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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1153255
審判番号 不服2002-3348  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-27 
確定日 2007-03-08 
事件の表示 平成6年特許願第7030号「ガスバリア包装袋」拒絶査定不服審判事件〔平成7年8月8日出願公開、特開平7-205376〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成6年1月26日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、平成14年3月27日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「粒径が1μm以下、アスペクト比が50以上5000以下の無機層状化合物とポリビニルアルコールとからなり、(無機層状化合物/ポリビニルアルコール)の体積比が(5/95)?(50/50)の範囲であることを特徴とする樹脂組成物からなる層を少なくとも1層と袋の最も内側にヒートシール性樹脂層を少なくとも1層とを有してなり、30℃、60%RH下での酸素透過度が0.2cc/m2・day・atm以下であるガスバリア包装袋。」

2.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
原査定で引用文献1として引用された特開平3-30944号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1?1)
「(1)熱可塑性樹脂からなる基材フィルムの少なくとも片面に、膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)および、ポリビニルアルコールおよびまたはその共重合体より選ばれた1種以上の樹脂(B)とからなり、(A)/(B)の重量比が30/70?95/5であるごとく配合された組成物を主とする水性樹脂組成物からなる層が、少なくとも一種以上形成されたことを特徴とする被覆プラスチックフィルム。」(特許請求の範囲)
(1?2)
「(産業上の利用分野)
本発明は、酸素、窒素、炭酸ガスや水蒸気などの気体の遮断性および透明性に優れた包装材料として好適な被覆プラスチックフィルムに関するものである。
(従来の技術)
従来より、ポリオレフィン、・・・(中略)・・・などの熱可塑性樹脂よりなるフィルム、特に配向されたポリプロピレン、・・・(中略)・・・等のフィルムは・・・(中略)・・・広く包装材料として用いられている。しかし、これらを食品包装用として用いる場合には、その気体透過性が大きすぎることから酸素遮断性が不十分であり、酸化劣化による場合や好気性微生物による場合など内容物の変質を招き易く、通常は他の酸素遮断性の良い膜層を積層するなどの方法がとられる場合が多い。
・・・(中略)・・・
一方従来より、気体透過性の小さな透明プラスチックフィルム素材も種々知られており、例えばポリビニルアルコールやポリエチレンビニルアルコール、及びポリ塩化ビニリデン系樹脂から成るフィルム等がある。しかし、これらのフィルムは何れも単独では強度、伸度、耐水性、耐熱性などの特性が、配向されたポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド等のフィルムに比し不十分であり、特にポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコールなどは非常に吸湿性が大きく、ロール状フィルムの端面が吸湿によって花びら状になるなど取り扱い性が困難なものであるとともに、目的である気体遮断性も吸湿によって大幅に低下してしまう。
・・・(中略)・・・
一方これらの問題を解決すべく、配向されたポリプロピレンやポリエステル、ポリアミドなどに前記ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン等のバリアー性樹脂を塗布する方法も検討されており、特にポリ塩化ビニリデンに就いては多く用いられている。しかし、それ等の気体遮断性は未だ充分であるとは言えず、・・・(中略)・・・に過ぎない。
(発明が解決しようとする課題)
本発明は、上記従来の課題を解決しようとするものであり、・・・(中略)・・・提供しようとするものである。」(第1頁左下欄第16行?第2頁左下欄第12行)
(1-3)
「被覆されるべき組成物に用いられる膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)とは、アルミニウム、マグネシウムまたは鉄の含水ケイ酸塩である、・・・(中略)・・・、合成ヘクトライトを用いる場合が最も好ましい。
このような合成ヘクトライトの層状構造における結晶構造各層は厚さ約1mmの2次元小板状を形成しておりこの小板ユニットに存在するマグネシウム原子が、より低原子価陽イオンのリチウム原子と同形置換としており、小板ユニットは、負に帯電している。乾燥状態では、・・・(中略)・・・釣り合っており、固層では、・・・(中略)・・・互いに結合し、平板の束となっている。これを水中に分散すると、置換可能な陽イオンが水和され、粒子が膨潤を起こし小板が分離する。この完全分離状態で透明なコロイド分散ゾルとなり、本発明に最も好ましい適用形態となる。」(第3頁右上欄第5行?右下欄第20行)
(1-4)
「[製袋物の酸素透過性]・・・(中略)・・・袋の中にチオグリコレートとレザズリン、寒天液を入れ、密封後、空気中に保存した時包材を通過した酸素とレザズリンが反応すると赤色に着色することから、着色度により判定した。」(第6頁左上欄第11?16行)
(1-5)
「実施例-1
(塗布液の調整)
・・・(中略)・・・純合成ヘクトライト・・・(中略)・・・(日本シリカ工業製ラボナイトXLS)を攪拌しつつ水中に添加し、10%の膨潤ゾルとした後、メタノールで希釈し(A)とした。
