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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効200235248 審決 特許
無効200480147 審決 特許
無効200480273 審決 特許
無効200480272 審決 特許
無効200580100 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B01D
管理番号 1154350
審判番号 無効2005-80231  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-07-26 
確定日 2007-03-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第3586741号発明「混練脱泡方法及び混練脱泡装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3586741号の請求項1?5に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3586741号の請求項1?5に係る発明は、平成9年10月1日に特許出願され、平成16年8月20日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対し、倉敷紡績株式会社から平成17年7月26日付けで請求項1?5に係る発明の特許について無効審判の請求がなされたところ、その後の手続の経緯は、以下のとおりである。
答弁書: 平成17年11月 1日
口頭審理陳述要領書(請求人): 平成18年 2月24日
口頭審理陳述要領書(被請求人): 平成18年 2月24日
口頭審理: 平成18年 2月24日
上申書1(被請求人): 平成18年 2月24日
上申書 (請求人): 平成18年 3月17日
上申書2(被請求人): 平成18年 4月 7日

II.本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1?請求項5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、その明細書の記載からみて、特許請求の範囲に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】被混練材を収容した混練容器を公転させながら自転させ、被混練材を混練する混練工程中の少なくとも一部において、前記混練容器内に0.5?50torrの真空圧をかけることを特徴とする混練脱泡方法。
【請求項2】混練容器を公転させながら自転させる混練工程の前段を大気圧下で行い、後段を真空圧下で行うことを特徴とする請求項1記載の混練脱泡方法。
【請求項3】混練容器内を真空圧下に曝す時間は0.5?20分間であることを特徴とする請求項1もしくは請求項2記載の混練脱泡方法。
【請求項4】一端が開口した容器本体(筐体本体)と、前記容器本体の開口部を気密に密閉する着脱自在型の容器蓋体(封装体)と、前記容器本体内に振動吸収体を介して装着配置された支持板と、前記支持板に支持された公転用駆動モータと、前記公転用駆動モータの回転を伝動する鉛直方向へ延びる回転軸に略水平に装着された公転体と、前記公転体の遠心側(外周縁側)に配置され、蓋付き混練容器を支持して前記回転軸の軸線に対して傾斜した軸線で回転する容器ホルダーと、前記容器本体及び容器蓋体の少なくともいずれか一方に設けられた真空引き孔を介して気密化 された容器(筐体)内を0.5?50torrに真空化する真空ポンプと、前記容器ホルダーに支持される蓋付き混練容器の蓋に設けられた混練容器内と連接する排気孔とを有することを特徴とする混練脱泡装置。
【請求項5】容器本体が冷却機構を 具備していることを特徴とする請求項4記載の混練脱泡装置。

III.請求人の主張と証拠方法
1.請求人の主張
請求人は、本件発明1?5についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、証拠方法として無効審判請求、口頭審理(口頭陳述要領書を含む)及びその後の上申書において、下記2.の証拠を提出して、次のとおり無効理由を主張している。
(A)本件発明1?3は、その出願前に頒布された刊行物である甲第3号証?甲第6号証、甲第9号証及び甲第10号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
(B)本件発明4、5は、その出願前に頒布された刊行物である甲第8号証及び甲第5号証?甲第6号証、甲第9号証並びに甲第11号証?甲第12号証に開示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

2.証拠の記載事項
無効審判請求書で甲第1?14号証が、口頭審理陳述要領書で甲第15?17号証が、その後の上申書で甲第18?22号証が提示されており、それぞれ次の事項が記載されている。なお、甲第1号証及び甲第2号証は、本件特許登録原簿謄本及び本件特許公報である。
(甲3)甲第3号証:特開平6-71110号公報
(ア)「被処理物の所要量を収容した容器を公転させながら自転させることにより、その遠心力作用を利用して、該被処理物中の比重の重い液体を外側へ移動させると共に、該外側への液体移動に伴って該液体中に混入する気泡をその反対方向に押し出して液体と気泡とを分離する脱泡作用を行うことを特徴とする液体の脱泡方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「【産業上の利用分野】この発明は、・・・高粘度の液体の中に混入している気泡を除去するための液体の攪拌・脱泡方法とその装置の改良に係り、特に、簡単な操作でしかも極めて短時間で液体の攪拌・脱泡を同時に行うことができる・・・【従来の技術】液体及び溶液類の攪拌・脱泡を目的とする従来の装置としては、真空ポンプを配設すると共に、真空層内の液体中に回転翼を機械的に旋回させて、該液体の中で攪拌・脱泡を同時に行うようにした装置や・・・が提供されている。また、粘度10万CP(センチポアズ)以上の高粘度液体の脱泡については、例えば、パイプ状の部材を平面台上においた高粘度液体上を人為的に回転させることにより、該パイプ状部材の周面を利用して該高粘度液体中から気泡を順次に除去すると云った脱泡方法等が知られている。」(段落【0001】?【0002】)
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】上記した真空ポンプを用いる従来方法においては、・・・容器内の隅縁部分等の攪拌作用が不充分であったり、処理作業前に真空層内を予め所定の真空度に設定するまでの前準備に長時間を要し、更に、被処理物、特に高粘度の液体についてはその攪拌・脱泡時間に長時間を要する等の問題が指摘されている。」(段落【0003】)
(エ)「本発明は、低粘度液体のみならず高粘度液体の内部に混入している気泡を、簡単に且つ確実にしかも短時間で脱泡すると共に、該脱泡作用と同時的に該液体の攪拌作用をも行うことができる液体の攪拌・脱泡方法及び装置を提供することを目的とするものである。」(段落【0006】)
(オ)「また、このとき、該容器は、公転作用を受けながら自転作用を受けるため、該容器内の液体にラセン状の流れ(渦流)が発生してその攪拌作用を同時的に行なうことができる。」(段落【0013】)
(カ)「なお、被処理物aの種類や性質が特定されている場合は、上記したマイコン搭載コントロール機能により、該被処理物aに最も効果的な公転及び自転の制御を簡単な操作でしかも自動的に選択・設定することができる。例えば、被処理物aの粘度(CP)・分離性・溶解性、及び、・・・等、種々の公転及び自転の組み合せを予めコントローラ側の記憶素子にプログラムしておくことにより、簡単な操作で目的に沿った作用効果を得ることができる。」(段落【0023】)
