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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 D06F |
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管理番号 | 1155141 |
審判番号 | 不服2004-9124 |
総通号数 | 89 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2007-05-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2004-04-30 |
確定日 | 2007-04-05 |
事件の表示 | 平成9年特許願第134988号「洗濯機」拒絶査定不服審判事件〔平成10年12月8日出願公開、特開平10-323492号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成9年5月26日の出願であって、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成16年5月28日付けの手続補正により補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1は次のとおりのものである。 「洗濯物が収容される洗濯槽の底部に設けられモータにより回転駆動される水流生成用の撹拌体と、 この撹拌体の回転負荷に応じた値の検出信号を得る検出手段と、 洗い行程開始前の前記洗濯槽内に洗濯物が収容された状態で前記撹拌体を回転させてこのときの前記検出手段の検出値を予め記憶された判定用のデータと比較することに基づいて前記洗濯物の布量を判定する布量判定手段と、 この布量判定手段の布量の判定に基づいて洗濯槽内の水位を設定する水位設定手段と、 前記洗濯槽内の水位を有段で表示する水位表示部とを具備し、 前記布量判定手段は、間欠的な複数の基準検出値に対応する布量を示した布量判定用データを予め記憶し、前記検出手段の検出値の前後の基準検出値の布量判定用データから直線補間法により該検出値に対する布量を求めるように構成されていると共に、 前記水位表示部には前記水位設定手段により設定された水位に最も近い水位が表示されることを特徴とする洗濯機。」 2.引用刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開平5-115670号公報(以下、「引用刊行物1」という。)及び特開平9-10471号公報(以下、「引用刊行物2」という。)に記載された発明について検討する。 (1)引用発明1 引用刊行物1には、図面とともに次のように記載されている。 (a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 槽内に配した撹拌翼を駆動するモータと、このモータへの通電制御を行うモータ制御手段と、洗濯機の工程を制御する工程制御手段と、前記モータを所定時間オンし、その後にモータをオフして、そのオフ期間にモータから発生する起電力を検出する起電力検知手段からの信号と布負荷量判定基準値を比較し、布負荷量を判定する布負荷量判定手段を備え、前記布負荷量判定手段は、槽内に給水する前に前記モータ制御手段を動作させて前記モータを所定時間駆動し、その後の前記モータのオフ期間内に前記起電力検出手段からの減衰状態により布負荷量を判定する洗濯機の布負荷量検知装置。」(第2頁【特許請求の範囲】の欄。) (b)「【0001】本発明は洗濯槽あるいは脱水兼洗濯槽に投入された衣類等の布負荷量を検知する洗濯機の布負荷量検知装置に関するものである。」(段落【0001】) (c)「【0009】本実施例における洗濯機の布負荷量検出装置の構成は、図1に示すように、洗濯兼脱水槽(以下、内槽と称す)1を内装する槽2を備え、内槽1の内底部には撹拌翼3が回転自在に配されている。この撹拌翼3は減速機構4を介してモータ5により駆動される。また、槽2の底部には排水弁6が接続され、槽2上方には給水弁7が配設されている。前記モータ5、排水弁6および給水弁7は、工程制御手段8により制御されるモータ制御手段9、排水弁制御手段10および給水弁制御手段11を介して各々駆動される。工程制御手段8は設定手段12からの設定にもとづき、工程記憶手段13から必要のデータを読み出し、設定内容にもとづいた洗濯,すすぎ,脱水工程を、各種制御手段9?11の制御により実行する。また、モータ5のモータ電圧を検知するために電圧検知手段14をモータ5に接続している。この電圧検知手段14の電圧波形数を計数する計数手段15の出力は布負荷量判定手段17に入力されている。この電圧検知手段14と計数手段15とを起電力検知手段という。布負荷量判定手段17は槽2内の水位を検知する水位検知手段18の出力とモータ制御手段9に出力される制御信号も入力している。 【0010】上記構成の洗濯機の布負荷量検知装置の動作を説明する。まず、設定手段12により工程内容を設定した後に運転を開始すると、工程制御手段8はモータ制御手段9を制御して、所定時間モータ5を駆動して撹拌翼3を回転させる。所定時間経過してモータ5の通電停止を布負荷量判定手段17が検知すれば、電圧検知手段14からの波形数を計数手段15により計数する。そして、布負荷量判定手段17はこの計数手段15の計数した値と布負荷量判定基準値とを比較し、槽2内の布負荷量を判定する。この布負荷量判定手段17により判定した布負荷量の情報は工程制御手段8に送られ、工程制御手段8は布負荷量にもとづいてそれ以降の洗濯,すすぎ,脱水の各工程を制御する。 【0011】次に、本発明の具体的な洗濯機の布負荷量検知装置を図2により説明する。