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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16C
管理番号 1152569
審判番号 不服2004-12920  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-06-24 
確定日 2007-02-15 
事件の表示 平成 8年特許願第255856号「玉軸受」拒絶査定不服審判事件〔平成10年 3月31日出願公開、特開平10- 82424〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本願発明
本願は、平成8年9月27日(優先権主張 平成8年7月17日)の出願であって、その請求項1及び請求項2に係る発明は、平成18年11月17日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、これら各玉を保持した保持器とを備え、この保持器は、これら各玉を転動自在に保持すべく、全体を円環状に形成され、円周方向複数個所にポケットを設けたものである玉軸受に於いて、上記保持器は、合成樹脂を射出成形する事により造られたものであり、玉に対する保持器の変位量を僅小にする玉案内により径方向の位置決めを図られると共に、少なくとも上記各ポケットの開口周縁部の一部に面取りが施されており、この面取りは、射出成形時に金型により形成されたものであり、且つ、曲率半径が上記玉の外径の2?16%である円弧形の曲面である事を特徴とする玉軸受。」
なお、平成16年7月23日付けの手続補正は、当審において平成18年2月21日(起案日)付けで決定をもって却下されている。

2.引用刊行物の記載事項
当審において平成18年9月12日(起案日)付けで通知した拒絶の理由に引用した、本願出願前に頒布された刊行物である特開平8-240226号公報(以下、「刊行物1」という。)には、玉軸受用冠型保持器に関して、下記の事項アが図面とともに記載されている。
ア;「【従来の技術】各種回転部分を支持する為に、図3に示す様な玉軸受が広く使用されている。この玉軸受は、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道3を有する外輪4とを同心に配置し、上記内輪軌道1と外輪軌道3との間に複数個の玉5、5を転動自在に設ける事で構成されている。上記外輪4の両端部内周面には、それぞれ円輪状のシールド板6、6の外周縁を係止し、両シールド板6、6によって、上記玉5、5設置部分に存在するグリースが外部に漏洩したり、或は外部に浮遊する塵芥がこの設置部分に進入したりするのを防止している。上記複数個の玉5、5は、保持器7に転動自在に保持されている。密封装置として、上記非接触型のシールド板6、6に代えて、接触型のシール板を使用する場合もある。
上記保持器7としては、従来から種々のものが使用されている。例えば、図3?6は、従来の第1例の構造として、冠型保持器と呼ばれるもののうちの、いわゆる玉案内型の保持器を示している。尚、図6は図5のB-B断面に相当する断面図であるが、切断箇所を除く部分は簡単の為、省略して表している。この保持器7aは円環状の主部8と、この主部8の軸方向片面に等間隔に設けられた複数のポケット9、9とを備えている。各ポケット9、9は、互いに間隔をあけて配置された1対の弾性片10、10と、上記主部8の片面(図6の上面)でこの1対の弾性片10、10の間部分に設けた凹面部11とから構成される。そして、各ポケット9に玉5を1個ずつ、転動自在に保持する。この様に構成されるポケット9、9の内周面は、その全体を球状凹面としている。この様な保持器7aは、例えば合成樹脂を射出成形する事により、一体に形成している。
上記各玉5、5は、各ポケットを構成する1対ずつの弾性片10、10先端部同士の間隔を弾性的に押し広げつつ、これら1対の弾性片10、10の間に押し込む。そして、上記各玉5、5を各ポケット9、9の内側に、転動自在に保持する。これにより、上記各玉5、5が等間隔に保持されると共に、上記保持器7aが、各玉5、5によってラジアル方向位置を規制される。」(第2頁1欄17行?2欄4行;段落【0002】?【0004】参照)

