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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1154203
審判番号 不服2003-18922  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-09-26 
確定日 2007-03-15 
事件の表示 平成 6年特許願第176235号「塩味がつき体色が改善されたエビ類、その加熱処理物およびそれらの冷凍品」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 7月11日出願公開、特開平 7-170886〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成6年6月23日(優先日、平成5年10月13日、平成5年10月30日)の出願であって、平成15年8月27日に拒絶査定がなされ、これに対し、平成15年9月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成15年10月27日付けで手続補正がなされたものである。
2.平成15年10月27日付の手続補正についての補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成15年10月27日付の手続補正を却下する。
[理由]
(イ)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項1は、「ブラックタイガーを105%?135%海水塩濃度の環境水中で蓄養殖することにより、0.5重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉を有し、その筋肉の呈味成分のうちグリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンのいずれか1種以上が向上しており、その呈味成分量が100%海水塩濃度の環境水中で蓄養殖したものよりも高いことを特徴とする生きた蓄養殖ブラックタイガー(Penaeus mondon)。」と補正された。
上記補正は、平成15年4月22日付けで補正された本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「食塩濃度が高い海水で」を「105%?135%海水塩濃度の環境水中で」と補正し、食塩濃度を具体的に限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(ロ)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の1985年に頒布された刊行物であるJ.Agric.Food Chem.(1985)Vol.33,p.1174-1177(以下、「引用例」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「ブラウンシュリンプ(Penaeus aztecus)の組織の水分含量、塩含量及び遊離アミノ酸含量に対する生育塩分のゆるやかな変化及び急な変化の影響が調べられた。環境と平衡した内部浸透圧を維持するために、エビは水分を失うことにより塩分の増加に即座に反応し、水分を得ることにより塩分の減少に即座に反応した。組織の塩含量もまた、塩分変化に即座に順応した。塩分の増加と減少は、それぞれ塩含量の増加と減少という結果をもたらした。塩分変化に対する遊離アミノ酸含量の反応は、塩分の反応と同じであったが、著しく遅れた。しかしながら、いったん遊離アミノ酸含量が浸透圧平衡に寄与し始めると、組織水分含量は通常のレベルに戻った。もし塩分変化が水揚げの前に行われるならば、最大の収率で最大の味の増強をもたらすためには、エビに長い順応期間を与えることが重要である。」(第1174頁、ABSTRACT)、
(2)「初期の研究で、McCoid et al.(1984)は生育環境塩分がpenaeidエビの遊離アミノ酸濃度に直接影響を与えることを示した。遊離アミノ酸は、エビ組織において浸透圧調節剤として存在し、また、シーフードの味に主要に貢献するものであることも示されている(Hashimoto,1965;Jones,1969;Nair and Bose,1965;Simudu and Hujita,1954;Thompson et al.,1980)。McCoid et al.(1984)は、よりおいしい養殖エビは池の塩分の操作により可能であると仮定した。しかしながら、遊離アミノ酸に加えて、無機イオン含量及び組織水分含量の両方も、水生動物の浸透圧調節に重要な役割を果たしているはずである。動物は、塩分増加に反応して、浸透圧効果剤の増加、あるいは組織水分含量の減少によって、細胞内イオン強度を増加させなければならない。環境の塩分の減少時においては、逆がいえる(Lockwood,1962;Bursey and Lane,1971)。
