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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03D
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03D
管理番号 1154913
審判番号 不服2006-3026  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2006-02-17 
確定日 2007-03-30 
事件の表示 特願2005-27946「写真現像剤組成物用容器」拒絶査定不服審判事件〔平成17年8月25日出願公開、特開2005-227774〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成10年11月13日に出願された特願平10-323791号の特許出願を基礎として国内優先権を主張して平成11年11月15日に出願された特願平11-324547号の特許出願の発明の一部を平成17年2月3日に分割した特願2005-27946号の特許出願であって、平成18年1月13日付で拒絶査定がなされ、その後、前記拒絶査定を不服として平成18年2月17日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、平成18年3月20日付で明細書を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成18年3月20日付の手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成18年3月20日付の手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成18年3月20日付の手続補正(以下、この補正を「本件補正」という。)は、平成17年4月25日付手続補正により補正された特許請求の範囲の
「【請求項1】 密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)を単一の構成樹脂とする写真処理剤組成物用容器であり、該処理剤組成物を流出させる口部と、口部を閉塞する蓋又はシール部材と、口部と対向する側に設けられた底部と、口部と底部に挟まれて該処理剤組成物を実質的に収納する柱状部と、柱状部を口部と結合させる肩部から構成されており、かつその形状寸法は、(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形であり、(2)該柱状部の高さの上記長辺又は内径に対する比が2.0?4.0であり、(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である、ことを特徴とする写真処理剤組成物用容器。
【請求項2】 写真処理剤組成物の容器が流動比が20?35である高密度ポリエチレン(HDPE)を用いて中空成形法によって製造されていることを特徴とする請求項1に記載の写真処理剤組成物用容器。」
の記載を、
「【請求項1】 密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)を単一の構成樹脂とする写真現像剤組成物用容器であり、該現像剤組成物を流出させる口部と、口部を閉塞する蓋又はシール部材と、口部と対向する側に設けられた底部と、口部と底部に挟まれて該現像剤組成物を実質的に収納する柱状部と、柱状部を口部と結合させる肩部から構成されており、かつその形状寸法は、(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形であり、(2)該柱状部の高さの上記長辺又は内径に対する比が2.0?4.0であり、(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である、ことを特徴とする写真現像剤組成物用容器。
【請求項2】 写真現像剤組成物の容器が流動比が20?35である高密度ポリエチレン(HDPE)を用いて中空成形法によって製造されていることを特徴とする請求項1に記載の写真現像剤組成物用容器。」
と補正することを含むものである。

2 補正の適否の検討
本件補正に係る請求項1及び請求項2についての補正は、旧請求項1及び旧請求項2に記載されていた「写真処理剤組成物」を、下位概念の「写真現像剤組成物」と限定する補正であるから、本件補正の請求項1及び請求項2についての補正は、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を補正の目的としている。
上記のとおり、本件補正に係る請求項1及び請求項2についての補正が、特許法第17条の2第4項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正であるので、本件補正後の少なくとも請求項1に記載された発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否かについて、以下に検討する。

3 独立特許要件の有無
(1)本願の本件補正後の発明
本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、これを「本願補正発明1」という。)は、次のとおりのものである(上記「第2」の「1 補正の内容」欄を参照)。
「【請求項1】 密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)を単一の構成樹脂とする写真現像剤組成物用容器であり、該現像剤組成物を流出させる口部と、口部を閉塞する蓋又はシール部材と、口部と対向する側に設けられた底部と、口部と底部に挟まれて該現像剤組成物を実質的に収納する柱状部と、柱状部を口部と結合させる肩部から構成されており、かつその形状寸法は、(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形であり、(2)該柱状部の高さの上記長辺又は内径に対する比が2.0?4.0であり、(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である、ことを特徴とする写真現像剤組成物用容器。」

