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審決分類 審判 一部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A61J
審判 一部無効 2項進歩性  A61J
審判 一部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  A61J
審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61J
管理番号 1155894
審判番号 無効2005-80196  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2005-06-29 
確定日 2007-03-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第2607422号「内服用吸着剤の分包包装体及びその製造方法」の特許無効審判事件についてされた平成18年 4月11日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の決定(平成18年(行ケ)第10240号平成18年8月9日決定)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第2607422号の請求項1ないし2に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第2607422号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成5年9月8日(優先権主張平成4年9月8日)の出願であって、平成9年2月13日に特許権の設定登録がされたものである。
(2)この特許に対して、平成17年6月29日に請求人より特許無効の審判の請求がなされ、これに対し、平成17年9月16日付けで被請求人より答弁書が提出され、平成17年11月29日に第1回口頭審理が行われ、同日付けで請求人、被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され、さらに、平成17年12月13日付けで被請求人より上申書が提出され、平成18年4月11日付けで「特許第2607422号の請求項1、2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決がなされた。
(3)そこで、平成18年5月19日に被請求人より知的財産高等裁判所に審決の取消しを求める訴訟が提起され(平成18年(行ケ)第10240号)、平成18年7月7日付けで本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判の請求(訂正2006-39114号)がなされたところ、当該裁判所は、平成18年8月9日付けで、特許法第181条第2項を適用して審決を取り消す決定をし、同決定は確定した。
(4)その後、特許法第134条の3第5項の規定により、訂正審判の請求書(訂正2006-39114号)に添付された明細書を同条第3項の規定により援用して特許法第134条の2第1項の訂正の請求がされたものとみなされ(以下、「本件訂正」という。)、これに対して、請求人より平成18年10月26日付けで弁駁書が提出された。
(なお、平成18年10月26日付けの弁駁書に対して、被請求人からは答弁書は提出されていない。)

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。
ア.訂正事項1
本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の
「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体。」を、
「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体。」(下線部分が本件訂正により訂正された箇所。)と訂正する。
イ.訂正事項2
発明の詳細な説明の段落【0001】の
「【産業上の利用分野】…(略)…詳しくは、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgであることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体に関する。」を、
「【産業上の利用分野】…(略)…詳しくは、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、 分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgであることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体に関する。」(下線部分が本件訂正により訂正された箇所。)と訂正する。
ウ.訂正事項3
発明の詳細な説明の段落【0005】の
「【課題を解決するための手段】…(略)…この出願発明は、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0-0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgである、分包包装袋に充填した内服用吸着剤に内包される空気量の変化による変形を抑制するようにした、内服用吸着剤の分包包装体を提供する。」を、
「【課題を解決するための手段】…(略)…この出願発明は、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、 分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0-0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgである、分包包装袋に充填した内服用吸着剤に内包される空気量の変化による変形を抑制するようにした、内服用吸着剤の分包包装体を提供する。」(下線部分が本件訂正により訂正された箇所。)と訂正する。
エ.訂正事項4
発明の詳細な説明の段落【0007】の
「このような内服用吸着剤の例は、医薬として使用できる炭、活性炭、球形炭素吸着剤、アルミニウム・鉄・チタン・珪素等の酸化物や水酸化物、ヒドロキシアパタイト等である。好ましい内服用吸着剤は特公昭62-11611号(米国特許第4681764号)に記載する球形炭素質吸着剤である。…(略)…」を
「このような内服用吸着剤は、球形炭素吸着剤である。…(略)…」(下線部分が本件訂正により訂正された箇所。)と訂正する。

(2)本件訂正の適否の判断
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、及び請求項1を引用する請求項2、3に係る発明の構成である「内服用吸着剤」を、「球形炭素質吸着剤であり、直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、上記球形炭素質吸着剤及び多孔性の球形炭素質物質は、本件特許明細書の段落【0007】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
更に、訂正後の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、「次の(A)又は(B)のいずれかの方法により、内服用吸着剤を分包包装袋に充填することを特徴とする請求項1または2に記載の分包包装体の製造方法。(A)室温より高い温度ないし300℃の内服吸着剤を分包包装袋に充填シールする。(B)内服用吸着剤を分包包装袋に充填した後、大気圧以下の圧力下でシールする。」である。
ところで、該分包包装体の製造方法は、請求人が提出した甲各号証のいずれにも記載されておらず、また周知技術ともいえない。
したがって、訂正後の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、しかも、他に特許出願の際独立して特許を受けることができない理由も見当たらない。
よって、訂正後の特許請求の範囲の請求項3に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
イ.訂正事項2ないし4について
訂正事項2ないし4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、及び請求項1を引用する請求項2、3に係る発明の構成と整合させるべく訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。そして、上記「ア.訂正事項1について」で述べた理由と同じ理由で、訂正事項2ないし4は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

