ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B41M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41M |
---|---|
管理番号 | 1151617 |
審判番号 | 不服2004-11215 |
総通号数 | 87 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2002-06-11 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-05-28 |
確定日 | 2007-02-05 |
事件の表示 | 特願2001- 71011「インクジェット被記録材およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月11日出願公開、特開2002-166646〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成13年3月13日(優先権主張平成12年3月17日、平成12年9月19日)に出願され、平成16年4月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月28日付けで拒絶査定に対する審判請求及び平成16年6月28日付けで手続補正がなされたものである。 2.平成16年6月28日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成16年6月28日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の本願発明 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「シート状の基材(プラスチックフィルム、透明な基材を除く。)の少なくとも一方の面に、一または二以上の層からなるインク受容層(ウレタン樹脂を含むものを除く。)を形成したインクジェット被記録材において、前記インク受容層を構成する少なくとも一つの層における顔料の主成分または一成分として、繊維の微粉体を、当該層に含まれる顔料全体に対して50重量%以上含有させ、かつ、この繊維の微粉体の長さの平均値(長さと直径の値が近いものについては平均粒径)を10μm以上85μm以下とし、さらに前記繊維の微粉体を顔料の主成分または一成分として含む層にカチオン性の物質を含ませたことを特徴とするインクジェット被記録材。」 と補正された。 上記補正は、補正前の請求項1の記載における、「繊維の微粉体の長さの平均値(長さと直径の値が近いものについては平均粒径)を10μm以上85μm以下としたこと」を、「繊維の微粉体の長さの平均値(長さと直径の値が近いものについては平均粒径)を10μm以上85μm以下とし、さらに前記繊維の微粉体を顔料の主成分または一成分として含む層にカチオン性の物質を含ませたこと」としようとするものであって、繊維の微粉体を含むインク受容層を構成する少なくとも一つの層に、カチオン性の物質を含む限定を付加するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討する。 (2)刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である特開平10-114147号公報(以下「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。 (1)「【請求項1】 吸水性物質及び水溶性物質を含有することを特徴とする情報表示面形成用コーティング材。 【請求項2】 請求項1に記載の情報表示面形成用コーティング材において、 前記吸水性物質は、タンパク質及び多糖類より選ばれた少なくとも1種類の微粉末であることを特徴とする情報表示面形成用コーティング材。 【請求項3】 請求項2に記載の情報表示面形成用コーティング材において、 前記タンパク質には、コラーゲン、シルク、ウール、ケラチン、卵殻膜のうちの少なくとも1種類が含まれることを特徴とする情報表示面形成用コーティング材。 【請求項4】 請求項2に記載の情報表示面形成用コーティング材において、 前記多糖類には、セルロース、キチン、キトサンのうちの少なくとも1種類が含まれることを特徴とする情報表示面形成用コーティング材。 【請求項5】 請求項1?4のいずれかに記載の情報表示面形成用コーティング材において、 前記吸水性物質及び水溶性物質に加えて、樹脂系バインダを含むことを特徴とする情報表示面形成用コーティング材。 【請求項6】 前記請求項1?5のいずれかに記載の情報表示面形成用コーティング材よりなる情報表示面が表示基材に形成されていることを特徴とする表示媒体。」(特許請求の範囲) (2)「【0009】本発明の第2発明に係る情報表示面形成用コーティング材は、第1発明において、前記吸水性物質は、タンパク質及び多糖類より選ばれた少なくとも1種類の微粉末であることを特徴とする。前記微粉末の平均粒径に特に限定はないが、60μm以下が好ましい。