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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 H01J
管理番号 1152889
審判番号 不服2004-6758  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-04-05 
確定日 2007-02-22 
事件の表示 平成 7年特許願第500588号「アモルフィック・ダイヤモンド・フイルムの平坦な電界放出陰極」拒絶査定不服審判事件〔平成 6年12月 8日国際公開、WO94/28571、平成 8年11月12日国内公表、特表平 8-510858〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続きの経緯/本願発明
本願は、平成5年12月6日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1993年6月2日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし30に係る発明は、特許法第184条の6第2項の規定により、願書に最初に添付した明細書とみなされるその国際出願に係る明細書の翻訳文、平成7年12月6日付けの手続補正書、平成16年5月6日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし30に記載されたとおりのものとみとめられるところ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。)。

「【請求項1】導電性材料の層と、
複数の分布した局部的電子放出サイトを含む放出表面をもち、前記導電性材料全体にわたり付着された低い有効仕事関数の材料の層、
を含んで成る陰極。」

【2】先願発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前を優先権主張の日とする他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平6-23051号(優先権主張1993年2月1日。平成6年11月15日出願公開。特開平6-318428号公報参照。)の願書に最初に添付された明細書及び図面(以下、「先願明細書等」という。発明者:ジェームス・イー・ジャスキー。出願人:モトローラ・インコーポレイテッド。)には、次の事項が記載されている。

a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】放出領域における構造に、電気的にアクティブな欠陥(53,54,55)を設けた、所定の構造を有する材料層(52)を形成されたことを特徴とする電子放出器。
【請求項2】支持基板を含み、その一表面上に、ダイヤモンドおよびダイヤモンド状炭素のいずれか一方を含む材料層(52)が形成され、前記材料層は、電子放出器を規定する、電気的にアクティブな欠陥(53,54,55)を備えたダイヤモンド結合構造を有することを特徴とする電界放出素子。
【請求項3】支持基板を含み、その一表面上に、ダイヤモンドおよびダイヤモンド状炭素のいずれか一方を含む材料層(52)が形成され、前記材料層は、電子放出器を規定する、電気的にアクティブな欠陥(53,54,55)を備えたダイヤモンド結合構造を有し、前記材料層は、更に水素添加された表面(56)を有し、かつ前記電気的にアクティブな欠陥は、前記水素添加表面から離間された関係で、前記材料層内に配置されることを特徴とする電界放出素子。」

b)「【0002】【従来の技術】ダイヤモンドが負の電子親和力(affinity)を有することは公知である。また、ダイヤモンドがその負の電子親和力によって電子を放出すること、そしてモリブデンやタングステンのような他の一般的な電子放出器より、実際かなり低い電界で放出することも公知である。これは現在のところ制御できない機能である。放出器の電流は、予測よりもかなり低いことが多く、放出に対する全ての基準を満たしていると思われるサンプルでも、全く放出しないことがある。
【0003】価電子帯及び導電帯間の大きなエネルギ・バンドギャップ(5.5eV)のために、ダイヤモンド半導体におけるキャリアの数は、室温では必然的に少なくなる。現在知られているドーパントは、ダイヤモンドにおいては非常に大きなイオン化エネルギ(leV程度)を有しており、それ故+250℃未満での導電への寄与は少ない。したがって、ダイヤモンドの有効仕事関数(effective work function)が正で、0.2eVと0.7eVとの間のどこかにあると考えられるとしても(その電子親和力は負としても)、その飽和電流は低い。飽和電流を上昇させることは、解決すべき第1の課題である。」

c)「【0008】【課題を解決するための手段】上記問題の解決および目的の実現は、放出領域(site)において構造に電子的にアクティブな欠陥がある、所定の構造を有する材料層を形成された、電子放出器によって達成される。
【0009】上記問題の解決および目的の実現は、放出領域において電子的にアクティブな欠陥のあるダイヤモンド接合構造を有する、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素を含む材料層を形成された電子放出器によって達成される。
【0010】上記問題の解決および目的の実現は、ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素を含む材料層を、その一表面に有する支持基板を含む電界放出素子によって達成される。前記ダイヤモンドまたはダイヤモンド状炭素はダイヤモンド結合構造を有し、電子的にアクティブな欠陥が電子放出器を規定するものである。」

