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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1155026
審判番号 不服2005-21246  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-11-04 
確定日 2007-04-05 
事件の表示 特願2002-349349「プラズマ処理装置及びそれを用いたウエハの処理搬送方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 8月15日出願公開、特開2003-229475〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成8年1月24日に出願した特願平8-9809号の一部を平成14年12月2日に新たな特許出願としたものであって、同17年9月26日付で拒絶をすべき旨の査定がなされ、これに対し、同年11月4日に本件審判の請求がなされるとともに、同年12月5日に明細書を補正対象書類とする手続補正がなされた。その後、当審において、平成18年10月30日付で、平成17年12月5日付の手続補正書を却下するとともに、拒絶の理由が通知され、それに対し、平成18年12月28日に意見書が提出され、同時に明細書を補正対象書類とする手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容の概要
本件補正は特許請求の範囲を含む明細書について補正をするものであって、平成17年8月8日付手続補正書で補正された請求の範囲における請求項1-3を、平成18年12月28日付手続補正書において特許請求の範囲の請求項1に補正したが、補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。
(1)補正前の請求項1
「静電気力を利用して真空処理室内の電極のウエハ積載面に保持されたウエハをプラズマ処理し、該処理の終了したウエハを前記真空処理室外へ搬送するプラズマ処理装置であって、
前記電極上に設けられた誘電膜と、
前記電極に冷媒を循環させて前記ウエハの温度制御を行う冷却装置と、
前記誘電膜上の12インチウエハ用の積載面と、
前記ウエハ積載面の中心から前記12インチウエハの半径方向60?80%の領域の同一円上に設けられ前記電極及び前記誘電膜を貫通する3個以上の貫通孔と、
該貫通孔内を上下方向に可動な3個以上の棒状体と、
前記棒状体を同時に上下動させる手段を有し、
前記棒状体を上下動させる手段は、前記プラズマ処理の終了後、前記領域に設けられた前記3個以上の棒状体を上昇させることにより、前記ウエハに作用する残留吸着力に抗して前記ウエハを前記棒状体のみを介して前記ウエハ積載面から引き剥がす押し上げ力を発生するように構成されており、
前記ウエハに作用する前記残留吸着力に抗して前記ウエハを前記ウエハ積載面から前記棒状体のみにより安定して完全に引き剥がす、ことを特徴とするプラズマ処理装置。」
(2)補正後の請求項1
「静電気力による吸着力を利用して真空処理室内の電極のウエハ積載面に保持されたウエハをプラズマ処理し、該処理の終了したウエハを前記真空処理室外へ搬送するプラズマ処理装置であって、
前記電極上に設けられた誘電膜と、
前記電極に冷媒を循環させて前記ウエハの温度制御を行う冷却装置と、
前記誘電膜上の12インチウエハ用の積載面と、
前記ウエハ積載面の中心から前記12インチウエハの半径方向60?80%の領域の単一の同一円上に設けられ前記電極及び前記誘電膜を貫通する3個以上の貫通孔と、
該貫通孔内に設けられたブッシュに沿って上下方向に可動する3個以上の棒状体と、
前記静電気力の電源をオフした後の残留電荷により前記ウエハが前記誘電膜に吸着されている状態で当該残留電荷により前記ウエハに作用する残留吸着力に抗する押し上げ力で、前記棒状体を同時に上下方向に可動させる手段を有し、
前記棒状体を上下方向に可動させる手段は、前記プラズマ処理の終了後、前記貫通孔に設けられた前記棒状体を同時に上昇させて前記12インチウエハの半径方向60?80%の前記領域を前記押し上げ力で押し上げ、前記ウエハを前記棒状体のみを介して前記ウエハ積載面から引き剥がすように構成されており、
