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審決分類 審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C08L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1153289
審判番号 不服2004-13670  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-07-01 
確定日 2007-03-08 
事件の表示 平成 7年特許願第174360号「耐熱性シール材」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月 7日出願公開、特開平 9- 3246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成7年6月16日の出願であって、平成15年6月20日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成15年8月20日に意見書及び手続補正書が提出されたが、さらに平成16年1月23日付けで最後の拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成16年3月9日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年7月1日に審判請求がなされ、平成16年7月15日に手続補正書(平成16年8月24日に手続補正書(方式)提出)が提出されたものである。

II.補正却下の決定
1.平成16年7月15日付けの手続補正(平成16年8月24日に手続補正書(方式)提出)を却下する。
2.補正却下の決定の理由
〔1〕手続補正の内容
平成16年7月15日付けでした手続補正(平成16年8月24日に手続補正書(方式)提出)(以下、「本件手続補正」という。)は、特許請求の範囲請求項1の記載について、
「【請求項1】 水素化NBR100重量部に対し比表面積(窒素吸着法による)が20?200m2/gのホワイトカーボンを40?150重量部添加した水素化NBR組成物の有機過酸化物加硫物よりなる自動車のエンジンまたはコンプレッサ用耐熱性シール材。」を
「【請求項1】 水素化NBR100重量部に対し比表面積(窒素吸着法による)が30?100m2/gのホワイトカーボン(pH8.5以上のものを除く)を40?150重量部添加した水素化NBR組成物の有機過酸化物加硫物よりなる自動車のエンジンまたはコンプレッサ用耐熱性シール材。」と補正する事項を含むものである。
〔2〕本件手続補正の適否について検討する。
本件手続補正は、特許請求の範囲の請求項1において、使用するホワイトカーボンについて「(pH8.5以上のものを除く)」という規定を付加することを含むものである。そして、願書に最初に添付した明細書には、ホワイトカーボンのpHについては数値はもとより、「pH」という言葉そのものについても全く記載が存在しない。
ところで、「除くクレーム」とする補正は、請求項に係る発明が、先行技術と重なるために新規性等(特許法第29条第1項第3号、同法第29条の2又は同法第39条)を失う恐れがある場合に、補正前の請求項に記載した事項の記載表現を残したままで、当該重なりのみを除く補正であり、例外的に、願書に最初に添付した明細書等に記載した事項の範囲内でするものとして取り扱われるものである(「特許・実用新案審査基準」第III部明細書又は図面の補正 第I節新規事項4.2(4)除くクレーム 参照)。
しかしながら、審判請求前(補正前)の請求項1に係る発明は、「エンジン又はコンプレッサ用耐熱性シール材」に係るものであるに対し、原査定の拒絶の理由に採用され、また、請求人が本件手続補正の根拠としている引用例6に記載された発明には、この点について何ら記載がされていないので、そもそも両発明は重複するものではない。
そうすると、本件手続補正(「除くクレーム」の補正)は、上記の「先行技術と重なるために新規性等(特許法第29条第1項第3号、同法第29条の2又は同法第39条)を失う恐れがある場合」の補正に該当するものとはいえないから、本件手続補正は願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものとして取り扱うことができない。
〔3〕むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、平成6年改正前特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。

III.本願発明
本願についてされた平成16年7月15日付けでした手続補正(平成16年8月24日に手続補正書(方式)提出)は、決定をもって却下された。したがって、本願の請求項1に係る発明は、平成8年1月11日付け、平成15年8月20日付け及び平成16年3月9日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定されたとおりものであり、請求項1には次のとおり記載されている。
