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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1154808
審判番号 不服2003-16077  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-08-21 
確定日 2007-03-26 
事件の表示 特願2000-358437「工具発注管理システム」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 6月 7日出願公開、特開2002-163513〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
この出願は、平成12年11月24日の出願であって、平成15年7月14日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月21日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月22日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成15年9月22日付けの補正について
(1)本件補正の内容について
審判請求に伴う補正である平成15年9月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の請求項1,5を削除し、補正前の請求項2,3,4及び6を、それぞれ、補正後の請求項1,2,3,4に補正し、さらに、補正後の各請求項と対応するように発明の詳細な説明を補正するものである。

(2)補正の適否
補正前の請求項1,5に係る本件補正は、特許法第17条の2第4項第1号に掲げられた請求項の削除を目的とするものであり、補正前の請求項2,3,4及び6に係る本件補正及び発明の詳細な説明に係る本件補正は、拒絶査定において指摘された不明りような記載を釈明するものであるので、同第4号に掲げられた明りようでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)を目的とするものである。
また、本件補正は新規事項を追加するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定した要件を満たしているので、適法である。

3.本願の特許請求の範囲
本件補正により、補正された特許請求の範囲は、次のとおりである。

「【請求項1】 多種の部品から構成される製品の加工に使用する工具の発注を管理するシステムにおいて、
前記それぞれの構成部品毎に一種類の工具が対応する他の構成部品に共通した加工要素(以下要素部位という)毎に項目分けした要素部位別工具一覧(以下要素部位別工具データシートという)であって、前記加工要素部位毎に前記一種類の工具の工具名と切削時間、工具寿命時間、工具個数、切削条件、工具メーカの欄を設け、前記要素部位と工具とを関連づけた要素部位別工具データシートと、
前記要素部位と加工条件をインプットして得られる工具の寿命時間が入力されている工具寿命データベースとを具え、
前記製造現場における加工条件に基づく対応要素部位の加工標準時間を前記工具寿命データシートの寿命時間で割って前記要素部位別工具データシートの工具個数を演算して要素部位別工具データベースを作成する管理ステーション側コンピュータと、
製造現場における部品加工個数を含む工具使用状況の実績データを前記管理ステーション側コンピュータに情報通信網を通じて送信する作業ステーション側端末機と、を有し、
前記管理ステーション側コンピュータ側で、作業ステーション側端末機より前記工具使用状況の実績データを取り込み、該実績データを期間毎に統計的に処理してある期間毎あるいは改善毎に前記工具の個数を当該要素部位の加工に必要な当該工具の標準個数に改定し、
該製造現場における最新の実績に基づいて改定された前記要素部位別工具データベースを基に工具の最適在庫許容範囲を管理ステーションのパソコンで演算しておき、
前記作業ステーションの端末機から入力される使用工具個数を工具毎の在庫個数と比較して、在庫が最適在庫許容範囲基準を下回った段階で対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能に構成したことを特徴とする工具発注管理システム。

【請求項2】 前記工具寿命データベースは、加工条件による加工時間と工具磨耗等工具の寿命を規制する指標の関係が蓄積されたデータベースであり、前記要素部位を加工する工具の寿命時間を工具名と加工条件より該工具寿命データベースに基づき算出するように管理ステーション側コンピュータのパソコンで演算して構成されていることを特徴とする請求項1記載の工具発注管理システム。

【請求項3】 前記要素部位別工具データシートに、前記要素部位はその属する部品の項目と、その部品の属する製品の項目を要素部位の項目に関連づけて存在させたことを特徴とする請求項1記載の工具発注管理システム。

【請求項4】 前記作業ステーション側端末機より送信された使用・借用工具名及びその個別番号と、前記要素部位別工具データベースとに基づき算出された当該工具の残存寿命より、生産計画と工具在庫管理規定に基づいて対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の工具発注管理システム。」

4.原査定の基になった拒絶理由の概要
原査定の基になった拒絶の理由1は、概略、以下のとおりである。

「具体的な物を容易に想定できないので、請求項1等の発明は明確ではない。
よって、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

5.当審の判断
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の要件を満たしているといえるためには、特許を受けようとする発明に属する具体的な事物の範囲(発明の範囲)が明確である必要があり、その前提として、発明を特定するための事項の記載が明確である必要がある。
そして、機能・特性等による物の特定を含む請求項において、当業者が、出願時の技術常識を考慮して、請求項に記載された当該物を特定するための事項から、当該機能・特性等を有する具体的な物を想定できる場合には、新規性進歩性等の特許要件の判断や特許発明の技術的範囲を理解する上での手がかりとなる、発明に属する具体的な事物を理解することができるから、発明の範囲は明確であり、発明を明確に把握することができるといえる。
これに対して、当業者が、出願時の技術常識を考慮しても、当該機能・特性等を有する具体的な物を想定できない場合には、発明に属する具体的な事物を理解することができず、通常、発明の範囲は明確とはいえない。
(審査基準 「第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件」の「2.特許請求の範囲の記載要件」の「2.2 第36条第6項」)
以上のことを踏まえて、本願の特許請求の範囲の記載が、原査定の拒絶の理由において指摘された、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしているかどうかを検討する。

