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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200580340 審決 特許
無効200580313 審決 特許
無効2007800085 審決 特許
無効2008800013 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F25J
審判 全部無効 2項進歩性  F25J
管理番号 1153159
審判番号 無効2006-80065  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-04-14 
確定日 2007-02-26 
事件の表示 上記当事者間の特許第3607539号発明「極低温精留塔を運転する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3607539号の請求項1?6に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3607539号(以下、「本件特許」という。)は、平成11年7月30日に特許出願(パリ条約による優先権主張1998年10月21日、米国)され、平成16年10月15日に設定登録されたものである。
請求人は、平成18年4月14日付けで、「本件特許の特許請求の範囲請求項1乃至請求項6に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める審判を請求した。これに対して、被請求人に請求書を送付して答弁を求めたが、被請求人から何らの応答もなされなかった。

2.本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1乃至請求項6に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」乃至「本件特許発明6」という。)は、その明細書の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】(A)精留塔内に、上方部分と該上方部分とは構造において異なる下方部分とを有する所定高さの複数の充填シートであって互いに近接した状態で垂直方向に延び且つ精留塔の直径を横切って延びている当該充填シートよりなるブロックまたは層を複数個上下関係に積み重ねて収容し、各ブロックまたは層の底部を気体流に対して上部より低抵抗に構成し、空気の揮発性の高い成分と空気の揮発性の低い成分とを含む混合物を、前記ブロックまたは層に流し、(B)前記塔内で極低温精留を実施し、その場合蒸気は充填物シート高さを通して上方に流れそして液体は充填物シート高さを通して下方に流れ、それにより揮発性の高い成分が上方に流れる蒸気中に濃縮し、そして揮発性の低い成分は下方に流れる液体中に濃縮するものとなし、そして(C)塔の上方部分から揮発性の高い成分を抜き出しそして塔の下方部分から揮発性の低い成分を抜き出す極低温精留塔を操業する方法において、前記上方に流れる蒸気を塔内の充填物高さを通して充填物高さ30.5cm当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱)の圧力降下を塔内で有するような流量で流すことを特徴とする極低温精留塔を操業する方法。
【請求項2】揮発性の高い成分が窒素でありそして揮発性の低い成分が酸素である請求項1の方法。
【請求項3】揮発性の高い成分がアルゴンでありそして揮発性の低い成分が酸素である請求項1の方法。
【請求項4】前記各充填物シートが波形に形成され、上方部分における波形の波高に対して各充填物シートの下方部分における波形の波高が低く構成されている請求項1の方法。
【請求項5】前記各充填物シートの下方部分における前記波形の波高が零である請求項4の方法。
【請求項6】前記各充填物シートが波形に形成され、下方部分における波形の延長方向は上方部分における波形の延長方向より急な角度を有する請求項1の方法。

3.請求人の主張
請求人は、証拠として、下記の甲第1号証?甲第5号証を提出し、以下のとおり主張する。
(a)本件特許発明1乃至6は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第1の規定により無効とすべきである。
(b)本件特許発明1乃至6は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証乃至甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第1号の規定により無効とすべきである。

甲第1号証:特開平10-230159号公報
甲第2号証:特開平8-206492号公報
甲第3号証:特開平5-184919号公報
甲第4号証:特開平10-43582号公報
甲第5号証:米国特許第5,644,932号明細書(1997年7月8日)