同じく引用した、本願出願前に頒布された刊行物である実願平3-83030号(実開平5-34317号)のCD-ROM(以下、「刊行物2」という。)には、玉軸受用の合成樹脂製冠型保持器に関して、下記の事項イが図面とともに記載されている。
イ;「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するためのこの考案の保持器としては、環状の保持器本体の円周等配に設けられ当該保持器本体の軸方向に延びる複数の柱部によって、玉保持用のポケット部が区分されており、且つ玉案内される合成樹脂製保持器において、上記ポケット部の内面を構成する球面の中心を、保持器の径方向幅の中央よりも外周側に片寄らせてあること特徴とするものである。
【作用】
上記の構成によれば、ポケット部の内面を構成する球面の中心を、保持器の径方向幅の中心よりも外周側に片寄らせたので、ポケット部が玉の内径側を抱く量が、大きく確保される。したがって、玉によって、保持器の外径側への拡がり変形を抑制することができ、これにより、保持器の外輪側への接触を防止することができる。」(第3頁28行?第4頁11行;段落【0005】?【0006】参照)

同じく引用した、本願出願前に頒布された刊行物である周知・慣用技術集(ころがり軸受)(昭和58年12月27日、特許庁)第98頁)には、保持器に関して、下記の事項ウが図面とともに記載されている。
ウ;「2.技術の説明
保持器摺動部(ポケット内壁または保持器の外周もしくは内周)のエッジ部分によって,油のかき取り作用や油が入りにくいなどの潤滑障害をなくすために,エッジ部分を曲面とする。」(2.技術の説明の項)

3.対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項アからみて、刊行物1に記載された発明(図3の玉軸受)の玉軸受の保持器は、合成樹脂を射出成形する事により、一体成形されるものであって、外周面に内輪軌道1を有する内輪2と、内周面に外輪軌道3を有する外輪4と、これら内輪軌道1と外輪軌道3との間に転動自在に設けられた複数個の玉5,5と、これらの各玉5を保持した保持器7とを備えており、この保持器7は、各玉5を転動自在に保持すべく、全体を円環状に形成され、円周方向複数個所にポケット9を設けており、保持器7を玉案内型の保持器7aとすることによって、保持器7aが、各玉5,5によってラジアル方向(径方向)位置を規制されるものである。

そこで、本願発明の用語を使用して本願発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、「外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有する外輪と、これら内輪軌道と外輪軌道との間に転動自在に設けられた複数個の玉と、これら各玉を保持した保持器とを備え、この保持器は、これら各玉を転動自在に保持すべく、全体を円環状に形成され、円周方向複数個所にポケットを設けたものである玉軸受に於いて、上記保持器は、合成樹脂を射出成形する事により造られたものであり、玉に対する保持器の変位量を僅小にする玉案内により径方向の位置決めを図られる玉軸受。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願発明では、保持器の少なくとも各ポケットの開口周縁部の一部に面取りが施されており、この面取りが、射出成形時に金型により形成されたものであり、且つ、曲率半径が玉の外径の2?16%である円弧形の曲面であるのに対して、刊行物1に記載された発明では、保持器7aの各ポケット9の開口周縁部には本願発明のような面取りが施されていない点。

