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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1151248
審判番号 不服2003-21147  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-03-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-30 
確定日 2007-01-19 
事件の表示 平成 7年特許願第518951号「多層積層体および用途」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年 1月18日国際公開、WO96/01184〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、1995年 7月 4日(優先権主張1994年 7月 5日、日本国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成14年12月24日付け手続補正書によって補正された請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。
「(1)(A)(a-1)下記式[1]または[2]で表される環状オレフィンとエチレンとの共重合体からなる軟化温度(TMA)50?180℃のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体、および、
(a-2)前記エチレン・環状オレフィンランダム共重合体(a-1)の軟化温度(TMA)50?180℃のグラフト変性物よりなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン系樹脂から形成された層、
または、
前記(a-1)エチレン・環状オレフィンランダム共重合体および(a-2)グラフト変性物よりなる群から選ばれる少なくとも一種の環状オレフィン系樹脂と(b)ポリオレフィンとからなる環状オレフィン系樹脂組成物から形成された層と、
(B)エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルおよびセロファンから選ばれる重合体から形成された層であって、23℃、RH0%で測定した酸素透過率が、10cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下の重合体層とを有する多層積層体であり、
そして、該多層積層体の透湿係数が0.2g・mm/m2・24Hr・atm以下であり、かつ酸素透過率が5cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下であることを特徴とする多層積層体;

[式[1]において、nは0または1であり、mは0または正の整数であり、qは0または1であり、R1?Rl8ならびにRaおよびRbは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子または基を表し、R15?R18は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつこの単環または多環は二重結合を有していてもよく、また、R15とR16とで、またはRl7とRl8とでアルキリデン基を形成していてもよい。ここでqが0の場合には、それぞれの結合手が結合して5員環を形成する];

[式[2]において、mは0または正の整数であり、hは0または正の整数であり、jおよびkは0、1または2であり、R7?R15およびR17?Rl8は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子および炭化水素基よりなる群から選ばれる原子または基を表し、R19?R27は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭化水素基およびアルコキシ基からなる群から選ばれる原子または基を表す]。」

2.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成 2年 8月 3日に頒布された特開平2-196832号公報(以下、「引用例1」という)、及び同じく平成 5年11月 9日に頒布された特開平5-293159号公報(以下、「引用例2」という)には、次のとおり記載されている。
(1)引用例1の記載事項
1a.「(1)135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.01?10dl/g、軟化温度(TMA)が70℃以上である
〔A〕エチレン成分と、下記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィン成分とからなる環状オレフィン系ランダム共重合体、または
〔B〕下記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィンから選ばれる1種以上のオレフィン成分からなる開環重合体もしくはこの水素化物
を2軸延伸したことを特徴とする環状オレフィン系重合体シートまたはフィルム。

〔式中、R1?R12は水素原子、炭化水素基またはハロゲン原子であって、それぞれ同一でも異なつていてもよい。またR9とR10、またはR11とR12とは一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、R9またはR10とR11またはR12とは互いに環を形成していてもよい。nは0または正の整数であって、R5?R8が複数回繰り返される場合には、これらはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。〕」(特許請求の範囲)
1b.「R9またはR10とR11またはR12とから形成される環は単環でも縮合多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、不飽和結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組合せからなる環であってもよい。このような環として具体的には、例えば
・・・



