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審決分類 審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1154586
審判番号 不服2004-17304  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-19 
確定日 2007-03-22 
事件の表示 特願2002- 23972「二波長表面プラズモン共鳴分光装置」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月 8日出願公開、特開2003-222589〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成14年1月31日の出願であって、平成16年7月9日付で拒絶査定がなされ(発送日:同年7月20日)、これに対し、同年8月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で手続補正がなされたものである。

II.平成16年8月19日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年8月19日付の手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の経緯
平成16年8月19日付手続補正(以下「本件補正」という。)により、特許請求の範囲は、補正前の請求項1乃至7(平成16年4月23日付手続補正書に記載されたもの。以下、各「旧請求項1」乃至「旧請求項7」という。)に記載された
(1)「
【請求項1】
少なくとも2以上の光源と、プリズムと、試料台と、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、
前記プリズムは、三角柱形状であり、
前記光線のひとつは、近赤外光線であり、
前記光線の他のひとつは、可視光線であることを特徴とする、
表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項2】
前記試料台は、プリズムを固定するプリズム固定部材と、
プリズム固定部材とプリズムとの間に試料板を設置した際に、前記プリズム固定部材とプリズムとともに試料板を挟んで試料板を保持するための試料板固定部材と、を具備する請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項3】
前記プリズム固定部材は、プリズムを保持するための三角形状の切り欠きがあり、
前記試料固定部材は、試料板に加えられる圧力を調整する加圧調整部材を有する、
請求項2に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項4】
前記試料台は、少なくとも基板を有し、
前記基板は、前記プリズムと近接して設けられており、
前記基板の表面うちプリズムに面しない側の表面粗さは、前記プリズムに入射する入射光の波長より小さい、
請求項1、請求項2または請求項3に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項5】
前記試料台は、少なくとも基板を有し、
前記基板は、前記プリズムと近接して設けられており、
前記基板には、金属薄膜が形成されており、当該金属薄膜の表面粗さは、50nm以下である、請求項1、請求項2または請求項3に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項6】
前記光検出器が、CCDカメラである請求項1?5のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項7】
少なくとも2以上の光源と、プリズムと、試料台と、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、
前記光源の少なくとも一つは、レーザーダイオードであり、
前記光源のほかの少なくとも一つは、YAGレーザーであり、
前記プリズムは、三角柱形状であり、
前記光線のひとつは、近赤外光線であり、
前記光線の他のひとつは、可視光線であり、
前記試料台は、プリズムを固定するプリズム固定部材と、
プリズム固定部材とプリズムとの間に試料板を設置した際に、前記プリズム固定部材とプリズムとともに試料板を挟んで試料板を保持するための試料板固定部材と、を具備し、
前記プリズム固定部材は、プリズムを保持するための三角形状の切り欠きがあり、さらに、プリズムへの入射光および反射光が通ることのできる穴が設けられており、
前記試料固定部材は、試料板に加えられる圧力を調整する加圧調整部材を有し、
前記加圧調整部材は、前記試料固定部材と1点で接し、
前記光検出器は、CCDカメラを含む表面プラズモン共鳴分光装置。

