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審決分類 |
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) D21H |
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管理番号 | 1154507 |
審判番号 | 不服2000-15632 |
総通号数 | 89 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2000-10-02 |
確定日 | 2007-03-08 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第504193号「製紙用フィラー及びフィラーの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 1月16日国際公開、WO97/01670、平成11年 7月21日国内公表、特表平11-508331〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成8年6月27日(パリ条約による優先権主張1995年6月29日、フィンランド国)を国際出願日とする出願であって、平成9年12月25日付けで手続補正がされ、平成11年9月6日付けで拒絶理由通知がされたところ、その指定期間内である平成12年3月21日付けで手続補正がされたが、平成12年6月26日付けで拒絶査定がされ、そして、平成12年10月2日付けで審判請求がされた。 その後、当審において平成16年12月16日付けで拒絶理由通知がされ、その指定期間内である平成17年6月20日付けで手続補正がされ、その後、平成17年9月1日付けで最後の拒絶理由通知がされ、その指定期間内である平成18年3月6日付けで手続補正がされたものである 2.平成18年3月6日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成18年3月6日付けの手続補正を却下する。 [理由] (1)補正後の特許請求の範囲請求項1の記載 平成18年3月6日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲請求項1は、補正前の 「紙の製造に用いられるフィラーであって、炭酸カルシウム粒子により形成されるとともにフィブリルの表面に沈殿された多孔質凝集体よりなるものにおいて、 セルロースファイバー及び/又は機械的パルプファイバーをリファイニングし、かつバウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し、その最も厚い部分の厚さが略0.1?2μm、その長さが10?400μm、好しくは10?150μmであるフラクションとしたフィブリルの表面上に前記炭酸カルシウムが沈殿されていることを特徴とするフィラー。」 という記載が、 「紙の製造に用いられるフィラーであって、炭酸カルシウム粒子により形成されるとともにフィブリルの表面に沈殿された多孔質凝集体よりなるものにおいて、 セルロースファイバー及び/又は機械的パルプファイバーをリファイニングし、かつバウアーマグネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュを通過したフラクションに対応し、その厚さが0.1?2μm、その長さが10?400μmであるフラクションとしたフィブリルの表面上に前記炭酸カルシウムが沈殿されていることを特徴とするフィラー。」 と補正された。 注)上記日付けで提出された手続補正書の特許請求の範囲請求項1には「バウアーマグネットスクリーン」と記載されているが、これは本来「バウアーマクネットスクリーン」と記載すべきものの誤記であることは当業者には明らかなので、以降、審決では請求項1の記載を「バウアーマクネットスクリーン」と表記する。 そして、本件補正は請求項1において、以下の補正事項を含むものである。 補正事項a 補正前の「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」を、「バウアーマクネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュを通過したフラクションに対応し」とする。 補正事項b 補正前の「最も厚い部分の厚さが略0.1?2μm」を「厚さが0.1?2μm」とする。 (2)補正の目的の適否についての判断 本件補正は、平成17年9月1日付けで当審で通知した最後の拒絶理由通知(以下、「当審の最後の拒絶理由」という。)の指定期間内にされたものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第1項第2号に掲げる場合においてする補正である。そこで、本件補正において特許請求の範囲についてする補正が、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものであるか、以下で検討する。 (2-1)補正事項aについて 本件補正前の明細書である、平成12年3月21日付けで補正された明細書の、特許請求の範囲以外の箇所には「バウアーマクネット・フラクションP100」という用語そのものは記載されていない。 一方、本件補正前の明細書には「フラクション」という事項に関して、以下のとおり記載されている。 (a)第5頁第5-12行 「所望により、リファインされたノイルフィブリルのスクリーン処理即ち選別処理を行ってもよく、この選別処理は、パルプ製造業界でそれ自体知られているどのようなフラクショネイティング処理即ちフラクション処理によって行ってもよい。例えば、ワイヤスクリーン処理を行って所望のフィブリルサイズとすることができる。 沈殿においては、ノイル、即ち、例えばパルプベースノイルやその他のファイバーベースのノイルは、パルプリファイナによりリファイン及び選別され、好適なフラクションは、例えばワイヤスクリーンフラクションP100-P400である。」 (b)第6頁第26行-第7頁第9行 「リファイン処理されたパルプは、バウアー-マクネットスクリーン(Bauer-McNett screen)を用い、最初に14-50-100-200メッシュのワイヤシ-クエンスを用いて選別された。一回で選別された乾燥物質の量は、45gであった。200メッシュを通過したフラクション(P200フラクション)を保存して、2日間沈殿処理を行い、その表面の水相を分離させた。 P200フラクションは、更に、100-200-290-400メッシュのワイヤシークエンスによってフラクション化された。スクリーンプロセスを均一化するために100メッシュワイヤが用いられ、200メッシュワイヤがスクリーンプロセスの最初の段階で目詰まりしないようにした。