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審決分類 審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01H
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01H
管理番号 1153017
審判番号 不服2001-12341  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-07-16 
確定日 2007-02-27 
事件の表示 平成 3年特許願第216681号「菌類耐性植物、該菌類耐性植物の製造方法および該方法で使用する組換えポリヌクレオチド」拒絶査定不服審判事件〔平成 8年10月29日出願公開、特開平 8-280283〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成3年1月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理1990年1月30日、オランダ)の出願であって、その請求項1及び14に係る発明は、平成12年10月10日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】少なくとも1つの植物組織においてキチナーゼ遺伝子及びβ-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現することができる植物又は該植物を再生する該植物の一部分であって、 該キチナーゼ及びβ-1,3-グルカナーゼをコードするキメラ配列を有する1つ以上の組換えポリヌクレオチドによりトランスフォームしていることを特徴とする該植物又は該植物の一部分。」(以下、「本願発明1」という。)
「【請求項14】少なくとも1つの植物組織においてキチナーゼ遺伝子及びβ-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現するための遺伝情報を含むことを特徴とする組換えポリヌクレオチド。」(以下、「本願発明14」という。)
2.引用例
これに対して、本願優先日前に頒布された刊行物であり原審の拒絶の理由で刊行物1として引用されたMol.Gen.Genet.(1988)Vol.212,No.3,p.536-542(以下、「引用例1」という。)には、「Serratia marcescensからの細菌キチナーゼ遺伝子(chiA)が、(i)リブロース ビスフォスフェート カルボキシラーゼ スモール サブユニット(rbcS)遺伝子のプロモーター及び(ii)ペチュニアからのクロロフィルa/b結合タンパク質(cab)の2つの異なるプロモーターに融合された。その結果得られた構成物がアグロバクテリウムTiプラスミドに基づいた植物細胞形質転換ベクターに導入され、多様な独立した形質転換タバコ植物の生成に用いられた。chiAmRNAとタンパク質のレベルがこれら植物において測定された。平均して、rbcS/chiA融合体はどちらのcab/chiA融合体よりも、3倍以上のchiAmRNAを生産した。…(途中省略)…キチナーゼA発現の最高レベルを示したそれら形質転換体では、キチナーゼAタンパク質は可溶性全葉タンパク質の約0.25%まで蓄積した。これらの植物はコントロール植物より著しく高いキチナーゼ活性を有した。」(第536頁左欄Summary)及び「S. marcescensキチナーゼA遺伝子はin vitroで抗菌類活性を有することが示されていた。我々は、高レベルでキチナーゼAタンパク質を発現する形質転換植物系を開発し、そしてこれらの系の菌類による病気に対する抵抗性が強められるかどうか調査するために、キチナーゼA遺伝子を用いた遺伝子融合実験を行った。このアプローチの可能性を評価するための最初の段階として、タバコ葉で生産されるキチナーゼAタンパク質が酵素的に活性かどうか調べた。」(第536頁右欄第26行?第34行)と記載されている。
また、同刊行物3として引用されたPlant Physiol.(1989)Vol.89,p.945-951(以下、「引用例2」という。)には、「Cladosporium fulvumをトマト葉に接種すると、アポプラスト中に、数種のPathogenesis-Related(PR)タンパク質の目立った蓄積が見られた。2つの顕著なPRタンパク質が、イオン交換クロマトグラフィーとそれに続くクロマトフォーカシングによりアポプラスト液から精製された。1つのタンパク質(分子量35kD、等電点pl?6.1)は、1,3-β-グルカナーゼ活性を示し、一方、もう1つは(26kD、pl?6.1)キチナーゼ活性を示した。」(第945頁ABSTRACT第1行?第9行)及び「TMVに対する過剰反応を示すタバコ葉におけるPRタンパク質の蓄積は、良く記録されている。