以上のとおりであるから、訂正事項1ないし4は、特許法第134条の2第1項、同法同条第5項で準用する同法第126条第3項、第4項、及び同法同条第5項で読み替えて準用する同法第126条第5項の規定に適合するから、本件訂正を認める。

3.本件発明
本件訂正は上述のとおり認められたので、本件特許第2607422号の請求項1、2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、本件訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものであると認める。
(1)本件発明1
「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgであることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体。」
(2)本件発明2
「分包包装袋が、シール可能なプラスチックフィルムを内層に持つ単層又は多層フィルムで透湿度0?20g/m2・24hである材料からなることを特徴とする請求項1に記載の分包包装体。」

4.当事者の主張
(1)請求人の主張の概要
請求人は、本件発明1、2についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件発明1は、公然実施に係る内服用吸着剤(甲第1、2号証)を周知慣用技術(薬剤を分包包装体に包装すること:甲第3?6号証)に基づいて分包体包装体に包装するに際し、甲第7号証に開示された包装体の内部を減圧する技術事項を適用することにより当業者が容易に想到できたものであり、本件発明2は、公然実施に係る内服用吸着剤(甲第1、2号証)を周知慣用技術(薬剤を分包包装体に包装すること:甲第3?6号証)に基づいて分包体包装体に包装するに際し、甲第7号証に開示された包装体の内部を減圧する技術事項を適用し、さらに、甲第8号証に記載された周知慣用の包装材料を、内服用吸着剤の分包包装体材料として適用することにより、当業者が容易に想到できたものであるから、本件発明1、2についての特許は、特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである旨主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第10号証を提出している(無効理由1、4)。
【証拠方法】甲第1号証:平成17年第131号事実実験公正証書
甲第2号証:「クレメジンカプセル200」添付文書
甲第3号証:特開昭58-125465号公報
甲第4号証:特開昭59-200650号公報
甲第5号証:特開平4-2348号公報
甲第6号証:特開平4-28367号公報
甲第7号証:特開平4-200549号公報
甲第8号証:「医薬品の開発」第12巻「製剤素材II」
平成2年10月28日(株)廣川書店発行
甲第9号証:「化学大辞典」昭和52年9月20日縮刷版
第21刷共立出版株式会社発行
甲第10号証:東京地方裁判所平成17年(ワ)第785
号の訴状

さらに、請求人は、他の証拠として、口頭審理陳述要領書において、甲第11号証?甲第26号証を提出し、平成18年10月26日付け弁駁書において、甲第27号証?甲第29号証を提出している。
なお、請求人は、無効理由2、3、5、6(明細書記載不備、実施不能)についての主張は撤回している。

(2)被請求人の主張の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判請求の費用は請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として次のとおり主張している。
内服用吸着剤が室温範囲内の昇温で多量の空気を放出することは、本件特許出願時までは全く知られていなかったから、空気放出によって生じる課題も存在していなかった。仮に、当業者において木炭が室温範囲の昇温で空気を放出することを技術常識として知っていたとしても、木炭を分包包装袋に入れて室温範囲内で昇温しても、分包包装体の外観は全く変化しないし、84包収納用の紙箱内の収納状態にも何らの変化も見られないから、本件発明1、2の課題を認識することはできない。
甲第1号証は、本件特許明細書の記載が正しかったことを追試・確認しているだけであり、「クレメジンカプセル200」の内服用吸着剤が「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する」性質を有することは、本件特許出願時には発見されておらず、該性質を備えた経口吸着薬が公然実施された発明であるとはいえない。甲第2号証は本件特許出願後に頒布された刊行物である(乙第2号証として1991年12月作成のクレメジンカプセル200専用の添付文書を提出)。甲第7号証記載の発明は、2種類以上の粉体を混合した無菌混合粉末が包装された包装物内を600mmHg以下とすることによって、保存・輸送時などの振動により内容物が動かないように固定するものであるから、本件発明1、2と課題が相違する。甲第8号証には、本件発明1の構成要件は全く記載されていない。
したがって、請求人の主張に何一つ根拠がないことは明らかである。

なお、被請求人は、答弁書、及び口頭審理陳述要領書において、乙第1号証?乙第22号証を提出し、本件訂正請求において甲第1号証?甲第52号証(以下、乙第23号証?乙第74号証と読み替える)を提出している。