400メッシュワイヤを通過したフラクション(P400 フラクション)が保存され、ノイルフラクションが沈殿した後に、表面の水相が分離された。 P400フラクションは、遠心分離によって、濃度が4.7g/lとなるまで濃縮され、これによりノイルは、フィラーの製造に使用できる状態となる。」 上記(a)の記載から、ワイヤースクリーンフラクションとはワイヤースクリーン処理を行って所望のフィブリルサイズとしたフラクションであり、本願明細書においては所望のフィブリルサイズとしたフラクションを、「ワイヤースクリーンフラクションP100-P400」というように称することが理解できる。また、上記(b)の記載から「P200フラクション」、「P400フラクション」とは、それぞれ200メッシュワイヤ、400メッシュワイヤを通過したフラクションであることが理解できる。そして「バウアー-マクネットスクリーン(Bauer-McNett screen)」とは、紙パルプの技術分野における周知のスクリーンの一種である。 そうすると、「バウアーマクネット・フラクションP100」とは、「パルプをバウアー-マクネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュワイヤを通過したもの」であると解するのが妥当である。 そこで、補正前の「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」という記載をみると、「バウアーマクネット・フラクションP100」というフラクションを用いて選別するというものであるから、字句上は補正前の記載は明りょうなものといえる。 一方、補正後の「バウアーマクネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュを通過したフラクションに対応し」という記載は、「対応し」という表現の意味するところが明りょうでないため、「バウアーマクネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュを通過したフラクション」そのものを意味するのか、当該フラクションと何らかの物性等において同等と認められる何かを意味するのか、あるいはそれ以外の別のものを意味するのかは不明である。したがって、補正事項aは請求項の記載を明りょうでないものにするから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものとはいえない。 また、補正事項aは、補正前の「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」という記載中のいずれの事項を限定するものとも認めらず、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、すなわち、いわゆる限定的減縮を目的とするものには該当しない。 (2-2)補正事項bについて 補正事項bは、補正前の「最も厚い部分の厚さ」という事項の、「最も厚い部分の」という事項を削除して「厚さ」とするとともに、補正前の「略0.1?2μm」の「略」を削除して「0.1?2μm」とするものである。 このうち前者は、「厚さ」を特定する「最も厚い部分の」という事項を削除して、単なる「厚さ」に上位概念化するものだから、補正事項bはいわゆる限定的減縮を目的とするものには該当しない。また、「最も厚い部分の厚さ」という事項は字句上、明りょうなものであるからこれを「厚さ」とすることは、明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもない。 そして、本件補正は、請求項の削除、誤記の訂正を目的とするものでもないことは明らかである。 (3)むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第4項第1ないし4号に掲げる事項のいずれを目的とするものにも該当しないから、同法第17条の2第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。 3.特許請求の範囲の記載について 平成18年3月6日付けの手続補正は、上記2.のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲請求項1の記載は、平成17年6月20日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲請求項1に記載された、以下のとおりのものである。 「紙の製造に用いられるフィラーであって、炭酸カルシウム粒子により形成されるとともにフィブリルの表面に沈殿された多孔質凝集体よりなるものにおいて、 セルロースファイバー及び/又は機械的パルプファイバーをリファイニングし、かつバウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し、その最も厚い部分の厚さが略0.1?2μm、その長さが10?400μm、好しくは10?150μmであるフラクションとしたフィブリルの表面上に前記炭酸カルシウムが沈殿されていることを特徴とするフィラー。」 4.当審の最後の拒絶理由の概要 当審の最後の拒絶理由の概要は、拒絶理由1として、平成17年6月20日付けでした手続補正は、この出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないというものである。 5.当審の判断 5-1.当審の最後の拒絶理由、拒絶理由1についての判断 平成17年6月20日付けでした手続補正が、この出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであるか検討する。 (1)請求項1の補正について 請求項1の補正は、以下の補正事項を含むものである。 補正事項c 補正前の「バウアーマクネット・フラクションP100に対応し」を、「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」とする。 補正事項d 補正前の「厚さが略0.1?2μm」を、「最も厚い部分の厚さが略0.1?2μm」とする。 (2)新規事項の有無についての判断 (2-1)補正事項cについて 当初明細書には、直接、「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」という事項は記載されていない。 そもそも「バウアーマクネット・フラクションP100」という用語そのものが記載されていないものである。 一方、当初明細書の「フラクション」という事項に関して、以下の記載がある。 (c)第5頁第5-12行(上記2.(2)(2-1)の摘示(a)と同じ記載。摘示は省略する。) (d)第6頁第26行-第7頁第9行(上記2.