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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B
管理番号 1154196
審判番号 不服2003-7945  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-05-08 
確定日 2007-03-15 
事件の表示 特願2000-109756「携帯電話装置を用いる経路探索システム」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月26日出願公開、特開2001-298765〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年4月11日の出願であって、その請求項1に係る発明は、平成15年1月14日付け及び同年6月5日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。(以下、「本願発明」という。)
「現在地のデータおよび目的地のデータを一動作で送信することができる経路探索ボタンを設けたGPS内蔵携帯電話装置を交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワークを備えた経路探索センターに接続して経路探索を行うGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システムにおいて、
前記経路探索センターが、
(1)前記GPS内蔵携帯電話装置から送信された現在地のデータから求められる緯度経度情報から、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段、
(2)前記GPS内蔵携帯電話装置から送信された目的地のデータから求められる緯度経度情報から直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段、
(3)前記交通ネットワークに前記歩行経路を組み込んで総合交通ネットワークを形成する手段、
(4)前記総合交通ネットワークでコンピュータを用いてラベル確定法により求めるコスト条件下で経路探索する手段、
を備えたことを特徴とするGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システム。」

2.引用例
これに対して、当審において平成18年9月26日付けで通知した拒絶の理由に引用した特開平11-166838号公報(以下、「引用例1」という。)、特開平9-190595号公報(以下、「引用例2」という。)、特開平9-200346号公報(以下、「引用例3」という。)、特開平10-275296号公報(以下、「引用例4」という。)、及び特開平11-51669号公報(以下、「引用例5」という。)には、それぞれ、図面とともに次の事項が記載されている。

(引用例1)
A.「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、PDA(Personal Digital Assistant)等と称されるパームトップコンピュータや電子手帳に代表されるポケット型コンピュータのような可搬型の情報機器に好適な電子機器に係り、特に不慣れな地域で交通機関等を利用して移動する場合に適切な情報を提供する電子機器、最適経路報知方法、および記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】近年における携帯電話やPHS(Personal Handy-phone System)などの無線利用の移動体通信システムは、目覚ましい発達を遂げている。この移動体通信システムの発達に伴って、多種多様な試みが提案されている。
【0003】その一つに、携帯情報端末のPDAを移動体通信システムの通信端末として使用する試みが提案されている。PDAに移動体通信システムの送受信機能を付加することで、PDAは、どこからでも、所定の情報ネットワークにアクセスし、有益な情報を送受信することができる。
【0004】また、GPS(Global Positioning System)という位置検出システムが実用化されている。GPSは、いわゆるカーナビゲーションシステムを始めとして、種々の分野で広く利用されている。最近では、受信ユニットの小型化、低消費電力化及び低コスト化も進み、携帯型のGPS受信装置も市販されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述のような移動体通信システム、PDA及びGPSは、何れも個々において更なる発展の可能性を秘めた技術であるが、これらの技術が融合することにより、一層の利便性をユーザにもたらすことができる。例えば、先述のように、PDAに移動体通信システムの送受信機能を付加することで、このようなPDAのユーザは、有益な情報をリアルタイムに取得可能となり、携帯情報端末として今まで以上に細やかでフレキシブルなサービスを享受できると見込まれる。
【0006】しかし、PDAにおけるGPSを用いた位置検出システムの利用は、ほとんど考慮されていない。市販されている携帯型のGPS受信装置も、主に現在位置を測定して表示する機能や、現在位置から設定した目的地への移動方向を表示する機能だけである。従って、PDAにGPSの位置情報を供給し、現在位置という有益な情報を利用したサービスの利便性をユーザが享受することができないのが問題となっていた。
【0007】例えば、現在におけるビジネス及びプライベートでの行動範囲の拡大から、不慣れな地域へ鉄道等の交通機関を利用して移動する機会が多くなっている。一般にこのような場合、電車の路線図等を見て現在地の最寄りの駅から目的地の最寄り駅までの最短距離となる経路を選択し、選択された経路に沿って移動する。しかし、途中駅で乗り換えが必要な場合等では、電車の路線図から最短距離となる路線を選択しても、その路線が最短時間で移動可能となる最適な路線とは限らず、必要以上に時間をかけてしまったりする場合がある。
【0008】また、現在地から目的地までの移動の全てに要する時間は、現在地の最寄り駅から目的地の最寄り駅までの経路を利用するのが、必ずしも最短時間とならない場合がある。例えば、図46に示すようにX地点からY地点まで移動する場合、X地点の最寄り駅のa駅からY地点の最寄り駅のd駅までは、2回の乗り換えが必要となる。一方、X地点の最寄り駅とはならないc駅からY地点の最寄り駅とならないe駅までは、乗り換えなしの1路線で結ばれている。この場合、X地点からc駅までの徒歩による移動時間と、Y地点からe駅までの徒歩による移動時間を加算しても、c駅からe駅までの経路を利用して移動する方が、a駅からd駅までの経路を利用して移動するよりも短時間となる。
【0009】この発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、現在位置等の位置情報と鉄道路線等の交通移動情報とを考慮して検索された路線の中から適切な経路を案内することを可能とする電子機器、最適経路報知方法、および記録媒体を提供することを目的とする。」