5.甲第1?8号証の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証は、請求人(メルク・ホエイ株式会社)の請求により平成17年6月15日に作成された「内服用吸着剤に関する事実実験公正証書」であって、次の事項が記載されている。
ア.「使用した材料は、嘱託人会社が同工場に用意した、嘱託人会社が市場において入手した、ロット番号4Y01に格納されているところの製剤(以下「対象製剤」という)で、同製剤は未開封の箱の状態で用意されていた(写真1、2)。本職は、上記対象製剤の未開封の箱を開封し、1カプセル当たり200mgの対象製剤を内容するカプセル15個…(中略)…を適宜選択すると共に、これをさらに適宜3つのグループ…(中略)…に分別した。寺田課員が、各グループに分けられた15カプセルの被覆カプセルを全て取り外し、内容されている製剤を取り出す作業を行ったうえで、同課員において、同工場内の秤量室内で、上記15カプセルのうち5カプセル分を1包として薬包紙3枚にそれぞれ取り分け、メトラー製電子天秤…(中略)…により秤量し(写真3、4)、薬包紙で一旦包んだ。」(第3丁表15行?第4丁表5行)
イ.「本職が適宜選択し、適宜3グループに分別した3グループの各対象製剤(1グループ当たり5カプセル分)の…(中略)…測定重量は、それぞれ、1.0077g、1.0093g、1.0096gであった。これを、…(中略)…「A-1」ないし「A-3」の検体セットに…(中略)…移し変えた。これらの「A-1」ないし「A-3」の3検体セット、及び「対照用」セットを、槽内温度が10℃に設定された…(中略)…恒温水槽内に…(中略)…浸漬した(写真7)。」(第5丁裏11行?第6丁表9行)
ウ.「次いで、…(中略)…恒温水槽内の温度を30℃とするべく調整した。…(中略)…この状態で、恒温水槽ヒーター温度を30℃に設定固定し、更に、15分間放置した。…(中略)…検体用セット「A-1」ないし「A-3」の、目盛り付き試験管により読み取られた空気放出量は、それぞれ、6.0ml、7.4ml、7.2mlであることが確認された。他方、対照用セットの、目盛り付き試験管により読み取られた空気放出量は、3.6mlであることが確認された。これにより、奈佐課長から、対照用セットの空気の放出は純粋な空気膨張によるものと推定されるので、検体用セット「A-1」ないし「A-3」の各空気放出量計測値と対照用セットの空気放出量計測値との差である、それぞれ、2.4ml、3.8ml、3.6mlが、各検体用セットに収納された対象製剤に由来する10℃から30℃に昇温した場合の空気放出量であると推定されるとの判断が表明された。」(第6丁裏7行?第7丁裏7行)
エ.写真1、2は、「クレメジンカプセル200」の箱体の写真である。
(2)甲第2号証
甲第2号証は、本件特許出願後に頒布された刊行物であるが、クレメジンカプセル200は、薬価収載が1991年11月、販売開始が1991年12月と記載されていて、また、「2.製剤の性状」の色・剤型が「キャップ及びボデイ:白色硬カプセル」と記載されている。
更に、乙第2号証(1991年12月作成のクレメジンカプセル200専用の添付文書)には、クレメジンカプセル200として、「クレメジンは呉羽化学工業(株)が開発した球形微粒炭素より成る経口吸着薬である。本剤は、内服により慢性腎不全における尿毒症毒素を消化管内で吸着し、便とともに排泄されることにより、尿毒症症状の改善や透析導入を遅らせる効果をもたらす。」が記載されている。

上記甲第2号証、乙第2号証によると、クレメジンカプセル200は、本件特許出願の優先日より前の1991年12月に公然と販売されていたと認められ、そして、クレメジンカプセル200のキャップ及びボデイからなる白色硬カプセルには、球形微粒炭素より成る経口吸着薬が封入されていると認められる。また、甲第1号証によると、クレメジンカプセル200のキャップ及びボデイからなる白色硬カプセル内の製剤は、10℃から30℃までの昇温で、1.0077g、1.0093g、1.0096g当たり、各々2.4ml、3.8ml、3.6mlの空気量を放出すると認められる。
そうすると、本件特許出願の優先日前に次の発明(以下、「引用発明」という。)が公然実施されていたと認められる。
「10℃から30℃までの昇温で、1.0077g、1.0093g、1.0096g当たり、各々2.4ml、3.8ml、3.6mlの空気量を放出する球形微粒炭素より成る経口吸着薬をキャップ及びボデイからなる白色硬カプセルに封入したカプセル。」

なお、被請求人は、「クレメジンカプセル200」の内服用吸着剤が「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する」性質を有することは、本件特許出願時には発見されていないから、上記引用発明は公然実施された発明であるとはいえない旨主張している。
しかしながら、活性炭が昇温により空気を放出し、冷却すると再び空気を吸着することは、18世紀頃からよく知られたことであり(甲第19号証「活性炭読本」参照)、活性炭の一種である引用発明の球形微粒炭素より成る経口吸着薬が昇温により空気を放出することは、当業者であれば通常予測し得る範囲内の事項であり、また、これを実験等により確認することは何ら困難なことではないから、上記性質は実験により容易に確認し得る事実であって、「クレメジンカプセル200」は、その内容が公然と知られる状況で実施されたといえる。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

