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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F22B
管理番号 1151178
審判番号 不服2005-5044  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-02-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-03-24 
確定日 2007-01-24 
事件の表示 特願2000-239825「ボイラ燃焼室蒸発管とボイラの運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月20日出願公開、特開2002- 54802〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年8月8日の特許出願であって、その特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年11月8日付け、平成17年4月22日付け及び平成18年8月1日付けの各手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、平成18年8月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。

「ボイラの燃焼室蒸発管の表面に、可視光線を含む主として赤外線の反射率が高く、輻射熱の吸収の悪い白色,銀色を主とする金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜を設け、さらにその表面に、鉄,ニッケル,マンガン,バナジウム,クロム,チタン,炭素などを含む酸化物、硫酸塩、硫化物、炭酸塩、窒化物、炭化物などから選ばれる1種以上の白色、銀色を除く無彩色ならびに有彩色からなる化合物を主成分とする無機物の着色化合物を塗布、噴霧もしくは溶射することによって得られる、厚み1μm以上の着色皮膜を使用に先立って予め設けてなるボイラ燃焼室蒸発管。」

2.刊行物
(1)これに対して、原査定の拒絶の理由に示された特開昭63-161302号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「本発明は蒸発管の腐食を防止する方法に関し、特にボイラ燃焼室内の還元性雰囲気下において硫化腐食をうけるボイラチューブの腐食の防止方法に関する。」(第1頁左下欄第11行?第14行)
イ.「本発明は蒸発管の表面にNi-Cr合金を3層以上溶射して100μ?1000μの厚さの被膜をコーティングすることを特徴とする蒸発管の腐食防止方法である。」(第2頁左上欄第16行?第19行)
ウ.「本発明において、蒸発管に溶射する材料はNi-Cr合金であり、好ましくは18Cr以上のNi-Cr合金が使用され、特に50Ni-50Cr合金を使用することが推奨される。」(第2頁左上欄第20行?右上欄第3行)

上記記載事項及び図面の記載内容からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。

「ボイラの蒸発管の表面に、Ni-Cr合金を3層以上溶射して被膜を設けたボイラ燃焼室蒸発管。」

(2)同じく、原査定の拒絶の理由に示された特開昭62-265391号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「第1図に本発明の酸化鉄を水スラリとしてボイラ燃料中へ添加し、燃料の燃焼と共にボイラ炉内へ分散させた例を示す。」(第5頁右下欄下から第8行?第6行)
イ.「試験条件
・供試ボイラ:蒸発量 600t/h
・燃 料 :市販C重油(S:2.5%,V:30ppm,Na:20ppm)
・注入した酸化鉄
(A) 本発明の超微粒板状酸化鉄(以下A酸化鉄粒子)
(B) 本発明の超微粒環状酸化鉄(以下B酸化鉄粒子)
(C) 市販の超微粒針状酸化鉄(以下C酸化鉄粒子)
(D) 無注入
・性能比較項目
(1) 空気予熱器5出口排ガス中のばいじん量とその中に含まれている未燃炭素量(審決注:(1)は、原文では○数字。)
(2) 電気集じん装置の効率(審決注:(2)は、原文では○数字。)
(3) 空気予熱器5入口の位置における排ガス中のSO3量、NOx量(審決注:(3)は、原文では○数字。)」(第6頁右上欄第7行?左下欄第1行)
ウ.「第4表は、上記の試験結果を無注入時の測定値を100としてその比で示したものである。・・・(中略)・・・
酸化鉄の注入によって、ばいじん量及びばいじん中の未燃炭素分が減少しこれに伴って、集じん効率が向上しているのが見られる。・・・(中略)・・・SO3 ,NOxの低下は注入した酸化鉄が燃焼炉壁管に付着して、その輻射吸収率を高め、燃焼領域の最高温度を低くしたことによって活性化された酸素の発生量が低下し、SO2 →SO3への酸化及びサーマルNOxの発生を抑制したものと思われる。」(第6頁左下欄第2行?第19行)
エ.「第7表は6カ月間に亘って、供試添加剤を注入した場合の結果を示したものである。Mg(OH)2 のみの注入では伝熱管上のデポジットの融点は確実に上昇して、デポジット中に含まれているS,V,Na 化合物の腐食性を抑制しているが、注入期間が長くなると排ガス中のNOx量が増加する欠点がある。この原因は白色のMgO{Mg(OH)2 が加熱されてMgO となる}が火壁管表面を覆って白色炉壁管となるため、輻射吸収熱が減少してその分燃焼領域が高温状態を維持する結果、サーマルNOxの発生が増加したためである。
これに対し、酸化鉄を含ませておくと、MgOによる白色化が抑制され、前記現象が抑制されている。」(第8頁左下欄第17行?右下欄第10行)

