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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B32B
管理番号 1154943
審判番号 無効2004-80148  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-09-08 
確定日 2007-04-12 
事件の表示 上記当事者間の特許第3424212号「小紙片印刷用積層シート」の特許無効審判事件について、審理の併合のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第3424212号の請求項1?4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3424212号に係る発明についての出願は、平成5年5月21日の出願であって、平成15年5月2日にその発明について特許権の設定登録がなされた。
これに対して、
1)その請求項1?4に係る発明の特許について審判請求人ヒサゴ株式会社より平成16年9月8日に無効審判が請求され(無効2004-80148号)、同年12月6日に答弁書と訂正請求書が提出され、その訂正請求に対して手続補正指令が通知された後、平成17年2月4日付で手続却下の決定がなされ、その処分は確定している。
2)その後、その請求項1?4に係る発明の特許について審判請求人 吉田 隆より平成17年3月25日に無効審判が請求され(無効2005-80090号)、上記無効2004-80148号と併合された後、同年6月20日に答弁書と共に訂正請求書が提出された。
上記答弁書と訂正請求書に対して、審判請求人ヒサゴ株式会社から同年8月5日付で弁駁書が提出された後(審判請求人 吉田 隆は何ら応答しなかった。)、同年9月20日付で訂正拒絶の理由及び両審判請求人に対する職権審理結果が通知され、その指定期間内の同年10月26日付で被請求人から意見書と手続補正書が提出されたものである。

