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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03G
管理番号 1153423
審判番号 不服2003-21055  
総通号数 88 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-04-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-30 
確定日 2007-03-07 
事件の表示 平成 7年特許願第 18587号「静電潜像の液体現像方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 9月12日出願公開、特開平 7-239615〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成7年1月9日(優先権主張 平成6年1月10日)に出願されたものであって、その請求項1ないし11に係る発明は、平成18年9月25日付の手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載されたとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりである。
「【請求項1】 画像支持体上に形成された静電潜像を帯電した顕像化粒子であるトナーによって現像する静電潜像の液体現像方法であって、
弾性を有する円柱状の現像剤支持体上に、絶縁性液体中にトナーが高濃度に分散された粘度が100?10000mPa・sの液体現像剤の薄層を、5?40μmの厚みで形成し、前記現像剤支持体を、この現像剤支持体に対するギャップが5?40μmに設定された前記画像支持体に従動する方向に回転させながら前記現像剤支持体上の液体現像剤層と前記画像支持体とを接触させ、接近過程、トナー移動過程及び分離過程を経て、前記画像支持体の潜像面に前記液体現像剤を供給する現像工程を備えることを特徴とする静電潜像の液体現像方法。」(以下、「本願発明1」という。)

2.引用刊行物記載の発明
当審における拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物2ないし4には次の事項が記載されている。

刊行物2:特開昭53-57039号公報
(2a)「粘度が5ないし1,000cp、トナー濃度が10-1ないし50%、トナー粒径が0.5ないし5μであることを特徴とする静電潜像用現像剤。」(1頁、特許請求の範囲第1項)、
(2b)「本発明では、現像剤の粘度を高めることにより濡れと地汚れを減少させ、又トナー濃度を高めることにより、画像濃度をアップし、さらにトナー粒径を大きくすることによって、トナーの濃度が高くても地汚れが増加しないようにしたものである。」(1頁右下欄8行?13行)、
(2c)「粘度を調整するには(1)媒体液として粘度の高いものを使う、または(2)粘度を高める樹脂を使う、さらには(3)増粘添加剤を使うなどの手段があり、これらを単独であるいは組合せて適用すればよい。上記(1)に該当するものとしては、高沸点のイソパラフィン系溶剤(エッソ化学製、アイソパーL、Mなど)、シリコーンオイル(信越化学製KF-96、KF-50など)、・・・などがある。」(1頁右下欄20行?2頁左上欄9行)、
(2d)実施例2には、フタロシアニンブルー20部、カーボンブラック10部、エポキシ樹脂5部、アルキッド樹脂50部を混練したもの10部にソルプレン1205を5部とアイソパーLを35部加え、撹拌混合して、粘度350cp、トナー濃度15%、トナー粒径3.5μmの現像剤を得たこと、これを用いて直径30mmのローラーを用い、現像試験を行ったところ、画像濃度は高く、地汚れ及びぬれの程度が少ない複写画像が得られたこと(2頁右下欄9行?3頁左上欄4行、右上欄の表)。