(キ)【図1】【図2】には「本発明の概略的な機構部の構成」が図示され、そこには「容器の取付角度を垂線に対し約35度乃至約45度の傾き角度に設定する」(段落【0020】)の構造が窺える。
(甲4)甲第4号証:特開昭62-210009号公報
(ア)「(1)気泡を含有する高粘性液を収容する密閉容器と、該密閉容器を所定の半径で回転させる回転駆動手段と、上記密閉容器内を減圧する減圧手段とを備えたことを特徴とする真空遠心分離脱泡装置。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「本発明は真空遠心分離脱泡装置に係り、特に熱硬化性樹脂等の高粘性液中に含有されている気泡を脱気する装置に関するものである。・・・従来、この脱泡処理として・・・真空容器内で減圧して樹脂中の気泡を膨張させ、樹脂から発泡させることにより除去する方法が採られていた。この場合、単に減圧するだけでは発泡し続けて樹脂が樹脂容器からあふれ出てしまうため、適度に発泡させたところで減圧を一旦停止し、樹脂表面に現れた気泡が減少するのを待ってから再び減圧を始めるという操作を繰り返さなければならなかった。」(第1頁右欄19行?第2頁左上欄17行)
(ウ)「まず、高粘性液12として気泡を含有する熱硬化性樹脂を高粘性液用容器13内に収容した後、これを密閉筐体10内に収容する。次に、駆動モータ6を駆動して回転軸4を所定の回転数で回転する。・・・密閉筐体10内の熱硬化性樹脂に作用する遠心加速度の大きさが10G?20Gの範囲内になるように回転軸4の回転数を設定した。この状態で数分間回転軸4を回転し、遠心力による一次的な脱泡処理を行なう。その後、回転軸4を回転させたまま真空ポンプ18を始動してバルブ17を開き密閉筐体10内を圧力5×10-2Torr程度に真空引きする。」(第3頁右上欄11行?同頁左下欄7行)
(エ)第1図には「本発明の一実施例に係る真空遠心分離装置の構成図」が示されている。
(甲5)甲第5号証:特開平5-200203号公報
(ア)「減圧された真空槽内において有底円筒状の容器を回転させ、この状態で前記容器の内壁上部に液状樹脂を供給すると共に該内壁に沿って自然落下した後前記容器内に溜った液状樹脂を撹拌することを特徴とする液状樹脂の脱泡方法。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「【従来の技術】半導体チップ等の電子部品を汚染や破損から保護するために液状樹脂からなる封止材で封止する場合、射出器を用いてエポキシ系等の液状樹脂を半導体チップ等の電子部品に塗布しているが、射出器に液状樹脂を供給する前に、液状樹脂を脱泡する必要がある。・・・この場合、射出器に供給する前の液状樹脂を真空中にて撹拌すると、この液状樹脂の脱泡が促進される。・・・分散状態にすることもできる。」(段落【0002】)
(ウ)「【作用】この発明によれば、有底円筒状の容器を回転させているので、この容器の内壁上部に液状樹脂が供給されると、容器の内壁上部の全周に供給されることとなり、次いで容器の内壁に沿って自然落下することにより、容器の内壁全体に拡散され、この後容器内に溜ることになる。そして、容器の内壁全体に拡散された液状樹脂の表面および容器内に溜った液状樹脂の表面に気泡が発生すると、この発生した気泡が真空槽内との圧力差により弾けることにより、液状樹脂が脱泡されることになる。また、容器内に溜った液状樹脂は撹拌されるので、液状樹脂中の再度の脱泡が促進されることになる。このように、・・・脱泡しているので、装置を大型化することなく、液状樹脂の真空雰囲気と面する部分の表面積を大きくすることができる。」(段落【0008】)
(エ)「さて、この脱泡装置で液状樹脂2の脱泡を行う場合には、・・・真空槽1内を大気圧の状態とし、・・・空の有底円筒状の容器3を収納部材4内の回転テーブル31上に収納する。次に、蓋5を収納部材4の上部に取り付け、固定手段7で固定する。・・・真空ポンプ14によって真空槽1内が減圧される。・・・真空槽1内が所定の真空度(例えば1?10Torr)に達したら、モータ8を駆動させると共に、第4のバルブ35を所定量だけ開ける。モータ8が駆動すると、・・・容器3が回転する。また・・・液状樹脂2がチューブ34および液状樹脂供給パイプ33を介して真空槽1内の空の容器3の内壁上部に所定量ずつ供給される。このとき、回転テーブル31と共に容器3が回転しているので、液状樹脂供給パイプ33から供給される液状樹脂2は容器3の内壁上部の全周に供給され、次いで容器3の内壁に沿って自然落下することにより、容器3の内壁全体に拡散され、この後容器3内に溜ることになる。そして、容器3の内壁全体に拡散された液状樹脂2の表面および容器3内に溜った液状樹脂2の表面に気泡が発生すると、この発生した気泡が真空槽1内との圧力差により弾け、その後気泡内部に存在していた気体が真空ポンプ14によって排気されることにより、液状樹脂2が脱泡される。また、容器3内に溜った液状樹脂2は、回転テーブル31と共に容器3が回転していることにより、撹拌羽根10により相対的に撹拌され、液状樹脂2中の再度の脱泡が促進される。・・・液状樹脂2が塗布される。」(段落【0011】?【0012】)
(オ)【図1】には「この発明の一実施例における液状樹脂の脱泡装置の概略断面図」が図示されている。
(甲6)甲第6号証:特表平5-503031号公報
(ア)「水性組成物中に固体チャンクの形態で存在する種々の成分の混合物を脱ガスする方法であって、溶融前に、該混合物に混合物の温度に相当する水蒸気圧に近い圧力を適用することを特徴とする前記の脱ガス方法。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「本発明に従えば、二つの運搬手段の間にあり且つ混合物の溶融装置(5)の上流にある真空チャンバー(4)から成る脱ガス装置が提供される。このチャンバーの中で、混合物の温度に相当する水蒸気圧に近い圧力が該混合物に加えられ、該チャンバーは、供給原料の貯蔵タンクから出て該第一の運搬手段(2)によって運搬される該混合物が該真空チャンバー(4)の中に供給される入り口開口部と、該混合物が該チャンバーから取り出されて該第二の運搬手段(3)によって溶融装置(5)に向かって運搬される為の出口開口部から成る。真空チャンバー内の絶対圧は、1000?2000Paの範囲、好ましくは、1000?1500Paの範囲にある。・・・チャンバー(4)は回転ブレードを備えた撹拌装置(11)を含む。」(第3頁左上欄10?20行)
(甲7)甲第7号証:特開平8-243371号公報
(ア)「回転軸を中空軸としたモータの中空軸に水平にカップ取付用アームを取付け、該アームに回転可能に脱泡撹拌又は遠心分離すべき溶液等の試料を収容するカップを装着し、前記中空軸の内部に固定軸をその先端部を突出させて収装すると共に該先端部にクラッチを介在させて截頭円錐形状等のローラを前記クラッチの切換により固定または回転自在に取付けてなり、前記ローラを固定状態にし前記カップを該ローラに接触させてモータを回転させれば、前記カップは・・・公転のみで自転しないようにしたことを特徴とする脱泡攪拌機」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「図中、16は下部基台、17は上部基台、18は前記両基台の間に介在させた防振ゴム製の支柱、19はモータ用ベアリング、20はカップ用ベアリングである。」(段落【0016】)
(ウ)【図1】には上記(イ)の構成が図示され、そこには「傾斜させたカップが軸支された」構造が窺える。
(甲8)甲第8号証:特開平9-29086号公報