2.平成17年6月20日付の訂正の適否について
(2.1)訂正の内容
被請求人が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
1)特許請求の範囲の請求項1?4の記載を、以下のとおり訂正する。
「【請求項1】カード印刷用の紙基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記カード印刷用の紙基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記カード印刷用の紙基材層に所定形状のカードを輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とするカード印刷用積層シート。
【請求項2】前記カード印刷用の紙基材層の外表面に感熱発色層、自己発色性感圧記録層、熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカード印刷用積層シート。」
2)明細書における【発明の名称】を、「小紙片印刷用積層シート」から、「カード印刷用積層シート」に訂正する。
3)明細書の発明の詳細な説明の記載を以下の通り訂正する。
訂正事項1;
訂正前明細書段落【0001】の記載における「本発明は、B5サイズにも満たない小紙片に印刷を施すためのシ-トに関するものである。」を、
「本発明は、B5サイズにも満たないカードに印刷を施すためのシートに関するものである。」と訂正する。
訂正事項2;
訂正前明細書段落【0002】の記載における「例えば、名刺、パーティー券、注意書等、同一寸法、同一内容のカード類を多量に作製する場合、従来は小紙片の大きさに応じた専用印刷装置を使用する必要があった。」を、
「例えば、名刺、パーティー券、注意書等、同一寸法、同一内容のカードを多量に作製する場合、従来はカードの大きさに応じた専用印刷装置を使用する必要があった。」と訂正する。
訂正事項3;
訂正前明細書段落【0002】の記載における「汎用機器を用いて所定の印刷をした上で、小紙片を切取るための切込みを施す方法も行われていた。」を、
「汎用機器を用いて所定の印刷をした上で、カードを切取るための切込みを施す方法も行われていた。」と訂正する。
訂正事項4;
訂正前明細書段落【0003】の記載における「本発明は、殊更に専用印刷装置を用いずとも小紙片への印刷を可能にすることを目的としている。」を、
「本発明は、殊更に専用印刷装置を用いずともカードへの印刷を可能にすることを目的としている。」と訂正する。
訂正事項5;
訂正前明細書段落【0003】の記載における「本発明はこのようなトラブルを起こす恐れがなく、パソコン、ワープロ等のプリンタによって、簡単に小紙片に印刷を行うことのできるシートの提供を目的としている。」を、
「本発明はこのようなトラブルを起こす恐れがなく、パソコン、ワープロ等のプリンタによって、簡単にカードに印刷を行うことのできるシートの提供を目的としている。」と訂正する。
訂正事項6;
訂正前明細書段落【0004】の記載における「本発明は、積層シートを構成する基材層と樹脂層との間、或いは樹脂層相互間等、各層間の接着強度を強めるための既知の手法、」を、
「本発明は、積層シートを構成するカード印刷用の紙基材層又は支持用基材層と樹脂層との間、或いは樹脂層相互間等、各層間の接着強度を強めるための既知の手法、」と訂正する。
訂正事項7;
訂正前明細書段落【0004】の記載における「そして、請求項1に係る小紙片印刷用積層シートは、印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記印刷用基材層に所定の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする。」を、
「そして、請求項1に係るカード印刷用積層シートは、カード印刷用の紙基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記カード印刷用の紙基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記カード印刷用の紙基材層に所定のカードを輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする。」と訂正する。
訂正事項8;
訂正前明細書段落【0004】の記載における「また、請求項2に係る小紙片印刷用積層シートは、2層以上の構成とした中間層における熱可塑性樹脂相互間のうちの1箇所の層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記印刷用基材層に所定の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする。」を削除する。
訂正事項9;
訂正前明細書段落【0005】の記載における「本発明において、印刷用或いは支持用の基材層として、紙または合成紙、樹脂フィルム、金属箔等を用いる。印刷用基材層は、印刷適性及び切込み適性から紙とすることが最も適当であり、特に耐水性を付与するために紙基材層の外表面に樹脂層を設けること、」を、
「本発明において、支持用の基材層としては、紙(合成紙を含む)、樹脂フィルム、金属箔等を用いる。カード印刷用の紙(合成紙を含む)基材層としては、特に耐水性を付与するために紙基材層の外表面に樹脂層を設けること、」と訂正する。
訂正事項10;
訂正前明細書段落【0005】の記載における「印刷用基材層の外表面は印刷に適するように表面平滑処理されることが望ましく、」を、
「カード印刷用の紙基材層の外表面は印刷に適するように表面平滑処理されることが望ましく、」と訂正する。
訂正事項11;
訂正前明細書段落【0006】の記載における「支持用基材層は、積層シートが厚手となることを防ぎ、また、剥離時に湾曲させることが容易なように、薄葉紙等薄手のものが適している。」を、
「前記支持用基材層は、積層シートが厚手となることを防ぎ、また、剥離時に湾曲させることが容易なように、薄葉紙等薄手のものが適している。」と訂正する。
訂正事項12;
訂正前明細書段落【0007】の記載における「基材層との組合わせにより層問の接着性が不足する場合には、」を、
「カード印刷用の紙基材層、支持用基材層との組合わせにより層間の接着性が不足する場合には、」と訂正する。
訂正事項13;
訂正前明細書段落【0007】の記載における 「基材層との接着力を調整するために、種類の異なる樹脂を積層することや、それらの積層を異なる条件で行なうことも有効である。」を、
「カード印刷用の紙基材層、支持用基材層との接着力を調整するために、種類の異なる樹脂を積層することや、それらの積層を異なる条件で行なうことも有効である。」と訂正する。
訂正事項14;
訂正前明細書段落【0008】の記載における「本発明に係る積層シートは、印刷用基材層と樹脂層との間、或いは樹脂相互の層間で剥離されることとなりかつ通常の取扱いでは剥離しないが、剥離しよう思えば容易に剥離操作が行われるように印刷用基材層と樹脂層との間の剥離強度は、0.5?200g/cmとすることが必要である。」を、
「本発明に係る積層シートは、カード印刷用の紙基材層と樹脂層との間で剥離されることとなりかつ通常の取扱いでは剥離しないが、剥離しようと思えば容易に剥離操作が行われるようにカード印刷用の紙基材層と樹脂層との間の剥離強度は、0.5?200g/cmとすることが必要である。」と訂正する。
訂正事項15;
訂正前明細書段落【0009】の記載における「基材層と樹脂層との間、或いは樹脂相互の層間での接着強度を調節する因子としては、熱可塑性樹脂の種類及び層厚、熱可塑性樹脂層中に添加剤を含有させるか否か、その種類及び使用量、基材層表面に対するコロナ処理の強度、熱可塑性樹脂層表面に対するオゾン処理の強度、基材層のプレヒート温度、樹脂押出し温度等を挙げることができる。」を、
「カード印刷用の紙基材層又は支持用基材層と樹脂層との間、或いは樹脂相互の層間での接着強度を調節する因子としては、熱可塑性樹脂の種類及び層厚、熱可塑性樹脂層中に添加剤を含有させるか否か、その種類及び使用量、カード印刷用の紙基材層又は支持用基材層表面に対するコロナ処理の強度、熱可塑性樹脂層表面に対するオゾン処理の強度、カード印刷用の紙基材層又は支持用基材層のプレヒート温度、樹脂押出し温度等を挙げることができる。」と訂正する。
訂正事項16;
訂正前明細書段落【0009】の記載における「本発明では、これらの処理を樹脂層及び基材層各々に対して、適宜使い分けることによって、剥離容易な積層シートを製造することができる。」を、「本発明では、これらの処理を樹脂層、カード印刷用の紙基材層及び支持用基材層各々に対して、適宜使い分けることによって、カード印刷用の紙基材層と中間層との層間で剥離容易な積層シートを製造することができる。」と訂正する。
訂正事項17;
訂正前明細書段落【0010】の記載における「なお、樹脂相互の層間で剥離させる場合には、作製されたカード類の裏面側に樹脂層が積層されていることになる。」を、
「なお、樹脂相互の層間で剥離させる場合には、作製されたカードの裏面側に樹脂層が積層されていることになる。」と訂正する。
訂正事項18;
訂正前明細書段落【0011】の記載における「本発明においては、印刷用基材層に切込みを設けることで、所定形状の印刷された小紙片を得ることが可能になる。切込みは、名刺、招待券、入場券、注意書、名札、はがき等、作製対象とされたカード類の輪郭を予め設定して、ロータリー切込みカッター或いは平版切込みカッターを用意しておき、上下の基材層に中間層が挟持され積層接着された後に、印刷用基材層側の外表面から切込むことになる。切込みの深さは、印刷用基材層を完全に貫くことは勿論として、印刷用基材層と中間層との間で剥離させる場合には、中間層の直前或いは中間層か支持用基材層の厚みの中途に達する程度とし、中間層における熱可塑性樹脂層相互間で剥離させる場合には、印刷用基材層側に付着して剥離する熱可塑性樹脂層をも貫き、支持用基材層に付着する熱可塑性樹脂層の直前或いはこの樹脂層か支持用基材層の厚みの中途に達する程度とする。決して小紙片の輪郭全長に亘って支持用基材層を貫くことがあってはならない。」を、
「本発明においては、カード印刷用の紙基材層に切込みを設けることで、所定形状の印刷されたカードを得ることが可能になる。切込みは、名刺、招待券、入場券、注意書、名札、はがき等、作製対象とされたカードの輪郭を予め設定して、ロータリー切込みカッター或いは平版切込みカッターを用意しておき、上下にあるカード印刷用の紙基材層、支持用基材層に中間層が挟持され積層接着された後に、カード印刷用の紙基材層側の外表面から切込むことになる。切込みの深さは、カード印刷用の紙基材層を完全に貫くことは勿論として、中間層の直前或いは中間層か支持用基材層の厚みの中途に達する程度とする。決してカードの輪郭全長に亘って支持用基材層を貫くことがあってはならない。」と訂正する。
訂正事項19;
訂正前明細書段落【0012】の記載における「前述のようにして、切込みを施された小紙片印刷用積層シートは、B4、B5、A3、A4等の規定寸法又は不定寸法のカットシート或いは適宜幅のロールシートとして作製される。この小紙片印刷用積層シートは、作製しようとする小紙片の形状或いは使用する印刷装置の形式に応じて、選択して使用される。印刷装置は、専用の印刷装置、コンピュータやワープロのプリンタ等、任意である。印字情報は予め小紙片の形状に合わせてレイアウトされ、上記のカットシート又はロールシートとして供給される小紙片印刷用積層シートにおいて切込みで輪郭付けられた小紙片対応位置に印刷される。そして、印刷後に、切込みを利用して小紙片を剥離することで、所望のカード類が作製される。剥離に際しては、剥離強度が0.5?200g/cm、好ましくは0.5?100g/cmに調整されているために、基材層は予定された剥離箇所から、熱可塑性樹脂層を伴って或いは熱可塑性樹脂層を伴わずに容易に剥離することができる。」を、
「前述のようにして、切込みを施されたカード印刷用積層シートは、B4、B5、A3、A4等の規定寸法又は不定寸法のカットシート或いは適宜幅のロールシートとして作製される。このカード印刷用積層シートは、作製しようとするカードの形状或いは使用する印刷装置の形式に応じて、選択して使用される。印刷装置は、専用の印刷装置、コンピュータやワープロのプリンタ等、任意である。印字情報は予めカードの形状に合わせてレイアウトされ、上記のカットシート又はロールシートとして供給されるカード印刷用積層シートにおいて切込みで輪郭付けられたカード対応位置に印刷される。そして、印刷後に、切込みを利用してカードを剥離することで、所望のカードが作製される。剥離に際しては、剥離強度が0.5?200g/cm、好ましくは0.5?100g/cmに調整されているために、カード印刷用の紙基材層は予定された剥離箇所から、熱可塑性樹脂層を伴わずに容易に剥離することができる。」と訂正する。
訂正事項20;
訂正前明細書段落【0014】の記載における「図1は、本発明に係る小紙片印刷用積層シートの例を示す平面図である。この積層シート1はカットシートタイプであり、A4サイズ(297mm×210mm)に断裁されている。図中、小紙片2は名刺サイズ(91mm×55mm)であって、切込み10によって輪郭付けられて、所定枚数分が配置されている。この例においては、小紙片2は1枚ずつ間隔をおいて設けられているが、隣接して配置していても差支えない。」を、
「図1は、本発明に係るカード印刷用積層シートの例を示す平面図である。この積層シート1はカットシートタイプであり、A4サイズ(297mm×210mm)に断裁されている。図中、カード2は名刺サイズ(91mm×55mm)であって、切込み10によって輪郭付けられて、所定枚数分が配置されている。この例においては、カード2は1枚ずつ間隔をおいて設けられているが、隣接して配置していても差支えない。」と訂正する。
訂正事項21;
訂正前明細書段落【0015】の記載における「図2は、図1のA-A線断面図である。印刷用基材層3と支持用基材層6との間には、プロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂層4及び5が積層されており一体に積層接着することで積層シート1が構成されている。尚、この実施例において、印刷用基材層3及び支持用基材層6は共に紙製である。印刷用基材層3には、小紙片2を輪郭付ける切込み10が施されており、熱可塑性樹脂層4の中途まで達する深さとなっている。この例では印刷用基材層3と熱可塑性樹脂層4との間で剥離強度が小さくなるように構成されており、印刷用基材層3のみが剥離することになるが、切込み10を施す際の加工精度を考慮してこのような切込み探さとなっている。」を、
「図2は、図1のA-A線断面図である。カード印刷用の紙基材層3と支持用基材層6との間には、プロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂層4及び5が積層されており、一体に積層接着することで積層シート1が構成されている。尚、この実施例において、カード印刷用の紙基材層3及び支持用基材層6は共に紙製である。カード印刷用の紙基材層3には、カード2を輪郭付ける切込み10が施されており、熱可塑性樹脂層4の中途まで達する深さとなっている。この例ではカード印刷用の紙基材層3と熱可塑性樹脂層4との間で剥離強度が小さくなるように構成されており、カード印刷用の紙基材層3のみが剥離することになるが、切込み10を施す際の加工精度を考慮してこのような切込み探さとなっている。」と訂正する。
訂正事項22;
訂正前明細書段落【0016】の記載における「上記した小紙片印刷用積層シートの製造例を次に示す。」を、
「上記したカード印刷用積層シートの製造例を次に示す。」と訂正する。
訂正事項23;
訂正前明細書段落【0016】の記載における「前記樹脂層が固化する前に、添加剤含有の樹脂層上に印刷用基材層3である上質紙をクーリングロールで冷却圧着し積層シートを得た。」を、
「前記樹脂層が固化する前に、添加剤含有の樹脂層上にカード印刷用の紙基材層3である上質紙をクーリングロールで冷却圧着し積層シートを得た。」と訂正する。
訂正事項24;
訂正前明細書段落【0016】の記載における「さらに、ロータリーカッターを用いて、印刷用基材層3を名刺サイズで部分的に剥離可能とする切込み10を施した。このようにして得られた小紙片印刷用積層シート1は印刷用基材層3と熱可塑性樹脂層4との間の剥離強度が40g/cmであり、この層間で剥離容易であった。」を、
「さらに、ロータリーカッターを用いて、カード印刷用の紙基材層3を名刺サイズで部分的に剥離可能とする切込み10を施した。このようにして得られたカード印刷用積層シート1はカード印刷用の紙基材層3と熱可塑性樹脂層4との間の剥離強度が40g/cmであり、この層間で剥離容易であった。」と訂正する。
訂正事項25;
訂正前明細書段落【0017】の記載における「また、図3は、他の実施例に係る小紙片印刷用積層シ-トの積層構造を示す断面図である。この実施例においては、中間層を構成する2層の熱可塑性樹脂層7,8は、各々印刷用基材層3及び支持用基材層6に対する接着に比較して、相互間の方が接着強度が小さく構成されている。従って、剥離は熱可塑性樹脂層7,8の間で起こることになるので、切込み11は印刷用基材層3及び熱可塑性樹脂層7を貫き、熱可塑性樹脂層8の中途にまで達している。この実施例に係る積層シートによって作成された名刺には裏面に熱可塑性樹脂層が積層された状態となる。」を、
「また、図3は、他の実施例に係るカード印刷用積層シートの積層構造を示す断面図である。この実施例においては、中間層を構成する2層の熱可塑性樹脂層7,8は、各々カード印刷用の紙基材層3及び支持用基材層6に対する接着に比較して、相互間の方が接着強度が小さく構成されている。従って、剥離は熱可塑性樹脂層7,8の間で起こることになるので、切込み11はカード印刷用の紙基材層3及び熱可塑性樹脂層7を貫き、熱可塑性樹脂層8の中途にまで達している。この実施例に係る積層シートによって作成された名刺には裏面に熱可塑性樹脂層が積層された状態となる。」と訂正する。
訂正事項26;
訂正前明細書段落【0018】の記載における「この図3に示された小紙片印刷用積層シートの製造例を次に示す。」を、
「この図3に示されたカード印刷用積層シートの製造例を次に示す。」と訂正する
訂正事項27;
訂正前明細書段落【0018】の記載における「前記樹脂層が固化する前に、低密度ポリエチレンの樹脂層7上に印刷用基材層である上質紙3をクーリングロールで冷却圧着し積層シートを得た。このとき、樹脂溶融膜の印刷用基材層3と接着させる面にオゾン含有空気を吹き付ける処理を行うと共に、樹脂溶融膜積層直前に印刷用基材層3にコロナ処理を行った。」を、
「前記樹脂層が固化する前に、低密度ポリエチレンの樹脂層7上にカード印刷用の紙基材層である上質紙3をクーリングロールで冷却圧着し積層シートを得た。このとき、樹脂溶融膜のカード印刷用の紙基材層3と接着させる面にオゾン含有空気を吹き付ける処理を行うと共に、樹脂溶融膜積層直前にカード印刷用の紙基材層3にコロナ処理を行った。」と訂正する。
訂正事項28;
訂正前明細書段落【0018】の記載における「その後ロータリカッターを用いて印刷用基材層の側からポリプレンピレン層8の中程に達する切込みを施し、名刺の剥離を可能にした。名刺の裏面にはポリエチレン層が積層された状態となっている。」を、
「その後ロータリーカッターを用いてカード印刷用の紙基材層の側からポリプロピレン層8の中程に達する切込みを施し、名刺の剥離を可能にした。名刺の裏面にはポリエチレン層が積層された状態となっている。」と訂正する。
訂正事項29;
訂正前明細書段落【0019】の記載における「本発明に係る小紙片印刷用積層シートは、カード等小紙片の印刷物を作成する際にA4,B5等のカットシート或いはロールシートに印刷するのと同様に扱えるので、」を、
「本発明に係るカード印刷用積層シートは、カードの印刷物を作成する際にA4,B5等のカットシート或いはロールシートに印刷するのと同様に扱えるので、」と訂正する。
訂正事項30;
訂正前明細書段落【0019】の記載における「更に、積層シートの層間に粘着剤や接着剤を一切使用していないので、作成されたカード類を使用する際に埃の付着することがなく、他の用紙に付着することもなく、積み重ねて保管することもできる。また、万一フィードミスなどで印刷中に剥離が起こっても印刷機内部ではりついてしまうような心配もない。」を、
「更に、積層シートの層間に粘着剤や接着剤を一切使用していないので、作成されたカードを使用する際に埃の付着することがなく、他の用紙に付着することもなく、積み重ねて保管することもできる。また、万一フィードミスなどで印刷中に剥離が起こっても印刷機内部ではりついてしまうような心配もない。」と訂正する。
訂正事項31;
図面の簡単な説明の記載における「【図1】本発明に係る小紙片印刷用積層シートの例を示す平面図である。」を、
「【図1】本発明に係るカード印刷用積層シートの例を示す平面図である。」と訂正する。
訂正事項32;
符号の説明の記載における
「1 小紙片印刷用積層シート
2 小紙片
3 印刷用基材層」を
「1 カード印刷用積層シート
2 カード
3 カード印刷用の紙基材層」