上記相違点について検討するに、保持器摺動部(ポケット内壁または保持器の外周もしくは内周)のエッジ部分によって、油(グリース)のかき取り作用や油が入りにくいなどの潤滑障害をなくすために、エッジ部分を曲面とする(面取りを施す)ことは、上記刊行物3にも記載されているように本願出願前当業者に周知の技術事項にすぎないものである。
また、射出成形によって深みぞ玉軸受用の保持器を一体成形するに際して、ポケットを形成する部分から保持器の内周面及び外周面を形成する環状面への移行部分に丸みRあるいは面取りを形成するために、金型に丸みRあるいは面取りを形成しておくことも、本願出願前当業者に周知の技術事項(もし必要なら、特開昭63-172617号公報参照)にすぎないものである。
そして、上記の2つの周知の技術事項を刊行物1に記載された発明の玉軸受の保持器7aに採用することを阻害する格別の事情は認めることができないものである。
ところで、本願発明では、面取りの程度について、曲率半径が玉の外径の2?16%である円弧形の曲面である事と限定しているが、規定された数値範囲には格別な臨界的意義を認めることができないものであり、また、面取りをどの程度の曲率半径の円弧形の曲面とするかは、実験等によって適宜所望の範囲を選択することができる設計的事項と認められるものであることからみて、本願発明のように面取りを施した部分の曲率半径が玉の外径の2?16%の円弧形の曲面とすることは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項にすぎないものである。
そうすると、刊行物1に記載された事項及び刊行物3等に記載された上記周知の事項を知り得た当業者であれば、刊行物1に記載された発明の玉軸受の保持器7aのポケット9の開口周縁部(エッジ部分)の一部にグリースが入りやすくなるような所望の面取り(曲率半径が玉の外径の2?16%の円弧形の曲面)を形成するために、金型に当該面取りを形成して射出成形するようにし、もって玉軸受の保持器7aのポケット9の開口周縁部の一部にグリースが入りやすくなるような所望の面取りを形成することにより、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではない。

また、本願発明の効果について検討しても、刊行物1に記載された事項及び刊行物3等に記載された周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のことであって、格別のものとはいえない。

なお、刊行物2を引用刊行物とした趣旨は、刊行物1での引用箇所が従来技術に関する事項であったため、すでに、玉軸受に使用される玉案内される合成樹脂製冠形保持器は、本願出願前当業者に周知のものであることを例示するために引用したものである。

ところで、請求人は、平成18年11月17日付け意見書で、「本願発明の特徴部分となる構成要件のうち、『保持器は、合成樹脂を射出成形する事により造られたもの』であり、且つ、『面取りは、射出成形時に金型により形成されたもので、曲率半径が玉の外径の2?16%』である構成に就いては、上記刊行物1?3の何れの発明にも記載されておらず、示唆する記述を含めても存在しません。又、上記両者を同時に備える構成を採用する事は、本願の出願時に於ける当業者であっても、上記刊行物1?3の記載に基づいて、容易に想到できる程度の事項ではありません。」(【意見の内容】の(5)本願発明の特許性に就いての項参照)と主張している。

しかしながら、刊行物1に記載された発明の玉軸受用冠型保持器も、刊行物1の【従来の技術】の項にも記載されているように、合成樹脂を射出成形する事により一体成形されるものである。
そして、上記刊行物3にも記載されているように、保持器摺動部のエッジ部分(ポケットの開口縁部)に面取りを形成することは本願出願前周知の事項にすぎないものであり、また、保持器のポケット部分に形成する丸みRあるいは面取りを金型に形成して、射出成形することにより当該ポケットの部分に丸みRあるいは面取りを形成することも本願出願前周知の事項であることは、上記のとおりである。
そうすると、刊行物1に記載された発明及び上記周知の事項を知り得た当業者であれば、玉軸受の保持器のポケットの開口縁部に形成する面取りを金型に形成して射出成形する事により当該面取りを保持器のポケットの開口縁部に形成することは、当業者であれば必要に応じて容易に想到することができる程度のことであって、格別創意を要することではないことも、上記のとおりである。
また、本願発明のように保持器のポケットの開孔縁部の一部に形成する面取りの曲率半径を玉の外径の2?16%の曲面とすることには、格別な臨界的意義を認めることができないものであって、当業者であれば実験等によって適宜選択することができる程度の設計的事項であることも、上記のとおりである。
よって、請求人の上記意見書中での主張は採用することができない。

4.むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1に記載された発明及び刊行物3等に記載された周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-07 
結審通知日 2006-12-12 
審決日 2006-12-26 
出願番号 特願平8-255856
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔藤村 泰智  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 大町 真義
町田 隆志
発明の名称 玉軸受  
代理人 小山 武男  
代理人 小山 欽造  
代理人 中井 俊  

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