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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200680197 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B65B
管理番号 1153342
審判番号 無効2006-80119  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2006-06-29 
確定日 2007-03-09 
事件の表示 上記当事者間の特許第2509821号発明「薬剤手撒き装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
特許第2509821号の請求項1に係る発明は、平成2年2月5日に特願平2-25603号として特許出願され、平成8年4月16日に設定登録がなされたものであり、本件は、これに対して、審判請求人株式会社湯山製作所より、特許無効審判の請求がなされ、平成18年9月11日に被請求人より、答弁書が提出され、その後、請求人より口頭審理陳述要領書及び回答書が提出されると共に、被請求人より、口頭審理陳述要領書(1)および(2)が提出され、平成18年12月22日に口頭審理が実施されたものである。

2.請求人が請求した審判
請求人は、
甲第1号証:実公昭57-6321号公報
を提出して、甲第1号証には、
多数のマスを有し、筐体から引き出し可能に構成された予備撒き装置と、
筐体内に配置されて前記予備撒き装置から各マス内の薬剤を受け取り、それを包装タイミングにしたがって逐次排出させる作動手段と
を具えた薬剤手撒き装置
が記載されているので、本件請求項1に係る発明が予備撒き装置に、処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数を表示する手段を設けた点で甲第1号証に記載される発明と相違するものの、残余の点で両発明は一致するとしている。
この相違点に関して、請求人は、
甲第2号証:特開昭63-246163号公報
を提出して、甲第2号証には、第1図に、薬剤手撒き用の錠剤コンベヤ2と、薬剤手撒き作業の内容を作業者に指示するための表示装置8が記載され、加えて、
「操作装置7は、制御装置4から受取った分包データの少なくとも自動処理に属さない処理に関する部分を作業者に表示する適宜の表示装置8を具えている。」(第2頁右下欄第8行?第11行)、
「また、入力装置5が受付けた分包データが錠剤コンベヤ2で取扱うべきコンベヤ薬品である場合、・・・自動処理できることとなる。
一方操作装置7は、制御装置4から分包データを受取ると、その分包データを表示装置8に表示させるとともに、・・・作業者による手撒き作業の終了したことがたとえばスイッチ操作等によって入力されると、その分包データを制御装置4に転送する。そのため作業者は、表示装置8を見ながら、自己の都合に合せて手撒き作業を実行できることとなる。」(第3頁右上欄第15行?同頁左下欄第12行)
との記載を指摘し、ここに記載される「見ながら・・・手撒き作業を実行できる。」とは、表示が作業の位置で見ることができる位置であることを意味しており、薬剤の手撒き作業を実施するために、作業位置で見ることができる表示装置8に処方内容である手撒き処方の内容を表示することが記載されているとしている。
そして、表示される処方内容とは、甲第1号証にも記載される、朝・昼・夜で違う種類の補助錠剤を分包し、朝・昼・夜に関して夫々7包分ずつ即ち一週間分の分包をするというような内容が想定され、このようなものを画面に表示することは明らかである旨主張している。

本件請求項1に係る発明は、各回ごとの使用するマスの数を表示するものの、手撒き作業が複数種類に及ぶ場合には、その表示内容のみにより手撒き作業をすることはできず、処方を確認することが別途必要であることから、本件請求項1に係る発明の表示の効果は、甲第1、2号証のものから予測される以上のものではなく、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものである旨主張している。
加えて、請求人は、
甲第3号証:特開昭63-55001号公報
甲第4号証:特開昭61-273301号公報
甲第5号証:特開昭62-16766号公報
甲第6号証:特開昭63-310406号公報
甲第7号証:特開昭60-123302号公報
を提出して、

薬剤手撒き作業の情報を表示する表示装置を、薬剤手撒き作業にできるだけ近いところ(すなわち、甲第1号証における供給カセット18のどこか)に設けることは、薬剤取扱い装置に関連する甲第3号証から甲第5号証までを参考にすれば、容易に思い付くことであるとし、また、手作業が必要な装置の技術分野において、作業を正確に行うために、作業場所のすぐ近くに個数の表示装置を配置することは、甲第6号証及び甲第7号証にみられるように本件特許発明の出願当時に普通に行われていたことであるとし、手撒き処方の内容に従って使用するマス数を表示することは、作業者が処方に従って通常行う手撒き作業と作業内容に差はなく、単にそれを表示するものであるということができること、または、作業者が処方に従って通常行う判断を単に機械化したこと以上のものではないことを述べて、格別の事項ではない旨主張して、さらに、甲第1?7号証に記載の発明の組み合わせの容易想到性については、甲第3号証、甲第5号証に記載の本件特許発明と同一効果から動機付けとなり得ると主張して、本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、甲第1号証から甲第5号証までに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、さらに、甲第1号証から甲第7号証までに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである旨主張している。