(2.2)訂正の適否
(2.2.1)訂正拒絶理由
訂正拒絶の理由の内容は以下のとおりである。
「1.訂正の内容
特許権者が求める上記訂正の請求において、(1)明細書に関する訂正事項9の訂正内容及び(2)訂正後の請求項2に関する訂正内容は以下のとおりのものと認める。
(1)訂正事項9;
訂正前明細書段落【0005】の記載における『本発明において、印刷用或いは支持用の基材層として、紙または合成紙、樹脂フィルム、金属箔等を用いる。印刷用基材層は、印刷適性及び切込み適性から紙とすることが最も適当であり、特に耐水性を付与するために紙基材層の外表面に樹脂層を設けること、』を、
『本発明において、支持用の基材層としては、紙(合成紙を含む)、樹脂フィルム、金属箔等を用いる。カード印刷用の紙(合成紙を含む)基材層としては、特に耐水性を付与するために紙基材層の外表面に樹脂層を設けること、』と訂正する。
(2)訂正前の請求項4「【請求項4】前記紙製の印刷用紙基材層の外表面に感熱発色層、自己発色性感圧記録層、熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小紙片印刷用積層シート。」を、
「【請求項2】前記カード印刷用の紙基材層の外表面に感熱発色層、自己発色性感圧記録層、熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のカード印刷用積層シート。」と訂正する。

