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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G11B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B |
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管理番号 | 1152870 |
審判番号 | 不服2004-17610 |
総通号数 | 88 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-04-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-08-26 |
確定日 | 2007-02-23 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第254741号「スピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッド及びその製造方法並びに複合型磁気ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 4月 9日出願公開、特開平11- 96516〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成9年9月19日の出願であって、平成16年6月7日付けで手続補正がなされ、平成16年7月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月26日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成16年9月21日付けで手続補正がなされたものである。 第2 平成16年9月21日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)について [補正却下の決定の結論] 平成16年9月21日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1. 本件補正 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、補正前の、 (a) 「【請求項1】 下地層上に順次、自由側磁性層、非磁性金属層、固定側磁性層、規則系材料であるマンガン(Mn)系合金を含む層からなる磁区制御層を成膜した後に、該自由側磁性層の磁気異方性を強化するための第1の磁界中熱処理を行い、 更に、前記固定側磁性層の磁化方向を固定するため、それ以前の工程における最高処理温度を超える温度で第2の磁界中熱処理を行うことを特徴とするスピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッドの製造方法。」を、 (b) 「【請求項1】 下地層上に順次、自由側磁性層、非磁性金属層、固定側磁性層、規則系材料であるマンガン(Mn)系合金を含む層からなる磁区制御層を成膜した後に、該自由側磁性層の磁気異方性を強化するための第1の磁界中熱処理を行い、 更に、前記固定側磁性層の磁化方向を固定するため、それ以前の工程における最高処理温度を超える温度で、かつ、ネール温度より低い温度で第2の磁界中熱処理を行うことを特徴とするスピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッドの製造方法。」 と補正するものである。 本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明の「第2の磁界中熱処理」における「温度」について、「かつ、ネール温度より低い温度で」との限定を付加するものである。 2.新規事項についての判断 本件補正の、「第2の磁界中熱処理」における「温度」について、「ネール温度より低い温度」と特定する事項は、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載されていない。 請求人が根拠とする明細書の段落16、37及び関連する記載について以下詳細に検討する。 (1) 当初明細書には、 「【0016】上述のスピンバルブGMRヘッドの製造方法によれば、従来問題となっていた製造工程中の熱処理又は磁界中熱処理において固定側磁性層の磁化方向がX軸方向からY軸方向に傾いて、信号磁界に対するGMR膜の抵抗値が歪んで、線形応答しないと行った問題を減少することが出来る。