「【請求項1】 水素化NBR100重量部に対し比表面積(窒素吸着法による)が20?200m2/gのホワイトカーボンを40?150重量部添加した水素化NBR組成物の有機過酸化物加硫物よりなる自動車のエンジンまたはコンプレッサ用耐熱性シール材。」

IV.拒絶査定の理由
原審において拒絶査定の理由とされた平成16年1月23日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1の概要は、次のとおりである。
理由1;この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
理由1
・請求項1
・引用文献6
引用文献6には、不飽和ニトリル-共役ジエン共重合ゴムの共役ジエン単位部分を水素化したもの100重量部に対し、無水ケイ酸等のシリカ系無機配合剤(本願発明のホワイトカーボンに相当。)を20?300重量部配合したものを、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物により加硫した加硫物よりなる耐熱性シール材が記載されている。

本願請求項1に係る発明と引用文献6に記載された発明とを対比すると、本願請求項1に係る発明では、ホワイトカーボンを含有する水素化NBR組成物の有機過酸化物加硫物を自動車のエンジンまたはコンプレッサ用の耐熱シール材にするのに対し、引用文献6にはエンジン、コンプレッサ用のシール材とする記載がない点でのみ相違している。
しかしながら、引用文献6には「本発明のゴム組成物はニトリル基含有高飽和重合体ゴムの特徴である耐オゾン性、耐熱性、耐油性を有すると共により高温での長期耐熱シール性が改善されているので各種オイル、ガス等と接触して使用され、耐熱性、耐油性が要求されるゴム製品、耐屈曲疲労性、耐摺動シール性の要求されるゴム製品。特にシール用ゴム製品の製造に使用すると効果を発揮する。
従って、本発明の対象とするゴム製品は回転機器の軸受けに用いるO-リング・・・などの各種シール用ゴム製品・・・等が例示できる。」(第3頁右下欄。)と記載されている。
そして、上記のような各種オイル、ガスと接触して使用され、耐熱性、耐油性が要求されるシール材を使用する「回転機器の軸受け」を含む部位として、自動車エンジン、コンプレッサは代表的なものであるので(引用文献8?10を参照)、引用文献6に記載された発明において、加硫物よりなるシール材を「エンジン又はコンプレッサ用」にすることは当業者が容易になし得ることである。
・・・・・
引用文献等一覧
6.特開昭62-240338号公報
8.特開平05-148476号公報
9.特開平05-132663号公報
10.特開平07-118447号公報

V.引用例に記載の事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願出願前に国内において頒布された刊行物である、特開昭62-240338号公報(以下、「引用例6」という。)には、以下の記載がされている。
(6-1)
「【特許請求の範囲】
(1)ヨウ素価が80以下のニトリル基含有高飽和重合体ゴム、(2)pHが8.5以上のシリカ系無機配合剤及び(3)ビニル系シランカップリング剤から成ることを特徴とする耐熱性が改善されたゴム組成物。」(特許請求の範囲)
(6-2)
「本発明のニトリル基含有高飽和重合体ゴムとしては不飽和ニトリル-共役ジエン共重合ゴムの共役ジエン単位部分を水素化したもの;不飽和ニトリル-共役ジエン-エチレン性不飽和モノマー三元共重合ゴム及びこのゴムの共役ジエン単位部分を水素化したもの;不飽和ニトリル-エチレン性不飽和モノマー系共重合ゴムが挙げられる。」(2頁左上欄16行?右上欄2行)
(6-3)
「本発明で使用するシリカ系無機配合剤は無水ケイ酸、含水ケイ酸、合成ケイ酸塩、クレー、タルクなどが例示され、1種又は2種以上で使用されるが、これらはpHが8.5以上であることが望ましい。pHが8.5未満では耐熱性が改善されない。より好ましくは9.0以上である。
………
シリカ系無機配合剤の使用量は特に制限されないが、耐熱性の観点から本発明のニトリル基含有高飽和重合体ゴム100重量部当り通常20重量部以上が好ましい。しかしながら、300重量部以上となると加工性が著しく低下するので実用上好ましくない。」(2頁右下欄10行?3頁左上欄6行)
(6-4)
「配合剤としては、硫黄、……などから成る硫黄加硫系;ジクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどの有機過酸化物、あるいはこれらと…などの多官能性モノマー、……などの架橋助剤からなる有機過酸化物加硫系;炭酸カルシウム等の充てん剤;可塑剤、プロセス油、加工助剤、ジフェニルアミン系、ベンズイミダゾール系等の老化防止剤等が通常使用される。」(3頁左下欄1行?16行)
(6-5)