3.被請求人の主張
a.多数のマスを有する引出式の予備撒き装置と、各マス内の薬剤を筐体内で受け取って逐次排出する作動手段とが具備されていることを前提とした、処方に応じた薬剤の所要の包装数がマスの個数に比べて増減があっても使用マスの個数を手撒き作業者に指示することのできる薬剤手撒き装置を提供するという本発明の目的は(特許掲載公報第2頁第3欄第42行?第45行)、甲第1号証?甲第7号証の何れにも記載が無く示唆もない。

b.甲第1号証と甲第2号証とから導出できる表示手段は、「処方に応じた分包データのうち手撒き部分を表示する手段」であり、「表示情報の中には分包数が含まれる」という推論を加味したとしても「処方に応じた薬剤の所要の包装数を表示する手段」にとどまり、包装数と使用マス数とは異質のものである。

c.甲第2号証?甲第7号証における表示手段の設置箇所として認識できるのは「作業者の視認可能な場所」及び「固定的な場所」にとどまり、「筐体から出し入れされる予備撒き装置に表示手段を設ける」ことは、出願当時に普通に行われていたことではなく、容易に想到できたことでもない。

4.当審の判断
4-1 本件特許発明
本件特許発明を特定する特許請求の範囲の請求項1の記載は以下のとおりである。
「多数のマスを有し、筐体から引き出し可能に構成された予備撒き装置と、筐体内に配置されて前記予備撒き装置から各マス内の薬剤を受け取り、それを包装タイミングにしたがって逐次排出させる作動手段とを具えた薬剤手撒き装置において、前記予備撒き装置に、処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数を表示する手段を設けたことを特徴とする薬剤手撒き装置。」
(以下、「本件発明」という。)