B.「【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明の第1の観点にかかる電子機器は、目的地を入力する目的地入力手段と、前記目的地入力手段により入力された目的地から予め決められた範囲内に存在する駅を検索し、下車駅を選択する下車駅選択手段と、現在位置を検出し、出発地を特定する位置検出手段と、前記位置検出手段で特定された出発地から予め決められた範囲内に存在する駅を検索し、乗車駅を選択する乗車駅選択手段と、鉄道の路線情報が記憶されている鉄道情報記憶手段と、前記乗車駅選択手段により選択された乗車駅から、前記下車駅選択手段により選択された下車駅までの鉄道経路を前記鉄道情報記憶手段から検索する鉄道経路検索手段と、前記位置検出手段により特定された出発地から、前記乗車駅選択手段により選択された乗車駅までの所要時間と、前記鉄道経路検索手段により検索された鉄道経路を利用する所要時間と、前記下車駅選択手段により選択された下車駅から前記目的地入力手段により入力された目的地までの所要時間との合計が最も短時間となる経路を算出する最短所要時間経路算出手段と、前記最短所要時間経路算出手段により算出された経路を表示する経路表示手段と、を具備することを特徴とする。
【0011】この発明によれば、鉄道経路検索手段は、乗車駅選択手段により選択された乗車駅から、下車駅選択手段により選択された下車駅までの鉄道経路を鉄道情報記憶手段から検索する。最短所要時間経路算出手段は、位置検出手段により特定された出発地から、乗車駅選択手段により選択された乗車駅までの所要時間と、鉄道経路検索手段により検索された鉄道経路を利用する所要時間と、下車駅選択手段により選択された下車駅から目的地入力手段により入力された目的地までの所要時間との合計が最も短時間となる経路を算出する。この結果、鉄道路線を考慮して検索された路線の中から適切な経路を得ることができる。
【0012】位置検出手段は、衛星を用いた位置検出システムによる位置信号を受信して位置検出を行う位置信号受信手段を含んでもよい。
【0013】最短所要時間経路算出手段は、位置検出手段により特定された出発地から、乗車駅選択手段により選択された乗車駅までの徒歩による移動時間を算出する出発移動時間算出手段と、鉄道経路検索手段により検索された鉄道経路を利用する所要時間を算出する鉄道所要時間算出手段と、下車駅選択手段により選択された下車駅から前記目的地入力手段により入力された目的地までの徒歩による移動時間を算出する到着移動時間算出手段とのうちの少なくとも一つの手段を含んでもよい。
【0014】最短所要時間経路算出手段は、出発地から乗車駅までの徒歩による移動時間と、鉄道経路検索手段により検索された鉄道経路を利用する所要時間と、下車駅から目的地までの徒歩による移動時間を算出する。この結果、鉄道路線を考慮して検索された路線の中から適切な経路を得ることができる。
・・・(中略)・・・
【0019】電子機器は、通信回線を介して通信相手と接続し、通信を行う通信手段をさらに備え、目的地入力手段は、通信手段により接続した通信相手から受信した位置情報を目的地として入力してもよい。
【0020】目的地入力手段は、通信手段により接続した通信相手から受信した位置情報を目的地として入力する。この結果、鉄道路線を考慮して検索された路線の中から目的地までの適切な経路を得ることができる。
【0021】通信手段は、無線通信回線を介して通信相手と通話を行ってもよい。」