4.請求人の主張(a)(b)について
4-1甲第1号証?甲第5号証の記載事項
(1)甲第1号証:特開平10-230159号公報
(ア)「充填体セクションであって、垂直方向で斜めに交差してセクション高さを画定する波形の複数の構造充填体薄板にして、セクション高さの下方の50%までを含む底部領域と、セクション高さの残余の少なくとも幾分かを含むバルク領域とを含み、前記充填体セクションが平坦な頂部を有し、底部領域内の各構造充填体薄板間でのガス流れに対する抵抗が、バルク領域内の各構造充填体薄板間でのガス流れに対する抵抗よりも小さい充填体セクション。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「底部領域での構造充填体薄板が、バルク領域での波形よりも角度の狭い波形を有している請求項1の充填体セクション。」(【特許請求の範囲】【請求項4】)
(ウ)「垂直に積層した複数の層を含む床であって、隣り合う各層が垂直軸線を中心として回転し、各層が充填体セクションを含み、該充填体セクションが、垂直方向で斜めに交差する複数の波形の構造充填体薄板にして、充填体セクションのセクション高さを画定する構造充填体薄板を含み、充填体セクションが、セクション高さの下方の50%までを含む底部領域と、充填体セクションの残余部分の少なくとも幾分かを含むバルク領域とを含み、前記充填体セクションが平坦な頂部を有し、前記底部領域の内部での構造充填体薄板が、該底部領域での構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗が、バルク領域での各構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗よりも小さくなるような形状を有している床。」(【特許請求の範囲】【請求項10】)
(エ)「【発明の属する技術分野】本発明は構造充填体、並びに、蒸気-液体を向流接触させて空気を極低温精留するような流体混合物の分離を実施するための前記構造充填体の使用に関する。」(段落【0001】)
(オ)「【発明が解決しようとする課題】従って、解決しようとする課題は、従来からの構造充填体を性能的に上回る構造充填体を提供することであり、また、精留塔で使用するための、フラッディングポイントに達する以前に塔スループットを増大させることのできる、容量の増大された構造充填体を提供することである。」(段落【0003】)
(カ)「ここで“塔”とは、蒸留塔あるいは精留塔、あるいは帯域、即ち、接触塔あるいは、液体相と気体相とが向流流れ状態で接触することにより流体混合物を分離させる、例えば、充填体要素上で蒸気相と液体相とを接触させるようにして分離させる帯域、を意味する。・・・蒸気と液体との接触分離法は各成分に対する蒸気圧の差に依存する。蒸気圧の高い(あるいはより揮発性の、あるいは低沸騰の)成分は蒸気相で濃縮しやすく、蒸気圧の低い(あるいはより揮発性の低い、あるいは高沸騰の)成分は液体相で濃縮しやすい。蒸留は、液体混合物を加熱して単数あるいは複数の揮発成分を気相で濃縮しそれにより、揮発しにくい単数あるいは複数の成分を液相で濃縮させることのできる分離プロセスである。・・・極低温精留は少なくとも部分的に150°K以下の温度で実施される精留である。」(段落【0006】)
(キ)「【発明の実施の形態】本発明は、一般的には、精留システムで使用する場合におけるような構造充填体の容量は、充填体セクションの下方の部分でのガス流れ抵抗が、仮に、構造体充填体の主要部分が受けるガス流れ抵抗よりも小さいと著しく増大されるという発見に基づく・・・・上昇するガス流れが構造充填体を貫いて降下する液体量を上回るフラッディング状況が生じる前に、充填体セクションを貫いて上昇するガスあるいは蒸気量を増大させることができるようになる。・・・・本発明は、構造充填体を使用する任意の蒸留、吸着あるいはストリップの各プロセスで使用することができる。特に有益な用途は、空気を窒素、酸素及び或はアルゴン成分に極低温精製するような極低温精製である。・・・・なってきている。」(段落【0008】?【0009】)
(ク)「構造充填体は、垂直軸線に対して図1に示すような角度の波形を含んでいる。これらの薄板は、隣り合う薄板の波の方向が図2に示すように逆向きになるように配列される。構造充填体は、高さが6ないし12インチ(約15.2cmないし30.7cm)の層として塔内に組み込まれる。小さい塔では各充填体層は、個々の薄板の全てにロッドを刺し通すことにより相互に固定して形成した単一のセクションあるいはブリックから構成され得る。大きな塔では、各構造充填体層は、相互に嵌合し収納容器の断面を充填するいくつかのセクションから形成され得る。大きな塔では、各構造充填体層は、相互に嵌合し収納容器の断面を充填するいくつかのセクションから構成され得る。図4には単一のセクションからなる構造充填体層と、10のセクションから形成される構造充填体層とが示される。完全に充填された床は多数の構造充填体層を含む。構造充填体層の数は、・・充填体高さにより設定される。図5には・・・・相互に接触する。」(段落【0010】)
