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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1154515
審判番号 不服2005-12591  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-07-04 
確定日 2007-03-12 
事件の表示 平成 7年特許願第504035号「スケーラブル圧縮ビデオ信号を提供する方法と装置」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 1月19日国際公開,WO95/02303,平成 8年12月24日国内公表,特表平 8-512441〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 経緯
1 手続
本願は,平成6年6月17日(パリ条約による優先権主張1993年7月7日,アメリカ合衆国)の出願であって,平成17年3月30日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年7月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものである。

2 査定
査定の理由は,概略,下記のとおりである。

記(査定の理由)
本願の請求項1から8までに係る発明は,下記刊行物に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ア 特開平3-179987号公報
イ 国際公開第92/10061号パンフレット
ウ 特開平5-56273号公報

第2 本願発明
本願の請求項1から8までに係る各発明は,本願明細書及び図面(平成13年5月31日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面)の記載からみて,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1から8までに記載したとおりの「ビデオ信号を圧縮する方法及び装置」であると認められるところ,そのうち,請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は次のとおりである。
「1.ビデオ信号を圧縮する方法であって,
ノンインタレース走査ビデオ信号のフレームを出力し,該ノンインタレース走査ビデオ信号の連続するフレームの1つおきのラインから一次ビデオ信号と名付けたインタレース走査ビデオ信号を生成し,
前記一次ビデオ信号を圧縮して圧縮された一次ビデオ信号を出力して該圧縮された一次ビデオ信号を伸張し,
前記ノンインタレース走査ビデオ信号の間に入っているラインに対応する,前記一次ビデオ信号を生成するときに使用されなかった二次ビデオ信号を前記伸張された一次ビデオ信号から予測し,
該二次ビデオ信号と,前記ノンインタレース走査ビデオ信号の前記間に入っているラインに対応するビデオ信号と対応する絵素間の差を生成して該差を圧縮し,
前記圧縮された一次ビデオ信号と圧縮された差を伝送する状態にする方法。」