C.「【0044】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照して、この発明の第1の実施の形態に係る電子機器としてのPDAを説明する。
【0045】図1は、PDA1の構成を示すブロック図である。図1に示すPDA1は、LCD2と、キー入力部3と、アンテナ4と、GPS電波受信ユニット5と、ROM6と、制御部7と、RAM8とから構成される。」

D.「【0061】次に、PDA1の最適経路案内動作について、図10に示すフローチャートを参照して、具体的な例を挙げて説明する。例えば、現在東京都港区の「赤坂見附駅」付近にいるユーザが、東京都千代田区にある「日本武道館」に移動する場合を想定する。
・・・(中略)・・・
【0063】まず、制御部7は、ユーザが入力した目的地を以下に示すように取得する(ステップS1)。制御部7は、ROM6に記憶された表示データを読み出し、LCD2に図11(a)に示すような大分類の目的地選択メニュー画面を表示する。ユーザは、図11(a)に示す項目中から「3.関東」を選択するため、番号キー10の「3」キーを押下する。制御部7は、「3」キーの押下をキー入力部3を介して検出し、図11(b)に示すような中分類の目的地選択メニュー画面を表示する。「1.東京都」がユーザに選択されると、制御部7は、ROM6に記憶された表示データを読み出し、図11(c)に示すような小分類の目的地選択メニュー画面を表示する。「2.千代田区」がユーザに選択されると、制御部7は、ROM6に記憶されているランドマークテーブル101を検索し、大分類から小分類までの選択条件に合致した地域情報データのランドマークを図11(d)に示すように表示する。ユーザは、図11(d)に示す項目中から「3.日本武道館」を選択するため、番号キー10の「3」キーを押下する。制御部7は、「3」キーの押下をキー入力部3を介して検出し、ランドマークテーブル101から「日本武道館」の位置座標データを取得する。
【0064】次に、制御部7は、目的地の周辺の下車駅を以下に示すように検索する(ステップS2)。制御部7は、図12に示すように、ステップS1により取得した「日本武道館」の位置座標データを中心aとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる鉄道駅をROM6に記憶されている駅座標テーブル102から検索する。制御部7は、図12に示す円Sの範囲内の座標bに「九段下駅」の駅が含まれることを判別し、目的地の下車駅となる「九段下駅」の駅情報をRAM8に記憶する。
【0065】次に、制御部7は、PDA1の現在位置を以下に示すように求める(ステップS3)。制御部7は、GPS電波受信ユニット5がアンテナ4を介して受信した複数の衛星電波をデジタル処理して生成した衛生電波受信信号を取得する。制御部7は、取得した複数の衛生電波受信信号とその衛生電波の伝播速度差とを利用して、PDA1の現在位置を取得する。制御部7は、取得した現在位置を座標変換し、出発地の位置座標データを取得する。
【0066】次に、制御部7は、出発地の周辺の乗車駅を以下に示すように検索する(ステップS4)。制御部7は、図13に示すように、ステップS3により取得した出発地の位置座標データを中心cとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる駅をROM6に記憶されている駅座標テーブル102から検索する。制御部7は、図13に示す円Sの範囲内の座標dに「赤坂見附駅」が、座標eに「永田町駅」がそれぞれ含まれることを判別し、出発地の乗車駅となる「赤坂見附駅」及び「永田町駅」の駅情報をRAM8に記憶する。
・・・(中略)・・・
【0075】次に、制御部7は、出発地から目的地までの移動時間が最短時間となる最適経路を以下に示すように求める(ステップS7)。制御部7は、出発地から乗車駅の「赤坂見附駅」、出発地から乗車駅の「永田町駅」及び、下車駅の「九段下駅」から目的地の「日本武道館」までの徒歩による移動時間をそれぞれ求める。制御部7は、RAM8に記憶されている図16(a)に示す「赤坂見附駅」から「九段下駅」までの経路の中で最も所要時間が短い経路に出発地から「赤坂見附駅」までの徒歩による移動時間及び、「九段下駅」から目的地の「日本武道館」までの徒歩による移動時間を加えた全ての所要時間を求め、RAM6に図17(a)に示すように記憶する。制御部7は、RAM8に記憶されている図16(b)に示す「永田町駅」から「九段下駅」までの経路の所要時間に出発地から「永田町駅」までの徒歩による移動時間及び、「九段下駅」から目的地の「日本武道館」までの徒歩による移動時間を加えた全ての所要時間を求め、RAM6に図17(b)に示すように記憶する。
【0076】図17(a)に示すように、出発地から「赤坂見附駅」を使用して「日本武道館」までの移動に要する最短の所要時間は、25分となる。一方、図17(b)に示すように、出発地から「永田町駅」を使用して「日本武道館」までの移動に要する最短の所要時間は、19分となる。従って、制御部7は、出発地から最も近い駅は、「赤坂見附駅」であるが、その「赤坂見附駅」よりも少し遠い「永田町駅」を利用して「日本武道館」を目指す方が、最適経路であると判別する。」