即ち、上述のスピンバルブGMRヘッドの製造方法に依れば、固定側磁性層の磁化方向を自由側磁性層の磁化方向に対して要求仕様値以上に固定することが可能となり、この結果、スピンバルブGMRヘッドは外部信号磁界Hsigに対し線形に応答することが可能になる。」 「【0024】反強磁性層5は、例えば膜厚150Å以上、典型的には約250Åの規則系金属、例えばパラジウム-白金-マンガン(PdPtMn)膜,白金-マンガン(PdPtMn)膜,パラジウム-マンガン(PdMn)膜,ニッケル-マンガン(NiMn)膜,クロム-マンガン(CrMn)膜の何れか一つから成る。GMRヘッドの開発初期においては典型的には鉄-マンガン(FeMn)が使用されていたが、耐食性を向上させるために、例えばこのような白金族などの金属を使ったMn合金を使用している。規則系金属は、相変化温度が比較的高い。この実施の形態では、反強磁性層5は、代表的にはPdPtMn膜から成り、交換磁界結合がゼロになる温度(ブロッキング温度)は約320℃である。」 「【0037】図7に示すように、第1段階の最高履歴温度が230℃の条件下で、第2段階で230℃で磁界中熱処理を行うと固定側磁性層の磁化角度θpは約62度に上昇し、250℃で磁界中熱処理を行うと磁化角度θpは約77度に上昇し、280℃で磁界中熱処理を行うと磁化角度θpは約80度の値に上昇する。この結果、最高履歴温度230℃の場合において、要求仕様値磁化角度θp≧70度に対応する熱処理温度は約242℃であり、この温度以上であれば磁化角度θpは再生ヘッドとしての要求仕様を満足し、また温度を250℃に、更に280℃に上昇するば、磁化角度θpは理想状態に一層近づくことが判明した。」 「【0038】なお、最高履歴温度が高くなると、それに応じて磁化角度θp≧70度を達成するに必要な熱処理温度が高くなる。従って、第2段階の熱処理温度は、それ以前の製造工程の最高処理温度(即ち、最高履歴温度)によって決定されることが判明した。この第2段階の固定側磁性層に対する磁界中熱処理工程の後は、いかなる磁界中熱処理も行わないことが好ましい。例えば、この第2段階の磁界中熱処理の後で有機絶縁層4の熱処理を行うときは、無磁界中で行う。これによって、固定側磁性層4の磁化角度θpは、その後要求仕様を継続して満足し、このスピンバルブ膜を有する磁気抵抗効果型ヘッドは信号磁界Hsigに対して線形の出力特性を持つこととなる。」 と記載されている。 なお、原審における平成16年6月7日付け手続補正において、上記段落16、24、37は、次のように補正されている。(なお、下線は、手続補正による補正部分を示している。) 「【0016】(略)また、スピンバルブ膜を構成する磁区制御層の材料として、規則系金属であるMn系合金(例えばパラジウム・白金・マンガン(PdPtMn)、白金・マンガン(PtMn)など)を使用しているので、ネール温度(350℃以上)より低い温度で熱処理しても、固定側磁性層の磁化を所望の方向(後述する実施の形態では、磁化角度θp≧70°)にピンニングすることができる。」 「【0024】(略)このような規則系金属は、相変化温度が比較的高く、そのネール温度は350℃以上である。この実施の形態では、反強磁性層5は、代表的にはPdPtMn膜から成り、交換磁界結合がゼロになる温度(ブロッキング温度)は約320℃である。」 「【0037】(略)この結果、最高履歴温度230℃の場合において、要求仕様値磁化角度θp≧70度に対応する熱処理温度は約242℃であり、この温度以上であれば磁化角度θpは再生ヘッドとしての要求仕様を満足し、また、処理温度を250℃に、更に280℃に上げたときに、磁化角度θpは理想状態に一層近づくことが判明した。因みに、ここに挙げた各処理温度は、反強磁性層5を構成するPdPtMnやPtMn等の規則系金属が呈するネール温度(350℃以上)より低い温度である。」 (2) 当初明細書には、ネール温度という語句について一切記載がなく、相変化温度(「規則系金属は、相変化温度が比較的高い。」(段落24))及びブロッキング温度(「交換磁界結合がゼロになる温度(ブロッキング温度)は約320℃である。」(段落24))が記載されているのみである。 