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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1153258
審判番号 不服2003-8132  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-08 
確定日 2007-03-08 
事件の表示 特願2000-247771「3次元ゲームにおけるオブジェクト表示方法、情報記録媒体およびエンタテインメント装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 6月 5日出願公開、特開2001-149643〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.出願の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成12年8月17日(優先日:平成11年9月16日、出願番号:特願平11-262732号)の出願であって、平成14年4月8日付で手続補正がなされた後、平成15年4月2日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年5月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものである。

第2.平成15年5月8日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年5月8日付の手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲の請求項2は、
「【請求項2】操作装置を接続可能なエンタテインメント装置における、オブジェクト表示方法であって、
前記操作装置を介して受け付けたプレイヤの操作内容にしたがって、仮想世界内に生成したプレイヤオブジェクトを移動させるプレイヤオブジェクト移動処理と、
ゲーム用データに基いて、仮想世界内に生成したゲームオブジェクトを移動させる処理と、
上記プレイヤオブジェクトの位置から、あらかじめ定めた距離N1の範囲内に、ゲームオブジェクトが存在する場合に限り、このゲームオブジェクトを追尾する方向で、かつ、プレイヤオブジェクトが視界に入る位置に仮想カメラを設定する仮想カメラ設定処理と、
この仮想カメラから見た視界画像を生成する処理と
を前記エンタテインメント装置が行なうことを特徴とするオブジェクト表示方法。」
と補正された。

上記補正は、平成14年4月8日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「仮想カメラ設定処理」が行う「設定」を、「・・・する場合には」行うものから、「・・・する場合に限り」行うものに限定し、平成14年4月8日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である各処理を行うものが「エンタテインメント装置」であると限定する内容を含むものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項2に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するかについて以下に検討する。

2.独立特許要件(特許法第29条第2項)の検討
(1)引用文献に記載された発明
本願の出願日前に頒布された特開平11-235466号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

・記載事項1(第4ページ左欄第12?37行)
「【請求項32】第一のキャラクタと複数の他のキャラクタが対峙する仮想空間の座標系に所定の視点座標と注視点座標が設定され、該視点座標から該注視点座標の方向である視線方向を見た該仮想空間の画像が所定の表示装置に表示されるコンピュータゲーム装置において、
該仮想空間の座標系における該第一のキャラクタと該他の複数のキャラクタとの位置関係に応じて、該視点座標及び該注視点座標を設定する座標設定手段を有することを特徴とするコンピュータゲーム装置。
【請求項33】請求項32において、
前記位置関係は、前記複数の他のキャラクタのうち、前記第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離であることを特徴とするコンピュータゲーム装置。
【請求項34】請求項33において、
前記仮想空間における前記距離が所定距離より長い場合、
前記座標設定手段は、前記第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが前記表示装置に表示された表示画像の奥行き方向に前後して表示されるように第一の視点座標及び第一の注視点座標を設定し、
前記仮想空間における前記距離が所定距離以内の場合、
前記座標設定手段は、前記第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが該表示画像の横方向に並んで表示されるように第二の視点座標及び第二の注視点座標を設定することを特徴とするコンピュータゲーム装置。」

・記載事項2(第4ページ右欄第1?23行)
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、ゲーム上の仮想空間においてキャラクター同士が対峙するコンピュータゲーム装置に関する。
【0002】【従来の技術】従来から、ディスプレイ上に表示された画像を見ながら、遊戯者がレバーなどで操作するキャラクタ戦士とゲーム上の敵のキャラクター戦士とがゲーム上の仮想空間において対戦する対戦型のコンピュータゲーム装置が知られている。
【0003】このようなゲームでは、ゲーム上の仮想空間に配置された2つのキャラクタ戦士の間隔が離れている場合は、両者が有している武器を利用した銃撃戦を行い、両者が接近している場合は、互いの体を利用した格闘戦を行う。
【0004】そして、ディスプレイ画面には、遊技者が自己が操作するキャラクタ戦士の背後が画面手前に表示され、画面向こう側に敵のキャラクター戦士が表示される。このような画像表示を行うために、ゲーム上の仮想空間において、遊技者が操作するキャラクタ戦士の後方斜め上から、前方に向けられた視点座標が設定され、その視点から仮想空間を見た画像が所定の座標変換処理に基づいてディスプレイに表示される。」