から、補正後の請求項1乃至7(以下、各「新請求項1」乃至「新請求項7」という。)に記載された、
(2)「
【請求項1】
少なくとも2以上の光源と、プリズムと、試料台と、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、
前記プリズムは、三角柱形状であり、
前記光線のひとつは、近赤外光線であり、
前記光線の他のひとつは、可視光線であることを特徴とする、
表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項2】
前記光源の少なくとも一つは、レーザーダイオードであり、 前記光源のほかの少なくとも一つは、YAGレーザーである 請求項1に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。【請求項3】
前記試料台は、プリズムを固定するプリズム固定部材と、 プリズム固定部材とプリズムとの間に試料板を設置した際に、前記プリズム固定部材とプリズムとともに試料板を挟んで試料板を保持するための試料板固定部材と、を具備し、 前記プリズム固定部材は、プリズムを保持するための三角形状の切り欠きがあり、
前記試料固定部材は、試料板に加えられる圧力を調整する加圧調整部材を有する、
請求項2に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項4】
前記試料台は、少なくとも基板を有し、
前記基板は、前記プリズムと近接して設けられており、
前記基板の表面うちプリズムに面しない側の表面粗さは、前記プリズムに入射する入射光の波長より小さい、
請求項1、請求項2または請求項3に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項5】
前記試料台は、少なくとも基板を有し、
前記基板は、前記プリズムと近接して設けられており、
前記基板には、金属薄膜が形成されており、当該金属薄膜の表面粗さは、50nm以下である、請求項1、請求項2または請求項3に記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項6】
前記光検出器が、CCDカメラである請求項1?5のいずれかに記載の表面プラズモン共鳴分光装置。
【請求項7】
少なくとも2以上の光源と、プリズムと、試料台と、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、
前記光源の少なくとも一つは、レーザーダイオードであり、
前記光源のほかの少なくとも一つは、YAGレーザーであり、
前記プリズムは、三角柱形状であり、
前記光線のひとつは、近赤外光線であり、
前記光線の他のひとつは、可視光線であり、
前記試料台は、プリズムを固定するプリズム固定部材と、
プリズム固定部材とプリズムとの間に試料板を設置した際に、前記プリズム固定部材とプリズムとともに試料板を挟んで試料板を保持するための試料板固定部材と、を具備し、
前記プリズム固定部材は、プリズムを保持するための三角形状の切り欠きがあり、さらに、プリズムへの入射光および反射光が通ることのできる穴が設けられており、
前記試料固定部材は、試料板に加えられる圧力を調整する加圧調整部材を有し、
前記加圧調整部材は、前記試料固定部材と1点で接し、
前記光検出器は、CCDカメラを含む表面プラズモン共鳴分光装置。

へと補正された。 (下線部は補正による加入事項を示す)

2.補正の目的の適否の判断
本件補正により、請求項数の増減はなく、請求項1、4乃至7に変更点はない。
また、請求項3については、旧請求項3には「プリズム固定部材」に関する特定事項が記載されていたのに対し、新請求項3には「試料台」についての特定事項が加入されているが、該加入事項は旧請求項3で引用していた旧請求項2に於ける限定事項に相当するものであり、該請求項3についての補正は、旧請求項3の限定事項に付加したものであり、引用請求項を除き、特定事項に実質的な変更はない。
しかし、請求項2については、旧請求項2では、「試料台」についての特定事項が記載されていたのに対し、新請求項2では、「試料台」に関する特定事項は削除され、代わって「光源」に関する特定事項が記載されており、新請求項2は、旧請求項2のいずれの課題解決手段、すなわち発明特定事項の下位概念化にも該当しないので、旧請求項2の特定事項を減縮したものであるとは言えない。
また、本件補正による請求項2及び3に対する補正の目的については、請求項3は上記のとおり単なる引用形式記載の変更に過ぎずその内容に実質的変更点はなく、該変更に伴って削除した旧請求項2に代えて、新たに新請求項2を追加したものとも考えられるが、この場合にも、新請求項2についての補正は実質的な請求項の追加に当たる。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に規定する、
「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。) 」
を目的とするものに該当しないし、同項第1、3、4号の、請求項の削除、誤記の訂正、及び明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものでもない。

したがって、上記本件補正は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしておらず、特許法159条1項において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである

III.本願発明について
平成16年8月19日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本願請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という)は、平成16年4月23日付け手続補正書に記載された、次のとおりのものである。

少なくとも2以上の光源と、プリズムと、試料台と、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、
前記プリズムは、三角柱形状であり、
前記光線のひとつは、近赤外光線であり、
前記光線の他のひとつは、可視光線であることを特徴とする、
表面プラズモン共鳴分光装置。