この研究の目的は、環境塩分のゆるやかな変化及び急な変化の条件下における、エビ中の遊離アミノ酸濃度、塩含量、水分含量間の関係を決定することであった。」(第1174頁左欄第1行?第22行)、
(3)「エビの水分含量、塩含量、遊離アミノ酸含量における環境塩分の影響。
Corpus Christi湾で水揚げされたブラウンシュリンプ(Penaeus aztecus)は、Corpus ChristiにあるTexas A&M University Research and Extension Centerに氷容器で生きたまま輸送された。到着時、エビは用意された水槽に移され、ゆるやかな場合と急な場合との双方の塩分変化にさらされた。」(第1174頁左欄下から第8行?下から第1行)、
(4)「ゆるやかな塩分変化。
Corpus Christi湾の水は水揚げ時に39pptの塩分であり、水槽中の水は31pptに維持されていたので、輸送時に海水は5時間にわたって、脱塩素水道水によりゆっくり希釈された。…(省略)…2つの水槽の塩分はその後30pptに調節され、一方、残りの4つの水槽の塩分は2つずつ、10pptと50pptに変えられた。塩分変化は、脱塩素水道水の適量または即席海塩の濃縮液を使用して、最大で1日あたり10ppt、1時間あたり2pptの速度で行われた。サンプル(各水槽から2尾ずつのエビ)は最終塩分に到達した24時間後に取り出され、48時間間隔でその後9日の間、取り出された。
急な塩分変化。
急な塩分変化によるpenaeidエビの水分含量、塩化物含量、遊離アミノ酸含量への影響を決定するために、28尾のブラウンシュリンプが、塩分27ppt、26℃の海水から、25ppt、25.5℃の水槽に移された。…(省略)…24時間の順応期間後、各水槽からランダムに選ばれた2尾のエビの尾の肉の、水分、塩化物、及び遊離アミノ酸窒素含量が解析された。塩分はその後、3つの水槽では10pptに、残りの3つの水槽では50pptに変化させられた。変化は脱塩素水道水の適量または濃縮即席海塩を用いて即座に行われた。各水槽から2尾のエビが、塩分変化後、1、2、4、8、12、24、及び48時間後に取り出されて、水分、塩化物、及び遊離アミノ酸窒素含量が解析された。」(第1174頁右欄第1行?同欄下から第6行)、
(5)「塩化物含量。
異なる塩分に適応させたブラウンシュリンプの、塩化ナトリウム%として知られている塩化イオン濃度が、TableIIに示されている。水分含量の潜在的変化の補正のため、塩化ナトリウム濃度は、湿重量と乾燥重量の両方で報告されている。TableIIから明らかなように、エビ組織塩化物濃度は、塩分の増加に伴い増加し、塩分の減少に伴い減少した。このことは、初期の報告と一致する(McFarland and Lee,1963;Bursey and Lane,1971)。組織塩化物含量の反応は、しかしながら塩分30ppt以下の場合より、30ppt超の場合にずっと劇的であった。このことは、10pptと30pptの条件でのエビ間の塩化物含量には、意味のある相違はないのに対して、30pptと50pptの条件でのエビ間では、試験期間を通して常に重大な相違があったことにより、最もよく例証されている。各サンプリング群中で、最終塩分到達後の塩化物含量の変化が最も劇的であったのは、50pptにさらされたエビの組織であった。塩化ナトリウムの最高濃度は50pptに7日間保たれたエビ中に見出され、0.74%の塩化ナトリウムを含んでいた。
遊離アミノ酸含量。
塩化物濃度と同じく、組織遊離アミノ酸濃度も、塩分依存性を示した。高環境塩分は高遊離アミノ酸含量をもたらし、一方、低環境塩分は低遊離アミノ酸含量を与えた。これらの観察は、Penaeus vannameiに関する報告(McCoid et al.,1984)及びPenaeus japonicusに関する報告(Sameshima and Shimamura,1980)と一致する。TableIIIは異なる塩分にさらされたP.aztecusの遊離アミノ酸含量に関する環境塩分の影響を示す。…(省略)…このことは、McCoid et al.,1984の、50pptに順応したP. vannamei中の平均アミノ酸窒素濃度の28.71mM/100gという報告と近い一致であり、penaeidエビにおける浸透圧調節における遊離アミノ酸の役割に関して種の相違がないことを示している。」(第1175頁右欄第10行?第1176頁左欄下から第14行)、
(6)「CONCLUSIONS
エビの加工特性と食感とは、水揚げされる環境水塩分によって影響される。外部浸透圧と平衡した内部浸透圧を維持するために、塩分が増加した条件下のエビは即座に水分を失い、環境水の希釈の条件下のエビは水分を獲得する。湿重量基準で、浸透圧調節剤の濃度は、このように塩分変化とともに変化するようである。組織塩化物含量もまた、塩分変化に即座に反応する。絶対値で、塩化物含量は増加する塩分とともに増加し、減少する塩分とともに減少する。細胞内浸透圧の調節における遊離アミノ酸の寄与は重大であるが、著しく遅れた。…(省略)…McCoid et al.(1984)に指摘されたように、遊離アミノ酸の味の特徴のために、高塩分で生育したエビは疑いなく低塩分で生育したエビよりおいしい。高塩分での生育の結果としてのより多い塩含量も、味の効果を高めるのであろう。」(第1177頁左欄下から第13行?同頁右欄19行)