「本発明のゴム組成物はニトリル基含有高飽和重合体ゴムの特徴である耐オゾン性、耐熱性、耐油性を有すると共により高温での長期耐熱シール性が改善されているので各種オイル、ガス等と接触して使用され、耐熱性、耐油性が要求されるゴム製品、耐屈曲疲労性、耐摺動シール性の要求されるゴム製品、特にシール用ゴム製品の製造に使用すると効果を発揮する。従って、本発明の対象とするゴム製品は回転機器の軸受けに用いるO-リング;パッキング、ガスケットなどの各種シール用ゴム製品;製鉄用、紡績用、印刷用、製紙用などの各種ロール;コンベヤーベルト、タイミングベルト等の各ベルト;バルブ及びバルブシール材;油井で使用されるパッカー、ウェルヘッドシール、パイププロテクターBOP(Blow out Preventar)、ブラダ-等;各種クッション材、防振材等;クランクシャフトシール、ベアリングシール、アクセルのロータリーシール、船尾管シール等の船舶又は自動車の軸受シール;各種ダイアフラム;マリンホース、ライザー、フローライン等のホース類;地熱発電等のエネルギー分野などの幅広い用途のゴム製品等が例示できる。」(3頁左下欄17行?右下欄18行)
(6-6)
実施例1
結合アクリロニトリル量41重量%のアクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム(NBR)中のブタジエン単位を部分水素化してヨウ素価が75の水素化NBRを得た。
この水素化NBRと第1表に記載した各種配合剤とをロール上で混合してゴム配合物を得た。これらのそれぞれを170℃で15分加圧加熱することにより加硫物を得た。JISK6301に従って加硫特性を測定し、第2表に示す結果を得た。
第1表(配合処方)

第 2 表

」(第4頁)
同じく特開平05-148476号公報(以下、「引用例8」という。)には、以下の記載がされている。
(8-1)
「【0002】
【従来の技術】耐熱耐油性部材として知られているオイルフィルタ用ガスケットには、従来より耐油性の観点からNBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)材が用いられている。しかし、近年におけるエンジンの高性能化に伴う油温の上昇、及びオイルフィルタ取り付け位置の変更に伴う雰囲気温度の上昇により、現在使用しているNBR材よりなるガスケットは耐熱的に限界にきている。このため、NBRに代わる耐熱性及び耐油性に優れた材料が必要になってきている。」(2頁1欄12行?21行)
同じく特開平05-132663号公報(以下、「引用例9」という。)には、以下の記載がされている。
(9-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】水素化されたアクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマーを主体ポリマーとした材料で構成され、すでに加硫成形されたエアコン用シールゴム基材の一部あるいは全部が、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマーを主成分とするゴム組成物で被覆されていることを特徴とするエアコン用シールゴム。」(特許請求の範囲)
(9-2)
「【0002】
【従来の技術】上記のようなエアコン用シールゴムの材料には、冷媒(フロン12等)に対するガス透過性や発泡性が低いこと、コンプレッサーの潤滑油(冷凍機油)に対する耐油性があること、また、長期間にわたり良好なシール性(特に耐へたり性)が要求される。従来、このような種々の要求特性に対して、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマー(以下NBRと略す。)を主成分とするゴム組成物が広く用いられてきた。
【0003】一方最近、自動車エンジンの高出力化、高性能化や軽量化、省スペース化によるエンジンルームの空スペースの減少に伴いエンジンルーム内の温度は上昇傾向にある。このような状況の中、車両用エアコンシステムの使用環境も厳しくなり、エアコン用シールゴムにもその対応が要求されてきた。
【0004】一般に、NBRのように主鎖に不飽和炭素結合を有するポリマーは熱、酸素等による影響で劣化しやすく、高温下での使用では耐へたり性が悪く、長期間にわたって良好なシール性を得ることが難しい。この点を改良するために、従来のNBRのブタジエン部分を水素化した主鎖が飽和炭素結合からなるポリマー(以下HNBRと略す。)を主成分とするゴム組成物を用いたシールゴムが開発されてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】昨今、オゾン層破壊という環境問題がクローズアップされ、その直接的原因と考えられている冷媒(フロン12等)からオゾン層を破壊しない新冷媒(フロン134a等) への代替が進められつつある。また、それにともなって冷媒との相溶性から、冷凍機油の変更も進められている。ただし、現行冷媒から新冷媒への完全な転換にはなお時間を要し、市場では両冷媒、両冷凍機油が混入する可能性がある。したがって、エアコン用シールゴムも両冷媒、両冷凍機油に対応する必要性がでてきた。しかしながら、従来のエアコン用シールゴム材料であるNBRは耐熱性が悪く、またHNBRは新冷媒に対するガス透過性や発泡性がNBRに比べて劣っていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】この発明は、新冷媒に対するガス透過性や発泡性に劣るHNBRを主体ポリマー成分とした材料を、エアコン用シールゴム基材に使用しうることを知見したことに基づくものである。すなわち、この発明のエアコン用シールゴムは、HNBRを主体ポリマーとした材料で構成され、すでに加硫成形されたエアコン用シールゴム基材の一部あるいは全部が、NBRを主成分とするゴム組成物で被覆されていることを特徴とするものである。」(2頁1欄9行?2欄10行)