(2)(2-1)の摘示(b)と同じ記載。摘示は省略する。) 上記(c)、(d)の記載からみて、「バウアーマクネット・フラクションP100」とは、上記2.(2)(2-1)で検討したのと同様に、「パルプをバウアー-マクネットスクリーンを用い、選別したものであって、100メッシュワイヤを通過したもの」であると解するのが妥当である。 そこで、「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」に相当する事項が、当初明細書に記載されたものであるかについて、以下で検討する。 上記(d)の記載は、「P400フラクションは、遠心分離によって、濃度が4.7g/lとなるまで濃縮され、これによりノイルは、フィラーの製造に使用できる状態となる。」とあるから、400メッシュワイヤを通過したフラクション(P400フラクション)そのものがフィラーの製造に使用できる状態になったことを記載したものであって、P400フラクションを用いて選別すること、P400フラクションを用いて選別したフラクションについて記載したものではない。そして、当然のことながら100メッシュワイヤを通過したフラクションを用いて選別することも記載されていない。 また上記(c)には「好適なフラクションは、例えばワイヤスクリーンフラクションP100-P400である。」と記載されていて、「ワイヤスクリーンフラクションP100-P400」とはフラクション処理されたフラクションそのものと理解できるから、何らかのフラクションを用いて選別することの記載はなく、やはり「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」たものについて記載するものではない。そして、当初明細書の他の記載をみても、フィブリルからなるフラクションである「バウアーマクネット・フラクションP100を用いて選別し」たことを読み取ることはできないから、補正事項cは、当初明細書の記載から自明な事項であるともいえない。 (2-2)補正事項dについて 補正事項dに係る「厚さ」について、当初明細書に記載は以下の記載がある。 (e)特許請求の範囲請求項7 「前記ノイルフィブリルの厚さは、主に0.1?2μm」 (f)同請求項14 「前記ノイルフィブリルは、その厚さが主に0.1?2μm」 (g)第3頁第5-9行 「本発明に係るフィラーで用いられるノイルフィブリルは、セルロースファイバー及び/又はリファイニング即ち改質や精製による機械的パルプファイバーから製造される。更に、ノイルフィブリルは、好ましくは、フラクションに分割され、その厚みが0.1-2μm、長さは主に10-400μm、好ましくは10-300μm、更に好ましくは10-150μmとされる。」 (h)第4頁第14-15行 「本発明に係るフィラー及びその製造方法は、前述したFI 931585とは、ノイルフィブリルの厚さ及び/又は長さの点で特に異なる。」 というものである。 上記(e)ないし(h)の記載から明らかなように、当初明細書には「厚さ」という記載はあるものの、「最も厚い部分の厚さ」という事項は記載されていない。 そして、上記(e)ないし(h)には、「厚さ」の説明、定義に類する事項については記載されておらず、測定方法の記載もない。そして、当初明細書の他の箇所には、「厚さ」という用語すら記載されておらず、当初明細書の記載から、「厚さ」が「最も厚い部分の厚さ」を意味するとはいえない。 さらに検討すると、フィブリルとは一般に繊維状の構造物であり、ファイバーをリファイニングしたフィブリルは枝分かれをするなどしていて、その形状は一定ではない。そしてフラクションは多様な形状のフィブリルの集合体である。実際、本願にて得られた生成物の電子顕微鏡写真として添付されたFig.2?4からは、フィブリルは枝分かれをし、複雑に屈曲するなどした多様な形状であることが見て取れる。 繊維の形状に関して「長さ」については特段説明を要しないといえるが、「厚さ」は繊維の形状に関して通常使用する用語とはいえないものである。ファイバーをリファイニングしたフィブリルは、枝分かれを有するなど1つのフィブリルでも部分によって断面形状、繊維径が一定でない構造物であるから、フィブリルのどの部分をさしてフィブリルの「厚さ」というか不明である。まして、フィブリルにおける「厚さ」が「最も厚い部分の厚さ」であることが自明であるとは到底いえないものである。 そうすると、補正事項dは当初明細書に記載されておらず、且つ同明細書の記載から自明な事項であるともいえない。 5-2.審判請求人の主張について 審判請求人は、平成17年6月20日付けで提出された意見書の意見の内容(2)の欄には「これを受けて、本件請求人は、本日別途提出の手続補正書においてご指摘の不備を解消すべく、本件出願の特許請求の範囲を訂正する補正を致しました。したがって、ご指摘の不備は該補正によって解消したものと思料いたします。」と記載されているにとどまり、補正の根拠となる明細書の記載箇所は全く示しておらず、補正が当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものである理由を主張するものではない。 また、平成18年3月6日付けで提出された意見書は、同日付けの手続補正による明細書の補正を前提として、拒絶理由が解消する旨の内容であるから、上記拒絶理由1に対して実質的な主張はなされていない。 したがって、これら審判請求人の主張をみても、本願は依然として上記の拒絶理由1を解消していない。 5-3.まとめ 上記5-1.及び5-2.で検討したように、平成17年6月20日付けでした手続補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、当審の最後の拒絶理由の拒絶理由1は妥当なものである。 6.むすび 以上のとおり、本願は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないから、当審が平成17年9月1日付けで通知した理由によって拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2006-09-20 |
結審通知日 | 2006-09-26 |
審決日 | 2006-10-13 |
出願番号 | 特願平9-504193 |
審決分類 |
P
1
8・
574-
WZ
(D21H)
P 1 8・ 572- WZ (D21H) P 1 8・ 55- WZ (D21H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 真々田 忠博 |
特許庁審判長 |
石井 淑久 |
特許庁審判官 |
澤村 茂実 野村 康秀 |
発明の名称 | 製紙用フィラー及びフィラーの製造方法 |
代理人 | 松原 伸之 |
代理人 | 村木 清司 |