前記ウエハに作用する前記残留吸着力に抗して前記ウエハを前記ウエハ積載面から前記棒状体のみにより安定して完全に引き剥がす、ことを特徴とするプラズマ処理装置。」(なお、下線は、補正前の請求項1との相違点を示すものである。)

2 補正の適否
請求項1における補正は、「静電気力を利用して」を「静電気力による吸着力を利用して」と静電気力で用いる力を明確にし、貫通孔が設けられる位置を、「同一円上」から「単一の同一円上」とすることで明確にし、棒状体を「貫通穴内に設けられたブッシュに沿って可動する」ものであると限定し、棒状体を同時に上下動させる手段に関し、「静電気力の電源をオフした後の残留電荷によりウエハが誘電膜に吸着されている状態で当該残留電荷によりウエハに作用する残留吸着力に抗する押し上げ力で、前記棒状体を同時に上下方向に可動させる」ものであると限定し、「棒状体を上下動させる手段」を「棒状体を上下方向に可動させる手段」とすることで手段を明確にし、「前記領域に設けられた前記3個以上の棒状体を上昇させることにより、前記ウエハに作用する残留吸着力に抗して前記ウエハを前記棒状体のみを介して前記ウエハ積載面から引き剥がす押し上げ力を発生するように構成されており、前記ウエハに作用する前記残留吸着力に抗して前記ウエハを前記ウエハ積載面から前記棒状体のみにより安定して完全に引き剥がす」を「前記貫通孔に設けられた前記棒状体を同時に上昇させて前記12インチウエハの半径方向60?80%の前記領域を前記押し上げ力で押し上げ、前記ウエハを前記棒状体のみを介して前記ウエハ積載面から引き剥がすように構成されており、前記ウエハに作用する前記残留吸着力に抗して前記ウエハを前記ウエハ積載面から前記棒状体のみにより安定して完全に引き剥がす」とすることで、棒状体によりウエハを引き剥がす状況を明確にしたものであって、全体として特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下検討する
(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、前記1の(2)の補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
(2)引用刊行物記載の発明
当審での拒絶の理由に引用した本件出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-112303号公報(以下「刊行物1」という。)、及び、日本学術振興会、結晶加工と評価技術第145委員会第68回研究会資料(平成6年12月21日)p.36?44(以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されていると認める。
(2-1)刊行物1記載の発明
ア 明細書の段落【0007】
「従来の低温エッチング装置は、図6に概要を示すように、エッチングチャンバ10、支持台12、反応ガス供給部20、エッチングチャンバ排気部22、支持台12上に取り付けられた静電チャック30、プッシャー36、及びアノード電極26から成る。また、蛍光式ファイバー温度計40がウエハ裏面に接触するように配置されている。支持台12は、RF電源14及びマッチングボックス16からのRFパワーを印加し得るカソード電極を構成し、その内部には外部から供給される液体窒素やエタノール等の冷媒を循環できる構造となっている。CHF3、CH4、HBr等の各種ガスが反応ガス供給部20を通してエッチングチャンバ10に供給される。尚、図6において、プッシャー36の昇降機構の図示は省略した。」
イ 明細書の段落【0026】
「本発明の第1及び第2のウエハ処理装置として、プラズマエッチング装置、低温プラズマエッチング装置、・・・を例示することができる。・・・」
ウ 明細書の段落【0031】?【0032】
「実施例1は、本発明の第1の態様のウエハ処理装置及びウエハ処理方法に関する。実施例1のウエハ処理装置は、低温エッチング装置であり、図1にその概要を示す。この低温エッチング装置は、基本的には図6に示した従来の低温エッチング装置と同様であるが、プッシャー36が接地されている点が相違する。ウエハ50、ウエハを搬送する搬送アーム24、支持台12及び静電チャック30の配置を、図2に模式的に示す。搬送アーム24は左右に移動可能であり、プッシャー36は支持台12に設けられた孔部12Aを通して昇降可能である。尚、プッシャー36を昇降させる機構の図示は省略した。