一方、「第2の磁界中熱処理」における温度について、230℃、250℃、280℃が例示され、約242℃の温度以上であれば磁化角度θpは再生ヘッドとしての要求仕様を満足し、また温度を250℃に、更に280℃に上昇すれば、磁化角度θpは理想状態に一層近づくこと(段落37)、及び、最高履歴温度が高くなると、それに応じて磁化角度θp≧70度を達成するに必要な熱処理温度が高くなること(段落38)が、当初明細書に記載され、これらの記載によれば、「第2の磁界中熱処理」の熱処理温度は、最高履歴温度に応じてそれより高いのがよく、高くすれば理想状態に近づくとの示唆があるといえるものの、熱処理温度の上限については、何ら示唆されていない。 しかも、「第2の磁界中熱処理」の温度の上限を、ネール温度より低い温度に特定すること及びその作用効果について、何ら記載も示唆もされていない。 (3) 請求人は、第2の磁界中熱処理温度の実施例が230℃、250℃、280℃であること、及び原審における平成16年6月7日付け手続補正で補正した、規則系Mn系合金のネール温度が350℃以上であることを根拠に、上記補正「ネール温度より低い温度で」と補正しようとするものであるが、規則系Mn系合金のネール温度が350℃以上であることが既に知られている事項であるとしても、先に検討したように、当初明細書等には、第2の磁界中熱処理において、特定の温度を上限とすることは示唆されていない。ましてや、上限を「ネール温度より低い温度」と特定することによる作用効果を、原審における平成16年6月7日付け手続補正により補正された明細書や請求の理由で新たに主張しているが、当該作用効果は、当初明細書等に記載も示唆もないことである。 よって、明細書及び図面の記載並びに当業者の技術常識を総合的に勘案しても、「第2の磁界中熱処理」の温度を「ネール温度より低い温度」と特定する事項は、自明の事項ではないので、当初明細書等に記載した事項の範囲内であるということはできない。 3. むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1. 本願発明 平成16年9月21日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至9に係る発明は、平成16年6月7日付け手続補正書によって補正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至9に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】上記「第2の1の(a)」のとおり。」 2. 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-167318号公報(平成9年6月24日出願公開。以下「引用例1」という。)には、「スピンバルブ磁気抵抗ヘッドを具備する磁気ヘッド装置の製造方法」に関し、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付与したものである。) (ア) 「【0004】一般に、薄膜磁気ヘッドのウエハプロセスや加工プロセスには、100?250℃程度の加熱を伴う熱処理工程が必ず存在している。例えば、ウエハプロセスでは絶縁膜のレジストキュア工程、加工プロセスでは治具への磁気ヘッドの接着工程(ホットメルト系接着材を用いた場合)等が存在している。スピンバルブを利用したMRヘッドの製造プロセスにおいて、このような熱処理、特にそのプロセス温度が交換バイアス磁界を受ける磁性体薄膜層の一軸異方性を変化させるような温度で熱処理を行う場合、その都度、反強磁性バイアス方向を所定の方向に制御することが必要となる。このような異方性の制御法として、磁性層に常に一定方向に磁場を印加した状態でそのネール温度前後の温度で熱処理を行うことが考えられる。」 (イ) 「【0010】 【課題を解決するための手段】本発明によれば、非磁性薄膜層によって分離される第1及び第2の軟磁性体薄膜層を少なくとも含み、これら第1及び第2の軟磁性体薄膜層のうちの一方が反強磁性体薄膜層によってピン止めされるスピンバルブ積層体を基板上に形成するステップと、スピンバルブ積層体を用いてスピンバルブ磁気抵抗ヘッドを形成するステップと、スピンバルブ磁気抵抗ヘッドを用いて磁気ヘッド装置を組み立てるステップとを備えており、上述した各ステップの少なくとも1つのステップが、ピン止めされる軟磁性体薄膜層の一軸異方性に変化を与える温度による熱処理工程を含んでおり、この熱処理工程を含む全てのステップが終了した後に、スピンバルブ磁気抵抗ヘッドのトラック幅方向と直交する方向に磁場を印加しつつ熱処理を行いピン止めされる軟磁性体薄膜層に一軸異方性を与えるための最終熱処理ステップをさらに備えたスピンバルブ磁気抵抗ヘッドを具備する磁気ヘッド装置の製造方法が提供される。 