第3 当審の判断
1 刊行物の記載
1-1 引用例1(特開平3-179987号公報)
原査定において引用された特開平3-179987号公報(平成3年8月5日出願公開,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,次のとおりの記載がある。
(1)「(従来の技術)
現行のテレビジョン方式の多くは,飛び越し(インターレース)走査を採用している。NTSC方式を例にとると,1枚の画像(1フレーム)は,約480本の有効走査線で構成されているが,実際には1枚の画像を2回に分けて伝送している。第1フィールドで1ラインおきに240本が伝送され,l/60秒後の第2フィールドで残りの240本が伝送される。第1と第2フィールドは,互いにライン・オフセットされた関係にある。」(第3ページ左上欄第16行ないし右上欄第5行)
(2)「(発明が解決しようとする課題)
現行の受像機との両立性を保ち画質改善を実現するための新方式が提案されている。飛び越し走査で伝送される現行方式信号を主信号とし,順次走査化のための補助信号を付加信号として伝送しようとするものである。
本来は付加信号も主信号と同一の伝送帯域を必要とするのであるが,付加信号は,中域までに制限しても飛び越し走査の折り返し歪み妨害を著しく改善できる。これは視覚特性上,斜め高域スペクトル成分の画質への寄与度が低いことによる。
付加信号の伝送路としては,現行放送で未使用の空きチャンネルの1チャンネルあるいは0.5チャンネルを利用したり,あるいは主信号と同一チャンネルで直交多重変調の利用等が考えられる。例えば,M. A. Isnardi, et. “Encoding for Comatibility and Recoverability in the ACTV System” IEEE Tr. On broadcasting, Vol. BC-33, No.4, pp116-pp123, Dec. 1987によれば,ヘルパー信号と呼ばれるフィールド間差分信号を同一チャンネルの直交多重変調を利用してアナログ伝送する提案をしている。このように,主信号と付加信号が異なる伝送路で伝送される場合,両者のS/N改善を考慮しなければならない。」(第4ページ左上欄第8行ないし右上欄第11行)
(3)「順次走査再生画面における走査線毎のS/N差を解決する手段として,付加信号をデジタル伝送することは非常に有効である。しかし,デジタル伝送は,アナログ伝送に比べて広い伝送帯域を必要とする。よって,前述した別途の1チャンネルあるいは0.5チャンネルを使用するか,同一チャンネルで直交多重変調を利用するか等の結論となり,結局,先の問題が浮上してくる。
そこでこの発明は,付加信号を帯域幅の狭い伝送路でデジタル伝送することができ,これにより,伝送レベルを低くすることができ現行放送あるいは通信への妨害がなく,また伝送レベルを低くしたからといって主信号とのS/N差を生じることがなく画質改善に寄与できるテレビジョン信号の伝送装置及び受信装置を提供することを目的とする。」(第4ページ左下欄第3行ないし第18行)
(4)「第1図はこの発明における伝送装置の構成図である。入力端子11には順次走査信号である輝度信号Y(525/1:1)が供給され,入力端子12には,色差信号I,入力端子13には色差信号Qが供給される。
輝度信号Yは,スイッチ14により,第1の飛び越し走査信号Y1(主信号側)と第2の飛び越し走査信号Y2(付加信号側)とに振り分けられる。スイッチ14は,入力信号を走査線毎に交互に振り分けるように制御されている。そして第2の飛び越し走査信号Y2は時間伸長部17に供給され,第1の飛び越し走査信号Y1は時間伸長部18に供給される。色差信号IとQもそれぞれスイッチ15と16により振り分けられるが,すべての信号を伝送するのは主信号側であるから,主信号に対応した色差信号IとQがそれぞれ時間伸長部19と20に供給される。時間伸長部17,18,19,20は,それぞれ例えば水平周波数をNTSC方式と一致させるために時間伸長を行う部分である。」(第6ページ右上欄第7行ないし左下欄第5行)
(5)「主信号側の時間伸長部18,19,20から得られた信号は,NTSCエンコーダ21に入力され,NTSC方式のテレビジョン信号に変換され,付加信号側の系統との時間合わせを行う遅延部28を介してアナログ伝送部51に供給される。遅延部28は,基本的には1フィールド分の遅延量を持てばよいが,後述する受信側の遅延も考えて2フィールドの遅延量が設定されている。」(第6ページ左下欄第6行ないし第13行)
(6)「時間伸長部18から得られる輝度信号は,走査線補間回路部22にも供給されている。この走査線補間回路部22は,1H遅延回路23(1H:1走査線期間)とこの遅延回路23と時間伸長部18からの出力を加算する加算器24と,この加算器24の出力を1/2する係数器25とで構成されている。係数器25から得られる信号は,第2の飛び越し走査信号に対応した垂直低域成分を取り出すことに相当する。
係数器25の出力は,減算器31に供給される。減算器31では,時間伸長部17から得られる第2の飛び越し走査信号から係数器25の出力を減算する。よって減算器31からは,ライン間の差分値を得ることになる。
減算器31の出力は,垂直高域通過フィルタ出力と等価であり,垂直エツジ部の成分が得られる。」(第6ページ左下欄第14行ないし右上欄第8行)
(7)「DPCMエンコーダ27は,ブロックデータのビットリダクションを行い,伝送容量を低減するようにしている。ビットリダクションとしては,各ブロック毎にアダマール変換やディクリートオサイン変換等によるブロック符号化を用いてもよい。上記絶対値回路部33の出力は,加算器34に入力される。」(第7ページ左上欄第9行ないし第15行)
(8)「第2図(A)は,入力端子11に供給される信号を示し,第1の飛び越し走査信号を白丸,第2の飛び越し走査信号を黒丸で示している。同図(B)は主信号側に振り分けられた第1の飛び越し走査信号,同図(C)は付加信号側に振り分けられた第2の飛び越し走査信号である。同図(D)は,走査線補間回路部22で処理される走査信号と補間された信号(三角印)を示している。同図(E)は,減算器31から出力される信号を示している。今,同図(A)に示すように走査信号にn1,n1,n3の符号を付すと,減算器31から得られる対応する1つの走査信号はn2-{(n1+n3)}となる。」(第7ページ左上欄第18行ないし右上欄第9行)
(9)「CPU45は,プログラムに従って,ブロック評価値のうち値の大きいものから順に優先順位を設定しデータの並べ変えを行う。次に,ブロック評価値の大きいものから順に,動き評価値がしきい値を越えるものをL(L<N×M)個選択し,その選択されたブロック評価値付属するアドレスを,ダイレクトアクセスメモリ44を介して,メモリ48に格納する。つまり,ブロック評価値が大きく,しかも動画領域を優先的に選択することになる。これは,垂直高域スペクトラム成分が多く,かつ動きのある領域(ブロック)を検出したことになる。このような領域では,単純に第1の走査線信号のみを用いて順次化のため補間走査線を作成したのでは,ちらつきやぎざぎざの画像となるから,これを改善するために,第2の走査線信号の情報を伝送し,情報量を増やす狙いがあるからである。
メモリ48の出力(ブロックアドレス)は,パケットデータエンコーダ49に供給される。パケットデータエンコーダ49においては,DPCMエンコーダ27から出力される各ブロック画像データの中から,選択されたブロックアドレスに対応する画像データのみが取込まれ,対応するアドレスが付加されパケット化され,デジタル伝送部50へ供給する処理が行われる。」(第8ページ左下欄第7行ないし右下欄第11行)
(10)「上記の実施例において,減算器31からはライン間の差分値を取出している。この差分値の内容は,先にも説明したように垂直高域スペクトル成分(垂直エツジに対応)を多く含むことになる。よって,垂直エツジ部分における折り返し成分による歪み妨害を低減するのに有効となる。
しかし,上記差分値としては,フィールド間の画素の差分値を用いてもよい。」(第8ページ右下欄第12行?同第19行)
(11)「第7図はこの発明の他の伝送装置の実施例を示している。
第1図の実施例と異なる部分は,減算器31においてフィールド間の差分値が得られるように,走査線補間回路部22として,1/60秒遅延回路22aを用いている点である。他の部分は,先の実施例と同じであるから,同一符号を付している。この実施例では,減算器31において第2図(F)に示すようにフィールド間の画素の差分値を得ることができる。この情報の場合,ブロック評価値として,フィールド間の差分値の絶対値を演算し,ブロック内の画素に関する累積和で定義したことになる。この場合のフィールド間の差分値は,テンポラル高域通過フィルタ出力と等価であるので,テンポラル高域スペクトル成分を多く含む,すなわち動画領域の多いブロックを優先的に選択伝送することになる。」(第10ページ左上欄1行?同第17行)
(12)「L個のブロックは,付加信号としてデジタル伝送されるために,データ誤り率を適切に確保するように設計することで,伝送雑音の影響はほとんど無視できる。付加信号は,第2の飛び越し走査信号を第1の走査信号との差分値の形で伝送されている。よって受信側では,復調した付加信号と第1の飛び越し走査信号(主信号)との和をとれば,第2の飛び越し走査信号を再現できる。従って,伝送されてきたL個のブロックにおいては,主信号と同じS/Nを持つ第2の飛び越し走査信号を再生できる。また,L個のブロック以外のブロックでは,主信号を用いて補間信号を作成するために,作成した疑似的な第2の飛び越し走査信号は主信号とほとんど同じS/Nとなる。」(第10ページ右下欄第14行ないし第11ページ左上欄第7行)
(13)「時間圧縮部89の出力は,525本/1:1の信号の第2の飛び越し走査信号としてスイッチ90の一方の入力部に供給される。この第2の飛び越し走査信号に対応した第1の飛び越し走査信号は,次のように再現されている。
即ちY/C分離部72で分離された輝度信号(主信号)は,時間軸圧縮部80にも供給されている。この信号は,第1図の時間伸長部18,NTSCエンコーダ21,アナログ伝送部51の輝度信号系統に対応する信号である。この輝度信号は,時間圧縮されて525本/1:1の信号の第1の飛び越し走査信号としてスイッチ90の他方の入力部に供給される。このスイッチ90は,第1図に示したスイッチ14の振り分け処理に対して,合成処理を行うスイッチであり,第1と第2の飛び越し走査信号を交互に選択し,1フイールド内に納めて出力端子91に導出する。
上記のように伝送側と同じ順次走査信号を得るできるが,1フイールド内のブロック評価値の高い領域では,飛び越し走査信号による折り返し歪み妨害を軽減するために,L個のブロックの画像データを用いて補間走査信号を作成している。」(第11ページ右下欄第17行?第12ページ左上欄第18行)