・・・などをあげることができる。・・・なお上記化学式において1または2を付した炭素原子は前記一般式(1)においてR9?R12が結合している炭素原子を表わしている。」(第3頁左上欄9行?右上欄6行)
1c.「本発明で使用する環状オレフィン系ランダム共重合体〔A〕の・・・、サーモ・メカニカル・アナライザーで測定した軟化温度(TMA)は70℃以上、好ましくは90?250℃、さらに好ましくは100?200℃の範囲である。」(第7頁左上欄10?16行)
1d.「本発明で使用する環状オレフィン系ランダム共重合体〔A〕は、エチレン成分および前記環状オレフィン成分を必須成分とするものであるが、これらの必須の2成分の他に本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能な不飽和単量体成分を含有していてもよい。任意に共重合されていてもよい不飽和単量体として具体的には、例えば・・・環状オレフィン、・・・を例示することができる。」(第6頁右下欄1?16行)
1e.「本発明で使用する環状オレフィン系ランダム共重合体〔A〕は、エチレン成分、前記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィン成分および必要により共重合される他のモノマー成分を、周知のチーグラー系触媒の存在下に重合することにより製造することができる。
上記チーグラー系触媒としては、例えば・・・。・・・特に可溶性バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなる触媒が好ましい。」(第7頁右上欄9行?左下欄2行)
1f.「環状オレフィン系ランダム共重合体〔A〕を製造する方法において、触媒構成成分として使用される可溶性バナジウム化合物は・・・より具体的にはVOCl3、VO(OC2H5)Cl2、・・・などを例示することができる。」(第7頁左下欄7行?右下欄1行)
1g.「・・・有機アルミニウム化合物において、より具体的には・・・エチルアルミニウムセスキクロリド、・・・などを例示できる。」(第8頁左上欄14行?左下欄4行)
1h.「本発明の環状オレフィン系重合体フィルムまたはシートは透明性に優れ、強度が高く、防湿性、加熱収縮性にも優れていることから、包装材料としての使用は勿論のこと・・・などの用途に使用できる。
上記の包装材料としては、具体的には米菓、スナック、クツキー等の吸湿性食品、タバコ、ティーバッグの包装、薬剤のPTP包装などに使用できる。当然のことながら機能を向上させるため、塩化ビニリデンなどのコートまたは他の樹脂フィルムと積層して積層フィルムとして使用することもできる。」(第10頁左下欄3?17行)
(2)引用例2の記載事項
2a.「環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素系化合物を重合体成分とする樹脂を含有する材料からなる衛生品用容器」(請求項1)
2b.「容器表面に1以上の積層を有してなる衛生品用容器において、該積層の少なくとも1層が前記環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素化合物を重合体成分として含有する樹脂を含有する材料からなる請求項1記載の衛生品用容器。」(請求項8)
2c.「前記環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素系化合物を重合体成分とする樹脂を含有する材料を、ガラス製容器、金属製容器又はプラスチック製容器の内面に積層してなる請求項8記載の衛生品用容器。」(請求項9)
2d.「・・・
トリシクロ〔4,3,0,12,5〕-3,8-デセテン(3,8ジヒドロ-ジシクロペンタジエンとも称する)、

