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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B21D
管理番号 1155040
審判番号 不服2004-17860  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-08-30 
確定日 2007-04-04 
事件の表示 平成 6年特許願第172928号「油圧拡張工程の監視方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年10月31日出願公開、特開平 7-284864〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本件出願は、平成6年7月25日(パリ条約による優先権主張1994年4月15日、ドイツ国)の特許出願であって、同16年3月2日に手続補正がなされ、同年5月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年8月30日に本件審判の請求がなされ、同年9月29日に手続補正がなされ、同18年10月11日に回答書が提出されたものである。

第2.平成16年9月29日付けの補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成16年9月29日付けの補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲について補正をするものであって、特許請求の範囲の請求項1について補正前後の記載を補正箇所に下線を付して示すと以下のとおりである。

(1)補正前
「油圧流体が注入される油圧プローブ(4)によりスリーブ(3)がチューブ(1)の内壁に対向して当接され、そして上記スリーブ(3)およびチューブ(1)は、予め定めることのできる拡張領域(6)内で上記スリーブおよびチューブの塑性領域へ変形される上記スリーブと上記チューブとの間の金属接続における油圧拡張行程の監視方法であって、
上記油圧プローブ(4)内に注入される上記油圧流体の容積が、上記スリーブ(3)および/或いはチューブ(1)の変形の程度を指示するために利用されることを特徴とする油圧拡張工程の監視方法。」

(2)補正後
「油圧流体が注入される油圧プローブ(4)によりスリーブ(3)がチューブ(1)の内壁に対向して当接され、そして上記スリーブ(3)およびチューブ(1)は、予め定めることのできる拡張領域(6)内で上記スリーブおよびチューブの塑性領域へ変形される上記スリーブと上記チューブとの間の金属接続における油圧拡張行程の監視方法であって、
上記油圧プローブ(4)内に注入される上記油圧流体の容積が、上記スリーブ(3)および/或いはチューブ(1)の変形の程度を指示するために利用され、
圧力/容積図から読み取ることができる指示ポイント(8、11)に到達した後において、上記スリーブおよび/或いはチューブの拡張の更なる経過は注入される上記油圧流体の容積によってのみ決定されることを特徴とする油圧拡張行程の監視方法。」

2.補正の適否
本件補正の特許請求の範囲の請求項1についての補正は、補正前の請求項2記載事項である「指示ポイント到達後に関する事項」を付加するものであり、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか否か(いわゆる独立特許要件)について検討する。

(1)補正発明
補正発明は、本件補正により補正された明細書及び願書に添付した図面の記載からみて、上記1.(2)のとおりのものと認める。
ここで、「拡張領域」とは、明細書の段落0013,図1,図2等の記載からみて、「拡張により変形する領域」と解される。

(2)刊行物に記載された発明
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である実願平1-28054号(実開平2-118621号)のマイクロフイルム(以下「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.明細書第1ページ第12?13行
「本考案は、細管にスリーブを固着させる液圧拡管工具の拡管制御装置に関する。」
イ.同第3ページ第4?8行
「第4図には拡管曲線を示してある。図において、(1)の時、スリーブ7と細管8が接触した時であり、(2)の間が細菅8の弾性領域で、(3)以降は塑性領域となり、拡管の上昇を(4)で停止させている。」
ウ.同第3ページ第12?17行
「本考案は、上記課題を解決するため、細管とスリーブが接触する時を検出するまで圧力制御で行ない、その検出した時から、増圧器ピストンの直線変位量から水の吐出量を計算し、それをもとに拡管量を一定に制御するようにしたのである。」
エ.同第4ページ第8行?第5ページ第2行
「計算機1から圧力発生器3を介して増圧器4を作動させることで液圧拡管工具5の液袋6を拡げ、スリーブ7を拡管していく。圧力検出器2の圧力信号からスリーブ7と細管8が接触する値を求める。この時の増圧器4のピストン9の位置をマグネスケール10によりデテクタ12を介して計算機で読み込む。細管8が拡管されるにつれて増圧器4のピストン9が移動する。このピストン9と連結しているマグネスケール10の可動部11がその移動量に比例して移動する。このマグネスケール10の可動部11の変化量から水の吐出量が計算され、これにより液圧拡管工具5の液袋6の拡がり量がわかり、細管8の拡管量が計算できることになる。」