1-2 引用例2(国際公開第92/10061号パンフレット)
原査定において引用された国際公開第92/10061号パンフレット(平成4年6月11日国際公開,以下「引用例2」という。)には,図面とともに,次のとおりの記載がある。(なお,和文については,特表平6-504169号公報から対応部分を抜粋。)
(1)“This invention relates to methods and systems for coding alternate fields of an interlaced video format and has particular applicability to arrangements wherein the other fields have already been coded.
Interlaced scanning is an efficient method of bandwidth compression for television transmission. Further bandwidth compression can be achieved by downsampling the interlaced video sequence by deleting either all the even or all the odd fields. This scheme is used, for example, in the current Motion Picture Experts Group (MPEG) proposal relating to coding and decoding protocols for the compression of video data. In that proposed format only the odd fields of an interlaced video sequence are encoded and transmitted. The present invention, utilizing the fact that even and odd fields are highly correlated, makes it possible to code the missing even fields very efficiently.”(明細書第1ページ第1行ないし第25行)
「この発明はインターレースされたビデオ形式の交互フィールドを符号化する方法と装置に関連し,かつ他のフィールドが既に符号化された場合の装置に特に適用される。
インターレースされた走査はテレビジョン伝送の帯域幅圧縮の有効な方法である。別の帯域幅圧縮はすべての偶フィールドあるいはすべての奇フィールドのいずれかを削除することによりインターレースされたビデオシーケンスのダウンサンプリングで達成できる。この機構は例えばビデオデータを圧縮する符号化・復号化プロトコルに関連する現行の動画エキスパートグループ(MPEG:Motion Picture Experts Group)提案で使用されている。その提案された形式において,インターレースされたビデオシーケンスの奇フィールドのみが符号化されかつ伝送される。偶フィールドと奇フィールドが強く相関されているという事実を利用する本発明は偶フィールドの欠落(missing)を非常に効率的に符号化することを可能にする。」
(2)“DESCRIPTION OF THE INVENTION
Referring now to FIG. 1, there is illustrated a system for coding alternate fields of an interlaced video sequence for transmission to a decoder. Thus, for frames of video made up of successive odd and even fields of video data, the FIG. 1 system is useable for coding the even fields for example. ”(明細書第6ページ第1行ないし第7行)
「(発明の説明)
さて第1図を参照すると,そこには復号器に伝送するためにインターレースされたビデオシーケンスの交互フィールドを符号化する装置が例示されている。このように,ビデオデータの連続する奇および偶フィールドから構成されたビデオのフレームに対して,第1図の装置は例えば偶フィールドの符号化に使用できる。」
(3)“The odd field data is encoded by unit 21 and provided to modulator unit 68.”(明細書第6ページ第25行ないし第26行)
「奇フイールドデータはユニット21により復号され,かつ変調器ユニット68に与えられる。」
(4)“Encoded odd field data is decoded by unit 23. In this way any errors introduced by coding and decoding will be taken into account during the block matching process. Decoded odd field data is designated Oc(t).”(明細書第6ページ第26行ないし第30行)
「符号化された奇フイールドデータはユニット23により復号される。このようにして,符号化と復号化により導入されたエラーはブロック整合プロセスの間に考慮されよう。復号された奇フイールドデータはOc(t)と呼ばれている。」
(5)“As indicated, inputing Oc(t) to unit 32 results in the interpolated output Oci(t) and similarly, interpolating of input Oc(t-1) results in interpolated output Oci(t-1) and interpolating of E(t) results in interpolated output Ei(t).”(明細書第8ページ第13行ないし第18行)
「示されたように,ユニット32にOc(t)を入力すると補間出力Oci(t)となり,同様に,入力Oc(t)の補間は補間出力Oci(t-1)となり,E(t)の補間は補間出力Ei(t)となる。」
(6)“The block matching means finds for each given block of pixels in Ei(t), the corresponding blocks in Oci(t), Oci(t-1) and Eci(t-1) which match the given block in Ei(t) most closely. These can be referred to as the best matched forward, backward and cosited blocks. The block matching means then calculates an appropriate motion vector to each of the identified best matching blocks and outputs that data to memory bank 50.”(明細書第8ページ第28行ないし第36行)
「ブロック整合手段はEi(t)の画素の所与の各ブロックに対して,Ei(t)の所与のブロックを最も近く整合する0ci(t),0ci(t-1),およびEci(t-1)の対応ブロックを見いだす。これらは最良に整合した前置,後置および併置ブロックとして参照できる。次にブロック整合手段は識別された最良整合ブロックの各々に適切な動きベクトルを計算し,かつメモリバンク50にそのデータを出力する。」
(7)“Best mode generator means 60 receives as input each block of Ei(t) and the best matched forward, backward and cosited blocks found by the block matching means. Concurrently, motion vector selector, shown as unit 62, receives the motion vector values for each of the best matched blocks. The best mode generator determines which of the best matched blocks most closely matches the appropriate block in Ei(t). These different comparisons are known as modes. Thus there can be a forward mode, a backward mode and a cosited mode based on a comparison of a specific block of pixel data from Ei(t) with the best matched blocks of future odd, past odd and past even pixel data, respectively.”(明細書第9ページ第27行ないし第29行)
「最良モード発生器手段60はEi(t)の各ブロックとブロック整合手段により見いたされた最良整合前置,後置および併置ブロックを入力として受信する。同時に,ユニット62として示された動きベクトル選択器は各最良整合ブロックの動きベクトル値を受信する。最良モード発生器はどの最良整合ブロックがEi(t)の適切なブロックを最も近く整合するかを決定する。これらの別々の比較はモードとして知られている。このように,未来の奇画素データ,過去の奇画素データおよび過去の偶画素データの最良整合ブロックにより,Ei(t)からの画素データの特殊ブロックの比較に基づいて前置モード,後置モード,および併置モードがそれぞれ存在し得る。」
(8)“After selecting the best mode block, the best mode generator generates three different outputs; the best mode block, a difference block and a signal to motion vector selector unit 62 and modulator unit 68 indicating which mode has been selected.”(明細書第10ページ第11行ないし第15行)
「最良モードブロックの選択の後,最良モード発生器は3つの異なる出力,すなわち,最良モードブロック,差ブロック,およびどのモードが選択されたかを示す動きベクトル選択器ユニット62と変調器ユニット68への信号を発生する。」
(9)“The difference block is the result of a pixel by pixel subtraction of the values of the overall best mode block from the block in Ei(t). The difference block is then coded by block data encoder 41 and provided to modulator unit 68.”(明細書第10ページ第26行ないし第30行)
「差ブロックはEi(t)のブロックから全最良モードブロックの値の画素毎の減算の結果である。差ブロックはブロックデータ符号器41により符号化され,かつ変調器ユニット68に与えられる。」
(10)“The coded difference block data is also provided to block data decoder 58 shown in FIG. 7. The block data decoder performs the reverse operations in the reverse order of the encoder.” (明細書第12ページ第1行ないし第4行)
「符号化された差ブロックデータもまた第7図に示されたブロックデータ復号器58に与えられる。ブロックデータ復号器は符号器の逆順序で逆動作を実行する。」
(11)“The output of block data decoder 58 is provided to block adder 56. Block adder 56 also receives the best mode block from the best mode generator. It adds the difference block to the best mode block to create the same even field which will be recreated by the decoder. That even field is then provided to memory bank 50 where it will be used as the cosited past even field by cosited block matching unit 44 during the next iteration of the system.”(明細書第12ページ第8行ないし第17行)
「ブロックデータ復号器58の出力はブロック加算器56に与えられる。ブロック加算器56もまた最良モード発生器から最良モードブロックを受信する。それは復号器により再形成される同じ偶フィールドを創成するために最良モードブロックに差ブロックを加算する。その偶フィールドはメモリバンク50に与えられ,そこでは装置の次の反復の間に併置ブロック整合ユニット44により併置された過去の偶フィールドとして使用されよう。」
(12)“Modulator unit 68 then combines the four sets of data it has received (odd field data, coded motion vector data, coded difference block data and best mode signal data) and provides an appropriate signal to terminal 70. From there the data can be sent to an appropriate decoder. ” (明細書第12ページ第18行ないし第23行)
「変調器ユニット68は受信したデータの4つの組(奇フイールドデータ,符号化された動きベクトルデータ,符号化された差ブロックデータおよび最良モード信号データ)を結合し,適切な信号を端子70に与える。そこからデータは適切な復号器に送ることができる。」
(13)“In FIG. 13, the decoder includes input means, shown as terminal 80, for receiving encoded data. Demodulating means, shown as demodulator unit 82 separates the encoded data into four bit streams: location signals in the form of a motion vector bit stream, a best mode signal bit stream, pixel error signals in the form of a difference block bit stream and an odd field data signal bit stream.”(明細書第15ページ第26行ないし第33行)
「第13図において,復号器は符号化されたデータを受信する,端子80として示された入力手段を含んでいる。復調器ユニット82として示された復調手段は符号化されたデータを4つのビットストリーム,すなわち,動きベクトルビットストリームの形の場所信号,最良モード信号ビットストリーム,差ブロックビットストリームの形の画素エラー信号,および奇フイールドデータ信号ビットストリームに分離する。」
(14)“In operation of unit 85 as illustrated, the appropriate mode is then loaded into MUX unit 106, which outputs the appropriate prediction block to block adder unit 87.
Block decoder unit 89 decodes the difference blocks and then provides the difference block to the block adder unit 87 where it is added to the single best mode data block from unit 85.” (明細書第17ページ第23行ないし第30行)
「例示されたようなユニット85の動作では,適切なモードがMUXユニット106に負荷され,それはブロック加算器ユニット87に適切な予測ブロックを出力する。
ブロック復号器ユニット89は差ブロックを復号し,次に,ユニット85から単一最良データブロックに加算されるブロック加算器ユニット87に差ブロックを与える。」
(15)“The combination by block adder unit 87 of the best mode block and the difference block creates the coded field Eci(t).” (明細書第18ページ第3行ないし第5行)
「最良モードブロックと差ブロックのブロック加算器ユニット87による結合は符号化されたフィールドEci(t)を創成する。」
(16)“The fourth bit stream outputted by demodulator unit 82 is the coded odd field data. This data is provided to decoder unit 91, which may provide MPEG type coding compatible with prior encoding.” (明細書第18ページ第9行ないし第12行)
「復調器ユニット82により出力された第4のビットストリームは符号化された奇フイールドデータである。このデータは先行する符号化に両立するMPEGタイプの符号化を与える復号器ユニット91に与えられる。」
(17)“Thus enhanced field of data Oci(t) is created and sent to combiner unit 90 and memory bank 86. Memory bank 86 uses Oci(t) and Oci(t-1) pixel field data which was created in the system's previous iteration, to generate the appropriate blocks for block coupling means 85.”(明細書第18ページ第15行ないし第20行)
「データOci(t)の強化フィールドがこのように創成され,かつ結合器ユニット90とメモリバンク86に送られる。メモリバンク86はブロック連結手段85に適切なブロックを発生するために,装置の先行の反復で創成されたOci(t)およびOci(t-1)画素フィールドデータを使用する。」

