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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06T
管理番号 1151449
審判番号 不服2004-21383  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2003-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-10-14 
確定日 2007-02-08 
事件の表示 特願2001-242435「木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月28日出願公開、特開2003- 58907〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続きの経緯・本願発明
本願は、平成13年8月9日の出願であって、平成16年9月9日に拒絶査定がされ、これに対して同年10月14日に拒絶査定不服審判が請求されたもので、本願の発明は、平成16年8月2日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたものと認められるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】 人間、動物、ロボット等のモデル化等によって作られた、関節で接続された複数のリンクから成る木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法において、前記木構造リンク系の任意の数の任意のリンクに任意の数の拘束条件を与え、あるいは前記木構造リンク系のポーズ及び動作の生成の途中において任意に拘束条件を付加又は解除することを許すことによって、これらの拘束条件に従う前記木構造リンク系のポーズ及び動作を生成し、前記拘束条件が、全部又は一部の関節が指定された運動範囲を超えないようにすることを含み、前記関節の目標関節値が前記指定された運動範囲を超える場合、各関節の関節値を前記指定された運動範囲を超えない範囲でなるべく前記目標値に近づけることを特徴とする方法。」

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された特開平10-340354号公報(以下「引用例1」という。)には次の事項が図面と共に開示されている。(記載箇所は段落番号等で表示)
(1) 「【請求項6】 複数の関節からなるモデルを、各関節の角度変化により動作させた画像を示す画像データを生成する動作生成方法において、
各関節の所定時間ごとの変化を示す基本動作データを保持し、
前記基本動作データに基づき決定される、前記関節から選択された特定関節の位置と、少なくともモデルの動作の一部を規定する拘束条件の位置とに基づき、特定関節の補正位置を算出し、
算出された補正位置と特定関節の位置とを一致させるように、基本動作データに基づく位置を初期位置として、各関節の角度を変更し、
位置変更手段により変更された各関節の角度に基づく画像データを生成するように構成された動作生成方法。」

(2) 「【0012】本発明の目的は、人間などの多関節構造体の動作をリアルに表現し、かつ、指示した位置などの拘束条件を満たす動作を生成する動作生成装置および動作生成方法を提供することにある。」

(3) 「【0025】図5は、モデルデータ格納部105に記憶されたデータの構造を示す図である。図5に示すように、モデルデータ格納部105においては、動作する関節ごとの関節データの組501が保持される。各関節データの組501は、それぞれ、親子関係リンク502が設けられ、これにより、関節間のつながりが表わされる。各関節データの組501には、親関節からの相対位置を示す位置データ503、親関節からの相対回転角を示す回転角データ504、関節のモデル形状を示す形状データ505が含まれる。モデルにおける、ある関節の絶対的な位置は、最上位の親関節から、当該関節まで、順次、その相対位置と回転とを作用させることによって特定することができる。」

(4) 「【0027】(略)本実施の形態においては、動作生成装置は、拘束データ格納部107、補正位置算出部108および位置補正部109を備え、所望の拘束条件に合致した動作を生成することができるようになっている。ここに、拘束条件とは、動作する一部の関節(以下、「代表関節」と称する。)の、動作開始点位置、動作通過位置および動作終了位置の全て又はその一部を示す。一般に、代表関節は、腕など体の部位の先端部などが選択されるが、肘やひざなど、途中の関節であってもよい。たとえば、代表関節として、腕の先端部が選択された場合には、目標の位置に腕を伸ばすなどの動作が可能となる。」

(5) 「【0042】たとえば、前記実施の形態においては、動作するモデルに対する拘束条件が一つであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の拘束条件を与えてモデルの動作を生成することも可能である。たとえば、腕の先端位置を拘束するとともに、肘の関節位置を拘束する場合を考える。この場合には、関節間の位置関係、関節間の距離、拘束条件などに関して、矛盾する条件が設定されることが考えられるが、以下の手法により、これを回避することが可能である。
【0043】第1の手法として、拘束条件、設定される関節に優先度を付ければ良い。この場合に、満たすことができない矛盾した拘束条件が設定されると、優先度のより高い拘束条件をまず採用して、矛盾が生じない範囲で、優先度のより低い拘束条件を採用する。或いは、第2の手法として、拘束条件を満たさない場合に、その満たさない度合いにしたがってペナルティを与え、ペナルティの最も低い条件を求めても良い。たとえば、拘束条件に位置が含まれる場合には、上記ペナルティを、拘束される位置と拘束すべき関節の実際の位置との間の距離を評価基準として決定する。このような手法を用いることにより、複数の拘束条件を設定し、これらの間に矛盾が存在する場合であっても、意図した拘束により近い動作を生成することが可能となる。」