(ケ)「充填体の高さは、必要とされる平衡ステージの数と、同等の理論プレート(HETP)の高さとの積から算出する。HETPは質量移送効率の測定単位である。代表的には塔は、問題の構造充填体のためのフラッディングポイントでの流量の80?90%の間の流量で運転されるように設計される。フラッディングポイントは、塔運転時の一定液体流量下での最大蒸気流量と考えることができる。・・・本発明は、充填体セクションに入る蒸気に関連する圧力降下を低減させる形状を有し、・・・圧力降下の低減は、各充填体セクションの底部位置の、一般に高さHの0.1ないし20倍の間の高さの底部領域(図6では領域Lで表される)の幾何寸法を、この領域Lの上方の領域として定義されるバルク領域(図6ではU)の幾何寸法とは異なるようにすることにより実現される。・・・底部領域Lは、充填体セクションの高さHの下方の50%までを含むものとすることは可能であり、好ましくは高さHの5%を、そして高さHの下方の2.5%を含むのが最も好ましい。」(段落【0012】?【0013】)
(コ)「図8から図12には、構造充填体の改変された底部領域の別の実施例が例示される。これらの底部領域は、底部領域内の各薄板間でのガス流れに対する抵抗をバルク領域内でのそれよりも小さくすることを可能とする本発明のプラクティス上有益なものである。」(段落【0016】)
(サ)「充填体セクションに入るガスに関する圧力降下を低減させるための1つの手段は、ガスの流路の屈曲部分を減らすことである。・・・そうした実施例が図8及び図9に示される。図8には、全ての薄板の波頂高さが減少され、この場合、底部領域内の前記高さがゼロにまで減少された構造充填体の、斜視図と端部図とが示される。図9には、底部領域での波頂高さと同一であるが、波形の角度がずっときつくされた構造充填体の斜視図及び正面図が例示される。こうすることで実際のガスの速度は減少し、かくして、構造充填体のガス領域内での圧力降下は減少する。」(段落【0017】)
(シ)「図7に示されるように波頂高さと等しい高さに垂直方向に交互にスタガー配列された薄板を有する構造充填体を使用して蒸留試験を行った。比較のために、交互する薄板が、スタガー配列でない、即ち、充填体セクションが平坦な頂部を有するが底部領域は改変されていない、という点を除いて同一の構造充填体を使用した試験を実施した。・・・・図13及び図14にこの運転結果を示す。図中、黒点はスタガー配列した薄板を使用した試験によるデータ点を表し、白点は平坦な頂部及び平坦な底部を有する充填体セクションを使用して行った試験からのデータポイントを表す。グラフ中、( “)はインチを示し、(”WC)は水柱のインチ高さを表す。・・・構造充填体の移送ユニット高さ(HTU)が・結果が示され・・・HTUは、・・・充填体の質量移送性能の基本的用語であり、全還流下での同等の理論プレートの高さに関し、以下の簡単な式により関連付けられる。
HETP=HTU(In(m)/(m-1)) ここでmは平衡線の傾斜を表す。・・・質量移送性能の低下とHTUの増大をもたらす原因となっている。」(段落【0020】?【0022】)
(ス)「本発明は、この問題を解決する、各充填体セクションの頂部が平坦な構造充填体を使用する。・・・1組の構造充填体は・・平坦な頂部と改変されない底部領域とを有する薄板から構成され、2組目の構造充填体は、平坦な頂部と、ガス流れ抵抗がバルク領域でのガス流れ抵抗よりも小さい、改変された底部領域とを有する薄板から構成された。これらの構造充填体はそれ以外の点では同一であった。同一の蒸留システムを使用してこれら2組の構造充填体のHTUと圧力降下とを決定した。」(段落【0023】)
(セ)「この試験の結果が図15及び図16に示される。図中、黒点は本発明に従う薄板を使用した場合を表し、白点は、平坦な頂部を有するが改変された底部領域を有さない薄板を使用した場合を表す。図15には、本発明の構造充填体の方が圧力降下がずっと低く、フラッディング状況を生じる前の容量が約15%増大することが示され、図15には、構造充填体のHTUが、従来からのフラッドポイントまでは類似していることが示される。・・・解決される。」(段落【0024】)
(ソ)「・・・構造充填体の底部領域を改変した場合には、容量は同じように増大する(図15)が質量移送性能は低下しない(図16)。・・・・本発明を実施するに際しては、充填体セクションの底部領域でのガス抵抗が少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%でありしかも充填体セクションのバルク領域でのガス流れ抵抗よりも少ないことが予測される。・・・多くの変更をなし得る。」(段落【0025】)
(タ)【図15】及び【図16】には、記載事項セの試験結果が図示され、図15は「Cv(ft/s)と圧力勾配(”WC/tt)の関係」、また、図16には「Cv(ft/s)と移送ユニットの高さ(“)の関係」が示され、同記載事項セの内容が窺える。

