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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 G06Q
審判 査定不服 特29条特許要件(新規) 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1154544
審判番号 不服2003-12706  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-07-04 
確定日 2007-03-22 
事件の表示 特願2000-243457「賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 2月20日出願公開、特開2002- 56192〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本件出願は、平成12年8月10日の出願であって、平成15年5月27日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年7月4日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年8月4日付で手続補正がなされたものである。

2.平成15年8月4日付の手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成15年8月4日付の手続補正を却下する。

[理由]
(1)特許法第17条の2第4項の規定に関する検討
(1-1)補正前後の特許請求の範囲に記載された発明
平成15年8月4日付の手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、以下のように補正された。
「【請求項1】 ビルデータが蓄積されたビルデータベースと、データを格納する記憶領域(ストック領域)と、を具備するコンピュータにおいて、
前記コンピュータの処理手段は、
対象ビルの属性データを含む基礎データを、予めコンピュータに項目ごとに設定された重要度で尺度評価処理して項目毎のビルスコア(投資適格度)とビルスコア合計を算定し、
前記ビルデータベースに格納されている電子化された全てのビルデータのビルスコアおよびキャップレートから回帰直線式を算出し、
前記ビルデータベースから、ビルスコアが近似する2つ以上の競合ビルのビルデータを前記コンピュータが抽出し、記憶領域に一時記憶し、
前記記憶領域に一時記憶した競合ビルのビルデータおよびビルスコアと、キャップレートと、前記回帰直線式から、前記競合ビルのビルデータ及びキャップレートに関して該回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し、
前記回帰直線式と前記直線式から、対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅を算出し、
対象ビルのビル属性データおよびビルスコアおよびキャップレートをそれぞれデータベースに蓄積することを特徴とするキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項2】 前記基礎データは、ビル属性データと、賃貸条件データと、からなることを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項3】 前記賃貸条件データは、募集賃料、契約賃料、共益費、預り敷金金額、契約期間とからなることを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項4】 前記ビル属性データは、建物概要と、所有権関係データと、テナント関係データと、建物管理データと、からなり、
前記建物概要は、施行年月日、構造、階数、延床面積、主な用途、貸室面積、基準階貸室面積、天井高、空調、OA対応、床荷重、電気容量、エレベータ台数、駐車台数、施行会社とからなり、
前記所有権関係データは、所有形態(区分所有、共有)、建物・土地の所有者の属性からなり、
前記テナント関係データは、主なテナントの業種、業況からなり、
前記建物管理データは、管理会社、サブリース会社の情報と、からなることを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項5】 賃貸条件データ以外の入力された対象ビルの基礎データのビルスコアと、前記対象ビルのビルスコアと近似する前記ビルデータベースに蓄積されている競合ビルのビルスコアを、コンピュータが比較し、対象ビルの最適な賃貸条件データを算出することを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項6】 オフィスビルの属性データと、賃料算定手段により算定した賃料と、要求利回り(キャップレート)算定手段により算定したビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)からなるコンピュータに格納されたビルデータベースによりコンピュータが対象ビルの適正投資価格を算定し、さらに、コンピュータがクラス別ビルインデックスを利用した当該オフィスビルの将来の収益性の変動リスクに関する分析を参考に、LTV(Loan To Value )を任意に設定することで、対象ビルを裏付けとした証券化スキームにおける発行証券(デットとエクイティ)ごとの収益性の変動をシミュレーションし、最適な証券化スキームの検討を可能にすることを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項7】 前記ビルデータベースに蓄積されたデータにより、競合ビルのデータと比較処理を行い、不動産投資対象の候補物件の適正な管理コストをコンピュータが簡便に算定処理することを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム
【請求項8】 不動産投資対象の候補物件をコンピュータ検索可能な電子データリストとしてストック保存し、住所及び物件に関する条件を与えて検索選定された候補物件の情報を、地図情報とともに投資家など顧客に、インターネット環境のもとで電子データとして提供することを特徴とする請求項1記載の不動産投資判断支援システム」