(ハ)対比・判断
そこで、本願補正発明と引用例に記載された事項とを比較すると、上記引用例記載事項(ロ)(3)における「Corpus Christi湾で水揚げされたブラウンシュリンプ(Penaeus aztecus)が生きたまま輸送され、到着時、用意された水槽に移され、ゆるやかな場合と急な場合との双方の塩分変化にさらされた」ことは、本願補正発明における「所定の海水塩濃度の環境水中で蓄養殖すること」に相当し、上記引用例記載事項(ロ)(4)の記載から明らかなように、引用例に記載された各成分の含量は、尾の肉についてのものであるから、上記引用例記載事項(ロ)(5)における「塩化ナトリウムの最高濃度は50pptに7日間保たれたエビ中に見出され、0.74%の塩化ナトリウムを含んでいた」ことは、該エビが、本願補正発明における「0.5重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉を有し」ていることに相当する。また、本願明細書の記載からみて、本願補正発明の海水塩濃度とは、通常の海水(塩濃度3.3%)を100%海水塩濃度として塩分を表したものであり、引用例に記載の塩分50pptは、海水塩濃度約150%に相当する。さらに、上記引用例記載事項(ロ)(1)、(2)、(5)、(6)にも記載のように、Penaeus 属のエビでは、その呈味に最も影響を与える遊離アミノ酸含量(以下、単に「アミノ酸含量」という。)が、海水より高塩分の生育環境下で増加することは、引用例に記載されているだけでなく、本願優先日前既に周知の事項でもある。すなわち、引用例に記載された高塩分で生育したエビは、「その呈味成分量が100%海水塩濃度の環境水中で蓄養殖したものよりも高い」ものと認められる。
以上のことから、本願補正発明と引用例に記載された事項は、Penaeus 属のエビを海水より塩濃度の高い所定の環境水中で蓄養殖することにより、0.5重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉を有し、その筋肉の呈味成分であるアミノ酸の含量が向上しており、その呈味成分量が100%海水塩濃度の環境水中で蓄養殖したものよりも高いことを特徴とする、生きた蓄養殖Penaeus 属のエビである点で一致するが、
(i)Penaeus 属のエビが、前者ではブラックタイガー(Penaeus mondon)であるのに対して、後者では、ブラウンシュリンプ(Penaeus aztecus)である点、
(ii)蓄養殖する環境水の海水塩濃度が、前者では105?135%であるのに対して、後者では約150%である点、
(iii)蓄養殖により向上するアミノ酸が、前者ではグリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンのいずれか1種であると特定されているのに対して、後者では、アミノ酸の種類は特定されていない点、
で相違する。
(a)相違点(i)について
引用例は、特に記載事項(ロ)(2)にあるように、penaeidエビを高塩分環境水中で生育させると、エビ筋肉中のアミノ酸濃度が増加してエビの呈味が向上し、おいしい養殖エビが得られるという周知の事実を基礎として、その増加するアミノ酸のエビ組織における浸透圧調節剤としての役割に着目し、同様に浸透圧調節に寄与する可能性のある塩含量及び組織水分含量の、高塩分生育下における変化を調べたものである。そしてその結果としては、penaeidエビの1種であるブラウンシュリンプの筋肉中の塩含量がアミノ酸含量と同様に高塩分下で増加することが確認され、引用例記載事項(ロ)(6)のCONCLUSIONSの項では、高塩分で生育したエビはアミノ酸含量のため、疑いなく低塩分で生育したエビよりおいしいし、高塩分での生育の結果としてのより多い塩含量も、味の効果を高めるであろうことが記載されている。
このような本願優先日前の技術水準の下で、同じくPenaeus 属のエビであり、養殖エビとして代表的なブラックタイガーにも、引用例に記載された高塩分での生育という技術を適用し、その味を向上させようとすることは、当業者であれば極めて自然な発想であり、困難なくなし得ることである。
なお、他属の甲殻類であるArtemia属salina 、Crangon属crangon においても、高塩分下での生育によりグリシン等のアミノ酸含量増加の傾向があることは周知であり(それぞれ、Comp.Biochem.Physiol.(1969)Vol.29,p.439-445、Netherlands Journal of Sea Research(1972)Vol.5,No.4,p.391-415の特にp.401の表2参照)分類学的に近縁な同属であるブラウンシュリンプとブラックタイガー間の場合は、さらに高塩分下での生育による味の向上という予測が容易であるといえ、このことからも、引用例に記載された技術をブラックタイガーに適用することは容易に想到し得ることといわざるを得ない。
(b)相違点(ii)について
