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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 D02G 審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 D02G 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 D02G |
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管理番号 | 1151130 |
審判番号 | 不服2003-15093 |
総通号数 | 87 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2003-06-13 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-08-06 |
確定日 | 2007-01-24 |
事件の表示 | 特願2000-183342「電磁波遮断性積層糸」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 6月13日出願公開、特開2003-166138〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年 6月19日の出願であって、平成14年 7月10日付けで拒絶理由が通知され、平成14年 9月13日付で手続補正がされ、平成15年 6月16日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年 8月 6日に拒絶査定に対する審判請求がされ、その後、同年 9月 5日付けで手続補正がされたものである。 2.平成15年 9月 5日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成15年 9月 5日付けの手続補正を却下する。 [理 由] (1)補正事項 平成15年 9月 5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という)は、平成14年 9月13日付け手続補正書により補正された明細書(以下、「本件補正前明細書」という)を補正するものであって、次の補正事項を含むものである。 本件補正前明細書の特許請求の範囲の、 「【請求項1】 第1の合成樹脂フィルムと、 前記第一の合成樹脂フィルムの上に成膜された第1の蒸着皮膜と、 前記第1の蒸着皮膜に塗布された接着剤層と、 前記接着剤層と接着した第2の蒸着皮膜と、 前記第2の蒸着皮膜が成膜されている第2の合成樹脂フィルムと、 を備えていることを特徴とする積層糸。 【請求項2】 第1及び(又は)第2の合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の積層糸。 【請求項3】 第1の合成樹脂フィルムと第1の蒸着皮膜の間、第2の合成樹脂フィルムと第2の蒸着皮膜の間、又は第1及び(又は)第2蒸着皮膜上に、コート層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の積層糸。」との記載を、 「【請求項1】 第1の合成樹脂フィルムと、 前記第一の合成樹脂フィルムの上に成膜され、イオン交換可能な金属からなる第1の蒸着皮膜と、 前記第1の蒸着皮膜に塗布された接着剤層と、 前記接着剤層と接着し、イオン交換可能な金属からなる第2の蒸着皮膜と、 前記第2の蒸着皮膜が成膜されている第2の合成樹脂フィルムと、 を備えていることを特徴とする電磁波遮断性積層糸。 【請求項2】 第1及び(又は)第2の合成樹脂フィルムの蒸着被膜が成膜されている面とは反対側の面に、コート層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮断性積層糸。 【請求項3】 第1の合成樹脂フィルムと第1の蒸着皮膜の間、第2の合成樹脂フィルムと第2の蒸着皮膜の間、又は第1及び(又は)第2の蒸着皮膜上に、コート層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁波遮断性積層糸。」と補正する。 (なお、上記各下線は、当審が、補正箇所を示すために付した。) すなわち、本件補正は、本件補正前明細書の請求項1中に記載の「第1の蒸着皮膜」及び「第2の蒸着皮膜」との記載を、それぞれ、「イオン交換可能な金属からなる第1の蒸着皮膜」及び「イオン交換可能な金属からなる第2の蒸着皮膜」と補正する点(以下「補正事項1」という。)