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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C22C |
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管理番号 | 1154228 |
審判番号 | 不服2004-11669 |
総通号数 | 89 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-06-09 |
確定日 | 2007-03-15 |
事件の表示 | 特願2000-132615「微小張り出し性に優れた薄鋼板」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月16日出願公開、特開2001-316761〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年5月1日の出願であって、平成16年4月22日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月9日に拒絶査定に対する審判請求がされ、同年7月9日付けで手続補正がされたものである。 2.本願発明 本願発明は、平成16年7月9日付けで手続補正がされた明細書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものである。そのうちの請求項2は、請求項1を引用して記載されたものであるところ、請求項1の「Nm3/hr/溶鋼-t」は、「Nm3/hr/溶鋼-t」の明らかな誤記といえるから、請求項2に係る発明は、独立形式で記載すると、次のとおりのものといえる。 「質量%で、C:0.01?0.20%、Mn:0.05?2.0%、S:0.010%以下、Si:2.0%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼に、撹拌ガス流量を0.20Nm3/hr/溶鋼-t以上とした5分間以上のRH処理を実施したのちに、連続鋳造を行い、前記連続鋳造により得られたスラブに熱間圧延を行うに際して、直送圧延または980℃以上のスラブ再加熱を行い、さらに仕上圧延前に980℃以上の温度へ再加熱をすることにより、鋼板表面から板厚方向0.2mmまでの鋼板表層部に存在する、ASTM-E45のA法でD系に分類される介在物を、円相当直径15μm以下で、面積率0.05%以下に規制することを特徴とする、微小張り出し性に優れた薄鋼板の製造方法。」(以下、「本願発明2」という。) 3.原査定の理由の概要 原査定の理由の概要は、次のとおりのものである。 本願の請求項1?9に係る発明は、その出願前頒布された下記刊行物1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物1:特開平8-291318号公報 刊行物2:特開平8-176661号公報 刊行物3:特開平10-280050号公報 刊行物4:特開平7-238344号公報 4.引用刊行物とその記載事項 原査定の理由で引用された刊行物1(特開平8-291318号公報)には、次の事項が記載されている。 (a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】転炉出鋼時に、CaF2をベースとし、Al2O3 、CaO 、SiO2のうちの少なくとも1種を含む低融点フラックスと、AlとCaCO3 をベースとするスラグ改質材を溶湯中に投入し、続いて真空脱ガス装置にて溶鋼を環流することにより、化学組成が C:0.03?0.20wt%、Si:2.0wt%以下、 Mn:0.3 ?2.0wt%、S:0.002wt%以下、 残部Feおよび不可避的不純物からなる溶鋼を溶製する工程と、 得られた溶鋼を連続鋳造によりスラブとする工程と、 前記スラブを仕上温度:800?950℃、巻取温度:400?550℃の条件で熱間圧延する工程と、を包含することを特徴とする、孔拡げ性と耐微小張出し割れ性に優れる熱延鋼板の製造方法。 【請求項2】前記溶製した鋼が、Cr:1.0wt%以下、Ti:0.1wt%以下、Nb:0.1wt%以下の1種または2種以上の元素をさらに含有することを特徴とする、請求項1記載の熱延鋼板の製造方法。 【請求項3】前記溶製した鋼が、P:0.1wt%以下、Cu:0.5wt%以下、Ni:0.5wt%以下の1種または2種以上の元素をさらに含有することを特徴とする、請求項1または2記載の熱延鋼板の製造方法。」 (b)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、ホィールディスク、自動車足廻り部品をはじめとする、苛酷な孔拡げ成形または伸びフランジ成形と張出し成形とを受ける部材用に適した、優れた加工性、特に孔拡げ性および耐微小張出し割れ性を示す、高強度熱延鋼板の製造方法に関する。」 (c)「【0006】このように、従来技術では孔拡げ性の改善に重点を置いていたため、組織の均質化を図るだけで、介在物についてはあまり考慮されていなかった。即ち、ASTM-A法におけるA系介在物(硫化物系延伸型介在物)の低減を図っただけで、B系介在物(群落介在物)、C系介在物(角状介在物)、D系介在物(球状介在物)の低減対策はなされていない。そのため、異質な介在物が起点となる成形割れまたは疲労亀裂発生の可能性はますます高くなっており、特に微小張出し割れ(ポッチ割れ)がそれらの起因となることから、耐微小張出し割れ性の改善が急務となっている。一方、介在物対策の技術としても次のような技術がすでに提案されている。」 (d)「【0010】 【発明が解決しようとする課題】この観点に立って、本発明者らは、特願平7-8172号に示すように転炉出鋼時にCaO をベースとした低融点フラックスと、AlとCaCO3をベースとする自己分解性フラックスを投入し、かつ取鍋精錬時に不活性ガスを吹込むことによる脱硫および介在物低減方法を見い出した。 【0011】しかし、その後の研究により同方法においては、スラグ粘性が高いため、鋳込み時に鋼中へのスラグ巻込みが発生しやすく、その結果、耐微小張出し割れ性に関しては、ばらつきが生じやすいことが判明した。ここに、本発明の目的は、上記先行発明における問題の解決、特に効果のばらつきを解消する方法を提供することである。」 (e)「【0021】ここで、高塩基度媒溶剤は、例えば、CaO+SiO2+CaF2の混合物あるいはCaO+SiO2+MgOを示し、塩基度=CaO/SiO2:8?40が望ましい。また、真空脱ガス装置での環流時間は、溶鋼180ton/分の環流量で2?20分間が好ましい。耐微小張出し割れ性および経済性からはその処理時間は5?15分間が更に好ましい。」 (f)「【0039】 【実施例】本発明例では、250ton転炉の出鋼時に、表1に示す改質フラックスとスラグ改質材とを溶鋼に投入し、次いでRH真空脱ガス装置にて、溶鋼180ton/分の環流量で10分間環流し、次いで、連続鋳造にて表1に示す組成のスラブを得た。 【0040】表1の比較例であるRun No.16(鋼種B1)では、250ton転炉の出鋼後に、取鍋溶鋼中に改質フラックス(CaF2:0.5ton、Al2O3:0.5ton)を投入し、直ちにスラグ改質材(Al:50%+Al2O3:50%)を500kg投入した。その後RH真空脱ガス装置を通らずに酸素ガスをインジェクションにより10分間 2.5Nm3/minだけ吹き込み、さらにインジェクションから脱硫剤(CaO パウダー)を750kg吹き込んだ後、溶鋼を連続鋳造してスラブを得た。 【0041】同じくRun No.17(鋼種B2)、No.18(鋼種B3)では、表1に示すような改質フラックスとスラグ改質剤とを投入し、その後本発明と同様な製鋼プロセスでスラブを得た。 【0042】このようにして各製鋼、連続鋳造工程にて製造したスラブを加熱温度1270℃まで加熱し、表2に示す各仕上温度、巻取温度の熱間圧延条件で、板厚2.6mmまで熱間圧延を行った。そして各コイルは酸洗後、切板ラインで切板とした。 【0043】引張試験はJIS 5号試験片を用いた。 【0044】孔拡げ試験は供試鋼板に直径12mmの穴を打抜いた後、60°円錐ポンチで孔を押し拡げ、クラックが板厚を貫通した時点で止め、打抜孔(直径12mm)との変化率で孔拡げ性を表した。B系およびD系介在物量は、ASTM-A法により測定し、ASTM法の規定によりHeavy,Thinの各シリーズにおいて3.0ランク以下の介在物個数の総和で表した。 【0045】微小張出し割れ試験は、10R球頭ポンチによる張出し成形を行い、変形部の凹部の個数を測定し、試験片100個中の凹部個数の総和が2以下の場合を耐微小張出し割れ性が良とし、3以上の場合を不良とした。 【0046】これらの試験結果は表2にまとめて示す。本発明により、Run No.1?13に示すように、引張強さ440N/mm2以上を有し、孔拡げ性、耐微小張出し割れ性に優れた熱延鋼板が得られる。 【0047】表2の比較例であるRun No.16(鋼種B1)では、孔拡げ性は本発明鋼と同等であるが、CaO のインジェクション処理を行ったため、B系、D系介在物の増加が見られ、耐微小張り出し割れ性が劣化した。 【0048】Run No.17(鋼種B2)では本発明鋼と異なるスラグ改質剤を用いたため、十分な脱硫能が得られず、孔拡げ性が損なわれた。