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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F25B
管理番号 1151601
審判番号 不服2005-19012  
総通号数 87 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-11-15 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-10-03 
確定日 2007-02-09 
事件の表示 特願2001-133866「極低温冷凍装置」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月15日出願公開、特開2002-327970〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1. 手続の経緯・本願発明
本願は,平成13年5月1日の出願であって,その請求項1に係る発明は,平成17年4月8日付け,同年10月3日付け及び平成18年1月6日付け手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。

「1台の圧縮機と複数台の極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結した極低温冷凍装置において,作動ガス循環管路の圧縮機の吸引側管路の途中に,同一容量あるいは異なる容量の複数個のストレージタンクを直列または並列に連結して設置し,バルブ操作により圧縮機へ供給される作動ガスの流量を調整可能としたことを特徴とする極低温冷凍装置。」

2. 引用例に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された,本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-87414号公報(以下,「引用例1」という。),特開平5-322343号公報(以下,「引用例2」という。)及び特開平11-281182号公報(以下,「引用例3」という。)には,それぞれ図面と共に以下の記載がある。

[引用例1について]

1a. 「【産業上の利用分野】本発明は小型ヘリウム冷凍機の多台運転において,冷媒流量の変化に伴う温度変化を冷凍機の個別温度制御により維持する方法に関するものである。」(段落【0001】)

1b. 「このような小型ヘリウム冷凍機において,圧縮機よりの冷媒を分配して冷凍機に送ることにより,1台の圧縮機によって複数の冷凍機を運転することは周知の技術である。しかし,このシステムにおいて,1台または1台以上の冷凍機を止めた場合にガス密度が変化し,残りの冷凍機の流量が変化するため,冷凍機ステ-ジ温度が変化する(下がる)という問題があった。」(段落【0009】)

1c. 「【実施例】図1において,aは小型ヘリウム冷凍機,18は圧縮機である。19はHe 用のホ-スである。20は温度制御装置,21は冷凍機用ヒ-タである。
運転中の複数個(図では5台)の冷凍機aのうち,1台またはそれ以上を停止したとする。He 冷媒の流量圧力は,圧縮機18と複数台の冷凍機aの系で決るため,停止した冷凍機に応じて残りの冷凍機の個々の圧力が増加する。」(段落【0013】,【0014】)

ところで,前記小型ヘリウム冷凍機がHe(ヘリウム)冷媒を作動ガスとした極低温冷凍機であることは当業者の技術常識である。

また,記載事項1cを参照すると図1には,1台の圧縮機18と複数台の小型ヘリウム冷凍機aとを作動ガス循環回路を形成するHe 用のホ-ス19によって連結していることは明らかである。

したがって,記載事項1aないし1c及び図1から,引用例1には次の発明(以下,「引用例1の発明」という。)が記載されていると認められる。

1台の圧縮機と複数台の極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結した極低温冷凍装置。

[引用例2について]

2a. 「【産業上の利用分野】本発明は,極低温冷凍装置に関し,特に冷凍量,液化量を任意に,効率よく調整できる冷凍装置に関する。」(段落【0001】)

2b. 「【課題を解決するための手段】上記目的は,運転圧力が異なる寒冷発生回路とJ・T回路に別々の圧縮機を配置し,それぞれの常温部の高圧及び低圧配管の少なくとも片方の配管に,圧力制御弁を介して連通したガスリザーバタンクを別々に設け,冷凍装置内の寒冷発生回路とJ・T回路を循環する高圧ガス流量の一部のガスを出し入れして,該両回路に適切な高圧ガス流量を供給することにより達成する。」

2c. 「【作用】予冷用の寒冷発生機に例えばギフォード・マクマホン(G・M)式往復動形膨張機を使用し,予冷用の寒冷発生回路と隔離したJ・T回路で冷凍装置を構成した場合,両回路の高圧ガス流量はそれぞれクローズドの回路に配置したリザーバガスタンクのガスホールド量を任意の値に制御し,両回路内のガス流量および運転圧力を適切な値に,短時間内に制御する。それによって,J・T弁出口の温度約4.5Kの冷凍量を制御し,熱負荷に見合った冷凍量を安定に,かつ短時間内に,効率よく簡便に発生できる冷凍装置となる。」(段落【0014】)