一方、・・・(中略)・・・ポリビニルアルコールの10%水溶液を作製し、(B)とした。
(A)と(B)をそれぞれの固型分比が(A)/(B)=80/20なるごとく混合し、固形分5%の水系溶液を作製し、塗布液とした。
この塗布液をコロナ放電処理された厚さ12μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ処理面上にロールコーティング方式により、塗布、乾燥の後、150℃で2分間の熱処理を行い被覆フィルムを得た。被覆層の乾燥厚みは2μmであった。」(第6頁左上欄第17行?右上欄第16行)
(1-6)
「比較例-8
・・・(中略)・・・被覆フィルムを得た。得られたフィルムの評価結果を表-1に示す。」(第7頁右上欄第10?16行)
(1-7)
「比較例-10
厚さ30μmのポリエチレンビニルアルコール・・・(中略)・・・フィルムを・・・(中略)・・・二軸延伸されたポリプロピレンフィルムと積層した。次いで、該積層フィルムのポリエチレンビニルアルコールフィルム面に、・・・(中略)・・・未延伸ポリプロピレンフィルムを・・・(中略)・・・積層し、3層構造のフィルム積層体を得た、得られたフィルム積層体を未延伸ポリプロピレン側を内側として二つ折にして重ね、開いている辺の2辺を・・・(中略)・・・ヒートシールを行い袋を作成した。この袋のなかに、レザズリンテスト試薬を含む寒天液を封入後、真空下で他の1辺をヒートシールした。」(第7頁左下欄第6?20行)
(1-8)
「実施例および比較例-11?12
実施例-1及び比較例1?2で得られたブランクおよび被覆フィルムをそれぞれ、被覆面に40μmの未延伸ポリプロピレンフィルムを・・・(中略)・・・積層し、フィルム積層体を得た。これらのフィルム積層体を比較例-8と同様それぞれ袋状と為しレザズリンによる着色度テストを行った。評価結果を表-2に示す。」(第7頁右下欄第4?11行)
(1-9)
「(発明の効果)
以上、実施例で示したように、本発明によれば、膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩(A)とポリビニルアルコールまたはその共重合体から選ばれた樹脂(B)の特定量を配合した組成物層が被覆された場合においてのみ、被覆フィルムは、透明性、気体遮断性が高度に優れており、且つ、総厚みが薄く経済的有利性を有するとともに、安定性、取り扱い性に優れている事が判る。」(第9頁左上欄第1?9行)
(2)刊行物2
原査定で引用文献2として引用された特開平5-86241号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「エチレン含量20?60モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)、水膨潤性フィロケイ酸塩(A2)およびポリアミド系樹脂(B)からなり、かつ(A1)と(A2)の合計量(A)が40?95重量%および(B)が60?5重量%である樹脂組成物。」(特許請求の範囲請求項1)
(2-2)
「【産業上の利用分野】本発明は、食品等の包装用フィルムや容器等に使用されるガスバリヤー性が高く加熱延伸操作時にピンホール、クラック、局所的偏肉、延伸むらなどがない加工性に優れた樹脂組成物、その製法、およびこの組成物を少なくとも1層含む積層体に関する。」(段落【0001】)
(2-3)
「エチレン-ビニルアルコール(以下EVOHと記す)は、他の樹脂と比較して、ガスバリヤー性・・・の極めて優れた溶融成形可能な熱可塑性樹脂であり、種々の包装分野の包装用フィルム、特に食品包装用フィルム、シート、容器等の成形体に好適に用いられてきた。ところで、このようなEVOHは・・・(中略)・・・、特にガスバリヤー性の吸湿による変化が大きく、高湿度の環境下でガスバリヤー性が低下するという欠点を有している。」(段落【0002】)
(2-4)
「EVOHにポリアミド系をブレンドして柔軟性を付与し、二次加工を増す方法は公知であり、多数の特許が出願されている(・・・(中略)・・・)が、ガスバリヤー性が充分でなく、また水膨潤性フィロケイ酸塩を均一に分散したEVOHを使用するという記載はなされていない。」(段落【0007】)
(2-5)
「本発明の目的は、前記問題点のない、しかも高湿度の環境やレトルト殺菌などの処理をうけてもガスバリヤー性のすぐれたEVOHからなる樹脂組成物を提供することにある。」(段落【0009】)
(2-6)
「本発明中に使用されるEVOH中に含有する水膨潤性フィロケイ酸塩(A2)・・・の代表的な構造は、[Si-O四面体のシート状構造]と[Al-OまたはMg-Oの八面体のシート状構造]との層状の重なりを1つの単位(以下フレークと記す)として構成される層状フィロケイ酸塩である。そして、水膨潤性フロケイ酸塩の1単位であるフレークのサイズは、およそ平均粒径1μm以下・・・(中略)・・・である。本発明でいう水膨潤性フィロケイ酸塩の膨潤性とはフレーク間に水を配位、吸収・膨潤し、場合によってはフレークあるいはその一部が分散しコロイドを生成する性質を言い、本発明のEVOH中に含有する水膨潤性フィロケイ酸塩としては、この膨潤性の性質を利用して少なくてもフィロケイ酸塩のフレーク間が部分的に分離、分散して得られる微粒子の形で実質的にEVOH中に存在することが最適である。」(段落【0014】)
(2-7)「酸素透過量 OTR Modern Control社製のOX-TRAN 10/50Aを使用し、20℃で、100%RHの条件下でOTRを測定した。」(段落【0031】)
(2-8)「実施例1 撹拌機付き容器にモンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピア-F)1.5部を濃度5重量%の水分散液になるように・・・モンモリロナイトのコロイドを調整した。これにエチレン含量32モル%、酢酸ビニル成分のけん化度が99.5モル%・・・(中略)・・・のEVOH98.5部および・・・(中略)・・・メチルアルコールおよび水を添加後、・・・(中略)・・・モンモリロナイトとEVOHの混合溶液を作成した。」(段落【0033】)