一方、本件補正前の特許請求の範囲は、平成15年2月17日付手続補正書によって補正された、明細書及び図面の記載からみて、以下のものである。
「【請求項1】 電子データ化したオフィスビルの賃料モデルにより、コンピュータが対象ビルの賃料を含む賃貸条件を、競合ビルのビル属性および賃貸条件と対比比較し、さらに、推計により対象ビルのビル属性に応じた賃料を含む賃貸条件を算出処理することを特徴とする賃料算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項2】 電子データ化した多数のオフィスビルのビルスコア(投資適格度)および要求利回り(キャップレート)をビルデータベースとしてストックし、不動産投資対象ビルのビルスコア(投資適格度)と、競合ビルのビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)とを比較して、不動産投資対象ビルの適正な要求利回り(キャップレート)をコンピュータが算定処理することを特徴とするキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項3】 電子データ化したオフィスビルのビルデータベースを一定の基準にしたがってコンピュータが客観的・論理的に判定したビルスコア(投資適格度)に応じてカテゴリーに分け、各々のカテゴリー毎に、オフィスビルの属性データと、賃料算定手段により算定した賃料と、キャップレート算定手段により算定したビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)を集計・分析することを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項4】 不動産投資対象としての候補物件を、オフィスビルの属性データと、賃料算定手段により算定した賃料と、要求利回り(キャップレート)算定手段により算定したビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)等からなるビルデータベースの物件データとをコンピュータが比較処理をして、更にコンピュータが、候補物件の賃料、ビルスコア(投資適格度)、適正な要求利回り(キャップレート)を評価あるいは推計して、候補物件の投資対象としての適正判断を支援することを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項5】 オフィスビルについて、賃料算定手段により算定した賃料と、要求利回り(キャップレート)算定手段により算定したビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)とにより、不動産投資対象の候補物件のビル属性データを入力することで、コンピュータが候補物件に関するビルスコア(投資適格度)、適正な要求利回り(キャップレート)、現在までの収益性、または候補物件が属する投資適格度のビル群の収益性の推定データ(クラス別ビルインデックス)を算出処理することを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項6】 オフィスビルの属性データと、賃料算定手段により算定した賃料と、要求利回り(キャップレート)算定手段により算定したビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)からなるコンピュータに格納されたビルデータベースによりコンピュータが対象ビルの適正投資価格を算定し、さらに、コンピュータがクラス別ビルインデックスを利用した当該オフィスビルの将来の収益性の変動リスクに関する分析を参考に、LTV(Loan To Value )を任意に設定することで、対象ビルを裏付けとした証券化スキームにおける発行証券(デットとエクイティ)ごとの収益性の変動をシミュレーションし、最適な証券化スキームの検討を可能にすることを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項7】 オフィスビルの属性データ等からなるビルデータベースとを利用して、不動産投資対象の候補物件の適正な管理コストをコンピュータが簡便に算定処理することを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム
【請求項8】 不動産投資対象の候補物件をコンピュータ検索可能な電子データリストとしてストック保存し、住所及び物件に関する条件を与えて検索選定された候補物件の情報を、地図情報とともに投資家など顧客に、インターネット環境のもとで電子データとして提供することを特徴とする賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム」

(1-2)補正の適否の判断
本件補正は、拒絶査定に対する審判請求時の補正であるから、特許法第17条の2第1項第3号に掲げる場合の補正に該当し、本件補正により特許請求の範囲についてする補正は、同条第4項の規定によって同項第1号から第4号に掲げる事項を目的とするものに限られるところ、まず、本件補正が限定的減縮を目的とするものであるか(同項第2号に掲げられた事項を目的とするものであるか否か)について、以下に、検討する。

最初に、本件補正後の請求項1が、本件補正前の各請求項の限定的減縮に該当するものであるかについて、以下に検討する。

[請求項1について]
本件補正前の請求項1に記載された「賃料算定手段」と本件補正後の請求項1に記載された「キャップレート算定手段」とは全く別の算定手段であるので、本件補正前の請求項1には、本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」に相当する発明特定事項は記載されていない。よって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1を限定的に減縮したものではない。