2d. 「【実施例】以下,本発明の一実施例を図1により説明する。
予冷用の寒冷発生回路に配置した寒冷発生機1は,例えば,ギフォード・マクマホン膨張機で構成される。圧縮機,・・・から成るヘリウム圧縮機ユニット2の圧力約20atmの高圧ガスは寒冷発生機1中に流入して内部で断熱膨張し,・・・寒冷を発生する。
圧力約5atmの膨張後のガスは,再び,圧縮機ユニット2に戻る。一方,予冷用の寒冷発生回路と隔離した液化用のJ・T回路の圧縮機,・・・から成る圧縮機ユニット5で加圧された圧力約16atmの高圧のヘリウムガスは,高圧配管16aを通り・・・温度約6K以下に冷却され,ジュール・トムソン弁(以下J・T弁)13で断熱膨張してその一部のガスが液化し,液体ヘリウム槽14に溜まり超電導マグネット15等の被冷却体を冷却する。
圧力約1.2atmの未液化のヘリウムガス,液体ヘリウム17の蒸発ガスは低圧配管16b内に流入し,・・・を通り,ほぼ常温となって,圧縮機ユニット5に戻る。
圧縮機ユニット2の高圧配管19a,低圧配管19bは,高圧配管19aの内圧で制御される圧力調整弁20a,圧力調整弁20bおよびバイパス弁20c,弁20dを介して,リザーバタンク21aと連通している。高圧配管19aには安全弁22aを配置している。
圧縮機ユニット5の高圧配管16a,低圧配管16bは,低圧配管16bの内圧で制御される圧力調整弁23a,圧力調整弁23bを介して,リザーバタンク21bと連通している。高圧配管16aには安全弁22bを配置している。」(段落【0015】ないし【0020】)

2e. 「ここで,高圧配管19aの内圧の低下を感知して圧力調整弁20b,および弁20dが開き,不足したヘリウムガスを中圧のリザーバタンク21aから圧縮機ユニット2の吸入側に補給し,吐出圧力を所定の値に保持して,寒冷発生量の低減を防止する。
・・・。
また,冷凍装置の温度が下がるにしたがって,液化回路のガスホールド量が増加し,ガスの補給が無ければ,容積型,定圧縮比型のヘリウム圧縮機ユニット5の吐出圧力は,順次低下する。
この圧力状態では,吸入圧力が低くなり所定の圧力を維持できなくなる。このため,低圧配管16bの内圧の低下を感知して圧力調整弁23bが開き,不足したヘリウムガスを中圧のリザーバタンク21bから圧縮機ユニット5の吸入側に補給し,吸入圧力を所定の値に保持する。」(段落【0027】ないし【0029】)

2f. 「また,本実施例では,予冷用の寒冷発生回路とJ・T回路を有した冷凍装置について説明したが,予冷用の寒冷発生回路とこれに連通した制御弁,リザーバタンクで構成した冷凍装置でも,同等な効果がある。」(段落【0044】)

2g. 「また,本実施例では,1台の冷凍装置の場合について説明したが,複数台の冷凍装置を設置する場合には,それぞれの予冷用の寒冷発生回路とJ・T回路同士に共有のリザーバタンクを配置しても,同等な効果がある。」(段落【0045】)

ところで,記載事項2b,2d及び図1から,次の事項2hが認められる。

2h. 予冷用の寒冷発生回路とJ・T回路のそれぞれには圧縮機と極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結し,作動ガス循環管路の圧縮機の吸引側管路の途中にそれぞれリザーバタンクを設置し,バルブ操作によりそれぞれの圧縮機ユニットへ供給される作動ガスの流量を調整可能としたこと。

[引用例3について]

3a. 「しかしながら,さらに,温度4Kレベルでの冷凍能力(・・・)をアップするには,磁性蓄冷材の充填量を増大するか,作動ガスの高圧圧力と低圧圧力の圧力差をさらに大きくし,なおかつ低圧側圧力を高めることが必要である。圧力差を大きくし,なおかつ低圧側圧力を高める手段として,従来は大容量の圧縮機を使用している。このため,圧縮機の大型化等が避けられず,圧縮機の電源入力の増大,設置場所の制限を惹き起こしていた。」(段落【0004】)

