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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J
管理番号 1155015
審判番号 不服2004-524  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-08 
確定日 2007-04-04 
事件の表示 平成 9年特許願第312298号「札発行装置」拒絶査定不服審判事件〔平成11年 5月25日出願公開、特開平11-138941〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成9年11月13日の出願であって、平成15年12月4日付で拒絶査定がなされ、平成16年1月8日付で拒絶査定に対する審判請求がなされた。
これに対し、当審にて平成18年10月11日付で拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)を通知し、これに対し平成18年12月18日付で明細書についての手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本願発明の認定

本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、

「プラテンと、このプラテンに対向配置したサーマルラインヘッドと、前記プラテンと前記サーマルラインヘッドとの間に、無線チップがそれぞれ埋め込まれた複数の札が所定の間隔で貼付された用紙を搬送する用紙経路と、前記用紙経路の前記プラテンより上流側に設けられた用紙保持ローラと、前記用紙保持ローラから前記プラテンまでの間の用紙経路を搬送される前記札の無線チップに対して無線通信によりデータのやり取りを行う無線通信制御部と、前記サーマルラインヘッドを前記プラテンに対して離反させるヘッド回避機構と、前記札における無線チップありの部分の位置情報を入力する入力手段と、制御部本体とを備え、
前記札への印刷出力を実行する際には、制御部本体の制御によって、前記無線通信制御部と対向する位置の札における無線チップへ無線データを書込んだ後に前記用紙を前進させ、前記入力手段で入力した位置情報に基づいて前記札における無線チップなしの部分では前記サーマルラインヘッドを印刷可能な位置に配置させて前記札にデータを印刷し、前記札における無線チップありの部分では前記ヘッド回避機構により前記サーマルラインヘッドを前記プラテンから離反させることを特徴とする札発行装置。」

と、補正された。
したがって、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものと認める。

第3 引用例

(1)当審拒絶理由に引用された、特開平4-350016号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「荷物の届け先等の識別情報を示す文字やコード等の記号を記入する記入式伝票に、前記識別情報に基づくデータをメモリにストアし質問器からの質問信号の受信により前記データを送信する応答回路を設けた電子荷札の起票装置であって、前記識別情報を入力する入力装置と、該入力装置に入力された識別情報を示す前記記号を前記記入式伝票に印刷する印刷装置と、前記入力装置に入力された識別情報に基づくデータを前記メモリにストアする書込装置とを備えることを特徴とする電子荷札の起票装置。」(【特許請求の範囲】【請求項1】)

(イ)「起票装置は、コンピュータ1、ディスプレイ3、入力装置5、補助記憶装置7、プリンタ9、質問器11を備える。この起票装置が起票する宅配便用伝票の用紙13は、個々の伝票が連結された連続伝票紙である。・・・プリンタ9は宅配便用伝票用紙13を所定経路に沿って搬送し、経路途中に設けた印字機構により宅配便用伝票用紙13の記入欄に所定事項(宛先等)を印刷するもので、公知の各種プリンタが使用される。」(公報段落【0007】)

(ウ)「質問器11の動作の概略は以下のとおりである。質問器11は起票装置のコンピュータ1により制御され、外部インタフェース29を介してコンピュータ1から送られる制御信号や書込データを、宅配便用伝票35に設けた応答回路50(後述)に送信する。コンピュータ1から送られた制御信号はCPU31が変調器17に送る。変調器17はキャリア発振回路15により作られた搬送波を、送られた制御信号をもとに変調して送信波を作る。こうして制御信号を重畳した送信波はサーキュレータ19に送られ、送受信アンテナ21に送られて空中に放射される。また、コンピュータ1から送られた書込データはCPU31が電磁結合コイル25に送ると共に、後述する宅配便用伝票35の応答回路50の特性から、同時にCPU31が送受信アンテナ21より送信波を送る。
こうして、宅配便用伝票35の応答回路50に信号を送信すると、応答回路50からは応答信号が返送されるので、これを受信アンテナ21が受信する。受信波はサーキュレータ19を介して復調器23に送られる。復調器23は受信波に含まれている情報を取り出す。取り出した情報は信号処理部27が処理し、処理結果を外部インターフェース29に出力する。」(公報段落【0009】【0010】)