2.当審の判断
(1)について
訂正前の明細書段落【0005】では、紙と合成紙を区別しており、耐水性を付与するために外表面に樹脂層を設ける対象は、合成紙を含まない「紙基材層」である。
これに対し、訂正後の明細書段落【0005】では、耐水性を付与するために外表面に樹脂層を設ける対象は、「印刷用基材層」が「カード印刷用の紙(合成紙を含む)基材層」に訂正されたことにより、合成紙を含む「紙基材層」である。
しかし、合成紙基材層の外表面に樹脂層を設けることに関しては、願書に添付した明細書又は図面に記載されておらず、また、訂正後の「紙基材層」は合成紙を含まないことが出願時の技術常識であるとも認められない。
したがって、上記訂正事項9を含む訂正は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてした訂正ではない。
(2)について
訂正前の明細書段落【0005】が紙と合成紙を区別していることは、上記(1)で判断したとおりであるから、訂正前の請求項4における「前記紙製の印刷用基材層」は、合成紙を含まない「紙製の印刷用基材層」である。
これに対し、訂正後の請求項2では、明細書段落【0005】で「印刷用基材層」が「カード印刷用の紙(合成紙を含む)基材層」と訂正されたことにより、「カード印刷用の紙基材層」は合成紙を含む「カード印刷用の紙基材層」である。
したがって、この訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものである。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記(1)及び(2)の訂正内容を含む当該訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同第126条第3項及び4項の規定に適合しないので、当該訂正は認められない。」