4-2 甲各号証の記載
甲第1?7号証は、本件に係る出願の出願前に頒布された刊行物であり、以下の記載が認められる。

4-2-1 甲第1号証について
甲第1号証(実公昭57-6321号公報)には、
「本考案は自動錠剤包装機に於いて、いかなる形状による錠剤も供給できる補助錠剤供給装置を提供するものである。・・本考案は本体側の錠剤収納ケースと別に補助錠剤供給装置を設け、錠剤包装機の使用場所の状況に応じて適宜必要な補助錠剤を収納できるようにし、本体側と連動して摘出し得るようにするものである。更に補助錠剤供給装置は特殊形状の錠剤も確実に取出し得るようにするものである。」(第1頁第1欄第32行?同頁第2欄第18行)、
「バスケット3・・・3に補助錠剤を供給するには各バスケットに対応する供給口16・・・16を備えて底板17を引出自在に構成した供給カセット18を使用する。
即ち補助錠剤を供給カセット18に装填した後、補助錠剤供給窓19より補助錠剤供給装置にセットし底板17を引出すことで供給が行なわれる。」(第1頁第2欄第37行?第2頁第3欄第6行)
と記載されており、これら記載より、
記載事項1-1
本体装置(筐体)から引き出し可能に構成された補助錠剤を供給するための供給カセット18(予備撒き装置)を有する補助錠剤供給装置
が甲第1号証に記載されるものと認められ、さらに甲第1号証には、
「一般に錠剤包装機は錠剤の種類に応じて錠剤収納ケースを備え、各ケースは収納する錠剤の大きさ或いは形状に適合する錠剤摘出装置を備えている。特に病院等で使用される薬剤包装機に関しては錠剤の種類が数百種に及び多量の錠剤収納ケースが必要とされている。しかしながら・・全ての錠剤毎に錠剤収納ケースを備えることはスペース的にもまたコスト的にも有意とはいえない。そして使用される病院の規模或いは医療分野によって薬剤の種類及び数は異なるものである。」(第1頁第1欄第35行?同頁第2欄第8行)
と記載され、「以上詳述した本考案に依ると、本体側の錠剤収納ケースの欠点を補うことができ一層効果的な錠剤包装機を提供することができる。・・」(第2頁第4欄第11行?同頁同欄第13行)
と記載されており、「・・病院等で使用される薬剤包装機に関して・・」との記載を勘案すれば、補助錠剤供給装置は、処方に応じて用いるものであると解され、さらに、「全ての錠剤毎に錠剤収納ケースを備えることは・・有意とはいえない。」とされるのであるから、補助錠剤供給装置は、錠剤毎の錠剤収納ケースを用る供給がなされない所謂手撒きでの供給を意図するものと解される。
したがって、甲第1号証には、
記載事項1-2
供給カセット18は、処方に基づく手撒きに用いられること
が記載されるものと認める。
加えて、甲第1号証には、
「第2図及び第3図は補助錠剤供給装置を示し補助錠剤を収納するバスケット3・・・3が無端チェーン4に1列に3個ずつ14組備え、そのうち7組ずつが夫々水平面で相接する程度に配置されている。
そして、プーリー15によって無端チェーン4の進行方向が反転し、バスケット3・・・3が逆さになる位置に1列3個の各バスケット3・・・3に対応して通路13と連通する落下通路5,6,7が設けられ落下通路6,7には夫々シャッタ8,9が配設されている。
バスケット3・・・3に補助錠剤を供給するには各バスケットに対応する供給口16・・・16を備えて底板17を引出自在に構成した供給カセット18を使用する。
即ち補助錠剤を供給カセット18に装填した後、補助錠剤供給窓19より補助錠剤供給装置にセットし底板17を引出すことで供給が行なわれる。」(第1頁第2欄第26行?第2頁第3欄第6行)
と記載されているので、甲第1号証には、
記載事項1-3
供給カセット18は、縦横複数の供給口16を形成され、
本体装置(筐体)内に配置されて前記供給カセット18から薬剤を受け取るバスケット3を備えた無端チェーン4とを具えた補助錠剤供給装置
が記載されるものと認める。
記載事項1?3を総合すると、甲第1号証には、
多数の供給口16(マス)を有し、本体装置(筐体)から引き出し可能に構成された補助錠剤を供給するための供給カセット18(予備撒き装置)と、
本体装置(筐体)内に配置されて前記供給カセット18から各供給口16(マス)の薬剤を受け取るバスケット3を備えた無端チェーン4とを具え
薬剤を手撒きする補助錠剤供給装置の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されるものと認める。

4-2-2 甲第2号証について
甲第2号証(特開昭63-246163号公報)には、第1図に、錠剤分包機の制御装置4に、手撒き用の錠剤コンベヤ2が接続され、制御装置4には操作装置7を介して表示装置8が接続される旨図示され、
「この発明は分包データに基づいて所要の分包動作を自動処理する制御手段を具えた錠剤分包機に関するものである。」(第1頁右下欄第4行?第6行)、
「また一般に錠剤分包機は、たとえば壊れやすかったり特殊な形状だったりして錠剤フィーダで取扱うのに適していない錠剤(以下、コンベヤ薬品という。)を分包するため、それらの錠剤を作業者が1包分ずつの錠数に分割して手捲きするようになった錠剤配分器(すなわち錠剤コンベヤ)を具えている。」(第1頁右下欄第14行?第20行)
と記載されており、
錠剤分包機に手撒きするための錠剤配分器(錠剤コンベヤ)
が記載されるものと認める。
さらに、甲第2号証には、薬剤手撒き作業の内容を作業者に示すための表示について、
「操作装置7は、制御装置4から受取った分包データの少なくとも自動処理に属さない処理に関する部分を作業者に表示する適宜の表示装置8を具えている。」(第2頁右下欄第8行?第11行)、
「また、入力装置5が受付けた分包データが錠剤コンベヤ2で取扱うべきコンベヤ薬品である場合、・・・自動処理できることとなる。
一方操作装置7は、制御装置4から分包データを受取ると、その分包データを表示装置8に表示させるとともに、作業者の都合がつくまで待機していて、作業者による手撒き作業の終了したことがたとえばスイッチ操作等によって入力されると、その分包データを制御装置4に転送する。そのため作業者は、表示装置8を見ながら、自己の都合に合せて手撒き作業を実行できることとなる。」(第3頁右上欄第15行?同頁左下欄第12行)
と記載されており、ここで、分包データが、処方に応じたものであることは自明であるとともに、「一方操作装置7は、制御装置4から分包データを受取ると、その分包データを表示装置8に表示させるとともに、・・そのため作業者は、表示装置8を見ながら、自己の都合に合せて手撒き作業を実行できることとなる。」と記載されるのであるから、分包データに手撒に係る分包データも表示内容に含まれると認められ、さらに、「表示装置8を見ながら、・・手撒き作業を実行」と記載されているのであるから、表示の位置は、手撒き作業中に見ることが可能な位置とすることを甲第2号証の記載より把握可能である。
したがって、甲第2号証には、
錠剤分包機に錠剤配分器を設け、処方に応じた手撒きに係る分包データを手撒き作業中に見える位置に表示する表示装置
の発明が記載されるものと認める。
しかしながら、手撒き作業中に見える位置に表示する手撒きに係る分包データに関して、処方に応じたものである以上の格別の開示は認められない。