【0011】軟磁性体薄膜層をピン止めして一軸異方性を与えるための最終熱処理ステップが、このピン止めされる軟磁性体薄膜層の一軸異方性に変化を与える温度による熱処理工程を含む全てのステップが終了した後に行われるので、反強磁性体として、ネール温度の低いFeMnやNiOを採用した場合にも、軟磁性体薄膜層に付与される異方性を正しくかつ確実に制御可能である。 【0012】最終熱処理ステップが、熱処理後のピン止めされる軟磁性体薄膜層のBHループのシフト量(Hua)がそのピークの20%となる温度以上の温度で熱処理を行う熱処理ステップであることが好ましい。 【0013】最終熱処理ステップが、反強磁性体薄膜層のネール温度近傍以上の温度で行われる熱処理ステップであることがより好ましく、反強磁性体薄膜層のネール温度以上の温度で行われる熱処理ステップであることが最も好ましい。 【0014】最終熱処理ステップの前に行われる熱処理工程が、300℃以下の温度で行われることが好ましい。 【0015】最終熱処理ステップ自体も、300℃以下の温度で行われることが好ましい。このように、いずれのステップも300℃以下の温度で行うことにより、各薄膜層の劣化の可能性が非常に少なくなる。 【0016】最終熱処理ステップの前に行われる熱処理工程が、トラック幅方向に磁場を印加して熱処理を行う工程を含むことが好ましい。これにより、ピン止めされない方の軟磁性体薄膜層、下部シールド層、上部シールド層及び上部ポール層等の磁性層の特性が安定化する。」 (ウ) 「【0021】(略)この基板1上に、例えばTaによる下地層2が約70Åの厚さで成膜される。(略) 【0022】次いで、この下地層2上に、スピンバルブ積層体が積層される。スピンバルブ積層体は、この実施形態では、第1の軟質強磁性体薄膜層3としてNiFeを約70Å、非磁性金属体薄膜層4としてCuを約30Å、第2の軟質強磁性体薄膜層5としてNiFeを約70Å、及び反強磁性体薄膜層6としてFeMnを約100Åの厚さのものがそれぞれこの順序で成膜されることによって形成される。(略)」 (エ) 「【0029】(略)このウエハプロセスにおいて、第2の軟質強磁性体薄膜層5の一軸異方性に変化を与える温度による熱処理工程は、ほとんどが真空磁場中で行われる。例えば、フォトレジスト(ステンシル14)のレジストキュア工程は真空磁場中で行われる。即ち、第1の軟質強磁性体薄膜層3の既に付与されている磁化容易軸方向(図2のaに示すトラック幅方向)に素子に実効的に印加される磁場が数百(Oe)エルステッド程度となるような磁場を真空中で印加して熱処理を行う。これにより、第1の磁性体薄膜層3、並びに図示されていない下部シールド層、上部シールド層及び上部ポール層等の磁性層の特性が安定化する。 【0030】次に、以上述べたウエハプロセス終了後に行われる加工プロセスについて説明する。 【0031】図3は、この加工プロセスの概略的な工程図である。まずステップS1において、多数の磁気ヘッド素子が形成されているウエハを治具に接着する。熱可塑性の樹脂を用いた接着をする場合には、第2の軟質強磁性体薄膜層5の一軸異方性に変化を与える温度を印加する熱処理、例えば反強磁性体薄膜層6のネール温度近傍の温度(100?150℃)を印加する熱処理が行われる。(略)」 (オ) 「【0039】次のステップS14では、第2の軟磁性体薄膜層5をピン止めして一軸異方性を与えるための最終熱処理工程が行われる。この最終熱処理工程では、まず、分離した各スライダピースを治具に装着し、第1の軟質磁性体薄膜層3の磁化容易軸と直交する方向(図2のbに示すトラック幅方向に直交する方向)に5?10(KOe)キロエルステッドの磁場(素子に実効的に印加される磁場が数百(Oe)エルステッド程度となるような磁場)を印加しながら、熱処理後の第2の軟質磁性体薄膜層5のBHループのシフト量(Hua)がそのピークの20%となる温度以上の温度、より好ましくは反強磁性体薄膜層6のネール温度近傍以上の温度、最も好ましくは反強磁性体薄膜層6のネール温度以上の温度(150?200℃)を印加する。この磁場中熱処理は、約1時間行い、好ましくは真空中で行うが真空中でなくとも実施可能である。」 (カ) 「【0044】次に、図4?図7を用いて、第2の軟質強磁性体薄膜層5の一軸異方性に変化を与える温度及び第2の軟磁性体薄膜層5をピン止めして一軸異方性を与えるための最終熱処理工程の温度について説明する。 【0045】図4及び図5は、異方性磁気抵抗(AMR)効果を利用した構造体の熱処理温度に対するピン止めされる軟磁性体薄膜層のHuaの特性を示している。