・・・
テトラシクロ〔4,4,0,12,5,17,10〕-3-ドデセン、

・・・」(段落【0017】)
2e.「より具体的には大別して下記の3つの方法を利用できる。
(1)シクロペンタジエン類と対応するオレフィン類又は環式オレフィン類とを、付加環化反応(ディールス・アルダー反応、・・・)することにより、架橋環式炭化水素モノマーを得て、該モノマーを溶媒中でアルミニウム、アルキルアルミニウム化合物、バナジウム系化合物、タングステン系化合物、ホウ素系化合物を触媒として重合して樹脂状物とし、該樹脂を精製して架橋環式炭化水素樹脂を得る方法。
(1)本発明の環状樹脂の重合体成分とする素材モノマー、例えば低級アルキルシクロアルケン化合物、シクロアルカジエン系化合物、架橋多環式アルカジエン化合物、架橋多環式アルケン化合物等を、溶媒中で、触媒としてバナジウム,アルミニウム,タングステン,ホウ素化合物などを使用して重合反応を行い、高分子量樹脂状物とする。次に、該樹脂状物をニッケル,白金触媒等で水素添加して本発明の環状樹脂とする方法。
・・・」(段落【0020】)
2f.「前記したいずれの重合方法によるとも、本発明の環状樹脂体中に、重合成分としたモノマー、低分子量オリゴマー、金属触媒等が存在することは、臭気の発生及び衛生的性質の低下の点で好ましくない。従って、本発明に用いる環状樹脂としては、その軟化点が130℃以上(ASTM D 1525)を満足する樹脂であることが好ましい。更に、該環状樹脂は臭素価(JIS K 2543)1以下であることが、好ましい。環状樹脂の臭素価が1を越えると、衛生的な衛生品用容器に着色、変色が起こる。・・・」(段落【0021】)
2g.「【実施例】以下に本発明に係る環状樹脂の合成方法、該樹脂または樹脂組成物を用いた本発明の衛生品用容器の製造を具体的に説明するが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
環状樹脂の合成例1:DCP重合体・・・トリシクロ〔4,3,0,12,5〕-3,8-デセン(DCP)・・・」(段落【0035】)
2h.「環状樹脂の合成例2:DCP-エチレン共重合体 10リットルの反応容器に攪拌機、滴下ロートを付け、精製、脱水したトルエン5リットルを入れ、次に精製、脱水したDCP350gを入れ、温度を3℃以下に保ち、触媒としてエチレンアルミニウムセスキクロリド105gとジクロロエトキシオキソバナジウム110gを、乾燥したエチレンと窒素ガス(1:2)の混合ガスを通じながら滴下、温度20℃、攪拌下に上記混合ガスを2時間通じて重合を行なう。次にメタノール30mlで共重合を停止し、メタノール中にて共重合体を析出し、アセトンで洗浄し、真空低温乾燥を行い、共重合体312gを得た。次に5リットルの攪拌機付きオートクレーブに上記で得た共重合体を10重量%シクロヘキサン溶液として加え、パラジウムカーボン25gを入れ、反応器内を水素ガス置換後、攪拌しつつ120℃に昇温した。次に同温度で水素圧70気圧に昇圧し、同圧に水素を補充しながら10時間水素添加を行なう。次に遠心分離で触媒を除去し、多量のアセトン-イソプロピルアルコール(1:1)混合溶媒中に沈殿させ、濾過し、共重合体100重量部に対し老化防止剤BHTを0.6重量部加え、真空乾燥し、樹脂〔以下樹脂(b)と呼ぶ〕300gを得た。該樹脂(b)の軟化点は146℃、臭素価0.1であった。」(段落【0036】)
2i.「環状樹脂の合成例3:架橋多環式炭化水素と単環オレフィンの共重合体・・・エチルアルミニウムセスキクロリド・・・ジクロロエトキシオキソバナジウム・・・」(段落【0037】)
2j.「環状樹脂の合成例4・・・ジクロロエトキシオキソバナジウム・・・エチルアルミニウムセスキクロライド・・・」(段落【0038】)
2k.「環状樹脂の合成例7 10リットルの攪拌機付反応容器に、精製、脱水したトルエン5リットルを仕込み、窒素ガス雰囲気下に精製したテトラシクロ〔4,4,0,12,5,17,10〕-3-ドデセン152g、メチルシクロヘキセン19gを入れ、次にエチルアルミニウムセスキクロリド18g、バナジウムオキシトリクロリド11gを温度5℃以下で混合する。次にガス吹込管より乾燥したエチレン:窒素ガス=1:2の混合ガスを流しつつ昇温して10℃にし、同混合ガス15リットルを1時間費やして流して重合反応を行なう。次にメタノール50mlを加えて反応を停止し、更に多量のメタノールで樹脂を析出し、アセトン・イソプロピルアルコール(1:1)混合溶媒で洗浄して重合体100重量部にイルガノックス1070(商品名)0.3重量部を加えた。得られた樹脂(g)は臭素価0.5、軟化点152℃以上であった。」(段落【0041】)
2l.「実施例13?19:輸液用容器 本発明の樹脂を押出機にて、スクリュー内にて加熱、可塑化し、ダイスに押し出すと共に、数本のロールを通してフィルムとする(Tダイ法という)。また、表6に示す別の樹脂を同様なTダイ法によりフィルムにし、その両フィルムが冷却する以前に両樹脂フィルムをロールを通して積層したフィルムとする。・・・また、市販の樹脂フィルムについても同様な工程にて積層フィルムにした。なお、積層したフィルムの厚さは合計で約0.2mmとした。次に製造したフィルムを高周波加熱融着にて図3の(a)に概略断面を示し、(b)に積層部分の拡大図を示すような、柔軟なる輸液用容器を製造する。なお、熱溶着部10は混合樹脂及び/又は接着剤からなることを意味する。積層した各樹脂名とその性質を表6に示す。評価は◎:優(0.5以下)、○:良(1以下)、△:可(1以上)、×:不可(5以上)である。」(段落【0051】)
2m.段落【0052】の【表6】には、「実施例14」として、「本発明の樹脂(内層)」の欄に「(b)+(g) 3:1」と、「積層する他の樹脂(外層)」の欄に「EVA3)」、「接着剤」の欄に「なし」と、並びに、「積層物の性質1)」の「酸素透過性」の欄に「○」、及び「水蒸気透過性」の欄に「○」と、それぞれ記載されている。
2n.「表6の詳細は以下の通りである。
1)酸素透過性:ASTM-D1434-58法、二連式ガスcc/m2・day.atm.、水蒸気透過性:JIS-Z-0208に準拠、40℃、90%RH、カップ法による重量増加より測定、g/m2・day.、
・・・
3)ソアノールE(SoarnolE)(商品名)、日本合成化学工業(株)製、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化樹脂、
・・・」(段落【0053】)
2o.「なお、本輸液用容器に注射用食塩水を入れて高圧蒸気殺菌(温度115?120℃で30分間)処理を行なったが、何れの実施例の容器にも溶着、変形、白化などの異常は認められない。・・・なお、積層樹脂の厚さを厚くし、アルミニウムフィルムを接着すると、PTP(Press Through Pack)用にも適用できる。」(段落【0055】)

