側方端部に版テーブル2面より突出して固定状態、若しくは適宜位置移動調整可能に設けるようにしてもよい。」

(3-5)段落【0034】
「次に、本発明の印刷版裁断穿孔装置を用いて印刷版材料1を所定の版サイズ(A判,B判,四六判の、各倍判,全判,判截判など)に裁断し且つその印刷版前端部に版取付け時の位置決め用ピン孔を穿孔する場合の一使用例を、図4に従って下記に説明する。」

(3-6)段落【0035】
「まず、例えば市販品における最大サイズ(例えばA倍判サイズより多少大きめのサイズ若しくはA倍判サイズ)のアルミニウム製薄板状の矩形状印刷版材料1(PS版)、若しくは印刷に使用すべき印刷機種が設定される以前の所定サイズのアルミニウム製薄板状の矩形状印刷版材料1(PS版)に、その印刷版材料1の左右幅方向(X方向)の中央部1aをほぼ印刷画像の印刷幅方向の中央部として所定の焼付け用原版を用いて密着焼付け、及び建造(「現像」の誤記と認められる。)処理して、予め刷版を終了しておく。」

(3-7)段落【0036】
「次に、版テーブル2上に、その印刷版材料1の下端縁(印刷版の前端縁に相当する部分)を穿孔手段Bの左右一対の穿孔上板30,30とその下側に対向する穿孔ガイド32,32の間に装填し、その印刷版材料1側端縁を版側端当接部4に当接し、該印刷版材料1の中央部1aを、一対の穿孔上板30,30の穿孔雌孔30a,30aの間の中央位置にマークされた位置決めマーク4に整合してセットする。」

(3-8)段落【0037】
「続いて、版固定部3,3(図1参照)を用いて印刷版材料1の上端部をそのバネ3bの押し付け力により押し付けることにより印刷版材料1を版テーブル2上に固定する。」

(3-9)段落【0038】
「次に、裁断穿孔動作制御器Dからの入力設定された穿孔ピン孔の穿孔位置データに基づく穿孔位置決め制御信号に基づいて、穿孔位置決め手段Cの版端部当接部41を版端部の穿孔位置が所定位置になるように移動させた後、穿孔ピン31を、手動若しくは往復駆動機構35を動作させて上昇動作して印刷版材料1下端部の穿孔雌孔30a相当部に版取付け位置決め用のピン孔を穿孔する。」

(4)甲第4号証
(4-1)段落【0009】
「本発明は・・・、処理効率を低下させることなく、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準とを一致させ、特にカラー印刷時の色ずれを防止することができる感光性平版印刷版のパンチング方法を得ることが目的である。」

(4-2)段落【0019】
「【実施例】
図1には、本発明の一実施例としての、オートパンチング装置10が示されている。このオートパンチング装置10は、輪転機に使用される印刷版を作成する際、露光されていない感光性平版印刷版(以下「PS版」と言う)12を、殖版機等で処理を行う際の基準及び、現像処理したPS版12を輪転機の版胴へ巻き掛けるための版曲げを行うための基準とするパンチ孔を穿設するものである。オートパンチング装置10によってパンチ孔が穿設されたPS版12は、殖版機等の焼付装置によって原稿フィルム等に記録された画像に応じた露光が施され、現像処理されることによって輪転機等に使用される印刷版となる。」

(4-3)段落【0021】
「PS版12はサイズで分類すると10種類以上あるが、殖版機等の焼付装置や輪転機等に装填するための向きによって分類すると、図20に示される如く、2種類(以下、図20の(A)をAタイプ及び(B)をBタイプという)に分けることができる。」

(4-4)段落【0022】
「図20(A)及び(B)に示される如く、PS版12には、それぞれ基準となる一辺13Aが決められており、この一辺13Aを基準として殖版用基準パンチ孔12A及び版曲げ用基準パンチ孔12Bが穿設されるようになっている(穿設手段については後述する。)
また、この一辺13Aは、最終的に輪転機へ装着する際の突き当て基準となるものであり、全ての作業(パンチ孔穿設作業、突き当て作業)の基準とされている。すなわち、PS版12の各辺は、直線性においては精度がよいが、隣合う辺同士の直角性は比較的ラフな精度となっているため、全ての基準を一辺13Aとすることにより、位置決め精度を高めている。」