(3)同じく、原査定の拒絶の理由に示された特開平7-4606号公報(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア.「【産業上の利用分野】本発明は、ボイラの火炉内での蒸発管(水管)壁における熱反射を抑制することにより、蒸発管の熱吸収率を向上させる方法に関する。」(段落【0001】)
イ.「ボイラの燃料としては、重油、石炭等の化石燃料を用いたり、化石燃料に石油精製時とその他の石油化学製品の生産の際に発生する副生ガスまたは副生液体燃料を併用したりするが、それらの燃料が燃焼すると副生ガスまたは副生液体燃料中に含まれているSi、Al、Mg、Na等が酸化されてSiO2、Al2O3、MgO、Na2O等の不燃性の白色系物質が形成され、蒸発管5の壁に付着堆積する。そのため、蒸発管5の壁が輻射熱を反射し、蒸発管5の熱吸収率が低下し、蒸気発生能力が低下する。例えば、重油あるいは原油を燃料とした場合の付着灰の熱反射率は、可視波長域の700nmの輻射熱については約18%で、近赤外線域の1600?2500nmの輻射熱については19?21%であるのに対して、白色系付着物形成性物質を含む燃料を用いた場合の付着灰の熱反射率は700nmの輻射熱について25?43%、1600?2500nmについて44?70%に増大するという測定結果がある。」(段落【0004】)
ウ.「また輻射熱が反射されるため火炉4内の温度が上昇するので、過熱器6内でのガスと蒸気の温度が過度に上昇し、また排気ガスの温度も上昇する。・・・(中略)・・・さらに、火炉内のガス温度が上昇することによって窒素と酸素の反応が活発となり、大気汚染の原因となるNOxも増加する。」(段落【0005】?【0006】)
エ.「【課題を解決するための手段】本発明者は、蒸発管の熱吸収率の低下を防ぐためには管壁上の付着灰を黒色にすればよく、そのためには着火点の高い特定の黒色物質を火炉内に添入すれば安定した付着灰が形成されることを見いだし、本発明に想到した。
すなわち、上記課題を達成する本発明の方法は、不燃性白色系付着物形成性物質を含有する燃料を用いるボイラにおいて、火炉内に黒鉛粒子及び/又は炭化ケイ素粒子を添入することにより、燃料が燃焼して生じる蒸発管壁上への付着灰を黒色化せしめ、それによって火炉内で輻射熱に対する前記蒸発管壁の熱反射を抑制し、排気ガスの温度の上昇を防止することを特徴とする。」(段落【0014】?【0015】)
オ.「上記手段により火炉内で輻射熱に対する前記蒸発管壁の反射を抑制することによって、火炉4内の温度の上昇が防止され、過熱器6内でのガスと蒸気の温度は過度には上昇せず、また排気ガスの温度の上昇も防止される。そのため過熱器6、節炭器1、空気予熱器8等の材質の劣化が防止され、またタービンの腐食も起きにくく長期の安定した運転が保証される。」(段落【0017】)
カ.「黒鉛粒子と炭化ケイ素粒子の火炉への添入方法は、それらを粉体の形で燃焼用空気の中に混入するか、あるいは水または鉱物油(軽油、A重油、モーター油、スピンドル油等)中に混入したスラリーの状態にして燃料配管、燃焼用空気または火炉の中にポンプを用いて混入させる。」(段落【0023】)
キ.「各仕様のボイラにおいて蒸発管壁上の付着灰を黒色化させる添加剤として、黒鉛単独、炭化ケイ素(SiC)単独、および黒鉛と炭化ケイ素の両者を火炉内に添入したときの結果を、添加剤を用いないときの結果とともに比較した」(段落【0025】)
ク.「【発明の効果】以上説明した通り、本発明によれば、火炉内で輻射熱に対する蒸発管壁の反射が抑制される。それによって蒸発管の熱吸収率が向上し、ボイラの蒸気発生能力が向上する。また火炉内の温度の上昇が防止され、過熱器内でのガスと蒸気の温度は過度には上昇せず、また排気ガスの温度の上昇も防止される。そのため過熱器、節炭器、空気予熱器等の材質の劣化が防止され、またタービンの腐食も起きにくく、長期の安定した運転が保証される。」(段落【0032】)

3.対比
本願発明と刊行物1に記載された発明を対比する。
刊行物1に記載された発明における「ボイラの蒸発管」は、本願発明における「ボイラの燃焼室蒸発管」に相当する。また、刊行物1に記載された発明における「Ni-Cr合金を3層以上溶射した被膜」は、可視光線を含む主として赤外線の反射率が高く、輻射熱の吸収の悪い白色、銀色を主とする金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜といえる。
したがって、両者は、次の一致点及び相違点を有する。

[一致点]
「ボイラの燃焼室蒸発管の表面に、可視光線を含む主として赤外線の反射率が高く、輻射熱の吸収の悪い白色,銀色を主とする金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜を設けたボイラ燃焼室蒸発管。」