、 本件補正後の請求項1ないし3中に、「第1の合成樹脂フィルム」、「第1の蒸着皮膜」、「第2の蒸着皮膜」及び「第2の合成樹脂フィルム」と記載されている点(以下「補正事項2」という。)、 本件補正前明細書の請求項1ないし3中に記載の「積層糸」を「電磁波遮断性積層糸」と補正する点(以下「補正事項3」という。) を含むものである。 (2)当初明細書及び記載事項 本願の願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という)及び図面には、次のとおり、記載されている。 「【請求項1】 合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着被膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ状構造となった積層体を縦方向に細長く切断して形成されたことを特徴とする積層糸。」 「【0016】 図1は、この発明にかかる積層糸1の構造を模式的に示す図であり、この図に示すように、積層糸1は、合成樹脂フィルム11によって、抗菌性金属からなる蒸着被膜12を挟み込んだサンドイッチ状構造の糸であり、・・・」 「【0018】 ・・・また、抗菌性金属とは、銀、銅、亜鉛等のイオン交換可能な抗菌性を有する金属である。・・・」 「【0053】 例えば、ように、積層糸2を構成する合成樹脂フィルム21の外側にコート層23を設けてもよい。・・・」 「【0056】 また、図4に示すように、蒸着被膜32と合成樹脂フィルム31の間に酸化チタン等の顔料からなるコート層33を設けてもよい。・・・」 「【0057】 そして、図5に示すように、蒸着皮膜42の上に酸化バリウム等からなるコート層43を設けてもよい。・・・」 また、【図1】には、合成樹脂フィルム11/蒸着被膜12/接着層(図番なし)/蒸着被膜12/合成樹脂フィルム11の層構成である積層糸1が、図示されているものと認められる。 また、【図3】には、コート層23/合成樹脂フィルム21/蒸着被膜22/接着層(図番なし)/蒸着被膜22/合成樹脂フィルム21/コート層23の層構成である積層糸2が、図示されているものと認められる。 また、【図4】には、合成樹脂フィルム31/コート層33/蒸着被膜32/接着層(図番なし)/蒸着被膜32/コート層33/合成樹脂フィルム31の層構成である積層糸3が、図示されているものと認められる。 そして、【図5】には、合成樹脂フィルム41/蒸着被膜42/コート層43/接着層(図番なし)/コート層43/蒸着被膜42/合成樹脂フィルム41の層構成である積層糸4が、図示されているものと認められる。 (3)当審の判断 (3-1)補正事項1について 当初明細書には、請求項1に「合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し」と記載され、段落【0018】に「抗菌性金属とは、銀、銅、亜鉛等のイオン交換可能な抗菌性を有する金属である。」と明確に定義されている。 したがって、当初明細書に記載の「蒸着被膜」を形成する金属は、あくまでも「抗菌性金属」である。そして、前記「抗菌性金属」との範疇に含まれるものとして「イオン交換可能な抗菌性を有する金属」が開示されているに他ならないから、「抗菌性」を有しない「イオン交換可能な金属」を用いて「蒸着被膜」を形成することは、当初明細書に何ら記載されておらず、示唆もない。 そして、補正事項1に係る「イオン交換可能な金属からなる第1の蒸着皮膜」及び「イオン交換可能な金属からなる第2の蒸着皮膜」との本件補正後の請求項1に係る発明を特定するために必要とする事項(以下、単に「発明特定事項」という。)は、「抗菌性」を有しない「イオン交換可能な金属」から形成された「蒸着皮膜」をも包含するものであって、前記態様が当初明細書に記載されていないことは自明である。 したがって、補正事項1に係る本件補正は、当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではないから、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。 (3-2)補正事項2について 補正事項2は、本件補正後の請求項1ないし3に係る「積層糸」が、「第1の合成樹脂フィルム」、「第2の合成樹脂フィルム」、「第1の蒸着皮膜」及び「第2の蒸着皮膜」を備えていることを、発明特定事項とするものである。 そして、上記「第1の」及び「第2の」との記載からみて、本件補正後の請求項1ないし3に係る発明において、「第1の合成樹脂フィルム」及び「第2の合成樹脂フィルム」として、互いに別の種類の材料の「合成樹脂フィルム」を用いる態様、また、同様に、「第1の蒸着皮膜」及び「第2の蒸着皮膜」として、互いに別の種類の材料の「蒸着皮膜」を用いる態様をも包含されるものと、文理上、解することができる。 