ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L |
---|---|
管理番号 | 1152481 |
審判番号 | 不服2004-3326 |
総通号数 | 88 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-02-19 |
確定日 | 2007-02-13 |
事件の表示 | 平成 5年特許願第208455号「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 2月10日出願公開、特開平 7- 41673〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成5年7月30日の出願であって、平成16年1月16日付けで拒絶査定がなされ、同年2月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであり、請求項1?3に係る発明は、平成12年7月3日付け及び平成15年8月22日付け手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、下記のとおりである。 「【請求項1】 ポリアリーレンスルフィド樹脂100重量部及び融点250?340℃のポリテトラフルオロエチレン樹脂0.01重量部以上?1重量部未満を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。」 2.原査定の理由 原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願前日本国内において頒布された下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由を含むものである。 刊行物1:特開昭50-119040号公報 3.刊行物1の記載 (3-1)「(1)衝撃強度の低い合成樹脂に、分子量30万以上の未焼成のポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を両樹脂合計量の0.5?50重量%配合したことを特徴とする耐衝撃強度用の合成樹脂組成物」(特許請求の範囲第1項) (3-2)「種々の合成樹脂のうち、ポリスチレン、ポリフエニレンサルファイド樹脂、・・・は、それぞれ優れた特性を具有しながらも、一般に衝撃強度が低いために少なからずその用途が制限されている。」(第1頁右下欄第3?14行) (3-3)「亦、適度の弾性率を持ち高温に耐える四弗化エチレン樹脂繊維等の繊維もあるが、焼成されているため成型の際の剪断力の作用による繊維化が少なく混合する樹脂とのなじみも非常に悪い。それに非常に高価で、機械的強度の改良用樹脂としては不向きである。」(第2頁右上欄第7?12行) (3-4)「本発明は、上述したような耐衝撃性の低い各種樹脂に分子量30万以上の未焼成ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を両樹脂合計量の0.5?50重量%配合するという新規な方法によって、その性質の改善された組成物、および、該組成物を特定な条件下に成形することによって得られた耐衝撃性の高い成形体に関するものである。汎用されるPTFEには、テトラフルオロエチレンの水中乳化重合によって得られるデイスパージヨンを凝縮して得られる一次粒子径が0.1?0.3μの粒子から成るフアインパウダーと、テトラフルオロエチレンの水性媒体中における県濁重合によって製造したPTFEを微粉砕して得られるところのモールデイングパウダーの2種類があり、このモールデイングパウダーの一次粒子径は1μから数百μである。本発明には、これら2種のPTFE粉末はいずれも好適に使用することができる。」(第2頁右上欄第13行?同左下欄第10行) (3-5)「PTFEにあってはその分子量Mnと比重ρとの間に次の関係式が成立つことが知られている。 ρ=-0.0579log Mn+2.6113 したがって、この式に基いて比重から分子量を求めることができ、本発明に規定する分子量はこの関係式によって求められた数値である。」(第2頁左下欄第15?20行) (3-6)「PTFE粉末の繊維化は室温転移点(21℃)以上で剪断応力により起るが、温度の上昇とともに容易になり、とくに100℃以上融点(320?350℃)以下の温度において顕著である。しかし、融点を超えると繊維化が消失する。」(第2頁右下欄第16?20行) (3-7)「実施例1 ポリフエニレンサルフアイド樹脂(フイリツプス ペトローリアム インターナシヨナル KK製、商品名「ライトン」)の粉末(ライトンP-4)80部に、平均一次粒子径約35ミクロンのPTFE粉末(ダイキン工業KK製、商品名「ポリフロンM-12」分子量約700万)20部を加え、ミキサーにより均一に混合して分散させ、本発明組成物を得た。」(第4頁左下欄第14行?同右下欄第3行) 4.対比・判断 4-1.引用発明 刊行物1には、「衝撃強度の低い合成樹脂に、分子量30万以上の未焼成のポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を両樹脂合計量の0.5?50重量%配合した耐衝撃強度用の合成樹脂組成物」が記載され(摘示記載(3-1))、また、耐衝撃性の低い樹脂にポリフエニレンサルフアイド樹脂が包含されること(摘示記載(3-2))、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(PTFE粉末)の融点が一般に320?350℃であること(摘示記載(3-6))が記載されているから、刊行物1には、「ポリフエニレンサルフアイド樹脂に、分子量30万以上の未焼成のポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末(融点320?350℃)を両樹脂合計量の0.5?50重量%配合した耐衝撃強度用の合成樹脂組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 4-2.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、本願明細書の段落【0002】には、ポリアリーレンスルフィド樹脂の典型的なものがポリフェニレンスルフィド樹脂であると記載され、本願発明の「ポリフェニレンスルフィド樹脂」と引用発明の「ポリフエニレンサルフアイド樹脂」は同じものであり、引用発明において「ポリフエニレンサルフアイド樹脂にポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を両樹脂合計量の0.5?50重量%配合した」ということは、「ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、ポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末を0.5?100重量部配合した」ことになるので、両者は「ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部及び融点320?340℃のポリテトラフルオロエチレン樹脂0.5重量部以上?1重量部未満を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物」である点において一致し、以下の点で相違する。 