(略) 【0046】図6及び図7は、スピンバルブMR効果を利用した構造体の熱処理温度に対するMR変化率特性及びピン止めされない側の軟磁性体薄膜層のBHループのHcの特性を示している。ただし、熱処理温度は、磁場中で成膜後、その磁場と直交する方向(ピン止めされない側の軟磁性体薄膜層の磁化容易軸と直交する方向)に1KOeの磁場を印加した状態で1時間行う熱処理の温度であり、MR変化率は熱処理後、熱処理磁場方向と同一方向に100Oeの磁場を印加した状態で室温で測定したものを示しており、Hcはピン止めされない側の軟磁性体薄膜層の磁化容易軸方向での室温で測定したBHループの保磁力を示している。また、図6は反強磁性体としてFeMnを、図7は反強磁性体としてNiOを用いた場合である。(略) 【0047】図4及び図5から明らかのように、熱処理が、これら例の場合で反強磁性体のネール温度より90?140℃低い温度以上の温度で行われると、Huaの値がゼロから変化し、このHuaの値がある程度大きくなると、ピン止めされる軟質磁性体薄膜層の一軸異方性に多少の変化を与える。従って、このような軟質磁性体薄膜層の一軸異方性に変化を与える温度以上の温度で行われる熱処理が全て終了した後に最終熱処理工程を行っている。 【0048】最終熱処理工程の温度は、ピン止めされる軟磁性体薄膜層のHuaの値がそのピーク値の20%となる温度以上の温度で行うことが望ましい。Huaの値がそのピーク値の20%となる温度とは、図4の例では90℃前後、図5の例では140℃前後である。最終熱処理が低い温度で行われると、ピン止めされる軟磁性体薄膜層の一軸異方性が正しい方向に制御されない場合がある。(略)本願の発明者等の実験によれば、熱処理後、室温で測定した熱処理磁場方向でのピン止めされる軟磁性体薄膜層のBHループのシフト量Huaの値がそのピーク値の20%となる温度より低い温度でこの最終熱処理を行うと、ピン止めされる軟磁性体薄膜層の一軸異方性が正しく制御されないことによって不良ヘッドが製造される割合(不良率)が50%以上となってしまうことが確認された。従って、最終熱処理工程は、Huaの値がそのピーク値の20%となる温度以上の温度で行うことが望ましい。さらに、実際の特性上から、反強磁性体薄膜層のネール温度近傍以上の温度で行うことがより好ましく、反強磁性体薄膜層のネール温度以上の温度で行うことが最も好ましい。」 3. 対比判断 (1) 対比 本願発明と引用例1に記載された発明とを対比する。 上記(1)で摘示した記載事項、特に(イ)(下線部参照)によれば、引用例1には、 「非磁性薄膜層によって分離される第1及び第2の軟磁性体薄膜層を少なくとも含み、これら第1及び第2の軟磁性体薄膜層のうちの一方が反強磁性体薄膜層によってピン止めされるスピンバルブ積層体を基板上に形成するステップと、スピンバルブ積層体を用いてスピンバルブ磁気抵抗ヘッドを形成するステップと、スピンバルブ磁気抵抗ヘッドを用いて磁気ヘッド装置を組み立てるステップとを備えており、上述した各ステップの少なくとも1つのステップが、ピン止めされる軟磁性体薄膜層の一軸異方性に変化を与える温度による熱処理工程を含んでおり、この熱処理工程を含む全てのステップが終了した後に、スピンバルブ磁気抵抗ヘッドのトラック幅方向と直交する方向に磁場を印加しつつ熱処理を行いピン止めされる軟磁性体薄膜層に一軸異方性を与えるための最終熱処理ステップをさらに備えたスピンバルブ磁気抵抗ヘッドを具備する磁気ヘッド装置の製造方法であって、 最終熱処理ステップの前に行われる熱処理工程が、トラック幅方向に磁場を印加して熱処理を行う工程を含み、当該工程により、ピン止めされない方の軟磁性体薄膜層の磁性層の特性が安定化する、磁気ヘッド装置の製造方法。」 の発明が記載されている。 引用例1に記載された発明の「スピンバルブ磁気抵抗ヘッド」は、本願発明の「スピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッド」に相当している。 引用例1に記載された発明の「非磁性薄膜層によって分離される第1及び第2の軟磁性体薄膜層を少なくとも含み、これら第1及び第2の軟磁性体薄膜層のうちの一方が反強磁性体薄膜層によってピン止めされるスピンバルブ積層体」は、具体的には、基板の上に形成されたTa等の下地層の上に積層され、第1の軟質強磁性体薄膜層、非磁性金属体薄膜層、第2の軟質強磁性体薄膜層、及び反強磁性体薄膜層がこの順で成膜されて形成されている(上記(ウ)参照)から、引用例1に記載された発明の「第1の軟磁性体薄膜層」「非磁性薄膜層」「第2の軟磁性体薄膜層」「反強磁性体薄膜層」は、それぞれ本願発明の「自由側磁性層」「非磁性金属層」「固定側磁性層」「磁区制御層」に相当している。 