(エ)「宅配便用伝票用紙13は、図4に示すように、各宅配便用伝票35をミシン目37を介して連結した連続伝票紙である。伝票35は、図5に示すように記入欄39を設けた依頼主控え41、配達時に回収する配達伝票43、届け先控え45等の紙片を結束部47で束ねた構成を有する。結束部47の近傍には各紙片を切り離すミシン目49が形成されている。結束部47は応答回路50を内蔵する。」(公報段落【0011】)

(オ)「応答回路50は、図6に示すように内部情報処理を行なうICチップ51と、送受信アンテナ53と、駆動用電源である電池55と、電磁結合コイル69とからなる。ICチップ51は変調器57、検波器59、レベル比較器61、CPU63、クロック発生器65、メモリ67を備える。・・・メモリ67は電池55によりバックアップされており、CPU63が実行するプログラムの他に、受信したデータをストアする。ストアするデータには届け先等のデータに加え、個々の応答回路50を特定する固有番号がある。」(公報段落【0012】)

(カ)「宅配便用伝票35の用紙13は、起票装置の内部をプリンタ9の搬送機構で送られる。その搬送経路には既述した質問器11が、図7のように配置される。つまり、質問器11は、宅配便用伝票用紙13の1個の伝票35の応答回路50に対面するように配置される。また、図8に示すように質問器11に対面する1個の伝票35の前後の宅配便用伝票用紙13は電磁波シールド板71,73により覆われる。このため、質問信号はほぼ確実に目標とする応答回路50にのみ作用する。」(公報段落【0015】)

(キ)「書込コードは荷物のコンピュータ管理に必要なデータであって、宛先のコードや、自動仕分けのための地域を特定するコード等がある。
次に、書込コードを伝票35の応答回路50に書込む書込処理サブルーチン(ステップS130)を実行する。書込処理サブルーチン(ステップS130)の詳細と、書込時の質問器11および応答回路50の作用は後述する。書込が終了すると、質問器11で応答回路50のデータを読み取り(ステップS140)、読み取ったデータをディスプレイ3に表示する(ステップS150)。読み取ったデータをディスプレイ3に表示させるのは、書き込んだデータを確認可能にするためである。そして、書込データと読取データとが一致するまでデータの書込処理(ステップS130?S150)を繰り返し(ステップS160)、データが一致すれば、プリンタ9により伝票データを伝票35の記入欄39に印刷する(ステップS170)。」(公報段落【0016】【0017】)

(ク)「起票装置のコンピュータ1のCPUは起票処理ルーチン(図9)を実行し、質問器11やプリンタ9、ディスプレイ3を制御する。これにより、宅配便用伝票用紙13の所定の伝票35の応答回路50にデータが正しく書き込まれると共に、同じ伝票35の記入欄39には応答回路50に書き込んだデータに対応するデータの文字や記号(バーコード等)が印刷される。」(公報段落【0019】)

(ケ)「書込データは宛先等の荷物のコンピュータ管理のためのデータである。既述した書込処理サブルーチン(図10)の実行により、応答回路50においてはステップS280,290の処理が実行され、宛先等のデータがメモリ67に書き込まれる。」(公報段落【0026】)

よって、引用例1の記載(ア)?(ケ)を含む引用例1の全記載及び図示からみて、引用例1には以下の発明が記載されているものと認める(以下、「引用発明1」という。)

「プリンタ9と、応答回路50を内蔵する結束部47を有する各宅配便用伝票35をミシン目37を介して連結した連続伝票用紙である宅配便用伝票用紙13を搬送する搬送経路と、搬送経路を搬送される宅配便用伝票用紙13の応答回路50に対して送受信アンテナ21により書込コードの送信を行い、応答回路50からの応答信号を受信する質問器11と、パーソナルコンピュータ1のCPUとを備え、
コンピュータ1のCPUは前記質問機11やプリンタ9を制御し、前記各宅配便用伝票35の宅配便用伝票用紙13はプリンタ9の搬送機構で送られ、搬送経路には、宅配便用伝票用紙13の1個の各宅配便用伝票35の応答回路50に対面するように配置され、質問器11で宅配便用伝票用紙13の所定の各宅配便用伝票35の応答回路50にデータが正しく書き込まれると共に、同じ各宅配便用伝票35に応答回路50に書き込んだデータに対応するデータの文字や記号(バーコード等)がプリンタ9で印刷される起票装置。」