これに対して、当初明細書には、請求項1に「合成樹脂フィルムに抗菌性金属を蒸着させて蒸着被膜を成膜し、成膜した合成樹脂フィルム同士を蒸着被膜が内側になるように接着し、接着されてサンドイッチ状構造となった積層体を」と記載され、前記記載中の「成膜した合成樹脂フィルム同士」との記載からみて、同一の「成膜した合成樹脂フィルム」を前記のとおりに「接着」したものと解され、また、上記段落【0016】、【0053】、【0056】及び【0057】、並びに、【図1】、【図3】、【図4】及び【図5】の記載からみて、当初明細書又は図面には、「積層糸」に係る「積層体」の2つの「合成樹脂フィルム」として別の種類の材料のものを用いること、及び、同様に2つの「蒸着被膜」として別の種類の材料のものを用いることについては、何ら具体的記載がなく、示唆もないから、補正事項2に係る上記態様が、実質上、当初明細書又は図面に記載されていたと認めることができない。 したがって、補正事項2に係る本件補正は、当初明細書又は図面に記載された事項の範囲内においてするものではないから、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。 (3-3)補正事項3について 積層糸に「電磁波遮断性」との属性を特定するもので、この属性を特定したからといって、本件補正前の「積層糸」の用途が限定されたことになるものではないし、また、本件補正前の請求項1ないし3に係る「積層糸」についての発明特定事項が、より下位のものに限定されることにはならない。 したがって、補正事項3が、所謂、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものとはいえない。 また、補正事項3が、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明ともいえない。 よって、補正事項3に係る本件補正は、特許法第17条の2第4項の各号に掲げる目的の何れをも目的とするものではない。 (4)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであり、また、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないから、特許法第159条第1項において読み替えて準用する特許法第53条第1項の規定により、却下されるべきものである。 3.本願発明について 平成15年 9月 5日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1及び3に係る発明は、平成14年 9月13日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 第1の合成樹脂フィルムと、 前記第一の合成樹脂フィルムの上に成膜された第1の蒸着皮膜と、 前記第1の蒸着皮膜に塗布された接着剤層と、 前記接着剤層と接着した第2の蒸着皮膜と、 前記第2の蒸着皮膜が成膜されている第2の合成樹脂フィルムと、 を備えていることを特徴とする積層糸。」 「【請求項3】 第1の合成樹脂フィルムと第1の蒸着皮膜の間、第2の合成樹脂フィルムと第2の蒸着皮膜の間、又は第1及び(又は)第2蒸着皮膜上に、コート層を備えていることを特徴とする請求項1に記載の積層糸。」 4.引用文献の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願前に頒布された刊行物である引用文献2(特開平10-168689号公報)(以下、「刊行物2」という。)には、次のとおり記載されていると認められる。 a.「【0010】 【実施例】 ▼1▲厚さ6μmのポリエチレンテレフタレート(以下PETと略称する)フイルムAの片面に、真空蒸着法でアルミニウム金属を50nmの厚さで形成してB層を設け、その上に、熱硬化性ウレタン樹脂100部(以下すべて重量部)、ポリイソシアネート5部、トルエン50部、キシレン30部、n-ブチルアルコール20部の樹脂液に、酸化チタン(石原産業株式会社製ST-01;X線測定粒径7nm)50部を配し混合分散せしめた塗液を、グラビアコーターで塗布し、160℃で20秒間乾燥硬化させ厚さ1.5μmの酸化チタン含有層Cを形成した。得られた積層体をマイクロスリッターで80切りにし0.378mm幅のスリット糸▼1▲を得た。(層構成A/B/C)・・・」 (なお、前記「▼1▲」は、丸囲みの数字で記載されていたことを示す。以下、同様。) b.「【0011】 ▼2▲層構成をA/C/Bとする以外は実施例▼1▲と同様にしてスリット糸▼2▲を得た。・・・」 c.