(ア)「上下方向に延びる公転軸を介してベース体に回転可能に取り付けられた回転体と、該回転体に対し公転軸と直交する軸線と平行な揺動軸を介して揺動可能に取り付けられた揺動支持体と、該揺動支持体に対し揺動軸と直交し且つ略上下方向に延びる自転軸を介して回転可能に取り付けられ、流動性を有する材料を収容した容器を保持する容器ホルダと、公転軸を介して回転体を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共に公転軸の周りに公転させる公転駆動モータと、揺動支持体上に取り付けられ、自転軸を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共にその公転軌道上で自転させる自転駆動モータと、揺動軸を介して揺動支持体を回転体に対し揺動させることにより容器ホルダの自転軸を公転軸と平行な軸線に対し揺動させる揺動機構と、を備えたことを特徴とする混練装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(イ)「【発明の属する技術分野】本発明は、例えば半田ペースト、歯科用印象材料、油脂、樹脂、染料、顔料等のような流動性を有する材料の撹拌、混練、脱泡等を行うことができる混練装置に関する。」(段落【0001】)
(ウ)「図1に示すように、ベース体1はその周囲に放射状に配設された複数本の引張ばね7によってケーシング8の内側面に弾性的に支持されており、また、公転駆動モータ5の底部は公転軸3及びモータ軸6の軸線の延長線上に配置された弾性部材9を介してケーシング8の内底部に弾性支持されている。弾性部材9としては例えばゴム材、コイルばね等或いは空気減衰型防振ゴム(エアダンパー)を用いることができる。」(段落【0021】)
(エ)「図1及び図2に示すように・・・容器17は容器ホルダ18に着脱自在に装着されており、ケーシング8の上蓋8aを開けてケーシング8の上方より出し入れすることができる。」(段落【0023】)
(オ)「このように、容器17は公転軸3の周りに公転しながら自転するので、容器17の内部の被練和材料(図示省略)には公転による遠心力と自転による遠心力とが作用する。・・・公転による遠心力は自転による遠心力よりも大きいので、容器17内の被練和材料は主として容器17の公転による遠心力により容器17の内周壁に押され、この押圧力によって被練和材料に内在する気泡の放出が促進される。また、容器17の公転による遠心力の作用方向に対し自転による遠心力の作用方向が常に各方向に変化するので容器17内の被練和材料の攪拌による混練が促進される。・・・ことができる。」(段落【0029】)
(カ)「しかも、容器ホルダ18を公転駆動モータ5とは独立した自転駆動モータ19により自転駆動することができるので、・・・例えば、容器17の形状或いは容器17内の被練和材料の量や材料の比重、粘度等の特性に応じて容器ホルダ18の公転と自転の速度比を調整することにより、容器17内の材料の攪拌、脱泡等を効果的に行うことができる。・・・こととなる。」(段落【0030】)
(キ)【図1】には上記(ウ)(エ)の構成が記載され、そこには「ケーシング8の上部が開口し、そこに上蓋8aが取り付けられ、容器17にも上蓋17aを備えられていること」が窺える。
(甲9)甲第9号証:特開平9-150009号公報
(ア)「請求項5に係る発明の処理液供給装置では、調圧弁により、脱気用配管の、調圧弁より真空チャンバ側及び真空チャンバ内部の真空圧が所定値に調整されて維持される。ここで、真空チャンバ内部の真空圧が高い程、脱気モジュールの脱気能力は高くなるが、真空圧を高くし過ぎて、液流路を流れる処理液の温度が当該真空圧における沸点を超えることになると、液流路を流れる処理液が沸騰して激しく蒸発し、処理液の濃度や温度等の特性が変化してしまうことになる。また、真空チャンバ内部の真空圧が高過ぎると、・・・正確な制御を行なうことができない場合がある。一方、真空チャンバ内部の真空圧が低いと、脱気モジュールの脱気能力が低くなって、処理液中の気体が十分に除去されないままで処理液が基板の表面に供給されることになり、上述したような現象不良等の問題を生じることとなる。このように、真空チャンバ内部の真空圧には適正値があり、調圧弁により、真空圧を適正値に調整することが可能になる。」(段落【0018】)
(甲10)甲第10号証:「化学便覧基礎編改訂4版」丸善株式会社、平成5年9月30日発行、第II-124?135頁
(ア)「表8・31 有機化合物の蒸気圧(4)」(第126頁)には「アクリジンの20mmHgでの蒸気圧温度は203.5℃」「アセチレンの20mmHgでの蒸気圧温度は-123.7℃」「アントラキノンの20mmHgでの蒸気圧温度が248.3℃」が記載されている。
(イ)「表8・31 有機化合物の蒸気圧(7)」(第129頁)には「酢酸エチルの20mmHgでの蒸気圧温度は-3.89℃、200mmHgでの蒸気圧温度は41.11℃」「トルエンの20mmHgでの蒸気圧温度は-18.38℃、60mmHgでの蒸気圧温度は40.31℃」が記載されている。
(甲11)甲第11号証:特開平1-207121号公報
(ア)「(1)筒状容器と、該筒状容器に収納されたローターと、該筒状容器とローターのいずれか一方又は双方に取り付けられた撹拌翼とを備え、前記筒状容器とローターとを相対的に回転させつつ筒状容器内に供給された複数種類の流動体を撹拌し混合させる撹拌型混合装置において、前記ローターの内部に冷却手段を設けて、該冷却手段により前記筒状容器内の流動体を冷却するようにしたことを特徴とする撹拌型混合装置。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「(3)前記筒状容器の外部を覆うようにして外筒を設け、該筒状容器と外筒との間に冷媒を導通させて、前記冷却手段とともに筒状容器内の流動体を冷却するようにしたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の撹拌型混合装置。」(請求項3)
(甲12)甲第12号証:特開平8-141382号公報
(ア)「混合室に攪拌翼軸を挿入し、該攪拌軸を挿入し、該攪拌軸をシール部を介して前記混合室の片側に設けた軸受部で軸支するようにした混合機において、前記攪拌翼軸を中空構造にし、その中空部に前記混合室と軸受部との領域に渡るように誘導管を挿入すると共に、該誘導管の前記混合室側端部と前記中空部とを連通させ、さらに該中空部と前記軸受部の内部とを互いに連通させ、これら誘導管と攪拌翼軸の中空部と軸受部内部とを気体冷媒が流通する冷却ジャケットに構成した主剤と硬化剤とからなる硬化性ポリマー組成物の混合機。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)
(甲13)甲第13号証:「平成16年5月10日付け意見書」
意見書において、揮散に関し「5×10-2Torr程度と高真空度化する脱泡混練手段は、含有成分(低沸点の溶剤はもとより、200℃を超えるような高沸点の混合添加物質)の揮散が容易に進行して、混練組成物の変性を招来し、所要の流動性の確保が困難となるだけでなく、材料組成物の一部が沸騰を開始するといつまで経っても泡が抜けないといった現象が発生してしまいます。」(第2頁下から6?2行目)と述べられている。
(甲14)甲第14号証:「特許・実用新案審査基準 第II部第2章新規性進歩性」第17頁
「意見書等で主張された効果の参酌」の項で「明細書に・・・明細書又は図面の記載から当業者がその引用発明と比較した有利な効果を推論できるときは、意見書等にいて主張・立証(・・)された効果を参酌する。しかし、明細書に記載されていなく、かつ、明細書又は図面の記載から当業者が推論できない意見書等で主張・立証された効果は参酌すべきでない。(参考:平9(行ケ)198)」と記載されている。
(甲15)甲第15号証:「接着の技術 Vol.19 No.4 2000」日本接着学会、平成12年3月末発行、第34?37頁
(ア)「6.2.2自転・公転回転(惑星運動) 被物質は容器側面方向に強く押し付けられ、自転加速度が加算されると傾斜された容器側面をスパイラルに駆け上がり撹拌される。質量の軽い気泡はこの激しい流体運動に追従出来ず液面から飛び出し脱泡となる。」(第35頁右欄1?6行)