支持台12は、RF電源14及びマッチングボックス16からのRFパワーを印加し得るカソード電極を構成し、その内部には液体窒素やエタノール等の冷媒を循環できる構造となっている。支持台12は、例えば-120℃程度に冷却することができる。静電チャック30は電極32を具備している。電極32には電源34から直流電圧を印加することができる。静電チャック30は単極式であり、支持台12に固定されている。静電チャック30は、アルミナセラミックから成る。電極32の平面形状を二重螺旋状とした。また、プッシャー36は、アルミニウムから成り、接地されている。」
エ 明細書の段落【0036】?【0038】
「次に、低温エッチングを完了した後、図1に示したウエハ処理装置の静電チャックからウエハ50を解放する方法を以下説明する。
先ず、静電チャック30の電極32に印加していた直流電圧を遮断する。次いで、接地されたプッシャー36をウエハ50に接触させる。これによって、ウエハ50から残留電荷の除去が瞬時に行われ、ウエハ50と静電チャック30との間の吸着力は消滅する。従って、予備放電を用いずに、静電吸着からウエハを解放することができる。
次いで、プッシャー36を上昇させてウエハ50を静電チャック30から取り除き、更に、搬送アーム24上にウエハ50を移送する。次に、搬送アーム24を、支持台12上方からアンロード室(図示せず)へ搬出する。」
オ ここで、図1を参照すると、電極32上に静電チャック30が設けられていることが見て取れる。すなわち、静電チャック30が、電極32のウエハ積載面となっている。また、「静電チャック」とは、誘電膜が設けられており、該誘電膜に働く静電気力による吸着力を利用してウエハを保持するものである。図面の図2を参照すると、ウエハ50の積載面にウエハ50を4個で保持するプッシャー36を配置する点が看取される。そして、プッシャ36は、静電チャック30及び電極32を貫通して設けられていることから、当然、静電チャック30に設けられている誘電膜も貫通していることになる。さらに、4個のプッシャー36は、一体に結合されていることから、4個のプッシャー36は同時に上下動するものであることが分かる。
上記記載事項ア?エ、認定事項オ、図1及び図2の記載からみて、刊行物1には、次の発明が記載されていると認める。(以下「刊行物1記載の発明」という。)
「静電気力による吸着力を利用してエッチングチャンバ10内の電極32のウエハ積載面に保持されたウエハ50を低温エッチングし、該処理の終了したウエハ50をアンロード室へ搬出するプラズマエッチング装置であって、
前記電極32上に設けられた静電チャック30の誘電膜と、
前記電極32に冷媒を循環させて支持台12を例えば-120°C程度に冷却する構造と、
前記誘電膜上のウエハ用の積載面と、
前記電極32及び前記誘電膜を貫通する4個の貫通孔と、
該貫通孔内を上下方向に可動する4個のプッシャー36と、
静電チャック30の電極32に印加していた直流電圧を遮断した後、前記プッシャー36を同時に上下方向に可動させる手段を有し、
前記プッシャー36を上下方向に可動させる手段は、前記低温エッチングの完了後、接地されたプッシャー36をウエハ50に接触させることによりウエハ50の残留電荷の除去を行い、その後、4個のプッシャー36を同時に上昇させる、低温プラズマエッチング装置。」
(2-2)刊行物2記載の発明
刊行物2には、以下の記載がある。
ア 41頁?43頁、3.2 支持点がウェーハ面内にある保持
「支持点がウェーハ面内の任意の点に配置される支持具が可能であるとすれば、ウェーハの外周または面内の円上に均等に配置する方が応力及び変形の緩和に有利である。ここで、均等に配置された4点支持について考えよう。・・・
支持点が外周近傍にある以外、いずれの応力成分も支持点で最大となり、引張応力となる。これにより、ウェーハ内の最大せん断応力は支持点で起こり、その値は応力成分の最大値により決められる。図7には応力成分の最大値と支持点の位置b/Rとの関係を示す。支持点の位置が外周にある場合でも、前述の不均等配置の4点支持より、応力は半分以上減少することが分かる。さらに、支持点の位置を外周からウェーハ半径の約0.7?0.8倍の外接円上に移動すると、応力を大幅に減少させる効果がある。この場合、最大応力は外周リング支持状態の最大応力のわずか2倍程度にとどまる。」