4-2-3 甲第3?7号証について

甲第3号証(特開昭63-55001号公報)には散剤分包機1で分包すべき散剤についての薬品名、流動性状、指定量および分割包数等の調剤情報を表示する調剤台3の表示部材10が記載され、甲第4号証(特開昭61-273301号公報)には第1図と第2図において、作業者が散剤を投入するためのホッパ5A,5Bのすぐ近くに、表示器(LED)10A,10Bと、7セグメントLEDからなる表示器11A,11Bの配置が記載され、甲第5号証(特開昭62-16766号公報)には第1図と第2図において、シュート17の正面(手前)にはLED18a,18bが配置されていて、シュート17の下方には、作業者が取り出すべき容器2の配置が記載され、甲第6号証(特開昭63-310406号公報)では第1図と第2図において、ピッキング作業部41のすぐ近くに配置されている数量表示器(61)が記載され、甲第7号証(特開昭60-123302号公報)には第1図において、環状搬送装置6の製品箱群入口8の近くに配置されている作業内容表示器10が記載されている。
甲第3?5号証の記載によれば、薬剤取扱い装置の技術分野において、作業の情報を表示する表示装置を設けることは周知の技術であり、甲第6?7号証の記載によれば、手作業が必要な装置の技術分野において、作業を正確に行うために、作業場所のすぐ近くに個数の表示装置を配置することは、本件特許発明の出願当時に普通に行われていたことと認められる。

4-3 対比判断
本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「本体装置」は、薬剤の分包を行う機械の全体を示す構成である点において、本件発明の「筐体」に相当するものと認める。
そして甲1発明の「供給カセット18」は、その本体装置に対する配置関係及び「供給口16」を有することから、本件発明の「予備撒き装置」に相当するとともに、甲1発明の「バスケット3を備えた無端チェーン4」は、その薬剤を受け取り搬送する機能及び構造からみて、本件発明の「作動部材」に相当するものと認める。
したがって、両発明は、
多数のマスを有し、筐体から引き出し可能に構成された予備撒き装置と、筐体内に配置されて前記予備撒き装置から各マス内の薬剤を受け取り、それを包装タイミングにしたがって逐次排出させる作動手段とを具えた薬剤手撒き装置
の発明である点で一致し、両発明は、以下の点で相違している。
相違点
本件発明は予備撒き装置に、処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数を表示する手段を設けたものであるのに対して、甲1発明の「供給カセット18」には、個数を表示する格別の開示がなされていない点。
なお、請求人、被請求人が主張する両発明の一致点及び相違点も上述のとおりである。