すなわち、19はマイクロコンピュータで、図1で示した工程制御手段8、工程記憶手段13,計数手段15、および布負荷量判定手段17を構成している。・・・中略・・・ 【0012】上記電圧検知手段14は、モータ5に所定時間通電(双方向性サイリスタ20aまたは20bをON)した後の通電停止期間に、モータ5のコンデンサ22の両端に発生する電圧を検知するものである。この検知電圧V0は図3に示す波形となる。すなわち、布負荷量が少ない場合には、図3(a)のT1a期間内で減衰し、布負荷量が多い場合には、図3(b)のT1b期間内で減衰する。この減衰期間を波形数として計数することにより、布負荷量と相関した情報を得ることができる。 【0013】ここでマイクロコンピュータ19の制御フローを図5により説明する。すなわち、運転開始すると、ステップ51で撹拌開始し、所定時間経過後にモータの通電をOFFし、そのOFF後の電圧波形数を計数する(ステップ52)。そして撹拌が停止すると(ステップ53)終了するものである。上記布負荷量検知ルーチンで計数した電圧波形数より布負荷量判定基準値にもとづいて布負荷量を判定する(ステップ54)この判定した布負荷量にもとづき給水制御手段を制御して、給水弁を動作させて槽内に給水する。(ステップ55)槽内に給水すれば、水位検知手段により水位情報を得て所定の水位まで給水されたら、給水制御手段により給水弁を閉じて給水を停止する。そして洗濯工程に移っていく。 【0014】ここで給水しないで、布負荷量を検知するため、モータオフ時に発生する電圧波形数は、給水した場合に比べその負荷量が少ないために多く発生する。従って給水した場合に比べ、モータのオン・オフの回数を減らしても電圧波形数の差は布負荷だけの差になり、布負荷量の検出は精度の高いものが得られ、その撹拌時間は非常に短く衣類を傷めるまでには至らないものである。」(段落【0009】?【0014】) 上記各記載及び図示内容を総合すると、引用刊行物1には、次のような発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。 「洗濯物が収容される洗濯兼脱水槽1の底部に設けられ、モータ5により回転駆動される撹拌翼3と、 前記モータ5から発生する起電力を検出する起電力検知手段14と、 運転開始時、給水前に洗濯兼脱水槽1内に洗濯物が収容された状態で、前記モータ5を所定時間駆動し、その後の前記モータ5のオフ期間内に前記起電力検知手段14からの波形数を計数し、その計数値と布負荷量判定基準値とを比較することにより前記洗濯兼脱水槽1内の布負荷量を判定する布負荷量判定手段17とを具備し、 前記布負荷量判定手段17により判定した布負荷量に基いて給水制御手段を制御して、洗濯兼脱水槽1内に給水し、水位検知手段18により水位情報を得て、所定の水位まで給水されたら、給水を停止するようにした洗濯機。」 (2)引用発明2 引用刊行物2には、図面とともに次のように記載されている。 (a)「本発明は、洗濯物の量を検出する検出手段を備え、その検出された洗濯物の量に応じた洗濯運転を行うようにした洗濯機に関する。」(段落【0001】) (b)「この種の洗濯機としては、例えば、パルセータ(撹拌体)をモータにより回転駆動させ、そのときの回転数を検出して洗濯槽内の洗濯物の量を判定するようにしたものである。この原理は、洗濯槽内の洗濯物の重量に応じてパルセータに及ぼす力が大きくなることに起因してパルセータの回転数が低下するのを検出して洗濯物の重量を判定するもので、あらかじめ、洗濯物がない状態つまり無負荷状態でのパルセータの回転数に対応したデータを基準データとして記憶しておき、この基準データに対してどの程度回転数のデータが低下しているかを検出して演算により重量を判定するものである。」(段落【0002】) (c)「そして、このようにして洗濯物の重量が判定されると、これに対応して洗濯槽内に供給する水の量つまり給水水位を設定するように構成されている。したがって、使用者は、洗濯物を洗濯槽内に収容して洗濯運転の開始スイッチを操作するだけで、水位の設定を自動的に行うことができるのである。」(段落【0003】) (d)「図2は操作パネル17を示しており、手前側に位置して多数の操作スイッチ19が設けられると共に、奥側に位置して右方に電源スイッチ20,スタートスイッチ21が配設され、左方に表示部22およびチェック中の表示を行う表示手段としてのチェック表示部23が配設されている。表示部22およびチェック表示部23はLEDなどの表示素子を用いて運転状態を表示するように構成されている。」(段落【0027】) (e)【図1】には、上記(d)における「表示部22」が「水位表示部」として示されている。 上記各記載及び図示内容を総合すると、引用刊行物2には、次のような発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。 「洗濯物の重量に基いて、洗濯槽内に供給する給水水位を設定するとともに、LED等の表示素子を用いた表示部22により給水水位を表示するようにした洗濯機。」 3.対比 そこで、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「洗濯兼脱水槽1」はその機能や構造などからみて、本願発明の「洗濯槽」に相当し、以下同様に、「撹拌翼3」は「水流生成用の撹拌体」に、「前記モータ5から発生する起電力を検出する起電力検知手段14」は「この撹拌体の回転負荷に応じた値の検出信号を得る検出手段」に、「運転開始時、給水前」は「洗い行程開始前」に、それぞれ相当する。 