「【0012】 ▼3▲実施例▼1▲、実施例▼2▲の積層体を接着剤層を介して貼合し、層構成として、それぞれA/B/C/C/B/A(▼3▲-1)、C/B/A/A/B/C(▼3▲-2)、A/C/B/B/C/A(▼3▲-3)、B/C/A/A/C/B(▼3▲-4)の積層体を得てこれらをスリットして4種のスリット糸を得た。・・・」 5.対比・判断 本願の請求項1を引用する請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)の「積層糸」において、「第1の合成樹脂フィルムと第1の蒸着皮膜の間」及び「第2の合成樹脂フィルムと第2の蒸着皮膜の間」に「コート層を備えている」場合については、具体的には、【図4】に記載の、合成樹脂フィルム31/コート層33/蒸着被膜32/接着層(図番なし)/蒸着被膜32/コート層33/合成樹脂フィルム31の層構成であるものに対応すると解される。(ここで、前記層構成の「積層糸」を、以下、「積層糸3」とする。) また、本願発明に係る「積層糸」において、「第1及び(又は)第2蒸着皮膜上に、コート層を備えて」いる場合であって、更に、「第1蒸着皮膜上」及び「第2蒸着皮膜上」に「コート層を備えている」場合については、具体的には、【図5】に記載の、合成樹脂フィルム41/蒸着被膜42/コート層43/接着層(図番なし)/コート層43/蒸着被膜42/合成樹脂フィルム41の層構成であるものに対応すると解される。(ここで、前記層構成の「積層糸」を、「積層糸4」とする。) 一方、刊行物2には、上記摘示a.のとおり、「ポリエチレンテレフタレート」の「フイルムA」に、「アルミニウム金属」の真空蒸着層である「B層」を設け、その上に「酸化チタン」含有塗液を、塗布(コート)して、「酸化チタン含有層C」を形成し、積層体を得た旨が、記載されている。 また、上記摘示b.のとおり、層構成が「A/C/B」である積層体を得た旨が記載されている。 更に、上記摘示c.のとおり、上記各積層体を「接着剤層を介して貼合し、層構成として」、「A/C/B/B/C/A」及び「A/B/C/C/B/A」の積層体を得て、「これらをスリットしてスリット糸を得た」旨が、記載されている。 そこで、本願発明(前者)と刊行物2に記載の発明(後者)とを対比する。 後者に係る上記「A/C/B/B/C/A」及び「A/B/C/C/B/A」の積層体の2つの「ポリエチレンテレフタレート」の「フイルムA」層は、前者の「第1の合成樹脂フィルム」及び「第2の合成樹脂フィルム」に該当する。 また、2つの「アルミニウム金属」の真空蒸着層の「B」層は、前者の「第1の蒸着皮膜」及び「第2の蒸着皮膜」に該当する。 そして、2つの「酸化チタン」含有塗液の塗布(コート)層の「C」層は、前者の「コート層」に該当する。 更に、後者に係る上記「A/C/B/B/C/A」の積層体は、「A/C/B」の積層体を「接着剤層を介して貼合し」てなるものであるから、前記2つの「B」層間に「接着剤層」を備えており、これは、前者に係る「接着剤層」に該当する。同様に、後者に係る上記「A/B/C/C/B/A」の積層体についても、前記2つの「C」層間に「接着剤層」を備えており、これは、前者に係る「接着剤層」に該当する。 すると、後者に係る上記「A/C/B/B/C/A」の積層体は、前者に係る「第1の合成樹脂フィルム」/「コート層」/「第1の蒸着皮膜」/「接着剤層」/「第2の蒸着皮膜」/「コート層」/「第2の合成樹脂フィルム」の層構成の積層体に該当し、また、後者に係る前記積層体の「スリット糸」は、前者に係る上記「積層糸3」に該当する。 同様に、後者に係る上記「A/B/C/C/B/A」の積層体は、前者に係る「第1の合成樹脂フィルム」/「第1の蒸着皮膜」/「コート層」/「接着剤層」/「コート層」/「第2の蒸着皮膜」/「第2の合成樹脂フィルム」の層構成の積層体に該当し、また、後者に係る前記積層体の「スリット糸」は、前者に係る上記「積層糸4」に該当する。 したがって、本願発明は、刊行物2に記載された発明である。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-11-28 |
結審通知日 | 2006-11-29 |
審決日 | 2006-12-13 |
出願番号 | 特願2000-183342(P2000-183342) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(D02G)
P 1 8・ 113- Z (D02G) P 1 8・ 56- Z (D02G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
鴨野 研一 川端 康之 |
発明の名称 | 電磁波遮断性積層糸 |
代理人 | 中井 信宏 |
代理人 | 中井 信宏 |