(4-5)段落【0023】
「図20(A)に示すAタイプのPS版12は、基準となる一辺13Aに版曲げ基準用パンチ孔12Bが穿設されるタイプであり、図20(B)に示すBタイプのPS版12は、基準となる一辺13Aと隣接する一辺13Bに版曲げ用基準パンチ孔12Bが穿設されるタイプとなっている。」

(4-6)段落【0119】
「PS版12の位置決め完了状態でPS版12の搬送方向先端にパンチャー294又はパンチャー296によって、パンチ孔が穿孔される。これらのパンチ孔は、前記一辺13Aが基準となって穿設される。このパンチ孔は、殖版装置による、焼付基準用とされると共に輪転機へ装填するための版曲げ用基準用とされる。」

(4-7)段落【0026】
「・・・例えば、PS版12の幅方向に沿った中心位置を背板22の幅方向の中心位置に合わせる等の方法が可能であるが、これに限定するものではない。」

3.対比・判断
(1)本件特許明細書の記載
本件特許明細書の段落【0002】には、多色印刷を行う場合には、少なくとも赤、藍、墨、黄の4色用の刷版が用いられ、それらの刷版が多色印刷機に順にセットされる際に、絵柄の位置が少しでもずれていると、得られる印刷物が色ずれしたものとなること、そのために各刷版の絵柄の位置を合わせる作業が必要なことが記載されている。
そして、続く段落【0004】では、従来の技術である、各刷版の一辺(くわえ辺)の、その絵柄に対して一定の位置に一対のU字形パンチ孔を形成し、そのパンチ孔を利用して各刷版を印刷機にセットするようにしたものにおける、刷版へのパンチ孔形成方法に関して、まず、刷版が刷版支持テーブル上に載置され、センタリングされ、その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右トンボのいずれか、例えば左側トンボを検出し、そのトンボ位置を記憶し、次いで右側トンボを検出し、その天地方向の位置を左側トンボと一致するように刷版が移動され、その位置で刷版が固定された後に、その刷版の下辺(くわえ辺)に所定間隔で一対のU字形パンチ孔が形成されることが記載される。
そして、段落【0004】では、このようにしてパンチ孔を形成すれば、各刷版の絵柄に対するパンチ孔の位置が一定となり、色ずれを生ずることがなくなることが記載されている。
しかしながら、本件特許発明が解決しようとする課題に関する段落【0005】には、前記のようにパンチ孔の位置を定めたとしても、刷版に焼き付けられている絵柄の中心線がパンチ孔間の中心線に一致するとは限らないことから、両面印刷を行う場合に、表裏の絵柄の位置が数mm程度ずれた場合には、印刷後の断裁や折り畳みによって絵柄が欠ける可能性があることが指摘されている。
そして、段落【0006】には、本件特許発明の目的が、刷版に形成されているパンチ孔を利用してその刷版を印刷機にセットするだけで、各刷版の絵柄の位置を一致させることのできる、印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法を得ることであると記載されている。
してみれば、この段落【0006】における絵柄の位置を一致させるべき刷版とは、その発明が解決しようとする課題及び目的に照らせば、両面印刷を行う際の表面に印刷を行う刷版と、裏面に印刷を行う刷版であって、従来の技術において、それらの印刷する絵柄自体に色ずれは生じないことを前提としつつも、それらが印刷した表裏面の絵柄の位置をも一致させることが、本件特許発明の目指しているところであると解される。
ここで、本件特許発明1の請求項1では、
「1版目の刷版を作成するときには、・・・」及び「2版目以降の刷版を作成するときには、・・・」と記載されるように、多色印刷を行う複数の刷版同士の絵柄位置を合致させるとき、即ち、一つの絵柄を印刷する複数の刷版からなるいわば一組の刷版相互の位置を合致させるために「その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線」と「前記一対のパンチ孔間の中心線」とを一致させることが特定されている。
そして、前記の絵柄とは異なる複数の刷版からなる異なる組の刷版相互の位置を合致させる場合にも、1版目の刷版を作成する際には、前記の組の場合と同様に、「その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線」と「前記一対のパンチ孔間の中心線」とを一致させる手法が用いられるものであると解される。
そして、1版目の刷版にパンチ孔を開けるに際して行った「その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線」を記憶しておいて、その後の2版目以降の刷版にパンチ孔を開けるに際してこれを用いることで、共通して「前記一対のパンチ孔間の中心線」に一致させることとなるので、「左右のトンボ間の中心線」により規定されるそれぞれの絵柄中心とパンチ孔間の中心線との関係は、異なる組の刷版との相互間においても同じとなることが明らかである。
よって、本件特許発明1においては、前記「その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線」と「前記一対のパンチ孔間の中心線」とを一致させるとの特定によって、両面印刷が行われた場合における表裏面の絵柄の位置を同じくすることを意図しているものであると理解できる。
また、本件特許発明2の請求項2では、
「あらかじめ、刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボの間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致する前記トンボの位置を記憶させておき、」と特定されるように、前記本件特許発明1の請求項1と同様に、各々の版にパンチ孔を開けるに際して、共通して「前記一対のパンチ孔間の中心線」に一致させることとなるので、「左右のトンボ間の中心線」により規定されるそれぞれの絵柄中心とパンチ孔間の中心線との関係は、異なる組の刷版との相互間においても同じとなることが明らかである。
よって、本件特許発明2においても、前記「その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線」と「前記一対のパンチ孔間の中心線」とを一致させるとの特定によって、両面印刷が行われた場合における表裏面の絵柄の位置を同じくすることを意図しているものであると理解できる。

