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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C22C
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 C22C
管理番号 1154304
審判番号 不服2005-17809  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-09-15 
確定日 2007-03-15 
事件の表示 平成6年特許願第90057号「耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜」拒絶査定不服審判事件〔平成7年11月14日出願公開、特開平7-300649〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成6年4月27日の出願であって、平成17年8月1日付けで拒絶査定され、これに対して、同年9月15日に拒絶査定に対する審判の請求がなされ、同年10月17日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成17年10月17日付け手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成17年10月17日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
本件手続補正は、特許請求の範囲を次の(1-1)から(1-2)のとおりに補正するものである。

(1-1)
「【請求項1】 周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素と、
Siと、
N,C及びBよりなる群から選ばれる1種以上の元素よりなる複合化合物、または該複合化合物の混合物から構成されたものであることを特徴とする耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜。
【請求項2】 周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素とSiの合計原子量に対するSiの原子比率が、0.01%以上70%以下である請求項1に記載の硬質皮膜。
【請求項3】 請求項1または2記載の硬質皮膜を、部材表面に被覆してなることを特徴とする耐摩耗性および耐酸化性に優れた高硬度部材。」

(1-2)
「【請求項1】 周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素と、
Siと、
N,C及びBよりなる群から選ばれる1種以上の元素よりなる複合化合物(TiおよびSiの複合窒化物、複合炭化物および複合炭窒化物を除く)、または該複合化合物の混合物から構成されたものであることを特徴とする耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜。
【請求項2】 周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素と、
Siと、
N,C及びBよりなる群から選ばれる1種以上の元素よりなる複合化合物、または該複合化合物の混合物から、カソードアーク方式イオンプレーティング法により構成されたものであることを特徴とする耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜。
【請求項3】 周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素とSiの合計原子量に対するSiの原子比率が、0.01%以上70%以下である請求項1または2に記載の硬質皮膜。」

2.補正の適否の判断
本件補正後の特許請求の範囲は、上記(1-2)のとおりであるところ、上記補正の内容は、一つの請求項である補正前の請求項1に対して「(TiおよびSiの複合窒化物、複合炭化物および複合炭窒化物を除く)」という事項を付加することにより補正後の請求項1とするとともに、別途、補正前の請求項1に対して「カソードアーク方式イオンプレーティング法により」という事項を付加することにより補正後の請求項2とする補正を含むものであるが、このような補正は、一つの請求項を二つの請求項にすることによって請求項数を増加するものであるうえに、補正前の請求項1に記載されていない皮膜の製造方法に関する「カソードアーク方式イオンプレーティング法により」という事項を新たに追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一のもの)、いわゆる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当しないし、また、誤記の訂正又は明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当しないことも明かである。

3.むすび
したがって、本件手続補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項の規定によって読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願についての審決
1.本願発明
平成17年10月17日付けの手続補正は 上記のとおり却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付された明細書の特許請求の範囲の請求項1?3に記載されたとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりものである。

「周期律表4A,5A,6A族元素よりなる群から選ばれる1種以上の金属元素と、
Siと、
N,C及びBよりなる群から選ばれる1種以上の元素よりなる複合化合物、または該複合化合物の混合物から構成されたものであることを特徴とする耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜。」(以下、「本願発明1」という。)

2.原査定の理由の概要
原審の拒絶査定の理由の概要は、本願の請求項1?3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記刊行物1、2に記載された発明であるか、あるいは上記引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