3.当審の判断
3-1.引用例1発明について
引用例1には、上記摘示1a.のとおり、「〔A〕エチレン成分と、下記一般式〔I〕で表わされる環状オレフィン成分(以下、これを単に「環状オレフィン[I]」という。)とからなる環状オレフィン系ランダム共重合体」が記載され、前記〔A〕成分の「軟化温度(TMA)が70℃以上である」ことが記載されている。該「軟化温度(TMA)」に関しては、上記摘示1c.のとおり、「サーモ・メカニカル・アナライザーで測定した軟化温度(TMA)は70℃以上、好ましくは90?250℃、さらに好ましくは100?200℃の範囲」であると記載されている。
更に、上記摘示1h.のとおり、「本発明の環状オレフィン系重合体フィルムまたはシート」を「塩化ビニリデンなどのコートまたは他の樹脂フィルムと積層して積層フィルムとして使用する」ことが記載されている。
したがって、引用例1には、「〔A〕エチレン成分と、環状オレフィン[I]」とからなる軟化温度(TMA)が70℃以上である環状オレフィン系ランダム共重合体層に、塩化ビニリデンなどのコートまたは他の樹脂フィルムとを積層した積層フィルム」の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されている。
そこで、本願発明(前者)と引用例1発明(後者)とを対比する。
引用例1に記載の上記環状オレフィン[I]は、その構造からみて、本願発明に係る上記「式[1]」で表される「環状オレフィン」であって、「n」が0である場合のものに相当するから、両者は、環状オレフィン[I]とエチレンとの共重合体からなる軟化温度(TMA)70?180℃のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体からなる層と、他の樹脂から形成された層とを積層した多層積層体の点において、一致し、下記の点で相違している。
相違点1:エチレン・環状オレフィンランダム共重合体からなる層と積層する層が、前者においては、「(B)エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリルおよびセロファンから選ばれる重合体から形成された層であって、23℃、RH0%で測定した酸素透過率が、10cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下の重合体層」(以下、単に「(B)層」という。)であるのに対し、後者においては、塩化ビニリデンなどのコートまたは他の樹脂フィルムである点、並びに、
相違点2:多層積層体が、前者では、「透湿係数が0.2g・mm/m2・24Hr・atm以下であり、かつ酸素透過率が5cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下」であるのに対し、後者では、多層積層体の透湿係数、酸素透過率について何ら記載するところがない点。