5-1.請求項1について
請求項1には、発明を特定する主要な記載事項として、以下の記載がある。
(A)「前記要素部位と加工条件をインプットして得られる工具の寿命時間が入力されている工具寿命データベースとを具え」、
(B)「前記管理ステーション側コンピュータ側で、作業ステーション側端末機より前記工具使用状況の実績データを取り込み、該実績データを期間毎に統計的に処理してある期間毎あるいは改善毎に前記工具の個数を当該要素部位の加工に必要な当該工具の標準個数に改定し」、
(C)「該製造現場における最新の実績に基づいて改定された前記要素部位別工具データベースを基に工具の最適在庫許容範囲を管理ステーションのパソコンで演算しておき」、
(D)「前記作業ステーションの端末機から入力される使用工具個数を工具毎の在庫個数と比較して、在庫が最適在庫許容範囲基準を下回った段階で対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能に構成した」

(1)記載事項(A)について
記載事項(A)には、「要素部位と加工条件をインプットして得られる工具の寿命時間が入力されている」との記載があるが、この記載からは、要素部位と加工条件とから、具体的にどのようなデータ処理を行って、各工具についての寿命時間を得るのかが把握できない。
それ故、記載事項(A)から、工具寿命データベースとして、具体的にどのようなデータベースを想定すればよいのか、が不明である。

ちなみに、請求項1のみの記載では、工具寿命データベースを具体的に想定できないので、念のため、発明の詳細な説明を参酌することにする。工具寿命データベースについて説明するのは【0023】であるが、【0023】には要素部位に関連する記載がなく、【0023】に記載の工具寿命データベースは、工具名、加工条件(切削条件)をインプットすると工具の寿命時間が得られるものである。よって、【0023】の記載からは、要素部位及び加工条件にどのようなデータ処理を施して、工具別の寿命時間を出力するのかが理解できない。
それ故、発明の詳細な説明を参酌して検討したとしても、請求項1に係る発明の工具寿命データベースとして、具体的にどのようなデータベースを想定すればよいのか、が不明である。

(2)記載事項(B)について
記載事項(B)においては、「該実績データを期間毎に統計的に処理してある期間毎あるいは改善毎に前記工具の個数を当該要素部位の加工に必要な当該工具の標準個数に改定し」との記載がある。
ここで、「該実績データ」とは、本記載事項(B)の前の記載から、「製造現場における部品加工個数を含む工具使用状況の実績データ」を意味すると解されるが、そのような実績データに対して、具体的にどのような統計処理を行って、当該要素部位の加工に必要な当該工具の標準個数を算出するのかが把握できない。仮に、部品加工個数に対して単純に統計処理を行ったとしても、部品加工個数についての統計値が算出されるだけで、各要素部位の加工に必要な各工具の個数についての標準個数が導き出されるわけではないからである。
それ故、記載事項(B)における「改定」に至る処理とは、管理ステーション側コンピュータがどのような処理を具体的に行うことを想定すればよいのか、換言すれば、どのような具体的な処理を行う管理ステーション側コンピュータを想定すればよいのか、が不明である。

(3)記載事項(C)について
記載事項(C)には、「前記要素部位別工具データベースを基に工具の最適在庫許容範囲を管理ステーションのパソコンで演算しておき」との記載があるが、要素部位別工具データベース内のどの項目のデータに対して、どのような具体的な演算を行って、各工具の最適在庫許容範囲を得るのかが把握できず、このため、どのような具体的な演算を行う管理ステーションのパソコンを想定すればよいのか、が不明である。

(4)記載事項(D)について
記載事項(D)においては、「使用工具個数を工具毎の在庫個数と比較して、在庫が最適在庫許容範囲基準を下回った段階で」との記載がある。しかし、使用工具個数を工具毎の在庫個数と比較しても、その結果だけから在庫が最適在庫許容範囲基準を下回ったか否かを判断できないことは明らかであるので、そもそも業務上の常識から考えても、その意味するところが不明確である。
それ故、記載事項(D)から、どのような具体的な演算を行う管理ステーション側コンピュータを想定すればよいのか、が不明である。

(5)まとめ
以上、上記(1)?(4)の検討のとおり、請求項1は、発明を特定する主要な記載事項である上記(A)?(D)からシステムを構成する具体的な物を想定できないから、全体としてみても、工具発注管理システムとしての具体的な物を想定できないということができる。したがって、請求項1に係る発明が明確でない。

5-2.請求項4について
請求項4の記載について検討する。

a)請求項4には、「使用・借用工具名及びその個別番号と、前記要素部位別工具データベースとに基づき算出された当該工具の残存寿命」との記載がある。しかし、使用・借用工具名及びその個別番号に加えて、要素部位別工具データベース内のどのようなデータを使用し、どのような具体的な演算を行って、当該工具の残存寿命を算出するのかが把握できない。

b)請求項4には、「当該工具の残存寿命より、生産計画と工具在庫管理規定に基づいて対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能に構成されている」との記載がある。しかし、一方で、請求項4が引用する請求項1には、「在庫が最適在庫許容範囲基準を下回った段階で対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能に構成した」との記載がある。
これら発注指示に関する記載の整合関係が不明確であるため、対応工具の発注指示が管理ステーション側コンピュータ側に表示可能になるのは、「工具の残存寿命より、生産計画と工具在庫管理規定に基づいて」であるのか、「在庫が最適在庫許容範囲基準を下回った段階」であるのかが不明である。

したがって、請求項4に記載された発明特定事項から、工具発注管理システムとしての具体的な物を想定することができないから、請求項4に係る発明は明確でない。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求項1,4を含むところの、この出願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-23 
結審通知日 2007-01-26 
審決日 2007-02-09 
出願番号 特願2000-358437(P2000-358437)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 青柳 光代  
特許庁審判長 佐藤 伸夫
特許庁審判官 後藤 彰
山本 穂積
発明の名称 工具発注管理システム  
代理人 花田 久丸  
代理人 高橋 昌久  

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