そして、引用例1に記載された発明の、「非磁性薄膜層によって分離される第1及び第2の軟磁性体薄膜層を少なくとも含み、これら第1及び第2の軟磁性体薄膜層のうちの一方が反強磁性体薄膜層によってピン止めされるスピンバルブ積層体を基板上に形成するステップ」は、磁区制御層の材料を除いて、本願発明の、「下地層上に順次、自由側磁性層、非磁性金属層、固定側磁性層、」「磁区制御層を成膜した」に相当している。 引用例1に記載された発明の「最終熱処理ステップの前に行われる熱処理工程が、トラック幅方向に磁場を印加して熱処理を行う工程を含み、当該工程により、ピン止めされない方の軟磁性体薄膜層の磁性層の特性が安定化する」の「トラック幅方向に磁場を印加して熱処理を行う工程」は、本願発明の「自由側磁性層の磁気異方性を強化するための第1の磁界中熱処理」に相当している。 引用例1に記載された発明の「スピンバルブ磁気抵抗ヘッドのトラック幅方向と直交する方向に磁場を印加しつつ熱処理を行いピン止めされる軟磁性体薄膜層に一軸異方性を与えるための最終熱処理ステップ」は、本願発明の「固定側磁性層の磁化方向を固定するため」に行う「第2の磁界中熱処理」に相当している。 よって、本願発明と引用例1に記載された発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。 (一致点) 「下地層上に順次、自由側磁性層、非磁性金属層、固定側磁性層、磁区制御層を成膜した後に、該自由側磁性層の磁気異方性を強化するための第1の磁界中熱処理を行い、 更に、前記固定側磁性層の磁化方向を固定するため、第2の磁界中熱処理を行うスピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッドの製造方法。」 (相違点1) 本願発明は、「磁区制御層」として「規則系材料であるマンガン(Mn)系合金を含む層からなる磁区制御層」を用い、「第2の磁界中熱処理」の熱処理温度を「それ以前の工程における最高処理温度を超える温度で」で行うと特定しているのに対して、引用例1に記載された発明は、そのように特定しない点。 (2)判断 引用例1において、第1の磁界中熱処理の温度が、記載されていないが、薄膜磁気ヘッドウエハプロセスや加工プロセスには、100℃?250℃程度の加熱を伴う熱処理工程が必ず存在している(上記(ア)段落4参照)と記載され、また、磁化固定のための第2の磁界中熱処理より前の、加熱工程は100?150℃が例示されている(上記(エ)段落29参照)ことからすれば、第1の磁界中熱処理の温度は、せいぜい250℃程度以下といえる。一方、引用例1の磁化固定のための第2の磁界中熱処理の温度は、磁化固定の作用のためには、「熱処理後のピン止めされる軟磁性体薄膜層のBHループのシフト量(Hua)がそのピークの20%となる温度以上の温度」でよく、「反強磁性体薄膜層のネール温度近傍以上の温度」が好ましく、さらに「反強磁性体薄膜層のネール温度以上の温度で行われる熱処理」(150?300℃、又は200?300℃)がより好ましいと記載され(上記(イ)段落12、13参照)、より高い温度で熱処理するとよいことが示され、熱処理温度が上がる(ネール温度を超えた場合は同レベルであることは当然であるから除く)と、磁化固定の作用が大きいことが、示唆されている(上記(カ)段落47?48、図4?図7参照)。 よって、引用例1には、第2の磁界中熱処理において、それ以前の温度より高い温度で熱処理することも、低い温度で熱処理することも、記載されているといえ、熱処理温度が上がると、磁化固定の作用も大きいことが、示唆されている。 また、引用例1に記載された発明と同様のスピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッドを構成するスピンバルブ積層体の磁区制御層に用いる反強磁性体層として、規則系材料であるMn系合金を含む層は、周知である。例えば、特開平6-314617号公報(PdPtMn等(特許請求の範囲、段落18、21等))、特開平6-236527号公報(NiMn(特許請求の範囲の請求項1,3等))、特開平6-60336号公報(NiMn(段落14等))、特開平6-223336号公報(NiMn(段落27等))、特開平9-22510号公報(NiMn(段落7等))、特開平9-35212号公報(NiMn(段落10?12、従来例の特開平6-76247号公報に関連する記載))を参照されたい。 