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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1153256
審判番号 不服2002-7732  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-05-02 
確定日 2007-03-08 
事件の表示 平成 8年特許願第 74138号「住宅用耐汚染性内装材」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年10月 7日出願公開、特開平 9-262940〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [I] 手続の経緯
本願は、平成8年3月28日の出願であって、平成13年8月31日付で拒絶理由が通知され、同年11月7日付で意見書と同時に手続補正書が提出され、同年12月5日付で最後の拒絶理由が通知されたが、この拒絶理由通知に対して応答がなく、平成14年4月1日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月2日付で本件審判請求がなされ、同年5月30日付で手続補正書が提出されたものである。

[II] 平成14年5月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年5月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
1. 平成14年5月30日付の手続補正
平成14年5月30日付の手続補正(以下、本件補正という。)は、以下の請求項1を引用する請求項3
「【請求項1】 保護被膜を有する繊維からなる基材を用いてえられる住宅用内装材であって、
該保護被膜が、繊維からなる基材に含フッ素重合体の水性分散液からなる組成物を塗布または含浸してえられる被膜であり、
該含フッ素重合体の水性分散液が、ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液であることを特徴とする住宅用耐汚染性内装材。
【請求項3】 前記繊維が天然高分子化合物系繊維であり、かつ内装材が畳である請求項1または2記載の住宅用耐汚染性内装材。」を、

「【請求項1】 保護被膜を有する天然高分子化合物系繊維からなる基材を用いてえられる畳であって、
該保護被膜が、天然高分子化合物系繊維からなる基材に含フッ素重合体の水性分散液からなる組成物を塗布または含浸してえられる被膜であり、
該含フッ素重合体の水性分散液が、ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液であることを特徴とする畳。」とする補正事項を含むものである。

2. 補正事項
上記補正事項は、特許請求の範囲の請求項3において、「前記繊維が天然高分子化合物系繊維であり、かつ内装材が畳である請求項1記載の住宅用耐汚染性内装材」から「住宅用耐汚染性」の要件を削除するものである。
しかし、上記補正事項は、補正前の特定の要件を削除するものであるから、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、いわゆる「限定的減縮」を目的とする補正に該当せず、また、「請求項の削除」、「誤記の訂正」又は「明りようでない記載の釈明」のいずれを目的とするものにも該当しない。
よって、上記補正事項は、特許法第17条の2第4項に規定する目的要件に該当しない。

3. むすび
したがって、 本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4. 予備的検討
なお、前記補正事項が、仮に、限定的減縮に該当するとしても、補正後の請求項1に係る発明は、概略以下に述べる理由で独立特許要件を満足せず、本件補正はやはり補正却下を免れることはできない。
畳材において、汚れ等を防ぐために保護皮膜を設けることは、当業者にとって、既に広く知られた技術である(必要ならば、特開平4-59304号公報 従来の技術を参照のこと)。
そして、この保護被膜を、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2?7に記載の保護被膜形成材により形成することは、当業者が格別の創意を要するものとは認められない。
そうすると、仮に、前記補正事項が限定的減縮に該当するとしても、補正後の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

[III] 本件審判請求について
1. 本願発明について
平成14年5月30日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?5に係る発明は、平成13年11月7日付手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載されたとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、本願発明という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】 保護被膜を有する繊維からなる基材を用いてえられる住宅用内装材であって、
該保護被膜が、繊維からなる基材に含フッ素重合体の水性分散液からなる組成物を塗布または含浸してえられる被膜であり、
該含フッ素重合体の水性分散液が、ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液であることを特徴とする住宅用耐汚染性内装材。」(本願発明)

2. 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶理由の概略は、以下のとおりである。
「本願発明は、本願出願前に頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
刊行物1.実願平3-88082号(実開平5-30199号)のCD-ROM
刊行物2.特開平7-258499号公報
刊行物3.特開平4-325509号公報
刊行物4.特開平3-7784号公報
刊行物5.特公平4-55441号公報
刊行物6.国際公開第95/8582号パンフレット
刊行物7.特開平8-67795号公報 」