イ 44頁、5 終わりに(4)
「リング支持または点支持のいずれの場合でも、支持点の位置をウェーハ面内の約0.7倍の半径の場所に移動することにより、応力及び変形を最小にすることができる。φ12”ウェーハの場合、最適支持位置を採用したリング支持では最大せん断応力(0.11MPa)が現行のφ6”ウェーハの外周リング支持時(0.13MPa)よりも小さくできる。
以上述べたように、ウェーハ大口径に伴って、自重による変形及び応力の増加は保持方法の改善により十分押さえることができる。リング支持または点支持のいずれの場合にも、ウェーハ半径の約0.7の半径に支持点を配置することは、変形及び応力の減少に有効な手段である。」
以上、ア、イの摘記事項、及び図7を参照すると、刊行物2には以下の発明が記載されている。(以下、「刊行物2記載の発明」という。)
「ウェーハ面内の約0.7倍の半径の位置において、円上に均等に配置された4つの支持点によってウェーハを支持することにより、ウェーハの自重による応力及び変形を減少させること。」
(3)対比
補正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、後者の「プッシャー36」は前者の「棒状体」に相当している。後者の「エッチングチャンバ10」は前者の「処理室」に、後者の「低温エッチング」は前者の「プラズマ処理」に、それぞれ相当している。後者の「処理の終了したウエハ50をアンロード室へ搬出する」ことは、前者の「処理の終了したウエハを前記処理室外へ搬送する」ことに相当する。後者の「支持台12を例えば-120°C程度に冷却する構造」は、支持台12に静電チャック30を介してウエハ50が保持されることから、前者の「ウエハの温度制御を行う冷却装置」と言い得る。後者の「4個」は明らかに前者の「3個以上」に該当する。後者の「静電チャック30の電極32に印加していた直流電圧を遮断」は、前者の「静電気力の電源のオフ」に相当する。
よって、両者は、次の一致点及び相違点を有している。
[一致点]
「静電気力による吸着力を利用して処理室内の電極のウエハ積載面に保持されたウエハをプラズマ処理し、該処理の終了したウエハを前記処理室外へ搬送するプラズマ処理装置であって、
前記電極上に設けられた誘電膜と、
前記電極に冷媒を循環させて前記ウエハの温度制御を行う冷却装置と、
前記誘電膜上の積載面と、
前記電極及び前記誘電膜を貫通する3個以上の貫通孔と、
該貫通孔内を上下方向に可動する3個以上の棒状体と、
前記静電気力の電源をオフした後、前記棒状体を同時に上下方向に可動させる手段を有し、
前記棒状体を上下方向に可動させる手段は、前記プラズマ処理の終了後、前記貫通孔に設けられた前記棒状体を同時に上昇させることにより構成されているプラズマ処理装置。」
[相違点]
<相違点1>
処理室に関し、補正発明では「真空」であるとしているのに対し、刊行物1記載の発明では、真空かどうか不明な点。
<相違点2>
処理されるウエハの寸法に関し、補正発明では「12インチウエハ」と特定しているのに対し、刊行物1記載の発明ではウエハの寸法について、特定されていない点。
<相違点3>
ウエハを押し上げる棒状体の位置に関し、補正発明では、「ウエハ積載面の中心から半径方向の60?80%の領域の単一の同一円上」としているのに対し、刊行物1記載の発明では、棒状体に相当するプッシャー36のウエハを押し上げる位置に関して特定されていない点。
<相違点4>
棒状体の案内に関し、補正発明では、「貫通孔内に設けられたブッシュに沿って」該棒状体を上下動させるのに対し、刊行物1記載の発明では貫通孔内にそのようなブッシュは設けられていない点。
<相違点5>
補正発明では、静電気力の電源をオフした後の残留電荷によりウエハが誘電膜に吸着されている状態で当該残留電荷によりウエハに作用する残留吸着力に抗する押し上げ力で押し上げ、ウエハを棒状体のみを介してウエハ積載面から引き剥がすように構成されており、ウエハに作用する残留吸着力に抗してウエハをウエハ積載面から棒状体のみにより安定して完全に引き剥がしているのに対し、刊行物1記載の発明では、静電チャック30の電極32に印加していた直流電圧を遮断後、接地されたプッシャー36をウエハ50に接触させることによりウエハ50の残留電荷の除去を行い、その後、プッシャー36を上昇させるようにしている点。