d)「【0011】【実施例】図1を具体的に参照すると、ダイヤモンド状炭素の格子構造10における、四面体(tetrahedral)結合を有する原子が示されている。本開示のために、「ダイヤモンド状炭素」の定義を、一般的にsp3四面体結合の数度(abundance of sp3 tetrahedral bonds)と呼ばれる、公知のダイヤモンド結合状態に全体的に接合された炭素原子によって結合が形成され、ダイヤモンドならびにその他のダイヤモンド結合を含む材料から成る炭素とすることを理解されたい。また、本開示のために、「グラファイト状炭素」の定義を、一般的にsp2四面体結合の数度(abundance of sp2 tetrahedral bonds)と呼ばれる、公知のグラファイト結合で全体的に結合された炭素原子によって結合が形成され、グラファイトならびにその他のグラファイト結合を含む材料から成る炭素とすることを理解されたい。
【0012】ダイヤモンドとしての炭素の空間格子構造は、面心立方(fcc)である。この格子の主要な基礎は、各格子点に関して0,0,0および1/4,1/4,1/4に2つの等しい炭素原子があることである。これによって四面体接合が得られ、各炭素原子は4個の最も近接した原子と12個の次に最も接近した原子とを有し、8個の炭素原子が単位立方体を形成する。この構造は、共有結合(covalent bonding)の結果である。この共有構造では、特定の原子間に限定された結合(definite link)があり、共有される電子がそれらの時間の殆どを、2つの共有する原子間の領域で費やしている(即ち、これらの原子間で確率波(probability wave)が最も密である)。これによって負電荷の集中(concentration)から成る結合が形成されるので、隣接する結合(bond)が互いに反発しあう。炭素のような1つの原子が数個の結合(ダイヤモンドでは4つ)を有する時、その接合は互いに等しい角度で生じる。ダイヤモンドの場合、109°である。共有結合は、方向性のある結合であり、非常に強力である。ダイヤモンド内の炭素原子の結合エネルギは、分離中性原子(separated neutral atom)に対して7.3eVである。
【0013】図1に示すダイヤモンド状格子構造10では、この構造の(111)面が稠密六方(hcp:hexagonal closely packed)構造の基本面と同一であるので、非常に興味深い。図2を参照して、(111)層(Aと命名された原子)が設けられ、最上部に第2の同様な層(Bと命名された原子)が配置された場合、この構造はhcpと異なるものではない。即ち、この構造は面心立方または稠密六方構造となり得るものである。第3層(Cと命名された原子)が前記構造上に配置されれば、hcpとfcc構造との間で決定が下されなければならない。この第3層が、前記構造上で第1層と同じ位置に配置されると、即ちC原子が直接A原子上にあるが、Z方向にずれている場合、この構造はhcp構造即ちグラファイトである。このような構造の層を、ABABABAB構造と記載することができる。第3層が、X,Y,Z方向にAおよびB原子の両方からずれた、第2の可能な位置に配置される場合(図2参照)、この構造はfcc構造即ちダイヤモンドとなる。図2の層は、ABCABCABC構造と記載することができる。両方の構造において(図2のグラファイトおよびダイヤモンド)、最も近接する原子数は4である。結合エネルギが最も近接する結合のみに依存するのであれば、ダイヤモンドのfcc構造とグラファイトのhcp構造との間には相違がない。しかしながら、グラファイト層内の原子同士は1.4オングストロームしか離れておらず、強力な共有結合によって結合されているが、層間では原子の分離間隔が3.3オングストロームあるので、弱いバン・デル・ヴァール(van der waal)力しかない。グラファイトの共有結合は面状、即ち、結合が90°離れた面にある。
【0014】ダイヤモンドとグラファイトの電気的特性は非常に異なる。自然にホウ素が注入されたダイヤモンド、タイプIIbは、104オーム・センチメートルから、真性ダイヤモンドの場合の1014オーム・センチメートルより大きな値までの固有抵抗を有する。グラファイトは、実際金属導電体であり、導電率は1375x10-6オーム・センチメートルである。これらの導電率の大きさは、少なくとも7桁の差、そして真性特性に対しては20桁の差となる。グラファイトは、1立方センチメートル当たり5x1018個のキャリアを有する半金属(semi metal)である。グラファイトの導電度は、六方面に平行な方向には非常に高く、垂直な方向(c軸)には低い。共有接合の、それに付随する異なるエネルギ・レベルとの配向(orientation)を相違させれば、効率的な導電路として作用する。このように、グラファイトとダイヤモンドとの間の結晶構造における小さな変化が、電気特性の大きな相違となる。」