(2)甲号各証の記載についての検討
(2-1)甲第1号証について
甲1の段落【0004】の「集合フィルムや刷版等の色版」なる記載からは、当該甲1において、「集合フィルム」と「刷版」とを共に包含する概念として「色版」が定義されているといえる。
そして、当該定義に照らせば、甲1の特許請求の範囲及び段落【0006】?【0011】記載される甲1記載発明は「色版」を対象とするものとして記載されている以上は、「集合フィルム」と「刷版」とに共通に使用し得る構成であると認識するのが自然な解釈である。
よって、以下、色版と表現されている記載について、これを刷版と認定して検討することとし、適宜、刷版(色版)と表現する。

甲1における従来の技術に係る段落【0002】?【0004】には、刷版作成においては、未露光の刷版に集合フィルムの絵柄が焼き付けられること、この焼き付けに際しては、集合フィルムと刷版とを密着させて露光すること、これを印刷色に応じた回数行い、複数枚の刷版が作成されること、が記載されている。
そして、通常、焼き付けに際して、トンボも同時に焼き付けられることに照らして、同じ絵柄に係る刷版には、同じ位置にトンボも焼き付けられていることが把握できる。
さらに、従来の技術に係る記載を検討するに、段落【0005】には、刷版に開けられるパンチ方法に関し、
基準となる第1の刷版(色版)の場合には、ライトテーブルの所定位置にセットされ、刷版(色版)の位置決めマークが受光手段の中心に配置された後に、パンチ孔が形成されるのに対して、その他の刷版(色版)については、「同様にしてパンチ孔が形成される」と記載されるものの、受光手段の位置は前記第1の刷版(色版)で設定された位置に固定されたままであること、が記載されている。
すると、前記のように、同じ絵柄に係る刷版には同じ位置にトンボが焼き付けられていることを前提とすれば、見当合わせされた第1の刷版(色版)の位置は、いわば記憶されているといい得ることとなる。