本願補正発明は蓄養殖ブラックタイガーという「物」自体に係る発明であるが、蓄養殖する環境水の海水塩濃度に関する特定は製法に関連するものであって、この製法を採用することにより、請求項1に記載された特定の塩分含量や呈味成分量のブラックタイガーが得られるものであるが、該製法の特定がされていない場合と比較して、本願補正発明のブラックタイガーが物として異なるものとはいえないから、相違点(ii)は実質的な相違とはいえない。
あるいは、たとえ仮に相違するとしても、シーフードという食品としての価値のあるブラックタイガーとするために、肉の味、塩分等が好適なものになるよう畜養殖のために環境水の塩分を海水よりも高い濃度範囲で好適化することは、以下の理由から当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。
確かに、引用例には、海水塩濃度約150%、90%、30%(10pptの場合)の環境下で生育した場合の筋肉塩含量の変化の比較しか記載されておらず、海水塩濃度85%、100%、125%、150%、175%、200%の6つの濃度での塩含量の変化を測定した本願明細書中の開示とはその点で異なるものの、海水よりも高塩分で生育したエビ筋肉中のアミノ酸含量が増加することは、引用例に記載されているだけでなく、本願優先日前周知の事項(必要があれば、引用例でもたびたび参照されているV.McCoid et al.Journal of Food Science(1984)Vol.49,p.327-330、Biochemical Systematics and Ecology.(1989)Vol.17,No.7/8,p.589-594参照、以下これらを「周知文献等」という。)でもあり、生ブラックタイガーの味を向上させるため、100%海水よりも高い塩分濃度で、かつブラックタイガーが生育可能な塩分範囲内(すなわちあまり高すぎない範囲内)で、ブラックタイガーに適した生育塩分を決定することは、当業者であれば通常行う創作活動の範囲内のことにすぎない。
(c)相違点(iii)について
引用例には、高塩分生育下で増加するアミノ酸含量の総量しか記載されておらず、その増加するアミノ酸の種類についての具体的な記載はないものの、上記周知文献等にも記載のように、高塩分生育下で増加するアミノ酸のうちに、グリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンのいずれか1種が包含されることは本願優先日前周知の事項である。また、上記引用例記載事項(ロ)(5)の最後に「penaeidエビにおける浸透圧調節における遊離アミノ酸の役割に関して種の相違がないことを示している。」と記載されているように、アミノ酸増加については、penaeidエビ間においては相違がないことも記載されている。さらに、高塩分生育下でおいしいエビが得られるのに、増加するアミノ酸の寄与が大きいことは、引用例にも記載のように本願優先日前周知の事項であり、呈味に影響する上記6つのアミノ酸のいずれかが増加していることは、当業者であれば当然予測することといえる。
したがって、引用例においても高塩分環境により、グリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンのいずれか1種のアミノ酸含量が増加していることが高い蓋然性を以ていえるのであるから、ブラックタイガーを高塩分環境で蓄養殖した場合にも、同様に、いずれかのアミノ酸含量が増加することは、当業者が容易に想到し得ることである。あるいは、この相違は、引用例に記載された技術をブラックタイガーに適用することにより容易に得られたブラックタイガーにおける、特定のアミノ酸の増加を確認したにすぎないものであり、当業者が必要に応じて特定することができることである。
(d)本願補正発明の効果について
本願明細書には、引用例に記載され、又は周知の高塩分生育による塩分含量増加、特定のアミノ酸含量増加の効果の他に、体色改善効果等が記載されているものの、ブラックタイガーを高塩分下で生育させることは上記の如く当業者が容易になし得ることである。
このような発明特定事項自体の推考が容易であると認められる発明に対して、効果を根拠に進歩性を認めるためには、その効果は発明特定事項から予測あるいは発見することの困難なもの、よほど顕著なものでなければならないというべきである。しかし、上述の体色改善等の効果が引用例の記載や周知の技術では奏し得ないとする根拠もないし、例えブラックタイガーに適用したことにより特異的に奏される効果だったとしても、それにより進歩性が認められるほど顕著なものということはできない。

(ニ)むすび
以上のとおり、本願補正発明は引用例の記載及び周知事項から当業者であれば容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。
したがって、本件補正は平成15年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