(2)引用刊行物及び記載事項
ア 原審における拒絶査定の理由に引用された刊行物であって本願特許出願前に頒布された特開平10-239820号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「処理剤投入装置及び処理剤容器」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【請求項6】 請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の処理剤投入装置に用いられる処理剤を封入する処理剤容器であって、処理剤を流出させる開口を備えた容器本体と、前記開口を閉塞して内部を密閉する蓋と、を備え、前記蓋は、弾性材料から形成され外力により破断することを特徴とする処理剤容器。」
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、自動現像機等の感光材料処理装置に用いられ、処理剤容器から処理剤を流出させる処理剤投入装置及び、その処理剤投入装置に用いられる処理剤を封入する処理剤容器に関する。」
「【0007】【発明が解決しようとする課題】 しかし、処理剤を投入した後の処理剤容器はユーザーが装置から取り出して処分するため、処理剤容器に処理剤が付着していると、床面やユーザーの服に付着することがある。
【0008】 また、処理剤が付着している合成樹脂製の処理剤容器は、再資源化に不向きである。
【0009】 本発明は上記事実を考慮し、処理剤の投入後に、処理剤容器を洗浄して容器の再資源化を高めることができ、また、処理剤容器の取り出し時の液だれを防止することのできる処理剤投入装置及び処理剤容器を提供する事が目的である。」
「【0015】 なお、処理剤とは、液体であればどのようなものでも良く、薬液、水、油等でも良く、これらに微粒子(粉等)を分散させたようなものでも良く、液体以外の錠剤、カプセル、粉末等の固形物であっても良い。」
「【0030】 請求項6に記載の発明は、請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の処理剤投入装置に用いられる処理剤を封入する処理剤容器であって、処理剤を流出させる開口を備えた容器本体と、前記開口を閉塞して内部を密閉する蓋と、を備え、前記蓋は、弾性材料から形成され外力により破断することを特徴としている。
【0031】 請求項6に係る処理剤容器の作用を以下に説明する。
封入した処理剤を流出させる場合には、例えば、突起物(開栓部材)で蓋を押圧して突起物を容器内に進入させる。これにより蓋は破断し、封入した処理剤を流出させることができる。この蓋は弾性材料から形成されているので、処理剤流出後に突起物を引き抜くと、破断した蓋は元の形状に戻り、実質的に処理剤容器は密閉された状態となり、実質的に処理剤容器を塞ぎ、処理剤容器内に残った処理剤の漏れを防止することができる。」
「【0050】 本実施形態では、補充タンク18内の補充液が不足した際に、図3に示す処理剤容器34をケーシング10Aの上部正面側に設けた処理剤投入装置としての補充部36(図1参照)にセットして補充液を注ぎ込むシステムになっている。
(処理剤容器)
処理剤容器34は合成樹脂で成形されており、合成樹脂フィルム、アルミ泊[当審注:「箔」の誤記と認める。]等の薄肉のシール蓋で開口部が閉塞されている。」
「【0070】 このホース102を介して開栓部材100に希釈水を送水すると、開栓部材100の先端に形成された複数のノズル孔104から希釈水が噴出するようになっている。」
「【0099】 また、開栓機構99は、外カバー42が閉められて行くと、図9に示すようにリンク110が回転して小ローラ112がカムレバー114のカム120を反時計回り方向に押し、開栓部材100を上昇させ、開栓部材100の先端部分が処理剤容器34内に進入する。これにより、シール蓋が押し破られ、封入した処理剤が補充タンク18に投入される。」
「【0102】 スイッチ85が入ってから所定時間が経過すると(この所定時間とは、容器から処理剤がほぼ流出する時間をいい、予め制御装置30に記憶されている。)、ポンプ15が所定時間作動し、開栓部材100のノズル孔104から所定量(補給される処理剤に対応する量であって、制御装置30にはこの量に対応するポンプ15の作動時間が予め記憶されている。)の希釈水が噴出して容器内の洗浄を行う。」
「【0109】 また、処理剤容器34に付着した処理剤を装置で洗い流すので、処理剤容器34の再資源化が容易になる。」
「【0112】 本実施形態の処理剤容器34では、開口が図4(A)に示すような合成樹脂の蓋38で開口部が閉塞されている。
【0113】 蓋38は弾性材料(合成樹脂、ゴム等)で成形されており、中央部分には図4(A)に示すよう略卍形状の溝40が形成されている。
【0114】 この蓋38の中央部を突起状の物で内側に押圧すると、蓋38は図4(B)に示すように溝40に沿って破断し、4枚の破断片38Aが容器内側にめくれ上がる。なお、破断片38Aの基部には、破断片38Aがめくれ易いように略三日月状の薄肉部38Bが設けられている。」

また、引用刊行物1に添付の【図3】、【図6】、【図7】、【図11】、【図12】、【図20】、【図21】及び【図22】の各図に図示されている処理剤容器34の記載からみて、処理剤容器34の容器本体は、略直方体形状の胴部と、処理剤を流出させる上部の開口と、下部の底面と、前記開口の近傍の肩部とを有し、前記処理剤容器34は、容器本体の底面が長辺に対する短辺の比がおおよそ1.0の長方形又は正方形であり、また容器本体の胴部の高さの長辺に対する比がおおよそ2.7であり、かつ、容器本体の肩部の底面に対する傾斜角が、おおよそ30°であるような形状を有していることが看取できる。