(3)甲第3号証
ア.「複数種の薬剤分包パツク帯(A),(B)が、その長手方向および高さ方向において同位相となる状態で、その上縁部又はその近傍において連続的に、或は、断続的に接合されて、一組の薬剤分包パツク帯に構成されていることを特徴とする組合せ薬剤分包パツク帯。」(特許請求の範囲第1項)
イ.第1図、第2図には、分包包装袋に薬剤を包装した分包包装体が図示されている。
(4)甲第4号証
ア.「本発明によれば製造において特殊な加工技術設備を必要とせず、固形状態で相互の接触により化学反応を起こすすべての添加物、薬物に適用することが可能となり、従来、配合変化により製造が困難であった食品、医薬品等も本法を用いれば簡単に安定な食品、医薬品等の製造を行うことができるようになった。本法の包装形態としては分包包装が用いられ、包装材料は特に限定されない。」(2頁左上欄3行?11行)
イ.第1図?第4図には、分包包装袋に薬剤を包装した分包包装体が図示されている。
(5)甲第5号証
「揮発性成分を含有する生薬を配合した組成物において、アクリル系熱可塑性樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンのうちから選ばれる1種または2種以上からなるプラスチックを内容物と接する部分に使用した容器で包装することを特徴とする揮発性成分を含有する生薬配合組成物の安定化方法。」(特許請求の範囲)
(6)甲第6号証
ア.「従来、塩酸プロムヘキシンと、デンプン、結晶セルロース等の賦形剤と、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン等との結合剤からなる塩酸プロムヘキシン組成物は、使用上の簡便性から散剤、細粒剤または顆粒剤等の固形製剤とされ、これを予め秤量しプラスチック包材またはプラスチック積層アルミニウムに分包して保存されている。」(1頁右欄6行?13行)
イ.第2図には、分包包装袋に薬剤を包装した分包包装体が図示されている。
(7)甲第7号証
ア.「(1)無菌混合粉末が真空度600mmHg以下において封入されていることを特徴とする無菌減圧包装物。
(2)無菌混合粉末が無菌医薬品を含有する請求項1記載の無菌減圧包装物。」(特許請求の範囲の請求項1、2)
イ.「本発明においては使用される包材は減圧包装に耐えるものである。例えば〔ナイロン/ポリエチレン/アルミフィルム/ポリエチレン〕或いは〔ナイロン/ポリエチレン/アルミフィルム/ナイロン/ポリエチレン〕、〔ポリエステル/ポリエチレン/アルミフィルム/ポリエチレン〕等の構成をもつアルミラミネート袋がある。」(2頁左上欄12行?18行)
ウ.「〔発明の効果〕本発明の方法により、振動等により起る混合物の偏析を防止した無菌減圧包装物が得られる。」(2頁右上欄14行?16行)
(8)甲第8号証
表4.8(489頁)には、各種包装材料の特性として、「Kセルシ+PE」は透湿度が7.9g/m2・24hもしくは6.2g/m2・24hであることが記載されている。また、表4.17(499頁)には、包装用プラスチックフィルム性能として、「高密度ポリエチレン」は水蒸気透過率が5?10g/24h/m2であり、「ポリ塩化ビニリデン」は水蒸気透過率が1.5?5g/24h/m2であることが記載されている。

6.対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と引用発明とを比較すると、引用発明の「10℃から30℃までの昇温で、1.0077g、1.0093g、1.0096g当たり、各々2.4ml、3.8ml、3.6mlの空気量を放出する球形微粒炭素より成る経口吸着薬」は、その効能、特性からして、本件発明1の「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤内服用吸着剤」に相当する。そして、引用発明の「カプセル」と本願発明の「分包包装体」は、「内服用吸着剤を容器に封入した包装体」である点で共通する。
してみれば、両者は、
「10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤を容器に封入した包装体。」で一致し、次の点で相違す
る。
<相違点1>
内服用吸着剤に関し、本件発明1は、球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であるのに対して、引用発明は、そのような物質であるか否か明らかでない点。
<相違点2>
内服用吸着剤を容器に封入した包装体に関し、本件発明1は、内服用吸着剤を分包包装袋に包装した分包包装体であるのに対して、引用発明は経口吸着薬(内服用吸着剤)をキャップ及びボデイからなる硬カプセルに封入したカプセルである点。
<相違点3>
本件発明1は、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgであるのに対して、引用発明は、そのように成っていない点。