(2.2.2)補正の適否
被請求人は、上記訂正拒絶理由に対し、訂正事項9における
1)「カード印刷用の紙(合成紙を含む)基材層」を「カード印刷用の紙基材層」と補正(補正a)し、
2)「支持用の基材層としては、紙(合成紙を含む)」を「支持用の基材層としては、紙または合成紙」と補正(補正b)した。
しかし、上記補正aは、補正bにより「紙」と「合成紙」とが区別されたことに伴い、訂正事項の内容の変更を伴うものであり、単なる誤記の訂正とはいえないし、上記補正bは「紙」と「合成紙」を区別するものであり、実質的にその内容を変更するものと認める。
したがって、上記訂正請求書の補正は、「訂正を申し立てている事項」の内容を実質的に変更するものと認められるから、訂正請求書の要旨を変更するものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第131条の2第1項の規定に適合せず、当該補正を認めることはできない。

(2.2.3)訂正の適否についての判断
上記(2.2.2)に記載したとおり、訂正請求書の補正は認めることができないので、本件訂正は、訂正拒絶の理由で通知したとおりの理由により、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合しないので、認めることができない。

3.本件発明
上記2.2のとおり、訂正請求は認められないので、本件特許第3424212号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?4」という。)は、願書に添付した明細書の記載からみて、その特許査定時の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層以上のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする小紙片印刷用積層シート。
【請求項2】 印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として2層以上の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記中間層における熱可塑性樹脂相互間のうちの1箇所の層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さく且つ剥離強度0.5?200g/cmであると共に、前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする小紙片印刷用積層シート。
【請求項3】 前記印刷用基材層が紙であり、前記中間層がポリオレフィンである請求項2に記載の小紙片印刷用積層シート。
【請求項4】 前記紙製の印刷用基材層の外表面に感熱発色層、自己発色性感圧記録層、熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小紙片印刷用積層シート。」

4.当事者の主張
(4.1)請求人の主張
(4.1.1)ヒサゴ株式会社の主張
請求人は、「特許第3424212号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第5号証並びに参考文献(1a)?(1c)及び参考文献(2a)?(2e)を提出しているところ、その理由の概略は以下のとおりである。
無効理由
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証?甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1?4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。

甲第1号証:実願平3-20399号(実開平4-109182号)のマイクロフィルム
甲第2号証:実願昭60-87925号(実開昭61-204729号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭63-115191号公報
甲第4号証:実願昭60-66725号(実開昭61-182579号)のマイクロフィルム
甲第5号証:実願平2-2893号(実開平3-95269号)のマイクロフィルム
甲第6号証:特開平5-318672号公報
参考文献1a:特許第3424211号公報
参考文献1b:特開平6-328608号公報
参考文献1c:実公平4-23251号公報
参考文献2a:特許第3424213号公報
参考文献2b:特開平6-328610号公報
参考文献2c:特開昭63-115191号公報
参考文献2d:実開平3-103480号公報
参考文献2e:実開平3-110470号公報

(4.1.2)吉田隆の主張
請求人は、「特許第3424212号は、これを無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、その証拠方法として下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出しているところ、その理由の概略は以下のとおりである。
無効理由
本件特許の請求項1?4に係る発明は、甲第1号証?甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1?4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し無効とすべきものである。

甲第1号証:実願平3-20399号(実開平4-109182号)のマイクロフィルム(請求人 ヒサゴ株式会社の甲第1号証と同一)
甲第2号証:実願昭60-66725号(実開昭61-182579号)のマイクロフィルム(請求人 ヒサゴ株式会社の甲第4号証と同一)
甲第3号証:特開平4-223190号公報

(4.2)被請求人の主張
被請求人は、ヒサゴ株式会社及び吉田隆に対して、いずれも「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めている。

5.当審の判断
(5.1)甲各号証の記載
(5.1.1)請求人 ヒサゴ株式会社の提出した甲第1号証?甲第5号証には、以下のことが記載されている。

1)甲第1号証:実願平3-20399号(実開平4-109182号)のマイクロフィルム
甲第1号証に記載された発明は、小紙片であるカード8に印刷を施すためのカード付きメール帳票に関するものであり、帳票への印字とカード部分への印字を同時に行うこと、ノンインパクト型プリンター及びインパクト型プリンターでの印字を可能とすること、帳票の大きさを葉書サイズとすること、接着剤使用の問題点を解消すること等を解決課題とし(段落0002?0007)、以下の事項が記載されている。
(1-1)
「【請求項1】疑似接着層を有する積層シートよりなるメール帳票本体の表面側より少なくとも前記疑似接着層を貫通し、帳票本体を貫通しない切込みを設け、該切込みによって区画され、疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカード部を形成したことを特徴とするカード付きメール帳票。」(実用新案登録請求の範囲)
(1-2)
「図2に示す態様のカード付きメール帳票1の帳票本体11は、紙、プラスチック、合成紙やこれらの積層体等からなる基材シート12とアルミニウム蒸着層等の金属蒸着層13、フィルム14、疑似接着層9、フィルム15とからなる積層シート16を、接着剤層17を介して帳票基材10の裏面側に貼着してなる構成を有している。」(段落0013)
(1-3)
「図1において、1は本考案のカード付きメール帳票で、該帳票1はミシン目2を介して複数連続した連続帳票として構成され、両端縁部にはプリンターのトラクターピンに係止する複数の穴3を設けたトラクターピン係止片4がミシン目5によって切取り可能に設けられている。帳票1の表面の右側の略半分には、送り先の住所、氏名等の固有情報を印字するための宛名欄6が設けられており、該宛名欄6の左側には切込み7によって区画されたカード8が形成されている。
本考案の帳票1におけるカード8は、図2に示すように疑似接着層9を有する積層シートよりなるメール帳票本体11の表面側に位置する帳票基材10に、表面側から少なくとも疑似接着層9を貫通し、メール帳票本体11は貫通しない切込み7を設けることによって形成されている。」(段落0011,0012)
(1-4)
「上記、帳票基材10としては通常の葉書等として用いられている、紙、合成紙、合成樹脂フィルム、金属薄板等が用いられる。帳票基材10の表面側には印字適性を付与するためにマット処理等を施しておくこともできる。帳票基材10の厚みは、通常、50?300μ程度が好ましい。また帳票基材10の裏面側(積層シート16が貼着される側)、特にカード8と対応する部分には必要に応じて印刷や、プリンターにより印字を施しておくこともできる。」(段落0014)
(1-5)
「本考案のカード付きメール帳票1は、メール帳票本体11として、図3に示すように帳票基材10の裏面に、フィルム14、疑似接着層9、フィルム15とからなる積層シート18を接着剤層17を介して接着した構成のものを用いることもできる。…
本考案のカード付きメール帳票は、切込み7によって区画されたカード8を、疑似接着層9を界面として帳票本体11より容易に剥離することができる。」(段落0018,0019)
(1-6)
「帳票基材10の裏面に貼着される積層シート16におけるフィルム14、15としては、通常、相互間の接着性が低い材質のものが用いられ、例えばポリエチレンテレフタレート(以下、PET)とポリエチレン(以下、PE)、ポリプロピレン(以下、PP)とPE、ポリブチレンテレフタレート(以下PBT)とPE、PETとPP、PBTとPP等、オレフィン系樹脂とエステル系樹脂等の組み合わせが挙げられる。…
フィルム14と15との間に設けられる疑似接着層9は、フィルム14とフィルム15の一方と同じ材質の樹脂により構成することができる。例えばフィルム14がPEよりなり、フィルム15がPETよりなる場合、PE或いはPETをエクストルージョンコートしてフィルム14と15とを積層することにより、両フィルム14、15を疑似接着することができる。フィルム14と15とはエクストルージョンコートされた樹脂の濡れによって疑似接着される。またフィルム14を設けずに、金属蒸着層13表面に、該金属蒸着層13に対する接着性が低い樹脂をエクストルージョンコートしてフィルム15と擬似接着層9とを設けても良い。」(段落0015,0016)
(1-7)
「【考案の効果】 以上説明したように本考案のカード付きメール帳票は、カード部が表面に突出することがないから、カードを帳票に取り付けた状態でプリンターに取り付けて帳票の固有情報印字欄へ印字を行っても、プリンターのヘッド等にカードが引っ掛かる虞がなく、帳票の固有情報印字欄への印字と同時にカード表面への固有情報の印字を行うことができる。また帳票本体とカードとは疑似接着層によって疑似接着されており、印字の際にカードが剥離する虞もない。」(段落0020)