主要な酸性タンパク質はネイティブポリアクリルアミドゲル上で分解され、減少している移動度によって、PRタンパク質-1a、-1b、-1c、-2、-N、-O、-P、-Q、-R、-Sとして引用された。これらタンパク質の誘導及び物理的性質に関する多くの情報が得られるが、これらタンパク質のいくつかの生物学的機能は最近やっと報告された。PRタンパク質-Pと-Qはキチナーゼとして、-2、-N、-Oは1,3-βグルカナーゼとして特定された。これらの酸性タンパク質に加えて、2つの塩基性キチナーゼと1つの塩基性1,3-βグルカナーゼが特定された。さらに、ソラナセアの別の種においても、PRタンパク質の産生が報告された。Kombrinkらは、Phytophthora infestansを接種したジャガイモ葉中で数種のPRタンパク質を特定した。6つのキチナーゼと2つの1,3-βグルカナーゼが被感染葉組織のみならずアポプラスト液中から見つけられた。」(第945頁左欄下から第8行?同頁右欄第10行)と記載されている。
3.対比・判断
本願発明14と引用例1に記載の植物細胞形質転換ベクターの発明を比較すると、両者は、少なくとも1つの植物組織においてキチナーゼ遺伝子を発現するための遺伝情報を含むことを特徴とする組換えポリヌクレオチドである点で一致し、前者が、さらに、β-1,3-グルカナーゼ遺伝子を発現するための遺伝情報を含んでいるのに対して、後者がそのような遺伝情報を含んでいない点で相違する。
しかしながら、引用例2にも記載のように、菌類の感染により植物内に発現されるPRタンパク質として、キチナーゼ及びβ-1,3-グルカナーゼが代表的なものであることは、本願優先日前周知の事項であった。さらに、平成18年2月10日付け審尋書において引用文献3として引用した本願優先日前に頒布された刊行物であるPlant Physiol.(1988)Vol.88,p.936-942(以下、「参考文献」という。)には、「キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは、植物の抗菌類防御に属するものであると長く考えられてきた。このことは次の間接証拠に基づいている。第1に、キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼの高い活性は、より高度の植物で頻繁に見出されるが、キチナーゼは植物自体中には基質が知られておらず、また、β-1,3-グルカナーゼの基質であるカロースは普通、ほんのわずかな量しか存在しない。しかしながら、キチンとβ-1,3-グルカンは多くの菌類の細胞壁の重要な構造要素であり、2つの植物加水分解酵素の天然の基質を提供するかもしれない。第2に、精製された植物キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは、単離された菌類の細胞壁を部分的に壊すことができる。第3に、キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは、エチレンによって及びさまざまな組織における病原体感染あるいは病原体由来誘因物質によって、順序よく誘導される。第4に、豆の病原体、Colletotrichum lindemuthianumが植物β-1,3-グルカナーゼを阻害するタンパク質を生産することが観察された。これは、植物防御の1つに対する病原体の進化における適応として解釈されるかもしれない。」(第936頁左欄下から第7行?同頁右欄第11行)及び「エンドウ豆のサヤから精製されたキチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは、菌類の細胞壁の破壊において相乗的に働く。2つの酵素の抗菌類潜在力は、出芽菌類の芽胞を含む寒天プレート上に置いた紙盤に、タンパク質調製物を添加することにより、直接研究された。キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼの高い活性を有する、Fusarium solani f.sp.phaseoliに感染されたエンドウ豆のサヤからのタンパク質抽出物は、試験された18の菌類のうち15の成長を阻害した。キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼの低い活性を有する、非感染のエンドウ豆のサヤからのタンパク質抽出物は菌類の成長を阻害しなかった。個々に試験されたキチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは試験菌類のほとんどの成長を阻害しなかった。」(第936頁左欄ABSTRACT第1行?第11行)と記載されており、キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼは、菌類の感染後に植物中でその発現量が増加するものであることから、菌類に対する植物の防御機構として働くと考えられていたことも、本願優先日前周知の事項である。(しかも、植物から抽出した植物由来のキチナーゼ及びβ-1,3-グルカナーゼを併用すると、相乗的にin vitroで菌類を阻害できることも参考文献で確認されている。)そして、植物を害虫、病原体から防御するためにこれらに対抗できるタンパク質を発現できるトランスフォーム植物を製造することは、本願優先日前既に周知の手段である以上、引用例1に記載の、植物組織においてキチナーゼ遺伝子を発現するための遺伝情報を含む組換えポリヌクレオチドに、菌類に対する抵抗性を強めるために、さらにβ-1,3-グルカナーゼを発現するための遺伝情報も含ませることは、引用例2の記載及び上記周知の事項から、当業者であれば容易に想到し得たことである。