同じく、原査定の拒絶の理由で引用された、本願出願前に頒布された「Graphics World」第1巻、第6号(以下「引用例2」という。)の第128ないし131ページには、「3D Studio MAX R.25」というソフトウェアにおいて、「ボーン」を利用して、「IK(インバース・キネマティクス)」すなわち逆運動学計算により二足歩行アニメーションを生成する際に関節の回転制限設定を行うことについて記載され、その中の第129ページ左欄第1及び2行には次の事項が開示されている。
(6) 「実際の人間の関節と同じ動きになるように、各関節にIKの回転制限設定を行う。」

3 対比
本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比する。

引用例1の段落【0025】の記載、及び図5を参酌すると、引用例1で用いられるモデルは、「各関節データの組501は、それぞれ、親子関係リンク502が設けられ、これにより、関節間のつながりが表わされる。各関節データの組501には、親関節からの相対位置を示す位置データ503、親関節からの相対回転角を示す回転角データ504、関節のモデル形状を示す形状データ505が含まれる。モデルにおける、ある関節の絶対的な位置は、最上位の親関節から、当該関節まで、順次、その相対位置と回転とを作用させることによって特定する」ものであるから、「関節で接続された複数のリンクから成る木構造リンク系」であるといえ、さらに、引用例1の段落【0012】の記載から該モデルが「人間などの多関節構造体の動作」を表現するものであることから、「人間、動物、ロボット等のモデル化等によって作られた」ものといえる。
また、動作がポーズ、すなわち姿勢を時間的に変化させることにより生成されることは明らかであるから、ポーズは動作の生成に際して当然生成されるものである。
したがって、引用例1記載の「動作生成方法」は、本願発明と同じ「人間、動物、ロボット等のモデル化等によって作られた、関節で接続された複数のリンクから成る木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法」に関するものと理解できる。

本願明細書の段落【0041】に「図3は、このような運動生成ソフトウェアにおけるインタフェースの例を説明する図である。このようなインタフェースをピン/ドラックインタフェースと呼ぶ。このインタフェースの基本的な機能は、a、b、c及びpで示すリンクのうちいくつかを空間中に固定(ピン止め)したまま別のリンクをユーザの指示(ドラッグ)通りに動かすというものである。」と記載され、図3によると腕の先端部がa及びpであるリンクとして示されているのに対し、引用例1の段落【0027】には、「拘束条件とは、動作する一部の関節(以下、「代表関節」と称する。)の、動作開始点位置、動作通過位置および動作終了位置の全て又はその一部を示す。一般に、代表関節は、腕など体の部位の先端部などが選択されるが、肘やひざなど、途中の関節であってもよい。たとえば、代表関節として、腕の先端部が選択された場合には、目標の位置に腕を伸ばすなどの動作が可能となる。」と記載されているように、拘束条件を与える腕の先端部を本願発明において「リンク」、それに対し引用例1において「代表関節」とそれぞれ称しているが、両者が表現上の差異にすぎないことは当業者にとって明らかである。
そして、引用例1の段落【0042】には、「複数の拘束条件を与えてモデルの動作を生成することも可能である。たとえば、腕の先端位置を拘束するとともに、肘の関節位置を拘束する場合を考える。」と記載され、「腕の先端」は本願発明の「リンク」に相当するから、引用発明において「木構造リンク系の任意の数の任意のリンクに任意の数の拘束条件を与え」、「これらの拘束条件に従う木構造リンク系のポーズ及び動作を生成」しているといえる。

以上を踏まえると、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。
【一致点】
人間、動物、ロボット等のモデル化等によって作られた、関節で接続された複数のリンクから成る木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法において、前記木構造リンク系の任意の数の任意のリンクに任意の数の拘束条件を与えることによって、これらの拘束条件に従う前記木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法。

【相違点】
相違点1: 本願発明において、「あるいは木構造リンク系のポーズ及び動作の生成の途中において任意に拘束条件を付加又は解除することを許す」構成を有しているのに対して、引用発明ではこのような構成を備えていない点。