(2)当審拒絶理由に引用された、特開平3-193379号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「このパッケージタグ1は一般にサーマルヘッドを用いた専用のパッケージタグプリンタによって印字発行されている。
さて、従来のパッケージタグプリンタは、タグ1枚分の印字データをビットイメージでイメージバッファに展開し、このバッファから1ラインずつデータを読出して、搬送機構により一定速度で搬送されるロール用紙にサーマルヘッドにより印字を行う。そして、タグ1枚分のデータを印字し終えたならば、カッタを作動させて用紙を切り離し、パッケージタグ1として発行するものとなっていた。」(公報第1頁右下欄第8?19行目)

(イ)「第4図は上記パッケージタグプリンタ21の内部構造を示す図である。図中40はフレームで、このフレーム40には幅寸法が異なる用紙41、42、43を案内する用紙通路44が設けられ、この用紙通路44に沿って、用紙送りローラ45と、プラテン46と、このプラテン46に圧接されたサーマルヘッド47と、カッタ機構48と、排紙ローラ49とが順次配列されている。また、前記フレーム40には、伝動機構50を介して前記プラテン46と前記用紙送りローラ45とを駆動するステップモータ51と、伝動機構52を介して前記カッタ機構48の回転刃を駆動するカッタモータ53と、伝動機構54を介して前記排紙ローラ49を駆動する排紙モータ55とが保持されている。」(公報第3頁左上欄17行目?同右上欄第11行目)

(3)当審拒絶理由に引用された、特開平6-243358号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「図1に示されるように、参照符号10で表される細長い荷物識別ラベルは、部分的に符号14で表される荷物把手を囲んでループをなす薄い細長い紙ストリップ12で形成され、自己付着接着剤(図示せず)を有する紙ストリップ16の一方の端部が該紙ストリップ16の他端に接着剤で固定され、これにより識別ラベルが荷物把手に確実に取り付けられるようになっている。光学バーコード18は、ラベルの端部16の外部等の容易に見ることができる外側部分に形成され、また印刷あるいは色コード(図示せず)の形式の追加的な印が識別ラベルの表面に通常表示される。
図1の識別ラベルは、一般的に符号20で表され、接着剤(詳細は後述)で識別ラベル10の一方の端部の表面に適宜接着される高周波タグの形式による別の情報を持っている。このタグは、図1に示されるように、ラベルが該ラベルの他端に畳まれ固定されたとき、該ラベルの端部16で覆われる。一般的に、高周波タグは、すべてが適当な保護被覆材料によって包囲される応答機アンテナ24および無線応答回路チップ26を担持する薄い可撓性透明基板から成っている。」(公報段落【0005】【0006】)

(イ)「無線応答回路チップは、適当は導電性接着剤を用いて、アンテナパッドにチップパッドを接着固定する図6乃至図9に示す手法によって、アンテナに載置される。非導電性の構造接着剤も、さらに大きい構造的強度確保のために使用される。」(公報段落【0012】

(ウ)「基板に対してチップが電気的におよび構造的に接続および接着された後、チップは、外部からの力および条件から保護されるように、紫外線感受材90が、図8に示されるように、チップ上に加えられる。この感受材は、紫外線の適用によって硬化され、チップの直近領域の無線応答機の強靱性を高めるように付加的な構造接着剤としても機能する。
その後、シリコンチップとプリントアンテナをさらに保護するために、薄い自己接着性非導電性ポリエステルあるいは被覆92が、タグ基板の全領域上、及び保護材90上に施される。これは、高周波タグが、バーコード印刷機を通るとき、あるいは応答機メモリーへの書き込みのための適当な機械を通るとき、容易にそこを通過するように、該タグに平滑な連続的な外形を提供する。被覆92もアンテナコイルを保護する。」(公報段落【0017】【0018】)

