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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61N
管理番号 1155213
審判番号 不服2004-233  
総通号数 89 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-05-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-01-05 
確定日 2007-04-03 
事件の表示 特願2000-129737号「166Ho-DTPA、その製造方法及び液体放射線源としてのその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月 9日出願公開、特開2001-276242号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成12年4月28日(パリ条約による優先権主張2000年3月31日、韓国)の出願であって、平成15年10月2日付け(発送日:平成15年10月7日)で拒絶査定がなされ、これに対し、平成16年1月5日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同年2月4日付けの手続補正書により補正がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年2月4日付けの手続補正書で補正された明細書の特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「狭窄血管病の血管形成手術後の再狭窄発生抑制に用いるβ線及びγ線を放出する166Ho標識付ジエチレントリアミンペンタ酢酸(166Ho-DTPA)からなる液体放射線源。」

第3 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第98/12979号パンフレット(以下、「引用例」という。)には、図面と共に、次の事項が記載されている。
1.「Background of the Invention
The present invention relates to an apparatus and・・・decreasing the blockage and improving blood flow.」(1頁15行?2頁2行)、(〔発明の背景〕
本発明は、管腔構造内における疾患プロセスを治療する装置および方法に関する。このような構造には、静脈、動脈、バイパス移植補綴物、胃腸(GI)管、胆管、尿生殖器(GU)管、および気道(例えば、気管気管支ツリー)が含まれるが、これらに限定されるものではない。
経皮的な管腔を貫通する冠動脈血管形成(PTCA)は、冠動脈障害の治療に通常使用されており、年間に400,000件の処置が行われている。PTCAは冠動脈疾患のために現在最も普通に行われている治療の一つである(1)。残念ながら、それは30%?50%の再狭窄率による制限が残っている(2?5)。PTCA処置には、大腿動脈から標的冠動脈へのバルーンカテーテルの挿入含が含まれる。放射線不透過性の造影剤を近位冠動脈に注射することによって、狭窄した冠動脈切片を透視的に突き止めることが可能になる。バルーンカテーテルは、該カテーテルを閉塞点に位置決めするために、極度に細いガイドワイヤ上を狭窄部位へと進められる。カテーテルの先端にはバルーンが含まれており、該バルーンは2?4分に亘って閉塞動脈の全直径に膨張して障害を減少し、血流を改善する。){()内の翻訳は対応する特許出願の公表公報(特表2001-505084号公報)による。以下、同様。}
2.「Although coronary artery blockage ・・・ of radioactive material into the bloodstream.」(3頁26行?4頁6行)、(冠動脈閉塞は非悪性疾患であるが、電離放射線を用いた血管内壁治療は細胞増殖を阻止することができ、再狭窄を遅延または防止できることが示唆されている。動脈瘤性骨嚢胞、動静脈奇形、関節炎、軟骨腫、異所骨形成、全リンパ照射(腎臓および心臓移植について)、および翼状片症候群(二八に総説)のような非悪性疾患を治療するために、非電離放射線を使用した長期かつ広範な実験が存在する。これは、電離放射線を用いて非悪性の増殖性疾患を治療できることを示唆しているが、周囲の組織に対する損傷を最小限にするとしても、このような照射を与えることは問題である。また、バルーンカテーテルの場合の継続的な安全性の問題として、バルーンの破裂および放射能物質の血流中への放出がある。)
3.「This invention further provides an apparatus ・・・,Ho-166, Re-186, Ir-192, or Bi-212.」(9頁21?37行)、(本発明は更に、患者の管腔構造内における疾患プロセスを治療するための装置であって、流体供給ポートが接続されたバルーンカテーテルと、前記流体供給ポートを介して前記バルーンカテーテルの中に挿入された放射性流体とを具備し、該放射性流体は、放射性核種とキレート化剤との複合体を、前記疾患プロセスを阻止するのに有効な量で含有する装置を提供する。
本発明の一態様において、前記放射性核種は188Reである。
本発明の更に別の態様において、前記放射性核種は、Na-24、Si-31、K-42、Sc-44,Co-55、Cu-61、Ga-66,Ga-68、Ga-72、Se-73、Sr-75、Br-76、Kr-77、Ge-77、Sr-90、Y-90、Tc-99、Tc-99m、Pd-103、In-110、Sb-122、I-125、Ho-166、Re-186、Ir-192、またはBi-212である。)
4.「The radiation source may be ・・・ the subject's body in the event of balloon rupture.」(13頁9行?14頁17行)、(前記放射線源は、如何なる放射性元素であってもよい。より具体的には、この放射線源は、例えば、Na-24、Si-31、K-42、Sc-44,Co-55、Cu-61、Ga-66,Ga-68、Ga-72、Se-73、Sr-75、Br-76、Kr-77、Ge-77、Sr-90、Y-90、Tc-99、Tc-99m、Pd-103、In-110、Sb-122、I-125、Ho-166、Re-186、Re-188、Ir-192またはBi-212からなる郡から選択されるような放射性核種、または表2?表4から選ばれる何れか他の物質である。