(2)甲第2号証:特開平8-206492号公報
(ア)「複数の垂直に配向された組織化充填物シートを含む組織化充填物単位体にして、単位体の高さの下方50%までを構成するベース領域と、単位体の高さの残部の少なくとも一部を構成するバルク領域とを有し、前記ベース領域における組織化充填物シートがベース領域におけるシート間の気体流れに対する抵抗がバルク領域におけるシート間の気体流れに対する抵抗より小さいような形態を有することを特徴とする組織化充填物単位体。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「ベース領域における組織化充填物シートの山高さがバルク領域における組織化充填物シートの山高さより小さい請求項1の組織化充填物単位体。」(【特許請求の範囲】【請求項4】)
(ウ)「組織化充填物シートがベース領域における波形模様がバルク領域における波形模様よりも急角度であることにより特性づけられる請求項1記載の組織化充填物単位体。」(【特許請求の範囲】【請求項5】)
(エ)「複数の垂直に配向された組織化充填物シートを含む組織化充填物単位体にして、単位体の高さの下方50%までを構成するベース領域と、単位体の高さの残部の少なくとも一部を構成するバルク領域とを有する組織化充填物単位体を下って液体を流しそして該単位体を上って気体を流し、その場合気体をベース領域を通してバルク領域を通過する気体より低い流れ抵抗でもって通過せしめることを包含する気体及び液体の向流流れのための方法。」(【特許請求の範囲】【請求項12】)
(オ)「気体及び液体の向流流れを行って塔内で極低温精留を実施する請求項12の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項13】)
(カ)「組織化充填物単位体を上って流れる気体が窒素、酸素及びアルゴンから成る群からの少なくとも2成分を含み、そして組織化充填物単位体を下って流れる液体が窒素、酸素及びアルゴンから成る群からの少なくとも2成分を含む請求項13の方法。」(【特許請求の範囲】【請求項14】)
(キ)「【発明が解決しようとする課題】・・本発明の課題は、従来型式の組織化充填物を上回る改善された性能の発現を可能ならしめる組織化充填物を提供すること・・また別の課題は、増大せる容量を有し、従ってフラッド条件に達するまでに塔処理量の増大を可能ならしめる、精留塔において使用のための組織化充填物を提供することである。」(段落【0006】)
(ク)「「蒸気及び液体接触分離プロセス」は成分に対する蒸気圧差に依存するプロセスである。高蒸気圧成分(即ち、より高揮発性、低沸点)成分は、蒸気相に濃縮する傾向があり、他方低蒸気圧成分(即ち、より低揮発性、高沸点)成分は、液体相に濃縮する傾向がある。・・・極低温精留は、150K以下の温度で少なくとも部分的に実施される精留である。」(段落【0010】)
(ケ)「本発明は、組織化充填物を使用することのできる任意の蒸留、吸収或いはストリッピング・プロセスにおいて使用することができる。一つの特に有益な用途は、空気を窒素、酸素及び/又はアルゴン成分に極低温で精留する場合のような極低温精留プロセスにおいてである。・・・」(段落【0017】)
(コ)「組織化充填物は、図1に示されるような垂直軸線に対して或る角度をなす波形模様を備える垂直配向シート群から構成される。・・・・大きな塔においては、各充填物層は、容器の断面を埋めるように互いに嵌合する幾つかの単位体から構成されうる。図3は、単一の単位体から成る層と、10単位体から成る層とを例示する。充填床全体は多数の充填物層を含み、層の数は分離を行うに必要とされる充填高さにより設定される。・・・」(段落【0019】)
(サ)「充填物の高さは、必要とされる平衡ステージの数と等価理論プレート高さ(HETP)の積から計算される。・・・塔は使用される特定の充填物のフラッド点における「流量の80?90%の範囲で運転されるように設計される。・・・・・本発明は、充填物単位体への蒸気流入点と関連する圧力降下を減じそして単位体からの液体の通過を容易ならしめるよう形態付けられた組織化充填物単位体を形成する。・・・・円柱状の単位体が図6に示されるが、任意の単位体形態が本発明と共に使用されうる。ベース領域Lは組織化充填物単位体の高さHの下方50%までを構成しうるが、好ましくは高さHの下方5%、最も好ましくは高さHの下方2.5%を構成する。」(段落【0021】?【0022】)
(シ)「ベース領域における気体流れ抵抗をバルク領域における気体流れ抵抗より小さくすることを可能ならしめるような様々の異なった形態の組織化充填物が本発明の実施に置いて使用される。これら型式の形態が別個にもしくは組み合わせて使用されそして4つの例を以下に掲げる。・・・(ii)ベース領域における波高さをバルク領域におけるより小さくする、好ましくはバルク領域のそれの90%未満であるように小さくする。(iii)ベース領域における波形模様をバルク領域におけるより好ましくは少なくとも5°急傾斜とする。・・・」(段落【0023】)
(ス)「単位体への気体に流入と関連しての圧力降下を減じるための別の手段は・・・図9は、すべてのシートを平坦化ベース領域を有するものとした場合の斜視図及び端面図である。図10は、ベース領域において波高さを減じた波形模様を有する充填物の斜視図及び端面図である。」(段落【0028】)
(セ)「【実施例】図15及び図16において、・・・空気容量係数Cvは、Cv=ug√(ρg/(ρL-ρg))(ここで、ugは塔断面積に基づいての空気空塔速度であり、ρLは水の密度でありそしてρgは空気の密度である。)により定義される。ケース1は、従来態様で積み重ねた従来からそのままの、変更を加えていない充填物の床を横切っての圧力降下である。ケース2?4は、単位体の間に1h、2h及び3hの水平スペースを置いた床を横切っての圧力勾配をそれぞれ示す。・・・・フラッド点は通常8.3?17cm水柱/m(1?2インチ水柱/フィート)の圧力降下に起こるものとして定義される。」(段落【0033】?【0034】)