[相違点]
本願発明では、金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜の表面に、鉄,ニッケル,マンガン,バナジウム,クロム,チタン,炭素などを含む酸化物、硫酸塩、硫化物、炭酸塩、窒化物、炭化物などから選ばれる1種以上の白色、銀色を除く無彩色ならびに有彩色からなる化合物を主成分とする無機物の着色化合物を塗布、噴霧もしくは溶射することによって得られる、厚み1μm以上の着色皮膜を使用に先立って予め設けてなるのに対し、刊行物1に記載された発明では、金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜の表面に着色皮膜を有するものではない点。


4.当審の判断
上記相違点について検討する。

刊行物2には、燃焼炉壁管が白色炉壁管であると、輻射吸収熱が減少してその分燃焼領域が高温状態を維持する結果、サーマルNOxの発生が増加するのに対して、超微粒酸化鉄を水スラリ又はオイルスラリとして燃料に混入してボイラで燃焼させると、超微粒酸化鉄が燃焼炉壁管に付着し、燃焼炉壁管の輻射吸収率が高まり、燃焼領域の最高温度が低くなることによって活性化された酸素の発生量が低下し、サーマルNOxの発生を抑制することができる、という技術的事項が記載されている。この「超微粒酸化鉄」は、鉄の酸化物であって、本願発明でいう「白色、銀色を除く無彩色ならびに有彩色からなる化合物を主成分とする無機物の着色化合物」に相当する。
また、刊行物3には、蒸発管式ボイラにおいて、黒鉛粒子単独、炭化ケイ素粒子単独、又は黒鉛粒子と炭化ケイ素粒子の両者を、火炉内に添入することにより、蒸発管壁上への付着灰を黒色化せしめて輻射熱に対する蒸発管壁の熱反射を抑制し、排気ガスの温度の上昇を防止する、という技術的事項が記載されている。この「黒鉛粒子単独、炭化ケイ素粒子単独、又は黒鉛粒子と炭化ケイ素粒子の両者」は、炭素そのもの、或いは炭化物であって、これも、本願発明でいう「白色、銀色を除く無彩色ならびに有彩色からなる化合物を主成分とする無機物の着色化合物」に相当する。なお、刊行物3には、「火炉内のガス温度が上昇することによって窒素と酸素の反応が活発となり、大気汚染の原因となるNOxも増加する。」ということも記載されている。
これら刊行物2及び刊行物3に記載された技術的事項から、超微粒酸化鉄、又は、黒鉛粒子単独、炭化ケイ素粒子単独、若しくは、黒鉛粒子と炭化ケイ素粒子の両者、すなわち本願発明でいう「無機物の着色化合物」を、ボイラの燃焼室蒸発管の表面に付着させることにより、当該蒸発管の輻射熱の吸収率を高め、燃焼ガスの温度を低下させ、サーマルNOxの発生を抑制できることが示唆されているといえる。
そして、そのように無機物の着色化合物をボイラの燃焼室蒸発管の表面に付着させようとした場合に、ボイラの使用に先だって予め付着させておくことは、当業者が当然想起し得た技術的事項である。
そうしてみると、刊行物1に記載された発明において、ボイラの燃焼室蒸発管の表面に設けた、可視光線を含む主として赤外線の反射率が高く、輻射熱の吸収の悪い白色,銀色を主とする金属色の白色系金属質の耐熱・耐食性溶射皮膜の表面に、ボイラの使用に先だって無機物の着色化合物を予め付着させておくことは、当業者が容易に着想し得たことである。そして、ボイラの燃焼室蒸発管の表面にそのように無機物の着色化合物を付着させようとした際に、塗布、噴霧もしくは溶射という手段は、当業者が適宜採用し得たものにすぎない。
また、そのように無機物の着色化合物をボイラの燃焼室蒸発管の表面に塗布、噴霧もしくは溶射することでボイラの使用に先だって予め付着させれば、ボイラーの運転直後から蒸発管の輻射吸収率が高まりサーマルNOxの発生を抑制できることは、当業者にとって自明な技術的事項である。

さらに、本願発明で着色皮膜の厚みを「1μm以上」とした点についても、当業者が輻射熱の吸収の観点から適宜選定し得た厚みというべきであって、本願発明のそのような数値限定に、格別の技術的な意義が見いだせるものでもない。

以上からすると、刊行物1に記載された発明において、上記相違点でいう本願発明の構成を採用することは、刊行物2及び刊行物3に記載された技術的事項を考慮すると、当業者が容易に想到し得たことである。
しかも、本願発明の構成により、刊行物1に記載された発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された技術的事項からみて格別顕著な効果が奏されるということもできない。


5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1に記載された発明並びに刊行物2及び刊行物3に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-13 
結審通知日 2006-11-21 
審決日 2006-12-04 
出願番号 特願2000-239825(P2000-239825)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F22B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男豊島 唯  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 長浜 義憲
佐野 遵
発明の名称 ボイラ燃焼室蒸発管とボイラの運転方法  
代理人 小川 順三  
代理人 中村 盛夫  

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