相違点1:ポリテトラフルオロエチレン樹脂の分子量が、引用発明では30万以上であるのに対し、本願発明においては限定されていない点、 相違点2:ポリテトラフルオロエチレン樹脂が、引用発明では未焼成のものであるのに対し、本願発明では未焼成のものであるとはされていない点、及び 相違点3:ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、引用発明では耐衝撃強度用の樹脂組成物であるのに対し、本願発明では耐衝撃強度用に用いるものであるとはされていない点。 4-3.判断 相違点1について 本願明細書には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の分子量は記載されていないが、明細書の段落【0019】に、「ポリテトラフルオロエチレン樹脂・・・、比重1.9?2.3(特に2.0 ?2.2 )、・・・の粉末が好ましい。」と記載され、一方、刊行物1には、ポリテトラフルオロエチレンの比重と分子量との間の関係を表す式が記載されているから(摘示記載(3-5))、これを用いて比重1.9?2.3のポリテトラフルオロエチレン樹脂の分子量を求めると約23万?1927億と算出される。 このような分子量範囲のポリテトラフルオロエチレン樹脂は、(3-7)に「ダイキン工業KK製、商品名「ポリフロンM-12」分子量約700万」と摘示したように、市販され普通のものであって、かつ、本願発明において特に分子量30万以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を除外しているものでもないのであるから、そうしてみると、本願発明も、分子量30万以上のポリテトラフルオロエチレン樹脂を含むものと解され、したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。 相違点2について 引用発明における「未焼成」の意味について検討するに、焼成に関して記載される摘示記載(3-3)からでは明らかにされないものの、「これら2種のPTFE粉末はいずれも好適に使用することができる。」と未焼成のものについて記載される摘示記載(3-4)からすると、「テトラフルオロエチレンの水中乳化重合によって得られるデイスパージヨンを凝縮して得られる一次粒子径が0.1?0.3μの粒子から成るフアインパウダーと、テトラフルオロエチレンの水性媒体中における県濁重合によって製造したPTFEを微粉砕して得られるところのモールデイングパウダーの2種類があり、このモールデイングパウダーの一次粒子径は1μから数百μである。」とされ、未焼成のポリテトラフルオロエチレン樹脂粉末とは、製造後、特に処理をしていないものと認められる。 そこで本願発明をみるに、本願明細書の段落【0019】には、ポリテトラフルオロエチレン樹脂が、「ホモポリマーあるいはたとえばα-オレフィンとの共重合体であることができ、平均粒径0.01?100μ(特に0.1?10μ)、・・・の粉末が好ましい」と記載され、製造後特に処理をしていないのであるから、未焼成のものと解するのが自然であり、したがって、この点も実質的な相違点ではない。 相違点3について 本願発明は、耐衝撃強度用の樹脂組成物であるとはされていないが、本願明細書の段落【0002】において、従来技術として「ポリアリーレンスルフィド樹脂、典型的にはポリフェニレンスルフィド樹脂は、その優れた機械的性質、耐熱性、耐化学薬品製、難燃性、及び良好な加工生産性の故に、自動車器機部品、電気・電子部品、化学器機部品などの材料として使用されている」ことが記載されており、この記載からすると、本願発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、耐衝撃強度用にも用いられることは明らかであって、この点も実質的な相違点ではない。 よって、本願発明は、刊行物1に記載された発明である。 5.請求人の主張 請求人は、平成16年5月31日付け手続補正書(審判請求書の補正)において、「確かに、拒絶査定の理由において指摘されているように、本願の請求項1記載の発明のポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合量は、引例2及び3記載の配合量の一部と重複する。しかし、審査基準(第II部特許要件、第2章 2.進歩性、2.8 数値限定を伴った発明の進歩性の考え方)によれば、本願の請求項1記載の発明の数値範囲が引例2及び3の数値範囲に含まれるからと言って、数値限定に係る該請求項1記載の発明の新規性及び進歩性がそれにより直ちに否定されるものではない。効果の顕著性があれば該請求項1記載の発明の新規性及び進歩性は肯定される。」(第3頁第31?37行)と主張する。 そこで、ポリテトラフルオロエチレン樹脂の配合量につき、引用発明の0.5?100重量部という広範な範囲に対して、本願発明の0.01?1重量部未満という狭い範囲が選択発明を構成しているか否かを検討するに、本願明細書の「表1」の「比較例6」とされた例は、本願発明の組成を有する例であるのに、その効果が格別に優れたものでないことは明らかであるから、本願発明の数値範囲としたことで選択発明が成り立つとすることはできず、したがって、効果の顕著性に関する請求人の上記主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおりであって、本願発明は刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、請求項2?3に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-12-06 |
結審通知日 | 2006-12-07 |
審決日 | 2006-12-22 |
出願番号 | 特願平5-208455 |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08L)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 原田 隆興、宮本 純 |
特許庁審判長 |
西川 和子 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 鈴木 紀子 |
発明の名称 | ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物 |
代理人 | 松井 光夫 |