1.引用例
(1)原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用した特開2001-41881号公報(以下、「引用例1」という。)には、SPR装置に於いて2種以上の光源を用いることや、可視領域及び赤外領域の波長を光源波長として選択することに関し、図面とともに次の記載がある。
(1-1)SPR装置の構成に関し;
「本発明のこのようなSPR装置の例を図5に示す。図5は光源24としてレーザーを用いた例を示している。また、入射光として偏光子26をとおした偏光を用いた例を示している。偏光された入射光はプリズム23を通り、金属表面に試料セル22を有する金属薄膜21の裏面で反射され、反射光としてプリズム23から出る。プリズム23から出た反射光は、偏光のp成分とs成分との位相差を打ち消すように調整し得る装置の1種である補償板33に入り、例えば、試料セル22における反応等の前の状態では補償板33からの光量が無いように、即ち光量がゼロになるように調整される。補償板33の後には検光子29が設けられ、その後に検出、定量できる検出器31がある。試料セル22で化学反応等が生起してSPRスペクトルが変動すると、偏光の位相差が変動し、予め調整された補償板33から試料セル22における化学反応等に応じた光量が検出器31によって検出されることになる。」(【0020】)
(1-2)波長の異なる複数光源を用いた構成に関し;
「また、本発明のSPR装置の光源としては、従来から使用されているLEDに限らず、レーザー光などの種々の光源を使用することができる。光源の波長も種々の波長のもを使用することができる。光源の波長としては、可視領域、赤外領域、紫外領域などの広い範囲の波長を選択することができる。さらに本発明者らの知見によれば、一般に、光源の波長が長くなるほど金属薄膜の表面から遠くにある物の反応や作用を観測することができるとされているので、金属薄膜の表面から近い位置の反応や作用を観測したい場合には波長の短い光源を、また金属薄膜の表面から遠くの位置にある反応や作用を観測したい場合には波長の長い光源を使用するのが好ましい。
また、波長の異なる2以上の光源を同時に使用することにより、金属薄膜の表面から異なる位置にある物質の反応や作用等を同時に観測することができる。2種以上の光源の波長の相違の程度は、反射光においてこれらの波長を各々分離することができる程度に相違するものであればよく、また、観測したい金属表面からの距離に応じて適宜設定することができる。波長の異なる2種の光源を用いた本発明のSPR装置の例を図7に示す。光源51と光源52は、波長の異なるLED光源であり、光源51及び光源52から発射された光は、ダイクロイックミラー45により平行入射光とされ、次いで光学系レンズ46により集光されてプリズム43に入射される。入射された光は、表面に試料セル42を有する金属薄膜41の裏面で反射され、プリズム43を出て光学系レンズ47で元の平行光とされた後、ダイクロイックミラー48によりそれぞれの波長に分離される。分離された反射光をそのまま従来の方法、例えばCCDカメラなどで観測することもできる。」(【0024】?【0025】)
(1-3)2波長を使用した測定の目的効果に関し;
「ダイクロイックミラー48により分離された各波長の反射光を観測すれば、金属薄膜の表面に取り付けられた試料セル42で生起している化学反応や相互作用などの金属薄膜41の表面から異なる位置にある物質の反応や作用等を同時に観測することができることになる。したがって、本発明は波長の異なる2種以上の光源を用いるSPR装置及びそれを用いたSPR測定方法にも関する。また、図7に示すようにダイクロイックミラー48により分離された各波長の反射光を、本発明の方法に従って偏光ビームスプリッター49を用いて偏光成分に分け、偏光のp成分とs成分とをそれぞれ観測することもできる。これにより、さらに高感度で試料セル中の金属薄膜の表面からの距離の異なる位置にある物質の挙動を把握することができる。さらに、2つの波長で測定した各波長のSPR成分の差を計測することにより、金属薄膜からの特定の距離の部分の挙動を高精度で測定することができるようになる。このとき、波長を接近させると、金属薄膜の膜厚方向の限られた部分の挙動を高精度で測定することができるようになり、このデータを処理してゆくことにより膜厚方向の解像度を上げることができることになる。」(【0026】)
(1-4)試料セルに関し;
「本発明のSPR装置の例を図4に示す。図4中の1は金属薄膜であり、2は金属薄膜1の表面に取り付けられた試料セルである。試料セル2に検体を流し金属薄膜1の表面で化学反応や物質間の相互作用などを生起させる。」(【0016】)
(1-5)図1,4,5及び7には、断面が半円状のプリズムを用いたSPR装置が記載されている。

