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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1151193
審判番号 不服2002-18352  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-08-08 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-09-20 
確定日 2007-01-17 
事件の表示 平成10年特許願第534060号「分断されたNPY Y1受容体遺伝子を有するトランスジェニック動物」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 7月23日国際公開、WO98/31707、平成12年 8月 8日国内公表、特表2000-510001〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成10年1月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1997年1月16日、米国)とする出願であって、その請求項16に係る発明は、平成14年1月28日付手続補正書の、特許請求の範囲の請求項16に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「ヒト以外のトランスジェニック動物であって、該動物中におけるNPY Y1受容体の実質的不存在(トランスジェニック動物でない場合には本来的に存在する)により特徴づけられる表現型を有するトランスジェニック動物。」(以下、「本件発明」という。)
2.引用例
原査定の拒絶の理由に刊行物2として引用された本件優先日前の1995年1月26日に頒布された刊行物である特表平7-500732号公報(以下、「引用例2」という。)には、ヒトNPY Y1受容体(以下、「Y1受容体」という。)をコードするcDNA配列を、対応するラットcDNAをプローブとして、ヒト胎児の脳cDNAライブラリー及びヒト成人の海馬cDNAライブラリーから単離してその配列を決定したこと(第4頁左上欄第1?28行)、そして、そのヒトcDNAをプローブとしてヒトゲノムライブラリーをスクリーニングして、ヒトY1受容体のゲノムDNAを単離してその配列を決定したこと(第5頁右下欄第3?14行)及び該ヒトY1受容体ゲノムDNA配列(第6頁表2/1?2/4)が記載され、ヒトY1受容体のコード配列は、第2エクソンと第3エクソン中にあること(第5頁右下欄下から第5行?下から第1行)が記載されている。
3.対比・判断
本件発明は、Y1受容体遺伝子をノックアウトした、ヒト以外のノックアウト動物に係るものである。
これに対して、引用例2にはヒトのY1受容体ゲノムDNA配列は記載されているものの、ヒト以外の動物、例えばラット、マウスのY1受容体ゲノムDNA配列及びそのY1受容体遺伝子をノックアウトしたノックアウト動物については記載されていない。
ところで、遺伝子の機能解析のための手段として、まずその遺伝子のノックアウト動物を作製してみることは、本件優先日前既に常套手段(必要があれば、実験医学(1992)Vol.10,No.13,p.134-139参照。)であって、その手法も、相同組換えによるジーンターゲッティング方法を用いることにより、既にルーティンワークであったといえる。
さらに、引用例2に記載のY1受容体はG蛋白結合受容体ファミリーに属することが既に知られており、G蛋白結合受容体の機能解明のために該受容体遺伝子のノックアウト動物を作製することは、該受容体遺伝子を過剰発現するトランスジェニック動物を作製すること、アンチセンスヌクレオチドを用いることと並んで、本件優先日前汎用されていた手段(必要があれば、Physiological Reviews(Jan.1998)Vol.78,No.1p.35-52)であったので、このような本件優先日前の技術水準の下で引用例2に接した当業者は、Y1受容体遺伝子のノックアウト動物を作製しようとすることは極めて自然な発想である。
このことは、原査定の拒絶の理由に刊行物1として引用された本件優先日前の1995年8月10日に頒布された刊行物である国際公開第95/21245号パンフレット(以下、「引用例1」という。)において、ヒト海馬cDNAライブラリから、ヒトNPY Y2受容体(以下、「Y2受容体」という。)cDNAを単離し、このcDNAの一部をプローブとして、ヒトゲノムライブラリーからヒトY2受容体のゲノムDNAを単離したこと(第48頁第29行?第50頁第25行)、及びこのヒトゲノムDNAの一部をプローブとしてラットゲノムDNAライブラリーから、ラットY2受容体のゲノムDNAを単離したこと(第50頁第27行?第53頁第33行)が記載され、さらにラットY2受容体遺伝子を相同組換えにより破壊して、ノックアウト動物を作製すること(第39頁第27?31行)が記載されていることからもうかがえる。
一方、本件優先日前、既にY1受容体については様々な知見が知られており、例えば、結合するリガンドはNPYだけではなく他にPYYとPPがあり、特にPYYはNPYと同程度の高い結合親和性を有すること、Y1受容体にはG蛋白結合受容体の特徴である7つの膜貫通ドメインが存在し、Y1受容体はG蛋白結合受容体ファミリーに属すること、NPYの、血管収縮による動脈血圧の調節作用、食物摂取の亢進作用及びホルモン分泌の調節作用は、Y1受容体により仲介されること(必要であれば、The Journal of Biological Chemistry(1993)Vol.268,No.9,p.6703-6707参照。)等であり、マウス、ラット及びヒトのY1受容体のcDNA配列も本件優先日前既に周知であった。
そして、Y1受容体の主要なリガンドであり、体温調節、エネルギーバランス等の多種多様な生理学的プロセスに関与しているNPYの遺伝子を破壊したノックアウトマウスでさえも生存可能であるということが本件優先日前既に周知の事柄(必要があれば、Nature(1996)Vol.381,p.415-418,Science(1996)Vol.274,p.1704-1707参照。)であり、もう1つのY1受容体の主要なリガンドであるPYYはNPYに比べると、その発現場所も作用も消化器系のホルモン様作用に限定されていることから、NPYの遺伝子のノックアウトマウスが生存可能であった以上、そのNPY及びPYYの受容体の1つにすぎないY1受容体遺伝子を破壊したノックアウトマウスであっても生育できることは予測できたことであり、Y1受容体の遺伝子のノックアウト動物を作製しようとは思いもよらないような阻害要因があったということはできない。むしろ上述のように、G蛋白結合受容体ファミリーに属する受容体であり、積極的にノックアウトして機能を解明しようと試みるのが自然であるといえる。
その際、ラットY1受容体のcDNAをプローブとしてヒトcDNAライブラリーから単離したヒトY1受容体cDNAをプローブとして、ヒトゲノムライブラリをスクリーニングして、ヒトY1受容体のゲノムDNAを単離して配列を決定した引用例2の記載から、逆にラットY1受容体cDNAをプローブとして用いて、ラットゲノムライブラリーからラットY1受容体ゲノムDNAを単離して、ラットゲノムDNAのヌクレオチド配列を決定し、本件優先日前のノックアウト動物の周知の作成法であるジーンターゲティング法を用いてY1受容体を発現しないノックアウトラットを作成することは、上述の如く当業者であれば困難なくなし得たことであり、さらに、ノックアウトマウスについても、本件優先日前周知のマウスY1受容体cDNAをプローブとして用いてマウスY1受容体ゲノムDNAをクローニングして、同様にジーンターゲティング法により作成することも困難なくなし得たことである。
一方本件明細書では、本件発明に係るY1受容体遺伝子のノックアウトマウスについて、NPYを投与しても高血圧応答にならないこと及び食物摂取の減少が観察されたことが記載されているのみであって、これらの現象は上述した本件優先日前のY1受容体に関する知見から予測できる範囲のものであり、少なくとも本件明細書の記載からは、本件発明において引用例2及び引用例1の記載から予測できない程の効果が奏せられたものと認めることはできない。
したがって、本件発明は引用例2及び引用例1の記載、及び上記周知の技術的事項から当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.むすび
以上のとおりであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-08-15 
結審通知日 2006-08-22 
審決日 2006-09-05 
出願番号 特願平10-534060
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 本間 夏子  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 鈴木 恵理子
長井 啓子
発明の名称 分断されたNPY Y1受容体遺伝子を有するトランスジェニック動物  
代理人 青山 葆  
代理人 田中 光雄  

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