引用例1の上記C,Dに記載されている実施形態では、GPS内蔵の「PDA」に適用した例が示されているが、上記Aの段落【0003】に「携帯情報端末のPDAを移動体通信システムの通信端末として使用する試みが提案されている。」と記載され、さらに、上記Bの段落【0021】に「通信手段は、無線通信回線を介して通信相手と通話を行ってもよい。」と記載されていることから、引用例1には、実質的に「GPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システム」が記載されているということができる。
また、引用例1に記載のものにおいて経路探索の対象となっている鉄道網は、「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワーク」であるということができる。
さらに、引用例1の上記Dの段落【0075】の記載によれば、最適経路探索は、出発地から乗車駅までと下車駅から目的地までの徒歩による移動時間を加えた全ての所要時間を基にしており、経路探索の対象は、鉄道網のみならず歩行経路も対象としているということができ、そのように鉄道網のみならず歩行経路も対象とすることは、「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワーク」に歩行経路も組み込んで「総合交通ネットワーク」を形成しているということができる。

よって、上記A?Dの記載及び関連する図面を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例1記載の発明」という。)
「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワークの経路探索を行うGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システムにおいて、
(1)出発地の位置座標データを中心cとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる駅を決定する手段、
(2)目的地の位置座標データを中心aとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる駅を決定する手段、
(3)前記交通ネットワークに歩行経路を組み込んで総合交通ネットワークを形成する手段、
(4)前記総合交通ネットワークで制御部を用いて経路探索する手段、
を備えたGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システム。」

(引用例2)
E.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、端末装置と情報センタが通信をすることによって、現在地から目的地までの各種交通機関による経路,交通手段,交通料金,出発時間,到着時間等の情報を算出できる交通情報検索部を用いた交通情報処理装置およびその方法に関する。」

F.「【0024】次に前記第1実施形態の装置の動作について説明する。端末装置10の使用者は、入力部11から現在地と目的地と利用する交通手段の情報を入力し、通信部12に伝え、入力した情報を表示部13に表示する。通信部12は、情報センタ14に現在地と目的地と利用する交通手段を通信回線によって送信する。情報センタ14は、通信部12からの情報を情報記憶部15へ蓄える。また、あらかじめ情報記憶部15には、各種交通機関会社17の交通機関,経路,交通料金,時刻表の情報が通信回線より送信されて蓄えられている。交通情報検索部16は、情報記憶部15に蓄えられている端末装置10からの情報と各種交通機関会社17の情報より、各種交通機関および徒歩,自家用車等を組み合わせた経路,交通手段,交通料金,出発時間,乗り換え時間,到着時間の最適な情報を算出し、通信回線によって通信部12に送信する。通信部12は、交通情報検索部16が算出した現在地から目的地までの経路,交通手段,交通料金,出発時間,乗り換え時間,到着時間の最新で最適な結果を表示部13に伝える。表示部13は、現在地から目的地までの経路,交通手段,交通料金,出発時間,乗り換え時間,到着時間の最新で最適な結果を表示して処理を終了する。」