[請求項2について]
本件補正前の請求項2の、「キャップレート算定手段」は、「電子データ化した多数のオフィスビルのビルスコア(投資適格度)および要求利回り(キャップレート)をビルデータベースとしてストックし、不動産投資対象ビルのビルスコア(投資適格度)と、競合ビルのビルスコア(投資適格度)及び要求利回り(キャップレート)とを比較して、不動産投資対象ビルの適正な要求利回り(キャップレート)をコンピュータが算定処理することを特徴とするキャップレート算定手段」というものである。
これに対し、本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」は、「対象ビルの属性データを含む基礎データを、予めコンピュータに項目ごとに設定された重要度で尺度評価処理して項目毎のビルスコア(投資適格度)とビルスコア合計を算定し、
前記ビルデータベースに格納されている電子化された全てのビルデータのビルスコアおよびキャップレートから回帰直線式を算出し、
前記ビルデータベースから、ビルスコアが近似する2つ以上の競合ビルのビルデータを前記コンピュータが抽出し、記憶領域に一時記憶し、
前記記憶領域に一時記憶した競合ビルのビルデータおよびビルスコアと、キャップレートと、前記回帰直線式から、前記競合ビルのビルデータ及びキャップレートに関して該回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し、
前記回帰直線式と前記直線式から、対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅を算出し、
対象ビルのビル属性データおよびビルスコアおよびキャップレートをそれぞれデータベースに蓄積することを特徴とするキャップレート算定手段」である。
したがって、本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」は、最終的に「前記回帰直線式と前記直線式から、対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅を算出」するものの、本件補正前の請求項2の「キャップレート算定手段」と異なり、「不動産投資対象ビルの適正な要求利回り(キャップレート)をコンピュータが算定処理する」ものではない。特に、本件補正前の請求項2の「不動産投資対象ビルの適正な要求利回り(キャップレート)」と本件補正後の請求項1の「対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅」は概念的に類似するものの、後者が2つの数値からなることからも明らかなように、その意味するところは両者で異なるものである。すなわち、本件補正前の請求項2の「キャップレート算定手段」と本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」は概念的に異なるものである。
さらに、本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」における、「対象ビルのビル属性データおよびビルスコアおよびキャップレートをそれぞれデータベースに蓄積する」点は、本件補正前の請求項2には、何ら記載も示唆もされていないことから、当該点に係る補正は、補正前の請求項2の「キャップレート算定手段」を概念的に下位にしたものとは認められない。
よって、本件補正後の請求項1の「キャップレート算定手段」は、本件補正前の請求項2の「キャップレート算定手段」を概念的に下位にしたものではない。
したがって、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項2を限定的に減縮したものではない。

[請求項3-8について]
本件補正前の請求項3-8には、「キャップレート算定手段」は記載されているものの、さらに、「賃料算定手段」との発明特定事項も記載されている。ここで、本件補正前の請求項3-8それぞれにおける、「賃料算定手段」に相当する発明特定事項は、本件補正後の請求項1には記載されていない。よって、明らかに、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項3-8を限定的に減縮したものではない。

以上の検討より、本件補正後の請求項1は、本件補正前のいずれかの請求項を限定的に減縮したものでない。さらに、本件補正後の請求項2-8は、本件補正後の請求項1を引用するものであるから、本件補正後の請求項1と同様に本件補正前のいずれかの請求項を限定的に減縮したものでない。
また、本件補正は、特許法第17条の2第4項に掲げられた、請求項の削除、誤記の訂正、不明りょうな記載の釈明の何れにも該当しないことは明らかである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に違反するものである。

(2)特許法第17条の2第3項の規定に関する検討
本件補正により補正された点のうち、特に以下の点について検討する。
(a)請求項1の「対象ビルの属性データを含む基礎データを、予めコンピュータに項目ごとに設定された重要度で尺度評価処理して項目毎のビルスコア(投資適格度)とビルスコア合計を算定し、
前記ビルデータベースに格納されている電子化された全てのビルデータのビルスコアおよびキャップレートから回帰直線式を算出し、
前記ビルデータベースから、ビルスコアが近似する2つ以上の競合ビルのビルデータを前記コンピュータが抽出し、記憶領域に一時記憶し、
前記記憶領域に一時記憶した競合ビルのビルデータおよびビルスコアと、キャップレートと、前記回帰直線式から、前記競合ビルのビルデータ及びキャップレートに関して該回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し、
前記回帰直線式と前記直線式から、対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅を算出し、
対象ビルのビル属性データおよびビルスコアおよびキャップレートをそれぞれデータベースに蓄積することを特徴とするキャップレート算定手段」との点、及び、関連する段落【0010】の本件補正に係る点。