2 対比
2-1 対応関係
本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比する。
ア 基本的技術用語について
引用例1の「飛び越し走査」,「順次走査」,「走査線」は,それぞれ本願発明の「インタレース走査」,「ノンインタレース走査」,「ライン」に相当することは明らかである。

イ 目的について
本願発明は,「本発明は,圧縮信号データ・レートが圧縮インタレース走査信号以上に大幅に増加することなく,インタレース走査イメージとノンインタレース走査イメージの両方を再生するための圧縮信号を提供する圧縮システムを目的」(明細書第1ページ第17行ないし第20行)とするものである。
一方,引用例1の上記記載(1)には,従来の技術として,現行のテレビジョン方式の多くが採用する飛び越し(インターレース)走査では,NTSC方式を例にとると,1枚の画像(1フレーム)は,約480本の有効走査線で構成され,第1フィールドで1ラインおきに240本が伝送され,l/60秒後の第2フィールドで残りの240本が伝送されることが記載されており,
引用例1の上記記載(2),(3)及び(13)によれば,
引用発明は,飛び越し走査で伝送されるそのような現行方式信号を主信号とし,順次走査化のための補助信号を付加信号として狭い伝送帯域幅にて伝送して現行の受像機との両立性を保ちつつ画質改善された順次走査信号の再生を実現するものであって,両立性が保たれることから現行受像機では飛び越し走査映像が再生されることは明らかである。
したがって,引用発明は,伝送量を大幅に増加させることなくインタレース走査(飛び越し走査)イメージとノンインタレース走査(順次走査)イメージの両方を再生するためのシステムを提供するという目的においては本願発明と相違がない。