上記E,Fの記載及び関連する図面を参照すると、引用例2には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例2記載の発明」という。)
「端末装置から情報センタに現在地と目的地と利用する交通手段を通信回線を介して送信し、情報センタが、端末装置から送信されてきた情報と情報センタにあらかじめ蓄えられた情報とに基づいて、現在地から目的地までの最適経路を算出すること。」

(引用例3)
G.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体通信システムである、いわゆるPHS(Personal Handyphone System)電話網を活用して所望の情報を取得する情報検索システムに関する。」

H.「【0098】・・・(中略)・・・
(IV)簡易ナビゲーション動作の第1実施形態
次に、図1に示す情報検索システムSを活用した他の実施形態である簡易ナビゲーション動作の第1実施形態について、図7及び図8を用いて説明する。なお、図7に示すフローチャートは、上記CPU25の動作を中心にして簡易ナビゲーション動作の第1実施形態を説明するものである。
・・・(中略)・・・
【0102】その後、CPU25は、常に最も強い存在信号を発信している基地局4を検出すことにより基地局4の検索を継続する(ステップS22)。そして、ステップS23において、使用者が簡易ナビゲーションを希望することにより、選択キー13のうち、「ナビ」キー(図2参照)が押下されたか否かが、キー入力部28より出力される入力信号により判定される(ステップS23)。
【0103】ステップS23の判定において、「ナビ」キーが押下されていない場合には(ステップS23;NO)、基地局4の検索を継続すべくステップS22に戻り、「ナビ」キーが押下された場合には(ステップS23;YES)、認識している基地局4の固有番号をそのときアクセスしているサブホスト2に送信する(ステップS24)。そして、送信された固有番号に基づき、サブホスト2において当該固有番号に対応する位置情報を検索することにより、当該固有番号に対応する基地局4の所在地を検索する(ステップS25)。その後、PHS電話機5は、検索された基地局4(換言すれば、現在PHS電話機5が位置登録している基地局4)の所在地をサブホスト2から受信する(ステップS26)。次に、受信した基地局4の所在地(位置情報)に基づき、ROMカード16から当該位置情報に含まれる緯度及び経度を中心とした地図データを検索し(ステップS27)、当該地図データに基地局4の表示を重ねて表示コントローラ30を介して表示部15に表示する(ステップS28)。」

上記G,Hの記載及び関連する図面を参照すると、引用例3には、次の発明が記載されているものと認められる。(以下、「引用例3記載の発明」という。)
「移動体通信システムを活用して所望の情報を取得する情報検索システムにおける簡易ナビゲーション動作において、「ナビ」キーの押下により簡易ナビゲーション動作に必要な情報をサブホストに送信し、該サブホストから送られてくる返信情報を基に、簡易ナビゲーション動作を行うこと。」

(引用例4)
I.「【0016】以下に本発明で用いる経路探索方法について説明する。ネットワークに関する代表的な最適化問題としては最短路問題、最大流問題、最小費用流問題などがある。そのうち最短路問題として広く使われている数理計画上の手法にダイクストラ法がある。」

(引用例5)
J.「【0073】図15は検索エンジンのメインルーチンであり、検索エンジンユニットUE内の検索エンジンe1?emの1つが対応する。対応した検索エンジン(例えば、対応した検索エンジンをe1 とする)のデータベースDBm,DBy,DBpからGPSのデータ、検索条件により現在地、目的地等の対応する地点検索を行う(S201)。S202では最小コストのルートを生成する。この最小コストのルートとは、与えられた目的地に対して地図データデースDBmのもつ情報に基づいて経路探索を行わせるものであり、例えば、Dijkstra法などの公知のアルゴリスムに従い目的地までの距離が最小となるように地図上のつながりのあるノードを次々に追跡して現在地から目的地に到る距離が最小になる経路の探索を行わせるものである。この場合、線分のコスト(例えば、距離、走行時間、道幅によって決めるか、または、高速道路等を利用するかの使用者の意図する属性の組み合わせによる)を最小にする最小コストによりルートを求める経路探索方法を用いることによりルートを生成する。」