3. 引用刊行物の記載事項
(1) 刊行物1
刊行物1には、下記の事項が記載されている。
(1a) 壁装材(請求項1)
「フッ素系加工剤で処理された表面繊維シートに接着剤層および裏打ち紙が一体化された壁装材。」
(1b) 表面繊維シートに用いられる繊維(【0005】)
「本考案において表面繊維シートに用いられる繊維としては種々のものがあるが、とくに疎水性繊維、例えばポリエステル系繊維等が好ましく使用される。」
(1c) フッ素系加工剤(【0005】)
「繊維シートに施されるフッ素系加工剤は、一般にフルオロカーボン鎖をもつフッ素系樹脂で、架橋性単量体成分を分子鎖中に含みさらには該樹脂に架橋剤が添加されたものである。これは通常エマルジョンとして繊維に付着され、加熱によって架橋し繊維に固着される。」
(1d) 繊維シートに施す方法(【0006】)
「フッ素系加工剤を繊維シートに施す方法としては、原料繊維の状態で加工剤エマルジョンに浸漬する方法、織物、編物、不織布等の生機の状態で加工剤エマルジョンに浸漬する方法、あるいは、壁装材とした後に表面繊維シートにスプレー等で付与する方法等があるがこれらの方法に限定されるものではない。しかしながら、接着剤層に面する繊維シート面(裏面)にも加工剤が施されている方が接着剤が繊維シート表面に浸透しにくくなるので浸漬法によるほうが好ましい。浸漬法による場合、染色処理と同時にフッ素処理を行ってもよい。」
(1e) 効果(【0009】)
「本考案の壁装材は、フッ素系加工剤による撥水性・撥油性により、表面の油分、水分による汚れ付着が少なく長期間に亘って防汚性が発揮され、また、接着剤が繊維シート間隙から浸透して壁装材を汚染することがなく、そのため繊維シートの表面の斑や変色することがなく繊維シート表面材が有している高級感が十分発揮されるものである。」
(1f) 実施例(【0010】)
「 実施例
ポリエステル繊維からなる織物に染色を行い、該織物に対して旭ガラス社製アサヒガードAG710(フッ素系加工剤)を用いて浸漬・キュアーして表面繊維シートとした。このシートの裏面に酢ビ系接着剤を用いて難燃裏打ち紙を接着一体化し、さらに、表面シートにリン系難燃剤を塗布して壁装材とした。
得られた壁装材について、デュポン法で撥水性を、また、AATCC118法で撥油性を調べた。その結果、初期性能は撥水性で8級、撥油性で6級であり、フェード照射(63℃、40時間)後の撥水性は9級以上、撥油性は6級であり優れた撥水撥油性が認められた。」

(2) 刊行物2
刊行物2には、下記の事項が記載されている。
(2a) 複合重合体粒子が水性媒体に分散されている分散液(請求項3)
「フッ化ビニリデン50?80重量%、六フッ化プロピレン20?50重量%およびその他共重合可能な単量体0?30重量%からなる単量体を重合してなる含フッ素重合体の存在下、(メタ)アクリル酸アルキルエステル40?100重量%およびその他共重合可能な単量体0?60重量%からなる単量体を重合して得られる複合重合体粒子が水性媒体に分散されていることを特徴とする含フッ素重合体水性分散液。」
(2b) 保護コーティング材(【0024】)
「本発明の水性分散体は、特に各種基材に対する保護コーティング材として有用である。その際には、基材に塗布後、通常室温?200°C程度の温度で乾燥させる。用途としては、現場施工用常乾塗料、窯業系建材および金属製品のライン塗装用塗料、コンクリート打ち放し用クリア、防食塗料、防錆塗料等の各種塗料、撥水撥油剤、離型剤、剥離剤、潤滑剤、防水剤、、汚れ防止剤、耐候性付与剤、繊維処理剤、紙加工剤、フロアポリッシュ、屋上防水剤、床塗装剤、電着塗装剤等である。特に複合重合体粒子の水性分散液は、各種塗料用に優れている。」
(2c) 耐候性、耐汚染性、造膜性、沈降安定性に優れる塗膜(実施例5?11、表2)
水性媒体中に、含フッ素重合体の存在下で単量体を重合して得た複合重合体粒子を分散させた分散液が、実施例5?11に例示され、該実施例5?11の分散液が、耐候性、耐汚染性、造膜性、沈降安定性に優れる塗膜を形成することが表2に示されている。