(b)段落【0021】の「詳しくは、ビルデータが蓄積されたビルデータベースと、データを格納する記憶領域(ストック領域)とがコンピュータに装備されている。コンピュータが、対象ビルの属性データを含む基礎データを、予めコンピュータに項目ごとに設定された重要度で尺度評価処理して項目毎のビルスコア(投資適格度)を算定し、ビルスコア合計を算定する。ビルデータベースに格納されている電子化された全てのビルデータのビルスコアおよびキャップレートから回帰直線式(図2、図3参照)を算出する。ビルデータベースから、ビルスコアが近似する2つ以上の競合ビルのビルデータをコンピュータが抽出して記憶領域に一時記憶し、記憶領域に一時記憶した競合ビルのビルデータおよびビルスコアと、キャップレートと、回帰直線式(図2、図3参照)から、競合ビルのビルデータ及びキャップレートに関して回帰直線式と傾きが同一である直線式(図2、図3参照)を算出する。回帰直線式(図2、図3参照)と直線式(図2、図3参照)から、対象ビルのキャップレートおよびキャップレート幅を算出し、対象ビルのビル属性データおよびビルスコアおよびキャップレートをそれぞれデータベースに蓄積する。」との点。

(c)段落【0029】の「図3は図2を解析した図であり、図2で得られたビルスコア(投資適格度)と要求利回り(キャップレート )の相関関係、即ち回帰直線式と、コンピュータが抽出した対象ビルと項目毎の任意のビルスコアとビルスコア合計が近似する任意の2つ以上の回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し、如何に対象となる物件に適応して適切な不動産投資判断を導き出すかを解説している。すなわち、逆相関関係が成立する特定の逆相関関係の直線式による幅帯aの中にある物件にあっては、不動産投資判断支援システム上は、釣合いのとれた物件と判断され、投資するのに特に不利な物件ではないとの判断が得られることになる。」との点。

一方、上記補正事項(a)-(c)に関連する、願書に最初に添付した明細書等(以下「当初明細書等」という。)の段落【0021】,【0024】,【0025】,【0029】の記載は以下の通りである。
「【0021】
キャップレート算定手段30は、まず、一定の基準に従って投資対象ビルの投資対象としての適格度をビルスコア(投資適格度を示す評価点数)としてコンピュータにより数値化し、投資対象ビルの絞り込み、投資実行の可否の判断を支援する。
また、電子データ化した多数のオフィスビルのビルスコア及び要求利回り(キャップレート)をデータベースとしてストックし、その中から選定された競合ビルのビルスコア及び要求利回り(キャップレート)と投資対象ビルのビルスコアを比較することによって、投資対象となっているオフィスビルの要求利回り(キャップレート)32をコンピュータにより算定する。」

「【0024】
ビルスコアの算定の基礎となる電子データ化した要素としては、上記(0014)の賃料算定に使用した要素を含んで、より幅広い要素から構成される。これは、賃料の算定が、テナント(賃借人)の選好に含まれる要素を網羅したものであるのに対して、要求利回り(キャップレート)の基礎となるビルスコアは、テナントの誘致力に加えて、不動産所有者としての視点に立ち、不動産の投資・保有に伴う全ての要素を勘案する必要があるためである。すなわち、エリアデータとして、所在エリアにおける所在ビルの属性や集積度、立地企業の業種特性、賃貸マーケットの需給動向、小売販売額推移、市街地環境などがあげられる。」

「【0025】
またビルの属性データとしては、立地条件データとして、敷地の交通アクセスの利便性、形状、接道条件等々、建物概要データとして、竣工年月日、構造、階数、延床面積、主な用途、貸室面積、基準階貸室面積、天井高、空調、OA対応、床荷重、電気容量、エレベータ台数、駐車台数、施工会社等々がデータの基礎となる要素である。所有権関係データとしては、所有形態(区分所有、共有等)、建物・土地の所有者の属性、賃貸関係データとしては、テナントの数・構成、主なテナントの業種・業況、空室状況、建物管理データとしては、管理会社、サブリース会社等々の情報が基礎データとなる。これらの要素はいずれも、不動産の投資・保有に当たって考慮すべき要素であり、それぞれの重要度に応じて投資適格度に影響を与え、投資対象ビルの投資適格度を数値化したものとしてビルスコアが算定される。」