上記引用例4のI、及び上記引用例5のJの記載を参照すると、次の技術が周知技術であると認められる。
「現在地から目的地に到る距離が最小になる経路の探索を行う経路探索方法として、ダイクストラ法を用いること。」

3.対比
本願発明と引用例1記載の発明とを対比すると、まず、引用例1記載の発明において、「出発地の位置座標データを中心cとして、予め決められた円Sに示す範囲内」は、当然、出発地からの一定の直線距離の範囲内を示すものである。そして、上記出発地の位置座標データは、引用例1の上記Dの段落【0065】の記載によれば、GPS機能により取得した現在位置を座標変換して得られたものであり、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータから求められる位置座標データ」であるということができる。さらに、引用例1の上記Dの段落【0075】で考慮している徒歩による移動時間は、特に足の速い人や遅い人でなく、平均的な足の速さを持つ人が平均的な歩行経路に沿っての徒歩に要する移動時間であると解されるから、「出発地の位置座標データを中心cとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる駅を決定する手段」は、実質的に、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段」であるということができる。
一方、本願発明における「GPS内蔵携帯電話装置から送信された現在地のデータ」は、「経路探索センター」に対して「GPS内蔵携帯電話装置」が送信するデータであるが、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータ」であることには変わりない。そして、「緯度経度情報」は「位置座標データ」であることには変わりないから、本願発明と引用例1記載の発明とは、ともに、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段」を有するということができる。
次に、引用例1記載の発明において、「目的地の位置座標データを中心aとして、予め決められた円Sに示す範囲内」は、同様に、当然、目的地からの一定の直線距離の範囲内を示すものである。そして、上記目的地の位置座標データは、引用例1の上記Dの段落【0063】の記載によれば、GPS機能を用いて得たものではないが、「GPS内蔵携帯電話装置」の持っているデータ(上記段落【0063】の例では「日本武道館」に関連する地域情報データ)から求められる位置座標データであることには変わりなく、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた目的地のデータから求められる位置座標データ」であるということができる。さらに、「徒歩による移動時間」については、上記「出発地」に関してと同様のことが言えるから、「目的地の位置座標データを中心aとして、予め決められた円Sに示す範囲内に含まれる駅を決定する手段」は、実質的に、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた目的地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段」であるということができる。
そして、本願発明における「GPS内蔵携帯電話装置から送信された目的地のデータ」は、同様に、「経路探索センター」に対して「GPS内蔵携帯電話装置」が送信するデータであるが、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータ」であることには変わりなく、「緯度経度情報」は「位置座標データ」であることには変わりないから、本願発明と引用例1記載の発明とは、ともに、「GPS内蔵携帯電話装置により得られた目的地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段」を有するということができる。
また、引用例1記載の発明における「制御部」は、移動時間の計算動作を行っており、本願発明における「コンピュータ」に相当する構成であるということができる。

よって、本願発明と引用例1記載の発明とは、
「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワークの経路探索を行うGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システムにおいて、
(1)前記GPS内蔵携帯電話装置により得られた現在地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段、
(2)前記GPS内蔵携帯電話装置により得られた目的地のデータから求められる位置座標データから、直線距離を変数として算出される平均コストが指定範囲内に入る交通機関の駅までの歩行経路を決定する手段、
(3)前記交通ネットワークに前記歩行経路を組み込んで総合交通ネットワークを形成する手段、
(4)前記総合交通ネットワークでコンピュータを用いて経路探索する手段、
を備えたGPS内蔵携帯電話装置を用いる経路探索システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:本願発明は、「GPS内蔵携帯電話装置」に「現在地のデータおよび目的地のデータを一動作で送信することができる経路探索ボタン」を設けて「現在地のデータ」、「目的地のデータ」を「経路探索センター」へ送信し、かつ、上記「経路探索センター」に「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワーク」及び上記(1)?(4)の構成要件を備えさせて、上記「GPS内蔵携帯電話装置」を上記「経路探索センター」に接続して経路探索を行うようなものであるのに対し、引用例1記載の発明は、そのようなものではない点。