上記相違点1ないし3について以下検討する。
ア.相違点1について
内服吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であるものは、本件特許明細書に記載されている特公昭62-11611号公報にもみられるように従来周知の技術である。
したがって、内服吸着剤に関し、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
イ.相違点2について
薬剤を分包包装袋に包装した分包包装体は周知の技術であるから(甲第3号証?甲第6号証参照)、内服用吸着剤を容器に封入した包装体として内服用吸着剤を分包包装袋に包装した分包包装体を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。
ウ.相違点3について
甲第7号証には、無菌混合粉末が真空度600mmHg以下において封入される無菌減圧包装物が、また、無菌混合粉末は無菌医薬品を含んでいることが(上記5.(7)ア.の項参照)、更に、包装物の包材としてナイロン等からなるアルミラミネート袋が使用されることが記載されている(上記5.(7)イ.の項参照)。そうすると、甲第7号証には、薬剤が真空度600mmHg以下において封入されている減圧包装物の発明が記載されていると云える。
また、分包等の気密容器による包装物は、その機能からみて、内外の圧力に応じて体積膨張、体積収縮することは明らかであり、体積膨張、体積収縮する包装物の内部を減圧して包装すれば、包装後に内部の空気量が増えることがあったとしても外部との圧力差で体積膨張が押さえられることは技術常識である。
そうすると、甲第7号証に記載された発明に接した当業者は、昇温により空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体において、該内服用吸着剤をある程度以下の真空度で封入すれば内服用吸着剤を包装した分包包装体は周囲の温度が上昇したとしても、体積膨張を押さえることができることは容易に理解できることである。そして、分包包装体の内部圧力を40?740mmHgの範囲とし、その内部圧力の測定温度を常温である25℃とすることに特段の技術的意義は認められない。また、体積膨張率は、空気放出量と内部圧力によって自ずから決まるものである。
してみれば、本件発明1の相違点3に係る構成とすることは、引用発明、甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得たことである。

そして、上記相違点1ないし3によって本件発明1が奏する作用、効果も、引用発明、甲第7号証に記載された発明及び周知の技術から予測される範囲のものであって、格別なものとは認められない。

なお、被請求人は、内服用吸着剤(「クレメジンカプセル200」の内服用吸着剤)が室温範囲内の昇温で多量の空気を放出することは、本件特許出願時までは全く知られておらず、空気放出によって生じる課題も存在していなかったし、また、仮に、当業者において木炭が室温範囲の昇温で空気を放出することを技術常識として知っていたとしても、木炭を分包包装袋に入れて室温範囲内で昇温しても、分包包装体の外観は全く変化しないし、84包収納用の紙箱内の収納状態にも何らの変化も見られないから、本件発明1、2の課題を認識することはできないし、更に、甲第7号証記載の発明は、本件発明1と課題が相違するから、請求人の主張に何一つ根拠がない旨主張している。
しかしながら、活性炭及び炭が昇温により空気を放出することは当業者において技術常識であるから(甲第19号証(活性炭読本:3.1.2吸着現象発見の由来)57頁20行?26行、甲第20号証(吸着と収着:2.3木炭の瓦斯収着)23頁下の表参照)、活性炭の一種である、クレメジンカプセル200内の球形微粒炭素より成っている経口吸着薬(内服用吸着剤)が、昇温によって空気を放出することは当業者にとって自明な事項であると云える。そして、たとえ、木炭を分包包装袋に入れて室温範囲内で昇温した場合において、分包包装体の外観が全く変化しなくても、昇温すると多量の空気を放出する該経口吸着薬(内服用吸着剤)を分包包装袋で包装すれば、分包包装袋は周囲の温度上昇により、体積膨張が行われ、箱詰め等に不都合が生じ、そして、分包包装袋内部を減圧して包装すれば、体積膨張を減少して該不都合を解決できることは当業者ならば容易に理解できることである。
したがって、上記被請求人の主張は採用できない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用する発明であるから、本件発明2と引用発明とを比較すると、上記一致点で一致し、上記相違点1ないし3に加えて、次の点で相違する。
<相違点4>
本件発明2は、分包包装袋が、シール可能なプラスチックフィルムを内層に持つ単層又は多層フィルムで透湿度0?20g/m2・24hである材料からなっているのに対して、引用発明は、そのような構成ではない点。

上記相違点1ないし3については、上記6.(1)で検討したとおりである。
上記相違点4について以下検討する。
甲第8号証に包装材料として記載されている「Kセルシ+PE」、「高密度ポリエチレン」、「ポリ塩化ビニリデン」は、シール可能なプラスチックフィルムであって、該包装材料の透湿率は、本件発明2の透湿度0?20g/m2・24hの範囲内のものである。
そして、このような甲第8号証に記載されている包装材料を内服用吸着剤の包装材料として採用することを阻害する事由は特に見当たらないから、分包包装袋を、シール可能なプラスチックフィルムを内層に持つ単層又は多層フィルムで透湿度0?20g/m2・24hである材料から構成することは甲第8号証に記載された発明から容易に想到し得たことである。

また、上記相違点1?4によって本件発明2が奏する作用、効果も、引用発明、甲第7、8号証に記載された発明及び周知の技術から予測される範囲のものであって、格別なものとは認められない。