ここで、刊行物1記載のものは、「拡管の上昇を(4)で停止」させるものであるから、拡管を監視するものということができる。

これらの記載事項を、図面を参照しつつ、技術常識を考慮しながら補正発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認める。
「水が注入される液袋によりスリーブが細管の内壁に対向して当接され、そして上記スリーブおよび細管は、予め定めることのできる拡張により変形する領域内で、上記スリーブおよび細管の塑性領域へ変形される上記スリーブと上記細管との間の接続における拡管監視方法であって、
上記液袋内に注入される上記水の吐出量が、上記スリーブおよび細管の変形の程度を指示するために利用され、
圧力検出器の圧力信号により検出されるスリーブと細管が接触した後において、上記スリーブおよび細管の拡張の更なる経過は注入される上記水の吐出量によってのみ決定される拡管監視方法。」

なお、請求人は、回答書において、刊行物1明細書第2ページ第12?14行等を根拠として、刊行物1記載のものは、「塑性領域への変形を行なうものではありません。」と主張するが、刊行物1の上記イ.の引用部分、第4図から、刊行物1記載のものは、塑性領域まで変形するものであることは明らかである。請求人が根拠とする上記刊行物1の記載は、塑性領域まで変形後、大幅な変形を防ぐために、早期に高精度で、変形を停止させることを意図していると解される。

また、原査定の拒絶の理由に引用された本件出願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭57-48433号公報(以下「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア.第5ページ右上欄第8?11行
「本発明によれば、dVに対する流体圧の変化率を監視することにより、この臨界点(管が降伏し始める点)を各管ごとに正確に測定することができる。」
イ.第5ページ左下欄第19行?右下欄第8行
「本発明は、流体圧式管拡張方法および装置を提供する。本発明の方法においては、膨脹自在の拡張器の容積を除いた拡張装置系の容積を漸進的に減少させることによつてスリーブを蒸気発生装置の管内で拡張させ該管に固着させる。系内の圧力増大率を容積変化分の関数として監視する。この操作の進行中2つの臨界的な圧力変化率の減少が生じる。第1番目の減少は、スリーブの塑性膨脹の開始を表わし、第2番目の減少は、管の塑性膨張の開始を表わす。」
ウ.第5ページ右下欄第14?17行
「第1図を参照すると、本発明による方法を例示したグラフが示されている。このグラフには、系の流体圧がポンプ作用の漸次増分の関数として示されている。」
エ.第6ページ右上欄第2?10行
「第1図の曲線52は、蒸気発生装置管内での補修用スリーブの膨脹態様を示す。・・・点53においてスリーブ材が降伏点に達する。点53から55までの間ではスリーブは塑性的に膨脹する。点53から点55までの間の曲線52の傾斜は、スリーブの膨脹抵抗が低下したことを反映してなだらかになつている。」
オ.第6ページ左下欄第3?14行
「点55においてスリーブは、蒸気発生装置管の内壁に接触する。点55から57までの曲線は、管の弾性変形を表わす。点57において管は降伏し始め、塑性的に膨脹し始める。・・・点57より上の曲線は、管およびスリーブの塑性膨脹を表わす。」
カ.第7ページ左上欄第6?13行
「コンピュータ36は、圧力感知器34からの入来圧力信号をポンプ動作の変化分(流体容積の減少分または流体質量の増大分)の関数として監視し、表示器39上に曲線の傾きの変化を表示させ、それによつてスリーブ22および蒸気発生装置管24の塑性変形の開始時点を正確に検出することができるようにプログラムされている。」
キ.FIG.1
横軸を、ポンプ動作の変化分、すなわち流体容積の変化分、縦軸を、流体圧とした折れ線状のグラフ

これらの記載事項、特にイ.キ.から、線の傾斜の変化は、点57のほか、点53.55で変化していることが明らかであるから、点57が示す管24の塑性変形の開始時点のみならず、同様にして、点53が示すスリーブ22の塑性変形の開始時点、点55が示すスリーブと管の接触時点も測定可能であることが理解できる。
したがって、刊行物2には以下の発明(以下「刊行物2発明」という。)が記載されていると認める。
「スリーブに流体を導入してスリーブを管内で拡張させ、該管に固着させるものであって、流体容積と流体圧のグラフの傾斜の変化から、スリーブの塑性変形の開始時点、スリーブと管の接触時点、管が降伏し始める塑性膨張開始点を測定するもの」

(3)対比
補正発明と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「細管」、「吐出量」、「拡管監視方法」は、それぞれ補正発明の「チューブ」、「容積」、「拡張行程の監視方法」に相当する。
また、刊行物1発明の「水が注入される液袋」は、「流体が注入される流体収容部」である限りにおいて、補正発明の「油圧流体が注入される油圧プローブ」に一致し、刊行物1発明の「圧力検出器の圧力信号により検出されるスリーブと細管が接触した後」は、「何らかの基準点到達後」である限りにおいて、補正発明の「圧力/容積図から読み取ることができる指示ポイントに到達した後」に一致する。