なお付言すると、Nippon Suisan Gakkaishi(1992)Vol.58,No.6,p.1095-1102の特に図3及び図6には、高塩分下(45ppt、海水塩濃度換算約135%)で生育したブラックタイガーの筋肉中のグリシン、アラニン、プロリンが、100%海水塩濃度の環境水中で蓄養殖したものより向上していることが記載されている。また、本願補正発明の「0.5重量%ないし2重量%の塩分含量」は、100%海水塩濃度で蓄養殖した場合の塩分含量さえも包含するものであり、同文献に記載されたブラックタイガーも本願補正発明と同じ塩分含量の範囲に含まれるものと認められる。したがって、本願補正発明は優先日前に頒布された刊行物に記載された発明であるから、本願補正発明はこの点からも、独立して特許を受けることができないものである。
3.本願発明について
平成15年10月27日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成15年4月22日付手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「食塩濃度が高い海水で蓄養殖することにより、0.5重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉を有し、その筋肉の呈味成分のうちグリシン、アラニン、グルタミン酸、プロリン、トレオニン、セリンのいずれか1種以上が向上しており、その呈味成分量が天然のものよりも高いことを特徴とする生きた蓄養殖ブラックタイガー(Penaeus mondon)。」
(A)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例及びその記載事項は、前記2.(ロ)に記載したとおりである。
(B)対比・判断
本願発明は、本願補正発明の発明特定事項の一部である「105%?135%海水塩濃度の環境水中で」が「食塩濃度が高い海水で」となっているものである。そして、引用例に記載された50pptという塩分濃度の海水は、「食塩濃度が高い海水」に相当するから、上記2.(ハ)に記載の、本願補正発明と引用例に記載された事項との相違点(i)?(iii)のうち、本願発明と引用例記載事項の相違点は、上記相違点(i)及び(iii)のみとなる。
そして、相違点(i)及び(iii)の判断については、いずれも上記2.(ハ)(a)及び(c)に記載したとおりである。
そして、本願発明は、引用例の記載及び周知事項から予測できない顕著な効果を奏するものともいえない。
(C)小括
したがって、本願発明は引用例の記載及び周知事項から当業者であれば容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
4.付記
本件請求人は、平成18年11月24日付回答書において、本願発明の「0.5重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉」を、「1重量%ないし2重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉」さらには「1.2重量%ないし1.5重量%の塩分含量の塩味がついた筋肉」に限定する補正案1及び補正案2(以下、これら補正案の請求項1に係る発明をまとめて「補正案発明」という。)を提示し、引用例では最高の塩分濃度でも0.741%であり、補正案発明のような1%以上の塩分濃度には上昇させることができないこと等を根拠に、補正案発明は進歩性を有する旨主張している。
この点につき、念のため見解を示すと、以下のとおりである。
引用例に記載のブラウンシュリンプは、TableIIによれば海水塩濃度約90%(30ppt)で飼育された場合の塩分が0.384%であり、一方、本願明細書の図17に記載の85?100%海水塩濃度で飼育された場合のブラックタイガーの塩分は0.6%であり、エビの種類によって、海水中で養殖した場合の当初の塩分含量がそもそも異なるものである。一方、引用例においても高塩分にすることによって当初の約2倍の塩分含量になっていることから、ブラックタイガーにおける1重量%以上あるいは1.2重量%以上という塩分濃度が、引用例の記載から予測できない程のものということはできない。
したがって、補正案発明も上記2.に記載した理由と同様な理由で、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、かかる補正の機会を与える必要は見いだせない。
5.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-11 
結審通知日 2007-01-18 
審決日 2007-01-31 
出願番号 特願平6-176235
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A01K)
P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉田 佳代子長井 啓子  
特許庁審判長 鵜飼 健
特許庁審判官 鈴木 恵理子
八原 由美子
発明の名称 塩味がつき体色が改善されたエビ類、その加熱処理物およびそれらの冷凍品  
代理人 須藤 阿佐子  

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