刊行物3:特開昭52-58923号公報
(3a)「像形成表面上の静電潜像の現像方法において、
(a)ほぼ電気絶縁性の液状または液化可能なキャリヤ中に懸濁した顕像粒子から成る現像剤の層をほぼ滑らかなドナー部材表面上に与え、
(b)ドナー部材表面上の現像剤に電界を印加して顕像粒子をドナー部材表面へ向かって移動させ、顕像粒子の上方に該粒子をほとんど含まないキャリヤ液体部分が残るようにし、
(c)上記ドナー部材を像形成表面に近接して位置決めすることにより、粒子をほとんど含まないキャリヤ液体を像形成表面と接触させ、顕像粒子がキャリヤ液体を通ってドナー部材から像形成表面上の静電潜像形成領域へ向かって静電的に引きつけられて潜像領域上に付着するようにすることによって静電潜像を現像することから成る方法。」(1頁、特許請求の範囲第1項)、
(3b)「本発明の主目的はトナー粒子と非像形成領域との間の接触がほとんど起こらない液体現像を用いる像形成方法を提供することである。・・・
これらの目的は、絶縁性液体中に懸濁したトナー粒子から成る液体現像剤層を現像剤ドナー表面へ塗布し、電界によってトナー粒子をドナー表面へ押し下げて、相対的にトナー粒子のないキャリヤ層がトナー層上に残るようにし、次にトナーのない現像剤上層が像形成表面と接触するようにトナーを像形成表面に十分に近接させ、トナーがキャリヤ中を通って像形成表面の帯電領域へ移動するが、帯電していないすなわち像が形成されていない背景領域付近のドナー表面ではトナーは非接触状態のままでいるようにすることによって達成される。」(3頁左上欄6行?右上欄7行)、
(3c)「本発明で使用する現像剤は、ほぼ電気絶縁性の液体または液化可能なキャリヤ中に懸濁した、静電潜像を可視像にする能力のある顔料またはその他の適当なトナー粒子から成ることを特徴とする。トナー粒子はキャリヤにほとんど不溶であり、・・・十分に小さい粒度でなければならない。好ましくは、平均粒度は20ミクロン以下であり、最も好ましくは約5ミクロン以下である。」(3頁左下欄2行?10行)、
(3d)「適当なキャリヤ液体にはベンゼン、・・・のような炭化水素、フレオン・・・のようなハロゲン化炭化水素、シリコーン油のようなその他の液体、およびオハイオスタンダードオイル社から発売されているソハイオオーダレスソルベント(SOS)のような精製石油炭化水素が含まれる。」(4頁左上欄6行?12行)、
(3e)「現像剤はドクターブレードによるかき取り、浸漬、定量分配などのような適当な方法でドナー部材に塗布することができる。ドナー部材上に塗布される量は本発明の方法では厳密に規定しないが、ある程度顔料の粒度にもよるが、約1?50ミクロンの厚さの層で十分であることがわかつた。」(4頁右上欄4行?9行)。
(3f)「現像工程は第1C図に示してある。現像工程では、静電潜像パターンを支持している像形成部材6が、第1B図のように帯電されてトナー粒子8が下方へ駆動されドナー部材表面上に引きつけられている現像剤層2を表面上に有するドナー部材に接触させられる。像形成部材は現像剤キャリヤの無トナー層とのみ接触するのでトナー層を物理的に乱すことがないようになっている。次に、像形成部材がドナー表面から引離されるとき、トナーは5Aのようにキャリヤ中を通って移動して5のように像形成表面の帯電領域に静電的に引き付けられているのが見られる。像形成部材の背景領域7では、トナーは接触にもたらされることがなく、背景領域7に対応する現像剤層部分7Aは比較的乱されない状態になっている。」(5頁左上欄20行?右上欄14行)、
(3g)「第2図は本発明の装置の一つの実施例の概略を示す。この図では、ドナー部材に現像剤を塗布するための供給部材は一部分が液体現像剤浴8中に浸漬されている円筒形供給ロールとして示してある。」(5頁左下欄7行?11行)、
(3h)「第2図には、ドナー部材を円筒形ドラムとして示してある・・・」(5頁右下欄15行?16行)、
(3i)「像形成表面(これも第2図では円筒形ドラムとして示してある)上の静電潜像の現像は、トナー粒子が物理的に乱されることすなはちキャリヤ中に再連行されることなしに現像剤の無トナー上部層が丁度像形成表面と接触するように、帯電した現像剤層が上にあるドナー表面を像形成表面に十分近接した間隔関係にもたらすことによって行われる。ドナー表面と像形成表面との間のギャップ11は両部材間のニップに連続した、すなわち切れ目のない現像剤膜すなわち現像剤層が保持されるようなものでなければならない。」(5頁右下欄20行?6頁左上欄11行)。
これらの記載及び図面の記載によれば、刊行物3には、次の発明が記載されていると認められる。
「像形成部材上に形成された静電潜像を帯電したトナーによって現像する静電潜像の液体現像方法であって、円筒形のドナー部材の上に、電気絶縁性のキャリヤ液中にトナーが分散された液体現像剤の薄層を、1?50μmの厚みで形成し、前記ドナー部材を、このドナー部材に対するギャップが、液体現像剤層の上部が像形成部材表面に接触するように設定された前記像形成部材に従動する方向に回転させながら前記ドナー部材上の液体現像剤層と前記像形成部材とを接触させ、接近過程、トナー移動過程及び分離過程を経て、前記像形成部材の潜像面に前記液体現像剤を供給する現像工程を備える静電潜像の液体現像方法。」