2)甲第2号証:実願昭60-87925号(実開昭61-204729号)のマイクロフィルム
甲第2号証に記載された発明は、化粧品容器の中蓋等に用いられる、通常その加工及び取扱いが困難な極めて薄いフィルム材料に関するものであり、以下の事項が記載されている。
(2-1)
「(1)フィルムシート2および前記フィルムシート2を支持案内するための支持シート4をこれらシート間で溶融固化された熱可塑性樹脂の結合層3を介して互いに剥離可能に結合させ、かつ前記熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層5を前記フィルムシート2および支持シート4のいずれか一方のシートの前記熱可塑性樹脂の結合層3と接する側の面に設けてなることを特徴とする支持リード付フィルム。

(5)前記熱可塑性樹脂がポリエチレンである前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。
(6)前記フィルムシート2が紙、金属ホイル紙および樹脂フィルムからなる群より選ばれている前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。
(7)前記支持シート4が紙、金属ホイル紙および樹脂フィルムからなる群より選ばれている前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の支持リード付フィルム。」(実用新案登録請求の範囲)
(2-2)
「前記紙シート4の表面側に表面処理層5として施される熱可塑性樹脂は結合層3の熱可塑性樹脂が溶融固化する際にこれと相溶して一体化する材料から形成される。」(10頁15?18行)
(2-3)
「フィルムシートおよび支持シートはそれらの間で溶融固化された熱可塑性樹脂の結合層を介して結合されているので、両シートは常時の取扱い時に加わる程度の外力では互いに剥離したり位置ずれを生じるようなことはないが、これは単に熱可塑性樹脂の溶融時の”濡れ”による接着に過ぎないので、たとえばフィルムシートを支持シートから90°ないし180°方向に剥ぎ起すことは極めて容易である。
…かかる接着力は前記表面処理層の熱可塑性樹脂としてたとえばポリエチレンを用いた場合、ほゞ50mmのシート試料について180°剥離力として測定して(剥離速度500mm/min、23℃、65°RH)約10?20g程度であった。これは通常の接着剤による剥離強度に比較して著しく低く、シート剥離時にほとんど抵抗感を与えない程度の値である。以下本明細書中ではこのような特別な結合状態を「疑似接着」という。」(6頁15行?7頁13行)
(2-4)
「紙シート4に対して結合層3を介して”疑似接着”により結合されたフィルムシート2からなる支持リード付フィルム1を得ることができる。」(12頁5?8行)
(2-5)
「本考案の支持リード付フィルムにおいては、支持シートをフィルムシートから剥離する際に熱可塑性樹脂の結合層をフィルムシートに残存させず必ず常に支持シート側(目的によってはフィルム支持シート側)に移行させることが必要である。
この点について、本考案の支持リード付フィルムでは前記結合層の熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層を前記支持シート(またはフィルムシート)の結合層に接する側に施してある。したがって前記結合層の熱可塑性樹脂がその溶融固化時にこれと同種の熱可塑性樹脂からなる表面処理層と相溶して一体化され、支持シートの剥離時には必ず表面処理層を設けた支持シート(またはフィルムシート)の側のみに確実に移行する。」(8頁11行?9頁6行)
(2-6)
「本例では長尺のフィルムシート4を長尺の紙シート4上に熱可塑性樹脂の結合層3を介して連続的に一体化し、次いで抜き加工によって所望パターン(図示例では円形)のフィルム部分2,2,…を所定間隔で形成した後抜きかすを除去する(図中表面処理層5はこれと一体化した結合層3によって覆われている)。尚この場合シール印刷機を用いて印刷と抜き加工を同時に施すことも可能である。」(13頁14行?14頁2行)

