• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1154183
審判番号 不服2004-10219  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-05-14 
確定日 2007-03-14 
事件の表示 特願2000-592872「有機ヒドリドシロキサン樹脂による誘電フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 7月13日国際公開、WO00/41231、平成14年10月15日国内公表、特表2002-534804〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯の概要
本願は、2000年1月7日(パリ条約による優先権主張:1999年1月7日;米国)を国際出願日とする出願であって、平成15年8月7日付けで拒絶理由が通知され、平成16年1月23日付けで手続補正書が提出され、平成16年2月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成16年5月14日に審判請求がなされるとともに、平成16年5月14日付けで手続補正書が提出され、平成16年8月12日付けで前置報告がなされ、平成17年2月24日付で上申書が提出されたものである。

II.本願発明
平成16年5月14日付け手続補正書による補正は、補正前の請求項15を削除して、補正前の請求項1?20を補正後の請求項1?19に補正するものであるところ、補正後の請求項1については次のとおりである。
「【請求項1】基体上に誘電フィルムを作成する方法であって、
溶媒と、一般式:
[HSiO1.5]n[RSiO1.5]m、
[H0.4-1.0SiO1.5-1.8]n[R0.4-1.0SiO1.5-1.8]m、
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[RSiO1.5]m、または
[HSiO1.5]x[RSiO1.5]y[SiO]z
(上記式中、nおよびmの和は8から5000であり、x、yおよびzの和は8から5000であり、Rは、置換または非置換の直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、置換または非置換アリール基およびそれらの混合物から選択される)で表されるポリマーを含む有機ヒドリドシロキサン樹脂との溶液を作成すること;
該溶液を基体上に配分すること;
該基体を回転させて、有機ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を形成させること;
有機ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を焼成して、すべての残留溶媒を除去し、前記ポリマーを流動させ、前記樹脂を前記誘電フィルムに部分的に変換すること;および
有機ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を硬化させて、前記誘電フィルムへの前記変換を完了させること;
を含んで成る方法。」
(以下、補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明を「本願発明1」という。)