刊行物4:特開昭58-100861号公報
(4a)「光導電性部材の表面における静電潜像を現像するに当り、適切なキャリヤ液中にある静電トナー粒子から成る薄い粘着性の高密トナー粒子層を前記光導電性部材の均一領域に沿って該光導電性部材に与え、前記静電潜像の電界強度による誘導だけで前記トナー粒子層を前記光導電性部材の表面に部分的に転写させるようにしたことを特徴とする静電潜像の現像方法。」(特許請求の範囲第1項)
(4b)「特許請求の範囲1記載の方法において、アプリケータローラにトナー懸濁液から粘性トナー粒子層を電着し、アプリケータローラはその円周面を粘性トナー粒子層の厚さ分よりも短い距離だけ光導電性部材の表面から離間させて配置して、前記ローラの円周面と光導電性部材の表面との間に実質上ゼロギャップを画成し、前記光導電性部材の表面上に前記トナー粒子層を介して前記ローラによる実質上の刷りを行なって転写するようにしたことを特徴とする静電潜像の現像方法。」(特許請求の範囲第3項)
(4C)「特許請求の範囲3に記載の方法において、光導電性部材の表面に向けてアプリケータローラにばねバイアスをかけると共に、該アプリケータローラを前記光導電性部材の表面移動方向と同一方向に、かつ同時に回転させるようにしたことを特徴とする静電潜像の現像方法。」(特許請求の範囲第5項)
(4d)「特許請求の範囲1?8の何れか1つに記載の方法において、前記粘性トナー粒子層の厚さを15?30ミクロンとしたことを特徴とする静電潜像の現像方法。」(2頁、特許請求の範囲第10項)、
(4e)「ここで用いるトナー懸濁液は絶縁液に対するトナー粒子の比率が極めて高いトナー粒子/絶縁液による懸濁液で形成する。本発明方法により形成する薄い粘着性の高密トナー層は、好ましくは慣例の粘度、即ち「しばらくの間」は自由に流れる程度の粘度を呈するトナー懸濁液から電着により形成することができる。」(10頁左上欄10行?16行)
(4f)実施例として、光導電性部材である電子写真ベルト40に近接してトナーを供給するアプリケータローラ82を設けたこと、アプリケータローラ82はベルト40と同じ線形速度で同一方向(回転方法は逆)に駆動されること、アプリケータローラ82とベルト40との間は粘性トナー層を介して実質上のギャップ長を0とすること、アプリケータローラ82に沿って弓型電極を設け、電極の出口のフェザーエッジ88によりトナー層の厚さを最小とすると共に高密度とし、厚さ15ミクロン以下のトナー粒子の薄い粘性層が形成されること、アプリケータローラ82とベルト40が極めて接近、即ち15?30ミクロン離間している個所にてトナー粒子層はベルト40に吸着されること(9頁右上欄15行?10頁右上欄17行、第1図、第2図)、
(4g)「アプリケータローラ82には光導電性ベルトから最小距離を保ってばね負荷をかけることができ、その最小距離はトナー懸濁液の粘性、ばね力ギャップ個所の曲率、ギャップ個所への入口の形状およびローラ82の表面の粘性によって決定される。」(11頁左上欄1行?5行)。