(4)判断
上記相違点について検討する。
<相違点1>について
一般にウエハに低温エッチング等のプラズマ処理を行う場合、当該処理を真空下で行うことは技術上の慣用手段である。
<相違点2>について
ウエハの大きさとして12インチのものは、例えば特開平6-302572号公報(第3頁第4欄段落番号【0028】参照。)に示されているように、周知の事項である。
<相違点3>について
ウエハを支持点において支持する場合、ウエハの中心から半径方向の70%の領域の単一の同一円上で支持することが、ウエハの自重による応力を最小にすることができることは刊行物2記載の発明にあるように、公知のものである。ここで、刊行物2記載の発明はウエハの自重、すなわち、ウエハに加わる重力による応力を最小にする支持点に関するものであるが、これを刊行物1記載の発明のような静電チャックに用いた場合には、静電気力による吸着力を考慮しなければならない。しかしながら、重力は単位面積当たり均等に働くものであるところ、静電気力による吸着力も単位面積当たり均等に働くものであることからすれば、刊行物2記載の発明の支持を刊行物1記載の発明のプッシャー36に適用した場合には、重力による支持と同じ位置でウエハを支えればよく、それにより、ウエハに加わる応力が最小になると推測することは、当業者にとって格別困難なことではない。そして、半径方向の70%は、補正発明の「ウエハ半径方向の60%?80%の領域」に含まれるものである。
してみると、刊行物1記載の発明において、補正発明の棒状体に相当するプッシャー36の配置を、相違点に係る補正発明の事項のごとく、「ウエハ半径方向60%?80%の領域の単一の同一円上」とすることが、当業者にとって格別困難なことということはできない。
なお、審判請求人は、平成18年12月28日付の意見書第3頁第34行-第39行で、「一方、刊行物2(又は刊行物3、4)の発明は、ウエハ熱処理時のウエハの保持に関するものであり、ウエハの静電吸着特有の課題はなんら存在しない。
刊行物1のエッチング処理装置と刊行物2のウエハの熱処理装置は、近接した技術であるとしても、その差異を無視しうるようなものではなく、しかも、構成において、ウエハの熱処理装置のウエハ保持機構をエッチング処理装置のウエハ強制引き剥がし手段に置き換えるための動機付けも存在しない。」と主張し、また、第4頁第4行-第16行で、「残留吸着力に抗してウエハを引き剥がす本願発明と、単に重力すなわち自重に抗してウエハを押し上げるだけの刊行物1記載の発明とは、ウエハへの力のかかり方が全く相違するものである。その挙動図を参考図1に示す。本願発明のように残留吸着力に抗してウエハを引き剥がす場合には、ウエハ面内において、引き剥がし部のウエハの浮き上がりと共に残留電荷の分布が刻々と変わり残留吸着力の作用する位置が移動していく。これは、刊行物1に記載のウエハ自重による力のかかり方と全く異なってくる。すなわち、本願発明の場合には、棒状体を同時に上下方向に可動させる手段がウエハを引き剥がす方向に動作することに伴い、棒状体の上昇によりウエハが局所的に変形し、この変形領域でウエハとウエハ載置との静電容量が変わりウエハ裏面の電荷が移動し、静電吸着力は局所的に大きく変化する。
これは、静電吸着特有の物理現象であり、単に重力に抗してウエハを押し上げるときには発生しない現象である。そのため、ウエハの強制引き剥がしはウエハの割れを伴う可能性が大きい。よって、本願発明を、単なる板部材の支持と同じ観点で論ずることは出来ない。」と主張している。
しかしながら、補正発明は、ウエハに加わる静電吸着力を単位面積あたり均等であるとしてウエハの半径方向60?80%の領域としたものである(本件出願の明細書の段落【0016】参照。)。そして、ウエハに単位面積あたり均等に加重が加わることは重力による加重と同じであるから、「ウエハが局所的に変形し、静電吸着力は局所的に大きく変化する」という審判請求人の主張は採用できない。
<相違点4>について