(イ)「図6.3」(第35頁)には「自転・公転回転の動き」が図示され、「中央部の液面が下がり、側面部で上昇する」様子が窺える。
なお、この甲15の文献は、本件発明に係る出願の後に発行されたものである。
(甲16)甲第16号証:実験報告書「自公転型混練脱泡装置における被混練材の流動について」
混練材の流動特性に関する原理説明の真偽を確認することを目的として、紙粘土を公転:1420rpm、自転:142rpmで実験。実験結果として「容器下部にあった赤い紙粘土は、時間の経過とともに容器周辺部より上部にせり上がって来ており、容器中心部の白い紙粘土は徐々に中心部に集まり、最後に上部からは見えなくなっている。これらの結果から、自転公転型混練脱泡装置による容器内の被混練材の流動方向は『容器周辺部で上昇』、『容器中心部で下降』と結論付けることが出来る。」と記載され、写真-3?10でその様子が窺える。
(甲17)甲第17号証:実験報告書「遊星撹拌方式による混練物の流動性について」
遊星攪拌方式による混練物の流動状態を観察することを目的として、カーボポール(増粘剤)(2140cP、気温17.2℃)を試料とし、中に目視観察用ビーズを混入させて、カップ傾角:50度、回転数:100RPMで実験。実験結果として「はじめ渦面付近を大きく回っていたが、徐々に容器底の中心部に向かって螺旋状に回転しながら沈んで行くのが観察できた。」と記載され、画像でその様子が窺える。
(甲18)甲第18号証:特開平7-218921号公報
(ア)「図2に示す基板1上に・・シール2を形成する。・・・スペーサー3を散布した。スペーサー3としては粒径6μmのガラスビーズを使用した、・・・基板11表面には噴霧器により液晶12を粒子状にして塗布・・・基板1と液晶塗布直後の基板11を大気中で接合する。接合された基板1と基板11を真空中に放置することにより液晶12の脱泡すると同時に、基板1と基板11を接合した際に液晶内に取り残された気泡を取り除く。その後・・・シール2を硬化させる。」(段落【0020】?【0022】)
(甲19)甲第19号証:特開平4-114766号公報
(ア)「1.真空加熱溶融槽を有する塗布装置により、該溶融槽内のホットメルト接着剤溶融液を、圧力5?500mmHg、液温度100?250℃、液滞留時間20分以上に保持し、連続的または定量間欠的に吐出させて塗布することを特徴とするホットメルト接着剤の塗布方法。」(特許請求の範囲請求項1)
(イ)「メルト供給ノズル(6)の先端部が、・・・溶融ホットメルトが加熱溶融槽内中心部に薄いフィルム状に供給できる構造のものも好ましい。」(第4頁左下欄19行?同頁右下欄4行)
(ウ)「ホットメルト接着剤A?Fを・・・溶解後、・・・溶融槽内を真空度20mmHgとし約20?30分間脱気処理をした。・・・・いずれも吐出メルトも肉眼で全く気泡の混入が見られず、しかも低温凍結破断面の顕微鏡観察によったも微細なミクロ気泡の存在はほとんど発見されなかった。」(第9頁左上欄6?末行)
(甲20)甲第20号証:特開平8-131711号公報
(ア)「本発明は、連続脱泡装置であって、・・・真空容器1内にモータ3で回転する回転筒2を配し、その回転筒2の底に向けて、注入ポンプ4によって注入口8より液状物質を入れ、遠心力により回転筒2の上部から真空容器1の壁面に液状物質を飛ばし、脱泡した液状物質を・・・排出する。・・・液状物質は、まず回転筒2内で遠心力を受けて、比重の軽い大きな泡の部分が中心寄りに集まって分離される。残りは回転筒2内の壁面にへばりつくように這い上がりつつ、やがて回転筒2の縁から薄い膜状や放射線状に飛ばされ、効率よく真空容器1内の減圧にさらされるので、比較的細かい泡まで脱泡される。さらに・・・内壁を伝わり落ちていく過程で脱泡される。」(段落【0004】?【0006】)
(甲21)甲第21号証:残留気泡観察報告書
遊星攪拌方式と真空による混練物中の残留気泡の存在を確認することを目的として、エポキシ828,硬化剤3080を試料とし、公転810rpm自転162rpm・公転810自転405rpm、真空無し・40Torr・10Torr、攪拌時間:180秒で実験。実験結果として「公転810rpm自転162rpm真空無しと、公自転同回転で真空40Torrでは残留気泡にあまり差が見られないが、同真空圧で自転405rpmに変えると飛躍的に脱泡効果(泡径は100?150ミクロン)が向上する」、また「公転810rpm自転162rpmで真空20Torrに真空度が上がると多数の泡が混入するケースも発生する」、「真空度を真空10Torrに上げると気泡が確認できなかった」、また「公転810rpm自転405rpm真空無し工程後真空40Torrにすると大量の泡が残り、その後公転810rpm自転405rpm真空無しで行うとかなりの泡が除去された」旨が記載され、写真でその様子が窺える。
(甲22)甲第22号証:粘土による撹拌状況の追試観察報告書
「被請求人の参考資料8についての追試観察を行う」もので、参考資料8の粘土による攪拌状況の推移について、追試を行い再現を確認することを目的として、青色油粘土、緑色油粘土を試料(緑の油粘土の上に青の油粘土を重ねてセット)とし、公転1340rpm自転442rpmで実験。観察結果として「<30秒後>緑は容器をせり上がり、青は中心を下がろうとするが、下部中央部に緑がドーム状に滞留している。<50秒後>容器中央部と容器壁面近辺では、対流が異なっているように見える。<120秒後>かなり攪拌が進む。」と記載され、写真でその様子が窺える。

IV.被請求人の反論と証拠方法
1.被請求人の反論
被請求人は、請求人の上記主張に対して参考資料1?9を提示して、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書を含む)及び上申書を整理すると、無効理由については、本件発明1?5は、甲第3号証?甲第12号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと反論し、主に次の点を主張している。
(1)自転と公転と真空引きとを組み合わせて混練脱泡を行うことにより、気泡の粒径的には従来技術では不可能であった実用時間内でのサブミクロン?数ミクロンの気泡の除去が可能になり、
(2)また、時間的には従来数十分?数時間かかっていた使用可能な被混練材の混練脱泡が五分以内という短時間で行えるようになった点が本件出願時の当業者の予測範囲を超える。(答弁書第4頁1?8行及び第14頁6?9行、上申書2第3頁8?13行)
(3)本件発明によれば、被混練材の内部から一部の材料が常に循環して上昇し、被混練材の表面の中心部から周壁に向かって「薄い層」になって移動し、このとき真空引きを同時に行っているため、真空圧が表面から所定の距離の内部にまで及び、薄い層に含まれている気泡が引き出されて除去される。つまり、絶えず被混練材の内部の材料を上部表面に移動させ、薄い層にして真空圧に触れさせることにより、微細な気泡まで、短時間で除去できる。このことは粘度に依存しない。(答弁書第11頁1?10行、口頭陳述調書)
(4)本件請求項4?5に係る混練脱泡装置は、公転しながら自転する混練容器の内部を真空引きするための機構を創出する困難性を有する。(答弁書第4頁11?13行)

2.参考資料について
(参1)参考資料1:脱泡性能比較[グラフ1]
参考資料1は、(1)真空静置(粘度:40万cps、真空圧:25Torr)、(2)真空プロペラ撹拌(粘度:40万cps、真空圧10-2Torr)、(3)大気圧自公転撹拌(粘度:1000cps、大気圧:760Torr)、(4)真空自公転撹拌(粘度:1000cps、真空圧:15Torr)、(5)(真空自公転→大気圧)撹拌(粘度:1000cps、真空圧:15Torr→760Torr)による脱泡性能を示したもので、撹拌時間に対する気泡の径の変化が図示される。
(ア)(1)の方法では、8時間静置した後もほとんど気泡が抜けていない。