III.引用例及びその記載事実
(1)引用例1:国際公開第98/47942号パンフレット(1998年10月29日発行。以下日本語訳))
(1-1)「11.生成される生成物が、
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]p;
[HSiO1.5]n[SiO2]w;
[HSiO1.5]n[R1SiO1.5]m;
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]n[R10.5-1.0SiO1.5-1.8]m [H0-1.0SiO1.5-2.0]n[R1SiO1.5]m
(式中、
pは、約8?5000の範囲の整数であり;
n及びwの合計は、約8?5000の範囲の整数であり;
n及びmの合計は、約8?5000の範囲の整数であり;
mは、有機置換基が約1?99の範囲のモルパーセントで存在するように選択され;そして
R1は、直鎖アルキル、分岐鎖アルキル、シクロアルキル及びアリールからなる群より選択される基である。)
からなる群より選択される式により表される、請求項1の方法。
12.生成物が、式:
[HSiO1.5]x[R1SiO1.5]y[SiO2]z
(式中、
x、y及びzの合計は約8?約5000の範囲の数であり、かつyは有機置換基が約1?約99モルパーセントで存在するように選択され;そして
R1は、直鎖アルキル、分岐鎖アルキル、シクロアルキル及びアリールからなる群より選択される基であり、そしてR1は置換されていても置換されていなくてもよい。)
により表される、請求項1の方法。」(第34頁第15行?第35頁第11行)
(1-2)「本発明は、集積回路の製造において用いられる基板の調製に関する。特定的には、本発明はヒドリドシロキサン及びオルガノヒドリドシロキサンを含むシロキサン樹脂を調製するための新規かつ改善された方法を提供し」(第1頁第14?16行)
(1-3)「シロキサンベースの樹脂が電子及び半導体分野においてシリコンチップ及び他の類似の構成部品のコートに有用であることは当該技術分において公知である。このようなコーティングは基板の表面を保護し、集積回路上の電気伝導体の間に誘電体層を形成する。このようなコーティングは、保護コーティング、インターレベル誘電体層、トランジスタ様デバイスを製造するためのドープされた誘電体層、キャパシタ及びキャパシタ様デバイスを製造するための、シリコンを含有する色素含有バインダ系、多層デバイス、3-Dデバイス、シリコン積載絶縁体(silicon on insulator)デバイス、超伝導体用コーティング、超格子デバイス等として用いることができる。これらの樹脂には、ヒドリドシロキサン、及び有機部分が相当部分を占めるオルガノヒドリドシロキサンが含まれる。」(第1頁第25行?第2頁第3行)
(1-4)「このような絶縁体フィルムの誘電率が、電力消費、クロス・トーク、及び信号遅延の少ない集積回路、すなわちICが必要とされる場合、重要な因子であることも公知である。ICの寸法が縮小するに従って、この因子の重要性は高まっている。結果として、誘電率が3.0を下回る絶縁フィルムをもたらし得るシロキサンベースの樹脂材料、及びそのような材料を作製するための方法が非常に望ましい。加えて、そのような低誘電率のフィルムをもたらし、さらに亀裂に対する高い抵抗性を有するシロキサンベースの樹脂、及びそれらの樹脂を作製するための方法があることが望ましい。また、約1.0ミクロン(μm)以上の厚みに形成した場合に、そのようなフィルムに加わる応力が低いものであることも望ましい。さらに、そのようなシロキサンベースの樹脂、及び作製方法は、標準処理技術に対して低い誘電率のフィルムをもたらすものであることが望ましい。」(第2頁第19?29行)
(1-5)「生成したポリマーの重量平均分子量(Mw)は約400ないし約300,000原子質量単位(amu)の範囲をとり得る。別の態様においては、生成したポリマーのMwは、反応条件に応じて、約10,000ないし約80,000amuの範囲をとり得る。より特定の態様においては、生成したポリマーのMwは約4,500ないし約75,000amuの範囲をとり得る。単に例としてであって限定しようとするものではないが、本発明の方法によって生成される、例えば約20,000、約40,000及び約60,000amuのMwを有する材料が良好なコーティング特性を有することが確認されている。」(第4頁第17?24行)
(1-6)「本発明の方法によって生成されるポリマー
本発明の方法によって有効に生成されるポリマーには、単に例としてであって限定するものではないが、少数の例を挙げると、ヒドリドシロキサン及びオルガノヒドリドシロキサン樹脂、例えば、ヒドリドシルセスキオキサン、ヒドリドメチルシロキサン、ヒドリドエチルシロキサン、ヒドリドプロピルシロキサン、ヒドリドブチルシロキサン、ヒドリドtert-ブチルシロキサン、ヒドリドフェニルシロキサン、ヒドリドメチルシルセスキオキサン、ヒドリドエチルシルセスキオキサン、ヒドリドプロピルシルセスキオキサン、ヒドリドブチルシルセスキオキサン、ヒドリドtert-ブチルシルセスキオキサン及びヒドリドフェニルシルセスキオキサンが含まれる。
したがって、本発明の方法によって生成されるヒドリドシロキサン樹脂は、例えば、以下の6つの一般式のうちの1つを有し得る。
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]p 式1