平均粒径が60μmを超えると、表示媒体表面がざらついてタッチ感が不良となり、印刷適性も低下しやすい。より好ましくは30μm以下、更に好ましくは7μm以下である。」 (3)「【0012】本発明の第3発明に係る情報表示面形成用コーティング材は、第2発明において、前記タンパク質には、コラーゲン、シルク、ウール、ケラチン、卵殻膜のうちの少なくとも1種類が含まれることを特徴とする。前記タンパク質の具体例は、前記具体例に限定されるものではないが、特性、価格、入手の容易さ、等から前記具体例が好ましい。」 (4)「【0015】前記樹脂系バインダには、アクリル樹脂、アクリル-スチレン共重合体、酢酸ビニル樹脂、等が含まれる。分散系としては、エマルジョン(ラテックス)、コロイダルディスパーション、水溶液のいずれでもよい。これらの樹脂系バインダは、コーティング材としてコーティング、乾燥した後にフィルム状の連続被膜を形成するものが望ましい。また、水溶液を使用した場合には、乾燥後、被膜が不溶化するものが望ましい。なお、コーティング材中の溶剤及び希釈する際の希釈剤として、2-プロパノールのようなアルコールを使用するのがコーティングした後、乾燥を早めるうえで好ましい。」 (5)「【0016】本発明の第6発明に係る表示媒体は、第1?第5発明のいずれかに記載の情報表示面形成用コーティング材よりなる情報表示面が表示基材に形成されていることを特徴とする。前記情報表示面となる表示媒体が形成される表示基材は任意である。例えば、オーバヘッドプロジェクタ(OHP)用フィルム、製図用フィルム、シール、ラベル、パッケージ、電気製品、自動車部品、精密部品、コンパクトディスク、各種プラスチック成形品、金属、ガラス、塗装板、宅配便の伝票、等あらゆるものが含まれる。」 (6)「【0020】 【実施例】 〔実施例1〕 第1実施形態において、前記コーティング材中の各成分の具体例及び配合割合を下記の通りとした。 アクリルエマルジョン 32% シルクパウダ 26% ポリビニルアルコール水溶液(5%) 33% 2-プロパノール/ブチルセロソルブ(2:1) 6% 水 3% 【0021】 上記コーティング材を2-プロパノール水溶液で希釈した後、このコーティング材をバーコータでOHP用PETフィルム(株式会社リコー製)上にコーティングして表示媒体を形成した。」 (7)「【0027】〔特性の評価〕上記実施例1?10及び比較例1?5に係るコーティング材を使用して基材にコーティングした後のコーティング材の乾燥性及び形成された表示媒体の耐水性を評価した。また、各表示媒体に、インクジェットプリンタ(マッハジェットMJ3000C、商品名、エプソン販売株式会社)で印刷を行った後、水性インクの乾燥性及び印刷の鮮明度を評価した。それらの結果を表1、2に示す。」 (3)対比・判断 刊行物1には、実施例1として、OHP用PETフィルム上に、 「アクリルエマルジョン 32% シルクパウダ 26% ポリビニルアルコール水溶液(5%) 33% 2-プロパノール/ブチルセロソルブ(2:1) 6% 水 3%」 であるコーティング材をコーティングして情報表示面を形成したインクジェットプリンタ用表示媒体〔(1)、(5)、(6)、(7)〕が記載されていると認められる。 このコーティング材成分の、2-プロパノール/ブチルセロソルブ(2:1)と水は溶媒〔(4)〕であるから、コーティングして形成した情報表示面はアクリルエマルジョン、シルクパウダ、及びポリビニルアルコールからなることになる。ここで、顔料としてはシルクパウダのみであるから、シルクパウダを、顔料全体に対して50重量%以上含有するものである。 そうすると、刊行物1には、OHP用PETフィルムに顔料の成分として、シルクパウダを、当該層に含まれる顔料全体に対して50重量%以上含有し、ウレタン樹脂を含まない情報表示面が形成されている表示媒体の発明が記載されているものと認められる。 そこで、補正発明と刊行物1に記載の発明を対比すると、 後者の「OHP用PETフィルム」、「シルクパウダ」、「情報表示面」、「インクジェットプリンタ用表示媒体」は、それぞれ前者の「シート状の基材」、「繊維の微粉体」、「インク受容層」、「インクジェット被記録材」に相当するから、 両者は、「シート状の基材の一方の面に、一層からなるインク受容層(ウレタン樹脂を含むものを除く。)を形成したインクジェット被記録材において、前記インク受容層を構成する層における顔料の主成分または一成分として、繊維の微粉体を、当該層に含まれる顔料全体に対して50重量%以上含有させたインクジェット被記録材」である点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1 シート状の基材が、補正発明では、プラスチックフィルム、透明な基材を除くものであるのに対して、刊行物1に記載の発明では、OHP用PETフィルムある点。 ・相違点2 繊維の微粉体の長さの平均値(長さと直径の値が近いものについては平均粒径)が、補正発明では、10μm以上85μm以下であるのに対して、刊行物1に記載の発明では、規定されていない点。 ・相違点3 カチオン性の物質を、補正発明では、繊維の微粉体を顔料の主成分または一成分として含む層に含むのに対して、刊行物1に記載の発明では、含んでいない点。 上記相違点1ないし3について検討する。 ・相違点1について インクジェット被記録材のシート状の基材として、透明なOHP用PETフィルムのような「プラスチックフィルム、透明な基材を除く」と、残るのは紙や、合成紙、樹脂被覆紙等ということになるが、これらを基材とし、その上にインク受容層を設けることは本件出願前周知であり、「プラスチックフィルム、透明な基材」以外を基材とする周知のインクジェット被記録材のインク受容層として、刊行物1に記載の発明をインク受容層に適用することは、当業者が容易になし得たことである。 ・相違点2について 刊行物1には、長さの平均値は60μm以下であればよいこと〔(2)〕と記載されており、補正発明の10μm以上85μm以下と重なる数値である。 また、本願明細書には、繊維の微粉体の長さの平均値を10μm以上85μm以下としたのは、製造上の下限の長さと印字画質とからであり、しかも、さらに短い繊維微粉体が製造できれば使用可能である(【0009】)とも記載しているのであるから、下限の10μm以上としたことにも特に技術的意義があるとはいえない。 そうすると、繊維の微粉体の長さの平均値を10μm以上85μm以下とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ・相違点3について インクジェットインク中のアニオン性染料をインク受容層に留めるためにカチオン性の物質を用いることは、特開昭56-84992号公報、特開昭56-99693号公報、特開昭57-36692号公報、特開昭57-191084号公報特開昭60-232990号公報に記載されるように周知であり、刊行物1記載の発明においてインク受容層にカチオン性の物質を用いることは、当業者が容易になし得たことである。 そして、補正発明が特に予想し得ないような効果を奏したとすることもできない。 (4)まとめ したがって、補正発明は、刊行物1に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 以上のとおり、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 3.本願発明について (1)本願の請求項に係る発明 平成16年6月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成16年1月5日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 シート状の基材(プラスチックフィルム、透明な基材を除く。)の少なくとも一方の面に、一または二以上の層からなるインク受容層(ウレタン樹脂を含むものを除く。)を形成したインクジェット被記録材において、前記インク受容層を構成する少なくとも一つの層における顔料の主成分または一成分として、繊維の微粉体を、当該層に含まれる顔料全体に対して50重量%以上含有させ、かつ、この繊維の微粉体の長さの平均値(長さと直径の値が近いものについては平均粒径)を10μm以上85μm以下としたことを特徴とするインクジェット被記録材。」 (2)刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項は、上記「2.(2)」に記載したとおりである。 (3)対比・判断 本願発明は、上記「2.」検討した補正発明から、「、さらに前記繊維の微粉体を顔料の主成分または一成分として含む層にカチオン性の物質を含ませ」という記載を除いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する補正発明が、上記「2.(3)」に記載したとおり、刊行物1に記載された発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、刊行物1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4)むすび 以上のとおり、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、本願の他の請求項に係る発明を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-11-01 |
結審通知日 | 2006-11-07 |
審決日 | 2006-11-21 |
出願番号 | 特願2001-71011(P2001-71011) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(B41M)
P 1 8・ 121- Z (B41M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 野田 定文、川村 大輔、藤井 勲 |
特許庁審判長 |
山口 由木 |
特許庁審判官 |
阿久津 弘 秋月 美紀子 |
発明の名称 | インクジェット被記録材およびその製造方法 |
代理人 | 千葉 茂雄 |