したがって、補正発明と刊行物1発明とは、次の点で一致している。
「流体が注入される流体収容部によりスリーブがチューブの内壁に対向して当接され、そして上記スリーブおよびチューブは、予め定めることのできる拡張により変形する領域内で上記スリーブおよびチューブの塑性領域へ変形される上記スリーブと上記チューブとの間の接続における拡張行程の監視方法であって、
上記流体収容部内に注入される上記流体の容積が、上記スリーブおよびチューブの変形の程度を指示するために利用され、
何らかの基準点到達後において、上記スリーブおよびチューブの拡張の更なる経過は注入される上記流体の容積によってのみ決定される拡張行程の監視方法。」

そして、補正発明と刊行物1発明とは、以下の点で相違している。
相違点1:注入される流体、流体が注入される流体収容部が、補正発明では、「油」、「油圧プローブ」であるが、刊行物1発明は、「水」、「液袋」である点。
相違点2:スリーブとチューブとの間の接続が、補正発明では、「金属接続」であるが、刊行物1発明は、明らかではない点。
相違点3:何らかの基準点が、補正発明では「圧力/容積図から読み取ることができる指示ポイント」であるが、刊行物1発明は、「圧力検出器の圧力信号により検出されるスリーブとチューブの接触」である点。

(4)相違点の検討
相違点1について検討する。
一般的に、圧力を生じる流体として、油、水、いずれも周知であり、適宜選択されているところから、この点は、設計的事項にすぎない。そうであれば、補正発明の「油圧プローブ」は、刊行物1発明の「液袋」に相当すると解されるものである。

相違点2について検討する。
スリーブ、チューブの材質として、金属は周知であるから、周知なものを選択したにすぎない。

相違点3について検討する。
刊行物1発明は、「スリーブとチューブの接触」の検知は「圧力検出器の圧力信号から」行うものであるが、検知の詳細については、必ずしも明確ではない。
そこで、刊行物1発明に接した、いわゆる当業者は、「スリーブとチューブの接触」の検知を具体的にいかにして行うかについて、検討する必要がある。
検討に際しては、同一、類似技術分野の技術を参考にすることが通例であるところ、刊行物1発明と刊行物2発明は、スリーブを流体により拡張させチューブに接触させるという同一技術分野のものである。
しかも、刊行物2発明は、「流体容積と流体圧のグラフの傾斜の変化から、スリーブの塑性変形の開始時点、スリーブと管の接触時点、管が降伏し始める塑性膨張開始点を測定するもの」、すなわち「スリーブとチューブの接触」検知の具体的手段に関するものである。
以上より、刊行物1発明で明確でない点を補うため、刊行物2発明を組み合わせることは、当業者にとって自然なことであり、特段の困難性は認められない。すなわち、請求人が回答書で主張する「組合せられない」とする根拠はない。
そして、刊行物1発明に刊行物2発明を組み合わせたものの「何らかの基準点」は、「流体容積と流体圧のグラフの傾斜の変化」から検知される「スリーブと管の接触時点」であって、これが、補正発明の「圧力/容積図から読み取ることができる指示ポイント」に含まれることは明らかである。

また、これら相違点によってもたらされる効果も、当業者が予測できる程度のものであって格別のものではない。

よって、補正発明は、刊行物1発明、刊行物2発明、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3.本件発明について
1.本件発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項に係る発明は、平成16年3月2日に補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、上記第2.1.(1)に示す請求項1に記載されたとおりである。

2.刊行物等
これに対して、原査定の際にあげられた刊行物及びその記載内容は、上記第2.2.(2)に示したとおりである。

3.対比・検討
本件発明は、上記第2.2.で検討した補正発明において、「指示ポイント到達後に関する事項」を削除するものである。
そうすると、本件発明を構成する事項のすべてを含み、さらに他の事項を付加する補正発明が、上記第2.2.(4)で示したとおり、刊行物1発明、刊行物2発明、及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
したがって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-11-01 
結審通知日 2006-11-07 
審決日 2006-11-20 
出願番号 特願平6-172928
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 敏史原 泰造  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 中島 昭浩
菅澤 洋二
発明の名称 油圧拡張工程の監視方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 村松 貞男  
代理人 白根 俊郎  
代理人 橋本 良郎  

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