(3)甲第3号証:特開平5-184919号公報
(ア)「用語「HETP」とは、塔理論段により実現される組成変化に均等である組成の変化を実現する充填物高さを意味する。用語「理論段」とは、存在する蒸気と液体流れとが平衡状態にあるような蒸気と液体との間での接触プロセス段を意味する。」(段落【0013】)
(イ)「図4は、充填物番号1に対して、Cvに対するHETP及び圧力降下(水柱インチ/ft)をプロットしたグラフである。この従来型式の充填物は・・・・図5は、充填物番号2を使用しての試験結果を示す。・・・」(段落【0034】)
(ウ)図4及び図5(第7頁)には「圧力降下が増大するにつれてHETPが減少する」ことが窺える。

(4)甲第4号証:特開平10-43582号公報
(ア)「その結果は図5?10に示され、本発明はAP500として記されている。図5?10のそれぞれの対(a),(b)において、(a)はHETP(理論的プレートに等しい高さ・・)に関する質量移転効率を示し、(b)はパッキングの単位高さ当たりの圧力低下を示している。・・・」(段落【0022】)
(イ)図5?10(第9頁?第12頁)には「圧力降下が増大するにつれてHETPが減少すること」が窺える。

(5)甲第5号証:米国特許第5,644,932号明細書
(ア)「A typical plot of HETP versus the density corrected vapor velocity through the packing is illustrated in FIG.1. Lower values of HETP indicate better performance since more theoretical stages will be obtained per packing section height.・・・There is often an improvement in performance, seen as decrease in the HETP,・・This improvement is known as the loading region 1,・・・For distillation columns which must be designed within a specified height, or where height is a very important consideration, such as in air separation, design of a column to operate within the loding region has particular value.」(第4欄1?25行)
(イ)「An unexpected aspect of the present invention is that the pressure drop should be increased in certain regions of the column to enhance the overall column performance. As the pressure drop is increased, which results from a decrease in the angle β, the HETP will decrease, thereby allowing better utilization of column height.」(第6欄22?28行)
(ウ)Fig.1には、「HETPが最小値となるのはフラッディングポイントに達する前のローディング領域にある」ことが示されている。

4-2.対比・判断
4-2-1本件発明1について
(1)甲第1号証には、記載事項エに「本発明は構造充填体、並びに、蒸気-液体を向流接触させて空気を極低温精留するような流体混合物の分離を実施するための前記構造充填体の使用に関する」と記載され、記載事項オに「精留塔で使用するための、フラッディングポイントに達する以前に塔スループットを増大させることのできる、容量の増大された構造充填体を提供することである」と記載されている。この「構造充填体」に関して、記載事項ウには「垂直に積層した複数の層を含む床であって、隣り合う各層が垂直軸線を中心として回転し、各層が充填体セクションを含み、該充填体セクションが、垂直方向で斜めに交差する複数の波形の構造充填体薄板にして、充填体セクションのセクション高さを画定する構造充填体薄板を含み、充填体セクションが、セクション高さの下方の50%までを含む底部領域と、充填体セクションの残余部分の少なくとも幾分かを含むバルク領域とを含み、前記充填体セクションが平坦な頂部を有し、前記底部領域の内部での構造充填体薄板が、該底部領域での構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗が、バルク領域での各構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗よりも小さくなるような形状を有している床」が記載されている。この記載の「床」は、記載事項クによれば「構造充填体が層として塔内に組み込まれた構造充填体層を多数含む」ものであり、また「充填体層」は「小さい塔では、個々の薄板の全てにロッドを刺し通すことにより相互に固定して形成した単一のセクションあるいはブリックから構成され、大きな塔では、相互に嵌合し収納容器の断面を充填するいくつかのセクションから形成される」ものである。