3.対比、判断
本願発明1と刊行物3記載の発明とを対比すると、刊行物3記載の発明の「像形成部材」、「円筒形」、「ドナー部材」は、本願発明1の「画像支持体」、「円柱状」、「現像剤支持体」に相当する。
また、刊行物3記載の発明における、液体現像剤の厚みは1?50μmであり、本願発明1の液体現像剤の厚みを含んでいる。したがって両者は、
「画像支持体上に形成された静電潜像を帯電した顕像化粒子であるトナーによって現像する静電潜像の液体現像方法であって、円柱状の現像剤支持体上に、絶縁性液体中にトナーが分散された液体現像剤の薄層を、5?40μmの厚みで形成し、前記現像剤支持体を、この現像剤支持体に対するギャップが設定された前記画像支持体に従動する方向に回転させながら前記現像剤支持体上の液体現像剤層と前記画像支持体とを接触させ、接近過程、トナー移動過程及び分離過程を経て、前記画像支持体の潜像面に前記液体現像剤を供給する現像工程を備える静電潜像の液体現像方法。」
である点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:現像剤支持体が、本願発明1では「弾性を有する」ものであるのに対し、刊行物3記載の発明は、現像剤支持体がこのようなものか否か不明な点。
相違点2:本願発明1では、液体現像剤が、絶縁性液体中にトナーが高濃度に分散された粘度が100?10000mPa・sのものであるのに対し、刊行物3記載の発明のものは、液体現像剤の粘度について何ら限定されていない点。
相違点3:画像支持体の現像剤支持体に対するギャップが、本願発明1では5?40μmに設定されているのに対し、刊行物3記載の発明では、液体現像剤層の上部が画像支持体の表面に接触するように設定されているものの、具体的なギャップの大きさは規定されていない点。

相違点1について検討すると、液体現像剤用の現像剤支持体を弾性を有するものとすることは当審における拒絶理由で刊行物1として引用した特開昭55-120058号公報に記載されているように本願出願前周知である。
一方、刊行物4には、刊行物3記載の発明と同様に、円柱状の現像剤支持体(刊行物4における「アプリケータローラ」)に対し、画像支持体(同じく「光導電性部材」)を、液体現像剤(同じく「トナー粒子層」)の厚さ分よりも短い距離のギャップを有するように設定し、現像剤支持体を画像支持体に従動する方向に回転させながら液体現像剤層と前記画像支持体とを接触させる液体現像方法において、現像剤支持体にばね負荷をかけることが記載され、現像剤支持体が画像支持体に対し弾性を持って位置することが示されている。
そうすると刊行物3記載の発明において、現像剤支持体を、画像支持体に対し弾性を持って位置するものとし、そのために本願出願前周知の弾性を有する現像剤支持体を用いることは当業者が容易になしうることである。
相違点2について検討すると、刊行物2には、絶縁性液体中にトナーが分散された液体現像剤において、粘度を高くし、トナー濃度を高くすることにより、濡れと地汚れ等を防止できることが記載され、具体的には粘度350cpとすることが記載されている。ここで、粘度350cpは、350mPa・sに相当する。また、刊行物4には、トナー層厚は、粘度によって調整できることが示唆されており(4e、4g)、刊行物3に記載の発明において、層厚を調整するとともに、地汚れ等を防止することを目的として、絶縁性液体中にトナーが高濃度に分散された粘度が100?10000mPa・s程度のものを使用することは当業者が容易になしうることである。
相違点3について検討すると、本願明細書には、現像剤支持体に対する画像支持体のギャップを5?40μmに設定すること、及びその意義について記載されていないが、段落【0048】の記載からみて、5?40μmの厚さの液体現像剤層の上部が画像支持体の表面に接触するようにギャップを5?40μmに設定したものと認められるところ、前記刊行物3には、液体現像剤層の上部が画像支持体の表面に接触するように設定することが記載されており、液体現像剤層厚が5?40μmである場合に、画像支持体の現像剤支持体に対するギャップを、液体現像剤層厚に対応する5?40μm程度とすることは当然のことである。
そして、現像剤支持体上の液体現像剤層と画像支持体とが接触する際の接触圧力を分散させることができるので、現像領域において現像剤支持体上の液体現像剤層が過度に押しつぶされて画像支持体上の非画像部分にトナーが付着し画像が乱れるのを防止することができ、また、トナーが高濃度に分散された液体現像剤を薄層にして現像することにより、高解像度で小型化が容易である(明細書【0089】)等の本願明細書に記載された効果は、刊行物2ないし3に記載された発明及び上記周知技術から容易に予測できる程度のことである。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物2ないし4に記載された発明及び本願出願前周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項2ないし11に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-10 
結審通知日 2006-10-11 
審決日 2006-10-24 
出願番号 特願平7-18587
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大仲 雅人  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 岡田 和加子
藤岡 善行
発明の名称 静電潜像の液体現像方法  
代理人 奥山 雄毅  

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