また、本願明細書段落【0040】によれば、本願発明において、「前記撹拌体を回転させてこのときの前記検出手段の検出値」を求めることは、モータ通電後に断電した際のパルス数の計数をも含んでいることから、引用発明1において、「前記モータ5を所定時間駆動し、その後の前記モータ5のオフ期間内に前記起電力検知手段14から波形数を計数」することは、本願発明において、「前記撹拌体を回転させてこのときの前記検出手段の検出値」を求めることに相当し、引用発明における「布負荷量」及び「布負荷量判定手段17」は本願発明における「洗濯物の布量」及び「洗濯物の布量を判定する布量判定手段」に、それぞれ相当する。 さらに、引用発明1は、「前記布負荷量判定手段17により判定した布負荷量に基いて給水制御手段を制御して、洗濯槽1内に給水し、水位検知手段により水位情報を得て、所定の水位まで給水されたら、給水を停止する」機能を有していることから、本願発明1の「布量判定手段の布量の判定に基づいて洗濯槽内の水位を設定する水位設定手段」を備えていることは明白である。 したがって、本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は次のとおりである。 〈一致点〉 「洗濯物が収容される洗濯槽の底部に設けられモータにより回転駆動される水流生成用の撹拌体と、 この撹拌体の回転負荷に応じた値の検出信号を得る検出手段と、 洗い行程開始前の前記洗濯槽内に洗濯物が収容された状態で前記撹拌体を回転させてこのときの前記検出手段の検出値に基づいて前記洗濯物の布量を判定する布量判定手段と、 この布量判定手段の布量の判定に基づいて洗濯槽内の水位を設定する水位設定手段とを具備した洗濯機。」 〈相違点1〉 布量判定手段に関して、本願発明においては「前記検出手段の検出値を予め記憶された判定用のデータと比較する」とともに、「間欠的な複数の基準検出値に対応する布量を示した布量判定用データを予め記憶し、前記検出手段の検出値の前後の基準検出値の布量判定用データから直線補間法により該検出値に対する布量を求める」のに対して、引用発明1においては「前記計数手段15の計数値と布負荷量判定基準値とを比較することにより布負荷量を判定する」点。 〈相違点2〉 本願発明は「洗濯槽内の水位を有段で表示する水位表示部」を具備し、「水位表示部には水位設定手段により設定された水位に最も近い水位が表示される」のに対して、引用発明1においては、このような水位表示について明示されていない点。 4.相違点についての検討及び判断 (1)相違点1について 上記2.(1)、(c)に摘記した引用刊行物1の記載によれば、起電力検知手段14からの波形数の計数、布負荷量の判定等は、マイクロコンピュータにより行われることから(特に【0011】?【0013】参照のこと。)、引用発明1においても、波形数の計数値に基づいて布負荷量を判定するため、波形数の計数値と布負荷量判定基準値の対応テーブルを予めメモリ等に記憶しているということができ、この対応テーブルを細分化すれば、必要とするメモリ容量は当然に増大するものの、節水効果等を高める観点から、より高精度の布負荷量判定が可能となることは、当業者にとって自明ともいうべき事項である。 一方、対応テーブルの細分化に伴うメモリ容量の増大を防止するため、細分化に代えて、対応テーブルを間欠的な複数の基準値に対応するものとし、入力データ前後の基準値データから直線補間法等の補間法により当該入力データに対応する出力データを演算することは、例えば特開平5-304837号公報(段落【0013】参照。)、特開平8-326899号公報(段落【0089】参照。)にみられるように、演算処理の手法として、本願出願前より周知の技術である。 してみると、引用発明1に上述した周知の技術を適用し、波形数の計数値と布負荷量判定基準値の対応テーブルを、間欠的な複数の基準計数値と布負荷量判定基準値の対応テーブルとし、波形数の計数値を、前後の基準計数値と比較し、当該基準計数値に対応する布負荷量判定基準値から直線補間法を用いて布負荷量を演算することにより、本願発明の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (2)相違点2について、 引用発明2は、水位表示部として、LED等の表示素子を用いるものであり、有段のLEDにより、所望の水位表示に最も近い水位が表示されるものといえる。 また、特開平8-38785号公報には、水位表示として、高水位、中水位といった7段階あるいは5段階表示を行うこと示されており(段落【0004】、【図3】参照。)、このものも、所望の水位表示に最も近い水位が表示されるものといえる。 してみると、洗濯機において、所望の水位表示に最も近い水位を表示する表示部を設けることは、本願出願前より周知の技術であり、広く採用されていることであるから、引用発明1にこれを適用し、本願発明の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。 (3)相違点についての検討及び判断のむすび 本願発明を全体構成でみても、引用発明1、引用発明2及び周知の技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するものではない。 したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、当業者が、本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2007-01-30 |
結審通知日 | 2007-02-06 |
審決日 | 2007-02-21 |
出願番号 | 特願平9-134988 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(D06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 金丸 治之 |
特許庁審判長 |
石原 正博 |
特許庁審判官 |
稲村 正義 一色 貞好 |
発明の名称 | 洗濯機 |
代理人 | 佐藤 強 |