3)甲第3号証:特開昭63-115191号公報
甲第3号証に記載された発明は、開封防止シール等に用いる複合表示用ラベルに関するものであり、以下の事項が記載されている。
(3-1)
「(1)3?18重量%の酢酸ビニルと残部のエチレンを含むEVA組成物を約120?210℃の間温度で加熱融解して得られるフィルムを相互に剥離可能に圧着し、一体に積層したことを特徴とする剥離可能なフィルム積層体を備えた複合表示用ラベル。」(特許請求の範囲(1))
(3-2)
「このようなEVAの…融解してフィルム成形し相互に圧着させると両フィルムは全体にわたって均一に融着一体化し、かつ必要に応じて互いに剥離させる際には180°剥離抵抗に換算して約3?40g/cmの剥離力で容易に剥離することが判明した。」(2頁右下欄11?17行)

4)甲第4号証:実願昭60-66725号(実開昭61-182579号)のマイクロフィルム
甲第4号証に記載された発明は、上下2層の表示ラベルを備えた複合表示ラベル用粘着シートに関するものであり、以下の事項が記載されている。
(4-1)
「(1)上層側の表示ラベル1と、前記表示ラベル1の裏面に熱可塑性樹脂層3を介して溶融時の樹脂のぬれによって繋着された下層側の表示ラベル2と、前記表示ラベル2の裏面に粘着剤層4を介して貼着された剥離ライナ5とを備えていることを特徴とする複合表示ラベル用粘着シート。
(2)前記表示ラベル1および2の間の前記熱可塑性樹脂層3による繋着力が180°方向の剥離抵抗に換算して約3?40g/cmの範囲であることを特徴とする前記実用新案登録請求の範囲第1項記載の複合表示ラベル用粘着シート。」(実用新案登録請求の範囲)

5)甲第5号証:実願平2-2893号(実開平3-95269号)のマイクロフィルム
記載内容省略

6)甲第6号証:特開平5-318672号公報
記載内容省略

(5.1.2)請求人 吉田隆の提出した甲第1号証?甲第3号証には、以下のことが記載されている。
甲第1号証(以下、甲第1号証Bという):ヒサゴ株式会社の甲第1号証と同一

甲第2号証(以下、甲第2号証Bという):ヒサゴ株式会社の甲第4号証と同一

甲第3号証(以下、甲第3号証Bという):特開平4-223190号公報
甲第3号証Bに記載された発明は、インクジェット記録紙及びそれを用いたインクジェット記録用ラベルに関するものであり、以下の事項が記載されている。
(3B-1)
「以下、本発明のインクジェット記録紙及びそれを用いたインクジェット記録用ラベルについて図面を用いて詳述するが、本発明はこれによって限定されるものではない。図1は本発明のインクジェット記録紙の断面構成図である。図中符号(1)はインクジェット記録層、(2)はほう砂又はほう酸処理層、(3)は支持体を示す。」(段落0008)
(3B-2)
「本発明において使用できる支持体(3)は、公知の材料の中から適宜選択して使用することができるが、特に上質紙、中質紙、及び再生紙等の紙類が好適である。」(段落0009)
(3B-3)
「図2は本発明のインクジェット記録用ラベルの断面構成図であり、図1に示した本発明のインクジェット記録紙の支持体(3)に粘着剤層(4)、剥離紙(5)を設けたインクジェット記録用ラベルである。」(段落0018)

(5.2)対比・判断
摘示(1-1)?(1-7)から、甲第1号証には以下の発明(以下、甲第1号証発明という)が記載されているものと認める。
「帳票基材層、帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層及び基材シート層よりなるカード付きメール帳票であって、帳票の表面側から帳票基材層及び疑似接着層を貫通し基材シート層は貫通しない切込みによってカード部が区画され、疑似接着層において帳票本体より剥離可能なカードが形成されたカード付きメール帳票。」

(5.2.1)本件発明1について
甲第1号証発明は、甲第1号証の図2を参酌すると、以下のとおりの態様を含むものである。
カード付きメール帳票において、カード部に着目すると、カード自体は、切込みで区画された帳票基材層(10)、接着剤層(17)及びフィルム(15)からなる積層体であり、帳票基材層と基材シート層との間の積層シート層は疑似接着層(9)及びフィルム(14)を含み基材シート(12)以外の層であり、疑似接着層(9)は摘示(1-6)から基材シート層側のフィルム(14)との間又はカードのフィルム(15)との間のいずれかの間で剥離するように構成されるものである。
そうすると、甲第1号証発明におけるカードは印刷を施す層(帳票基材層)を含む層であるから(摘示(1-4))、カード全体(積層体)が本件発明1の「印刷用基材層」に相当し、甲第1号証発明における「基材シート層」は本件発明1の「支持用基材層」に相当する。
甲第1号証発明において、カードを形成するために「帳票の表面側から帳票基材層及び疑似接着層を貫通し基材シート層は貫通しない切込みによってカード部が区画され」る点は、本件発明1の「印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたこと」に相当する。
また、甲第1号証発明の「帳票基材層と基材シート層との間にあって疑似接着層を含む積層体のシート層」におけるフィルムは、オレフィン系樹脂(ポリエチレン等)フィルム、エステル系樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレート等)及びその間に形成される一方のフィルムと同じ材質の樹脂からなることが例示されており(摘示(1-6))、1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂に該当するから本件発明1の中間層に相当するものである。
そして、甲第1号証発明は、疑似接着層を界面として帳票本体からカードを剥離するものである(摘示(1-5)、(1-6))から、疑似接着層が基材シート層側のフィルム(14)に付着して剥がれる場合は、本件発明1の「印刷用基材層と中間層との層間の接着強度が支持用基材層と中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さ(い)」の要件と一致する。
したがって、本件発明1と甲第1号証発明とは、「印刷用基材層と支持用基材層との間に中間層として1層若しくは2層のプロピレン系樹脂フィルム以外の熱可塑性樹脂を挟持して、一体的に積層接着してなる積層シートであって、前記印刷用基材層と前記中間層との層間の接着強度が前記支持用基材層と前記中間層との層間及び中間層を構成する熱可塑性樹脂層相互間の接着強度よりも小さく且つ、前記印刷用基材層に所定形状の小紙片を輪郭付ける切込みを設けたことを特徴とする積層シート。」である点で一致し、以下の(1)本件発明1では、上記の印刷用基材層と中間層との層間の接着強度が剥離強度0.5?200g/cmと規定されているのに対し、甲第1号証発明では剥離強度の数値が規定されていない点で相違し(以下、相違点1という)、
(2)本件発明1は、その用途が「小紙片印刷用積層シート」であるのに対して、甲第1号証発明では「カード付きメール帳票」であり、表現上用途が異なる点で一応相違する(以下、相違点2という)ものと認める。
以下、上記相違点1?2について検討する。
1)相違点1
本件発明1において、剥離強度を特定の範囲に規定する理由は、「剥離強度が大きい場合には実質的に剥離困難となり、また剥離強度が小さすぎる場合には意図しない剥離が起こるおそれがある」(段落0008)である。
一方、甲第1号証発明においても、カードは帳票本体から剥離するものであり、「帳票本体とカードとは疑似接着層によって疑似接着されており、印字の際にカードが剥離する虞もない。」(摘示(1-7))ものであることから、必要とされる剥離強度の程度については本件発明1と共通の認識を有しているものと認められ、具体的なその範囲を定めることは、実験等を通じて当業者が容易になし得る程度のことと認められる。
実際、甲第2?4号証においても、測定条件は一部相違するものの、剥離強度が定められており(摘示(2-3)、(3-2)、(4-1))、このことは、剥離強度の範囲の設定が当業者にとって容易である旨の上記の判断を裏付けるものである。