e)「【0015】ダイヤモンドに起こり得る結晶の欠陥で、本発明の有用な特性を生み出すものが数種類ある。第1の欠陥は螺旋転位であり、これを用いた2つの実施例を図3および図4に示す。60°の転位もあり、これは容易に延長ネットワーク、および多くの他の転位やその変形を形成することができる。ダイヤモンド格子では、3つの滑り面(slip plane)(001),(110),(111)面がある。(111)面が最も重要な滑り面であり、実際これが殆どの異様な状況下で生じる唯一の滑り面と思われる。
【0016】格子についての考慮から、ダイヤモンド格子内のいずれか2つの炭素原子間の最短遷移距離は、<110>方向に沿っていることが明白である(具体的には、<1/2,1/2,0>であり、これは立方面の対角線の半分に沿っている)。<110>方向におけるバーガース・ベクトル(Burgers vectors)を伴う転位が最も安定なものである(自由エネルギが最も低い)。この格子ではいかなる任意の方向でも、連続する<110>方向の和として考えることができ、そして単独の転位は、それら自体の軸に対してこれら同一方向を有する。バーガース・ベクトルと<110>方向に沿った軸との双方を有する3種類の単独の転位が、螺旋転位、60°転位(転位軸に対してそのバーガース・ベクトルが60°に配向される)、および(100)映進面(glide plane)を有するエッジ・タイプ転位である。これらの転位は全て、電気的にアクティブな欠陥として有用なものである。
【0017】図5を具体的に参照すると、ダイヤモンド格子における螺旋欠陥の概略表現が示されている。螺旋欠陥は一般的に剪断の結果であり、ダイヤモンド材料の成長または付着過程で生じる。この転位は、他のものと同様、周囲の結晶に、弾性歪み場(elastic strain field)を形成する。…
【0024】…歪みエネルギは、17.8eV/オングストロームまたは結合長あたり44.4eVとなる。これは明らかに、ダイヤモンド格子の共有接合を破壊し、局所的再編成を可能にするのに十分なエネルギである。単一結合および二重結合でも破壊し再形成することは可能である。結合を1つの面内の共有接合に再編成することによって、グラファイト状材料の単層が形成されると共に、その電子的特性が得られる。次に、このグラファイト構造の薄膜は、その特性をダイヤモンドの構造に与えて、電子的にアクティブな欠陥を形成する。」