(イ)(2)の方法は、甲5号証の方法に相当するとして、残留気泡が時間の経過とともにほぼ直線的に減少し、ついには使用可能領域に到達するが、4時間以上の時間を要する。
(ウ)(3)の方法は、甲3,7,8号証の方法に相当するとして、数十ミクロンの気泡が残留し、いくら時間をかけても気泡の径は減少しない。
(エ)(4)の方法は、本件特許発明の真空自公転撹拌の方法で、5分前後で被混練材の残留気泡の径をサブミクロンにすることができる。
(オ)(5)の方法は、(4)の後に(3)を実施したもので、新たに気泡が再混入して数十ミクロンの大きさの気泡が残留する。
(参2)参考資料2:脱泡性能比較[グラフ2]
参考資料1と同様の比較を、全て粘度40万cpsで行ったものである。
(ア)残留気泡の径が1000cpsに比して多少大きくなり、使用可能領域に到達する時間が多少増大する以外は、[グラフ1]の実験結果と変わらない。
(参3)参考資料3:静置脱泡テスト結果
(参1)の(1)の方法の結果を経過時間毎に撮影したものである。
(参4)参考資料4:残留気泡確認テスト結果
TEST(A)は(参1)の(4)の方法、TEST(B)は(3)の方法、TEST(C)は(5)の方法の結果を経過時間毎に撮影したものである。
(ア)8分経過後では、TEST(A)と(C)は透明な状態になるのに対し、(B)は気泡の存在が肉眼で視認される。
(イ)拡大写真でみれば、TEST(A)と(C)は残留気泡が写らないのに対し、(Bでは)残留気泡が写っている。
(ウ)8分経過後継続するとにTEST(C)では、再び気泡の混入が肉眼で視認される。
(参5)参考資料5:大気圧連続攪拌脱泡における残留気泡確認テスト結果
TEST(B)の時間経過毎に被混練材の様子を撮影したものである。
(ア)撹拌時間の経過とともに残留気泡の数は減少するが、残留気泡の径は減少しない。
(参6)参考資料6:サンプリングによる顕微鏡観察結果
種々の粘度(40万、10万、6万、2.5万cps)の被混練材について真空自公転撹拌と大気圧自公撹拌を行った結果を比べたもので、主剤:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、硬化剤:液状アミンを使用し、公転:1500rpm、自転:750rpmで8分間撹拌した結果を拡大して撮影したものである。
(参7)参考資料7:結果報告書
(参6)の6万cpsの被混練材を外部機関三井化学分析センターに依頼して、拡大観察したものである。
(ア)「真空撹拌脱泡材料の切断面SEM察結果」に示すように、10000倍に拡大した5ミクロンスケールのものでは残留気泡が観察されず、さらに40000倍に拡大した1ミクロンスケールのものでも残留気泡は観察されなかった。
(参8)参考資料8:粘土による攪拌状況の推移
青色粘土と白色粘土を上下に重ね(上に青色)、公転:1500rpm、自転:750rpmで時間経過(1分、2分、4分、8分)毎に自転軸を含む縦に切断した断面を示している。
(ア)自公転の撹拌を開始してから1分後には上部にあった青色粘土が周壁に拡散した後に周壁に沿って下降し、しばらく下降した後に中心部に向かって移動し、その後は渦巻状に移動している。表面には、薄くなった青色粘土の層が観察される。下部にあった白色粘土は中心部から上方に移動し、表面に近づいたところで中心から周壁に向かって拡散し、周壁に沿って下降します。その後は青色粘土と層をなして渦巻状に移動する。
(イ)2分後には青色粘土と白色粘土が層をなしてさらに渦巻状に移動し、4分後には渦巻の層がさらに増加し、薄膜化し、8分後には完全に混合される。
(参9)参考資料9:参考資料1および2の詳細な条件に基づく正確な実験データ
参考資料9は8枚からなり、前半の4枚は自公転を低粘度の1000cpsの試料で行ったもの(グラフ1に関するもの)、後半の4枚は自公転を高粘度の40万cpsの試料で行ったもの(グラフ2に関するもの)。撹拌時間毎のプロット番号が挿入されている。
(ア)脱泡性能比較[グラフ1]の条件が示され、(2)の真空プロペラ式撹拌の容器・プロペラ形状が図示されている。

V.当審の判断
1.無効理由(A)について
1-1.本件発明1について
(1)甲3を主引例として検討すると、甲3には、記載事項アによれば「被処理物の所要量を収容した容器を公転させながら自転させることにより、その遠心力作用を利用して、液体と気泡とを分離する脱泡作用を行う液体の脱泡方法」が記載されているといえる。そして、この「脱泡方法」は、記載事項イ、エ及びオからみると「公転と自転を受けることにより液体の撹拌作用と脱泡作用を同時に行うことができる撹拌・脱泡方法」といえる。してみると、甲3には、「被処理物の所要量を収容した容器を公転させながら自転させることにより、撹拌作用と液体と気泡とを分離する脱泡作用を同時に行う液体の撹拌・脱泡方法」の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「被処理物の所要量を収容した容器」は、本件発明1の「被混練材を収容した混練容器」に相当し、甲3発明の「撹拌・脱泡」は、本件発明1の「混練脱泡」に相当することから、両者は「被混練材を収容した混練容器を公転させながら自転させ、被混練材を混練する混練脱泡方法」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点(i):本件発明1では「混練工程中の少なくとも一部において、前記混練容器内に0.5?50torrの真空圧をかける」のに対し、甲3発明は、かかる構成を有しない点
そこで、この相違点(i)を検討する。
(a)まず、相違点(i)中の本件発明1の「真空圧をかける」点に関して検討すると、
甲5には、記載事項アによれば「減圧された真空槽内において、撹拌して液状樹脂の脱泡を行う」ことが記載され、この「真空槽」は、記載事項エによれば「真空槽1内が所定の真空度(例えば1?10Torr)」というものである。また、甲6には、記載事項イによれば「回転ブレードを備えた撹拌装置を含む真空チャンバーからなる脱ガス装置」及び「真空チャンバー内の絶対圧が1000?2000Paの範囲、好ましくは、1000?1500Paの範囲にある」ことが記載されている。また、甲4には、「ハウジング内で高粘性液を遠心力による一次的な脱泡と減圧手段による真空引きにより真空遠心脱泡を行うこと」(記載事項ア及びウ)が記載され、さらに、甲18には、「真空中に放置することにより液晶内の気泡を取り除くこと」(記載事項ア)が、甲19には、「圧力5?500mmHgに保持して脱気処理すること」(記載事項ア、イ)が、甲20には、「真空容器内の減圧にさらされて脱泡されること」(記載事項ア)が記載されている。
これらの記載からみると、真空を作用させて脱泡を行うことや、真空を撹拌あるいは遠心力と併用して脱泡を行うことが周知慣用の技術事項であるといえる。そうすると、甲3発明の公自転による撹拌脱泡方法に、脱泡手段として周知慣用の技術事項である真空を作用させることを付加することは、当業者が容易に想到し得るものといえる。
そして、上記したとおり、真空と撹拌や遠心力を同時に作用させることがよく知られていること、また、甲5に「減圧された真空下で撹拌すると脱泡が促進される」と記載(記載事項エ)されるように、甲3発明の撹拌脱泡方法に真空の作用を付加することによって公自転による撹拌脱泡と真空脱泡とによって脱泡が促進され効率が向上することが極めて容易に推察できること、また、甲3には記載事項ウに課題として「従来方法として真空ポンプを用いた」ことが記載されているが、従来方法の真空ポンプによる課題は、前準備等の問題を云っているだけであって、撹拌と真空ポンプを組み合わせることに阻害要因があるとまではみれないこと、そして敢えていえば、甲3発明の公自転の混練手段に真空作用を付加する場合には、甲5の真空槽、甲4のハウジング、甲6の真空チャンバーなど密閉容器内を備えればよいことが容易に想起でき(甲8の「公自転させる混練装置」でもケーシング内に配置)ること、からみて、甲3発明の撹拌脱泡方法に真空圧をかけることについては格別の阻害要因があるとはいえない。