静電気による吸着力を利用してウエハ積載面上のウエハをウエハ積載面に形成された貫通孔内を上下動する棒状体で押し上げる場合、該棒状体を貫通孔内に設けられたブッシュに沿って可動させることは、例えば、特開平5-121529号公報(同公報において、「第2案内部材18a、18b、18c」が「ブッシュ」に相当。)に記載されているように、本件出願の出願前、周知の事項であることから、刊行物1記載の発明においても、貫通孔内にブッシュを設け、棒状体であるプッシャー36を当該ブッシュに沿って上下動させることは、当業者が容易になし得たものである。
<相違点5>について
静電チャックに保持されたウエハを棒状体で引き剥がす際に、ウエハに作用する残留吸着力に抗してウエハを引き剥がすことは、例えば、特開平6-252062号公報(明細書の段落番号【0005】参照。)、特開平6-338559号公報(明細書の段落番号【0007】参照。)、特開平7-130825号公報(明細書の段落番号【0003】参照。)等に記載されているように従来周知の事項であったことからすれば、刊行物1記載のウエハ処理装置においても、静電気力の電源をオフした後、プッシャー36による押し上げを、その接地による残留電荷の除去をすることなく、ウエハ50に作用する残留吸着力に抗してプッシャー36のみを介してウエハ積載面から引き剥がす押し上げ力を発生するようにすることは、当業者が容易になし得たものである。そして、ウエハの引き剥がしを安定して、かつ完全に行うべきことは、当然である。
<効果>について
補正発明の効果も、上記刊行物1記載の発明、刊行物2記載の発明、技術上の慣用手段及び上記従来周知の事項から予測しうる程度のものであって、格別なものではない。
以上のとおりであるので、補正発明は、本件出願前に日本国内において頒布された刊行物1記載の発明、刊行物2記載の発明、技術上の慣用手段及び上記従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 むすび
以上のとおりであるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本件発明について
1 本件発明
本件補正は、前記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、平成17年8月8日付手続補正書により補正がされた明細書及び図面の記載からみて、前記第2の1の(1)で示した補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。

2 引用刊行物記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及び刊行物2の記載事項は、前記第2の2の(2)に示したとおりである。

3 対比・判断
本件発明は、前記第2の2で述べたとおり、補正発明の特定事項から、前記限定事項が省かれたものである。
そうすると、前記第2の2の(4)で検討したとおり、本件発明は、同様に刊行物1記載の発明、刊行物2の記載の発明、技術上の慣用手段及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおりであるので、本件発明は、刊行物1、刊行物2記載の発明、技術上の慣用手段及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項2ないし3に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-01-30 
結審通知日 2007-02-06 
審決日 2007-02-19 
出願番号 特願2002-349349(P2002-349349)
審決分類 P 1 8・ 575- WZ (H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二階堂 恭弘中島 昭浩  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 豊原 邦雄
加藤 昌人
発明の名称 プラズマ処理装置及びそれを用いたウエハの処理搬送方法  
代理人 ポレール特許業務法人  

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