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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C08G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08G
管理番号 1154953
審判番号 不服2004-17699  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-26 
確定日 2007-03-28 
事件の表示 平成 8年特許願第 77327号「遊離基捕捉剤としてのフルエレン誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 5月27日出願公開、特開平 9-136964〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成8年3月29日(パリ条約による優先権主張 1995年10月26日 (US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成16年2月4日付けで拒絶理由が通知され、平成16年5月10日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成16年5月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年8月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年9月22日付けで手続補正書が提出され、その後、平成18年3月3日付けで審尋が通知され、平成18年6月2日に回答書が提出されたものである。

2.平成16年9月22日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成16年9月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成16年9月22日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の減縮及びそれに伴い生じる発明の詳細な説明の記載における不整合を解消するための明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、その請求項1を次のとおりに補正することを含むものである。
「下記の式:
F(-Y-Z)n
[式中、
Fはフルエレン核であり、
各々のYは-A-B-であり、ここでAは独立して-CH2-、-O-、-NH-CO-NH-、または-NH-CO-であり、そしてBは独立してC1?30アルキル、C7?40アルキルアリール、C7?40アリールアルキル、
(炭素数1?30の-R1-O-)1?50、
(炭素数2?30の-R1-O-CO-、-R1-CO-O-、-R1-CO-O-R2-O-CO-、または-R1-O-CO-R2-CO-O-)1?20、
(炭素数4?30の-R1-O-CO-NH-R2-NH-CO-O-)1?20、
(炭素数10?40の-R1-O-CO-NH-Ar1-R2-Ar2-NH-CO-O-)1?20、
(炭素数2?30の-R1-NH-CO-、-R1-CO-NH-、-R1-CO-NH-R2-NH-CO-、または-R1-NH-CO-R2-CO-NH-)1?20、
(炭素数8?40の-R1-CO-NH-Ar1-NH-CO-、または-R1-NH-CO-Ar1-CO-NH-)1?20、
(炭素数2?30の-R1-O-CO-O-)1?20、
(炭素数8?30の-R1-Ar1-O-CO-O-または-R1-O-CO-O-Ar1-O-CO-O-)1?20、
(炭素数4?30の-R1-O-CO-R2-O-CO-NH-R3-NH-CO-O-または-R1-CO-O-R2-O-CO-NH-R3-NH-CO-O-)1?20、または(炭素数10?40の-R1-O-CO-R2-O-CO-NH-Ar1-R3-Ar2-NH-CO-O-、または-R1-CO-O-R2-O-CO-NH-Ar1-R3-Ar2-NH-CO-O-)1?20であり、
各々のZは-C-Dであり、ここでCは独立して-R-であり、そしてDは独立して-SO3-、-OSO3-、-PO3-2または-O-PO3-2であり、そして
nは2?20であり、ここでR、R1、R2およびR3の各々は独立してC1?20アルキルであり、そしてAr、Ar1およびAr2の各々は独立してC6?40アリールである]の化合物。」(以下、「本願補正発明」という。)

(2)当審の判断
本願補正発明は、式 F(-Y-Z)nで表される化合物(この化合物は、F(-A-B-C-D)nと表すこともできる。記号の意味は上記(1)参照。以下、「本願補正化合物」という。)に係るものであるが、本願の発明の詳細な説明において物性データをもって製造を確認することができるのは、実施例9における、Aが「-CH2-」、B及びCが合わせてC2又はC3のアルキル(注:正しくは、アルキレン)、Dが「-SO3-」の化合物のみである。なお、この化合物においてもnの数は「x」と不明であるので、具体的に構造が特定された化合物が記載されているわけではない。また、実施例7には、Aが「-O-」、B及びCが合わせてC4のアルキル(注:正しくは、アルキレン)、Dが「-SO3-」、nが6又は8の化合物の製造が記載されているが、物性データは示されておらずその存在を確認することができない。そして、これ以外の化合物はいずれも、C60(-O-B-C-D)x(参考例8)、C60(-CH2-B-C-D)x(参考例10)、C60(-A-B-C-D)x(参考例13)のように特定の構造を有するものとして記載されていない。なお、上記、参考例8、10及び13は、平成16年5月10日付けの手続補正により、それぞれ対応する番号の実施例が参考例に補正されたものである。
そうしてみると、本願補正発明に係る本願補正化合物は、多数の選択肢を有するいわゆるマーカッシュ形式で表されるものであるが、発明の詳細な説明では選択肢に含まれる特定の構造を有する一部の化合物についての具体的製造例が記載されているにすぎず、選択肢に含まれる他の構造を有する多数の化合物については、記載されていると同視できる程度に当業者が明確に理解できる事項とはいえないので、本願補正発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできず、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることができない。

また、参考例10におけるC60(-CH2-B-C-D)にように一般式で表される化合物を製造する方法において、すべての選択肢について同様に反応が進行し、本願補正化合物が製造し得るか技術常識に照らしても明らかではないので、本願の発明の詳細な説明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとすることができない。

したがって、本件補正後の本願明細書の記載は、特許法第36条第6項第1号及び同条第4項に規定する要件を満たしていないから、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成16年9月22日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成16年5月10日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであると認める。
なお、請求項1において、式 F(-X)m(-Y-Z)nで表される化合物(この化合物は、F(-X)m(-A-B-C-D)nと表すこともできる。以下、「本願化合物」という。)は、前記本願補正化合物を包含するものであり、Dは「-SO3-、-OSO3-、-PO3-2、-O-PO3-2、-N+H2Rb、-N+HRbRcまたは-N+RbRcRd」を意味する(他の記号の意味省略)。