表2?4に関しては、凡例「A」は原子量を意味し、半減期は、適切な場合には年、日、時間および分で与えられ、「Rad.Type(放射タイプ)」B+は陽電子粒子の放出を示し、B-はβ粒子の放出を示し、Gはガンマ光子の放出を示す。
前記キレート化剤は、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、グルコヘプトン酸(GH)、メルカプトアセチルグリシルグリシン(MAG3)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)-2,3-ジアミノプロパン酸(CO2-DADS)および関連誘導体、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)エチレンジアミン(DADS)および関連誘導体、モノ-およびポリ-ホスホン酸、N,N’-ビス(2-メルカプトエチル)エチレンジアミン(BAT)および関連誘導体、エチレンヒドコキシジホスホネート(ENDP)、メチレンジホスホネート(MDP)、ヒドコキシメチレンジホスホネート(HMDP)、ピロリン酸(PYP)、チオセミカルバゾン、システイン酸エチル二量体(L,L ECDおよびD,D ECD)、ヒドロキシエチルジホスホネート(HEDP)、エチレンジアミン四メチルリン酸(EDTMP)、および放射性核種または放射性同位元素に配意できる何れか他のキレート化剤から選択される。
このキレート化剤は放射性核種に結合して、キレートまたは複合体を形成する。該キレート化剤は金属をキレート化し、また受容体とも結合できる二官能性キレート化剤(即ち、リガンド)であることができる。幾つかの組み合わせにおいて、放射性核種は2以上のキレート化剤によってキレート化され、また、一つのキレート化剤が2以上の放射性核種をキレート化してもよい。
キレート化剤を選択するための基準には、バルーンの破裂が起きたときに、キレート化剤が患者の身体から除去される容易さが含まれる。)
5.「The practicality of any particular ・・・ in a complex with a chelating agent. 」(66頁30?33行)、(特定の同位体の実用性は、その半減期、利用可能性、コスト、ならびにキレート剤と複合したときの排泄特性の関係に依存する。)
6.前記1の「経皮的な管腔を貫通する冠動脈血管形成(PTCA)は、冠動脈障害の治療に通常使用されており、年間に400,000件の処置が行われている。PTCAは冠動脈疾患のために現在最も普通に行われている治療の一つである(1)。残念ながら、それは30%?50%の再狭窄率による制限が残っている(2?5)。PTCA処置には、大腿動脈から標的冠動脈へのバルーンカテーテルの挿入含が含まれる。」及び前記2の「冠動脈閉塞は非悪性疾患であるが、電離放射線を用いた血管内壁治療は細胞増殖を阻止することができ、再狭窄を遅延または防止できる」との記載によれば、前記3に記載された「患者の管腔構造内における疾患プロセスを治療する」ということ及び「疾患プロセスを阻止する」ということは「冠動脈血管形成後の再狭窄を遅延または防止する」ことを含むものである。また、前記3に記載された「流体供給ポートが接続されたバルーンカテーテルと、前記流体供給ポートを介して前記バルーンカテーテルの中に挿入された放射性流体とを具備し」ということは、「バルーンカテーテルの中に放射性流体を供給」することを意味するから、前記3の「流体供給ポートが接続されたバルーンカテーテルと、前記流体供給ポートを介して前記バルーンカテーテルの中に挿入された放射性流体とを具備し、該放射性流体は、放射性核種とキレート化剤との複合体を、前記疾患プロセスを阻止するのに有効な量で含有する」ということは、放射性核種とキレート化剤との複合体を含有する放射性流体をバルーンカテーテルに供給して冠動脈血管形成後の再狭窄を遅延または防止することを意味する。
よって、前記1?3には冠動脈血管形成後の再狭窄を遅延または防止するために放射性核種とキレート化剤との複合体を含有する放射性流体を用いることが示されているといえる。

これらの記載を総合すれば、引用例には、
「冠動脈血管形成後の再狭窄を遅延または防止するために用いる放射性核種とキレート化剤との複合体を含有する放射性流体であって、放射線核種はNa-24、Si-31、K-42、Sc-44,Co-55、Cu-61、Ga-66,Ga-68、Ga-72、Se-73、Sr-75、Br-76、Kr-77、Ge-77、Sr-90、Y-90、Tc-99、Tc-99m、Pd-103、In-110、Sb-122、I-125、Ho-166、Re-186、Re-188、Ir-192、またはBi-212であり、キレート化剤はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、グルコヘプトン酸(GH)、メルカプトアセチルグリシルグリシン(MAG3)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)-2,3-ジアミノプロパン酸(CO2-DADS)および関連誘導体、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)エチレンジアミン(DADS)および関連誘導体、モノ-およびポリ-ホスホン酸、N,N’-ビス(2-メルカプトエチル)エチレンジアミン(BAT)および関連誘導体、エチレンヒドコキシジホスホネート(ENDP)、メチレンジホスホネート(MDP)、ヒドコキシメチレンジホスホネート(HMDP)、ピロリン酸(PYP)、チオセミカルバゾン、システイン酸エチル二量体(L,L ECDおよびD,D ECD)、ヒドロキシエチルジホスホネート(HEDP)、エチレンジアミン四メチルリン酸(EDTMP)、および放射性核種または放射性同位元素に配意できる何れか他のキレート化剤から選択されるものである放射性流体。」の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認めることができる。