(エ)「図15は、簡単は平面図によって、高周波タグ112を具えた紙製識別ラベル110が、アンテナ巻線(図15には図示せず)及び無線応答回路チップ116を担持する基板114から成っていることを示している。無線応答チップ116は、図15に見られるように、基板の中心部から片方に偏って配置されている。それに代えて、チップは、一端あるいは他端に片寄せるか、あるいは基板114の中心から横方向と縦方向の両方に片寄せることもできる。そのときのラベル110の状態は、図16の立面図によって示されている。」(公報段落【0024】)

引用例3の図面第16図によれば、無線応答回路チップ116はラベル110に対し厚み方向に突出した凸構造を有して段差が生じていることが看取される。

(4)当審拒絶理由に引用された、特開平4-316878号公報(以下、「引用例4」という。)には、次の事項が記載又は図示されている。

(ア)「折たたみ連続用紙の印字を行う場合など、紙送り中に折たたみ連続用紙の折り目により印字ヘッドとプラテンの間のギャップが変化する場合の印字ヘッド引っ掛けによる用紙走行不良について、配慮がなされていない。このため、薄紙,1パーツ紙など用紙厚が薄い用紙の印字では印字用紙厚の変動が少なく問題にならない印字ヘッドとプラテンの間のギャップ調整機構の動作が、厚紙,多パーツ紙では折り目により用紙厚が一時的に極端に高くなるため、ギャップ調整が十分に対応できず、用紙走行不良が発生するという問題があった。」(公報段落【0004】)

(イ)「ワイヤドットインパクトプリンタにおいて、折たたみ連続用紙などに印字する際に動作するヘッド退避制御手段が備えらる。ヘッド退避制御手段は、ギャップ調整機構を制御して予め指定された紙送り量ごとに印字ヘッドを上方に退避させる制御を行う。また、紙送り動作ごとに印字ヘッドを用紙端外に退避させる制御を行う。折たたみ連続用紙は、一定長の間隔ごとに折り目が付けられた用紙であるため、特に、山折りされている折り目部分がヘッドとプラテンの間を走行する場合は用紙走行路が極端に変動する。この折り目部分が用紙走行において印字ヘッド引っ掛けの原因となるので、ここでのヘッド退避制御手段により、印字用紙の折り目ごとに印字ヘッドを一定時間の間、上方に退避させるように動作し、または、用紙端外に退避させるように動作する。折り目と折り目との間の紙送り量は、一般にはページ長またはページ長の整数倍になるため、この紙送り量の値を上位装置からの指示により設定し、またはオペレータによるスイッチ入力により設定する。」(公報段落【0008】)

(ウ)「図2(B)に示すように、折りたたみ連続用紙24の折り目位置25が印字ヘッド22と近づくと、印字ヘッド22の退避動作が行なわれ、所定の印字ヘッド退避距離だけ印字ヘッド22がプラテン23から後退するように(印字ヘッド22が上方に離れて退避するように)して印字ヘッド22の退避動作が行なわれる。この印字ヘッド退避動作が行なわれる時間(印字ヘッド退避範囲)は、折りたたみ連続用紙24の折り目位置25が印字ヘッド22を通過する時間であり、折りたたみ連続用紙24で印字がなされない範囲、折りたたみ連続用紙24において2つのページに渡るページ切換の範囲である。すなわち、折りたたみ連続用紙24における折り目位置25と印字ヘッド退避範囲との関係は、図3に示すように、各ページの用紙先頭位置から始まる用紙頁長の1ページの印字範囲の後端部分となっている。図3における斜線で示した部分が印字ヘッド退避範囲となる。」(公報段落【0012】)

(エ)「一般に、折りたたみ連続紙24の折り目部分25の前後は印字不適エリアであり、紙送りのみ行われる場合が多い。この印字不適エリアの所定範囲において、印字ヘッド22を退避させることにより、折り目部分25での印字ヘッド22の引っ掛けによる用紙走行不良の発生を防ぐことができる。また、この実施例では印字ヘッドの退避範囲の設定は上位装置よりのコード指定としているが、プリンタ装置の操作パネルからのオペレータ設定とすることもでき、多種類の連続紙の使用にも対応が可能となる。」(公報段落【0015】)