これらの記載から「床」と「充填体層」並びに「充填体セクション」の関係については「床は、垂直に積層された複数の構造充填体層」からなり、「構造充填体層は複数の構造充填体(薄板)の全てにロッドを刺し通すことにより相互に固定して形成した充填体セクション(単一又は複数)から成っている」といえる。また、上記した「構造充填体」を使用した「蒸気-液体を向流接触させて空気を極低温精留する」精留塔については、記載事項カに「“塔”とは、蒸留塔あるいは精留塔、あるいは帯域、即ち、接触塔あるいは、液体相と気体相とが向流流れ状態で接触することにより流体混合物を分離させる、例えば、充填体要素上で蒸気相と液体相とを接触させるようにして分離させる帯域、を意味する」「蒸気と液体との接触分離法は各成分に対する蒸気圧の差に依存する。蒸気圧の高い(あるいはより揮発性の、あるいは低沸騰の)成分は蒸気相で濃縮しやすく、蒸気圧の低い(あるいはより揮発性の低い、あるいは高沸騰の)成分は液体相で濃縮しやすい。蒸留は、液体混合物を加熱して単数あるいは複数の揮発成分を気相で濃縮しそれにより、揮発しにくい単数あるいは複数の成分を液相で濃縮させることのできる分離プロセスである」と記載され、また、記載事項キには「上昇するガス流れが構造充填体を貫いて降下する液体量を上回るフラッディング状況が生じる前に、充填体セクションを貫いて上昇するガスあるいは蒸気量を増大させることができるようになる」と記載されている。これらの記載から、精留塔について「上昇する蒸気流れ(蒸気相)と構造充填体を貫いて降下する液体(液体相)とが向流流れ状態で接触することにより、蒸気圧の高い(より揮発性の)成分を蒸気相で濃縮させ、蒸気圧の低い(揮発性の低い)成分を液体相で濃縮させる」ことが記載されているといえる。
以上の記載を本件発明1の記載振りに則して整理すると、甲第1号証には「精留塔で蒸気-液体を向流接触させて空気を極低温精留する方法であって、精留塔内に、複数の構造充填体(薄板)の全てにロッドを刺し通すことにより相互に固定して形成した充填体セクション(単一又は複数)から成る構造充填体層を複数垂直に積層させ、各層が充填体セクションを含み、該充填体セクションが、垂直方向で斜めに交差する複数の波形の構造充填体薄板にして、充填体セクションのセクション高さを画定する構造充填体薄板を含み、充填体セクションが、セクション高さの下方の50%までを含む底部領域と、充填体セクションの残余部分の少なくとも幾分かを含むバルク領域とを含み、前記充填体セクションが平坦な頂部を有し、前記底部領域の内部での構造充填体薄板が、該底部領域での構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗が、バルク領域での各構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗よりも小さくなるような形状を有し、上昇する蒸気流れ(蒸気相)と構造充填体を貫いて降下する液体(液体相)とが向流流れ状態で接触することにより、蒸気圧の高い(より揮発性の)成分を蒸気相で濃縮させ、蒸気圧の低い(揮発性の低い)成分を液体相で濃縮させる方法」の発明(以下、「甲第1発明」という。)が記載されているものと云える。
そこで本件特許発明1と甲第1発明とを対比すると、甲第1発明の「精留塔で・・・極低温精留する方法」は、本件発明1の「極低温精留塔を操業する方法」に他ならなく、甲第1発明の「構造充填体(薄板)」、「充填体セクション(単一又は複数)として成形されている構造充填体層」、「セクション高さの下方の50%までを含む底部領域」及び「充填体セクションの残余部分の少なくとも幾分かを含むバルク領域」は、それぞれ本件発明1の「充填シート」、「ブロックまたは層」、「上方部分」及び「下方部分」に相当する。そして、甲第1発明の「底部領域の内部での構造充填体薄板が、該底部領域での構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗が、バルク領域での各構造充填体薄板間のガス流れに対する抵抗よりも小さくなるような形状を有し」とは、本件発明1の「上方部分と該上方部分とは構造において異なる下方部分とを有する」ことを意味し、甲第1発明の「複数の構造充填体(薄板)の全てにロッドを刺し通すことにより相互に固定して形成した充填体セクション(単一又は複数)から成る構造充填体層を複数垂直に積層させ」は、その技術内容から、本件発明1の「互いに近接した状態で垂直方向に延び且つ精留塔の直径を横切って延びている当該充填シートよりなるブロックまたは層を複数個上下関係に積み重ねて収容し」に相当することは明らかである。また、これらのことは両者の実施例の精留塔で使用される充填体が構造上(図面:甲第1号証の【図8】及び【図9】と本件明細書の【図2】及び【図4】との対比)違いがないことからも明白であるともいえる。以上のことから、両者は、「(A)精留塔内に、上方部分と該上方部分とは構造において異なる下方部分とを有する所定高さの複数の充填シートであって互いに近接した状態で垂直方向に延び且つ精留塔の直径を横切って延びている当該充填シートよりなるブロックまたは層を複数個上下関係に積み重ねて収容し、各ブロックまたは層の底部を気体流に対して上部より低抵抗に構成し、空気の揮発性の高い成分と空気の揮発性の低い成分とを含む混合物を、前記ブロックまたは層に流し、(B)前記塔内で極低温精留を実施し、その場合蒸気は充填物シート高さを通して上方に流れそして液体は充填物シート高さを通して下方に流れ、それにより揮発性の高い成分が上方に流れる蒸気中に濃縮し、そして揮発性の低い成分は下方に流れる液体中に濃縮するものとなす極低温精留塔を操業する方法」の点で一致しており、両者は、一応以下の点で相違している。

