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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1152434
審判番号 不服2004-10989  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-27 
確定日 2007-02-14 
事件の表示 平成11年特許願第 47574号「湿式電子写真装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 9月14日出願公開、特開2000-250321〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成11年2月25日の出願であって、その特許請求の範囲に係る発明は、平成15年5月30日付の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 不揮発性を示す高粘度で高濃度の液体トナーを液体現像液として用いる湿式電子写真装置であって、
静電潜像の形成される画像支持体と、
前記画像支持体上に接触して液体現像液を供給し、かつ前記画像支持体との間に生成される電界に応じて、該液体現像液のトナー粒子を前記画像支持体に付着させる現像ローラと、
連接する複数の回転ローラから構成されて、供給される液体現像液を該回転ローラで引き延ばしつつ表面に塗布しながら搬送していくとともに、上記現像ローラに当接する最終段の回転ローラの表面に塗布される液体現像液の膜を、前記現像ローラの前記当接面に塗布する現像液塗布手段と、
前記現像ローラ上の前記最終段の回転ローラに当接する後の位置であって、かつ前記画像支持体上に接触する前の位置において、前記現像ローラに独立して当接すると共に、その当接部においては両当接表面が逆方向に移動するようなリバース関係で回転して、層の表面を均一化する作用をする独立リバースローラとを備え、
前記独立リバースローラには、現像ローラに当接する位置において現像ローラ上のトナー粒子を現像ローラ表面に押しつける方向に作用する電界を発生させるバイアス電圧を印加して、リバースローラの作用にこの電界の作用を組み合わせることにより、トナー粒子は現像ローラ側に押しつけて凝集させる一方、トナー層の上層部は残りのキャリア成分がリッチな状態にする、
ことを特徴とする湿式電子写真装置。」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に頒布されたことが明らかな引用文献1及び4には、以下の事項が記載されている。

[引用文献1:特開平8-328392号公報]
(1a)「【請求項1】 画像支持体上に形成された静電潜像を帯電した顕像化粒子であるトナーによって現像する静電潜像の液体現像装置であって、
現像剤支持体と、前記現像剤支持体上に絶縁性液体中にトナーが高濃度に分散された100?10000mPa・sの高粘度の液体現像剤を複数のローラを介して塗布する塗布手段と、前記複数のローラのうち少なくとも一つのローラに電圧を印加する電圧印加手段とを具備し、前記現像剤支持体上に塗布された前記液体現像剤を前記画像支持体の潜像面に供給する現像手段を備えていることを特徴とする静電潜像の液体現像装置。・・・
【請求項11】前記液体現像剤はシリコンオイルを絶縁性液体として利用するものであることを特徴とする請求項10記載の静電潜像の液体現像装置。」(特許請求の範囲)
(1b)「図2に示すように、電源装置515によって現像ローラ510に電気的な現像バイアスを印加できるようにするために、103Ωcm程度であることが望ましい。・・・尚、現像バイアス電圧は、トナーと現像ローラ510との間に働く静電気力(引力)が、トナーと感光体10の静電潜像が形成されている部分との間に働く静電気力(引力)より弱く、且つ、トナーと感光体10の静電潜像が形成されていない部分との間に働く静電気力(引力)より強くなるように設定しなければならない。」(【0019】、図2)
(1c) 複数のローラとして、供給ローラ502a、搬送ローラ504、及び塗布ローラ506a,506bを用いたこと、供給ローラ502aは、一部がタンク502内の液体現像剤508に浸漬するように設置されており、搬送ローラ504の回転方向と反対方向に回転することにより、タンク502内に貯蔵された液体現像剤508を汲み上げて、搬送ローラ504に供給し、搬送ローラ504は、供給ローラ502aと当接するように設けられており、塗布ローラ506a,506bの回転方向と反対方向に回転することにより、供給ローラ502aによって供給された液体現像剤508を塗布ローラ506a,506bに搬送し、塗布ローラ506a,506bは、搬送ローラ504及び現像ローラ510と当接するように設けられており、現像ローラ510の回転方向と反対方向に回転することにより、現像ローラ510の表面に搬送ローラ504によって搬送された液体現像剤508を塗布すること(【0020】?【0022】、図3)
(1d)「液体現像剤508の現像ローラ510への供給に供給ローラ502a、搬送ローラ504及び塗布ローラ506a,506bを用いたのは、本実施例では後述するようにトナーが高濃度に分散された高粘性の液体現像剤508を用いているので、現像ローラ510上に少量の液体現像剤を薄くムラなく塗布する必要があるからである。複数のローラを介して現像剤支持体上に液体現像剤を塗布することにより、各ローラ上の液体現像剤の層厚は隣合うローラとの当接部で薄く均一に規制されるので、現像剤支持体上に高濃度高粘性の液体現像剤を薄く均一に塗布することができる。」(【0023】 )
(1e)「また、キャリア液に粘度が20mPa・sである信越シリコン社のKF-96-20を用いて出画実験を行ったときは、定着後に紙上に残留するキャリア液は見られなかった。また、揮発性がそれほど高くないので、現像装置を密閉構造にする必要は生じなかった。・・・キャリア液については、信越シリコン社のKF9937等他に多くの種類があり、電気抵抗、蒸発特性、表面張力、安全性等が満たされていればいずれを選択してもよい。」(【0044】)
これらの記載によれば、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる。
「絶縁性液体としてイリコンオイルを用いる高粘度で高濃度の液体トナーを液体現像液として用いる液体現像装置であって、静電潜像の形成される画像支持体と、前記画像支持体上に接触して液体現像液を供給し、かつ前記画像支持体との間に生成される電界に応じて、該液体現像液のトナー粒子を前記画像支持体に付着させる現像ローラと、複数のローラから構成されて、供給される液体現像液を薄く均一に表面に塗布しながら搬送していくとともに、上記現像ローラに当接する塗布ローラの表面に塗布される液体現像液の膜を、前記現像ローラの前記当接面に塗布する塗布手段と、を有する液体現像装置」