3-2.当審の判断
(1-1)上記相違点1について
引用例2には、上記摘示2a.ないし摘示2c.によれば、「環状オレフィン系化合物又は架橋多環式炭化水素系化合物を重合体成分とする樹脂を含有する材料をプラスチック製容器の内面に積層してなる衛生品用容器」が記載されているものと認められる。
また、上記摘示2e.によれば、環状オレフィン系化合物から架橋環式炭化水素樹脂を得る、即ち付加重合体を得る方法、及び、環状オレフィン系化合物の開環重合体の水素添加物を得る方法が記載されているものと認められる。
[環状樹脂の合成例2:DCP-エチレン共重合体]について、
上記摘示2h.のとおり、概略、触媒として「エチレンアルミニウムセスキクロリド」及び「ジクロロエトキシオキソバナジウム」を用いて、エチレンと「DCP」とを共重合すること、得られた共重合体に水素添加を行なうことにより、「樹脂(b)」を得たこと、及び、「該樹脂(b)の軟化点は146℃、臭素価0.1であった」ことが記載されている。
上記「DCP」は、上記摘示2d.によれば、「トリシクロ〔4,3,0,12,5〕-3,8-デセン」であり、その化学構造は、上記摘示2d.【化13】であるから、引用例1に記載の「一般式〔I〕」において、「n」が0であって、「R9またはR10とR11またはR12とから形成される環」が、上記摘示1b.に具体的に例示されているシクロペンテン環である場合の環状オレフィン[I]」に該当する。
また、本願発明についてみても、本願の願書に添付した明細書(以下、「本願明細書」という)には、「下記式[1]・・・で表される環状オレフィン」に関し、「式[1]において、・・・、R15?R18は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよく、かつこの単環または多環は二重結合を有していてもよく、・・・」と式[I]で表される環状オレフィンが定義されており、本願明細書の第9頁には、前記「単環」としてシクロペンテン環が具体的に例示されているから、上記DCPは、前記「環状オレフィン[I]」に包含されるものである。
次に、上記摘示2i.ないし摘示2k.の記載によれば、上記「エチレンアルミニウムセスキクロリド」は、「エチルアルミニウムセスキクロリド」の誤記と認められ、また、上記「ジクロロエトキシオキソバナジウム」は、「VO(OC2H5)Cl2」であると認められる。
そして、引用例1の上記摘示1e.の記載によれば、「エチルアルミニウムセスキクロリド」及び「VO(OC2H5)Cl2」が、チーグラー系触媒を構成していることは自明である。
したがって、チーグラー系触媒を用いる当該合成例において、エチレンと「DCP」とは付加重合してランダム共重合体が得られていることは明らかである。
一方、上記摘示2f.の「該環状樹脂は臭素価(JIS K 2543)1以下であることが、好ましい。環状樹脂の臭素価が1を越えると、衛生的な衛生品用容器に着色、変色が起こる」との記載によれば、上記「臭素価」は、ヨウ素価と同様に、油脂等に含まれる炭素-炭素二重結合(不飽和結合)の量の指標であることは当業者に周知の技術的事項であるから、実質上、「環状樹脂」に含まれる炭素-炭素二重結合の量が多いと容器の「着色、変色」が起きるので、臭素価が1以下となるように炭素-炭素二重結合の量を低減させることが好ましい旨記載していると解される。
よって、当該合成例においては、上記理由に基づいて、環内炭素-炭素二重結合を有するランダム共重合体に水素添加して、「臭素価0.1」の「樹脂(b)」を得ているものと認められる。
ところで、引用例1のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体とは、具体的には「DCP」とエチレンとの共重合によりシクロペンテン環に由来する環内炭素-炭素二重結合を有する共重合体であって、その水素添加物を用いることに関し、具体的には何も記載されていない。
しかしながら、環内炭素-炭素二重結合の存在によりフィルム、シート等の透明性が損なわれるという問題が生じることは、上記摘示2f.のとおりであり、当業者が容易に理解し予想できることと認められるから、前記環内炭素-炭素二重結合を含有する共重合体の場合には、更に水素添加した後に使用に供することにより透明性を確保すべきことは極めて当然であって、上記摘示1h.のとおり、「本発明の環状オレフィン系重合体フィルムまたはシートは透明性に優れ」と記載されていることとも技術的に整合しているものと解され、実質上、引用例1に記載されているに等しい技術的事項であると認められる。
したがって、引用例1に記載のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体として、付加重合体の水素添加物である場合をも包含されるべきことは、技術的にみて明らかである。
よって、上記「樹脂(b)」は、引用例1に記載のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体に相当するものと解することができる。