そうすると、引用刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という。)の記載が認められる。
「薬液、水、油等の液体、又は該液体に微粒子(粉等)を分散させたようなもの、或いは、液体以外の錠剤、カプセル、粉末等の固形物からなる処理剤を封入する処理剤容器34であって、
前記処理剤容器34は、略直方体形状の胴部と、処理剤を流出させる上部の開口と、下部の底面と、前記開口の近傍の肩部と有する容器本体と、前記開口を閉塞して内部を密閉する、合成樹脂、ゴム等の弾性材料で成形された蓋38又は合成樹脂フィルム、アルミ箔等の薄肉のシール蓋38を備え、
前記処理剤容器34は、合成樹脂で成形されるとともに、
前記処理剤容器34は、(1)容器本体の底面が、長辺に対する短辺の比がおおよそ1.0の長方形又は正方形であり、(2)容器本体の胴部の高さの長辺に対する比がおおよそ2.7であり、(3)容器本体の肩部の底面に対する傾斜角が、おおよそ30°であるような形状を有しており、
開栓部材100を押圧して処理剤容器34内に進入させて蓋又はシール蓋38を破断することにより、封入した処理剤が補充タンク18に投入され、その後、開栓部材100のノズル孔104から所定量の希釈水が噴出して処理剤容器34内の洗浄を行い、処理剤容器34に付着した処理剤を装置で洗い流して、処理剤容器34の再資源化を高めることができるようにした、自動現像機等の感光材料処理装置に用いられ処理剤を流出させる処理剤投入装置に用いられる処理剤容器」

イ 原審における拒絶査定の理由に引用された刊行物であって本願特許出願前に頒布された特開平8-257428号公報(以下、「引用刊行物2」という。)には、「写真処理組成物用容器の粉砕機」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【産業上の利用分野】 本発明は写真処理組成物用容器の粉砕機に係り、特に使用済の写真処理組成物用容器を粉砕して高品質の樹脂成形用材料とするのに好適な写真処理組成物用容器の粉砕機に関する。
【0002】【従来の技術】 自動現像装置等の感光材料処理装置の処理液用容器としては、従来、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の一層材料、ナイロン/ポリエチレン(NY/PE)等の多層材料を用いたブロー成形、或いは射出成形による剛性のある液体用容器が使用されていた。これは、容器の自立性や工場における液充填適性あるいは処理槽への注液適性を重視してユーザーが使い易いようにし、更にはun規制(輸出危険物輸送規制,すなわち-18℃における落下強度を考慮した法規制)や劇毒物輸送規制にも対処できる強度に確保できるようにしたものである。」
「【0005】【発明が解決しようとする課題】 現在、これらの樹脂等からなる写真処理組成物用容器を含めてリサイクル品として利用用途は広いとは言えず、安定した市場が確保されているとは言えない。即ち、ユーザーが安心して利用できる回収方法の提供と経済的、且つ安全なリサイクル方法が待望されていた。」
「【0017】 本発明に適用される容器は、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、EVA(エチレン-酢酸ビニル共重合体)等の単独の材料からなる容器が望ましい。少なくとも種類の異なる樹脂からなる複層材料の場合、得られる粉砕物は複数の種類の樹脂からなり、本発明には不適である。
【0018】 本発明に適用される低密度ポリエチレン(LDPE)としては、密度0.940g/cc以下、好ましくは0.90g/cc?0.940g/cc、より好ましくは、0.905g/cc?0.925g/ccのものを用いることができる。高密度ポリエチレン(HDPE)としては、密度0.940g/cc以上、好ましくは0.940?0.965g/cc、より好ましくは、0.945g/cc?0.955g/ccのものを用いることができる。」
「【0022】 回収された容器は容器本体に蓋部材をつけたまま粉砕する場合、容器本体と蓋部材とは同一の樹脂材質からなることが望ましい。この場合、「同一樹脂の材質」とは、より具体的には、同一の化学組成からの高分子からなっていることであり、より好ましくは略同一のグレードの高分子からなっていることである。ここで同一のグレードとは、高分子の密度、メルトインデックスなどで評価することができる。
【0023】 同一のグレードとは、密度としては、±10%以内であることが好ましく、±5%以内であることがより好ましい。同一のグレードとは、メルトインデックスとしては、±20%以内であることが好ましく、±10%以内であることがより好ましく、±5%以内であることが特に好ましい。また、樹脂に添加される種々の添加剤も同種のものが好ましい。」