一方、本願明細書の実施例11では、アポプラストを指向するように改変した植物由来の細胞内キチナーゼと細胞内β-1,3-グルカナーゼ遺伝子とを組換えポリヌクレオチオドに導入して植物をトランスフォームした場合には、抗菌活性において優れた効果を奏することが記載されている。しかしながら、それ以外の場合、特に植物由来の細胞外キチナーゼを用いた場合には、酵素自体にさえ抗菌活性が無いことが示されており、これらの細胞外酵素でトランスフォームした植物には抗菌活性は期待できないと考えられるので、キチナーゼとして細胞外キチナーゼを用いた場合をも包含する本願発明については、その全体にわたりその効果が格別であるとはいえない。
また、本件請求人は審判請求書でEuphytica(1995)Vol.85,p.173-180を資料3として提出して、キチナーゼとβ-1,3-グルカナーゼの相乗効果を主張しているが、提示された例はすべてChi-I、IIとGlu-I、IIという4種類の遺伝子を導入したものであって、その結果は、細胞外あるいは細胞内のキチナーゼ又はβ-1,3-グルカナーゼのどのような組合わせであっても、相乗効果があることを示すものとはいえない。
したがって、本願発明14は引用例1、2の記載及び上記周知の技術的事項に基づき当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.特許法第36条第4項違反について
本願発明1は、植物の種類を問わない遺伝子組換え植物自体の発明であるが、本願明細書の実施例で具体的に両遺伝子でトランスフォームされた植物はタバコのみであって、アグロバクテリウム属微生物の感染を介したトランスフォーメーションを用いて、タバコのゲノムを改変させ、タバコ植物体が再生されたことが記載されている。また、本願発明の詳細な説明中には、植物としては単子葉植物または双子葉植物を対象とし、植物のトランスフォーメーション法としては、カルシウム/ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法、粒子衝突法等が使用できる旨記載され、これらに関する文献が提示されている。
しかしながら、本願優先日当時の技術常識は、これら形質転換法が任意の植物に適用できたものではなく、特に単子葉植物の形質転換は困難であり、植物の形質転換法として汎用されていたアグロバクテリウム法でさえ、アグロバクテリウム属微生物が感染しない単子葉植物への適用は困難であるというものであった。さらに、アグロバクテリウム法以外のカルシウム/ポリエチレングリコール法、エレクトロポレーション法、マイクロインジェクション法で使用するプロトプラストへの遺伝子導入については、単子葉植物の代表格である穀物植物では、本願優先日後においても依然としてプロトプラスト化された細胞から形質転換植物を再生させることは困難であることが報告されており(Euphytica(1995)Vol.85,p.35-44 特にp.37左欄第5?6行及びTable2参照 )、単子葉植物で最初に直接導入法による形質転換植物を再生させたことが報告されたのは1988年(イネ,トウモロコシ)になってからであった。これらの事実をふまえると、本願優先日当時、プロトプラストへの遺伝子導入により、単子葉植物を含む任意の植物について形質転換植物を作製することができたものとは認められない。
これに対して、本件請求人は平成12年11月22日付上申書及び平成13年12月21日付上申書において、本願優先日前単子葉植物から形質転換植物を作成することが困難ではないと主張し、それぞれその証拠として、前者ではアグロバクテリウム感染による単子葉植物の形質転換に関する文献1?15、及び後者ではアグロバクテリウム法以外の方法による単子葉植物の形質転換に関する文献1?8を提示している。
これらの文献については翻訳文の提出がないが、一応の見解を示せば、以下の通りである。
前者の文献1?15には、単子葉植物細胞であるアスパラガス、グラジオラス、トウモロコシ、ヤマノイモ、ヘメロカリス、ヒガンバナ、ツユクサ、スイセン、コムギ、又はオオムギの細胞に、外来遺伝子を含有するアグロバクテリウムを感染させて形質転換植物細胞を得たことが記載されているものの、このうち植物体まで再生できたのは文献2でのアスパラガスのみである。しかも文献2も、アグロバクテリウムが単子葉植物に感染するまれな例であり、単子葉植物一般に適用可能な例ではない。