[引用文献4:特開平7-160062号公報]
(4a)「潜像担持体に対して非接触の現像ローラを用いてその現像ギャップ(現像ローラと潜像担持体の対向部におけるギャップ間距離)よりも薄い現像液膜を現像ローラ表面に形成させ、現像ローラ表面に保持された現像液により潜像担持体上の静電潜像の現像を行なう液体現像装置において、潜像担持体表面の移動方向へ順次、第一、第二の現像ローラを配設し、第一の現像ローラには溶媒を供給し、それより下流に位置する第二の現像ローラには現像液が供給され、液体飛翔現像方式により現像を行なうことを特徴とする液体現像装置。」(請求項1)
(4b)「請求項1,2,3,4記載の液体現像装置において、現像液を保持した現像ローラ表面の液膜を一定にするために設けたスクイズ手段にトナー粒子と同極性の直流バイアス電圧を印加することを特徴とする液体現像装置。」(請求項5)
(4c)「スクイズローラ6は矢印のように第一の現像ローラ13と回転方向は同じだが、第一の現像ローラ13との対向位置では、スクイズローラ6表面の移動方向は第一の現像ローラ13表面の移動方向とは反対の方向となり、第一の現像ローラ13表面の溶媒12を一定の膜厚に掻き取っている。」(【0026】)
(4d)「第二の現像ローラ14は現像皿15中の現像液(高固形分トナー分散液)17に浸されており、現像皿15中の現像液17が第二の現像ローラ14の回転力にてスクイズローラ6と第二の現像ローラ14のギャップ間に運ばれ、スクイズローラ6によって上記と同様に第二の現像ローラ14表面の現像液17が一定の膜厚に掻き取られる。またスクイズローラ6の表面は清掃部材(スクレーパー)16によって清掃される。」(【0028】)
(4e)「[実施例5]図6は請求項5の一実施例を示す液体現像装置の概略構成図である。図6に示す液体現像装置は、説明の都合上、請求項1の実施例(図1)と同様の構成となっており、現像動作も同様である。図6の実施例においては、現像液膜を保持する第二の現像ローラ14表面の液膜を一定にするためにスクイズ手段としてのスクイズローラ6を設けているが、そのスクイズローラ6は金属ローラあるいは表面を弾性部材で覆った金属ローラ等、少なくとも芯材部分が導電性部材からなるローラであり、トナー粒子21aと同極性(この場合は負極性)の直流バイアス電圧を印加している。現像皿15内の現像液17は第二の現像ローラ14の回転力で現像ローラ14とスクイズローラ6のギャップ間に運ばれるわけであるが、ここでトナー粒子21aは負極性であるのでスクイズローラ6に印加したバイアス電圧により形成される電界によって電気泳動し、第二の現像ローラ14表面に凝集され付着する。そのため、スクイズローラ6を通過した第二の現像ローラ14表面の現像液膜は供給された現像液17よりも液中のトナー粒子21a固形分の濃度が高くなる。」(【0038】)