7.むすび
以上のとおり、本件発明1は、引用発明、甲第7号証に記載された発明及び周知の技術に基いて、また、本件発明2は、引用発明、甲第7、8号証に記載された発明及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、2についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
内服用吸着剤の分包包装体及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgであることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体。
【請求項2】分包包装袋が、シール可能なプラスチックフィルムを内層に持つ単層又は多層フィルムで透湿度0?20g/m2・24hである材料からなることを特徴とする請求項1に記載の分包包装体。
【請求項3】次の(A)又は(B)のいずれかの方法により、内服用吸着剤を分包包装袋に充填することを特徴とする請求項1または2に記載の分包包装体の製造方法。
(A)室温より5℃高い温度ないし300℃の内服用吸着剤を分包包装袋に充填後シールする。
(B)内服用吸着剤を分包包装袋に充填した後、大気圧以下の圧力下でシールする。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
この出願発明は、医薬品として用いられる、内服用吸着剤の分包包装体に関する。詳しくは、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であることを特徴とする内服用吸着剤の分包包装体に関する。
【0002】
【従来の技術】
日本薬局方によれば、医薬品の容器は4種類ある。密閉容器、気密容器、密封容器、及び遮光した容器である。
密閉容器とは、日常の取扱いをし、又は通常の保存状態において、固形の異物が混入することを防ぎ、内容医薬品が損失しないように保護することができる容器をいう。例えば、紙箱、紙袋等である。
気密容器とは、日常の取扱いをし、又は通常の保存状態において、液状または固形の異物または水分が侵入せず、内容医薬品が損失し、風解し、潮解しまたは蒸発しないように保護することができる容器をいう。例えば、チューブ、缶、分包、プラスチックボトル等である。
密封容器とは、日常の取扱いをし、又は通常の保存状態において、気体または微生物の侵入するおそれのない容器をいう。例えば、ガラスアンプル、バイアル等である。
遮光した容器とは、光の透過を防ぐ容器又は光の透過を防ぐ包装を施した容器をいう。例えば、注射剤用ガラス容器の着色容器等である。
錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の経口製剤は密閉容器または気密容器に保管する。代表的な内服用吸着剤である薬用炭は、密閉容器に保管することが定められている。
【0003】
従来の薬用炭は、胆汁酸等の存在下で吸着能が低く、消化酵素等の体内の有益成分に対しても吸着能を示し、服用により便秘を起こしやすいという欠点を持つ。このような従来の薬用炭の持つ種々の欠点を克服した新しい型の内服用吸着剤が開発されている(特公昭62ー11611号(米国特許第4681764号))。これは球形炭素質吸着剤であり、肝腎疾患者に対して経口肝腎疾患治療薬として有用である。慢性腎不全に対する経口吸着剤ASTー120としても知られている(臨床透析、Vol.2、No.3、1986、pp.119?124)。
球形炭素質吸着剤の吸着能は、通常の賦活処理に、酸化熱処理と還元熱処理を、加えることにより獲得される。実際には、活性炭を酸化雰囲気で熱処理した後、窒素雰囲気で高温熱処理を行う。こうして内表面の官能基の構成を酸性基・塩基性基の両イオン性基を有する特定の範囲に調整する。このような球形炭素質吸着剤がもつ吸着能は、長期間空気中に放置すると次第に低下する。このため、保存には気密容器が望ましい。
球形炭素質吸着剤のような粒状物を保存するための気密容器の例は、三方シール包装、四方シール包装、有底袋包装、スティック包装等のような、分包包装である。分包包装は服用に適した単位包装であり、1回に1包ないし数包を服用する医薬包装形態である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
通常の医薬品の分包包装体は、温度により膨張あるいは収縮するような現象は認められないので特に問題はなかった。
しかし、気密容器である分包包装袋に球形炭素質吸着剤を充填した後、シールして得られる分包包装体は、周囲の温度の変動により、体積膨張あるいは体積収縮が行われ大きく変形するということを、この出願発明者らは発見した。分包包装体の体積膨張率は10℃から30℃までにおいて、例えば、約0.073ml/℃・g(内服用吸着剤)もある。この体積膨張、体積収縮は速く、数秒から数分で、平衡に達する。このため、比較的空気が自由に流通する、上質紙、パラフィン紙、ハトロン紙等のような、紙材においても、その影響をまぬがれない。これは球形炭素質吸着剤に内包される空気量が多く、温度によってその量が大きく変化するためであるものと推定される。10℃から30℃までの昇温で球形炭素質吸着剤は、例えば、1g当たり約1.46mlの空気を放出する。