ここで、甲1記載のパンチ装置における刷版(色版)の見当合わせについては、段落【0010】及び【0011】に、刷版(色版)をテーブル上の一定位置に刷版(色版)の中心基準で見当合わせした上でパンチ孔が開けられること、同一絵柄の次の刷版(色版)についても、同様に刷版(色版)の中心基準で見当合わせした上でパンチ孔が開けられることが記載されている。
また、実施例に関する見当合わせについては、段落【0020】?【0024】において、原板を対象とすることが明記された上で、1色目の原板は、その中心をテーブル1の中心にほぼ一致するように配置された後、トンボがCCDカメラ2,3,4に映し出されるように位置関係を調整し、この後、原板を水平移動及び回動することで、テーブル1上に設定されている基準の位置に合わせられ、この見当合わせ動作が完了するとパンチ孔が開けられること、ここで、2?4色目の原板については、1色目の原板に対してパンチ孔を開けた際の位置に固定した状態でパンチ部14が使用されることが記載される。
そして、当該実施例では、中心基準で見当合わせされた2?4色目の原板に対して、1色目の原板に形成されたパンチ孔と正確に一致するパンチ孔が形成されることが記載される。
してみると、甲1記載のパンチ装置を用いた場合においても、1色目の刷版(色版)が、テーブル上で一旦、見当合わせた後に、パンチ部の位置をテーブル上で変更することはないのであり、前記の従来の技術と同様に、見当合わせされた第1の刷版(色版)の位置が記憶されているものと解され、実施例の記載を参考にすれば、1色目の刷版(色版)のトンボ位置が記憶されているものと解される。
この点、請求人と被請求人のいずれもが、口頭審理陳述要領書において、本件特許発明1と甲1記載の発明とを対比した場合に、両者ともに対象とする刷版或いは色版の1色目のものにおけるトンボの位置が記憶されていることを一致点としていることと符合する。

すると、甲1の記載において、「色版」として、「刷版」を想定した場合には、以下の発明が記載されている。
「印刷機にセットする為に一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法であって、
一版目の刷版を作成するときには、その刷版に焼き付けられている位置決めマークを検出して、刷版をテーブル上の一定位置に刷版の中心基準で見当合わせするように移動され、
前記見当合わせされた刷版に対し、パンチ手段がテーブル上で相対移動され、
見当合わせされた刷版の所望位置にパンチ孔が形成され、
続いて同一絵柄の次の刷版にパンチ孔を開ける場合には、同様に刷版の中心基準で見当合わせを行った後に、パンチ手段を移動させ、パンチ孔を開ける、
一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法。」
(以下、「甲1記載発明」という。)

ただ、甲1の中では、絵柄と複数の位置決めマークとが焼き付けられた多色刷り用の複数枚の刷版(色版)間の相対的位置決めをするために刷版(色版)にパンチ孔を開ける際に、従来、操作が容易でなく、煩わしかったことに鑑みて、正確なパンチ孔を簡単に開けられることを目的とするものであるが、一つの絵柄を印刷する際に用いられる複数枚の刷版(色版)相互の位置決めを正確に行うことが意図されているに過ぎず、異なる絵柄を印刷する際に用いられるところの別の複数枚の刷版による多色刷り印刷との関係について記載若しくは示唆するところはない。
そして、トンボが絵柄に対して中心基準に焼き付けられていることの記載はあるものの、刷版の中心と絵柄の中心とが合致させられていること、即ち、左右トンボ中心線をパンチ孔間中心線に合わせることの記載は発見できない。
したがって、甲1の記載には、両面印刷した場合に、表裏で絵柄がずれることを意識しているところは窺えない。

(2-2)甲第2号証について
甲2の記載(2-2)によれば、多色印刷における写真製版用の刷版を多色印刷機にセットするに当たって、版材下端に穿設した1対の孔が、丸孔、長孔である場合には、印刷胴の万力のピン孔に一致させたのちに、いちいちピンを差し込み固定するという手間を要し精度も悪い作業であることが、当該甲2の出願人が従来から意識しており、U字の如く一端開放の形状の穴(以降U字形孔)をパンチすることを既に採用していたことが把握できる。
そして、甲2の記載(2-4)によれば、ステップ6において、トンボ22の位置が、「コンピュータに予め記憶されてありCRTディスプレイ16に表示される基準トンボ」に合わせるために操作盤15上で操作を行なわれるものと記載される。
すると、甲2には、以下の発明が記載されている。
「印刷機にセットするための一対のU字形パンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
あらかじめ、刷版に絵柄とともに焼き付けられているトンボの位置を記憶させておき、
刷版を作成するときには、その刷版に焼き付けられているトンボの位置が、記憶されている前記トンボの位置に合致するようにその刷版を位置決めして固定した後、
その刷版に前記パンチ孔を形成することを特徴とする
印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。」
(以下、「甲2記載発明」という。)

