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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1152522
審判番号 不服2001-3246  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-05 
確定日 2007-02-07 
事件の表示 平成 9年特許願第534519号「タンパク質の可溶性二価および多価ヘテロ二量体類縁体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 2日国際公開、WO97/35991、平成11年 7月13日国内公表、特表平11-507843〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明

本願は、平成9年3月28日(優先権主張平成8年3月28日、米国)の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成12年10月11日付手続補正書により補正された特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】 少なくとも四つの融合タンパク質を含む複合分子であって:
(a)二つの第一の融合タンパク質は、(i)可変領域を含む免疫グロブリン重鎖および(ii)第一の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、
(b)二つの第二の融合タンパク質は、(i)免疫グロブリン軽鎖および(ii)第二の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、
前記融合タンパク質は会合して分子複合体を形成し、該分子複合体は二つのリガンド結合部位を含み、各リガンド結合部位は前記第一及び第二の膜貫通ペプチドの細胞外ドメインによって形成され、前記分子複合体の同種リガンドに対する親和性が、前記第一の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインおよび前記第二の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインからなる分子複合体に比較して増大している分子複合体。」

2.引用刊行物記載の発明

原査定の拒絶の理由において引用された、国際公開第96/04314号パンフレット(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 「本発明は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子の新規な複合体、及びそのような複合体の用途に関する。本発明のMHC融合複合体は、ペプチド結合用の溝もしくは切れ込みを有するMHC分子に共有結合した提示ペプチドを有する。」(第3頁第22?26行)
(イ) 「本発明の好ましい局面において、膜貫通部分を含まないMHC融合複合体(すなわち、「短縮型」複合体)は、IgG、IgM、もしくはIgAまたはそれらの断片(例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2)のような免疫グロブリンに共有結合している。・・・そのような免疫グロブリンへの結合は、MHC融合複合体単独の発現に対して多くの利点を提供する。この利点には、安定性の増大、容易なアフィニティ精製、存在する多くの結合ドメインにおける可変性(例えば、Fab様フラグメント上の1つのドメインからIgGもしくはIgM様分子上の多価ドメインへ)が挙げられる。」(第6頁第1?10行)
(ウ) 「本発明の多価MHC融合複合体は多くの適用にとって好ましい。MHC-抗原性ペプチド複合体の結合価は、その複合体がT細胞レセプターに及ぼす効果に影響を及ぼす。例えば、3DT52.5T細胞ハイブリドーマの活性化には多価にされたMHC-抗原性分子が必要である。一価の、可溶性MHC複合体はこのT細胞を活性化することができない(McCluskey,J et al.,(1988) J.Immunology 141, 1451-1455)。本発明の好ましい多価MHC融合複合体は免疫グロブリン(例えば、IgG、IgM、若しくはFab’2)に結合した複合体である。」(第26頁第20?28行)
(エ) 第1/62頁の図1Cには、免疫グロブリンの軽鎖の定常領域にMHCのα1及びα2ドメインが結合してなる融合タンパク質二つと、免疫グロブリンの重鎖の定常領域に提示ペプチド、MHCのβ1及びβ2ドメインが結合してなる融合タンパク質二つの、計四つの融合タンパク質からなる分子複合体が記載されている。

3.対比

引用例の図1Cに記載された分子複合体(以下、「引用分子複合体」という。)において、免疫グロブリン軽鎖定常領域に結合されたMHCのα1及びα2ドメイン、及び、免疫グロブリン重鎖定常領域に結合されたMHCのβ1及びβ2ドメインは、いずれも膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインである。また、引用分子複合体は、上記(エ)の記載からして、MHCのα1、α2、β1、β2ドメイン及び提示ペプチドからなるリガンド結合部位を二つ有する二価MHC融合複合体である。
そこで、本願発明と引用分子複合体を比較すると、両者は、四つの融合タンパク質を含む複合分子であって、(a’)二つの第一の融合タンパク質は、(i')免疫グロブリン重鎖及び(ii)第一の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、(b)二つの第二の融合タンパク質は、(i)免疫グロブリン軽鎖および(ii)第二の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインを含み、前記融合タンパク質は会合して分子複合体を形成し、該分子複合体は二つのリガンド結合部位を含み、各リガンド結合部位は前記第一及び第二の膜貫通ペプチドの細胞外ドメインによって形成される分子複合体である点で一致し、(1)分子複合体の免疫グロブリン重鎖部分が、本願発明においては、可変領域を含むものであるのに対して、引用分子複合体においては、可変領域を含まず定常領域のみからなる点、及び(2)本願発明の分子複合体の同種リガンドに対する親和性が、第一の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインおよび第二の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインからなる分子複合体に比較して増大しているのに対して、引用例には引用分子複合体のリガンド結合性について記載されていない点、において相違する。