[HSiO1.5]n[SiO2]w 式2
[HSiO1.5]n[R1SiO1.5]m 式3
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]n[R10.5-1.0SiO1.5-1.8]m 式4
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[R1SiO1.5]m 式5
ここで、
pはその値が約8?約5000の範囲の整数であり;
n及びwの合計はその値が約8?約5000の範囲の整数であり;
n及びmの合計は約8?約5000であり、かつmはその有機置換基が約1?約99モルパーセント(モル%)又はそれ以上存在するように選択される。別の態様においては、mはその有機置換基が約4?約40モルパーセント(モル%)存在するように選択される。
さらに別の態様においては、mはその有機置換基が約4?約20モルパーセント(モル%)存在するように選択される。
[HSiO1.5]x[R1SiO1.5]y[SiO2]z 式6
ここで、
x、y及びzの合計は約8?約5000であり、かつyはその有機置換基が約1?約99モルパーセント(モル%)又はそれ以上存在するように選択される。別の態様においては、yはその有機置換基が約4?約40モルパーセント(モル%)存在するように選択される。さらに別の態様においては、mはその有機置換機が約4?約20モルパーセント(モル%)存在するように選択される。
さらなる態様においては、R1は直鎖及び分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びそれらの混合物を含む置換及び非置換有機基から選択され、有機置換基又は炭素含有置換基の具体的なモル%は、出発物質の量の比率の関数である。」(第11頁第17行?第12頁第24行)
(1-7)「本発明の幾つかの態様において、その生成物は約1?約20個の炭素を有する置換及び非置換の直鎖及び分岐鎖アルキル基を有し;その生成物は約4?10個の炭素を有する置換及び非置換シクロアルキル基を有し、及びその生成物は約6?20個の炭素を有する置換及び非置換アリール基を有する。
例えば、R1がアルキル基である場合、R1には、これらに限定されるものではないが、メチル、クロロメチル及びエチル基、並びに直鎖及び分岐鎖プロピル、2-クロロプロピル、ブチル、ペンチル及びヘキシル基が含まれる。R1がシクロアルキル基である場合、R1には、これらに限定されるものではないが、シクロペンチル、シクロヘキシル、クロロシクロヘキシル及びシクロヘプチル基が含まれ;Rがアリール基である場合、Rには、これらに限定されるものではないが、フェニル、ナフチル、トリル及びベンジル基が含まれる。」(第12頁第26行?第13頁第8行)
(1-8)「実施例7モンモリロナイトKSF酸性クレーでHSiCl3を触媒することによるヒドリドシロキサンの調製 250mlのヘキサン及び18.08gのモンモリロナイトKSF酸性クレーを500mlモートンフラスコに入れ、5分間攪拌した。このフラスコをN2でパージしてN2ブランケットを確立し、それを反応の残りの間容器上に維持した。次に、20mlの変性エタノール及び6.3mlの脱イオンH2Oをフラスコに添加した。18mlのHSiCl3を0.85ml/分の速度で、蠕動ポンプを用いて、溶液を攪拌しながら反応容器に添加した。添加が完了した後、その反応混合物を45分間攪拌した。、次いで攪拌機を止め、#2Whatmanフィルターを通す真空濾過により固体を液相から分離した。次に、その2つの液相を分液ロートに入れ、下層を廃棄した。次いで上層をフラスコに入れ、61gの4オングストローム・モレキュラーシーブを添加した。この混合物を一晩静置した後、#2Whatmanフィルターを通して真空濾過し、固体を除去した。その溶液をロータリーエバポレーターで蒸発させて乾燥させたところ、3.06gの固形白色樹脂が残った。GPCにより、Mwは6348、Mnは1929、Mw/Mnは3.2919と測定された。」(第18頁第24行?第19頁第8行)
(1-9)「実施例17 実施例7の生成物のウェハ・コーティング特性
実施例7からの生成物0.8850gを0.5903gのMgSO4乾燥ヘプタン、2.2257gのMgSO4乾燥クメン、及び0.4038gの重鉱油に溶解した。この溶液を3000RPMで20秒間ウェハ上にスパン・オンした後、150℃、200℃、次いで300℃で各々1分間ベーキングした。次いで、4L/分のN2を用いて、ウェハを400℃で1時間硬化させた。この材料は5500オングストロームのフィルムを形成した。」(第24頁第16?22行)
(1-10)「電子用ウェハをコーティングするための樹脂ポリマーを提供するという目的にとって最良の結果が・・・アンバージェット4200によってもたらされる。」(第31頁第9?11行)
そして、上記表1(第31頁)には、実施例18?26で上記「アンバージェット4200」が用いられたことが示され、また、引用例1には、これら実施例18?26(第24頁第24行?第30頁第21行)で生成された樹脂が、メチルヒドリドシロキサン(実施例18?21)、プロピルヒドリドシロキサン(実施例22)、n-ブチルヒドリドシロキサン(実施例23)、シクロヘキシルヒドリドシロキサン(実施例24)、フェニルヒドリドシロキサン(実施例25)、及びt-ブチルヒドリドシロキサン(実施例26)であることが記載されている。