ウ 原審における拒絶査定の理由に引用された刊行物であって本願特許出願前に頒布された特開平9-123253号公報(以下、「引用刊行物3」という。)には、「プラスチック容器」に関し、図面の図示とともに次の事項が記載されている。
「【0001】【発明の属する技術分野】 本発明は、プラスチック製容器に関するもので、具体的にはブロー成形により形成したプラスチック容器の洗浄性を向上するための改良に関するものである。」
「【0017】 図1は本発明の構成を示す斜視図である。図中符号21はプラスチック容器であり、22は容器本体で、この容器本体22の上面部23には、凹形状部23aと把手24とネジ部25aを有する口部25とが設けられている。」
「【0021】 そして、この上面部23と底面部26の二機能を持った容器本体22とをブロー成形で同時一体に形成して、容器本体22が構成されている。」
「【0032】【実施例】 以下のような条件で成形した結果、極めて剛性が高く排出性の良い形状のプラスチック容器を得ることができた。
【0033】
容器容量:10リットル 及び 20リットル
成形用樹脂:
*高密度ポリエチレン樹脂
*密度=0.95
*メルトインデックス(MI)=0.3
成形条件:
*30トン押出ブロー成形機(アキュームレータ・ヘッド)
*シリンダ温度(℃)=150?185
*ダイヘッド温度(℃)=185
*樹脂温度(℃)=185
*ブロー圧力(kg/cm2)=5?7
*金型温度(℃)=25?30
【0034】【発明の効果】 以上説明してきたように、請求項1に記載された発明は、プラスチック容器を逆さにすれば容器内の洗浄液は完全に流出することができ、食用液に混入する虞が無くなった。」

(3)対比
本願補正発明1と前記引用発明とを比較すると、引用発明における「処理剤を封入する処理剤容器34」、「処理剤を流出させる上部の開口」、「開口を閉塞して内部を密閉する、合成樹脂、ゴム等の弾性材料で成形された蓋38又は合成樹脂フィルム、アルミ箔等の薄肉のシール蓋38」、「下部の底面」、「略直方体形状の胴部」及び「開口の近傍の肩部」のそれぞれが、本願補正発明1の「写真現像剤組成物用容器」、「該現像剤組成物を流出させる口部」、「口部を閉塞する蓋又はシール部材」、「口部と対向する側に設けられた底部」、「口部と底部に挟まれて該現像剤組成物を実質的に収納する柱状部」及び「柱状部を口部と結合させる肩部」のそれぞれに相当することは明らかである。
また、引用発明における「(2)容器本体の胴部の高さの長辺に対する比がおおよそ2.7であり」及び「(3)容器本体の肩部の底面に対する傾斜角が、おおよそ30°である」の各数値が、本願補正発明1において限定されている「(2)該柱状部の高さの上記長辺に対する比が2.0?4.0であり」及び「(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である」範囲内の数値であることが明らかであるから、容器の形状について、引用発明と本願補正発明1とは、上記(2)及び(3)の点において一致するといえる。
そして、引用発明における「薬液、水、油等の液体、又は該液体に微粒子(粉等)を分散させたようなもの、或いは、液体以外の錠剤、カプセル、粉末等の固形物からなる処理剤」と、本願補正発明1の「写真現像剤組成物」とは、いずれも「写真処理用物質」である点で共通する。
また、引用発明における「合成樹脂」と、本願補正発明1の「密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)」とは、いずれも「容器形成用合成樹脂」である点で共通する。
そうすると、本願補正発明1と引用発明とは、「容器形成用合成樹脂を単一の構成樹脂とする写真処理用物質用容器であり、該写真処理用物質を流出させる口部と、口部を閉塞する蓋又はシール部材と、口部と対向する側に設けられた底部と、口部と底部に挟まれて該写真処理用物質を実質的に収納する柱状部と、柱状部を口部と結合させる肩部から構成されており、かつその形状寸法は、(2)該柱状部の高さの上記長辺又は内径に対する比が2.0?4.0であり、(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である、写真処理用物質用容器」である点で、両者の構成が一致し、次の点で構成が相違する。
相違点1:写真処理用物質が、本願補正発明1では、「写真現像剤組成物」であるのに対し、引用発明では、「薬液、水、油等の液体、又は該液体に微粒子(粉等)を分散させたようなもの、或いは、液体以外の錠剤、カプセル、粉末等の固形物からなる処理剤」である点。
相違点2:容器形成用合成樹脂が、本願補正発明1では、「密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)」であるのに対し、引用発明では、単に「合成樹脂」であるとされる点。
相違点3:容器の形状及び寸法が、本願補正発明1では、「(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形」であるのに対し、引用発明では、「(1)容器本体の底面が、長辺に対する短辺の比がおおよそ1.0の長方形又は正方形」であることから、引用発明における容器本体の底面の前記形状は、本願補正発明1において限定されている容器の形状についての「(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は正方形」の範囲内の数値であるから、引用発明は、本願補正発明1において限定されている容器本体の底面の形状については少なくとも一致しており、容器本体の底面の寸法が不明である点でのみ、本願補正発明1と相違する。