第4 対比

そこで、本願発明と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「応答回路50」は、送受信アンテナ21により書込コードを送信を行いデータが書き込まれることからして、本願発明の「無線チップ」に相当する。
また、本願発明の「札」について無線チップが埋め込まれたこと以上の機能、構造の特定はなされていないから、単に札状すなわち単票と異なるところはなく、複数の札が所定の間隔で貼付された「用紙」もそれ以上の特定はなされていないことから、札が所定間隔で連なった長尺状の用紙であると認定できる。
一方、引用発明1の「各宅配便用伝票35」が単票であり、各宅配便用伝票35をミシン目37を介して連結した連続伝票用紙である「宅配便用伝票用紙13」が長尺状の用紙であることは明らかである。
よって、引用発明1の「各宅配便用伝票35」及び「宅配便用伝票用紙13」は、本願発明の「札」及び「用紙」をそれぞれ包含する。
ただし、引用発明1では「各宅配便用伝票35」はミシン目37を介して札を連結した連続伝票用紙として「宅配便用伝票用紙13」が構成しているのに対し、本願発明では「複数の札が所定の間隔で貼付」する台紙を用紙として構成する点で差異はあるものの、札をミシン目で連結するか、台紙に貼付して複数の札をつなげるかは設計事項の範疇に属する微差に過ぎず、この点を相違点とすることはしない。
したがって、引用発明1の「応答回路50を内蔵する結束部47を有する各宅配便用伝票35をミシン目37を介して連結した連続伝票用紙である宅配便用伝票用紙13」は、本願発明の「無線チップがそれぞれ埋め込まれた複数の札が所定の間隔で貼付された用紙」に相当する。

また、引用発明1の「搬送経路」と、本願発明の「用紙経路」は、用紙(宅配便用伝票用紙13)を搬送する機能の限度において共通する。

引用発明1の「搬送経路を搬送される宅配便用伝票用紙13の応答回路50に対して送受信アンテナ21により書込コードの送信を行い、応答回路50からの応答信号を受信する質問器11」は、無線通信により書込コードの送信を行っていることは自明であり、引用発明1の「書込コード」は、本願発明の「データ」に相当する。
また、受信する応答信号は、引用例1の記載事項(ウ),(キ)によれば書込みコードによるデータであることを前提としているので、同様に引用発明1の「応答信号」も、本願発明の「データ」に相当する。

また、引用発明1では「搬送経路を搬送される宅配便用伝票用紙13の応答回路50に対して送受信アンテナ21により書込コードの送信を行い応答回路50からの応答信号を受信する質問器11」との記載から送受信を行っている。
一方、本願発明の「無線チップに対して無線通信によりデータのやり取り行う無線通信制御部」の「やり取り」とは通常、双方向の通信つまり送受信と解される。
してみれば、引用発明1の「搬送経路を搬送される宅配便用伝票用紙13の応答回路50に対して送受信アンテナ21により書込コードの送信を行い、応答回路50からの応答信号を受信する質問器11」は本願発明の「無線チップに対して無線通信によりデータのやり取り行う無線通信制御部」に相当する。

引用発明1のパーソナルコンピュータ1のCPUは、質問器11やプリンタ9を制御していることから、実質的に宅配便用伝票用紙13の搬送機構による送り、応答回路50に対するデータの書き込み及びデータに対応する文字や記号の印刷はパーソナルコンピュータ1のCPUの制御によって行われていることは明らかである。
よって、その機能の限度において引用発明1の「パーソナルコンピュータ1のCPU」は、本願発明の「制御部本体」に相当する。
また、引用発明1ではパーソナルコンピュータ1のCPUの制御によって、応答回路50にデータが正しく書き込まれてから、プリンタ9で印刷がされることから、応答回路50にデータが正しく書き込まれた後に、各宅配便用伝票35の宅配便用伝票用紙13はプリンタ9の搬送機構で送られ、応答回路50に書き込んだデータに対応するデータの文字や記号(バーコード等)がプリンタ9で印刷されることは明らかであり、これは当然、各宅配便用伝票35にプリンタ9で印刷される際に行われている。
よって、引用発明1と本願発明は「札への印刷出力を実行する際には、制御部本体の制御によって、無線通信制御部と対向する位置の札における無線チップへの無線データを書き込んだ後に用紙を前進させ」「札にデータを印刷」している点で共通している。