相違点2: 本願発明において、「拘束条件が、全部又は一部の関節が指定された運動範囲を超えないようにすることを含み、前記関節の目標関節値が前記指定された運動範囲を超える場合、各関節の関節値を前記指定された運動範囲を超えない範囲でなるべく前記目標値に近づける」構成を有しているのに対して、引用発明ではこのような構成を備えていない点。

4 当審の判断
上記相違点1及び2について検討する。
(1) 相違点1について
「あるいは」を接続詞としてみると、「(同種の事柄のうち、どれか一つという意を示す)または。もしくは。」(広辞苑第五版)という意味であり、本願発明における「木構造リンク系の任意の数の任意のリンクに任意の数の拘束条件を与え」る構成と、「木構造リンク系のポーズ及び動作の生成の途中において任意に拘束条件を付加又は解除することを許す」構成とは並列な表現であるから、選択的な事項であり、一方の構成を省いて解釈することが許容される。
したがって、相違点1は省略可能な構成と認められる。

また、相違点1が省略可能な構成でないとしても、引用例1記載のポーズ及び動作の生成処理における初期値が任意に設定可能なことは明らかであるから、所定の拘束条件に基づいてポーズ及び動作の生成処理を行い、該生成処理における任意の時点でのポーズを初期値として、拘束条件を付加又は解除することなどにより拘束条件を異ならせた新たなポーズ及び動作の生成処理を行うことは、当業者が適宜なし得る事項と認められる。

(2) 相違点2について
ポーズ及び動作を生成する際に、関節が指定された運動範囲を超えないようにする点について前掲引用例2に加え、特開平11-224351号公報(以下「文献1」という。)、及び特開平8-221599号公報(以下「文献2」という。)に示されるように慣用技術である。
すなわち、文献1には「【0079】第2に本実施例では、スケルトンモデルのアーク間のなす角度に可動範囲を設ける拘束条件の設定が可能となっている。(中略)即ちスケルトンモデルの形状変形の際に肘関節が逆に折れしてしまうと不自然であり、このような拘束条件を設定することでユーザーの利便性を高めることができる。なおこの拘束条件は、例えばアーク間のなす角度を所与の範囲に拘束する式を評価式に含ませることで実現できる。」と記載されている。
また、文献2には、「【0016】次に姿勢制御におけるジョイントの関節角度制限について説明する。(中略)スケルトン構造を逆運動学(順運動学でも必要)で解く場合、あるジョイントの自由度と角度の制限を設定する場合がある。これは、図2で示したデータ構造のJointのTypeとLimitで設定する。Typeはどの軸について回転が可能かを示し、Limitはそれぞれの回転軸に対して回転可能な角度範囲を設定する。人間の腕や足では一般に胴体に対して対象で、左、右腕の肘の関節は体の外側には曲がらない、これをスケルトンのパラメータとして人間の生体情報として、左ききや右ききパラメータとして腕といったスケルトン構造全体に割り当てることで、各ジョイントの角度範囲を自動的に設定することができる。」と記載されている。

引用例1の段落【0042】には、「複数の拘束条件を与えてモデルの動作を生成することも可能である。」と記載されているから、当業者が前記慣用技術を引用発明の拘束条件として適宜採用可能であり、かつ、採用することに阻害要因は認められない。
また、引用例1の段落【0043】には、「拘束条件、設定される関節に優先度を付ければ良い。この場合に、満たすことができない矛盾した拘束条件が設定されると、優先度のより高い拘束条件をまず採用して、矛盾が生じない範囲で、優先度のより低い拘束条件を採用する。」と記載されているから、前記慣用技術を引用発明の拘束条件として採用する際に、指定された関節の運動範囲を優先度のより高い拘束条件とし、関節値を優先度のより低い拘束条件として、「関節の目標関節値が前記指定された運動範囲を超える場合、各関節の関節値を前記指定された運動範囲を超えない範囲でなるべく前記目標値に近づける」ようにポーズ及び動作を生成することは、当業者が適宜設定し得る設計事項にすぎない。

したがって、相違点2の構成は、引用発明に基づいて当業者が容易に想到し得るものと認められる。
そして、本願発明の奏する効果についても、引用発明並びに前記慣用技術から想定できる程度のものにすぎない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたもので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-29 
結審通知日 2006-12-05 
審決日 2006-12-18 
出願番号 特願2001-242435(P2001-242435)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06T)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊知地 和之  
特許庁審判長 杉山 務
特許庁審判官 松永 稔
鈴木 明
発明の名称 木構造リンク系のポーズ及び動作を生成する方法  
代理人 杉村 興作  

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