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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1152756
審判番号 不服2004-17116  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-18 
確定日 2007-02-22 
事件の表示 平成 8年特許願第 89363号「熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月28日出願公開、特開平 9-278985〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成8年4月11日の特許出願であって、平成16年4月8日付けで拒絶理由通知がなされ、平成16年6月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年7月12日付けで拒絶査定され、これに対し、平成16年8月18日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。
2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明は、平成16年6月14日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲第1項に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)
「ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂と、エポキシ基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体、カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体及びアミノ基含有液状ポリブタジエンから選ばれる、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂及びジヒドロベンゾオキサジン環が開環して生成するフェノール性水酸基と反応し得る官能基を有する液状エラストマーとを含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。」

3 引用例の発明
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である平成7年7月25日に頒布された「特開平7-188364号公報 」(以下「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。
「1分子中に、化1の式(A)で表される構造単位及び化1の式(B)で表される構造単位を含み、(A)/(B)がモル比で1/0.25?9であり、各構造単位は、直接に又は有機の基を介して結合していることを特徴とする熱硬化性化合物。
【化1】

ただし、R1 は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基又は置換フェニル基であり、(A)、(B)の芳香環の水素は、(A)のヒドロキシル基のオルト位の一つを除き、任意の置換基で置換されていてもよい。」(請求項1)
「請求項1ないし5いずれか記載の熱硬化性化合物を硬化させてなる硬化物。」(請求項8)
また原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願の日前である昭和58年10月27日に頒布された「特開昭58-183743号公報 」(以下「引用例2」という。)には次の事項が記載されている。
(1)「OH基、COOH基、・・・、NH2基、・・・の群から選ばれた基を分子中に少なくとも2個以上有する液状エラストマーを、酸性、またはアルカリ性の触媒の存在下で、フェノール類とホルムアルデヒドとを重縮合して得られるフェノール樹脂に含有してなる非亀裂性フェノール樹脂の製造方法。」(特許請求の範囲)
(2)「フェノール樹脂は三次元網目状構造を形成しているため、硬くて脆いと言う欠点を有していた。これらの欠点を改善するために高分子量の合成ゴムを配合することは知られている。しかしながら、これらのゴムは分子量が大きくフェノール樹脂との相溶性が悪く、かつ、固体の形状であるため、加工成形のためにはゴムの素練りなど余分な工程が必要であった。本発明では、液状エラストマーをフェノール樹脂に配合させる事により加工工程を簡略にすると共に、上記の欠点を改良し、エラストマーの持つ官能基の反応によって加熱、又は燃焼時に亀裂を生じないと言う新しい現象を見いだしたのである。」(第1頁左下欄下から3行?右下欄12行)
(3)「本発明のすぐれた現象が生じるのはフェノール樹脂と混合された液状エラストマーの上記官能基がフェノール樹脂の活性メチロール基、もしくはフェニル核の水酸基と反応することによるものと思慮される。」(第2頁左上欄3行?7行)
(4)「本発明になる非亀裂性フェノール樹脂は可撓性を有し、脆さがなく加熱、もしくは燃焼時に亀裂を生じない。」(第2頁左下欄3行?6行)
3 対比
ところで、引用例1の熱硬化性化合物は、実質的に熱硬化性樹脂と同義であるから、引用例1には、「フェノール性水酸基および、ジヒドロベンゾオキサジン環の構造単位を有する熱硬化性樹脂」の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認める。
本願発明と引用発明を対比すると,両者は「ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂」で一致し、前者は「エポキシ基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体、カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体及びアミノ基含有液状ポリブタジエンから選ばれる、ジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化性樹脂及びジヒドロベンゾオキサジン環が開環して生成するフェノール性水酸基と反応し得る官能基を有する液状エラストマー」を含有する組成物なのに対し、後者はこのようなエラストマーを含有することを規定していない点で相違する。
4 判断
上記相違点について検討する。
ア 引用例2の(1)における「液状エラストマー」は、引用例2の頒布時の技術常識を参酌すると、「液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体」、「液状ポリブタジエン」が含まれるのは自明であるから、上記(1)は「OH基、COOH基、NH2基の群から選ばれた基を分子中に少なくとも2個以上有する液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体エラストマー、液状ポリブタジエンエラストマーを、酸性、またはアルカリ性の触媒の存在下で、フェノール類とホルムアルデヒドとを重縮合して得られるフェノール樹脂に含有してなる非亀裂性フェノール樹脂の製造方法。」が記載されていると認められる(上記(2)参照)。
イ 引用発明である「フェノール性水酸基および、ジヒドロベンゾオキサジン環を構造単位に有する熱硬化性樹脂を含有する熱硬化性樹脂組成物。」における熱硬化性樹脂は引用例2記載の熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂と同様に、フェニル核の水酸基を有する以上、引用例2記載の液状エラストマーの官能基と反応することは自明である。
また熱硬化性樹脂から得られる硬化物において、該硬化物に可撓性を付与することは、当業者に周知の課題であるから、引用発明にける熱硬化性樹脂組成物において、可撓性を付与するために引用例2記載の液状エラストマーを含有させることは当業者が容易になし得る事項である。
ウ なお出願人は審判請求書において、本願発明の特定の液状エラストマーを含有することで可撓性のみならず強度の点で顕著な効果が奏される旨主張しているが、本願発明の詳細な説明中において実施例を伴って具体的にその効果が開示されているのは本願発明のエストラマーである「エポキシ基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体、カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体及びアミノ基含有液状ポリブタジエン」のうち「カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体」のみであり、他の2つについては出願人の主張する効果が生じているとは認められないし、引用例2には特定の液状エラストマーとして「カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体」が記載されていると認められるし(上記イ参照)、そのような特定の液状エラストマーを含有させることにより脆さがなくなることも記載されている(上記(4)参照)以上、「カルボキシル基含有液状アクリロニトリル-ポリブタジエン共重合体」を含有させることにより強度が向上することは当業者が予測しうる効果にすぎない。
5 むすび
したがって、本願発明は,引用例1,2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-05 
結審通知日 2006-12-12 
審決日 2007-01-05 
出願番号 特願平8-89363
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武貞 亜弓  
特許庁審判長 井出 隆一
特許庁審判官 渡辺 陽子
船岡 嘉彦
発明の名称 熱硬化性樹脂組成物及びその硬化物  
代理人 穂高 哲夫  

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