f)「【0025】図6を参照すると、電子的にアクティブな欠陥32を有するダイヤモンド状材料層30が示されている。通常、層30内の欠陥32は、薄い(数十オングストローム)ダイヤモンド被覆を設けた金属導体の先鋭端(半径10オングストローム)で形成された電子放出器と同様に動作する。従来技術の電界放出素子に対するこの構造の改良点は、図7?図9から明らかである。図7および図8は、スピント放出器(Spindt emitter)と一般的に呼ばれている先端(tip)のような、従来技術の電界放出素子と、図6の素子の電子放出特性を、それぞれ示すグラフである。図7は、放出される電流Iと先端に印加される電圧即ち電界電位とのグラフである。図7では、半径200オングストローム、材料の仕事関数が4.5eVの典型的な従来技術の先端を用いた。図8のグラフでは、図6の放出器が、10オングストロームの半径と0.2eVの材料の仕事関数とを有する放出器先端のように動作することがわかる。更に、電子放出は、図6の放出器のほうが、大幅に低い電圧即ち電界電位の印加でも、非常に多い。
【0026】図6の構造は先端を鋭くした放出器と考えられるので、代替構造も存在する。電子的にアクティブな欠陥32の位置が、欠陥32内の自由電子がダイヤモンド層のない自由空間を見るように(即ち、層30の表面)決められた時、欠陥32は簡単な電界放出器と考えられる。図9は、上述の表面欠陥の電子放出(曲線36)を従来技術の電界放出素子(曲線35)と比較するグラフである。曲線35,36は、先端半径の関数として、電界におけるスタンディング・ロッド(standing rod)に対する電子放出を描いたもので、曲線35に対しては仕事関数4.5eVのモリブデン・ロッドを用い、そして曲線36に対しては上述の仕事関数0.5eVの表面欠陥を用いた。直径が短くなるにつれ、表面欠陥が低い仕事関数を持つことによる利点が、先鋭な先端に対して、徐々に失われる。スタンディング・ロッドが十分先鋭であれば、その仕事関数の重要性はなくなる。それでも仕事関数が低いことは望ましいが、放出器の直径が短くなるにしたがって、放出の増強に対する必要性は弱まる。上述の欠陥(即ち、ダイヤモンドの表面)は、想像し得る従来技術の電界放出器の先端よりも先鋭であるので、仕事関数と半径との双方においてかなりの利点がある。
【0027】導電性要素のトンネリング・バリア(tunneling barrier)を低くすれば、放出される電流が大きく上昇することは明白である。この仕事関数の変化は、明らかに重要な効果であり、欠陥のふるまいをダイヤモンドの表面に関連付けるものである。言い替えれば、ダイヤモンドの表面が汚染される、または非ダイヤモンド構造に再編成される(先の例を除いて)とすると、利点が失われる可能性がある。ダイヤモンド層が表面においてもダイヤモンド結合構造を有することを保証するために、水素添加(hydrogenation)として知られるプロセスを、露出面に施す。図10を参照すると、このプロセスが簡素化されたダイヤモンド結合を用いて示されている。ここで、水素添加されていない炭素原子40,41は、安定な低エネルギ構造に再編成されており、この構造はバルク(bulk)の延長ではないので、バルクの特性を有さないことがわかる。炭素原子40,41の間で二重接合が形成されており、これは周囲の単一結合より強力なので、炭素原子40,41を僅かに近付け合うように引き付ける。炭素原子40,41によって形成された低エネルギ構造は、貧弱な電子放出器であり、ダイヤモンドからこの特性を要求する素子においては望ましくない。
【0028】炭素原子42,43,44は、水素添加されている。即ち水素45,46,47の原子はそれぞれ、単一接合によって結合される。したがって、炭素原子42,43,44によって形成される格子構造は、表面においても同一であり、したがってバルクの延長として現われる。炭素原子42,43,44の格子構造はバルクの延長であるため、バルクの特性を有しており、したがって良好な電子放出器となる。」

g)「【0029】図11は、電子的にアクティブな欠陥53,54,55を有するダイヤモンド状炭素の水素添加層52を用いた、第1放出素子を断面図で表わしたものである。層52の水素添加は、その表面上の層56によって示されている。電子的にアクティブな欠陥53,54,55は、全体として周期的に離間され、表面に対してほぼ垂直に図示されているが、角度変化や間隔の差等も幾らか起こり得ることを理解すべきである。例えば、長い欠陥は、最良の結果が得られるようにダイヤモンド状炭素層の表面とある角度をもって配置されるべきである。更に、長い欠陥は表面と45°ないし90°の範囲の角度をなすのが最良であると言われている。
【0030】素子50は、更に、表面に導電層58が形成された支持基板58も含む。単一または複数の導電層58は、欠陥53,54,55と電気的に連通する手段となる。したがって、図示のように、電子流は、電子源(図示せず)から導電層内を流れ、欠陥53,54,55によって、層56上の自由空間内に放出される。…
【0033】上述のように、飽和電流の改善を含む改善された電流特性を有するダイヤモンド状炭素電子放出器が開示された。電流特性の改善は、局所的に電子放出を強める、電気的にアクティブな欠陥を組み込むことによって実現される。即ち、この欠陥は同一材料で異なる構造に形成されたものである。更に、ダイヤモンド状放出器を用い、電流特性を改善した電界放出素子も開示する。」