同じく特開平07-118447号公報(以下、「引用例10」という。)には、以下の記載がされている。
(10-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】水素添加ニトリルゴムまたはニトリルゴム100重量部当り、いずれも約5?145重量部のカーボンブラックと比表面積約20?200m2/gのホワイトカーボンとを約40?150重量部の合計量で、有機過酸化物約1?10重量部と共に含有せしめてなるゴム組成物。」(特許請求の範囲)
(10-2)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ゴム組成物に関する。更に詳しくは、フロンおよび冷凍機油に対してすぐれた耐性を有するゴム組成物に関する。」(2頁1欄8行?11行)
(10-3)
「【0008】水素添加ニトリルゴムとしては、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴム(ニトリルゴム)を水素添加し、分子主鎖中の炭素-炭素二重結合量を10%以下にしたものが好んで用いられるが、本発明においてはニトリルゴム自体を用いることもできるので、この二重結合量が10%以上のものも用いることができる。また、そのムーニー粘度ML1+4(100℃)について、一般には60?85程度のものが用いられるが、100以上のものを用いることもできる(特開平5-65,369号公報参照)。実際的には、市販品、例えば日本ゼオン製品ゼットポールシリーズのものなどが用いられる。」(2頁2欄13行?23行)
(10-4)
「【0015】
【発明の効果】水素添加ニトリルゴムまたはニトリルゴムに、カーボンブラックおよび特定比表面積のホワイトカーボンを混合した場合、分散性などに問題はなく、均一に混合することができる。かかるゴム組成物を有機過酸化物で架橋すると、フロンR12、R134aの両冷媒およびこれらに使用されるすべての冷凍機油に対してすぐれた耐性を示し、更に金属腐食性を有しない。
【0016】従って、本発明に係るゴム組成物は、フロンR12またはフロンR134aを使用しているエアコン、冷蔵庫などに用いられるOリング、パッキン、オイルシールなどのゴム部品の成形材料として好適に用いることができる。」(3頁4欄8?20行)

VI.対比・判断
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用例6に記載された発明とを対比すると、引用例6には、ニトリル基含有高飽和重合体ゴムとシリカ系無機配合剤を含む組成物が記載され[摘示事項(6-1)、(6-2)、(6-3)]、明細書の実施例に示されるように、具体的には、水素化NBR、シリカ系無機配合剤及び有機過酸化物を配合し混合物(組成物)を得、これを加硫成形するものであることが記載されている〔摘示記載(6-6)〕。また、シリカ系無機配合剤はニトリル基含有高飽和重合体ゴム100重量部に対して20?300重量部配合されることも記載されている〔摘示記載(6-3)〕。そして、その組成物の用途が耐熱性シール材を含む多岐の用途に使用されるものであることも記載されている〔摘示記載(6-5)〕。
そうすると、両者は、「水素化NBR100重量部に対し無機配合剤を40?150重量部添加した水素化NBR組成物の有機過酸化物加硫物よりなる耐熱性シール材」の点で一致し、次の点で相違している。
相違点1
本願発明は、無機配合剤として、比表面積(窒素吸着法による)が20?200m2/gのホワイトカーボンを添加配合しているのに対し、引用例6に記載された発明は、シリカ無機配合剤を添加配合している点
相違点2
本願発明は、用途が「自動車のエンジンまたはコンプレッサ用耐熱性シール材」と規定されているのに対し、引用例6に記載された発明は、その点が明記されていない点
そこで、相違点について検討する。
相違点1について
引用例6には、その特許請求の範囲に「pHが8.5以上のシリカ系無機配合剤」と記載され、発明の詳細な説明には「本発明で使用するシリカ系無機配合剤は無水ケイ酸、含水ケイ酸、合成ケイ酸塩、クレー、タルクなどが例示され、」と記載され〔摘示記載(6-3)〕、実施例の第2表の本発明例5、6、8、9ではシリカ系無機配合剤として「カープレックス#1120」や「ソレックスCM」が用いられることが記載され〔摘示記載(6-6)〕ている。