相違点:本件特許発明1は「(C)塔の上方部分から揮発性の高い成分を抜き出しそして塔の下方部分から揮発性の低い成分を抜き出す極低温精留塔を操業する方法において、前記上方に流れる蒸気を塔内の充填物高さを通して充填物高さ30.5cm(1フィート)当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下を塔内で有するような流量で流す」のに対し、甲第1発明では、かかる構成が特定されていない点

なお、相違点に係る本件特許発明1の構成については、本件明細書の段落【0008】、【0014】、【0025】及び【0029】からみて、充填物高さ「30.5cm」と「0.174kPa(1.78cm水柱)」の圧力降下の換算値として、それぞれ「1フィート」と「0.7インチ水柱」を記入した。
そこで、上記相違点について検討する。
まず、相違点のうち「塔の上方部分から揮発性の高い成分を抜き出しそして塔の下方部分から揮発性の低い成分を抜き出す」点については、上記したとおり、甲第1発明は「上昇する蒸気流れ(蒸気相)と構造充填体を貫いて降下する液体(液体相)とが向流流れ状態で接触する」ものであるから、降下する液体は下方から、また上昇する蒸気は上部から抜き出すことは塔の構造上自明のことであるとともに、このことは精留塔においては極く一般的なものであるから、この点に差異があるとはいえない。
次に、相違点のうち「上方に流れる蒸気を塔内の充填物高さを通して充填物高さ30.5cm(1フィート)当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下を塔内で有するような流量で流す」点について検討すると、
甲第1号証の記載事項ス?タによると、図15及び図16に示される試験結果は、平坦な頂部と改変されない底部領域とを有する薄板(従来型:白点)と、平坦な頂部とガス流れ抵抗がバルク領域でのガス流れ抵抗よりも小さい改変された底部領域とを有する薄板(甲第1発明:黒点)の構造充填体を使用した比較であるといえる。ここで、図15及び図16を詳細にみてみると、甲第1発明の黒丸は圧力勾配(インチ水柱/フィート)が0.2辺りから3.5辺りまでプロットされ、圧力勾配が略1.0前後辺りから上昇勾配が大きくなることが窺え、その1.0前後の圧力勾配でのCv(ft/s)は0.21前後であり、その時の移送ユニット高さ(HTU)は図16からみれば、7インチ辺りであり、「質量移送性能は低下しない」(記載事項ソ)のである。そして、図15には甲第1発明のものが「圧力降下がずっと低く、フラッディング状況を生じる前の容量が約15%増大することが示され」(記載事項セ)る。そうすると、甲第1発明は、上方に流れる蒸気を0.7インチ水柱/フィート以上の1.0インチ水柱/フィート前後の圧力降下を塔内で有するような流量で流して実施するものといえる。なお、図15に記載される圧力勾配の単位の”WC/ttは、記載事項シにあるとおり「(”WC)は水柱のインチ高さを表」し、(tt)については特に記載はないが、これが(ft)を意味することは容易に理解されることから、インチ水柱/フィートとみることができ、図16の「移送ユニット高さ」は記載事項シに記載されるとおり「HTU」であることは明らかである。
してみると、相違点に係る本件特許発明1の「上方に流れる蒸気を塔内の充填物高さを通して充填物高さ30.5cm(1フィート)当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下を塔内で有するような流量で流す」点については、1フィート当たり0.7インチ水柱以上の1.0インチ水柱/フィート前後の圧力降下を有するような流量で流す」点で両者は一致する。
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるといえる。

(2)仮に、本件特許発明1が「充填物高さ30.5cm(1フィート)当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下を塔内で有するような流量で流す」ことについて、「充填物高さ30.5cm(1フィート)当たり少なくとも0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下」という下限値を設定する点で甲第1発明と微差があるとしても、以下に述べるとおり、かかる技術事項を格別とすることはできない。すなわち、
本件特許発明1の「30.5cm(1フィート)当たり少なくと0.174kPa(1.78cm水柱:0.7インチ水柱)の圧力降下」の技術的意義についてまずみておくと、(i)段落【0006】には「塔を通しての流量を、設計点を超えるがフラッディング点ほどにはいかないように増大することである。代表的に、充填物塔はフラッディング点の80%において設計されている。・・従来型式の組織化充填物を使用すると、圧力降下の変動がに不安定になるほど大きくなるので、設計点を僅かに超えてのみ増大し得るだけである。」
(ii)段落【0027】に「従来型式の充填物は、上記流量における僅かな変動塔がフラッドを起こす傾向をもたらす点で充填物高さの単位フィート(0.3m)当たり0.7インチ(1.78cm)水柱の通常的な設計点圧力降下を超える圧力降下において運転されるとき、不安定な挙動を示すことが認められた。・・・・本発明の場合、充填物高さの単位フィート(0.3m)当たり0.7インチ(1.78cm)水柱の圧力降下を超えて運転されるときでも安定性が維持される。・・・他方従来型式の充填物の場合きわめて注意深い運転を行っても充填物高さの単位フィート(0.3m)当たり2インチ(5.1cm)水柱を超えることは可能ではなかった。」と記載されている。
これらの記載からすると、本件発明1の上記した下限値の意味は、従来型式の充填物の通常的な設計点圧力降下の値を超えると従来不安定な挙動を示していたが、本件特許発明では、その値を超えても安定性が維持される、というものである。
この観点に立って甲第1号証を振り返ってみると、甲第1号証には上記したとおり、「本発明の構造充填体の方が(従来型に比べて)圧力降下がずっと低く、フラッディング状況を生じる前の容量が約15%増大する」(記載事項セ)とあるのであるから、従来型の設計点以上の圧力降下の値を取り得ることは明らかである。そして、従来型の設計点は、甲第1号証の記載事項ケに「代表的には塔は、問題の構造充填体のためのフラッディングポイントでの流量の80?90%の間の流量で運転されるように設計される」とあり、記載事項セに「図15には、構造充填体のHTUが、従来からのフラッドポイントまでは類似していることが示され」と記載され、「図15」には類似するポイントとして「1.0インチ水柱/フィート」前後辺りと看取できることから、従来型の設計点が0.8?0.9インチ水柱/フィート前後とみれ、こうしたフラッディングポイントが充填体の構造によって左右されることも勘案すると、0.8?0.9インチ水柱/フィート前後における適宜な点として、0.7インチ水柱/フィートに定めることは適宜行い得ることであり、甲第1発明ではそれ以上の圧力降下の値での実施ができるとみれるのであるから、当業者であれば、相違点に係る本件特許発明1の技術事項を構築することに格別困難はないというべきである。
そして、このことは、甲第2号証においても、記載事項セに「フラッド点は通常8.3?17cm水柱/m(1?2インチ水柱/フィート)の圧力降下に起こるものとして定義される」と記載され、記載事項サに「塔は使用される特定の充填物のフラッド点における「流量の80?90%の範囲で運転されるように設計される」と記載されている。また、甲第3号証の記載事項ア?ウ、甲第4号証の記載事項ア、イからみれば「等価理論プレート高さ(HETP)は、圧力降下が増加するにつれて減少する」ことはよく知られているといえ、また、甲第5号証の記載事項ア?ウからみれば「HETPがフラッディングポイントに達する前のローディング領域で減少し性能が改善される」ことや、「塔の運転は特定の高さ塔ではローディング領域で運転されるべきである」こと、「塔を改善するためには高い圧力降下を使用することが好ましい」ことが記載されているといえる。以上のことからみれば、従来型の充填体においてHETPを減少し、塔高さを制限するために圧力降下を増大させることが記載されているといえる。また、一方で圧力降下の増加は、フラッディングによって制限されることは自明なことである。
これらのことに照らせば、上記したとおり、甲第1発明の下方部分が改変された充填体は、フラッデングがより高いCv(より高い圧力降下値)において生じることが開示されていることから、下方部分が改変された甲第1発明の精留塔の運転において、従来型の充填体において使用されていた圧力降下よりも高い圧力降下であって適切な点に設定することは当業者であれば適宜行う設計的事項であり、その下限値として従来型の充填物の一般的な設計点である「0.7インチ水柱/フィート」に設定することは、当業者が格別困難なく行えるものともいえる。
そして、本件発明1が奏する明細書記載の作用効果をみても、その作用効果は予測し得る範囲内のことであって格別顕著なものとみることはできない。
してみると、本件特許発明1は、甲第1号証あるいは甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に為し得たものとも云える。