「【0029】
図3は図2を解析した図であり、図2で得られたビルスコア(投資適格度)と要求利回り(キャップレート)の相関関係を、如何に対象となる物件に適応して適切な不動産投資判断を導き出すかを解説している。すなわち、逆相関関係が成立する特定の逆相関関係の幅帯aの中にある物件にあっては、不動産投資判断支援システム上は、釣合いのとれた物件と判断され、投資するのに特に不利な物件ではないとの判断が得られることになる。これに対して、幅帯aに入らない物件については、座標の右上部bに外れた場合は割安な物件であるという評価になり、左下部cに外れた場合は割高な物件であるという評価となる。ちなみに、投資対象ビルのビルスコア(投資適格度)が入力されたデータから例えば点線dの位置にあるとすると、幅帯aに入る三角点eの周囲に要求利回り(キャップレート)があればマーケット水準であり比較的適正な投資価格と考えられるが、幅帯より上の黒丸点fの場合はビルの格がある程度以上であるのに比較的高い要求利回り(キャップレート)が得られるので買い得(割安)な物件と判断される。また、幅帯より下の四角点gの場合はビルの格の割りには要求利回り(キャップレート)が低いので、利回りに期待の持てない割高な物件との評価が得られる。
すなわち、投資不動産の売買における投資家の要求利回り(キャップレート)は、不動産が生み出す将来の収益性(インカムゲインとキャピタルゲイン)に対する期待を反映して、不動産市場における需要動向の中で形成される。」

また、当初明細書等の図2には一点鎖線が「調査対象ビルの線形回帰直線」であること、灰色の線が「投資対象ビルの適正キャップレートの範囲」であることを示す記載が認められる。

ここで、上記補正事項(a)-(c)について検討する。
まず、補正事項(a)及び(b)に、「対象ビルの属性データを含む基礎データを、予めコンピュータに項目ごとに設定された重要度で尺度評価処理して項目毎のビルスコア(投資適格度)とビルスコア合計を算定」する旨の記載がある。しかしながら、当初明細書等(特に段落【0024】-【0025】には、「電子データ化した要素」「それぞれの重要度に応じて投資適格度に影響を与え、投資対象ビルの投資適格度を数値化したものとしてビルスコアが算定される」旨の記載があり、本件補正後の「ビルスコア合計」に対応する記載は認められるものの、本件補正後の「項目毎のビルスコア」に対応する概念は当初明細書等には認められない。そして、「項目毎のビルスコア」は、当初明細書等に接した「当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項」とはいえない。
また、これに関連し、補正事項(c)の「コンピュータが抽出した対象ビルと項目毎の任意のビルスコアとビルスコア合計が近似する任意の2つ以上の回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し」との点のうち、「項目毎の任意のビルスコア」を用いる点も、当初明細書等に接した「当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、その意味であることが明らかであって、その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項」とはいえない。

次に、補正事項(b)の「ビルデータベースから、ビルスコアが近似する2つ以上の競合ビルのビルデータをコンピュータが抽出して記憶領域に一時記憶し、記憶領域に一時記憶した競合ビルのビルデータおよびビルスコアと、キャップレートと、回帰直線式(図2、図3参照)から、競合ビルのビルデータ及びキャップレートに関して回帰直線式と傾きが同一である直線式(図2、図3参照)を算出する」との点、及び、補正事項(c)の「コンピュータが抽出した対象ビルと項目毎の任意のビルスコアとビルスコア合計が近似する任意の2つ以上の回帰直線式と傾きが同一である直線式を算出し」との点において、上記検討した以外の点について検討する。
当初明細書等の図2には、灰色の線が「投資対象ビルの適正キャップレートの範囲」であることを示す記載が認められ、また灰色の線が、競合ビルを示す点をとおり、「調査対象ビルの線形回帰直線」と傾きが同一であるように読み取れるが、前記灰色の線が「コンピュータ」により自動的に算出されたものであるかについては、記載されていない。すなわち、当初明細書等に接した当業者が、前記灰色の線を、人間が手作業で作図を行うことや、人間がコンピュータの作図機能を用いてインタラクティブに作図を行うものと理解することを排除するものではない。このため、補正事項(b)及び(c)の上記摘記した点は、当業者が当初明細書等にその事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項とはいえない。