また、引用発明1の「起票装置」と本願発明の「札発行装置」は、札(伝票)を発行する装置の点で共通である。

また、引用発明1では「プリンタ9」を有しているのに対し、本願発明では「プラテンと、このプラテンに対向したサーマルラインヘッド」を有しており、両者は印刷機能を有している点では共通している。

してみれば両者は、

「印刷機能を有し、無線チップがそれぞれ埋め込まれた複数の札が所定の間隔で貼付された用紙を搬送する用紙経路と、用紙経路を搬送される前記札の無線チップに対して無線通信によりデータのやり取りを行う無線通信制御部と、制御部本体とを備え、
前記札への印刷出力を実行する際には、制御部本体の制御によって、前記無線通信部と対向する位置の札における無線チップへ無線データを書き込んだ後に前記用紙を前進させ、前記札にデータを印刷する札発行装置。」

である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点a]
本願発明では印刷機能を実現するために、プラテンと、このプラテンに対向配置したサーマルラインヘッドを備え、プラテンとサーマルラインヘッドの間に用紙経路を備え、前記用紙経路の前記プラテンより上流側に設けられた用紙保持ローラを備える特定がなされているのに対し、引用発明1では印刷機能を実現するプリンタとしてそのような具体的な特定がなされていない点。

[相違点b]
本願発明ではサーマルラインヘッドをプラテンに対し離反させるヘッド回避機構と、札における無線チップありの部分の位置情報を入力する入力手段を備え、前記入力手段で入力した位置情報に基づいて前記札における無線チップなしの部分では前記サーマルラインヘッドを印刷可能な位置に配置させて、前記札における無線チップありの部分では前記ヘッド回避機構により前記サーマルラインヘッドを前記プラテンから離反させる特定がなされているのに対し、引用発明1ではそのような特定はなされていない点。

第5 判断

[相違点a]について
印刷機能を実現する上で、どのような機構を採用するかは当業者が適宜選択すべき事項である。
さらに引用例2には、プラテンと、このプラテンに対向配置したサーマルヘッドを備え、プラテンとサーマルヘッドの間に用紙通路を備え、前記用紙通路の前記プラテンより上流側に設けられた用紙送りローラを備えたパッケージタグプリンタが記載されている。
引用例2の「用紙通路」及び「用紙送りローラ」と本願発明の「用紙経路」及び「用紙保持ローラ」はそれぞれ単なる表現上の微差に過ぎず実態として同じ物であるから、引用例2には、プラテンと、このプラテンに対向配置したサーマルヘッドを備え、プラテンとサーマルヘッドの間に用紙経路を備え、前記用紙経路の前記プラテンより上流側に設けられた用紙保持ローラを備える点が記載されているといえる。
しかも、引用例2はパッケージタグプリンタであり、引用例2の記載事項(2)(ア)からすれば、引用発明1と同様、複数の札が連続した用紙に印刷することは明らかである。
してみれば、引用発明1に引用例2に見られるパッケージタグプリンタの機構を採用することは容易といえる。
ただし、引用例2記載のパッケージタグプリンタではサーマルヘッドが用いられているが、これがライン型のサーマルヘッドである点につき明記はない。
しかしながら、例えば引用例2の図面第4図を参照するとサーマルヘッド47についてライン型のサーマルヘッドで通常見られる側面図の形態が看取できる。
また、仮にそうでなくてもサーマルラインヘッド自体、周知の技術であるので、サーマルヘッドのうちライン型のものを採用するか否かは設計事項の範疇に過ぎない。

[相違点b]について
本願発明が[相違点b]に係る構成を採用した経緯は、本願明細書段落【0009】に記載のごとく「1枚のラベルにおいて無線チップを埋込んだ部分とその他の部分との厚みの違いにより段差が生じ、しかも硬度の違いも生じることになる。このため、このようなラベルに印刷して発行するのに、紙など柔らかい材料で構成した段差のないラベルを印刷ヘッドとプラテンの間に搬送して印刷する従来のラベルプリンタをそのまま適用することはできない。」とあるように、無線チップの段差により印刷に際し不都合が生じることをその理由としていることが理解される。
一方、引用発明1の無線チップにおいて段差が生じているか若しくは無線チップにより印刷に不都合が生じるかは定かではない。
しかし、たとえば引用例3に見られるような細長い荷物識別ラベル(札に相当)に高周波タグ(無線チップに相当)が取り付けられた場合、通常段差が生じることは引用例3の図面第16図からも明らかである。
また、引用例3の記載事項(3)(ウ)には「高周波タグが、バーコード印刷機を通るとき、あるいは応答機メモリーへの書き込みのための適当な機械を通るとき、容易にそこを通過するように、該タグに平滑な連続的な外形を提供する。」と記載されており、これは、高周波タグの存在により段差があれば印刷機の通過になんらか障害があり、そのための対策(ここでは、タグに平滑な連続的な外形を提供することで回避している。)をする必要があることを示唆するものである。