・記載事項3(第4ページ右欄第24?40行)
「【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述のように、ディスプレイの画面において、遊技者が操作するキャラクターが画面の手前側に背を向けて表示され、画面の向こう側に敵のキャラクターが手前側を向いて表示されるとき、両者が接近して格闘戦を行うと、画面上で両者が重なり合ってしまう。即ち、画面においては、遊技者の操作するキャラクターが手前に表示されるので、敵のキャラクターが遊技者のキャラクターによって隠れてしまい、敵のキャラクターの動きがわかりづらくなるという問題があった。
【0006】そこで、本発明の目的は、上記問題点に鑑み、ゲーム上の仮想空間においてキャラクター同士が接近した場合であっても、遊戯者が敵のキャラクターの動きを明確にはっきりと見ることができる画像を表示することができる対戦型コンピュータゲーム装置を提供することである。」

・記載事項4(第6ページ左欄第46?第7ページ左欄第42行)
「【0029】【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、本発明の技術的範囲がこの実施の形態に限定されるものではない。なお、図において、同一又は類似のものには、同一の参照数字又は参照記号を付して説明する。
【0030】図1は、本発明の実施の形態におけるコンピュータゲーム装置(ゲームユニット)の外観図である。但し、図1は、同一のゲームユニットが2台連結されている場合を示す。・・・ディスプレイ2には、図2(a)及び(b)に示すようにキャラクター戦士C1及びC2が対戦する疑似三次元の仮想空間が表示される。そして、遊戯者はディスプレイ2に表示されるゲーム画面を見ながらボタンを備えたレバーである操作部3によって、一方のキャラクター戦士C1(以下「自機」という)を操作して、もう一方のキャラクター戦士C2(以下「敵機」という)と戦う。
【0031】図3は、上記ゲーム装置に内蔵される本発明に従うゲームユニットの構成例ブロック図である。図3において、点線で囲まれた領域10は、ゲ-ムユニット本体に収納される部分である。・・・
【0032】CPU101は、ROM102に格納されたゲームプログラムに基づいてプログラムの実行を制御する。RAM103は、ゲーム進行に伴って更新されるキャラクタの仮想空間における座標など所定のゲームパラメータが記憶される。
【0033】そして、RAM103に一旦記憶されたこれらのパラメータは、座標設定手段としてのジオメトリ処理部104に送られる。・・・
【0034】さらに、ジオメトリ処理104には、レンダリング処理部105が接続されている。・・・レンダリング処理部105は、テクスチュアバッファ106に記憶されたポリゴンのテクスチュアデータに基づいて各ポリゴンに着色、シェーディング、テクスチュアの貼り付けなどを行う。
【0035】・・・また、レンダリング処理部105に接続されるZバッファ107には、上述のポリゴンの座標を三次元座標系から二次元座標系に変換する際の奥行き方向(Z方向)に関するデータ情報(例えば、どのポリゴンを手前に表示するかなどのデータ)が記憶されている。
【0036】そして、レンダリング処理部105の出力側には、フレームバッファ108が接続される。フレームバッファ108には、ディスプレイ2に表示される一画面分のデータが格納される。フレームバッファ108から読み出される一画面分の画像データは、ビデオ処理部109によってビデオ信号に変換されて、順次ディスプレイ2に表示される。・・・
【0040】次に、上述したキャラクターの表示座標を求める方法について説明する。まず、キャラクター戦士の上記ゲーム上の仮想空間における位置は、仮想空間における三次元座標(ワールド座標系)における位置座標(Xw 、Yw 、Zw )として与えられる。また、仮想空間におけるキャラクター戦士以外の固定オブジェクトなどの背景の位置もワールド座標系における位置座標として与えられる。そして、キャラクター戦士の仮想空間内の移動は、ワールド座標系の位置座標の変更として処理される。具体的には、キャラクター戦士の位置座標は、上記操作部3などからの操作信号に含まれる移動量及び移動方向の情報に基づいて上記CPU101の演算によって演算される。
【0041】一方、ディスプレイ2に表示される画像は、三次元仮想空間にワールド座標系のある一点の座標(視点座標)から所定方向を見た二次元画像として表示される。」