(3) 刊行物3?7
刊行物3?7にも、水性媒体中に、含フッ素重合体の存在下で単量体を重合して得た複合重合体粒子を分散させた分散液が、記載されている。
含フッ素重合体として、フッ化ビニリデン(ビニリデンフルオライド)の重合体が例示されていて、「単量体」として、アクリル系単量体が例示されている。
そして、これらの分散液は、各種基材に対する保護コーティング材として使用され、優れた塗膜を形成すること、が記載されている。

4. 対比・判断
摘示(1a)?(1f)から、刊行物1には以下の発明(以下、刊行物1発明という。)が記載されているものと認める。
「防汚性被膜を有する繊維シートを用いてえられる壁装材であって、
該防汚性被膜が、繊維シートにフッ素系加工剤エマルジョンを塗布または含浸してえられる被膜である壁装材。」(刊行物1発明)
そこで、本願発明と刊行物1発明とを対比する
刊行物1発明における「繊維シート」、「壁装材」及び「フッ素系加工剤エマルジョン」は、それぞれ本願発明における「繊維からなる基材」、「内装材」及び「含フッ素重合体の水性分散液からなる組成物」に相当する。
また、本願発明の保護皮膜は内装材に対して住宅用耐汚染性を付与するものであるから、刊行物1発明における「防汚性被膜」は、本願発明における「保護被膜」に相当する。

4.1 一致点
そうすると、本願発明と刊行物1発明とは次の点で一致している。
「保護被膜を有する繊維からなる基材を用いてえられる住宅用内装材であって、
該保護被膜が、繊維からなる基材に含フッ素重合体の水性分散液からなる組成物を塗布または含浸してえられる被膜である、内装材。」

4.2 相違点
しかし、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
(1)相違点1
本願発明では、前記「含フッ素重合体の水性分散液」が、「ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液」であるのに対し、刊行物1発明は、その点が規定されていない点。
(2)相違点2
本願発明では、「内装材」が「住宅用耐汚染性」であることが規定されているのに対し、刊行物1発明は、その点が規定されていない点。

4.3 相違点の検討
(1)相違点1について
刊行物2?7には、「含フッ素重合体の水性分散液」として、「ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液」が、各種基材表面に優れた塗膜を形成することが示されており、特に、刊行物2には、塗膜が防汚性を示し、繊維処理剤として使用できることも開示されている(摘示(2b)、(2c))。
そうすると、刊行物1発明において、「フッ素系加工剤エマルジョン」として、防汚性の観点から、刊行物2?7に記載された「ビニリデンフルオライド系重合体の粒子の存在下に、アクリル系単量体を重合してえられる水性分散液」を使用することは、当業者にとって容易に想到し得るものである。

(2)相違点2について
刊行物1発明の「フッ素系加工剤」は、その撥水性・撥油性により、表面の油分、水分による汚れ付着が少なく長期間に亘って防汚性を発揮するものであり(摘示(1e))、また、「壁装材」は住宅に用いられるものであるから、該加工剤で処理した後の「壁装材」は「住宅用耐汚染性」を有するものと認められ、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
また、相違点1及び2の構成に基づく本願発明の作用効果も、格別のものということができない。
よって、本願発明は、刊行物1発明及び刊行物2?7に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5. むすび
したがって、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そして、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶を免れることはできない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-27 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-22 
出願番号 特願平8-74138
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B32B)
P 1 8・ 572- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 増山 剛
野村 康秀
発明の名称 住宅用耐汚染性内装材  
代理人 朝日奈 宗太  
代理人 佐木 啓二  

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