(4)相違点についての判断
ア 相違点1について
本願特許出願の発明の詳細な説明の段落【0063】ないし【0080】に記載されているように、本願補正発明1の「写真現像剤組成物」は、「現像剤組成物」、「漂白剤組成物」、「定着剤組成物」等からなる写真処理剤組成物の内のひとつの写真処理剤組成物であって、引用発明の写真処理剤組成物である「薬液、水、油等の液体、又は該液体に微粒子(粉等)を分散させたようなもの、或いは、液体以外の錠剤、カプセル、粉末等の固形物からなる処理剤」に包含されるものである。
そうしてみると、本願補正発明1の前記相違点1は、単に表現上の形式的な相違であって、実質的な相違点とはいえない。

イ 相違点2について
引用刊行物2に「高密度ポリエチレン(HDPE)として、密度0.940g/cc以上、好ましくは0.940?0.965g/cc、より好ましくは、0.945g/cc?0.955g/ccの単独の材料からなる、自動現像装置等の感光材料処理装置の処理液用容器」が記載されている。
また、引用刊行物3に「密度が0.95であり、メルトインデックス(MI)が0.3であるような高密度ポリエチレン樹脂の成形用樹脂で成形された、排出性が良く洗浄性が向上したプラスチック容器」が記載されている。
そうしてみると、引用発明の処理剤を封入する処理剤容器34を構成する合成樹脂材料として、引用刊行物2に記載の「密度0.940g/cc以上、好ましくは0.940?0.965g/cc、より好ましくは、0.945g/cc?0.955g/ccの高密度ポリエチレン(HDPE)」、あるいは、引用刊行物3に記載の「密度が0.95であるような高密度ポリエチレン樹脂」を採用して処理剤を封入する処理剤容器34を成形するに際して、その高密度ポリエチレン(HDPE)のメルトインデックスについて、引用刊行物3に記載の「メルトインデックス(MI)が0.3であるような高密度ポリエチレン樹脂」を採用することにより、引用発明の処理剤を封入する処理剤容器34の構成材料である合成樹脂を、本願補正発明1の前記相違点2に係る「密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)」とすることは、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載の発明に基づいて、当業者が容易に想到できることである。

ウ 相違点3について
本願特許出願の発明の詳細な説明の段落【0048】ないし【0052】に、洗浄時における写真現像剤組成物の残渣の排出効率が、写真現像剤組成物用容器の寸法と形状に依存するだけではなく、その洗浄の際に用いられる洗浄液の温度、噴射速度、噴射回数、噴射量、噴射角度等の洗浄時の条件にも依存する旨が記載されているのに対して、本願補正発明1では、前記洗浄条件が特定されていない。
また、洗浄時における写真現像剤組成物の残渣の排出効率は、本願特許出願の発明の詳細な説明の段落【0016】に記載された写真現像剤組成物の構成成分の固有の特性にも依存すると考えられるところ、本願補正発明1では、写真現像剤組成物用に使用される構成成分の材料名が特定されてなく、しかも、粉末か顆粒か、錠剤か、スラリー状か、あるいは液状かの形態についての特定もされていない。
そうしてみると、本願補正発明1において、「長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形」、「辺の長さが40?100mmの正方形」又は「内径が40?100mmの円形」のように、写真現像剤組成物用容器の長辺と短辺との相対的比(アスペクト比)による、引用発明の処理剤容器と同じ形状の写真現像剤組成物用容器の形状の限定のほかに、前記容器の長辺の長さ又は内径の寸法を絶対的数値により限定したとしても、写真現像剤組成物用容器の所望の排出効率を得るために必要とされる前述したような諸々の洗浄条件に対して、本願補正発明1においては、洗浄の際に用いる洗浄液の温度、噴射速度、噴射回数、噴射量、噴射角度等の洗浄時の条件が特定されてなく、また、写真現像剤組成物として使用される構成成分の材料名も特定されてなく、いずれも不明であることから、本願補正発明1における写真現像剤組成物用容器の長辺の長さ又は内径の寸法を絶対的数値によりする寸法の限定は、諸々の洗浄条件のうちで、単に部分的な洗浄条件としての容器の寸法を、絶対的数値により規定しただけであるというべきである。
そうすると、本願補正発明1の「長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形」、「辺の長さが40?100mmの正方形」又は「内径が40?100mmの円形」の寸法の限定は、洗浄の際に用いる洗浄液の温度、噴射速度、噴射回数、噴射量、噴射角度等の洗浄時の条件について特定されてなく、また写真現像剤組成物として使用される構成成分の材料名も特定されてなく、いずれも不明である本願補正発明1においては、絶対の数値条件ということができないから、本願補正発明1の「(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形」の寸法の限定は、当業者が必要に応じて適宜定めることができる設計事項にすぎない。