・記載事項5(第11ページ右欄第44行?第12ページ右欄第6行)
「【0100】[第三の実施の形態]次に、本発明の第三の実施の形態について説明する。仮想空間において対戦する対戦ゲームにおいて、上述の実施の形態のような1対1の対戦に加えて、本第三の実施の形態で説明するような1対多で対戦する対戦ゲームがある。・・・
【0102】図20は、仮想空間内で自己のキャラクタと複数の敵のキャラクタの距離が離れている場合におけるカメラVの方向を示す図である。具体的には、複数の敵のキャラクタC2、C3、C4のうち、自己のキャラクタC1に最も近い敵キャラクタC2と自己キャラクタC1との距離が所定半径r(例えば、仮想空間における3.5m)より離れている場合である。自己キャラクタC1に最も近い敵キャラクタC2との距離が選択されるのは、最も近いキャラクタC2が、自己キャラクタC1と最初に接近して、格闘を行う可能性が高いキャラクタであるからである。
【0103】このような場合は、視線方向Ra 上に自己キャラクタC1と敵キャラクタC2が前後して配置されるような位置に、カメラVは位置決めされる。即ち、画面上において、自己キャラクタC1が手前に表示され、奥側に敵キャラクタC2が表示されるように視線方向Ra が設定される。さらに詳しくは、視点座標Pa は、自己キャラクタC1の下端位置から高さ方向(Yw 方向)に所定高さHa の注視点座標Qa から最も近い敵キャラクタC2への方向と反対方向に延びる直線上に設定される。また、視点座標Pa から注視点座標Qa への視線方向Ra の水平に対する角度は、水平に対して角度θa 下向きである。角度θa は、例えば12.5度である。
【0104】図21は、図20に対応するディスプレイ2の画面の例を示す図である。図21に示されるように、視線方向Ra から仮想空間を見ることによって、自己キャラクタC1が画面手前側に表示され、複数の敵キャラクタC2,C3、C4が画面奥側に表示される。
【0105】このように、自己キャラクタC1が画面手前に表示されることによって、遊戯者は、自己キャラクタC1が見ている仮想空間とほぼ同じ画像を画面上に見ることができるので、自己キャラクタC1と一体感を有することができ、より自然な画像が得られる。さらに、自己キャラクタC1の画像が小さく表示されることなく、遠方にいる複数の敵キャラクタを画面上に表示することができる。
【0106】次に、図22は、仮想空間内で自己キャラクタと複数の敵のキャラクタの距離が接近している場合におけるカメラVの方向を示す図である。具体的には、複数の敵のキャラクタC2、C3、C4のうち、自己のキャラクタC1に最も近い敵キャラクタC2と自己キャラクタC1との距離が例えば上記所定半径r(3.5m)以内の場合である。
【0107】このような場合は、視線方向に対して左側(右側)及び右側(左側)にそれぞれ自己C1キャラクタと最も近い敵キャラクタC2が配置されるような位置に、カメラVは位置決めされる。即ち、画面上において、自己キャラクタC1と最も近い敵キャラクタC2とが左右に並んで表示されるように視線方向Rb が設定される。」