ここで、甲2の記載(2-5)にみられるように、甲2において意図されている効果は、多色印刷機の刷版が、同じ絵柄の刷版を何枚も必要とするものであっても、あらかじめコンピュータに記憶してある正確な位置の基線トンボを用いて、同じ絵柄の刷版についてトンボの位置を合わせることでき、この位置合わせした上で開けられるU字形孔パンチを用いることで、多色印刷機の版胴に刷版を取り付けた状態における刷版の絵柄が常に同じ位置になることが期待されるものである。
ただし、甲2の記載からは、前記あらかじめコンピュータに記憶される基線トンボが、同じ絵柄の刷版に対して共通に用いられることは把握できるものの、一つの絵柄を印刷する際に用いられる複数枚の刷版相互の位置決めを正確に行うことが意図されているに過ぎず、別の異なる絵柄の刷版に対しても前記コンピュータに記憶される同じ基線トンボが用いられるのかが定かでないことから、異なる絵柄を印刷する際に用いられるところの別の複数枚の刷版による多色刷り印刷との関係について記載若しくは示唆するところはない。
したがって、前記甲1と同様、甲2の記載には、両面印刷した場合に、表裏で絵柄がずれることを意識しているところは窺えない。

(2-3)甲第3号証について
甲3の記載(3-3)によれば、甲3記載の発明では、予め印刷に使用する印刷版に刷版してストック(所謂、溜め焼き)しておき、使用する印刷機が決定した後に、その印刷版を所定の寸法に裁断し、使用する印刷機に合致した所定の位置に版取り付け用のピン孔を自動的に穿孔することを目的とするものであることが記載されている。
そして、甲3の記載(3-6)によれば、前記予め行う刷版では、使用する刷版のサイズに関わらず、印刷版材料の左右幅方向(X方向)の中央部をほぼ印刷画像の印刷幅方向の中央部とした印刷が行われることを前提としていることが記載されている。

すると、甲3には、以下の発明が記載されている。
「印刷機にセットするための一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
あらかじめ、刷版に印刷版材料の左右幅方向(X方向)の中央部をほぼ印刷画像の印刷幅方向の中央部とした印刷を行っておき、
刷版にパンチ孔を作成するときには、その刷版の中央部を、穿孔装置の一対の穿孔ピン間の中央位置に合致するようにその刷版を位置決めして固定した後、
その刷版に前記パンチ孔を形成することを特徴とする
印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。」
(以下、「甲3記載発明」という。)

(2-4)甲第4号証について
前記各記載事項によれば、甲4には、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準とを一致させ、特にカラー印刷時の色ずれを防止することができる感光性平版印刷版のパンチング方法を得ることが記載されており、
段落【0019】から記載される実施例には、図20(A)に示されるような基準となる一辺13Aに版曲げ基準用パンチ孔12Bが穿設されるAタイプのPS版について、殖版機等で処理を行う際の基準及び、現像処理したPS版12を輪転機の版胴へ巻き掛けるための版曲げを行うための基準として共通に使用するパンチ孔を穿設することが記載されている。

すると、甲4において、段落【0023】に示される「図20(A)に示すAタイプのPS版12は、基準となる一辺13Aに版曲げ基準用パンチ孔12Bが穿設されるタイプ」、すなわち、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準とを一致させたものについて、以下の発明が記載されている。
「印刷機にセットするための一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法であって、
あらかじめ、未露光の刷版に、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準として共通に使用するパンチ孔を形成しておき、それらのパンチ孔によりその刷版を位置決めして固定した後に、刷版に画像を焼き付けるようにした、
印刷機にセットするための一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版を作成する方法。」
(以下、「甲4記載発明」という。)

(3)本件特許発明1についての判断
前記で検討したように、甲1及び甲2においては、多色刷り用の刷版に関して、刷版に焼き付けられたトンボを用いて色ずれを生じないようにすることは記載されているものの、両面印刷した場合に、表裏で絵柄がずれることを意識しているところは窺えない。
したがって、これら甲1及び甲2においては、本件特許発明で前提とする従来の技術で生じ得る、異なる絵柄を印刷する刷版の組との間における、絵柄の中心線をパンチ孔間の中心線と一致させることは記載も示唆もない。