(b)次に、本件発明1の(b-1)「0.5?50torrの真空圧」及び(b-2)「混練工程中の少なくとも一部において」真空にすることについて検討すると、
(b-1)本件発明1の「0.5?50torrの真空圧」の数値限定については、本件明細書の段落【0023】からみると「被混練材の種類によって決められ、真空圧が低すぎると真空ポンプなどの設備費が高騰して、経済性が損なわれ易い傾向がある」として「50torr以下、好ましくは0.5?50torr程度」であると記載されている。この記載からみると、本件発明1の真空圧は被混練材の種類や経済性を考えて好適な範囲として選定されたものといえ、特段の臨界的意義があるものとはみることができない。そして、通常の真空圧として、上記したとおり甲3には「所定の真空度(例えば1?10Torr)」が記載され、甲6には「絶対圧1000?2000Paの範囲」(換算値:7.5?15torr)が記載され、甲19には、「圧力5?500mmHg」(換算値:5?500torr)が記載されている。これらの真空圧は、公自転による混練脱泡におけるものではないが、普通使用される程度の圧力といえ、それら普通の真空圧の領域を含む範囲で、被混練材の種類(粘度等)、回転数の操作条件などに基づいて好適な真空圧値に選定することは、設計的な事項の範囲に属することであり、上記したとおり本件発明1の「0.5?50torrの真空圧」に格別の臨界的意義も見当たらないことから、当業者であれば通常使用される範囲を含む真空圧において、被処理材の粘度等に基づいて本件発明1の真空圧の範囲に選択することは適宜為し得るものといえる。
(b-2)また、本件発明1の「混練工程中の少なくとも一部において真空にする」ことについては、本件明細書の段落【0022】に「真空圧をかけるタイミングは、全工程中真空圧をかけてもよいが、前段、中段もしくは後段などの工程の一部、あるいは複数回に分けて間歇的に真空圧を加えてもよい」と記載される。他に記載はなく技術的意義が明らかとはいえないが、経済的理由が考えられなくもない。しかしながら、甲5の記載事項エに「真空ポンプによって真空槽内が減圧され、真空槽内が所定の真空度(例えば1?10Torr)に達したら、モータ8を駆動させて容器を回転させ、液状樹脂が容器の内壁上部に所定量ずつ供給される」と記載され、この記載から、甲5では真空圧は脱泡中かけているとみれる。これは本件発明1の全工程中真空圧をかける点で同じ構成といえる。また、甲4には「遠心力による一次的な脱泡処理を行い、その後、真空引きする」(記載事項ウ)と記載されるように一次脱泡と真空を段階的に行っている。以上のことからみると、真空圧やタイミングは、全工程真空をかけたり、後段の工程にかけたりすることが普通に行われるものであり、経済性や脱泡性能等を考慮して適宜選定され得る設計的な範疇に属するものであるから、「混練工程中の少なくとも一部において真空にする」というタイミングについての構成を加えることは当業者であれば容易になし得るものといえる。

ここで、上記相違点(i)に関する被請求人の主張をみておくと、
被請求人は、参1?9を提示して、上記「IV.1.被請求人の反論」で述べているとおり、特に効果の顕著性を主張している。その主張を集約すると、「公転・自転の混練撹拌により、絶えず被混練材の内部の材料を上部表面に移動させ、『薄い層』にして、真空圧に触れさせることにより、サブミクロン?数ミクロンの気泡の微細な気泡まで、五分以内という短時間で除去できる」と云うものである。
(ア)まず、公転・自転の混練撹拌により、絶えず被混練材の内部の材料を上部表面に移動させ、「薄い層」にすることについてみておくと、これは参8の「粘土による攪拌状況の推移」で検証しようとしている。確かに、参8の写真をみると、参8の記載事項ア、イに記載するとおり「自公転の撹拌を開始してから1分後には上部にあった青色粘土が周壁に拡散した後に周壁に沿って下降し、しばらく下降した後に中心部に向かって移動し、その後は渦巻状に移動し、表面には、薄くなった青色粘土の層が観察される」及び「下部にあった白色粘土は中心部から上方に移動し、表面に近づいたところで中心から周壁に向かって拡散し、周壁に沿って下降し、その後青色粘土と層をなして渦巻状に移動し、2分後には青色粘土と白色粘土が層をなしてさらに渦巻状に移動し、4分後には渦巻の層がさらに増加し、薄膜化し、8分後には完全に混合される」様子がみてとれる。ただ、被請求人は「参考資料8の写真は回転を始めて数十秒のうちの流動の様子」(上申書2の第10頁19?20行)と述べているが、撹拌開始から1分経過までの間の推移状況は不明である。これに対して、請求人は甲22で「粘土による撹拌状況の追試観察報告書」を提示し、「被請求人の参8についての追試観察を行」っている。この観察結果の写真をみると、「30秒後、緑は容器をせり上がり、青は中心を下がろうとするが、下部中央部に緑がドーム状に滞留し、50秒後、容器中央部と容器壁面近辺では、対流が異なっているように見え、120秒後には、かなり攪拌が進む」様子が写真で窺える。このことから、甲22では撹拌開始から60秒の間の40秒後と50秒後との間で対流が変化し、2分後では対流の様子もかなり変化している様子が窺え、これは参8の様子と異なっているといえる。また、この60秒までの対流の変化が参8では不明なのである。上記した甲22と参8の相違については、粘土の粘性が同じあるとしても公転・自転の回転数が両者で異なっており、一概に云々できないが、少なくとも自公転の回転数によりその流動形態は異なったものになるとみることができる。そして更に、上記した参8の粘土は、その粘度は不明であるが粘土といえば相当高い粘度を有するものとみることができるが、高粘度でない低粘度の場合でも同じ挙動をするものか、根拠がなく、参1?9のいずれをみても不明と云わざるを得ない。因みに参考として請求人が提示した甲15の文献では、中央部の液面が下がり、側面部で上昇している様子から、被請求人が答弁書で述べた「底部の内側の材料が上昇し、上部の中心から外周に向かって拡散するように移動する」(第10頁10?12行)とは明らかに異なる。以上のことに照らせば、粘度によって粘土のような高粘度材料と液体に近い低粘度(液状)のものとは、流動の挙動は異なり、高粘度の場合には層流状況が作り出せるとしても、液状のものでは乱流状況になるとみるのが自然であり、粘度に係わらず「薄い層」ができるとはいえないし、また、公転・自転の回転数等の条件によらず「薄い層」が持続的に形成できるともいうことはできない。
(イ)一方、公転・自転による混練撹拌における流動については、甲3の記載事項オに「容器は、公転作用を受けながら自転作用を受けるため、該容器内の液体にラセン状の流れ(渦流)が発生してその攪拌作用を同時的に行なう」と記載されているように「ラセン状の渦流」となって混練撹拌作用が進行するものであり、「ラセン状の渦流」は、甲3の記載事項エに記載されるとおり「低粘度液体のみならず高粘度液体」においても生じているとみれる。そうすると、公転・自転の撹拌下ではラセン状の渦流となり、流動性が高まり、表面に接する機会の頻度は高まるものと予測され得る。そのことは、甲5の記載事項エの「撹拌羽根により相対的に撹拌され、液状樹脂中の再度の脱泡が促進される」との記載からみても頷けるものである。