これらの記載によれば、引用文献には、以下の発明が記載されているものと認められる。

「CPU101、ROM102、RAM103、ジオメトリ処理部104、レンダリング処理部105、テクスチュアバッファ106、Zバッファ107、フレームバッファ108、及び、ビデオ処理部109を含む領域10にディスプレイ2及び操作部3が接続されており、
遊戯者がディスプレイ2に表示されるゲーム画面を見ながら操作部3によって、第一のキャラクタを操作して、複数の他のキャラクタと戦うコンピュータゲーム装置であって、
キャラクタの位置座標は、上記操作部3などからの操作信号に含まれる移動量及び移動方向の情報に基づいて上記CPU101の演算によって演算され、
第一のキャラクタと複数の他のキャラクタが対峙する仮想空間の座標系に所定の視点座標と注視点座標が設定され、該視点座標から該注視点座標の方向である視線方向を見た該仮想空間の画像がディスプレイ2に表示され、
該仮想空間の座標系における該第一のキャラクタと該他の複数のキャラクタとの位置関係に応じて、該視点座標及び該注視点座標を設定し、
前記位置関係は、前記複数の他のキャラクタのうち、前記第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離であり、
前記仮想空間における前記距離が所定距離より長い場合、前記第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが前記ディスプレイ2に表示された表示画像の奥行き方向に前後して表示されるように第一の視点座標及び第一の注視点座標を設定し、
前記仮想空間における前記距離が所定距離以内の場合、前記第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが該表示画像の横方向に並んで表示されるように第二の視点座標及び第二の注視点座標を設定するコンピュータゲーム装置。」(以下、「引用発明」という。)

(2)本願補正発明と引用発明との対比
・対応関係1
引用発明の「操作部3」は、本願補正発明の「操作装置」に相当し、以下同様に、「CPU101・・・を含む領域10」は「エンタテインメント装置」に、「キャラクタ」は「オブジェクト」に、「遊戯者」は「プレイヤ」に、「仮想空間」は「仮想世界」に、「第一のキャラクタ」は「プレイヤオブジェクト」に、「他のキャラクタ」は「ゲームオブジェクト」に、「所定距離」は「あらかじめ定めた距離N1」に、「第二のキャラクタ」は「このゲームオブジェクト」にそれぞれ相当する。

・対応関係2
装置発明において、装置が行っている処理は、装置が行う方法の発明としても認識されるものである。
そして、引用発明において、コンピュータゲーム装置の処理は、操作部3が接続された領域10に含まれるCPU101等の各手段によってなされるものであって、キャラクタの表示に係る処理も領域10において行われている。
ここで、上記対応関係1を考慮すれば、引用発明において、コンピュータゲーム装置が行っている処理は、本願補正発明にいう「操作装置を接続可能なエンタテインメント装置におけるオブジェクト表示方法」であるといえる。

・対応関係3
引用発明は、遊戯者が操作部3によって第一のキャラクタを操作するものであって、キャラクタの仮想空間での位置座標は、上記操作部3などからの操作信号に含まれる移動量及び移動方向の情報に基づいて上記CPU101の演算によって演算するものである。
すなわち、引用発明は、操作部3を介して受け付けた遊戯者の操作内容にしたがって、仮想空間において第一のキャラクタを移動させるものである。
ここで、上記対応関係1及び2を考慮すれば、引用発明において、第一のキャラクタの位置座標を演算することは、本願補正発明にいう「操作装置を介して受け付けたプレイヤの操作内容にしたがって、仮想世界内に生成したプレイヤオブジェクトを移動させるプレイヤオブジェクト移動処理」であるといえる。

・対応関係4
引用発明は、遊戯者が第一のキャラクタを操作して、複数の他のキャラクタと戦うものであり、キャラクタの仮想空間での位置座標は、上記操作部3などからの操作信号に含まれる移動量及び移動方向の情報に基づいて上記CPU101の演算によって演算されるものである。
すなわち、引用発明は、仮想空間において他のキャラクタを移動させるものである。
ここで、上記対応関係1及び2を考慮すれば、引用発明において、他のキャラクタの位置座標を演算することは、本願補正発明にいう「ゲームオブジェクトを移動させる処理」と「仮想世界内に生成したゲームオブジェクトを移動させる処理」を行う点において共通する。