[環状樹脂の合成例7]について、
上記摘示2k.の記載によれば、当該「合成例7」について、概略、触媒として、「エチルアルミニウムセスキクロリド」及び「バナジウムオキシトリクロリド」を用いて、「テトラシクロ〔4,4,0,12,5,17,10〕-3-ドデセン」(上記摘示2d.【化15】参照)、「メチルシクロヘキセン」及びエチレンを共重合することにより、「臭素価0.5、軟化点152℃以上」の「樹脂(g)」を得たことが記載されている。
とすると、当該合成例7では、チーグラー触媒として「バナジウムオキシトリクロリド」を用いた付加重合による3元共重合体を得ているものと解される。
ところで、引用例1のエチレン及び環状オレフィン[I]との共重合体は、2成分の他に、共重合可能な不飽和単量体成分として環状オレフィンを共重合してもよい旨記載され、、他方、引用例2の合成例7から得られる3元共重合体「樹脂(g)」の共重合成分である「メチルシクロヘキセン」は環状オレフィンに該当するものであるので、上記「樹脂(g)」は、引用例1発明の「エチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体」に包含されるものと認められる。

[実施例13?19:輸液用容器]について、
「実施例14」には、上記摘示2l.及び摘示2m.のとおり、「樹脂(b)」と「樹脂(g)」の「3:1」混合物層と、「EVA3)」層とからなる厚さの合計が約0.2mmの積層フィルムが記載されているものと認められる。
「樹脂(b)」及び「樹脂(g)」は、上記のとおり、いずれも、引用例1に記載のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体に相当するから、「樹脂(b)」及び「樹脂(g)」の混合物層は、引用例1に記載のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体層である。
次に、上記した「EVA3)」層について、上記摘示2n.の記載によれば、「EVA3)」の略号は「ソアノールE(SoarnolE)(商品名)、日本合成化学工業(株)製、エチレン酢酸ビニル共重合体ケン化樹脂」を意味するものとして記載されているところであり、「ソアノールE」は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であって、酸素透過性が十分に低いガスバリアー性素材であることは、当業者の技術常識である。
したがって、「実施例14」として記載されている上記積層フィルムは、引用例1発明のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体から形成された層と、酸素透過性が十分に低いエチレン-ビニルアルコール共重合体から形成された層とを有する多層積層体の実施例である。