これらの記載を参照すると、引用例1には、次の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

「波長の異なる2以上の光源と、断面半円形状のプリズムと、光検出器とからなり、試料セルが金属薄膜の表面に取り付けられ、波長の異なる2以上の光源を同時に使用するSPR装置に於いて、前記2以上の光源は可視領域及び赤外領域を含む広い範囲の波長から選択され、プリズムから出た光はダイクロイックミラーにより波長に分離されて検出器により観測されるようにしたSPR装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用した特開平11-271215号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(2-1)波長の異なる2光源を用いたSPR装置に関し;
「SPR検出装置1は可変光照射装置3と、センサーチップ5及び受光装置7とから構成され、・・・可変光照射装置3の本体13は後述するプリズム19の中心を支点として回動するアーム21に取付けられ、・・・本体13には白色レーザ光照射装置15が光ファイバー17により接続されている。
本体13内には光ファイバー17からの白色レーザ光の光路に第1ダイクロイックミラー25が、光路に対して45゜傾斜して取付けられている。該第1ダイクロイックミラー25は入射した白色レーザ光の内、波長534nmの緑色レーザ光のみを透過すると共に他の波長成分のレーザ光を、光路と直交する方向へ反射させる。
第1ダイクロイックミラー25からの反射光路には第2ダイクロイックミラー27が配置され、該第2ダイクロイックミラー27は入射されたレーザ光の内、波長441nmの青色レーザ光を透過して外部へ出射させると共に波長636nmの赤色レーザ光を、緑色レーザ光と平行に反射させる。
緑色レーザ光及び赤色レーザ光の各光路にはレンズ29が偏光子31を設けて配置され、レンズ29は夫々の緑色レーザ光及び赤色レーザ光を、後述するセンサーチップ5におけるガラス基板33と金属薄膜35の境界にて収束させる。」(【0012】?【0016】)
(2-2)2光源として赤色光と赤外光の光源を用いることに関し;
「上記説明は、光源として白色レーザ光を使用して緑色レーザ光及び赤色レーザ光に分光したが、図5に示すように本発明はプリズムの外周に沿って円弧移動するフレーム50に、例えば赤色光及び赤外光の光源51a・51bを設け、各光源51a・51bから出射された各光をスポット状に絞られると共に相互に所要の角度差を設けてプリズム19に直接照射する構造であってもよい。」(【0027】)

(3)原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用した特開平7-159311号公報(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(3-1)プリズムを用いたSPR装置の構成に関し;
「図示するように、バイオセンサ10は、プリズム12と、当該プリズム12に光を照射するための光源14とを備え、プリズム12と光源14との間には、光源14から照射された光をp偏光する偏光板16と凸レンズ18と凸レンズ20の対とを備える。光源14は、単一波長の光を照射する半導体レーザである。」(【0028】)
(3-2)試料テーブルに関し;
「プリズム12の下方には、試料が載置される試料テーブル28とこれを昇降させる昇降機器30とが設けられており、昇降機器30は電子制御装置40と接続されている。試料テーブル28の上面には、Au薄膜24,単分子膜26に対向するよう、試料載置凹所32が形成されている。」(【0031】)
(3-3)図1及び2には、三角柱形状のプリズム12が示されている。

(4)原査定の拒絶の理由に引用文献5として引用した特開平10-267841号公報(以下、「引用例4」という。)には、SPR装置に三角柱状のプリズムを用いることに関し、次の記載がある。
「本発明の表面プラズモン共鳴センシングデバイスに用いられるプリズムとは、石英やガラスやポリメチルメタクリレートなどを例とする紫外、可視、近赤外領域の光に対して透明で、しかも液体試料より大きな屈折率を有する材質より成る光学部品を意味する。その形状に特に制限は無いが、半円柱、三角柱、台形柱などの形状を有するものが多くの場合に使われている。」(【0018】)