・対応関係5
引用発明は、第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離が所定距離以内の場合、前記第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが該表示画像の横方向に並んで表示されるように視点座標及び注視点座標を設定し、該視点座標から該注視点座標の方向である視線方向を見た該仮想空間の画像がディスプレイに表示されるものである。
仮想空間で行われるゲーム装置におけるゲーム画像を仮想カメラによるものとして表現することは一般的になされていることであって、引用発明における表示視点座標から注視点座標の方向である視線方向を見た仮想空間の画像を「仮想カメラから見た視界画像」と言い換えることができることは当業者に自明のことであり、引用発明において表示視点座標及び注視点座標を設定することを「仮想カメラを設定する」と言い換えることができることも当業者に自明のことである。
そして、第二のキャラクタが表示されている状態を維持することは、仮想カメラという表現を用いれば、仮想カメラが第二のキャラクタを追尾する方向に設定されるといえるものである。
ここで、上記対応関係1及び2を考慮すれば、引用発明において、第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離が所定距離以内の場合になされる視点座標及び注視点座標の設定と、本願補正発明の「仮想カメラ設定処理」とは、「プレイヤオブジェクトの位置から、あらかじめ定めた距離N1の範囲内に、ゲームオブジェクトが存在する場合に、このゲームオブジェクトを追尾する方向で、かつ、プレイヤオブジェクトが視界に入る位置に仮想カメラを設定する」点において共通する。

・対応関係6
引用発明は、視点座標から注視点座標の方向である視線方向を見た該仮想空間の画像がディスプレイに表示されるものである。
ここで、上記対応関係1、2及び5を考慮すれば、引用発明において、視点座標から注視点座標の方向である視線方向を見た仮想空間の画像がディスプレイに表示されることは、本願補正発明にいう「仮想カメラから見た視界画像を生成する処理」を含んだものであるといえる。

・一致点
よって、本願補正発明及び引用発明は、
「操作装置を接続可能なエンタテインメント装置における、オブジェクト表示方法であって、
前記操作装置を介して受け付けたプレイヤの操作内容にしたがって、仮想世界内に生成したプレイヤオブジェクトを移動させるプレイヤオブジェクト移動処理と、
仮想世界内に生成したゲームオブジェクトを移動させる処理と、
上記プレイヤオブジェクトの位置から、あらかじめ定めた距離N1の範囲内に、ゲームオブジェクトが存在する場合に、このゲームオブジェクトを追尾する方向で、かつ、プレイヤオブジェクトが視界に入る位置に仮想カメラを設定する仮想カメラ設定処理と、
この仮想カメラから見た視界画像を生成する処理と
を前記エンタテインメント装置が行なうオブジェクト表示方法。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
仮想世界内に生成したゲームオブジェクトを移動させる処理が、本願補正発明は、ゲーム用データに基いてなされているのに対して、引用発明は、操作部3などからの操作信号に含まれる移動量及び移動方向の情報に基づいてなされている点。(以下、「相違点1」という。)

・相違点2
仮想カメラ設定処理において、ゲームオブジェクトを追尾する方向で、かつ、プレイヤオブジェクトが視界に入る位置に仮想カメラを設定することが、本願補正発明は、プレイヤオブジェクトの位置から、あらかじめ定めた距離N1の範囲内に、ゲームオブジェクトが存在する場合に限り行われるのに対して、引用発明は、そのように構成されていない点。(以下、「相違点2」という。)

(3)相違点についての検討
・相違点1について
上記記載事項4に摘記した「【0030】図1は、本発明の実施の形態におけるコンピュータゲーム装置(ゲームユニット)の外観図である。但し、図1は、同一のゲームユニットが2台連結されている場合を示す。」との記載から考えると、引用発明において、他のキャラクタの位置座標の演算、すなわち移動処理は、引用発明に明示していない連結された同一のコンピュータゲーム装置での別の遊戯者による別の操作部からの操作信号に含まれる移動量及び移動方向に基づいてなされているものである。
しかし、同一のコンピュータゲーム装置を連結して、複数の遊戯者がキャラクタを操作して対戦を行うゲームシステムにおいて、連結したコンピュータゲーム装置に遊戯者がいない場合に遊戯者にかわって、コンピュータゲーム装置がゲーム用データに基いてキャラクタを操作する技術は、例をあげるまでもなく周知のものであり、引用発明において、他のキャラクタの位置座標をゲーム用データに基いて演算させるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、引用発明において、前記相違点1に係る本願補正発明の構成のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