以下、上記相違点について検討する。
本件発明の構成である表示手段に係る特定である、「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数を表示する」ことは、「対応して」との特定が多義に解される用語もあるので、「所要の包装数に対応して使用するマスの個数」とは如何なる情報を指示するものであるのか明細書の記載を検討すると、
本件特許明細書の第2頁第3欄第2行目?同第45行目に、「[発明が解決しようとする課題]・・その結果、たとえば、予備撒きカセットのマス数が21個であった場合、42包分の手撒き処方を処理するには、予備撒きカセットを2回使用し、1回目に予備撒きした薬剤の分包作業の終了に続いて、2回目に予備撒きした薬剤をコンベヤに移し替えて分包作業を行わなければならない。・・たとえば、1日3回3日分に相当する9包分の手撒き処方を処理する場合、作業者は、予備撒きカセットのマスを9個だけ使用することを間違わないように、注意深く手撒き作業をしなければならないし、また、たとえば、1日4回7日分に相当する28包分の手撒き処方を処理する場合は、予備撒きカセットを2回使用し、しかも、2回目は、予備撒きカセットのマスを7個だけ使用することを間違わないように、注意深く手撒き作業をしなければならず、したがって、作業者には大きな負担が強いられる。さらに、たとえば、・・手撒き薬剤混合処方であったような場合、作業者は、全体の包装数が12包であるため、手撒きすべき包装数も12包であると思いやすく、したがって、このような場合、とくに、手撒きすべき包装数を間違いやすいから、作業者の精神的負担は想像以上に大きい等の問題点があった。」と、発明が解決しようとする課題として、処方された総数と手撒きで使用するマスの数が異なる場合を挙げた上で、
第2頁第4欄第5行目?同第10行目に、「[作用]この発明は上記手段を採用したことにより、手撒き作業差が、予備撒き装置に形成されたマスの個数とは無関係に、指示された個性のマスのすべてに薬剤を手撒きするだけで、処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応した手撒き作業が過不足なく行われることとなる。」と表示の作用を記載している。
そして、同作用を得るために、明細書中に手撒き作業を実施する1回分の手撒き作業において使用すべきマス15の個数を表示するようにすることを実施例として、
第3頁第5欄第33行目?同第47行目に「・・さらに、予備撒きカセット12には、図5に示すように、使用すべきマス15、15、…を指示する表示器29、30が設けられている。すなわち、表示器29は、手撒き処方が、予備撒きカセット12を2回(またはそれ以上)使用するものである場合、1回目に(または最後より1つ前の回まで)、「2度撒き」の文字を点灯して表示するものであり、また、表示器30は、2桁の7セグメントLEDからなり、表示器29が点灯していない場合はもちろん、「2度撒き」の文字を点灯表示している場合も、その回1回分の手撒き作業において使用すへきマス15、15、…の個数を表示するものである。そして、これらの表示器29、30は、手撒き処方が入力されると、その手撒き処方の内容にしたがって、自動的に表示されるようになっている。・・まず、錠剤フィーダ4、4、…に収容された錠剤を分包する場合は、その錠剤が収容された錠剤フィーダ4を作動させて、1回分の錠数ずつ順次排出させるとともに、包装装置5を作動させて、その排出された錠剤を1回分ずつ分包する。また、錠剤フィーダ4,4、…に収容されていない薬剤を分包する場合は、まず、モータ16を作動させて予備撒きカセット12を筐体から引き出させる。このとき、手撒き処方が入力されていれば、その手撒き処方の内容にしたがって、表示器29、30が、使用すべきマス15、15…を自動的に表示する。」と述べている。
これら記載は、「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数」に関して、処方に応じて定まる包装総数のみでは、複数回に分けて手撒き作業を行う場合に表示が不十分であるという問題の解決として、その回に手撒きすべきマスの個数を表示することを明細書は一貫して記載している。
すなわち、本件明細書が記載する「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数」の「表示」とは、その1回の手撒き作業で使用すべきマスの「個数」を特定し、表示するものである。
したがって、「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数を表示する」とは、「処方に応じた薬剤の所要の包装数」をそのまま表示するのではなく「使用するマスの個数」と「手撒き回数」を得てから表示するものであり、手撒き回数と使用マス数とを算出する演算が、表示に先立って行われるものであり、当該演算は、所要の包装数といった処方の内容だけで遂行できるものでなく、手撒きされる各薬剤毎の包装数やその総包装数に加えて、例えば、予備撒き装置に形成されたマスの個数、といった別の数値データを使用することにより初めて遂行できるものである。
してみると、本件特許発明を構成する上で、包装数だけでなく他のデータも用いる演算手段を具備していることが必須とされ、使用マス個数を表示するには、その表示に先立って所要包装数などから使用マス個数を算出するといった前提機能を備えることが条件とされる。なお、上記演算手段は、明細書中に特段開示されていなくとも、その手段の存在を是認することに疑いはない。
付言すると、「所要包装数をそのまま使用マス個数として表示する装置」は、上記の前提機能を欠いており、本件特許発明を開示又は示唆するものではない。
被請求人の主張も、この認定に反するものではない。