(1-2)まとめ
以上のとおり、エチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体からなる層と、エチレン-ビニルアルコール共重合体から形成された層とを有する多層積層体は、引用例2に記載されている。
また、引用例1には、上記摘示1h.のとおり、「環状オレフィン系重合体フィルムまたはシート」自体が、防湿性に優れており、「薬剤のPTP包装などに使用できる」ことが記載されている。
一方、引用例2にも、上記摘示2o.のとおり、引用例2の上記積層フィルムは、輸液用容器に用いられ、高圧蒸気殺菌に耐えるものであり、錠剤等の包装材として周知のPTPに適用することができるものである。
また、引用例2には、厚さが約0.2mmの上記積層フィルムは、上記摘示2l.ないし摘示2n.のとおり、「酸素透過性:ASTM-D1434-58法、二連式ガスcc/m2・day.atm.」が「○」(1以下)とされており、また、「水蒸気透過性:JIS-Z-0208に準拠、40℃、90%RH、カップ法による重量増加より測定、cc/m2・day.atm.」が「○」(1以下)とされているから、酸素透過性及び水蒸気透過性のいずれも厚さ0.2mmの積層フィルムにおいて1以下であるものと解され、前記エチレン-ビニルアルコール共重合体から形成された層の酸素透過性、並びに、前記多層積層体の酸素透過性及び水蒸気透過性は、いずれも、本願発明の酸素透過率より十分に低いものと認められる。
してみると、引用例1のエチレンと環状オレフィン[I]とのランダム共重合体からなる層と積層する樹脂層として、引用例2に記載のガスバリアー性のエチレン-ビニルアルコール共重合体を採用してガスバリアー性多層積層体とすることは当業者が容易に想到し得ることであり、また、23℃、RH0%で測定した酸素透過率が、10cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下のものとの数値の特定は、ガスバリアー性のエチレン-ビニルアルコール共重合体として、通常に達成し得る物性であり、また、摘示2lないし2nによれば、引用例2に記載のガスバリアー性のエチレン-ビニルアルコール共重合体が当然に有する物性を規定しているに過ぎないものであるから、相違点1は、引用例2に基づいて当業者が容易に想到し、なし得ることである。

(2-1)相違点2について
上記(1-2)において記載したとおり、引用例2の、厚さが約0.2mmの上記積層フィルムは、酸素透過性及び水蒸気透過性のいずれも厚さ0.2mmの積層フィルムにおいて1以下(cc/m2・day.atm.)であるものと解され、前記多層積層体の酸素透過性及び水蒸気透過性は、いずれも、本願発明の酸素透過率より十分に低いものと認められる。
そして、上記多層積層体について「透湿係数が0.2g・mm/m2・24Hr・atm以下」及び「酸素透過率が5cc(STP)・mm/m2・24Hr・atm以下」を満たす引用例2が公知であり、また、本願明細書の記載事項を検討しても、相違点2に係る前記各数値限定条件に格別の臨界的意義があるとは認められないことを考慮するならば、透湿係数及び酸素透過率、それぞれを、本願発明の如く設定することは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る事項の範囲内のことに過ぎないと認められる。
したがって、相違点2は、引用例2及び周知の事項から当業者が容易になし得ることと認められる。
(2-2)まとめ
以上のとおり、引用例2に記載の多層積層体に係る具体的な技術的事項を、引用例1に記載の発明に適用して、環状オレフィンAとエチレンとの共重合体からなる軟化温度(TMA)70?180℃のエチレン・環状オレフィンランダム共重合体からなる層(即ち、本願発明に係る(A)層)と、エチレン-ビニルアルコール共重合体から形成された層(即ち、本願発明に係る(B)層)とを有する多層積層体を構成し、本願発明の多層積層体が有するようにな物性値の範囲のものとすることは、当業者であれば、容易に想到し、なし得ることである。
そして、ガスバリア性に優れ、輸液用容器等の医療容器やPTP包装材に適した多層積層体については、引用例2に明記されているとおりであるから、本願発明が、引用例1及び引用例2に記載の発明が奏する効果から、当業者にとって予期し得ない格別に顕著な作用・効果を奏するものであるとはいえない。
よって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-08 
結審通知日 2006-11-15 
審決日 2006-12-05 
出願番号 特願平7-518951
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 石井 淑久
特許庁審判官 川端 康之
増山 剛
発明の名称 多層積層体および用途  
代理人 鈴木 俊一郎  

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