他方、甲3記載発明においては、前記で検討したように、「あらかじめ、刷版に印刷版材料の左右幅方向(X方向)の中央部をほぼ印刷画像の印刷幅方向の中央部とした印刷を行っておき、刷版にパンチ孔を作成するときには、その刷版の中央部を、穿孔装置の一対の穿孔ピン間の中央位置に合致するようにその刷版を位置決めして固定した後、その刷版に前記パンチ孔を形成する」ものであることから、あらかじめ刷版左右幅方向の中央部に印刷画像の印刷幅方向の中央部とを一致させて画像形成を行うことが条件とされており、この条件下では、印刷される絵柄が異なる刷版の組との間でも同じ位置に形成されることが当然といえる。
成る程、甲1或いは甲2記載発明に甲3記載発明を適用した場合には、刷版の中心と絵柄中心とが合致したものとなることは当然といい得るとしても、本件特許発明1は、そのような条件設定が存在していないことを前提として作成された刷版についても、両面印刷の際に、表裏で絵柄が同じ位置となる解決手段を与えるものであるから、甲1或いは甲2記載発明に甲3記載発明を適用したものとは別の技術思想を開示するものというべきである。

また、甲4記載発明において対象としている刷版は、未露光の刷版であり、本件特許発明1が対象とする既に絵柄を焼き付けられた刷版とは異なるものである。
そして、甲4記載発明は、未露光の刷版に、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準として共通に使用するパンチ孔を形成しておき、それらのパンチ孔によりその刷版を位置決めして固定した後に、刷版に画像を焼き付けるものであるから、前記甲3記載発明と同様に、刷版の中央部と絵柄中心とを合致させる条件を設定するものといえる。
してみれば、甲1或いは甲2記載発明に甲4記載発明を適用したものは、前記において検討した、甲1或いは甲2記載発明に甲3記載発明を適用するものと同様に、本件特許発明1とはべつの技術思想に属するものといえる。

ここで、提示された甲1?甲4のいずれにおいても、本件特許発明1の「1版目の刷版を作成するときには、その刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致するように刷版を移動させて、そのときの前記トンボの位置を記憶させるとともに、その位置で刷版を固定した後、その刷版のくわえ辺に前記パンチ孔を形成し、」なる特定を行うことの記載も示唆もないことは、前記で検討したとおりである。
本件特許発明1は、この特定によって、本件特許明細書に記載されるように、従来、トンボを用いて絵柄の色ずれを生じないようにするのみでは避け得ない、印刷後の断裁や折り畳みによって絵柄が欠ける不都合を解消し得る作用効果を期待し得るものである。
したがって、本件特許発明1が、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお、請求人は、平成17年5月12日付け弁駁書4頁において、「確かに甲第1号証、甲第2号証および甲第4号証に直接的な記載はないものの、これらの甲第1号証、甲第2号証および甲第4号証のそれぞれには、「絵柄の中心線とパンチ孔間の中心線とを一致させる」点が記載されていると考えられる。」と主張するとともに、平成17年7月21日付け口頭審理陳述領書2?3頁において、「ここで、刊行物1には「左右のトンボ間の中心線(絵柄の中心線)とパンチ孔間の中心線とを一致する」点に関して明示的な記載はないが、トンボは絵柄の中心線上に絵柄と一緒に焼き付けられるものであるため、トンボが絵柄の中心線上に正確に位置して絵柄とトンボとの間にずれが生じないことや、テーブルの上下方向に延びる中心線を対称軸とする左右の対称位置に対をなすようにパンチ部を設けること等が本件発明の技術分野における技術常識を考慮すると、刊行物1には「左右のトンボ間の中心線(絵柄と中心線)とパンチ孔間の中心線とを一致させる」点が記載されている。」として、本件特許発明1或いは2と甲1記載発明とを対比するときに、相違点は、本件特許発明1或いは2に特定される「くわえ辺に一対のU字形パンチ孔を形成する」点のみでしかないと主張する。