・相違点2について
引用発明は、第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離が所定距離より長い場合、第一のキャラクタと前記第二のキャラクタが前記ディスプレイに表示された表示画像の奥行き方向に前後して表示されるように第一の視点座標及び第一の注視点座標を設定しているものである。
しかし、上記記載事項3に摘記した記載をみれば、引用文献における発明の主題は、第一のキャラクタに最も近い位置にいる第二のキャラクタと前記第一のキャラクタとの距離が所定距離より短い場合における問題点に着目し、その問題点を解決することであって、当業者であれば、引用発明における、第二のキャラクタと第一のキャラクタとの距離が所定距離より長い場合の視点座標及び注視点座標の設定の仕方は、第二のキャラクタと第一のキャラクタとの距離が所定距離より短い場合の視点座標及び注視点座標の設定の仕方と一体不可分ではなく独立して設定できると理解するところである。
そして、引用文献における上記発明の主題を考えれば、第二のキャラクタと第一のキャラクタとの距離が所定距離より長い場合の視点については、当業者であれば、実施例にこだわらず、各種の要因を考慮して、周知の視点の設定手法を種々検討するものであって、本願出願前から仮想空間における対戦ゲームにおいて、慣用されているところの敵キャラクタとは関係なく定められる視点、すなわち、遊技者が操作するキャラクタの後方斜め上から前方に向けられた視点を引用発明において第二のキャラクタと第一のキャラクタとの距離が所定距離より長い場合の視点とすることは、当業者が容易に想到し得ることであり、引用発明において、前記相違点2に係る本願補正発明の構成のようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

・むすび
以上のように、本願補正発明は、引用発明、及び、周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願に際、独立して特許を受けることができない。

(4)まとめ
したがって、平成15年5月8日付の手続補正は、平成15年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項で準用する特許法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明に関する検討
1.本願発明
平成15年5月8日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1乃至24に係る発明は、平成14年4月8日付の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至24に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】操作装置を接続可能なエンタテインメント装置における、オブジェクト表示方法であって、
前記操作装置を介して受け付けたプレイヤの操作内容にしたがって、仮想世界内に生成したプレイヤオブジェクトを移動させるプレイヤオブジェクト移動処理と、
ゲーム用データに基いて、仮想世界内に生成したゲームオブジェクトを移動させる処理と、
上記プレイヤオブジェクトの位置から、あらかじめ定めた距離N1の範囲内に、ゲームオブジェクトが存在する場合には、このゲームオブジェクトを追尾する方向で、かつ、プレイヤオブジェクトが視界に入る位置に仮想カメラを設定する仮想カメラ設定処理と、
この仮想カメラから見た視界画像を生成する処理と
を備えることを特徴とするオブジェクト表示方法。」

2.引用文献に記載された発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献、および、その記載事項は、前記「第2.2.(1)」に記載したとおりである。

3.引用発明と本願発明との対比・判断
本願発明は、本願補正発明から、各処理を行うものが「エンタテインメント装置」であるとする限定、及び、「仮想カメラ設定処理」が行う「設定」を「・・・する場合に限り」行うものとする限定を省いたものであるから、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件が付加された本願補正発明が、前記第2.2に記載したとおり、引用発明、及び、周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本願発明も同様の理由により、引用発明、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、及び、周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願の他の請求項について検討するまでもなく、本願は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-28 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-22 
出願番号 特願2000-247771(P2000-247771)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松川 直樹榎本 吉孝  
特許庁審判長 三原 裕三
特許庁審判官 植野 孝郎
宮本 昭彦
発明の名称 3次元ゲームにおけるオブジェクト表示方法、情報記録媒体およびエンタテインメント装置  
代理人 三品 岩男  

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