また、文献10?15は、植物感染ウイルスをアグロバクテリウムゲノムに入れて植物に感染させウイルスを増殖させるアグロインジェクション法に関する文献であり、Tiプラスミドを用いる通常のアグロバクテリウム法とは異なるものであり、これら文献1?15の記載からは、むしろ通常の条件下ではアグロバクテリウム属微生物が感染しない単子葉植物に対しては、本願優先日当時、アグロバクテリウム法を適用することが困難であることがうかがえる。
また、後者の文献のうち文献3?7は植物細胞の形質転換に留まるものであり、植物体に再生させたものではない。また、文献2は、本願優先日前に頒布されたものであるかが不明であり、しかも、第7頁最終段落の記載によれば、得られた形質転換植物はキメラ植物であると予想されており、さらに第9頁のConclusionには、記載された方法はあくまでもイネ及びトウモロコシの形質転換に用い得るものであることが記載されており、他の単子葉植物でも安定した形質転換植物が得られる根拠となる文献ではない。さらに、文献1にはイネをパーティクル法で形質転換させたことが、文献8にはイネをプロトプラストとしてエレクトロポレーション法で形質転換させたことが記載されているが、上記イネあるいはトウモロコシにおける例を加えたわずか2つの成功例のみでは、大麦や小麦等の主要穀物を含む単子葉植物全体について、形質転換植物体の作成が容易に行えるようになったとはいえない。
また、本願出願後に頒布された刊行物であり、上記Euphytica(1995)Vol.85,p.35-44の特にp.37左欄第2段落-p.38、及び同じく平成17年6月15日付の審尋書で引用しているThe Plant Journal (1994)Vol.5,No.2,p.299-307の特にp.299-300のIntroductionの項に、最も汎用性のある手法と思われるパーティクル(粒子衝突)法によってすら、トウモロコシ以外での安定な形質転換植物は1992年に至るまで報告されていないことが記載されていることからも、本願優先日当時、単子葉植物の形質転換が困難であったことが裏付けられる。
したがって、本願請求項1に記載の発明のうち、植物として単子葉植物を用いた場合には、本願発明の詳細な説明中で当業者が容易にその実施をできるようその構成及び効果が記載されているものとは認められないから、本願請求項1に記載の発明全般について、本願発明の詳細な説明中で当業者が容易にその実施をできるよう構成及び効果が記載されておらず、本願は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

5.付記
なお、平成17年12月20日付回答書で提出された補正案は、特許請求の範囲の補正によって、請求項12以降を削除し、請求項1?11を組換えポリヌクレオチドによりトランスフォームされた双子葉植物に限定するものであるが、これに対して当合議体は、平成18年2月10日付審尋書により、組換えポリヌクレオチドによりトランスフォームされた双子葉植物であっても、上記2.及び3.の記載と同様の理由で進歩性が認められない点について審尋し、さらなる明細書の記載不備も指摘したが、請求人からは指定期間を過ぎても何らの応答もない。
6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項14に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また本願は請求項1に記載の発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-09-28 
結審通知日 2006-10-02 
審決日 2006-10-13 
出願番号 特願平3-216681
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01H)
P 1 8・ 531- Z (A01H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 種村 慈樹
鈴木 恵理子
発明の名称 菌類耐性植物、該菌類耐性植物の製造方法および該方法で使用する組換えポリヌクレオチド  
代理人 今城 俊夫  
代理人 今城 俊夫  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 竹内 英人  
代理人 村社 厚夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 宍戸 嘉一  
代理人 中村 稔  
代理人 竹内 英人  
代理人 小川 信夫  
代理人 大塚 文昭  
代理人 中村 稔  
代理人 小川 信夫  
代理人 村社 厚夫  

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