ウ 現行の受像機の両立性を保つ方式の具体例(参考文献)
引用例1の上記記載(2)では,上記現行の受像機の両立性を保つ方式の具体例として,ACTVシステムにおいて,ヘルパー信号と呼ばれるフィールド間差分信号を同一チャンネルの直交多重変調を利用してアナログ伝送するものを例示している。なお,引用例1の上記記載(2)で引用するM. A. Isnardi, et. “Encoding for Comatibility(“Compatibility”の誤記と認められる。) and Recoverability in the ACTV System” IEEE Tr. On broadcasting, Vol. BC-33, No.4, pp116-pp123, Dec. 1987(以下,「参考文献」という。)の記載事項は下記のとおりである。

記(「参考文献」より抜粋。なお,「」内はその翻訳である。)
“Abstract-This paper describes an advanced compatible television (ACTV) system intended for the single‐channel transmission of widescreen EDTV images. Existing NTSC receivers display a selected 4:3 portion of the widescreen image with standard NTSC resolution. However, a new widescreen receiver, tuned to the same 6-MHz RF channel, displays a widescreen image with a resolution in excess of 400 lines/picture height in both spatial dimensions.”(第116ページ左欄第1行ないし第10行)
「概要-この論文は,ワイドスクリーンEDTV画像の単一チャンネルの伝送を意図した高度な互換性をもつテレビ(ACTV)システムについて記述するものである。既存のNTSCレシーバーは,ワイドスクリーン画像のうち選択された4:3の部分を標準NTSC解像度で表示する。しかしながら,同じ6MHz RFチャンネルの新しいワイドスクリーン・レシーバーは,水平/垂直の両次元において400ライン/ピクチャ・ハイトを越える解像度でワイドスクリーン画像を表示する。」

“Throughout the remainder of this paper, a 525-line, 59.94 field/sec, pro-scan source with 5:3 aspect ratio is assumed. The new widescreen high line-rate receiver is assumed to have an equivalent scanning format. For simplicity, assume that the central 4:3 portion of the widescreen image has been selected for display on the conventional NTSC receiver.”(第117ページ左欄第6行ないし第12行)
「以下,この論文では,525ライン,59.94フィールド/秒,アスペクト比5:3の順次走査信号が仮定される。新しいワイドスクリーン高ライン・レート・レシーバーは,これと等価な走査フォーマットを持つと仮定される。簡単のため,ワイドスクリーン・イメージ中央の4:3の部分が従来のNTSCレシーバーへの表示用に選択されていると仮定する。」

“Each pro-scan signal is converted to 2:1 interlace by retaining either the odd or even lines in each field”(第117ページ左欄27行ないし28行)
「各順次走査信号は,各フィールドの奇数又は偶数ラインとして使用することにより,2:1のインターレースに変換される。」

“Therefore, a V-T "helper" signal is sent to assist the ACTV receiver in the conversion from interlaced to pro-scan format.”(第117ページ右欄15行ないし第17行)
「したがって,V-T“ヘルパー”信号は,インターレースから順次走査フォーマットへの変換の際にACTVレシーバーを補助するために送られる。 」

“The Helper Signal
The luminance helper signal is actually a temporal prediction error. Fig.2 shows the algorithm used to create it. Consider pixels A, X, and B, which are in the same spatial position in the image. At the encoder, a prediction is made for "missing" pixel (X) by averaging the "before" and "after" pixels (A and B). The prediction is subtracted from the actual value, and the error between the two becomes a sample of the helper signal. The helper signal is bandlimited to about 750 KHz and is transmitted in quadrature with the main RF picture carrier [13].
At the ACTV receiver, a similar prediction of missing pixel X is made using an average of samples A and B, and the error is added to the prediction. Thus, the conversion from interlaced to pro-scan format is assisted by V-T helper signal.”(第117ページ右欄18行ないし第118ページ左欄1行)
「ヘルパー信号
輝度ヘルパー信号は,実際には,時間的な予測誤差である。図2は,それを作成するアルゴリズムを示す。画像の同じ空間位置にある画素をA,X及びBとする。エンコーダでは,“before(前)”及び“after(後)”の画素を平均することによって“missing(欠落)”画素(X)の予測値が生成される。予測値は,実際の値から減算され,2つの間の誤差がヘルパー信号のサンプル値となる。ヘルパー信号は,約750kHzに帯域制限され,主RF映像信号搬送波と垂直な位相で伝送されます[13]。
ACTVレシーバーでは,サンプル値A及びBの平均を用いて欠落画素Xの同様の予測値が生成され,この予測値に上記誤差が加算される。こうして,V-Tヘルパー信号により,インターレースから順次走査フォーマットへの変換が補助される。」

“Black samples, which are available at the receiver, are transmitted as the main signal. A white sample, such as X, is predicted by a temporal average,(A+B)/2, and the prediction error, X-(A+B)/2, is lowpass filtered horizontally and sent as a helper signal. For still images, the helper signal is zero. At the receiver, X is recovered by adding the error to the temporal average.”(第118ページ図2)
「レシーバーで利用可能な黒いサンプル値は,主信号として伝送される。Xのような白いサンプル値は,時間的な平均(A+B)/2によって予測され,予測誤差X-(A+B)/2が水平方向に低域通過濾波され,ヘルパー信号として伝送される。静止画ではヘルパー信号は0となる。レシーバーでは,Xは,時間的な平均に誤差を加算することにより復元される。」