刊行物1:特開平5-92304号公報
刊行物2:特開昭58-136765号公報

3.引用例の記載事項
原審の拒絶査定の理由に引用された刊行物1(以下、「引用例1」という。)には次の事項が記載されている。

引用例1:特開平5-92304号公報
(1a)「【請求項1】 高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックのいずれかを母材質とし、次の(a)乃至(d)の条件を満足させたことを特徴とする金属材料等の加工用の複層コーティング工具。
(a)表面被覆膜が原子パーセントでTiを60?100%含み、Ti以外の金属以外の膜構成金属がZr,Hf,Nb,Ta,B,Al,Siの1種又は2種以上の成分であり、600℃以下の温度にて炭素、窒素、酸素のうちのいずれか1種または2種以上の化合物の反応ガス成分中で物理蒸着法により母材表面に複層コーティングする。
(b)コーティング膜の最上層の表面から0.2?2.0μmの範囲の膜の成分がTixNy(0.2<y/x<0.7)、またはTi以外の成分MがZr,Al,Siであり、TiuMvNw(但し、0.4<w/u+v<1.0)である。
(c)前記コーティング膜のうち、切削に関与する部分のマイクロヴィッカース硬さ(50g)の測定結果がHv1300?3300であり、膜厚が2.5?8μmの範囲にあり、かつRa5μm以下の面粗さである。
(d)前記コーティング膜の通常のロックウェル(C)スケール)硬度計を用いて押圧した場合に生ずる圧痕を100倍の倍率で観察した結果、圧痕の周囲1mm以上(外側)の範囲で剥離が認められない。」(特許請求の範囲)
(1b)「この発明は、複層コーティングを施した金属材料等の加工用の切削工具に関する。」(【0001】)
(1c)「さらに、(b)コーティング膜の最上層の表面から0.2?2.0μmの範囲の膜の成分がTix Ny (0.2<y/x<0.7)、またはTi以外の成分MがZr,Al,Siであり、Tiu Mv Nw (但し、0.4<w/u+v<1.0)とした。即ち、本発明においてはコーティング膜として用いられるTi系セラミックスを積層または多層に形成した。コーティング膜の最上層の膜は0.2μm以下では潤滑性や切り粉離れを良好にする層が薄すぎて効果が期待できず、また2.0μm以上であれば、逆に下層の耐摩耗性の効果がうすくなるので、これを0.2?2.0μmに限定した。」(【0006】)
(1d)「【作用】TixNyを上層に被覆すると切削時に積極的に酸化を促進して、TiOk(k≦2)を形成し、コーティング工具から切り粉離れを良くする働きが生ずる。
あるいはTiAlN及びTiZrN等の表面被覆膜はは内在するAl,Zrの窒化物が積極的に酸化し膜内の応力増加により耐摩耗性を増加せしめると同時に、表層から脱落していくため同様の効果を奏する。実際の穴明け加工や平面研削あるいは歯切り加工においてこのような実用上の効果を著しく改善せしめた。この発明においては基本的に二つの作用の向上が実現されている。一つは酸化における切削時の潤滑作用の向上であり、二つ目の作用は酸化した表層膜による下層の膜に対する、或いは下層となるコーティング工具に対する酸化保護作用である。これらは特に過酷な切削においては期待されるコーティング工具の寿命に著しい改良をそうする結果を生む。」(段落【0009】)
(1e)「(実施例3)高速度鋼及び超硬合金製のφ6のドリルにイオンプレーティング法を用い、実施例1、2と同様の条件において硬質物質を複層コーティングし、母材質を適性条件下で加速試験を行った。その結果は表1A、表1Bに示す通りである。なお、1)?9)は高速度鋼、10)?11)は超硬合金であり、最上層の被覆膜をAES分析にてその成分比を調査した。二成分系金属の金属比率はTiAlについてはほぼ1:1、TiZr,TiSi,TiBについてはほぼ7:3であった。」(段落【0015】)
(1f)「【発明の効果】この発明は、母材である高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックなどにTixNy或いは特別に選定されたTiuMvNwを最外層に配置したので、最上層の被膜は充分な耐摩耗性を有すると同時に、その金属成分或いは窒化物が下層の被覆層の酸化速度よりも充分速く酸化が促進され、同時に切削時に極めて緩やかにこれら表層が脱落する。このため潤滑性能が高められ、同時に下層の酸化を抑制する酸化保護作用が発揮される。このため本発明によればコーティング工具の切削抵抗が従来品に比して約20%も減少されることになり、耐摩耗性が著しく向上した。」(段落【0021】)
(1g)表1Bには、No.14として、超硬合金の母材に、TiCN(0.5μm)+TiZrN(1.7μm)の下層とTiSiN0.6(0.3μm)の最上層からなる被覆膜を形成したものが記載されている。