3.対比・判断
刊行物1には、上記(1-7)の「比較例-10・・・(中略)・・・未延伸ポリプロピレンフィルムを・・・(中略)・・・積層し、3層構造のフィルム積層体を得た、得られたフィルム積層体を未延伸ポリプロピレン側を内側として二つ折にして重ね、開いている辺の2辺を・・・(中略)・・・ヒートシールを行い袋を作成した。この袋のなかに、レザズリンテスト試薬を含む寒天液を封入後、真空下で他の1辺をヒートシールした。」との記載及び上記(1-8)の「実施例および比較例-11?12 実施例-1及び比較例1?2で得られたブランクおよび被覆フィルムを・・・(中略)・・・これらのフィルム積層体を比較例-8(合議体注:上記比較例?8の「8」は誤記、正しくは「10」と認める。)と同様それぞれ袋状と為しレザズリンによる着色度テストを行った。評価結果を表-2に示す。」との記載があり、上記実施例-1でフィルム積層体を袋状となすことは、着色度テストのためではあるが、刊行物1全体の記載からみて、上記着色度テストは、包装用の用途、特に食品包装用として使用する場合の具体的態様を想定したテストであると考えることが相当であり、結局、刊行物1には、得られたフィルム積層体を未延伸ポリプロピレン側を内側として二つ折にして重ね、開いている辺の2辺に対してヒートシールを行い作成した包装用の袋、が実質的に記載されているといえる。
上記のことを踏まえると、上記(1?5)ないし(1-8)の記載事項から、刊行物1には、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムからなる基材フィルムの片面に、膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)および、ポリビニルアルコール(B)からなる組成物を主とする水性樹脂組成物の被覆層を形成し、さらに該被覆層の被覆面に未延伸ポリプロピレンフィルムを積層した3層構造のフィルム積層体を得、得られたフィルム積層体を未延伸ポリプロピレン側を内側として二つ折にして重ね、開いている辺の2辺に対してヒートシールを行い作成した食品包装用の袋であって、上記コロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)は、合成ヘクトライトを用いるものであり、上記被覆層は、上記コロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)及び上記ポリビニルアルコール(B)を上記(A)/上記(B)の重量比が30/70で配合し、混合し、水系溶液を作製し塗布液としたものを、上記基材フィルムに塗布し、乾燥し、熱処理して得られたものであり、乾燥厚みが2μmであり、気体遮断性が高度に優れている食品包装用フィルム積層体からなる包装用の袋。」