IV.対比・判断
(i)引用例1は、ヒドリドシロキサン及びオルガノヒドリドシロキサンを含むシロキサン樹脂を調製する方法(摘記1-2)に係る文献であるところ、生成されるポリマーである「ヒドリドシロキサン樹脂」は、以下の式1?式6で表わされる樹脂であることが記載されている。
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]p 式1
[HSiO1.5]n[SiO2]w 式2
[HSiO1.5]n[R1SiO1.5]m 式3
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]n[R10.5-1.0SiO1.5-1.8]m 式4
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[R1SiO1.5]m 式5
[HSiO1.5]x[R1SiO1.5]y[SiO2]z 式6
(pは約8?約5000の範囲の整数であり、n及びwの合計は約8?約5000の範囲の整数であり、n及びmの合計は約8?約5000、x、y及びzの合計は約8?約5000、R1は直鎖及び分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びそれらの混合物を含む置換及び非置換有機基から選択される。)(摘記1-6)
また、上記のとおり、引用例1では、「ヒドリドシロキサン樹脂」は、「ヒドリドシロキサン」及び「オルガノヒドリドシロキサン」を包含した用語として用いられている。
(ii)引用例1には、引用例1に記載された発明が、集積回路の製造において用いられる基板の調製に関するものであって、ヒドリドシロキサン及びオルガノヒドリドシロキサンを含むシロキサン樹脂を調製する方法を提供するものであること(摘記1-2)が記載され、また、シロキサンベースの樹脂が電子及び半導体分野においてシリコンチップ及び他の類似の構成部品のコートに有用であること、このようなコーティングは集積回路上の電気伝導体の間に誘電体層を形成すること、及び、これらシロキサンベースの樹脂には、ヒドリドシロキサン及びオルガノヒドリドシロキサンが含まれること(摘記1-3)が記載されている。また、引用例1には、引用例1の発明で生成したポリマーが、良好なコーティング特性を有するものであること(摘記1-5)、及び、実施例のヒドリドシロキサン樹脂が、ウェハをコーティングする樹脂ポリマーとして最良の結果をもたらすこと(摘記1-10)が記載されている。
してみれば、引用例1には、上記式1?式6で表わされるヒドリドシロキサン樹脂が、ウェハ等の電子及び半導体分野の構成部品の、誘電体層形成用コーティングに有用であることが記載されているといえる。
(iii)引用例1の実施例17には、実施例7の生成物をヘプタン、クメン、及び重鉱油に溶解し、この溶液をウェハ上にスパン・オンした後、ベーキングし、次いで硬化させて、フィルムを形成したこと(摘記1-9)が記載されている。したがって、引用例1には、ウェハ上にフィルムを形成する方法が記載されているといえる。
上記実施例17で用いられた実施例7の生成物とは、HSiCl3を出発物質とするヒドリドシロキサンの固形白色樹脂であり(摘記1-8)、これは、上記式1または式2で表わされるタイプのヒドリドシロキサン樹脂であるといえる。また、同じく引用例1には、これに加えて、電子用ウェハをコーティングするための樹脂ポリマーとして最良の結果が、例えば「アンバージェット4200」触媒を用いた場合に得られたこと(摘記1-10)が記載されている。そして、表1には、この「アンバージェット4200」が、実施例18?26で用いられたことが示されているところ、これら実施例18?26の樹脂は、メチルヒドリドシロキサン、プロピルヒドリドシロキサン、n-ブチルヒドリドシロキサン、シクロヘキシルヒドリドシロキサン、フェニルヒドリドシロキサン、またはt-ブチルヒドリドシロキサンであって(摘記1-10)、上記の式3?式6で表わされるヒドリドシロキサン樹脂に該当する。したがって、引用例1には、式1?式6で表わされるヒドリドシロキサン樹脂が、フィルム形成に適用し得ることが記載されているといえる。
また、上記「ウェハ」は、集積回路の製造において用いられる基板(摘記1-2)の具体例に該当するといえる。