相違点2:「現在地のデータ」及び「目的地のデータ」から求められる「位置座標データ」を、本願発明においては「緯度経度情報」であるのに対し、引用例1記載の発明においては、「緯度経度情報」とはされていない点。

相違点3:「総合交通ネットワークでコンピュータを用いて経路探索する」際に、本願発明においては「ラベル確定法により求めるコスト条件下で」経路探索を行うようにしているのに対し、引用例1記載の発明は、そのように経路探索を行うものではない点。

4.当審の判断
そこで、上記相違点1?3について検討する。

(相違点1について)
最適経路を探索するシステムにおいて、端末装置から情報センタに現在地と目的地を含む情報を通信回線を介して送信し、情報センタが、端末装置から送信されてきた情報と情報センタにあらかじめ蓄えられた情報とに基づいて、現在地から目的地までの最適経路を算出することは、引用例2記載の発明に見られるような技術にすぎない。
してみれば、引用例1記載の発明に対して上記引用例2記載の発明に見られる技術を適用し、最適経路を算出するための「交通ネットワーク」情報及びその他の情報を「経路探索センター」に備えさせ、端末装置側から「現在地のデータ」、「目的地のデータ」を送信して「経路探索センター」側で最適経路を求め、その求めた情報を端末装置側に返信するようにすることは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。
また、移動体通信システムを活用してナビゲーション動作を行う場合、ナビゲーション動作に必要な情報をホスト側に送る際に、一動作で情報を送信するようなキーを用いてナビゲーション動作を行うようにすることは、引用例3記載の発明に見られるような技術にすぎないから、上記のように端末装置側から「現在地のデータ」、「目的地のデータ」を送信する際に、「経路探索ボタン」の一動作で送信を行うようにすることは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。
したがって、引用例1記載の発明に対して上記引用例2,3に記載の発明を適用することにより、「GPS内蔵携帯電話装置」に「現在地のデータおよび目的地のデータを一動作で送信することができる経路探索ボタン」を設けて「現在地のデータ」、「目的地のデータ」を「経路探索センター」へ送信するようにし、かつ、上記「経路探索センター」に「交通機関の駅である地点をノード、地点間をリンクとして表現された交通ネットワーク」及び上記(1)?(4)の構成要件を備えさせて、上記「GPS内蔵携帯電話装置」を上記「経路探索センター」に接続して経路探索を行うようなものとすることは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。

(相違点2について)
地球上の位置を求める座標データとして「緯度経度情報」を用いることは、ごく普通に行われていることにすぎないから、引用例1記載の発明において、「現在地のデータ」及び「目的地のデータ」から求められる「位置座標データ」を「緯度経度情報」とすることは、当業者が適宜になし得ることにすぎないものと認められる。

(相違点3について)
現在地から目的地に到る距離が最小になる経路の探索を行う経路探索方法として、ダイクストラ法、すなわちラベル確定法を用いることは、引用例4,5に見られるような周知技術にすぎない。
してみれば、引用例1記載の発明において、上記周知技術を適用し、「総合交通ネットワークでコンピュータを用いて経路探索する」際に、「ラベル確定法により求めるコスト条件下で」経路探索を行うようにすることは、当業者が適宜に設計できる事項にすぎないものと認められる。

そして、本願発明の構成によってもたらされる効果も、引用例1?3に記載の発明及び上記周知技術から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

5.むすび
したがって、本願発明は、引用例1?3に記載の発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-20 
結審通知日 2007-01-09 
審決日 2007-01-22 
出願番号 特願2000-109756(P2000-109756)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 春樹大日方 和幸  
特許庁審判長 吉岡 浩
特許庁審判官 成瀬 博之
長島 孝志
発明の名称 携帯電話装置を用いる経路探索システム  
代理人 豊田 正雄  

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