しかしながら、たとえ、トンボが絵柄の中心線上に正確に位置して絵柄とトンボとの間にずれが生じないことが自明なことであるとしても、両面印刷された際に、印刷物の表裏で絵柄が同じ位置にあるようにすることは、甲第1号証及び甲第2号証に記載も示唆もされていないことは、前記で検討したとおりであり、また、甲第4号証においては、既に作成されたパンチ孔を用いて刷版の位置合わせを行い、ここで、パンチ孔を基準として絵柄形成を行うものであるから、これにより形成されたパンチ孔を開けられた刷版自体の構成が、本件特許発明1或いは2と同様の作用効果を奏するものであるとしても、前記のように技術思想において明らかに相違するものといわざるを得ない。
また、請求人は、前記で検討した甲各号証以外に、本件特許発明の属する技術分野における技術常識を裏付ける証拠を提出していないのであり、刷版にパンチ孔を形成するに際して、「左右のトンボ間の中心線(絵柄の中心線)とパンチ孔間の中心線とを一致する」点が技術常識に属するものであるとは認定できない。

(4)本件特許発明2について
前記「(1)本件特許明細書の記載」で検討したように、本件特許発明は、従来の技術では、一つの絵柄を印刷する複数の刷版からなるいわば一組の刷版相互のトンボ位置を合致させることの意識はあるものの、異なる絵柄を印刷する刷版の組との間においても、それらが印刷する絵柄の中心線を一致させるものとして作成されていないことを前提とするものである。
そして、本件特許発明2は、「あらかじめ、刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致する前記トンボの位置を記憶させておき、」なる特定を有するものである。
したがって、本件特許発明2は、従来の技術で作成された刷版にパンチ孔を形成することを前提として、「あらかじめ記憶されているトンボの位置」を「刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致する」ものと特定しているものと解される。
ここで、前記本件特許発明1においては、1版目の刷版を位置合わせした後にトンボ位置を記憶しておき、当該記憶されたトンボ位置を2版目以降の刷版の位置合わせに用いるものであり、本件特許発明1と2の両者は、2版目以降の刷版の位置合わせにおいて共通するものである。

ここで、提示された甲1?甲4のいずれにおいても、本件特許発明2のように、「刷版に絵柄とともに焼き付けられている左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致する前記トンボの位置を記憶させておき、」なる特定を行うことの記載も示唆もないことは、前記で検討したとおりである。
本件特許発明2は、この特定によって、本件特許明細書に記載されるように、従来、トンボを用いて絵柄の色ずれを生じないようにするのみでは避け得ない、印刷後の断裁や折り畳みによって絵柄が欠ける不都合を解消し得る作用効果を期待し得るものである。
したがって、本件特許発明2が、甲1?甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(5)本件特許発明3について
(5-1)本件特許発明3と甲4記載発明との対比
刷版を印刷機に装着する場合には、その刷版の一辺に形成されている「くわえ部」を、印刷機の胴に設けられている一対の万力間に差し込み、胴に対して位置決めした後、当該万力を固定することで、刷版が印刷機に取り付けられるようにされており、当該「くわえ部」が「くわえ辺」と称されることは、技術常識に照らして明らかである。
そして、甲4記載の、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準とを一致させたものにおいて、「印刷機にセットする為に一対のパンチ孔が設けられている多色印刷用刷版」に「くわえ辺」が存在することは自明である。
また、パンチ孔が形成されたくわえ辺自体は、絵柄を印刷し得るものとはいえないから、絵柄とパンチ孔との間には所定の距離が設けられることは技術常識に照らして明らかである。

してみれば、本件特許発明3と甲4記載発明とを対比すると、両者は、以下の点で一致及び相違する。
<一致点>
I’.くわえ辺に、印刷機にセットするための一対のパンチ孔が設け
られている多色印刷用刷版を作成する方法であって;
J’.あらかじめ、未露光の刷版のくわえ辺に前記一対のパンチ孔を
形成しておき、それらのパンチ孔によりその刷版を位置決めして
固定した後、
K’.絵柄が前記パンチ孔から所定の距離に位置するようにしてその
刷版に絵柄を焼き付けることを特徴とする、
L’.印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法。
<相違点>
相違点1:パンチ孔形状に関して、
本件特許発明3においては、U字形との特定がなされているのに
対して、
甲4記載発明においては、そのような特定を有しない点。
相違点2:刷版に絵柄を焼き付けるに際して、
本件特許発明3においては、「それらのパンチ孔間の中心線と絵柄
の中心線とが一致」するようにされるのに対して、
甲4記載発明においては、その点定かでない点。