そこで、本願発明と刊行物1発明とを対比すると、
a.後者の「コロイド性含水層状珪酸塩化合物」は、前者の「無機層状化合物」に、以下同様に、「気体遮断性が高度に優れている」は「ガスバリア」に、「包装用の袋」は「包装袋」に、それぞれ相当する。
b.後者の「膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)および、ポリビニルアルコール(B)からなる組成物を主とする水性樹脂組成物の被覆層」は、無機層状化合物と(A)ポリビニルアルコール(B)からなる層であるから、前者の「樹脂組成物からなる層」に相当し、後者の「包装用の袋」は、前者の「包装袋」に相当し、後者の「未延伸ポリプロピレンフィルム」は、前者の「袋の最も内側」に「有する」「ヒートシール性樹脂層」に相当するから、後者は、「樹脂組成物からなる層」を「一層」「有」するとともに、「袋の最も内側にヒートシール性樹脂層」を「1層」「有」するものといえる。

上記のことから、前者と後者は、「無機層状化合物とポリビニルアルコールとからなる樹脂組成物からなる層を1層と袋の最も内側にヒートシール性樹脂層を1層有してなるガスバリア包装袋。」で一致し、次の点で相違する。

【相違点1】:
無機層状化合物の粒径及びアスペクト比の数値範囲に関して、本願発明では、粒径が「1μm以下」、アスペクト比が、「50?5000」であるのに対して、刊行物1発明では、かかる範囲にあるか否か明らかでない点。
【相違点2】:
無機層状化合物とポリビニルアルコールの分量比に関して、本願発明では、「体積比が(5/95)?(50/50)」の範囲であるのに対して、刊行物1発明では、重量比が30/70の範囲である点。
【相違点3】:
包装袋の酸素透過度に関して、本願発明では、「30℃、60%RH下で」「0.2cc/m2・day・atm以下」であるのに対して、刊行物1発明では、かかる規定を満足するか否か明らかでない点。

そこで、上記相違点について検討する。
先ず、上記相違点1について検討する。
上記(2?1)ないし(2-10)の記載事項から、刊行物2には、次の発明(以下、「刊行物2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ガスバリヤー性にすぐれ、水膨潤性フィロケイ酸塩を含有するEVOHからなる樹脂組成物の包装用フィルムであって、上記水膨潤性フィロケイ酸塩は、その1単位であるフレークのサイズが平均粒径1μm以下であり、具体的には、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピア-F)であるEVOHからなる樹脂組成物の包装用フィルム。」