(2)原査定の理由
原査定は、平成16年2月4日付け拒絶理由通知書に記載した理由II,IVによって拒絶するというものであり、特許法第36条第4項又は6項に規定する要件を満たしていないとする理由IVの 1)、2)、6)は次のとおりである。
「1)請求項記載の式中の記号は選択肢として非常に多くの種類の化学構造を含んでおり、発明の詳細な説明欄の記載及び平成16年5月10日付けで提出された意見書の記載を参酌しても、依然としてこれらが一記号の選択肢として記載できる程度に共通した性質を示す一群の化学構造であるとは認められない。よって、本願の請求項1-18は一請求項に記載することのできない複数の発明が記載されている。
2)本願の請求項には式中の記号の選択肢として非常に多くの種類の化学構造が記載されているが、発明の詳細な説明欄に化学構造の特定できる化合物を用いた具体的な合成手順と合成物の同定結果が両方とも記載されている化学構造は皆無である。そして、平成16年5月10日付けで提出された意見書の記載の参酌により、当該明細書の記載不備が解消されるとも認められない。よって、本願の請求項1-18は当業者が実施をすることのできない構成を包含するものであり、また、本願の発明の詳細な説明欄は当業者が発明を実施できる程度に明確且つ十分に記載されたものではない。
6)実施例7,9及び参考例8,10,13,17-19については、説明中に依然として不特定の化学構造が含まれており、且つ生成物を同定できる測定結果も示されていないから、当業者が発明を実施することができる程度に明確且つ十分な記載がなされていない。」

(3)当審の判断
(a)上記 1)について
本願化合物の遊離基捕捉能について、請求人は意見書において、「フラーレン誘導体の遊離基捕捉能は、フラーレンに結合している官能基の種類に依存します。すなわち、極性の強い基がフラーレンに結合しているときは、フラーレン誘導体の遊離基捕捉能が向上します。本願発明のフラーレン誘導体は、比較的長鎖の官能基の末端に、『-SO3-、-OSO3-、-PO3-2、-O-PO3-2、-N+H2Rb、-N+HRbRcまたは-N+RbRcRd』といった強い極性基を有しているため、高い遊離基捕捉能と低毒性の2つの性質を同時に満たすことができるものです。」と述べ、実験1として、C60(CH2CH2CH2CH2SO3Na)6を合成し、これとC60(OH)18との遊離基捕捉能の比較を行っている。しかし、高い遊離基捕捉能は、「極性官能基とセル表面の極性部分との間の界面相互作用により、フラーレン誘導体のセル表面への結合が増大する」(審判請求書【本願発明が特許されるべき理由】(1)参照)ことに基づくものであるから、高い遊離基捕捉能は「-SO3-」におけるにマイナスの電荷に由来するものと認められ、反対のプラスの電荷をもつ「-N+H2Rb」等は、マイナスの電荷をもつ極性官能基と同等の界面相互作用がセル表面の極性部分との間に働くことはないので、高い遊離基捕捉能を有することはないというべきである。
したがって、本願化合物は、その選択肢どうしが共通した性質を有しないため、一の発明として把握することができず、特許を受けようとする発明が明確ではない。

(b)上記 2)について
前記「2.(2)」に記載したように、特許請求の範囲における特許を受けようとする発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないのであるから、当業者が実施をすることのできない構成を包含するものであり、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載されたものであるとすることができない。
また、同じく「2.(2)」に記載したように、本願の発明の詳細な説明には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているとすることができない。
なお、請求人は意見書において、「実験1において、本願発明の実施例9を追試し、得られたフラーレン誘導体の赤外スペクトルおよび質量分析のデータを示しました。・・・よって、実施例9に記載されたフラーレン誘導体は、化学構造が特定でき、またその合成手順と生成物の同定結果も明らかとなりました。」と主張しているが、本願における特許を受けようとする発明は、実施例9に記載されたフラーレン誘導体のみに係るものではなく、他の多くの化合物を包含するものであり、発明の詳細な説明においてそれら化合物の製造を確認することができないのであるから、この主張によって上記判断は覆されるものではない。

(c)上記 6)について
実施例7においては、生成物を同定できる物性データが示されておらず、参考例8,10,13,17-19においては、A、B、C、Dをもって表される不特定の化学構造の化合物の一般的製法しか示されておらず、かつ生成物を同定できるデータも示されていないので、本願の発明の詳細な説明は、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分な記載がなされていない。

4.むすび
以上のとおり、本願の明細書の記載は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号及び同条第6項第2号に規定する要件を満たさないものであるから、本願は特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-26 
結審通知日 2006-10-31 
審決日 2006-11-13 
出願番号 特願平8-77327
審決分類 P 1 8・ 536- Z (C08G)
P 1 8・ 537- Z (C08G)
P 1 8・ 575- Z (C08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 宏樹  
特許庁審判長 原 健司
特許庁審判官 井上 彌一
木村 敏康
発明の名称 遊離基捕捉剤としてのフルエレン誘導体  
代理人 朝日奈 宗太  

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