(5-2)相違点の判断
前記甲2の記載から、従来、印刷胴の万力のピン孔に一致させるために用いられる版材下端に穿設した1対の丸孔、長孔では、いちいちピンを差し込み固定するという作業が必要で、手間を要し精度も悪いことから、パンチ孔形状をU字の如く一端開放の形状の穴、すなわちU字形孔とすることが慣用されていると把握できる。
よって、当該相違点1のごとくに構成することは、当業者であれば容易になし得た程度のことと認められる。

次に、相違点2について検討する。
前記「(2)甲各号証の記載についての検討」で認定したように、甲3においては、多色刷り用の刷版であるとの特定はないものの、段落【0035】?【0038】の記載に、印刷画像の印刷幅方向の中央部すなわち絵柄中心を、印刷材料の中心に合わせて形成した刷版に対して、版取付け位置決め用のピン孔を穿孔するに際して、前記絵柄中心と穿孔を行う一対の穿孔上板30,30の穿孔雌孔30a,30aの間の中央位置にマークされた位置決めマーク4に整合させること、すなわち、絵柄中心とパンチ孔間の中心を合わせてパンチ孔を形成することが記載されている。
そして、甲3記載発明には、「パンチ孔間の中心線」あるいは「絵柄の中心線」なる明記はされていないものの、各々の部分の中央を認識することが明らかである際に、中心線をもって特定することに格別の困難性があるものとはいえない。
また、甲4記載発明は、未露光の刷版に、画像記録のための基準と印刷機による印刷基準として共通に使用するパンチ孔を形成しておき、それらのパンチ孔によりその刷版を位置決めして固定した後に、刷版に画像を焼き付けるものであるから、前記甲3記載発明と同様に、刷版の中央部と絵柄中心とを合致させる条件を設定するものといえる。

ここで、前記「(1)本件特許明細書の記載」で検討したように、本件特許発明は、本来は、従来の技術において、刷版の中央部に絵柄が必ずしも形成されていないことを前提として、これに伴い発生し得る両面印刷における表裏の絵柄の位置ずれを防ぐことを課題とするものである。
成る程、本件特許発明3においても、結果として、両面印刷における表裏の絵柄の位置ずれを防ぐ作用効果を得られることは事実である。
しかし、本件特許発明3は、たとえ本件特許明細書にいう目的・課題が前記のごとくのものであるとしても、その請求項記載された構成要件によれば、もともと、刷版の中央部に絵柄中心を合わせて印刷することを特定するものであって、本件特許発明1或いは2とは異なり、刷版の中央部に絵柄中心が存在しないことを想定して、これに対処するものではない。
してみれば、相違点2に係る、左右のトンボ間の中心線と前記一対のパンチ孔間の中心線とが一致することを、刷版を作成する際の条件とする点で、前記甲3記載発明或いは甲4記載発明と技術思想を同じくするものと判断せざるを得ない。
そして、相違点2により得られる作用効果は、当業者であれば容易に想到し得ることである。

以上のとおりであるから、本件特許発明3と甲4記載発明との相違点1及び2のいずれもが当業者が容易に想到し得る程度の事項であって、これらが総体として奏する作用効果についても、それら個別の作用効果を合わせた以上の格別なものが期待し得るものともいえない。
よって、本件特許発明3は、これら甲第4号証及び甲第3号証記載の発明及び技術常識に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1及び2の特許を無効とすることはできない。
他方、本件特許発明3は、甲第1号証乃至甲第4号証に記載された発明及び技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明3についての特許は、特許法第29条第2項に規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第64条の規定により、その2分の1を請求人の負担とし、2分の1を被請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示)
この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、この審決に係る相手方当事者を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2005-08-29 
結審通知日 2005-09-01 
審決日 2005-09-14 
出願番号 特願平7-323741
審決分類 P 1 113・ 121- ZC (B41F)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 畑井 順一  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 番場 得造
砂川 克
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3304252号(P3304252)
発明の名称 印刷機へのセット用パンチ孔を有する刷版の作成方法  
代理人 樺澤 襄  
代理人 樺澤 聡  
代理人 森下 靖侑  
代理人 山田 哲也  
代理人 杉谷 嘉昭  

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