以上、(i)?(iii)によれば、引用例1には、
「集積回路の製造において用いられる基板上に誘電体フィルムを形成する方法において、
ヘプタン、クメン及び重鉱油と、一般式:
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]p 式1
[HSiO1.5]n[SiO2]w 式2
[HSiO1.5]n[R1SiO1.5]m 式3
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]n[R10.5-1.0SiO1.5-1.8]m 式4
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[R1SiO1.5]m 式5
[HSiO1.5]x[R1SiO1.5]y[SiO2]z 式6
(pは約8?約5000の範囲の整数であり、n及びwの合計は約8?約5000の範囲の整数であり、n及びmの合計は約8?約5000、x、y及びzの合計は約8?約5000、R1は直鎖及び分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びそれらの混合物を含む置換及び非置換有機基から選択される。)で表わされるヒドリドシロキサン樹脂との溶液を作成し、フィルムを形成する方法であって、上記フィルムの形成は、上記ヒドリドシロキサン樹脂の溶液をウェハ上にスパン・オンした後、ベーキングし、次いで硬化させて、フィルムを形成する方法。」(以下「引用発明」という。)
が記載されているといえる。

そこで、本願発明1と引用発明とを対比すると、(a)本願発明1の「基板」は引用発明の「集積回路の製造において用いられる基板」に相当し、(b)本願発明1の「誘電フィルム」は引用発明の「誘電体フィルム」に相当し、(c)本願発明1の「溶媒」は引用発明の「ヘプタン、クメン及び重鉱油」に相当する。
また、本願発明1の「有機ヒドリドシロキサン樹脂」である、
「一般式:
[HSiO1.5]n[RSiO1.5]m、
[H0.4-1.0SiO1.5-1.8]n[R0.4-1.0SiO1.5-1.8]m、
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[RSiO1.5]m、または
[HSiO1.5]x[RSiO1.5]y[SiO]z
(上記式中、nおよびmの和は8から5000であり、x、yおよびzの和は8から5000であり、Rは、置換または非置換の直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、置換または非置換アリール基およびそれらの混合物から選択される)で表されるポリマーを含む有機ヒドリドシロキサン樹脂」は、引用発明の「ヒドリドシロキサン樹脂」、即ち、
「一般式:
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]p 式1
[HSiO1.5]n[SiO2]w 式2
[HSiO1.5]n[R1SiO1.5]m 式3
[H0.5-1.0SiO1.5-1.8]n[R10.5-1.0SiO1.5-1.8]m 式4
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[R1SiO1.5]m 式5
[HSiO1.5]x[R1SiO1.5]y[SiO2]z 式6
(pは約8?約5000の範囲の整数であり、n及びwの合計は約8?約5000の範囲の整数であり、n及びmの合計は約8?約5000、x、y及びzの合計は約8?約5000、R1は直鎖及び分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びそれらの混合物を含む置換及び非置換有機基から選択される。)で表わされるヒドリドシロキサン樹脂」と、式3?式6で表わされる樹脂の点で重複、一致している。
また、本願発明1で、基体を回転させてコーティングする点は、引用発明でウェハ上にスパン・オンする点に相当し、また、その前に、溶液を基体上に配分することは周知事項である。また、本願発明1の「焼成」は引用発明の「ベーキング」に相当し、また、硬化することによりフィルムへの変換が完了することは自明である。
してみれば、本願発明1は、引用発明と、
「基体上に誘電フィルムを作成する方法であって、
溶媒と、一般式:
[HSiO1.5]n[RSiO1.5]m 式3’
[H0.4-1.0SiO1.5-1.8]n[R0.4-1.0SiO1.5-1.8]m 式4’
[H0-1.0SiO1.5-2.0]n[RSiO1.5]m 式5’
または
[HSiO1.5]x[RSiO1.5]y[SiO]z 式6’
(上記式中、nおよびmの和は8から5000であり、x、yおよびzの和は8から5000であり、Rは、置換または非置換の直鎖または分岐鎖アルキル基、シクロアルキル基、置換または非置換アリール基およびそれらの混合物から選択される。なお、「式3’」?「式6’」は当審で付与。)で表されるポリマーを含むヒドリドシロキサン樹脂との溶液を作成すること;
該溶液を基体上に配分すること;
該基体を回転させて、ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を形成させること;
を含んで成る方法。」の点、及び、
「ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を焼成すること;および
ヒドリドシロキサン樹脂でコーティングした基体を硬化させて、前記誘電フィルムへの前記変換を完了させる」点で一致し、そして、