3b. 「【発明が解決しようとする課題】蓄冷式冷凍機,特に,最低到達温度が4K以下に到達するGM冷凍機において,冷凍機で処理される作動ガス量を増大して,高圧側と低圧側の圧力差を大きくし,なおかつ低圧側圧力を高めることにより,冷凍能力をアップすることを課題とする。」(段落【0005】)

3c. 「【課題を解決するための手段】最低到達温度が4K以下になるGM冷凍機において,GM冷凍機と圧縮機ユニットを接続する配管内に,作動ヘリウムガスの充填容積を増すことが出来るバッファ-タンクe1,e2を,高圧側配管と低圧側配管の両方,もしくはその片方に設けた。」(段落【0006】中)

3d. 「(作動)GM冷凍機の運転が開始されると,徐々に温度が下がり,最終的に最低到達温度4K以下に達する。温度4Kにおける冷凍能力は,GM冷凍機,圧縮機ユニット,GM冷凍機と圧縮機ユニットを接続する配管の容積と作動ガスの充填圧力に影響を受ける。この系には,一定量のヘリウムガスが充填されているので,GM冷凍機bが低温定常となると,作動ガスの高圧低圧間の圧力差は,一定の圧力差となる。そこで,圧縮機ユニットaと冷凍機bの間の配管cとdにバッファ-タンクe1及びe2を設けて,この系に充填されるヘリウムガス量を増大させると,GM冷凍機bが運転され,低温定常になっても,作動ガスの圧力差は,バッファ-タンクe1,e2が無い場合に比べて,大きく確保でき,また低圧圧力を高く確保できるので,温度4Kにおける冷凍能力はよりアップさせることができる。」(段落【0010】)

3. 対比,一致点・相違点
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)と引用例1の発明とを対比すると,両発明は,1台の圧縮機と複数台の極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結した極低温冷凍装置の点で一致し,次の点で相違する。

[相違点]
本願発明が,作動ガス循環管路の圧縮機の吸引側管路の途中に,同一容量あるいは異なる容量の複数個のストレージタンクを直列または並列に連結して設置し,バルブ操作により圧縮機へ供給される作動ガスの流量を調整可能としたのに対して,
引用例1の発明は,かかる構成を備えない点。

4. 相違点についての検討
引用例2には,極低温冷凍装置において,圧縮機と極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結し,作動ガス循環管路の圧縮機の吸引側管路の途中にリザーバタンクを設置し,バルブ操作により圧縮機へ供給される作動ガスの流量を調整可能としたことにより,熱負荷に見合った冷凍量を,安定に,かつ短時間内に効率よく簡便に発生できるようにした点が記載され,しかも,複数台の冷凍装置を設置することについても示唆されている(記載事項2g参照)。

また,引用例3には,1台の圧縮機と極低温冷凍機とを作動ガス循環回路によって連結した極低温冷凍装置において,圧縮機の吸引側管路の途中に,作動ガスを充填したバッファタンクを設置して運転することにより,大容量の圧縮機への変更をすることなく,作動ガス循環回路内の作動ガス量を増大し,作動ガスの高圧低圧間の圧力差を,バッファ-タンクが無い場合に比べて,大きく確保し,また低圧圧力を高く確保して,冷凍能力をよりアップさせた点が記載されている。

更に,ストレージタンクを設置するに際して,同一容量あるいは異なる容量の複数個のストレージタンクを直列または並列に連結して設置することは,当業者の設計事項と認められる。

したがって,引用例1の発明において,上記相違点における本願発明の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。

そして,本願発明の効果は,引用例1ないし3に記載された事項から予測し得た程度のものであって,格別なものではない。

5. むすび
したがって,本願発明は,引用例1ないし3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-16 
結審通知日 2006-11-21 
審決日 2006-12-11 
出願番号 特願2001-133866(P2001-133866)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 富夫  
特許庁審判長 水谷 万司
特許庁審判官 今井 義男
岡本 昌直
発明の名称 極低温冷凍装置  
代理人 大槻 清壽  

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