4.当審の判断

まず、上記相違点(1)について検討すると、引用例の上記(イ)には、分子複合体に用いる免疫グロブリンとして、IgG、IgM及びIgAのみならず、Fab、Fab’、及びF(ab’)2が例示されている。IgG、IgM及びIgAは、一般に、定常領域及び可変領域からなる免疫グロブリン分子を指し、また、Fab、Fab’、及びF(ab’)2は、いずれも可変領域及び定常領域CH1及びCLからなる免疫グロブリン断片であるから、引用例の上記(イ)でいう免疫グロブリンは可変領域をも含めた表現であると解釈するのが自然である。
そうしてみると、引用例において、具体的に示された分子複合体(上記(エ))は免疫グロブリンの可変領域を含まないものではあるものの、用いる免疫グロブリンとして、特に可変領域を含まず定常領域のみからなる場合に限定される旨の記載はなく、むしろ可変領域を含むことが明らかなF(ab’)2などが例示されていることは上述のとおりであるから、引用例全体を参酌すれば、免疫グロブリンとして可変領域を含むものを用いる場合が包含されていることは明らかである。
したがって、引用分子複合体において、免疫グロブリンとして定常領域のみからなるものに替えて可変領域を含むものを用いることは、引用例全体を参酌することにより、当業者が容易になし得ることである。
次に、上記相違点(2)について検討すると、引用例には引用分子複合体のリガンド結合性について記載はされていないが、引用分子複合体は、上述のとおり二価であるから、第一の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインおよび第二の膜貫通ポリペプチドの細胞外ドメインからなる分子複合体、すなわち、MHCのα1、α2、β1、β2ドメイン及び提示ペプチドからなる一価の分子複合体に比較して親和性が増大しているのは当然予測されることである。また、結合価を多価にすることにより、一価の場合に比較して有利な効果が奏されることは、引用例の上記(ウ)の記載からも示唆される。
なお、請求人は、平成13年7月26日付手続補正書により理由補充された審判請求書の3.(3)において、可変領域を有することによる効果として、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の両方に可変領域を含む場合、リガンドに対する親和性が二量体は単量体に比較して著しく増大すること(実施例3の表2及び図7)を挙げている。請求人は、比較としてCapon、DJ et al., Nature, vol.337, pp.525-531 (1989)を挙げ、可変領域を有さないCD4/Igにおいて、リガンドであるgp120への親和性が二量体及び単量体では非常に小さな差異しか観察されないことから、本願における上記効果は従来技術からは全く予想できない顕著なものであると主張する。
上記主張について検討するに、Caponらの論文は、CD4の細胞外ドメインを免疫グロブリンIgG1の重鎖の定常領域に融合させてなるCD4/Ig複合体に関するもので、具体的には、用いるCD4細胞外ドメインがN末から2つのループのみからなるCD42γ1と4つのループ全てを含むCD44γ1の2種類の複合体が作成されている。これら複合体のリガンドgp120への親和性に関するデータとしては、表2に、免疫グロブリン部分を含まない可溶型CD4であるrCD4単量体、CD44γ1二量体、CD42γ1二量体及びIgG1抗体についてのデータが記載されているにとどまっている。すなわち、Caponらの論文には、膜外ドメイン-可変領域を有さない免疫グロブリン分子複合体のリガンドへの親和性に関して、単量体と二量体を比較できるデータが記載されていない。
よって、請求人が主張する上記効果が、可変領域を有することによるものであるとは認めることができない。
また、平成17年5月11日付審尋書において、2CTCR/Igの上記効果(実施例3の表2及び図7)がいかなる構成により奏されるものであるのかが明らかにされていないので、当該効果を請求項1?13に係る2CTCR/Ig以外の分子複合体にまで一般化できるとは認めることができない旨、指摘した。それに対して、請求人は、平成17年8月17日付回答書において「本出願人は、重鎖の可変領域への細胞外ドメインの結合が他の分子の細胞外ドメインを含む複合分子に同様の効果を生じないことを裏付ける資料は示されていないと信じます」と反論するのみで、実施例の2CTCR/Igについて示された効果が請求項1?13に係るそれ以外の分子複合体にまで拡張、一般化できることについては何ら合理的説明をしなかった。そして、当該回答書において提示された特許請求の範囲の補正案は、請求項1の「膜貫通ポリペプチド」を「MHCクラスII」または「TCR」に減縮しようとするものであって、特に「MHCクラスII」の場合には上述した拒絶の理由が解消するものではないことが明らかであった。
そうしてみると、本願発明1で奏される高いリガンド結合性に関する効果は、引用分子複合体と同程度かもしくは従来技術から十分に予測し得る範囲内のものと解する他ない。すなわち、相違点(2)は、実質的なものとはいえない。
結局、本願発明1に格別顕著な効果を認めることはできず、本願発明1は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといわざるを得ない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願請求項1に記載された発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その他の請求項に記載された発明については判断するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-07 
結審通知日 2006-09-12 
審決日 2006-09-27 
出願番号 特願平9-534519
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 和男  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 鵜飼 健
長井 啓子
発明の名称 タンパク質の可溶性二価および多価ヘテロ二量体類縁体  
代理人 村松 貞男  
代理人 橋本 良郎  
代理人 坪井 淳  
代理人 白根 俊郎  
代理人 鈴江 武彦  

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