(ウ)以上のことを踏まえ、サブミクロン?数ミクロンの気泡の微細な気泡までの除去を短時間で行うことについてみると、サブミクロンの気泡が除去できる点については、本件明細書には記載があるとはいえなく、むしろ明細書の記載からは段落【0005】及び【0026】?【0027】からみれば数ミクロン?数十ミクロンの微細な気泡が除去できるとみるのが自然であるから、この点は明細書の記載に基づく主張とはいえないが、参1?9で提示するように「真空公転撹拌」では、粘度によって異なり、請求人が主張するように、「参7は1万倍写真と4万倍写真は極めて僅かの部分を拡大したものに過ぎない」(上申書第6頁6?8行)断片的なものであるにせよ「サブミクロン?数ミクロンの気泡の微細な気泡までの除去」ができないとまではいえない。しかしながら、このレベルの気泡の除去は、真空プロペラ式撹拌の場合でも時間がかかっても達成し得るものであり(なお、被請求人はこの「真空プロペラ式撹拌」は甲5に相当としているが、攪拌翼の形状まで同じとはみれない)、当時の技術水準である甲19でも「溶融槽内を真空度20mmHgとし約20?30分間脱気処理し、顕微鏡観察によったも微細なミクロ気泡の存在はほとんど発見されなかった」(記載事項ウ)とあるように格別通常達成できなっかたレベルとはみることはできない。そうすると、上記したとおり、公転・自転の撹拌下ではラセン状の渦流となり、流動性が高まり、表面に接する機会の頻度は高まり、これに真空圧をかけることにより脱泡効率が上がるものと予測できるのであるから、サブミクロン?数ミクロンの気泡の微細な気泡まで、短時間で除去できるという効果が格別顕著なものとまではみることはできない。
さらに付言すると、参考資料1、2或いは9の脱泡性能比較において「真空公転撹拌→大気圧自転撹拌」の場合には、「新たに気泡が再混入して、数十ミクロンの大きさの気泡が残留する」(参1オ)のであり、この「真空公転撹拌→大気圧自転撹拌」の場合が真空のタイミングを問わない本件発明1に含まれることは明らかであるから、この点からみても気泡レベルの顕著性はないというべきである。そして、本件発明1では、真空圧による数値限定はあるものの、他に何ら限定がない以上、どのような条件でもそれが達成できるとみれるまでの根拠はなく、むしろ粘度、公転・自転の回転数等の条件によって、流動性がとても同じあるとはみれなく、それら種々の条件によって気泡レベルや時間も変化することは当然のことである。
以上のことから、甲3発明において、甲4?6、8に記載された発明や周知技術を適用し、上記相違点(i)に係る本件発明1の構成を構築することは、当業者が容易に為し得るものといえる。そして、本件発明1の効果も、上記したとおり甲3?7、8に記載の発明から予測できる程度のものであって、格別のものということはできない。また、他の被請求人の主張や提出した参考資料をみても、これを覆すだけの理由は見当たらない。
したがって、本件発明1は、甲第3号証及び甲第4?6、8号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)次に、甲5を主引例として併せ検討しておくと、甲5には、記載事項アに「減圧された真空槽内において有底円筒状の容器を回転させ、この状態で前記容器の内壁上部に液状樹脂を供給すると共に該内壁に沿って自然落下した後前記容器内に溜った液状樹脂を撹拌する液状樹脂の脱泡方法」が記載されている。この記載中の「減圧された真空槽」に関して、記載事項エに「真空ポンプ14によって真空槽1内が減圧され、真空槽1内が所定の真空度(例えば1?10Torr)に達し」と記載されている。また、同記載事項エには、回転テーブルと共に回転している「容器」内に溜まった「液状樹脂」は、「撹拌羽根により相対的に撹拌され、液状樹脂中の再度の脱泡が促進される」と記載されている。これらの記載からすると、甲5には「所定の真空度(例えば1?10Torr)に減圧された真空槽内において有底円筒状の容器を回転させ、この状態で前記容器の内壁上部に液状樹脂を供給すると共に該内壁に沿って自然落下した後前記容器内に溜った液状樹脂を撹拌羽根により相対的に撹拌する、液状樹脂の脱泡方法」の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本件発明1と甲5発明とを対比すると、甲5発明の「有底円筒状の容器」は、本件発明1の「被混練材を収容した混練容器」に相当し、甲5発明の「脱泡」は、相対的な撹拌を伴うものであるから、本件発明1の「混練脱泡」に相当するといえることから、両者は「被混練材を収容した混練容器を、被混練材を混練する混練工程中において、前記混練容器内に1?10torrの真空圧をかける混練脱泡方法」である点で一致し、以下の点で相違している。
相違点(ii):本件発明1では「公転させながら自転させ」のに対し、甲5発明は、「回転させて撹拌する」ものであるが、かかる構成を有しない点
相違点(iii)本件発明1では「被混練材を混練する混練工程中の少なくとも一部において、前記混練容器内に0.5?50torrの真空圧をかける」るのに対し、甲5では「所定の真空度(例えば1?10Torr)を全工程でかけている」点
そこで、これら相違点を検討すると、相違点(ii)については、公転させながら自転させる撹拌脱泡は、上記したとおり、甲3、甲7、甲8に記載されるとおり周知・慣用の技術的事項であるから、これを上記甲5発明の回転させて撹拌脱泡させる手段に換えて用いることは当業者が容易に想到し得るものといえる。また、相違点(iii)については、上記「(1)(b)」で検討したとおりであり、この点を格別なものとすることはできない。以上のとおり、甲5発明に周知慣用の公転自転による撹拌脱泡手段を置換することにより、本件発明1の構成を導き出すことに格別の困難性もない。してみると、本件発明1は、甲第5号証及び甲第3、4、6?8号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえる。

1-2.本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用し、本件発明1の構成に加え、更に「混練容器を公転させながら自転させる混練工程の前段を大気圧下で行い、後段を真空圧下で行う」構成を付加するものであるが、かかる構成は、甲4に「遠心力による一次的な脱泡処理を行い、その後、真空引きする」(記載事項ウ)と記載されるとおり、普通に行われている技術事項であるとともに、上記したとおり真空のタイミングは経済性や脱泡性能等を考慮して適宜選定され得る設計的な範疇に属するものであるから、格別なものとみることができない。したがって、本件発明2は、上記「1-1.」と同様の理由により、甲第3?8号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

1-3.本件発明3について
本件発明3は、本件発明1又は2を引用し、本件発明1又は2の構成に加え、更に「混練容器内を真空圧下に曝す時間は0.5?20分間である」構成を付加するものであるが、脱泡時間は上記「1-1.(ウ)」で述べたとおり、公転・自転による混練によりラセン状の渦流が発生し、効率よく短時間で真空下に曝すことができるのであるから、効率よく脱気が行えるとみれるとともに、具体的な時間は、通常被混練材の性状や操作条件によって変わるものであるから、効率的に短時間で行う中で適宜時間を設定することは当業者が通常行うことといえる。したがって、本件発明3は、上記「1-1.」と同様の理由により、甲第3?8号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.無効理由(B)について
2-1.本件発明4について
甲8には、記載事項アに「上下方向に延びる公転軸を介してベース体に回転可能に取り付けられた回転体と、該回転体に対し公転軸と直交する軸線と平行な揺動軸を介して揺動可能に取り付けられた揺動支持体と、該揺動支持体に対し揺動軸と直交し且つ略上下方向に延びる自転軸を介して回転可能に取り付けられ、流動性を有する材料を収容した容器を保持する容器ホルダと、公転軸を介して回転体を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共に公転軸の周りに公転させる公転駆動モータと、揺動支持体上に取り付けられ、自転軸を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共にその公転軌道上で自転させる自転駆動モータと、揺動軸を介して揺動支持体を回転体に対し揺動させることにより容器ホルダの自転軸を公転軸と平行な軸線に対し揺動させる揺動機構と、を備えた混練装置」が記載されている。この記載中の「ベース体」は、記載事項ウによれば「周囲に放射状に配設された複数本の引張ばねによってケーシングの内側面に弾性的に支持」されており、また、「公転駆動モータ」は、その「底部は公転軸及びモータ軸の軸線の延長線上に配置された弾性部材を介してケーシングの内底部に弾性支持」されている。そして、記載事項エ、キによれば「ケーシング8の上部が開口し、そこに上蓋8aが取り付けられ、容器17にも上蓋17aを備えられている」ことが記載されているといえる。