エ 本願発明の「ノンインタレース走査ビデオ信号のフレームを出力し,該ノンインタレース走査ビデオ信号の連続するフレームの1つおきのラインから一次ビデオ信号と名付けたインタレース走査ビデオ信号を生成し」,および,「前記圧縮された一次ビデオ信号を伝送する状態にする」について
引用例1の上記記載(4),(5)及び第1図によれば,入力端子11には順次走査信号である輝度信号Yが供給され,スイッチ14により,走査線毎に第1の飛び越し走査信号Y1(主信号側)と第2の飛び越し走査信号Y2(付加信号側)とが交互に振り分けられる。主信号側の時間伸長部18から得られた信号は,NTSCエンコーダ21に入力され,NTSC方式のテレビジョン信号に変換され,付加信号側の系統との時間合わせを行う遅延部28を介してアナログ伝送部51に供給される。
ここで,「第1の飛び越し走査信号Y1(主信号側)」は,本願発明にいう「一次ビデオ信号と名付けたインタレース走査ビデオ信号」(以下,単に「一次ビデオ信号」という。)に相当し,上記「一次ビデオ信号」は,時間伸長部18,NTSCエンコーダ21,遅延部28を介してアナログ伝送部51から伝送されるから,「伝送する状態にする」構成の存在が認められ,
引用発明も,本願発明と同様「ノンインタレース走査ビデオ信号のフレームを出力し,該ノンインタレース走査ビデオ信号の連続するフレームの1つおきのラインから一次ビデオ信号と名付けたインタレース走査ビデオ信号を生成し」,「前記一次ビデオ信号を伝送する状態にする」ものといえる。
もっとも,本願発明は,「ビデオ信号を圧縮する」方法であって,「一次ビデオ信号を圧縮して圧縮された一次ビデオ信号を出力して」,「前記圧縮された一次ビデオ信号」を伝送する状態にしているのに対し,引用発明では,一次ビデオ信号を(圧縮せずに)伝送する状態にしている。

オ 本願発明の「前記ノンインタレース走査ビデオ信号の間に入っているラインに対応する,前記一次ビデオ信号を生成するときに使用されなかった二次ビデオ信号」を「一次ビデオ信号から予測」について
引用例1の上記記載(6),(8),第1図及び第2図によれば,時間伸長部18から得られる第1の飛び越し走査信号Y1は,走査線補間回路部22に供給され,加算器24で1H遅延回路23を経た1走査線期間前の信号と加算され,係数器25で1/2され,減算器31に供給される。そして,減算器31からは,時間伸長部17から得られる第2の飛び越し走査信号Y2と前記係数器25の出力との差が出力される。
なお,上記記載(6),(8)及び第2図の記載からみて,上記記載(8)の「今,同図(A)に示すように走査信号にn1,n1,n3の符号を付すと,減算器31から得られる対応する1つの走査信号はn2-{(n1+n3)}となる。」は,「今,同図(A)に示すように走査信号にn1,n2,n3の符号を付すと,減算器31から得られる対応する1つの走査信号はn2-{(n1+n3)/2}となる。」の誤記と認められる。
前記第2の飛び越し走査信号n2は,順次走査による走査信号を走査線毎に振り分けたものであって第1の飛び越し走査信号n1及びn3の間の信号であるから,本願発明にいう「前記ノンインタレース走査ビデオ信号の間に入っているラインに対応する,前記一次ビデオ信号を生成するときに使用されなかった二次ビデオ信号」といえる。
また,上記記載(10),(11),第2図及び第7図によれば,上記のようなライン間の差分値に代えてフィールド間の差分値を用い得ることについても記載がある。
これらの差分値が,ライン間又はフィールド間の相関を利用して,第1の飛び越し走査信号(本願発明にいう「一次ビデオ信号」に相当。)から第2の飛び越し走査信号を『予測』し,該『予測』値と実際の第2の飛び越し走査信号(本願発明にいう「二次ビデオ信号」に相当。)との『予測』誤差を求めるものといえることは,
例えば,上記参考文献(特に,第117ページ右欄18行ないし第118ページ左欄1行,第118ページ図2の記載参照。)において,画素Xに対して時間軸上の前後の画素A及びBの加算平均である(A+B)/2を「予測値(prediction)」,X-(A+B)/2を「予測誤差(prediction error)」と称していることからみても明らかである。
したがって,引用発明も,本願発明と同様「前記ノンインタレース走査ビデオ信号の間に入っているラインに対応する,前記一次ビデオ信号を生成するときに使用されなかった二次ビデオ信号」を「一次ビデオ信号から予測」していることが認められる。
もっとも,本願発明は,「圧縮された一次ビデオ信号を伸張し」,「伸張された一次ビデオ信号」から「二次ビデオ信号」を予測するものであるのに対し,引用発明では,一次ビデオ信号から直接二次ビデオ信号を予測している。

カ 本願発明の「該二次ビデオ信号と,前記ノンインタレース走査ビデオ信号の前記間に入っているラインに対応するビデオ信号と対応する絵素間の差を生成」について
引用例1の上記記載(6)及び(11)並びに上記オによれば,上記減算器31は,上記『予測』されたといい得る二次ビデオ信号と(入力順次走査信号自体に含まれる)元の二次ビデオ信号との対応する絵素間の差を生成しており,
引用発明も,本願発明にいう「該二次ビデオ信号と,前記ノンインタレース走査ビデオ信号の前記間に入っているラインに対応するビデオ信号と対応する絵素間の差を生成」する構成を備えている。

キ 本願発明の「該差を圧縮し」,「圧縮された差を伝送する状態にする」について
引用例1の上記記載(7),(9),(12)及び第1図によれば,上記減算器31で生成された絵素間の差は,DPCMエンコーダ27で伝送容量を低減すべくブロック符号化され,パケットデータエンコーダ49で,ブロック評価値が大きい動画領域のデータが優先的にパケット化されて,デジタル伝送部50に出力されるから,
引用発明も,本願発明にいう「該差を圧縮し」,「圧縮された差を伝送する状態にする」構成を有しているといえる。
なお,引用例1では,「該差」につき,ブロック評価値が大きい動画領域の優先度の高いもののみ伝送する状態にしているが,『「該差を圧縮し」「圧縮された差を伝送する状態にする」』といい得る限りにおいて本願発明と変わりのないものである。

2-2 一致点,相違点
上記アないしキの対比結果によれば,両者は,
「ノンインタレース走査ビデオ信号のフレームを出力し,該ノンインタレース走査ビデオ信号の連続するフレームの1つおきのラインから一次ビデオ信号と名付けたインタレース走査ビデオ信号を生成し,
前記ノンインタレース走査ビデオ信号の間に入っているラインに対応する,前記一次ビデオ信号を生成するときに使用されなかった二次ビデオ信号を前記一次ビデオ信号から予測し,
該二次ビデオ信号と,前記ノンインタレース走査ビデオ信号の前記間に入っているラインに対応するビデオ信号と対応する絵素間の差を生成して該差を圧縮し,
前記一次ビデオ信号と圧縮された差を伝送する状態にする方法。」
である点で一致し,以下の点で相違している。