2)相違点2
本件発明1は、「本発明は、殊更に専用印刷装置を用いずとも小紙片への印刷を可能にすることを目的としている。また、従来の汎用印刷装置を用いることは、印刷した後に切断しなければならず、一方、タック加工を行なうことは、紙基材層の裏面に糊の残存による埃が付着したり、予め施した切込み部分が印刷装置中で剥離を起こし、支持シート上の接着剤層が印刷ロールに付着しトラブルを起こす等の問題があった。本発明はこのようなトラブルを起こす恐れがなく、パソコン、ワープロ等のプリンタによって、簡単に小紙片に印刷を行うことのできるシートの提供を目的としている。」(段落0003)を、その解決しようとする課題とするものである。
一方、甲第1号証発明も、通常の印刷装置で印刷できること、接着剤使用による印刷時等の不都合を解決することを課題としており、本件発明1と甲第1号証発明とは共通する課題を有するものである。
そして、甲第1号証発明は、帳票本体から剥離可能なカードを有しており、このカードは本件発明1の小紙片に相当するものであるから、その小紙片に印刷する積層シートであることも両者で一致している。
さらに、製品の形状も甲第1号証発明のカード付きメール帳票は複数連続した連続帳票であり(摘示(1-3))、本件発明1の小紙片印刷用積層シートがロールシートでもよいこと(段落0012)とも一致している。
そうすると、本件発明1と甲第1号証発明とは解決しようとする課題、剥離可能な小紙片を有し、製品形状もロールシートである点で共通していることから、甲第1号証発明のカード付きメール帳票も小紙片印刷用のシートとも見ることができ、表現上の相違はあるとしても、実質的な差異があるものとは認められず、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
そして、本件発明1の効果である「作成されたカ-ド類を使用する際に埃の付着することがなく、他の用紙に付着することもなく、積み重ねて保管することもできる。また、万一フィ-ドミスなどで印刷中に剥離が起こっても印刷機内部ではりついてしまうような心配も無い。」との点は、甲第1号証発明からも当然予想されるものであり、本件発明1が格別顕著な効果を奏するものとも認められない。
以上のとおり、本件発明1は、甲第1?4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5.2.2)本件発明2について
本件発明2では、各層間の接着強度が「中間層における熱可塑性樹脂相互間のうちの1箇所の層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さく」と規定されている。
しかし、甲第1号証発明においても、疑似接着層(9)がカードのフィルム(15)と付着して剥離する場合は、中間層である疑似接着層(9)とフィルム(14)との層間の接着強度が他の熱可塑性樹脂相互の層間及び上下基材層と中間層との層間の接着強度よりも小さくなり、本件発明2の上記要件と一致するものである。
また、甲第1号証発明においても、中間層が2層以上の熱可塑性樹脂を挟持するものであることは明らかである。
したがって、本件発明2と甲第1号証発明とは、上記本件発明1における、相違点1及び相違点2で相違するものと認められ、その判断は上記本件発明1における相違点1及び相違点2で記載したとおりである。
以上のとおり、本件発明2は、甲第1?4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5.2.3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明2の構成要件に対して、「印刷用基材層が紙であ
り」との要件及び「中間層がポリオレフィンである」との要件がさらに付加されたものである。
しかし、甲第1号証発明において、カードの印刷を施す層である「帳票基材」層としては紙を使用できることが開示されており(摘示(1-4))、カードは紙の層を有するものである。
そして、カードを紙単独の層とすることも、剥離して使用するカードの用途に応じて、当業者が適宜なし得る程度のことと認める。
また、甲第1号証発明においても、中間層としてはオレフィン系樹脂が使用できるものであり(摘示(1-6))、この点は新たな相違点とはならない。
そして、それ以外の要件については、本件発明2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明3は、甲第1?4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5.2.4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1又は2の構成要件に対して、「紙製の印刷用基材層の外表面に感熱発色層、自己発色性感圧記録層、熱転写インク受理層若しくはインクジェット記録受理層が設けられていること」との要件がさらに付加されたものである。
しかし、甲第1号証発明や甲第3号証Bの記載からも明らかなように(摘示(1-4)、(3B-1)?(3B-3))、印刷を施す層に対して、印字方法に応じた処理を施すことは通常行われており、甲第1号証発明においても、インクジェット記録受理層等の層を設けることは、周知の技術と認める。そして、それ以外の要件については、本件発明1又は2と同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明4は、甲第1?4号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
上記のとおり、本件発明1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-11-16 
結審通知日 2005-11-18 
審決日 2005-11-30 
出願番号 特願平5-119866
審決分類 P 1 113・ 121- ZB (B32B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 松井 佳章
特許庁審判官 芦原 ゆりか
野村 康秀
登録日 2003-05-02 
登録番号 特許第3424212号(P3424212)
発明の名称 小紙片印刷用積層シート  
代理人 小田 淳子  
代理人 小塚 善高  
代理人 筒井 大和  
代理人 小林 保  
代理人 小島 猛  
代理人 大塚 明博  

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