以上の検討により、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

(3)まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成15年8月4日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成15年2月17日付手続補書によって補正された明細書等の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものである。
「電子データ化したオフィスビルの賃料モデルにより、コンピュータが対象ビルの賃料を含む賃貸条件を、競合ビルのビル属性および賃貸条件と対比比較し、さらに、推計により対象ビルのビル属性に応じた賃料を含む賃貸条件を算出処理することを特徴とする賃料算定手段を含む不動産投資判断支援システム」

(2)原審の拒絶の理由について
本願発明に対しての平成14年12月11日付の拒絶理由は以下のとおりである。

「B.この出願の下記の請求項に係る発明は、下記の点で特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。


(請求項1?8)
請求項1?8記載の発明は、電子化したデータをコンピュータを利用して計算を行っていることは記載されているが、ハードウエア資源をどの様に用いてどの様な処理を行っているかは明確でないから、自然法則を利用した発明ではない。


C.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
(請求項1?7に対して)
・引用文献1
・備考:引用文献1の段落番号0006には、地域ごとのテナント賃料に関するデータ(属性データに相当)から不動産の成約賃料を推定する構成(賃料算定に相当)が記載されており、段落番号0012には、利回り(キャップレートに相当)を算出する構成が記載されている。
(請求項8に対して)
・引用文献2
・備考:引用文献2には、地図情報と一緒に不動産の物件情報を提供する発明が記載されている。提供方法として、インターネットを利用することも記載されている。

拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。

引 用 文 献 等 一 覧

1.特開2000-137746号公報
2.特開平11-338885号公報 」

(3)特許法第29条第1項柱書に関する検討
本願発明の「不動産投資判断支援システム」は、発明の詳細な説明の記載からみて、コンピュータシステムであるから、その発明の実施にソフトウエアを必要とするところの、いわゆるソフトウエア関連発明である。
そして、こうしたソフトウエアを利用するソフトウエア関連発明が、「自然法則を利用した技術的思想の創作」であるためには、発明はそもそもが一定の技術的課題の解決手段になっていなければならないことから、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されている必要があるというべきである。
そこで、本願発明が、特許法第2条でいう「自然法則を利用した技術的思想の創作」である特許法上の「発明」に該当するか否かについて、請求項1の記載を便宜上以下のとおりに分けて検討する。

(a)電子データ化したオフィスビルの賃料モデルにより、コンピュータが対象ビルの賃料を含む賃貸条件を、競合ビルのビル属性および賃貸条件と対比比較し、
(b)さらに、推計により対象ビルのビル属性に応じた賃料を含む賃貸条件を算出処理する
(c)ことを特徴とする賃料算定手段を含む不動産投資判断支援システム

ここで、実質的なソフトウェアによる情報処理が記載されているのは、(a)及び(b)であるので、以下この(a)及び(b)について検討する。
(a)はコンピュータが「対比比較」という情報処理を行う旨の記載はあるものの、コンピュータを用いたということ以上の、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働している点については何ら記載されていない。また、(a)に記載されたソフトウェアによる情報処理が周知であり、さらに、当該ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実現されていることが、その詳細を明記するまでもない程度に当業者にとって明らかであるもの、とも認められない。(b)の「算出処理」についても同様である。
してみれば、本願発明は全体としても、ハードウエア資源を利用したソフトウエアによる情報処理によって、所定の技術的課題を解決できるような特有の構成が具体的に提示されているとはいえず、よって、特許法上の発明に該当しない。

(4)特許法第29条第2項に関する検討
上記(3)で検討したとおり、本願発明は特許法第29条第1項柱書にいう「発明」には該当しないものであるが、仮に本願発明を、特許法第29条第1項柱書にいう「発明」として認めた場合、本願発明が特許法第29条第2項の規定を満たしているかどうかを、以下に検討する。

(4-1)引用例
[引用例1]
原査定の拒絶の理由に引用した、特開2000-137746号公報(以下「引用例1」という。)、には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 生の成約賃料データと当該生の成約賃料を形成する要因となる一つ又は複数の要因データとを統計処理して、与えられる一つ又は複数の要因データから未知の成約賃料を推定する不動産成約賃料推定部と、推定された成約賃料データに基づいて不動産収益率を算出する不動産収益率算出部と、この不動産収益率を所定の形式で出力する不動産収益率出力部とを具備する不動産投資インデックスシステム。」(請求項1)