一方、本願明細書段落【0006】には「ホワイトカーボン(補強性シリカ)」と記載されており、引用例6に記載の「シリカ」、「無水ケイ酸」とは、SiO2という共通の化学組成を有するものである。
そして、引用例6の実施例の第2表の本発明例5、8、9でその具体例として使用されている「カープレックス#1120」は比表面積が109m2 /gであり、その測定法はガス吸着法(BET法)によるものである(特開平7-304904号公報第4頁表1及び第5頁表2及び明細書段落【0015】)。
また、引用例6の実施例の第2表の本発明例6でその具体例として使用されている「ソレックスCM」は、当業界で周知の文献である「増補プラスチック及びゴム用添加剤実用便覧」 株式会社化学工業社、平成4年6月10日3刷発行、第1425?1427頁によれば、湿式法ホワイトカーボンであり比表面積は70?100m2/gである(第1427頁表7・2)と認められる。さらに、上記「増補プラスチック及びゴム用添加剤実用便覧」の第528?541頁にもホワイトカーボンの性質についての記載があり、その第537頁には「表面積はガス吸着法(BET法)によって求められ、」との記載があるように、ホワイトカーボンの比表面積の測定法としてガス吸着法(BET法)は極く一般的なものであり、本発明例6の数値はガス吸着法(BET法)による測定値であると推測するのが相当である。
そして、BET吸着とはいうまでもなく窒素吸着のことである(「ゴム用語辞典」社団法人日本ゴム協会 昭和53年7月10日初版発行 第229頁「ビー・イー・ティーきゅうちゃく BET吸着」の項)。
そうすると、これらの記載を勘案すれば、引用例6の実施例には、本願発明で使用される「比表面積(窒素吸着法による)が20?200m2/gのホワイトカーボン」に相当する無機配合剤が記載されているものといえ、この点は実質的な相違点とはいえない。
相違点2について
引用例6には、上記の如く用途について「本発明のゴム組成物はニトリル基含有高飽和重合体ゴムの特徴である耐オゾン性、耐熱性、耐油性を有すると共により高温での長期耐熱シール性が改善されているので各種オイル、ガス等と接触して使用され、耐熱性、耐油性が要求されるゴム製品、耐屈曲疲労性、耐摺動シール性の要求されるゴム製品、特にシール用ゴム製品の製造に使用すると効果を発揮する。」と記載され、「本発明の対象とするゴム製品は回転機器の軸受けに用いるO-リング;パッキング、ガスケットなどの各種シール用ゴム製品;……自動車の軸受けシール……等が例示される。」と記載されているように、摺動や回転する部材に対するシールとして広く一般に使用されることが窺われるのであり、O-リング、パッキング、ガスケットなどとして、フロンを用いる冷房機のコンプレッサーに用いることも当業者であれば適宜想到し得ることであり、また、引用例6には、「自動車用の軸受けシール」とエンジンではないが自動車用に用いられる記載もあり、O-リング、パッキング、ガスケットなどとして、自動車エンジン用に用いることも当業者であれば適宜想到し得ることである。
このように、引用例6の記載からだけでも、この相違点2は当業者が容易になし得ることであると認められるが、以下に示す引用例8?10の記載を併せみても、以下に述べるように、この相違点2は当業者が容易になし得ることである。
引用例9には、その請求項1に「水素化されたアクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマーを主体ポリマーとした材料で構成され、すでに加硫成形されたエアコン用シールゴム基材の一部あるいは全部が、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマーを主成分とするゴム組成物で被覆されていることを特徴とするエアコン用シールゴム。」〔摘示記載(9-1)〕と記載されているように、水素化NBRがNBRで被覆されたエアコン用シールゴムに係るものであり、この記載から、水素化NBRがエアコン用シールに用いられることが読み取れる。そして、引用例9には、「【従来の技術】上記のようなエアコン用シールゴムの材料には、冷媒(フロン12等)に対するガス透過性や発泡性が低いこと、コンプレッサーの潤滑油(冷凍機油)に対する耐油性があること、また、長期間にわたり良好なシール性(特に耐へたり性)が要求される。従来、このような種々の要求特性に対して、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ポリマー(以下NBRと略す。)を主成分とするゴム組成物が広く用いられてきた。
【0003】一方最近、自動車エンジンの高出力化、高性能化や軽量化、省スペース化によるエンジンルームの空スペースの減少に伴いエンジンルーム内の温度は上昇傾向にある。このような状況の中、車両用エアコンシステムの使用環境も厳しくなり、エアコン用シールゴムにもその対応が要求されてきた。