(5)特表平8-505475号公報(以下「引用例5」という。)には、SPR装置に於いて可視光領域と近赤外領域とを同時に測定することに関し、以下の記載がある。
(5-1)複数波長の使用に関し;
「単一の単色入射光源を用いて入射角を変調する従来のSPR化学センサと対照的に、この発明の光ファイバSPRセンサは、制限された入射角範囲と複数波長からなる入射光を用いている。ここで用いたように、“複数の波長からなる入射光”とは、最低でも2つの波長をもつことを意味し、試料の共振スペクトルをカバーできる十分広い波長範囲が好ましい。例えば、黒体放射または白色光源は入射光として利用できる。代わりに、2つまたはそれ以上の不連続波をこの発明の実施に用いることができる。」(第12ページ第21?27行)
(5-2)可視?近赤外域を含む波長範囲での測定に関し;
「例えば、1.46の屈折率をもつシリカ・ファイバは、約1.32?約1.45の実効屈折率の測定を可能にし、400nm?1000nmまでの共振偏移として実験的に観察できる。」(第13ページ第5?7行)
(5-3)光源に関し;
「複数周波数からなる光を放出するエネルギー源は、入射放射源として利用できる。入射放射の発生は市販のいくつかの任意の装置により可能である。例えば、タングステン・ハロゲン・ランプは、400nm-1000nmの間の共振スペクトルをカバーする十分に広い範囲の波長を放射する。しかしながら、他の白色光源も使用できる。さらに、あらゆるバックグランド・スペクトル変動を最小化するため、白色光源の電流と温度を制御すると、最良の結果が得られる。エネルギー源は、Oriel,幅射測定装置への光ファイバ源(この特殊な装置は電球から放射された白色光を光ファイバの一端に結増する)などの市販の光ファイバ発光装置を用いて、光ファイバに結合される。」(第15ページ第22行?第16ページ第4行)
(5-4)可視?近赤外域に於けるSPRスペクトル測定例に関し;
「図12(a)は代表的な空気と試料SPRスペクトルを示し、図12(b)は上記の式による正規化された試料のスペクトルを示す。このキャリブレーション方法は、光スペクトル出力、ホト・ダイオード・アレイのスペクトル感度、およびファイバのスペクトル吸収に起因する装置の伝達関数を効果的に正規化する。図12(c)は1.351、1.393および1.404の屈折率をもつ果糖溶液の10mmセンサにより測定した波長の関数として送出された光強度の正規化を示す。」(第21ページ第16?23行)
「図13は果糖溶液(1.351の屈折率)を6、10および18mmのセンサで測定した光ファイバSPRセンサのスペクトルのプロットである。送出されたスペクトル密度分布は、図13に示したSPR検知領域の長さに依存し、検知領域が長いと観察した共振スペクトルはより深くなる。」(第22ページ第2?5行)
「屈折率に対する光ファイバSPRセンサの理論感度は、図13のSPR波長応答曲線から計算された。応答特性が非線形なので、感度は波長の関数となり、長い波長では感度が向上する。屈折率の理論感度は、500nmの波長で2.5×10-4、900nmの波長では7.5×10-5になるため、分光器の最適な波長解像度を0.5nmとすると、これらの波長で観察した感度はよく一致している。」(第22ページ第17?22行)

2.対比・検討
本願発明と引用発明1とを以下に対比する。
引用発明1に於いても、光源光に2以上の波長を用い、プリズムからの出射光をダイクロイックミラーによって分光して検出していることから、引用発明1に於ける「SPR装置」は、本願発明における「表面プラズモン共鳴分光装置」に相当する。
また、引用例1には、2以上の光源の異なる波長の選択やその目的効果に関し、特に摘記すれば、
(a)「光源の波長としては、可視領域、赤外領域、紫外領域などの広い範囲の波長を選択することができる。」
(b)「一般に、光源の波長が長くなるほど金属薄膜の表面から遠くにある物の反応や作用を観測することができるとされているので、金属薄膜の表面から近い位置の反応や作用を観測したい場合には波長の短い光源を、また金属薄膜の表面から遠くの位置にある反応や作用を観測したい場合には波長の長い光源を使用するのが好ましい。」
(c)「波長の異なる2以上の光源を同時に使用することにより、金属薄膜の表面から異なる位置にある物質の反応や作用等を同時に観測することができる。」
(d)「2種以上の光源の波長の相違の程度は、反射光においてこれらの波長を各々分離することができる程度に相違するものであればよく、また、観測したい金属表面からの距離に応じて適宜設定することができる。」(以上、上記1.(1)(1-2))
(e)「ダイクロイックミラー48により分離された各波長の反射光を観測すれば、金属薄膜の表面に取り付けられた試料セル42で生起している化学反応や相互作用などの金属薄膜41の表面から異なる位置にある物質の反応や作用等を同時に観測することができることになる。」(上記1.(1)(1-3))
なる各記載がある。これらの記載のうち、(a)乃至(c)及び(e)の記載からは、当業者であれば、観測しようとする2つの位置それぞれの金属薄膜からの距離の組み合わせに応じて、2つの光源波長を可視、赤外、紫外の各領域から任意に選択し得るという技術思想を読み取ることができるのは明らかである。そして、上記(d)の記載が、選択される2波長は波長が僅かしか異ならないことを意味すると解釈し、該解釈を考慮したとしても、可視領域と赤外領域とは隣接していることから、「反射光においてこれらの波長を各々分離することができる程度に相違する」2波長を選択する際、引用例1の記載に沿えば、「観測したい金属表面からの距離」によっては、可視と赤外とにまたがって選択し得ることは明らかであり、そのような選択を妨げる要因についての記載は引用例1になく、技術常識に照らしても格別の阻害要因は見出せない。さらに、前記の如く、2つの波長が僅かしか離れておらず、かつ可視領域と赤外領域とにまたがる場合には、赤外領域のうち可視領域に隣接するのは近赤外領域であることから、前記選択される波長の一方は可視領域、他方は必然的に近赤外領域に属することとなる。
以上のとおりであるから、波長の選択対象領域が相互に隣接かつ連続する紫外、可視及び赤外領域とされ、複数の波長の選択が、連続量である、観測位置の金属薄膜からの距離に応じて行われるという引用例1の前記記載事項からみて、引用発明1には、2つの光源からの光線の一つを近赤外領域とし、他方を可視領域とする組み合わせが含まれていることは明らかであり、本願発明と引用発明1とは、