3.対比と判断
本願発明と、引用文献1に記載の発明とを対比すると、引用文献1に記載の発明の「複数のローラ」、「塗布ローラ」、「塗布手段」及び「液体現像装置」は、それぞれ本願発明の「複数の回転ローラ」、「最終段の回転ローラ」、「現像液塗布手段」及び「湿式電子写真装置」に相当する。
また、引用文献1に記載の発明において、液体現像剤は、キャリア液として揮発性の高くないシリコンオイルを使用するものであるから「不揮発性を示す」ものといえる。
さらに、複数のローラは、液体現像液を薄く均一に表面に塗布しながら搬送していくものであるから、「液体現像液を回転ローラで引き延ばしつつ表面に塗布しながら搬送していく」ものといえる。
したがって両者は、
「不揮発性を示す高粘度で高濃度の液体トナーを液体現像液として用いる湿式電子写真装置であって、
静電潜像の形成される画像支持体と、
前記画像支持体上に接触して液体現像液を供給し、かつ前記画像支持体との間に生成される電界に応じて、該液体現像液のトナー粒子を前記画像支持体に付着させる現像ローラと、
連接する複数の回転ローラから構成されて、供給される液体現像液を該回転ローラで引き延ばしつつ表面に塗布しながら搬送していくとともに、上記現像ローラに当接する最終段の回転ローラの表面に塗布される液体現像液の膜を、前記現像ローラの前記当接面に塗布する現像液塗布手段と、を有する湿式電子写真装置」である点で一致しており、次の点で相違する。
[相違点]
本願発明が、「現像ローラ上の前記最終段の回転ローラに当接する後の位置であって、かつ前記画像支持体上に接触する前の位置において、前記現像ローラに独立して当接すると共に、その当接部においては両当接表面が逆方向に移動するようなリバース関係で回転して、層の表面を均一化する作用をする独立リバースローラ」を備えており、「独立リバースローラには、現像ローラに当接する位置において現像ローラ上のトナー粒子を現像ローラ表面に押しつける方向に作用する電界を発生させるバイアス電圧を印加して、リバースローラの作用にこの電界の作用を組み合わせることにより、トナー粒子は現像ローラ側に押しつけて凝集させる一方、トナー層の上層部は残りのキャリア成分がリッチな状態にする」ものであるのに対して、引用文献1に記載の発明はリバースローラを有ておらず、したがってこのような状態が現出されるものではない点。

以下、相違点について検討する。
まず、独立したリバースローラを設け、このリバースロールに電圧を印加することについて検討すると、引用文献4には、現像ローラに当接し、現像ローラに対向する位置において、現像ローラと逆方向に回転するスクイズローラ、すなわちリバースローラを設けること、及びそれにより現像ローラ表面の液膜は一定にされることが記載され(4c)、その際、リバースローラにバイアス電圧を印可することによって、液体現像剤中のトナー粒子が凝集して、現像ローラ上に付着することで、現像ローラ表面の現像液膜は供給された現像液よりも液中のトナー粒子固形分の濃度が高くなることが記載されている(4d)。
引用文献4に記載の液体飛翔現像方式は、現像液を前記画像支持体に接触させる引用文献1に記載の発明とは現像方式が相違するが、引用文献1に記載の発明も、現像ローラ表面の液膜を薄く均一に塗布しようとするものであるから(1d参照)、そのために現像ローラに対してリバースローラを設けることは、引用文献4に記載された事項から当業者が容易に想起しうることであり、さらに現像液上層がリバースローラに付着して掻き取られる際にトナー粒子が掻き取られることがないように、リバースローラにバイアス電圧を印加しトナー粒子を現像ローラ表面に凝集させるようにすることも、引用文献4に記載された事項から当業者が容易に想起しうることである。
次に、リバースローラと電圧印加を組み合わせたことにより現出する状態について検討すると、引用文献4には、バイアス電圧を印加したリバースローラにより、現像ローラ表面に凝集したトナー粒子の層の上層にキャリア成分がリッチな状態が現出していることは記載されていないが、現像ローラに対し逆方向に回転するリバースローラを設けた場合、現像ローラの周速に対するリバースローラの周速により、リバースローラに付着して掻き取られる現像液層の厚さが変わることは明らかであり、また、トナーの凝集層の層厚は印加される電圧によって変わることも明らかである。
そして、液体現像剤を使用する湿式画像形成方法において、液体現像剤にバイアス電圧を印可してトナー粒子を凝集させた層を形成するとともに、該層の上にキャリア成分の多い層を形成せしめることで、該キャリア成分の多い層にプリウエット液の機能を期待する思想は、特開昭52-58923号公報に見られる如く、本願出願の遙か以前から存在し周知でもあるから、引用文献1に記載の発明において、引用文献4に記載の技術を適用する際に、リバースローラの周速やバイアス電圧を調整することによりトナー粒子凝集層の上にキャリア成分のリッチな層を形成するようにし、現像液にプリウエット液の機能をもたせるようにすることは、当業者が容易になしうることである。
そして、本願発明の作用効果は全体として、引用文献1及び4に記載された発明及び前記周知技術から容易に予測できるものであって、格別顕著なものとはいえない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が引用文献1及び4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-28 
結審通知日 2006-12-05 
審決日 2006-12-18 
出願番号 特願平11-47574
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大仲 雅人  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 中澤 俊彦
秋月 美紀子
発明の名称 湿式電子写真装置  
代理人 森田 寛  
代理人 岡田 光由  
代理人 大川 譲  

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