このような分包包装体の変形は、箱詰め、保存、運搬等において不都合である。通常、球形炭素質吸着剤のような散剤は1包毎に包装した上、何包かまとめて紙箱(外箱)に詰めて出荷される。予想外の分包包装体の体積膨張により、箱詰め時に、一箱あたり所定包数が収まらなくなったり、所定包数を収めるために外箱の設計変更を要したり、容積増大により、運賃が増加する等の問題を生ずる。
箱詰めがうまくいったとしても、分包包装体の体積膨張により外箱が変形することもある。あるいは逆に、分包包装体の体積収縮により、外箱内に大きな空間が生じ、外箱内で分包包装体がずれる。更に、外気温度が高温になった場合、分包包装体の体積膨張により、シール部の破損、破袋、ピンホールの形成等が起きる危険がある。こうして、保存、運搬等においても重大な支障を来す。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この出願発明者らは、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)である内服用吸着剤の分包包装体により、上記の問題点を解決することを見い出した。
この出願発明は、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤が包装されている分包包装体であって、前記内服用吸着剤が球形炭素質吸着剤であり、前記球形炭素質吸着剤が直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質であり、分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率が0-0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、分包包装袋の25℃における内部圧力が40?740mmHgである、分包包装袋に充填した内服用吸着剤に内包される空気量の変化による変形を抑制するようにした、内服用吸着剤の分包包装体を提供する。
【0006】
この出願発明を以下に詳細に述べる。
この出願発明で使用される内服用吸着剤は、保存中に、温度の変化によって空気を吸着したり放出したりする内服用吸着剤であれば、どのような内服用吸着剤でも良い。例えば、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.3?10mlの空気を放出する内服用吸着剤である。空気放出量は次のようにして測定する。内服用吸着剤を防湿包装袋に充填し、ヒートシールして包装体とする。この包装体をメスシリンダ内壁に固定する。流動パラフィンを加え、包装体全体が流動パラフィンに浸るようにする。このメスシリンダを10℃の恒温槽中に固定し、液面の目盛りを読みとり、30℃まで昇温して、液面の増加量を読みとる。流動パラフィン自体の10℃から30℃までの体積膨張量を差引き、内服用吸着剤重量で除して、1g当たりの空気放出量とする。
【0007】
このような内服用吸着剤は、球形炭素質吸着剤である。
この球形炭素質吸着剤は、直径0.05?1mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.2?1.0ml/g、酸性基と塩基性基の両方を有する多孔性の球形炭素質物質である。酸性基と塩基性基の好ましい範囲は、全酸性基(A)0.30?1.20meq/g、全塩基性基(B)0.20?0.70meq/g、A/B0.40?2.5である。全酸性基(A)と全塩基性基(B)は、以下の常法によって定量される。
(イ)全酸性基(A)
0.05規定のNaOH溶液50ml中に、200メッシュ以下に粉砕した球形吸着炭1gを添加し、48時間振とう後、球形吸着炭を濾別し、中和滴定により求められるNaOHの消費量。
(ロ)全塩基性基(B)
0.05規定のHC1溶液50ml中に、200メッシュ以下に粉砕した球形吸着炭1gを添加し、24時間振とう後、球形吸着炭を濾別し、中和滴定により求められるHC1の消費量。
【0008】
この球形炭素質吸着剤を肝腎疾患治療薬として用いる場合、その投与量は対象(動物あるいはヒト)、年齢、個人差、病状等に依存する。例えば、ヒトの場合、経口投与量は、通常、1日当たり1?10gであり、1回で服用されるか、又は2?4回に分けて服用されている。場合により、1日量は適宜増減されても良い。1包の分包包装袋には、1回服用量ないしその整数分の1量、例えば、0.1?10gの内服用吸着剤を充填する。さらにビタミン類や、服用補助剤、他の医薬品や滑沢剤等を加えて充填することも可能である。
服用法の例は、分包包装袋を開封して、内服用吸着剤を口の中に入れ、水等と共にのみこむことである。また、内服用吸着剤を水又はジュース等に懸濁して、飲むこともできる。
【0009】
このような内服用吸着剤を分包包装した時、10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)になるように分包包装できれば、その方法は問わないが、繁用可能な方法は次の(A)(B)の2法が例示できる。
(A)室温より5℃高い温度ないし300℃の内服用吸着剤を分包包装袋に充填後シールする。下限の温度は、好ましくは室温より10℃高い温度、より好ましくは室温より15℃高い温度である。上限の温度は、好ましくは200℃、より好ましくは130℃である。
(B)内服用吸着剤を分包包装袋に充填した後、大気圧以下の圧力下でシールする。
他に(A)(B)2法を同時に行うこともできる。例えば、室温より高い温度ないし300℃の内服用吸着剤を分包包装袋に充填して大気圧以下の圧力下でシールすることである。この場合は2つの方法を同時に行っているので、充填温度を室温より5℃以上高くする必要がない。