[相違点1]本願発明は,「ビデオ信号を圧縮する」方法であって,「一次ビデオ信号を圧縮して圧縮された一次ビデオ信号を出力して」,「前記圧縮された一次ビデオ信号」を伝送する状態にしているのに対し,引用発明では,一次ビデオ信号を(圧縮せずに)伝送する状態にする点。
[相違点2]本願発明は,「圧縮された一次ビデオ信号を伸張し」,「伸張された一次ビデオ信号」から二次ビデオ信号を予測するものであるのに対し,引用発明では,一次ビデオ信号から直接二次ビデオ信号を予測する点。

3 判断
上記各相違点について検討する。
3-1 相違点1について
a 引用例2の記載技術
a1 引用例2の上記記載(1)ないし(17)によれば,引用例2には,
偶フィールド信号と奇フィールド信号から構成されるインターレース走査ビデオ信号を圧縮して伝送するのに,偶フィールド信号と奇フィールド信号が強く相関されているという事実を利用し(記載(1)参照),
インターレース走査ビデオ信号を構成する一方の奇フィールド信号のみをそのままMPEG圧縮符号化(符号器ユニッット21は,その復号が「MPEGタイプ」の「復号化器91」であることからMPEG圧縮する符号化器であることは自明である。)して伝送し(記載(1),(3)及び(16)参照),
他方の偶フィールド信号については,(これを奇フィールドと同様にそのままMPEG圧縮符号化して伝送するのではなく,)現偶フィールド画素データ(現行の偶画素データ)のブロックと,予測された最良ブロックとの画素毎のエラー信号を表す差ブロック(をDCT変換した)信号を,動きベクトル,最良モード信号とともに伝送し(記載(2),(4)ないし(9),(12)参照),
受信側では,奇フィールドMPEG信号から奇フィールド信号を復号するとともに,その復号した奇フィールド信号と画素エラー信号としての差ブロックとから,動きベクトル,最良モード信号を用いて,偶フィールド信号を再生してインターレース走査ビデオ信号を再構成することにより(記載(13)ないし(17)参照),
効率的符号化を図る技術(以下,「技術事項A」という)が記載されている。

a2 上記最良ブロックは,最良に現偶フィールド画素データを予測するものであるから,現偶フィールド画素データ予測値といえるものであり,
(i)符号器ユニッット21でMPEG圧縮された奇フィールド信号を複合器ユニット23で伸長した奇フィールド信号に相当する過去または未来の奇フィールド信号,(ii)過去の偶フィールド信号,のいずれかから予測するものである(以下,順に,「前置モード(a forward mode)」,「後置モード(a backward mode)」,「併置モード(a cosited mode)」。記載(7)参照)。
ここで,上記「技術事項A」は,上記最良ブロックを予測するのに,上記(ii)過去の偶フィールド信号を用いた「併置モード」も選択し得るものとなっているが,上記「併置モード」に使用する過去の偶フィールド信号は,ブロックデータ符号器41の出力をブロックデータ復号器58,ブロック加算器56を経て復号器側と同じ条件で再構成した偶フィールド信号(Eci(t))をメモリバンク50に記憶しておき,次回の予測の際に過去の偶フィールド信号(Eci(t-1)として用いたものであり(記載(10),(11),(14),(15)参照),
原理上,偶フィールド信号自体が伝送されることはないのであるから,上記過去の偶フィールド信号は,元をたどれば,少なくとも過去のいずれかの時点において,圧縮された奇フィールド信号を伸長した奇フィールド信号(上記(i))から(偶フィールド信号を用いずに)予測されたブロックに基づいて再構成したものであることが明らかである。
したがって,引用例2のものは,『圧縮された奇フィールド信号を伸長し,伸長された奇フィールド信号から偶フィールド信号を予測』するものといえる(上記「技術事項A」とこの『圧縮された奇フィールド信号を伸長し,伸長された奇フィールド信号から偶フィールド信号を予測』する技術とを併せて,以下,「引用例2記載技術」という。)。
なお,必ずしも「併置モード(a cosited mode)」を選択できるようにしなければならないというわけではないことは当業者に自明であるから,「併置モード(a cosited mode)」を選択肢から除外した技術も引用例2から想定し得るものである。

b 引用発明および上記「引用例2記載技術」の基本前提技術
一般に,引用例1や上記参考文献に見られるように,現行(出願当時の“現行”)の受信機との両立性を保ちつつ画質改善された順次走査信号の再生を実現する伝送技術自体は周知にすぎないところ,同伝送技術は,
『1つのビデオ信号が強く相関のある2つのビデオ信号から構成されている場合に,または,1つのビデオ信号が強く相関のある2つのビデオ信号に分解できる場合に,
その一方のビデオ信号を伝送すると共に,他方のビデオ信号は,一方の信号から相関を利用して予測して得た他の信号の予測値と元の他方の信号との「差」を伝送するようにし,
受信側では,一方の信号と上記「差」とから他の信号を再生し,もって2つのビデオ信号から構成される元のビデオ信号と同等またはそれに近いビデオ信号を再構成するようにして,
元のビデオ信号全体を伝送するよりも少ない伝送量でビデオ信号を伝送する』というビデオ信号の特徴を利用した基本的技術(以下,「基本前提技術」という)を前提に,

順次走査ビデオ信号を再生可能とするための伝送方法として,
当該順次走査ビデオ信号は,現行の伝送に使用されている飛び越し走査の1次ビデオ信号(一方の信号)と,該順次走査ビデオ信号から上記飛び越し走査の1次ビデオ信号を除いた残余の飛び越し走査の2次ビデオ信号(他方の信号)とに分解されること,および,これら2つの画像信号は強く相関があることに着目して,
順次走査ビデオ信号の伝送に上記「基本前提技術」を適用するとともに,
その一方のビデオ信号である1次ビデオ信号を現行の伝送方式で伝送することで両立性を担保しつつ,
他方の2次ビデオ信号については,一方の信号から相関を利用して予測した他方の信号と元の他方の信号との差を伝送するようにして,
受信側では,2つのビデオ信号から構成される元のビデオ信号と同等またはそれに近いビデオ信号を再構成する技術であるといえることは,当業者が普通に理解し得るところである。