そうすると、上記摘記事項aないしg及び図1ないし11から、先願明細書等には次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められ、優先権の基礎となっている第1国出願の出願書類の全体中にも同様に記載されている。
「支持基板上に形成された導電層と、前記導電層上に形成されたダイヤモンド状炭素の水素添加層とからなり、前記水素添加層は、全体として周期的に離間された複数の電気的にアクティブな欠陥を備えたことを特徴とする電界放出素子。」

【3】対比/判断
本願発明(前者)と上記先願発明(後者)とを対比する。
(1)後者の「支持基板上に形成された導電層」は、電子源からの電子流を流すためのものである(上記摘記事項gの【0030】参照。)ので、前者の「導電性材料の層」に相当する。
(2)後者の「前記導電層上に形成されたダイヤモンド状炭素の水素添加層」は、全体として周期的に離間された複数の電気的にアクティブな欠陥を備え、これらの欠陥によって、前記水素添加層から自由空間内に向けて電子流が放出され、前記水素添加層と自由空間との界面は(電子流)放出表面であり、また、ダイヤモンド状炭素は電界放出素子に用いられおり低い有効仕事関数の材料である(上記摘記事項fの【0026】、gの【0029】参照)ので、結局、後者のそれは前者の「複数の分布した局部的電子放出サイトを含む放出表面をもち、前記導電性材料全体にわたり付着された低い有効仕事関数の材料の層」に相当する。
(3)後者の「電界放出素子」は、電界を印加することによって電子を自由空間に放出するものであるので、前者の「陰極」に相当する。

そうすると、両者の間に相違点はなく、本願発明と先願発明とは同一である。

なお、請求人は、審判請求書(平成16年6月15日付け手続補正書)の請求の理由において以下の主張をしている。
「先願発明においては、ダイヤモンド・フィルムの格子構造内の先鋭端を生成するために水素添加層(52)を必要とします。しかし本件出願の発明は平坦な電界放出面を生成するのに炭素フィルムの水素添加を必要としないのであります。それゆえ本件出願の発明は、先願4に記載された発明を越えた利点を備えています。それゆえ、「本件出願の各請求項に係る発明には、先願に記載されたような炭素膜の表面を水素処理した皮膜も含まれることは当業者に自明である」との原査定の主張には納得致し兼ねるのであります。これに関連して特許庁編、特許・実用新案審査基準(社団法人発明協会発行)第3章29条の2、3.4「請求項に係る発明が引用発明と同一か否かの判断」によれば、両発明の課題解決のための具体化手段における微差であるためには、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものでないことが必要であると考えられています。しかし原査定において、このような点の考慮がなんらなされることなく、当業者に自明であると認定されたことは明らかに理由不備であると言わざるを得ません。」

そこで、以下、上記主張について検討する。
本願明細書の請求項1中には、「複数の分布した局部的電子放出サイトを含む放出表面をもち、前記導電性材料全体にわたり付着された低い有効仕事関数の材料の層」と記載されているだけで、層形成の具体化手段について何ら規定されていないから、表面を水素処理したものを排除していないことは明らかである。
また、先願発明における水素処理は、「ダイヤモンド・フィルムの格子構造内の先鋭端を生成する」ためのものというより、表面汚染等の防止を目的としてダイヤモンド状炭素表面に水素基を設けるためのものであり、水素処理がなくても電気的にアクティブな欠陥が得られることは、上記摘記事項eの【0017】の記載から明らかである。したがって、先願発明に「水素添加」なる記載事項があるとしても、本願発明との間に上記主張のような差異があるとは認められない。
したがって、先願発明と本願発明との間には表現上はともかく具体化手段における微差などは存在しないので、請求人の上記主張は、採用することができない。

【4】むすび
以上のとおり、請求項1に係る発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書等に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2第1項の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項1に係る発明が特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2ないし30に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-12 
結審通知日 2006-09-19 
審決日 2006-10-03 
出願番号 特願平7-500588
審決分類 P 1 8・ 161- Z (H01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 堀部 修平松岡 智也渡戸 正義  
特許庁審判長 杉野 裕幸
特許庁審判官 小川 浩史
山口 敦司
発明の名称 アモルフィック・ダイヤモンド・フイルムの平坦な電界放出陰極  
代理人 尾原 静夫  
代理人 真田 雄造  
代理人 中島 宣彦  

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