これに対して、甲第2号証には、前述の通り表示される分包データに関し、手撒き作業の回数に係る特段の開示はない。したがって、手撒き作業をどのように表示するかは定かではなく、処方された数としての包装総数、各薬剤の服用時期・服用量・回数等を表示することが把握可能である。それらの表示内容は、処方に基づくものであるとしても、マスの個数を考慮するものではなく、手撒き作業手撒きの総数を把握できる表示であるとしても、マスの個数等からの制限を前提に、各回毎の使用するマスの個数として表示することを記載するものではない。
したがって、「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数」に関し、甲第2号証は、本件発明に特定される「使用するマスの個数」なる概念を開示も示唆もなすものではない。
なお、請求人は、処方された手撒き作業に使用するマスの個数が、1回の手撒き作業の範囲内である場合、甲第2号証の表示と本件発明の表示との間に把握される数に差異がない旨主張するが、上述したとおり、所要包装数をそのまま使用マス個数として表示する装置は、演算手段の前提機能を欠いており、本件特許発明を開示又は示唆するものではないから、本件特許発明の表示装置とは明らかに区別される別異の装置というべきである。
さらに、請求人が指摘するように、「使用するマスの個数」を表示しても、処方された内容を別途知ることが必要な場合があることを併せ勘案すると、甲第2号証に記載される発明の表示の分包データは、処方の内容そのものとしての処方された手撒き分包の総数を表示することを示唆するものであり、その数をそれのみでは作業ができない場合が存在し得る「使用するマスの個数」へと変更することを敢えて動機付ける客観的事実は、本件特許明細書の記載以外何等認められない。

また、甲第2号証のものは、同一技術分野に係る表示であるとしても、上記相違点の「処方に応じた薬剤の所要の包装数に対応して使用するマスの個数」を表示することにより、使用すべきマスの個数を何等開示するものではなく、
甲第3乃至5号証に示される周知技術も、薬剤取扱い装置の技術分野において、作業の情報を表示する表示装置を設けることが周知であるのであって、甲第6乃至7号証に示される周知技術も、手作業が必要な装置の技術分野において、作業を正確に行うために、作業場所のすぐ近くに個数の表示装置を配置することが周知であるのであって、それらは、
作業者の負担軽減を図るために作業部位の近傍に表示装置を設置することが一般的技術として認識されるとしても、筐体から出し入れされる予備撒き装置に表示手段を設けることまで、出願当時に普通に行われていたとは、薬剤取扱い装置の技術分野において認められない。すなわち、上記相違点の構成である「表示手段を予備撒き装置に設置した」ことまでを周知とすることはできない。
加えて、請求人は、「使用するマスの個数」なる事項は、作業者が表示された分包データに基づいて、自身で考えていた事項、即ち、人間が行っていた事項を単に機械に行わせたにすぎない旨主張しているが、作業者が自身で考え判断していた事項は、それを表示するための処理ではなく、作業者の負担を軽減するために、それを表示することを、人間が行っていた事項を単に機械化した旨主張は採用できない。
また、請求人は、指示されている処方を把握し、使用者が処方と装置の構成とを比較して、その回の手撒きの数を判断して、本件発明と同様のマスの個数を使用していたことが、甲第1、2号証に記載されるものの通常の使用方法であり、使用方法を表示することが通常であるから、容易になしえた旨主張するが、そのような通常の使用を指示することは、処方の表示に基づいて、その回の使用すべきマスの個数を判断することを促す表示を設けることが容易であることを述べるものではなく、機械的に「使用するマスの個数」を求め、その表示をなすことを容易であることを示すものではない。すなわち、使用者の判断により、作業1回分の手撒き数を判断して作業している事実を、その回の手撒き作業1回分の数を求め、それを表示対象とすることにより作業者の負担を軽減することの示唆とすることはできない。
以上のとおり、甲第2?7号証を見ても、前記相違点を当業者が容易になしえたとすることはできない。
したがって、本件発明を本件発明の構成の一部を開示も示唆もなさない甲各号証をもって容易に発明をすることができたとすることはできない。

5 むすび
以上の通り、提出された証拠及び請求人の主張によっては、本件特許を無効とすることはできない。
また、他に、本件特許を無効とすべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2007-01-26 
出願番号 特願平2-25603
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B65B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 種子 浩明岡田 幸夫  
特許庁審判長 粟津 憲一
特許庁審判官 関口 勇
豊永 茂弘
登録日 1996-04-16 
登録番号 特許第2509821号(P2509821)
発明の名称 薬剤手撒き装置  
代理人 鈴木 利之  
代理人 佐藤 香  

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