また,ビデオ信号を圧縮伝送する上記「引用例2記載技術」も,引用例2から想定しうる「併置モード(a cosited mode)」を除外した技術も,インターレース走査ビデオ信号が,強く相関のある偶フィールド信号と奇フィールド信号とから構成されることに着目して,該インターレース信号に上記「基本前提技術」を適用しあてはめたもの,すなわち,「基本前提技術」を前提としたものということができる。

c 周知技術
一般に,ビデオ信号を伝送する際に,圧縮を行い,圧縮したビデオ信号を伝送することは,本願出願当時,周知の技術(例えば,上記引用例2。特に,記載(1)ないし(3),(12)及び第1図参照)である。

d 容易想到性
上記周知事項(上記c参照)からすれば,また,引用例2(上記b参照)のように,引用発明が前提とする上記「基本前提技術」を,圧縮伝送するものに適用したものが知られていることからしても,
引用発明において,絵素間の差を圧縮したのと同様,一次ビデオ信号についても圧縮を行い,圧縮された一次ビデオ信号を伝送する状態とし,「ビデオ信号を圧縮する方法」に至ることは,当業者が容易に想到し得ることである。また,これによる効果も予測される範囲を超えるものではない。

請求人は,「本願発明は,ノンインタレースの一連のフレームからなるソースビデオ信号を圧縮することを目的とするもの」であって「本願発明と上記引用文献の技術は,その目的および解決しようとしている課題が明らかに相違」すると主張するので,これについて検討する。
確かに,引用発明は現行(出願当時の“現行”)の受信機との両立性を保つ方式であり,その現行(出願当時の“現行”)の受信機は,伝送されたアナログのインタレース信号を受信するものであるから,引用例1自体には,「主信号」を圧縮伝送しようという技術思想は示されていない。
しかしながら,上記「2 2-1 イ」で論じたように,
引用発明は,伝送量を大幅に増加させることなくインタレース走査(飛び越し走査)イメージとノンインタレース走査(順次走査)イメージの両方を再生するためのシステムを提供するという目的においては本願発明と相違がなく,
本願発明と引用発明とは,いずれも上記b記載の「基本前提技術」を前提とする技術であることにおいて変わりが無いところ,上記「基本前提技術」は,圧縮伝送か非圧縮伝送かに関わらず適用できる基本技術であることは当業者に明らかであり,
圧縮伝送が周知技術に過ぎないし,また,例えば,引用例2(上記b参照)のように,圧縮伝送するものに上記「基本前提技術」を適用したものが知られていることからしても,
たとえ,引用例1自体には,「主信号」も含め全信号を圧縮伝送しようという技術思想は示されていないとしても,上記相違点1に係る本願発明の構成が,当業者が容易に想到することができない格別のものとはいえない。また,これによる効果も予測される範囲を超えるものではない。

3-2 相違点2について
引用発明は,送信側で一次ビデオ信号と二次ビデオ信号を使用して付加信号(本願発明の「(絵素間の)差」に対応。)を生成し,一次ビデオ信号と圧縮された付加信号を伝送し,受信側で一次ビデオ信号と圧縮された付加信号を伸長したものから二次ビデオ信号を再構成するものである。
ところで,ビデオ信号の伝送には,不可逆の圧縮方式(例えば,本願発明又は引用例2において採用されることが想定されているMPEG方式)を用いることが一般的であるところ,
例えば,不可逆の圧縮方式で圧縮伝送するものであってその前提として上記「基本前提技術」を採用した上記引用例2でも,上記a2のとおり,『現偶フィールド画素データは,圧縮された奇フィールド信号を伸長した奇フィールド信号から予測』しているように,
送信側では,受信側で再構成する際に用いる信号と同じ条件の信号で付加信号を生成しておく必要があることは,当業者に自明の技術常識である。
そうすると,引用発明では,一次ビデオ信号を(圧縮せずに)伝送する状態にしているが,それに代えて「一次ビデオ信号を圧縮して圧縮された一次ビデオ信号を出力して」,「前記圧縮された一次ビデオ信号」を伝送する状態にする場合(相違点1に係る構成を適用する場合に相当。)には,受信側で圧縮された一次ビデオ信号と圧縮された付加信号とをそれぞれ伸長したものから二次ビデオ信号を再構成することになるから,送信側では,圧縮して伸長された一次ビデオ信号から付加信号を生成する必要があることも,同様に当業者に自明のことにすぎない。
したがって,引用発明に上記相違点1に係る構成を適用する場合に,相違点2に係る構成を併せて採用することは,技術常識といえる事項であるから,相違点2に係る構成は格別のものとはいえない。また,これによる効果も予測される範囲を超えるものではない。

3-3 まとめ,効果等
以上判断したとおり,本願発明における上記相違点1及び2に係る構成はいずれも当業者が容易に想到し得たものであり,また,各相違点を総合しても本願発明は当業者が想到することが困難なものとはいえない。
そして,本願発明の作用効果も,引用例1及び2,周知技術並びに技術常識から当業者が予測できる範囲のものである。

したがって,本願発明は,上記引用例1及び2に記載された発明,周知技術並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3-4 付記
なお,仮に,上記「2 2-1 キ」において,本願発明が「圧縮された差を『全て』伝送する状態にする」ものと限定的に解釈し,優先度の高いもののみを伝送し差の全てを伝送しない引用発明とは相違するといえたとしても,
引用例1の上記記載(3),(10)からみて,伝送に必要な帯域幅と第2の飛び越し走査信号のより精度の高い再生との比較考量から,後者を優先させて「差」を『全て』伝送するように構成することは,当業者が容易に想到し得ることである。
また,引用発明と上記「引用例2記載技術」とは,いずれもその前提として上記「基本前提技術」を採用し,元のビデオ信号全体を伝送するよりも少ない伝送量でビデオ信号を伝送するものであるところ,
引用例2の上記記載(9)によれば,圧縮された「差ブロック信号」を全て伝送する状態にしていることからみても,「圧縮された差を『全て』伝送する状態にする」ことに格別の困難性があるとはいえない。
また,これによる効果も予測される範囲を超えるものではない。

第4 むすび
以上のとおり,請求項1に係る発明は,引用例1及び2に記載された発明,周知技術並びに技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,残る請求項(請求項2ないし請求項8まで)について特に検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-10 
結審通知日 2006-10-13 
審決日 2006-10-24 
出願番号 特願平7-504035
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 北岡 浩
堀井 啓明
発明の名称 スケーラブル圧縮ビデオ信号を提供する方法と装置  
復代理人 柿沼 健一  
代理人 阿部 和夫  
代理人 谷 義一  

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