第4 対比
本願発明と引用発明を対比すると、その機能、作用からみて、後者の「冠動脈血管形成後の再狭窄を遅延または防止するために用いる」は前者の「狭窄血管病の血管形成手術後の再狭窄発生抑制に用いる」に相当し、また、後者の「放射性流体」は、前者の「液体放射線源」に相当する。

したがって、両者は、
「狭窄血管病の血管形成手術後の再狭窄発生抑制に用いる液体放射線源。」
の点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

(相違点)
液体放射線源が、本願発明ではβ線及びγ線を放出する166Ho標識付ジエチレントリアミンペンタ酢酸(166Ho-DTPA)であるのに対し、引用発明では放射性核種とキレート化剤との複合体を含有するものであって、放射線核種はNa-24、Si-31、K-42、Sc-44,Co-55、Cu-61、Ga-66,Ga-68、Ga-72、Se-73、Sr-75、Br-76、Kr-77、Ge-77、Sr-90、Y-90、Tc-99、Tc-99m、Pd-103、In-110、Sb-122、I-125、Ho-166、Re-186、Re-188、Ir-192、またはBi-212であり、キレート化剤はジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ジメルカプトコハク酸(DMSA)、グルコヘプトン酸(GH)、メルカプトアセチルグリシルグリシン(MAG3)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)-2,3-ジアミノプロパン酸(CO2-DADS)および関連誘導体、N,N’-ビス(メルカプトアセタミド)エチレンジアミン(DADS)および関連誘導体、モノ-およびポリ-ホスホン酸、N,N’-ビス(2-メルカプトエチル)エチレンジアミン(BAT)および関連誘導体、エチレンヒドコキシジホスホネート(ENDP)、メチレンジホスホネート(MDP)、ヒドコキシメチレンジホスホネート(HMDP)、ピロリン酸(PYP)、チオセミカルバゾン、システイン酸エチル二量体(L,L ECDおよびD,D ECD)、ヒドロキシエチルジホスホネート(HEDP)、エチレンジアミン四メチルリン酸(EDTMP)、および放射性核種または放射性同位元素に配意できる何れか他のキレート化剤から選択されるものである点。

第5 判断
引用例には166Hoはβ粒子を放出することのみが記載されている(Table3参照。)が、本願発明の明細書の段落【0014】にも記載されているように、166Hoは弱いγ線を放出することは明らかであるから、引用発明において、放射線核種に166Hoを選択し、かつ、キレート化剤にジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)を選択したものは、本願発明と同一のβ線及びγ線を放出する166Ho標識付ジエチレントリアミンペンタ酢酸(166Ho-DTPA)となる。そこで、引用発明において放射線核種から166Hoを選択し、かつ、キレート化剤からジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)を選択することについて検討する。
引用例には、「キレート化剤を選択するための基準には、バルーンの破裂が起きたときに、キレート化剤が患者の身体から除去される容易さが含まれる。」(第3 4.)及び「特定の同位体の実用性は、その半減期、利用可能性、コスト、ならびにキレート剤と複合したときの排泄特性の関係に依存する。」(第3 5.)と記載されている。すなわち、引用発明において放射線核種及びキレート化剤を、実用性を考慮して、そこに開示されているものの中から選択し、組み合わせることは、当業者が適宜試験などにより効果を確認しつつ成し得る程度のことである。したがって、仮に当該組み合わせによってある効果を奏するとしても、それによって当業者が容易に成し得なかったものということはできない。また、放射線核種に166Hoを選択し、かつ、キレート化剤にジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)を選択することを阻害する特段の事情もない。
よって、放射線核種として166Hoを選択し、キレート化剤としてジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)を選択して、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項とすることは、引用発明及び引用例に記載の事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-10-17 
結審通知日 2006-10-24 
審決日 2006-11-07 
出願番号 特願2000-129737(P2000-129737)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松永 謙一北村 英隆  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 森川 元嗣
稲村 正義
発明の名称 166Ho-DTPA、その製造方法及び液体放射線源としてのその使用  
代理人 葛和 清司  

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