これらの記載を本件発明4の記載振りに則して整理すると、甲8には「上部が開口したケーシングと、ケーシングの開口部に設けられた上蓋と、周囲に放射状に配設された複数本の引張ばねによってケーシングの内側面に弾性的に支持されたベース体と、公転軸及びモータ軸の軸線の延長線上に配置された弾性部材を介してケーシングの内底部に弾性支持され、公転軸を介して回転体を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共に公転軸の周りに公転させる公転駆動モータと、上下方向に延びる公転軸を介してベース体に回転可能に取り付けられた回転体と、略上下方向に延びる自転軸を介して回転可能に取り付けられ、流動性を有する材料を収容した上蓋付き容器を保持する容器ホルダと、自転軸を回転駆動することにより容器を容器ホルダと共にその公転軌道上で自転させる自転駆動モータと、揺動軸を介して揺動支持体を回転体に対し揺動させることにより容器ホルダの自転軸を公転軸と平行な軸線に対し揺動させる揺動機構と、を備えた混練装置」の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているといえる。
そこで、本件発明4と甲8発明を対比すると、甲8発明の「ケーシング」、「ケーシングの開口部に設けられ上蓋」、「引張ばね」、「ベース体」、「公転駆動モータ」、「回転体」、「上蓋付き容器」、「容器ホルダ」及び「混練装置」が、それぞれ本件発明4の「容器本体(筐体本体)」、「容器蓋体(封装体)」、「振動吸収体」、「支持板」、「公転用駆動モータ」、「公転体」、「蓋付き混練容器」、「容器ホルダー」及び「混練脱泡装置」に相当することから、両者は「一端が開口した容器本体(筐体本体)と、前記容器本体の開口部を閉める着脱自在型の容器蓋体(封装体)と、前記容器本体内に振動吸収体を介して装着配置された支持板と、前記支持板に支持された公転用駆動モータと、前記公転用駆動モータの回転を伝動する鉛直方向へ延びる回転軸に略水平に装着された公転体と、前記公転体の遠心側(外周縁側)に配置され、蓋付き混練容器を支持して軸線で回転する容器ホルダーと、前記容器ホルダーに支持される蓋付き混練容器と、を備える混練脱泡装置」で一致し、以下の点で相違する。
相違点a:本件発明4は「容器本体の開口部を気密に密閉する容器蓋体」であるのに対し、甲8発明の「上蓋」は気密に密閉しているか不明である点
相違点b:本件発明4は「回転軸の軸線に対して傾斜した軸線で回転する容器ホルダー」
であるのに対し、甲8発明は「容器ホルダは揺動」している点
相違点c:本件発明4は「容器本体及び容器蓋体の少なくともいずれか一方に設けられた真空引き孔を介して気密化された容器(筐体)内を0.5?50torrに真空化する真空ポンプと、混練容器の蓋に設けられた混練容器内と連接する排気孔」とを備えているのに対し、甲8発明には、かかる構成がない点
これらの相違点a?cについて検討する。
まず、相違点a、及び相違点cはいずれも容器本体内を真空圧にすることに関するものであるので、併せて検討すると、甲5には、記載事項アによれば「減圧された真空槽内において有底円筒状の容器を回転させ、この状態で前記容器の内壁上部に液状樹脂を供給すると共に該内壁に沿って自然落下した後前記容器内に溜った液状樹脂を撹拌して液状樹脂の脱泡」することが記載され、この記載中の「減圧された真空槽」に関し、記載事項エに「真空ポンプ14によって真空槽1内が減圧され、真空槽1内が所定の真空度(例えば1?10Torr)」及び「容器の内壁全体に拡散された液状樹脂の表面および容器内に溜った液状樹脂の表面に気泡が発生すると、この発生した気泡が真空槽内との圧力差により弾け、その後気泡内部に存在していた気体が真空ポンプによって排気される」と記載され、また、この回転される「容器」においては「撹拌羽根により相対的に撹拌され、液状樹脂中の再度の脱泡が促進される」と記載されている。してみると、甲5には、甲8発明と同様の撹拌脱泡に関する技術的事項が開示されているといえ、甲8発明は公転自転の脱泡機構が一つのケーシング内に収容された構造であることから、甲8発明の混練装置に更に脱泡性能を向上させるために、甲5に記載される「減圧された真空槽」を適用することは当業者であれば格別困難なく行えることである。その真空槽とすることに伴って、気密構造とすることや真空引き孔を設けること、或いは混練容器にも孔を開けて連通させることは設計上至極当然の対応と云わざるを得ない。また、本件発明4の「0.5?50torrの真空圧」とすることについても、上記「1-1.」で記載したとおり、適宜選択し得るものといえる。
次に、相違点bについて検討すると、公転・自転混練脱泡する装置において、容器ホルダーを「回転軸の軸線に対して傾斜した軸線で回転」させることは、甲3の記載事項キや甲7の記載事項ウに記載されるとおり普通のことであるから、本件発明4の相違点bにかかる構造を採用することは当業者が容易になし得ることといえる。
そして、本件発明4が奏する効果も、上記したとおり甲第8号証及び甲第3?5、7号証に記載の発明から予測できる程度のものであって、格別のものということはできない。
したがって、本件発明4は、甲第8号証及び甲第3?5、7号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

2-2.本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用し、本件発明4の構成に加え、更に「容器本体が冷却機構を具備している」構成を付加するものであるが、混練脱泡において冷却機構を備えることは、甲11の記載事項ア、イ、や甲12の記載事項アに開示されるように周知の技術的事項であるから、かかる周知事項を甲8発明に具備させることは当業者が困難なく行えることといえる。
したがって、本件発明5は、上記「1-2.」と同様の理由により、甲第8号証及び甲第3?5、7号証に記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない

VI.結び
以上のとおりであるから、本件発明1?5は、その出願前に頒布された刊行物である甲第3号証?甲第12号証に基づいて当業者が容易に推考することができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-05-09 
結審通知日 2006-05-12 
審決日 2006-05-23 
出願番号 特願平9-303248
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B01D)
最終処分 成立  
特許庁審判長 大黒 浩之
特許庁審判官 増田 亮子
松本 貢
登録日 2004-08-20 
登録番号 特許第3586741号(P3586741)
発明の名称 混練脱泡方法及び混練脱泡装置  
代理人 吉武 賢次  
代理人 岡田 淳平  
代理人 河宮 治  
代理人 宮嶋 学  
代理人 伊藤 晃  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 永井 浩之  

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