Run No.18(鋼種B3)では本発明鋼と異なる改質フラックスを用いたため脱硫能の低下とともに、介在物の巻き込みも増加した。その結果、孔拡げ性は若干低下し、B系、D系介在物が増加し、耐微小張り出し割れ性は劣化した。 【0049】Run No.19?21は、熱延条件が外れたため、孔拡げ性、伸び、または耐微小張出し割れ性が低下した。Run No.22は、C量が過多のため孔拡げ性(および伸び)が低下した。」 (g)【表2】の「介在物」の「D系」の欄の、「Run.No.」1?3,5,6,8には、「0」と示されている。 5.当審の判断 (1)引用発明 刊行物1の上記(a)には、「真空脱ガス装置にて溶鋼を環流することにより、化学組成が C:0.03?0.20wt%、Si:2.0wt%以下、Mn:0.3 ?2.0wt%、S:0.002wt%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶鋼を溶製する工程と、 得られた溶鋼を連続鋳造によりスラブとする工程と、 前記スラブを仕上温度:800?950℃、巻取温度:400?550℃の条件で熱間圧延する工程と、を包含することを特徴とする、孔拡げ性と耐微小張出し割れ性に優れる熱延鋼板の製造方法。」が記載されている。ここで、「真空脱ガス装置」は、(f)の「RH真空脱ガス装置にて、溶鋼180ton/分の環流量で10分間環流」という記載によれば、「RH真空脱ガス装置」といえるから、「真空脱ガス装置にて溶鋼を環流」は、「RH処理」ということができる。そして、この「RH処理」は、(e)の「真空脱ガス装置での環流時間は、溶鋼180ton/分の環流量で2?20分間が好ましい。」という記載によれば、「2?20分間」実施するものといえる。また、「熱間圧延する工程」のスラブの再加熱温度は、(f)の「このようにして各製鋼、連続鋳造工程にて製造したスラブを加熱温度1270℃まで加熱し、表2に示す各仕上温度、巻取温度の熱間圧延条件で、板厚2.6 mmまで熱間圧延を行った。」という記載によれば、「1270℃」といえる。そして、「熱延鋼板」は、(f)の「表2に示す各仕上温度、巻取温度の熱間圧延条件で、板厚2.6mmまで熱間圧延を行った。そして各コイルは酸洗後、切板ラインで切板とした。」という記載によれば、「薄鋼板」といえる。また、「耐微小張出し割れ性」は、「微小張り出し性」といえる。さらに、「wt%」及び「不可避的不純物」は、それぞれ「質量%」及び「不純物」ということができる。 以上の記載を本願発明2の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次のとおりの発明(以下、「引用発明」という)が記載されているといえる。 「質量%で、C:0.03?0.20%、Mn:0.3?2.0%、S:0.002%以下、Si:2.0%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼に、2?20分間のRH処理を実施したのちに、連続鋳造を行い、前記連続鋳造により得られたスラブに熱間圧延を行うに際して、1270℃のスラブ再加熱を行う微小張り出し性に優れた薄鋼板の製造方法。」 (2)本願発明2と引用発明との対比 そこで、本願発明2と引用発明とを対比すると、両者は、 「質量%で、C:0.03?0.20%、Mn:0.3?2.0%、S:0.002%以下、Si:2.0%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる溶鋼に、5?20分間のRH処理を実施したのちに、連続鋳造を行い、前記連続鋳造により得られたスラブに熱間圧延を行うに際して、1270℃のスラブ再加熱を行う微小張り出し性に優れた薄鋼板の製造方法。」という点で一致し、次の点で相違しているといえる。 相違点: 相違点(イ) 本願発明2は、撹拌ガス流量が「0.20Nm3/hr/溶鋼-t以上」であるのに対し、引用発明は、撹拌ガス流量が不明である点 相違点(ロ) 本願発明2は、「仕上圧延前に980℃以上の温度へ再加熱」をするのに対し、引用発明は、仕上圧延前に再加熱をしていない点 相違点(ハ) 本願発明2は、「鋼板表面から板厚方向0.2mmまでの鋼板表層部に存在する、ASTM-E45のA法でD系に分類される介在物を、円相当直径15μmで、面積率0.05%以下に規制」するのに対し、引用発明は、このように規制するか否か不明である点 (3)相違点についての判断 次に、これらの相違点について検討する。 (3-1)相違点(イ)について RH処理における撹拌ガス流量として、「0.20Nm3/hr/溶鋼-t以上」の範囲は、特開平8-283826号公報、特開平4-168214号公報、特開昭61-295314号公報、特開昭58-73716号公報に示されているように、通常用いられている範囲といえるから、引用発明において、撹拌ガス量として通常の範囲である「0.20Nm3/hr/溶鋼-t以上」を用いることは、当業者が容易に想到することといえる。 (3-2)相違点(ロ)について 鋼板の熱間圧延において、鋼板を所望の仕上温度以上に仕上圧延温度を保ち、その長さ方向にわたり温度を均一化することにより均質な材質の熱延鋼板を製造するために、粗圧延した鋼板を仕上圧延前に再加熱することは、特開平9-225505号公報、特開平10-128424号公報、特開2000-104121号公報等に示されているように周知の事項といえる。 一方、仕上圧延の入口と出口の間で材料温度が150?200℃程度の大幅な温度低下が生ずることも、日本鉄鋼協会編「鉄鋼製造法(第3分冊)」丸善株式会社、昭和52年4月20日第2刷発行、第608頁の図10・63「ホットストリップ各部の材料温度」や同協会編「第3版鉄鋼便覧 第III巻(1)圧延基礎・鋼板」丸善株式会社、昭和56年12月20日第3冊発行、第369頁の図7・41「サーマルランダウンの一例」に示されているように技術常識である。 してみると、引用発明において、所望の仕上圧延温度である800?950℃を保持するとともに、鋼板内の温度の均一化を図り均質な材質の鋼板を得るために、鋼板を仕上圧延前に再加熱することを想到し、その際に、上記仕上圧延による材料温度の低下を考慮して、仕上げ温度を確実に確保できるように適切な再加熱温度を検討して、980℃以上に規定する程度のことは、上記周知の事項及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得たことといえる。 (3-3)相違点(ハ)について 引用発明は、刊行物1の段落【0006】?【0009】に「D系介在物(球状介在物)の低減対策はなされていない。・・・B系介在物は減少するものの、D系介在物は依然削減できない。・・・介在物量の削減という根本的な解決を図っていない。そのため、耐微小張出し割れ性を改善することはできない。従って、孔拡げ性と耐微小張出し割れ性を同時に改善するには、介在物量そのものを削減するように、製鋼段階からの総合的な見直しを含む新たな熱延鋼板の製造方法を確立することが求められている。」と記載されているように、耐張り出し性を改善するために、D系介在物を削減するものといえる。そして、具体的に引用発明の実施例について記載された刊行物1の表2において、ASTM-A法により測定したB系及びD系の3.0 ランク以下の介在物個数の総和が「0」であるものが、耐微小張出し割れ性が「良」と示されている。そうすると、引用発明も、本願発明2と同様に、D系介在物を削減することにより耐張り出し性を改善したものといえる。そして、引用発明は、D系介在物の削減目標の指標として、刊行物1の段落【0044】に「B系およびD系介在物量は、ASTM-A法により測定し、ASTM法の規定によりHeavy,Thinの各シリーズにおいて3.0 ランク以下の介在物個数の総和で表した。」と記載されているように、3.0ランク以下の介在物個数の総和を用いたものであるのに対して、本願発明2では、「鋼板表面から板厚方向0.2mmまでの鋼板表層部に存在する、ASTM-E45のA法でD系に分類される介在物」の「円相当直径」及び「面積率」を用いたものといえる。そして、D系介在物の削減目標という観点からみると、介在物個数の総和が「0」ということは、介在物の個数を可及的に削減することを意味するものといえる。このことは、介在物の「円相当直径」及び「面積率」という指標についても、可及的に小さくすることと関連するものといえるから、これら2つの指標を用いて、それらの許容上限値を限定する程度のことは、当業者が容易に想到することといえる。 (4)小括 したがって、上記相違点(イ)?(ハ)は、上述したように当業者が容易に想到することといえるから、本願発明2は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。 6.結び 以上のとおり、本願発明2は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-12-19 |
結審通知日 | 2007-01-09 |
審決日 | 2007-01-22 |
出願番号 | 特願2000-132615(P2000-132615) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C22C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小川 武 |
特許庁審判長 |
長者 義久 |
特許庁審判官 |
井上 猛 平塚 義三 |
発明の名称 | 微小張り出し性に優れた薄鋼板 |
代理人 | 広瀬 章一 |