刊行物1発明におけるコロイド性含水層状珪酸塩化合物に関しては、上記(1-2)の「・・・(中略)・・・気体遮断性は未だ充分であると言え・・・(中略)・・・ない。・・・(中略)・・・本発明は、上記従来の課題を解決しようとするものであ・・・(中略)・・・る。」、上記(1-9)の「本発明によれば、膨潤性を有するコロイド性含水層状珪酸塩(A)とポリビニルアルコールまたはその共重合体から選ばれた樹脂(B)の特定値を配合した組成物層が被覆された場合においてのみ、被覆フィルムは、透明性、気体遮断性が高度に優れており、」との記載等からみて、気体遮断性に関する課題解決の目的で使用されるものであるといえる。
また、刊行物2発明における水膨潤性フィロケイ酸塩に関しては、上記(2-3)に、「このようなEVOHは・・・、特にガスバリヤー性の吸湿による変化が大きく、高湿度の環境下でガスバリヤー性が低下するという欠点を有している。」と記載されているように、エチレン-ビニルアルコールが吸湿によりガスバリア性が低下するとの課題を解決すべく使用されるものといえる。
してみると、刊行物1発明及び刊行物2発明における無機化合物は、ともに、包装材の気体遮断性に関する上記のような課題解決のために使用されるものであるから、刊行物1発明のコロイド性含水層状珪酸塩化合物に替えて、刊行物2発明の水膨潤性フィロケイ酸塩を採用することは、当業者が容易に想到し得ることといえる。
そして、刊行物2発明の水膨潤性フィロケイ酸塩の1単位であるフレークのサイズは、平均粒径1μm以下であるし、本願明細書をみると、本願発明の「無機層状化合物」の例として、本願明細書の段落【0042】で挙げられている天然モンモリロナイト(クニミネ工業(株):クニピアF)は、刊行物2発明の水膨潤性フィロケイ酸塩の具体的態様そのものであることを鑑みると、刊行物2発明のクニピアーFは、相違点1に係る粒径が「1μm以下」、アスペクト比が、「50?5000」であることを満足していることは当然であるから、相違点1に係る本願発明の構成は、刊行物1発明のコロイド性含水層状珪酸塩化合物、具体的には、合成ヘクトライトに替えて、刊行物2発明の水膨潤性フィロケイ酸塩の具体的態様である、モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピア-F)を採用することにより、当業者が容易になし得たことといえる。
なお、請求人は、審判請求書において、『一方、この合成ヘクトライトとは、平成13年12月27日提出の意見書第5頁の引用文献1との対比の項で詳述しているように、そのアスペクト比は約35と非常に低いのであるから、結局、引用文献1には、コロイド性含水層状珪酸塩化合物としてはアスペクト比が35程度と非常に低いコロイド性含水層状珪酸塩化合物(無機層状化合物)が最適であることは開示されていても、アスペクト比の高い無機層状化合物がガスバリア性に対して効果的であることについては全く開示していない。』と主張している。
しかし、刊行物1発明で用いる合成ヘクトライトのアスペクト比が、仮に、請求人がいうように約35だとしても、刊行物1における上記(1-9)の「実施例で示したように、本発明によれば、・・・(中略)・・・、被覆フィルムは、透明性、気体遮断性が高度に優れて・・・(中略)・・・いることが判る。」等の記載からみて、刊行物1は、そこで前提とする気体遮断性の基準からみれば、そのアスペクト比において、優れた気体遮断性が奏されることは明らかであり、上記したように、アスペクト比が「50?5000」の数値限定に格別の臨界的意義がみいだせず、また、刊行物1には、無機層状化合物として、アスペクト比が「50?5000」のものを採用することが好ましくないとする記載も示唆もないことを考慮すると、相違点1に係る本願発明の構成は、上記のとおり、当業者であれば容易になし得たことといえる。
上記相違点2について
次に、上記相違点2について検討する。
相違点2に係る本願発明の(体積比が)「(5/95)?(50/50)」の範囲は、小数表示では、ポリビニルアルコールに対する無機層状化合物の割合が、0.053?1の範囲に相当する。
そして、刊行物1発明における無機層状化合物とポリビニルアルコールの比に係る「重量比が30/70」との限定は、体積比に換算(合議体注:刊行物1発明のコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)としての合成ヘクトライトの比重を2.5、ポリビニルアルコールの比重を1.26とした。)すると、0.22となるから、相違点2に係る本願発明の数値範囲を満足する。
したがって、本願発明と刊行物1発明との相違点2は、実質的な相違点といえない。
そして、刊行物2発明のモンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピア-F)の比重も上記合成ヘクトライトの比重と大きく異なるものでないことは技術常識といえるから、上記相違点1で検討したように、刊行物1の合成ヘクトライトに替えて、刊行物2発明のモンモリロナイト(クニミネ工業(株)製、クニピア-F)を採用したものも、相違点2に係る本願発明の数値範囲を満足するものといえ、相違点2に係る本願発明の構成は、刊行物1発明に刊行物2発明を適用することにより、当業者が容易になし得たことといえる。
上記相違点3について
最後に、上記相違点3について検討する。
本願発明は、無機層状化合物として、「クニピアF」を用いる場合を実施例とするものであるから、上記相違点1で検討したように、刊行物1発明におけるコロイド性含水層状珪酸塩化合物(A)(本願発明の「無機層状化合物」に相当する。)として刊行物2発明の「クニピア-F」を用いた場合に、本願発明の相違点3に係る本願発明の(包装袋の酸素透過度に関して)「30℃、60%RH下で」「0.2cc/m2・day・atm以下」の規定を満足することは当然である。

そして、相違点3に係る本願発明の構成は、当業者が容易になし得たものといえる。

また、本願発明が奏する作用・効果も、刊行物1発明並びに刊行物2発明から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別なものということはできない。
したがって、本願補正発明は、刊行物1発明及び刊行物2発明から当業者が容易に発明をすることができたものといえる。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-28 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-22 
出願番号 特願平6-7030
審決分類 P 1 8・ 113- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 増山 剛
特許庁審判官 川端 康之
鈴木 由紀夫
発明の名称 ガスバリア包装袋  
代理人 久保山 隆  
代理人 中山 亨  
代理人 榎本 雅之  

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