(イ)本願発明1では、上記の焼成にともなって、「すべての残留溶媒を除去し、前記ポリマーを流動させ、前記樹脂を前記誘電フィルムに部分的に変換する」と特定されているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点、及び、
(ロ)本願発明1では、上記式3’?式6’のヒドリドシロキサン樹脂を用いているのに対して、引用発明は、これら式3’?式6’の樹脂に対応する式3?式6のヒドリドシロキサン樹脂に加えて式1及び式2のヒドリドシロキサン樹脂をも包含し、そして、上記の焼成及び硬化によるフィルムへの変換完了を、具体的には、式1乃至式2のヒドリドシロキサン樹脂を用いたケース(実施例17)で行っている点、
の各点で一応相違している。

そこで、これら相違点について、以下検討する。
相違点(イ)について
引用発明1では、焼成し、その後硬化させるものであることからすると、焼成時には硬化は完了していないといえる。してみれば、焼成時に残留溶媒が除去されること、また、未硬化状態のためポリマーが流動し、焼成時の熱により部分的にはフィルムへの変換が生じることは、当業者が容易に想到できることである。
したがって、相違点(イ)は当業者が容易に想到できたことである。

相違点(ロ)について
引用例1の実施例17には、実施例7の生成物である式1または式2のヒドリドシロキサン樹脂(摘記1-8)を、ウェハ上にスパン・オンし、コーティングしてフィルムを形成したこと(摘記1-9)が記載されている。
一方、同引用例1には、先に記載したとおり、電子用ウェハをコーティングするための樹脂ポリマーとして最良の結果が、「アンバージェット4200」触媒を用いた実施例18?26で得られたことが記載されており(摘記1-10)、そして、これら実施例18?26の樹脂は、式3?式6で表わされるヒドリドシロキサン樹脂(即ち、本願発明1の各一般式で表わされる「有機ヒドリドシロキサン樹脂」)に該当する。
してみれば、引用例1の記載からみて、式1及び式2のヒドリドシロキサン樹脂のみならず、式3?式6のヒドリドシロキサン樹脂をフィルム形成用に用い得ることは明らかである。
また、引用例1には、式1乃至式2のヒドリドシロキサン樹脂の場合と、式3?式6のヒドリドシロキサン樹脂の場合とで、フィルム形成方法を異なるものとすべき記載は見当たらない。すると、式3?式6のヒドリドシロキサン樹脂でフィルム形成をする場合に、同じくヒドリドシロキサン樹脂である式1乃至式2のヒドリドシロキサン樹脂でフィルム形成した実施例17の方法に準じた変換完了方法を適用してみるとするのが自然であり、また、これを適用する点に格別の発明力が要求されるともいえない。
したがって、相違点(ロ)は、実質的な相違点を構成しないものであり、また、当業者が容易になし得たことである。

また、本願明細書及び図面の記載をみても、これら相違点(イ)及び(ロ)に基く本願発明1の効果は、当業者が予期し得なかったほど格別のものということはできない。
以上のとおりであるから、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明である。

したがって、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができた発明であるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

V.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-12 
結審通知日 2006-10-17 
審決日 2006-10-31 
出願番号 特願2000-592872(P2000-592872)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田中 永一  
特許庁審判長 池田 正人
特許庁審判官 日比野 隆治

市川 裕司
発明の名称 有機ヒドリドシロキサン樹脂による誘電フィルム  
代理人 一入 章夫  
代理人 小野 誠  
代理人 坪倉 道明  
代理人 大崎 勝真  
代理人 川口 義雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