してみると、引用例1に記載された発明において、その磁区制御層として周知の規則系材料であるMn系合金を含む層を採用した際に、第2の磁界中熱処理の温度として、「それ以前の工程における最高処理温度を超える温度で」熱処理することは、反強磁性体材料が異なっても、当業者が容易に想到しうることであり、磁化の固定を確実に行う効果は、引用例1の記載に基いて、当業者であれば、予測される範囲内である。すなわち、本願発明の作用効果について、明細書には、第2の磁界中熱処理の温度が、250℃,280℃の場合に、230℃の場合(第1の磁界中熱処理の温度と同じ温度)より、磁化角度θpが理想状態に近づき磁化固定の効果を奏することが具体的に記載され(段落35?37)、「なお、最高履歴温度が高くなると、それに応じて磁化角度θp≧70度を達成するに必要な熱処理温度が高くなる。」(段落38)と記載されているが、これらの記載からは、熱処理温度の下限を「それ以前の工程における最高処理温度」と特定することにより格別の作用効果を奏しているとは認められず、引用例1に記載された発明及び周知の事項に基いて予測される範囲内の効果にすぎない。 なお、本願発明は、引用例1に例示された反強磁性体の材料と異なる材料を特定しているので、その具体的な熱処理温度が異なることは当然であるところ、規則系材料であるMn系合金では、第2の磁界中熱処理の温度として、260?280℃程度が通常採用されていること(例えば、特開平6-223336号公報(NiMnを用いて、260℃の熱処理温度で磁化方向を設定すること(段落27等))、特開平9-22510号公報(NiMnを用いて、280℃での磁界中熱処理により磁化方向を固定すること(段落23))、特開平9-35212号公報(NiMn合金を用いて260℃に近い高温で規則化の処理を行うこと(段落10?12、従来例の特開平6-76247号公報に関連する記載))参照。)を考慮すると、本願発明の上記相違点における特定が格別の意義をもつとはいえず、当業者が適宜なし得る程度の温度の選択であるともいえる。 なお、請求人は、請求の理由や平成16年6月7日付け意見書で、規則系材料であるMn系合金を含む層からなる磁区制御層を用いることにより、ネール温度(350℃以上)以下で熱処理を行っても固定側磁性層の磁化方向を所望の方向にピニングすることができるという特有の作用効果を奏すると、補正された段落16等を参照して、本願発明の作用効果を主張している。しかしながら、根拠とされる段落の個所は、補正により加入された部分であり、当初明細書に記載されていない事項であるから、請求人の主張は採用できない。また、請求人は、引用例1で用いられているFeMnやNiO等の不規則系材料では、ネール温度(150?200℃)より高い温度で磁化方向の固定を行っていると主張しているが、引用例1には、「熱処理後のピン止めされる軟磁性体薄膜層のBHループのシフト量(Hua)がそのピークの20%となる温度以上の温度」「反強磁性体薄膜層のネール温度近傍以上の温度」と記載され、図4乃至図7に示されるように、ネール温度より低い温度で行うことが記載されているので、請求人の主張は採用できない。そして、規則系材料であるMn系合金を含む層からなる反強磁性層は、先に示したとおり周知の事項であり、ネール温度以下で磁化方向を所望の方向に固定することも先に示したとおり周知の事項であるから、請求人の主張する効果は、引用例1及び周知の事項から予測しうる範囲内のことにすぎない。 4. むすび 以上のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された引用例1に記載された発明及び周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。他の請求項を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-11-02 |
結審通知日 | 2006-11-28 |
審決日 | 2006-12-12 |
出願番号 | 特願平9-254741 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G11B)
P 1 8・ 561- Z (G11B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中村 豊 |
特許庁審判長 |
小林 秀美 |
特許庁審判官 |
中野 浩昌 川上 美秀 |
発明の名称 | スピンバルブ磁気抵抗効果型ヘッド及びその製造方法並びに複合型磁気ヘッド |
代理人 | 岡本 啓三 |