4.本願発明についての当審の判断
(1)引用発明
引用例1の (1a)には、高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックのいずれかを母材質とした金属材料等の加工用の複層コーティング工具において、該コーティング膜の最上層の表面から0.2?2.0μmの範囲の膜の成分が、TiuMvNw(但し、0.4<w/u+v<1.0)であって、Ti以外の成分MがZr,Al,Siであることが記載されており、そして、(1g)には、具体的な発明例において、超硬合金の母材に形成する最上層の被膜として、化学組成がTiSiN0.6からなる被膜が記載されている。
また、(1f)には、母材である高速度鋼、超硬合金、サーメット、セラミックなどに特別に選定されたTiuMvNwを最外層に配置したので、最上層の被膜は充分な耐摩耗性を有することが記載されている。
してみると、引用例1には、コーティング膜の最上層に形成される被膜として、「TiSiN0.6から構成されたものである耐摩耗性に優れた被膜」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本願発明1と引用発明との対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の被膜の成分であるTiは、本願発明1の周期律表4A族の金属元素の一つであり、引用発明の被膜は、本願発明1の皮膜に相当することは明かであるし、また、引用発明の被膜であるTiSiN0.6は複合化合物であるといえる。
そして、引用例1に、「(実施例3)高速度鋼及び超硬合金製のφ6のドリルに・・・硬質物質を複層コーティング」(【0015】参照)すると記載され、引用発明の被膜を含む複層コーティングが硬質であることが明示されていることから、引用発明の被膜は硬質皮膜ということができる。
そうすると、両者は、「周期律表4A族元素よりなる金属元素と、Siと、Nよりなる複合化合物から構成されたものである耐摩耗性に優れた硬質皮膜」である点で一致し、一方、本願発明1では、硬質皮膜が耐酸化性に優れるのに対して、引用発明では、硬質皮膜が耐酸化性に優れるか否か不明である点で、両者に一応の相違がみられる。

(3)相違点についての判断
前記したとおり、本願発明1と引用発明の皮膜は、同じ複合化合物から構成されるものである。ところで、本願明細書によれば、本願発明1は、皮膜の製造方法を特に限定するものではなく、たとえばイオンプレーティング法によって行うことができるもの(本願明細書【0012】参照)であり、また、母材の表面に形成するときの皮膜の膜厚は限定するものではないが、0.1μm以上が好ましい(同【0013】参照)のに対して、引用発明も、皮膜の製造方法はイオンプレーティング法を用いるものであり(引用例【0010】参照)、また、(1c)によれば、膜厚は、0.2?2μmが適するのである。
そうすると、両者は、それを構成する複合化合物が一致するばかりでなく、製造方法や形成される皮膜の厚さにおいても一致し、しかも皮膜の有する性質の一つである耐摩耗性に優れる点でも共通するものであるから、両者は同等のものであり、したがって、他の性質も同等であると解するのが相当である。
したがって、引用発明の皮膜も、本願発明1と同等の優れた耐酸化性の性質を有しているといえる。
すると、両者の一応の相違は、実質的な相違ではない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明1は引用発明と同一の発明である。

5.むすび
したがって、本願発明1は、特許法第29条第1項第3項に該当し特許を受けることができないから、その余の発明について検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-12 
結審通知日 2007-01-16 
審決日 2007-01-29 
出願番号 特願平6-90057
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C22C)
P 1 8・ 572- Z (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 長者 義久
特許庁審判官 平塚 義三
柳 和子
発明の名称 耐摩耗性および耐酸化性に優れた硬質皮膜  
代理人 菅河 忠志  
代理人 二口 治  
代理人 伊藤 浩彰  
代理人 植木 久一  

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