(b)「【0011】仮に、回帰分析によって二つの重要な説明変数が選択された場合、推定成約賃料回帰方程式は、
Y=(A*X1)+(B*X2)
のごとく求められ、この式により推定成約賃料Yが説明変数X1に回帰係数Aを乗した値と、説明変数X2に回帰係数Bを乗した値の和として得られる。推定成約賃料Yを求めるための説明変数の選択は非常に重要な要素であり、この説明変数の選択が成約賃料モデルの質を決定付ける。考察するに、オフィスビルの成約賃料は対象となるオフィスビルの地域性、成約時の市況などを基礎的要因として形成されているので、説明変数として地域格差と同時に時点格差をも表した連続データとして把握される賃料データを採用することが望ましい。すなわち、賃料の地域格差及び時点格差の二つの性質を併せ持ち、賃料相場を示す要因データを推定成約賃料Yを求める説明変数として採用すべきである。当明細書において、このような賃料相場を表す要因データを総称してOMR賃料データという。」(段落【0011】)

ここで、摘記事項(b)より、摘記事項(a)における成約賃料とは、オフィスビルの成約賃料を含むものであることは明らかである。

よって、引用例1には
「オフィスビルに関する生の成約賃料データと当該生の成約賃料を形成する要因となる一つ又は複数の要因データとを統計処理して、与えられる一つ又は複数の要因データから未知の成約賃料を推定する不動産成約賃料推定部と、
推定された成約賃料データに基づいて不動産収益率を算出する不動産収益率算出部と、
この不動産収益率を所定の形式で出力する不動産収益率出力部
とを具備する不動産投資インデックスシステム。」の発明(以下「引用例1発明」という。)が開示されている。

(4-2)対比
一般に、何らかの事象を説明する要因からなる集合は、それ自体がある種のモデルといえることから、引用例1発明の「オフィスビルに関する生の成約賃料データと当該生の成約賃料を形成する要因となる一つ又は複数の要因データ」は、本願発明の「電子データ化したオフィスビルの賃料モデル」に相当する。
次に、引用例1発明のオフィスビルに関する生の成約賃料データと当該生の成約賃料を形成する要因となる一つ又は複数の要因データとを「統計処理して、与えられる一つ又は複数の要因データから未知の成約賃料を推定する」ことは、成約賃料には当然それに付随した賃貸条件が存在することから、推定される成約賃料には、当然賃貸条件も付随して得られるものであると認める。よって、引用例1発明の当該事項は、本願発明の「推計により対象ビルのビル属性に応じた賃料を含む賃貸条件を算出処理する」に相当する。

よって、引用例1発明と本願発明とでは、
「電子データ化したオフィスビルの賃料モデルにより、
推計により対象ビルのビル属性に応じた賃料を含む賃貸条件を算出処理する
ことを特徴とする賃料算定手段を含む不動産投資判断支援システム」
との点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は、電子データ化したオフィスビルの賃料モデルにより、「コンピュータが対象ビルの賃料を含む賃貸条件を、競合ビルのビル属性および賃貸条件と対比比較」するのに対し、引用例1発明においては、当該点については開示がない点。

(4-3)当審の判断
上記相違点1について検討する。人間がオフィスビルについて不動産投資判断を行う場合、競合ビルのビル属性及び賃貸条件と対比判断することは広く行われていることである。また、人間が引用例1発明を用いてそのような対比判断ができることも、当業者にとって明らかである。よって、この人間が行う情報処理を単にコンピュータに行わせるように、当該情報処理を引用例1発明に付加することは、当業者が容易に想到することができた事項である。

また、本願発明の作用効果も、引用例1発明及び周知事項から当業者が予測できる範囲のものである。

(4-4)まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用例1発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項柱書の規定を満たしていないから特許を受けることができない。また、仮に、特許法第29条第1項柱書の規定を満たすものであるとしても、本願発明は、引用例1発明及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-05 
結審通知日 2007-01-16 
審決日 2007-01-29 
出願番号 特願2000-243457(P2000-243457)
審決分類 P 1 8・ 561- Z (G06Q)
P 1 8・ 1- Z (G06Q)
P 1 8・ 121- Z (G06Q)
P 1 8・ 572- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 石川 正二  
特許庁審判長 赤穂 隆雄
特許庁審判官 岩間 直純
久保田 健
発明の名称 賃料算定手段とキャップレート算定手段を含む不動産投資判断支援システム  
代理人 広瀬 文彦  

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