(3)まとめ
したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同じであるか、又は甲第1?5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に為し得たものであるといえる。

4-2-2.本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1の「揮発性の高い成分」と「揮発性の低い成分」について、「揮発性の高い成分が窒素でありそして揮発性の低い成分が酸素である」と限定するものである。この「窒素と酸素」は甲第1号証の記載事項キに用途として例示されていることから、本件特許発明2は上記本件特許発明1で検討したと同じ理由により、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に為し得たものと云える。

4-2-3.本件特許発明3について
本件特許発明3は本件特許発明1の「揮発性の高い成分」と「揮発性の低い成分」について、「揮発性の高い成分がアルゴンでありそして揮発性の低い成分が酸素である」と限定するものである。この「アルゴンと酸素」についても甲第1号証の記載事項キに用途として例示されていることから、本件特許発明3は上記本件特許発明1で検討したと同じ理由により、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に為し得たものと云える。

4-2-4.本件特許発明4について
本件特許発明4は本件特許発明1の「各充填物シート」について、「各充填物シートが波形に形成され、上方部分における波形の波高に対して各充填物シートの下方部分における波形の波高が低く構成されている」と限定するものである。この「充填物シートが波形に形成され、上方部分における波形の波高に対して各充填物シートの下方部分における波形の波高が低く構成」は甲第1号証の記載事項コ、サ及び【図8】に記載されていることから、本件特許発明4は上記本件特許発明1で検討したと同じ理由により、本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に為し得たものと云える。

4-2-5.本件特許発明5について
本件特許発明5は本件特許発明4の「各充填物シート」について、「各充填物シートの下方部分における前記波形の波高が零である」と限定するものである。この「充填物シートの下方部分における前記波形の波高が零」は甲第1号証の記載事項コ、サ及び【図8】に記載されることから、本件特許発明5は上記本件特許発明1及び本件特許発明4で検討したと同じ理由により、本件特許発明5は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に為し得たものと云える。

4-2-6.本件特許発明6について
本件特許発明4は本件特許発明1の「各充填物シート」について、「各充填物シートが波形に形成され、下方部分における波形の延長方向は上方部分における波形の延長方向より急な角度を有する」と限定するものである。この「充填物シートが波形に形成され、下方部分における波形の延長方向は上方部分における波形の延長方向より急な角度を有する」構成は甲第1号証の記載事項コ、サ及び【図9】に記載されていることから、本件特許発明6は上記本件特許発明1で検討したと同じ理由により、本件特許発明6は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証?甲第5号証に基づいて当業者が容易に為し得たものと云える。
なお、充填物シートについては甲第2号証にも開示されていることを付言する。

5.結び
以上のとおりであるから、本件特許発明1乃至6は、その出願前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第1項第3号又は同条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
 
審理終結日 2006-09-29 
結審通知日 2006-10-04 
審決日 2006-10-17 
出願番号 特願平11-216745
審決分類 P 1 113・ 113- Z (F25J)
P 1 113・ 121- Z (F25J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 松本 貢
斉藤 信人
登録日 2004-10-15 
登録番号 特許第3607539号(P3607539)
発明の名称 極低温精留塔を運転する方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 倉内 基弘  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  

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