「少なくとも2以上の光源と、プリズムと、光検出器とからなり、波長の異なる二以上の光線を用いる表面プラズモン共鳴分光装置において、前記光線のひとつは、近赤外光線であり、前記光線の他のひとつは、可視光線である、表面プラズモン共鳴分光装置。」

の点で一致する。
よって、相違点は、以下の2点である。

(相違点1)
本願発明が試料台を備えるのに対し、引用発明1では、試料が導入されるのは金属薄膜上に取り付けられた試料セルである点。
(相違点2)
本願発明では、プリズムは三角柱形状であるのに対し、引用発明1では、プリズムは断面半円形状である点。

ところで、請求人は審判請求書に於いて、本願発明は可視光線と近赤外光線とを組み合わせた点に特徴を有し、引用発明1は、近赤外光線と可視光線とを組み合わせる点が明示されていない点で、本願発明とは相違する旨主張している。引用発明1が、2波長として可視光線と近赤外光線との組み合わせを含むことは、上述のとおりであるが、引用例1にはそのような組み合わせについて明記がないことは事実である。よって、
(相違点3)
本願発明では、2以上の光線のうち一方は近赤外光線であり、他方が可視光線であるのに対し、引用発明1では、2つの光線の波長を近赤外と可視との組み合わせとする点について明記がない点、
も、一応の相違点として挙げることとする。

以下に、上記各相違点について検討する。
(1)相違点1について
表面プラズモン共鳴装置に於いて、試料を載置するための、本願発明に於ける「試料台」に相当する試料テーブルを用いることは、引用例3にも記載されたとおりの周知技術である。よって、引用発明1に於いて、該周知技術を適用して試料セルに替えて試料台を設ける構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

(2)相違点2について
表面プラズモン共鳴装置に於いて、プリズムとして三角柱形状のものを用いることは、引用例3及び4にも記載されたとおりの周知技術であり、引用発明1のプリズムの形状として該三角柱形状を採用することは、前記周知技術に基づき当業者が容易に想到し得た事項である。

(3)相違点3について
複数波長を用いる表面プラズモン共鳴装置に於いて、同じ装置により赤外光と可視光とを用いて測定を行うことは、上述のとおり引用例1にも記載されており、また、引用例2及び5にも記載されたとおりの周知技術に過ぎない。そして、前記赤外光として特に近赤外光を選択することも、引用例5に記載されているとおり周知である。よって、引用発明1に於いて、紫外、可視、赤外と列挙されている測定波長の中から、2つの波長として可視光線と近赤外光線とを選択することも、前記周知技術を適用することで当業者が容易になし得たことである。

3.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2乃至7について審理するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-12-26 
結審通知日 2007-01-23 
審決日 2007-02-05 
出願番号 特願2002-23972(P2002-23972)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 亜矢子  
特許庁審判長 高橋 泰史
特許庁審判官 黒田 浩一
樋口 宗彦
発明の名称 二波長表面プラズモン共鳴分光装置  
代理人 片山 英二  
代理人 廣瀬 隆行  
代理人 小林 浩  
代理人 小林 純子  
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