これとは別に、引用例4には用紙厚が一時的に極端に高くなった場合、印字ヘッドに用紙の引っ掛けによる不都合を回避するために印字ヘッドを退避制御するワイヤドットプリンタが開示されている。
引用例4の用紙厚が一時的に極端に高くなることは実態として段差の通過に類似しており、それが用紙厚が高くなったことによるにせよ高周波タグの存在によるものにせよ、不都合の回避のために引っかかる対象、すなわち印字ヘッドを退避制御すればよいことは普通に考えられる。
すると、引用発明1において引用例3のような段差を有する荷物識別ラベル(札)を印刷機を通過させるにあたり、退避の必要ない無線チップなしの部分では印字ヘッドを当然、退避せず、無線チップありの部分では印字ヘッドを退避すなわち離反させるようにして不都合を回避することは当業者が容易に想到し得るものである。
しかも、前審の平成15年2月21日付の拒絶理由で引用した、特開昭57-24271号公報などに見られるように、種々の理由からサーマルヘッドプリンタでは印字ヘッドが退避する機構を最初から有していることが普通であるので、引用例2のようなサーマルヘッドプリンタとの組み合わせを前提とするならば、プラテンからサーマルヘッドを離反するように退避制御を行わせることは一層容易ともいえる。
また、本願発明の[相違点b]に係る構成においては、札における無線チップありの部分の位置情報を入力する入力手段を備え、前記入力手段で入力した位置情報に基づいてヘッド回避機構の制御を行っているが、引用例4の記載事項(4)(エ)には「印字ヘッドの退避範囲の設定は上位装置よりのコード指定としているが、プリンタ装置の操作パネルからのオペレータ設定とすることもでき」と記載されていることから、実質的な退避範囲の設定にあたる無線チップありの部位の位置情報を入力するために入力手段を設けることも容易の範疇である。

なお、請求人は当審拒絶理由に対する平成18年12月18日付け意見書第3頁第27?29行目にて、「無線チップにあたる部分が他よりも厚くなるとしても、このことから直ちに無線チップの部分がサーマルラインヘッドに当たりサーマルラインヘッドが破損することまでが思いつくものではありません。」と主張する。
しかし、不都合の結果がサーマルラインヘッドの破損であるにせよ、引用例4に見られるような用紙走行不良であるにせよ、印字ヘッドの用紙の引っ掛けによる不都合があればその回避のために印字ヘッドの退避を行うことを当業者が考慮することは前記したとおりである。
さらに、用紙の厚みの変化や段差による引っ掛けなどがあれば用紙走行不良のみならず印字ヘッドの破損も考慮せねばならないことも当業者にとって常識といえる事項である。
この点につきサーマルラインヘッドは用紙に対する追従性をある程度有していることから、なだらかな段差や微小な厚み変化であれば問題にならないこともあるかもしれないが、厚み変化の程度や段差の程度が大きかったり、引っ掛かりを生じない程なだらかでないならば、印字ヘッドの破損も考慮しなくてはならない点でサーマルラインヘッドであっても例外ではない。
よって、前記のごとく「サーマルラインヘッドが破損することまでが思いつくものではありません。」との主張を認めることはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明1及び引用例2乃至引用例4に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-19 
結審通知日 2007-01-30 
審決日 2007-02-13 
出願番号 特願平9-312298
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B41J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清水 康司畑井 順一  
特許庁審判長 酒井 進
特許庁審判官 島▲崎▼ 純一
國田 正久
発明の名称 札発行装置  
代理人 井上 正則  

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