【0004】一般に、NBRのように主鎖に不飽和炭素結合を有するポリマーは熱、酸素等による影響で劣化しやすく、高温下での使用では耐へたり性が悪く、長期間にわたって良好なシール性を得ることが難しい。この点を改良するために、従来のNBRのブタジエン部分を水素化した主鎖が飽和炭素結合からなるポリマー(以下HNBRと略す。)を主成分とするゴム組成物を用いたシールゴムが開発されてきた。」〔摘示記載(9-2)〕と記載されているように、引用例9に記載された発明は、従来技術としてコンプレッサーの潤滑油(冷凍機油)に対する耐油性があることなどからNBRが使用されてきたが、高温下での使用に耐える為に水素化NBRが使用されるようになった旨記載されている。そうであれば、水素化NBRをエアコン用のコンプレッサー用のシール材として使用することは引用例9に示唆されていたということができる。
してみれば、かかる引用例9の記載を参酌すれば、引用例6に記載の水素化NBRの組成物をコンプレッサー用のシール材として採用しようとすることは当業者であれば容易になし得ることである。
さらに、刊行物8には、従来技術として「【従来の技術】耐熱耐油性部材として知られているオイルフィルタ用ガスケットには、従来より耐油性の観点からNBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)材が用いられている。しかし、近年におけるエンジンの高性能化に伴う油温の上昇、及びオイルフィルタ取り付け位置の変更に伴う雰囲気温度の上昇により、現在使用しているNBR材よりなるガスケットは耐熱的に限界にきている。このため、NBRに代わる耐熱性及び耐油性に優れた材料が必要になってきている。」と記載され〔摘示記載(8-1)〕、このオイルフィルタ用ガスケットとは「エンジンの高性能化に伴う油温の上昇」との記載から見てエンジン部のオイルフィルタ用ガスケットのことと解されるから、引用例8にはNBRがエンジンのオイルフィルタ用ガスケット(シール材に相当するものと認める)に用いることが示されているといえる(なお、エンジンといえば自動車用が代表的なものである。)。
そうすると、このような引用例8の記載を参酌すれば、引用例8に記載のNBRより耐熱性等において改良された引用例6の水素化NBRの組成物を自動車エンジンのシール材として採用しようとすることは当業者が容易になし得ることである。
引用例10には、その特許請求の範囲に「水素添加ニトリルゴムまたはニトリルゴム100重量部当り、いずれも約5?145重量部のカーボンブラックと比表面積約20?200m2/gのホワイトカーボンとを約40?150重量部の合計量で、有機過酸化物約1?10重量部と共に含有せしめてなるゴム組成物。」〔摘示記載(10-1)〕と記載され、水素添加ニトリルゴムの具体例として「水素添加ニトリルゴムとしては、アクリロニトリルとブタジエンとの共重合ゴム(ニトリルゴム)を水素添加し、分子主鎖中の炭素-炭素二重結合量を10%以下にしたものが好んで用いられるが、・・・」〔摘示記載(10-3)〕と記載されているように、水素化NBRの組成物に係る発明が記載され、その組成物の性質として「フロンおよび冷凍機油に対してすぐれた耐性を有する」ことが記載され〔摘示記載(10-2)〕、さらに、用途として「本発明に係るゴム組成物は、フロンR12またはフロンR134aを使用しているエアコン、冷蔵庫などに用いられるOリング、パッキン、オイルシールなどのゴム部品の成形材料として好適に用いることができる。」〔摘示記載(10-4)〕と記載されている。そして、エアコンや冷蔵庫には当然のことながらフロンを圧縮するコンプレッサーが設けられているから、該組成物はコンプレッサー用のOリング、パッキン、オイルシール(即ち、シール材)として用いられることが示唆されているといえる。
してみれば、引用例10の記載を参酌すれば、引用例6に記載の水素化NBRの組成物をコンプレッサー用のシール材として採用しようとすることは当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書を精査しても、特に自動車エンジン用あるいはコンプレッサー用として用いたことによる効果について一切記載がされていないから、自動車エンジン用あるいはコンプレッサー用として用いた場合の効果が格別顕著なものであるとはいえない。

VII.むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例6、8?10に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-04 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-23 
出願番号 特願平7-174360
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
P 1 8・ 561- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 隆興宮本 純  
特許庁審判長 宮坂 初男
特許庁審判官 船岡 嘉彦
高原 慎太郎
発明の名称 耐熱性シール材  
代理人 吉田 俊夫  
代理人 吉田 和子  

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