そして、本願補正発明1の奏する作用効果は、引用発明、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明から予測できる範囲内のものであって、格別のものということができない。

エ まとめ
したがって、本願補正発明1は、引用発明、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願補正発明1は特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

(5)むすび
以上のとおりであり、本件補正後の特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定するところの「特許出願の際独立して特許を受けることができるもの」に適合していないから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記「第2」欄に前述した理由により、平成18年3月20日付の手続補正が却下されたので、当審が審理すべき本願発明は、平成17年4月25日付の手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、そのうちの請求項1に係る発明は、次のとおりのものである(上記「第2」の「1 補正の内容」欄を参照)。
「【請求項1】 密度が0.941?0.969g/cm3でメルトインデックスが0.3?5.0g/10minの高密度ポリエチレン(HDPE)を単一の構成樹脂とする写真処理剤組成物用容器であり、該処理剤組成物を流出させる口部と、口部を閉塞する蓋又はシール部材と、口部と対向する側に設けられた底部と、口部と底部に挟まれて該処理剤組成物を実質的に収納する柱状部と、柱状部を口部と結合させる肩部から構成されており、かつその形状寸法は、(1)該柱状部の底面への投影面が、長辺の長さが40?100mmでかつ長辺に対する短辺の比が0.7?1.0の長方形又は辺の長さが40?100mmの正方形、若しくは内径が40?100mmの円形であり、(2)該柱状部の高さの上記長辺又は内径に対する比が2.0?4.0であり、(3)該肩部の柱状部から口部へ向けてなす傾斜角(底面となす角度)が15?45°である、ことを特徴とする写真処理剤組成物用容器。」(以下、これを「本願発明1」という。)

2 引用刊行物及び記載事項
原審における拒絶査定の理由に引用された刊行物であって本願特許出願前に頒布された引用刊行物1、引用刊行物2及び引用刊行物3には、上記「第2」の「3 独立特許要件の有無」の「(2)引用刊行物及び記載事項」のアないしウ欄に摘記したとおりの技術事項が記載されており、そして、前記引用刊行物1に記載されている発明(引用発明)は、前記ア欄に前示のとおりである。

3 対比・判断
本願発明1は、上記「第2」の「2 補正の適否の検討」欄で前述したところの、本願補正発明1における「写真現像剤組成物」の限定が解除されることにより、前記「写真現像剤組成物」を、その上位概念である「写真処理剤組成物」としたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに限定されたものに相当する本願補正発明1が、前記「第2」の「3 独立特許要件の有無」の「(4)相違点についての判断」欄及び「(5)むすび」欄に記載したとおり、引用発明、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、本願補正発明1と同様の理由により、引用発明、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用刊行物1、引用刊行物2及び引用刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本願発明1が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明についての検討をするまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-29 
結審通知日 2007-01-31 
審決日 2007-02-14 
出願番号 特願2005-27946(P2005-27946)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03D)
P 1 8・ 121- Z (G03D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星野 浩一  
特許庁審判長 佐藤 昭喜
特許庁審判官 柏崎 正男
森内 正明
発明の名称 写真現像剤組成物用容器  
代理人 高松 猛  
代理人 市川 利光  
代理人 小栗 昌平  
代理人 本多 弘徳  
代理人 矢澤 清純  

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