【0010】
(A)において、室温とは充填場所の気温を意味し、その範囲は日本薬局方の規定にある1?30℃である。充填する時の「室温より5℃高い温度ないし300℃の内服用吸着剤」とは、例えば、充填場所の気温が15℃の場合、充填時内服用吸着剤の温度が20?300℃、充填場所の気温が30℃の場合、充填時内服用吸着剤の温度が35?300℃とすることを示す。
充填時内服用吸着剤の温度が、室温より5℃高い温度未満の場合、分包包装体内の内服用吸着剤が動くことができる。そして、外部の温度変動による、内服用吸着剤に内包される空気量の変化により、分包包装体が大きく変形する。これに対して、充填時内服用吸着剤の温度が、室温より5℃高い温度ないし300℃の場合、シール後、室温に低下するまで、袋内の空気を内服用吸着剤が内包することにより、袋内の圧力が低下して、分包包装体は急速にしぼみ、内服用吸着剤が動かなくなる。そして、室温付近の温度変化で分包包装体はほとんど変形しない。充填時内服用吸着剤の温度が、300℃を超える場合、分包包装袋内層の軟化により、分包包装体の外観が悪くなる。
なお、上記の室温より5℃高い温度ないし300℃で充填した分包包装体は、数カ月までの短期保存に適するものであり、通年保存には30?300℃で充填した分包包装体が好ましい。より好ましくは35?200℃、さらに好ましくは40?130℃である。
【0011】
この出願発明の分包包装体変形の指標として、分包包装体の体積膨張率を用いる。体積膨張率は、10℃と30℃の間の体積膨張量から算出される値[ml/℃・g(内服用吸着剤)]である。その値は、0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)であり、好ましくは、0?0.045ml/℃・g(内服用吸着剤)である。分包包装体の体積膨張率の測定は、次のように行う。メスシリンダ内壁にこの出願発明の分包包装体をセロハンテープで固定する。流動パラフィンを加え、分包包装体全体が流動パラフィンに浸るようにする。10℃から30℃までの容積増加量をメスシリンダの目盛りから読みとる。この容積増加量から、流動パラフィン自体の体積膨張量を差引き、その値を(内服用吸着剤の重量)×20で除して分包包装体の体積膨張率[ml/℃・g(内服用吸着剤)]を算出する。
【0012】
(B)において、圧力とは減圧充填又は空気排出充填におけるシール時の圧力である。大気圧以下とは、大気圧における空気排出状態又は大気圧未満のことであり、大気圧とは充填する場所における大気の圧力である。大気圧未満の場合40?740mmHgが好ましい。より好ましくは120?680mmHg、さらにより好ましくは260?650mmHgである。
充填圧を大気圧以下にしてシールすることにより、分包包装体の体積膨張率は0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)となる。体積膨張率0?0.045ml/℃・g(内服用吸着剤)が好ましい。外部温度変化により分包包装体はほとんど変形しない。減圧充填の方法は従来の真空包装法を使用することが出来るが、大気圧以下となるような包装方法であれば特に限定されない。大気圧下においては、空気排出充填により包装することができる。これは、分包包装袋内部の空気を機械的に排出し、直ちにシールする方法である。空気の排出には、機械や水圧等を用いる。手でしごくか、挟み込んで排出しても良い。
【0013】
この出願発明の分包包装体の25℃における内部の圧力は40?740mmHg、好ましくは120?680mmHg、より好ましくは260?650mmHgである。
このような内部圧力を有する分包包装体は、10℃から30℃までの体積膨張率が0?0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)になる。
【0014】
この出願発明の分包包装体は、開封時、急激な大量の空気の流入や、包装体の内部の内服用吸着剤以外の部分にほとんど空気がなく、しぼんでいる為、切りさき部分に吸着剤があり、内服用吸着剤が飛び散ることがある。この問題は、引裂開封時に空気流入用の小孔が最初に生ずるようにシール部を形成することにより解決される。この構成は必要に応じて適用することができる。
【0015】
具体例を図1?6に示す。図1?6はスティック状の分包包装袋のシール部を示すが、三方シール、四方シール、有底袋等の場合も、スティック状の分包包装袋と同様にシール部を形成することができる。
図1でシール部を矢印の方向から引裂開封した時、まず空気流入用の小孔1が生じて空気が流入する。そして袋内が常圧に戻ったところで、内服用吸着剤取出口2が形成されるため、内服用吸着剤が飛び散らない。小孔1の孔径は任意に選択し得る。図2は図1で小孔形成用のシールのうち外側のシールを省略した場合を示す。図3は2個の空気流入用の小孔1を生ずるものであり、小孔1の数は2個以上設けることもできる。図1?3においては、孔径は0.1?2mmが好ましく、孔径0.2?1mmがより好ましい。図4はノッチ3とミシン目4をいれた例を示す。ノッチ3の方向から引裂開封したときにまず空気流入用の小孔1が生じて空気が流入する。常圧に戻ったところで、さらにミシン目4の最後まで開封すると内服用吸着剤取り出し口2が形成されるため、内服用吸着剤が飛び散らない。図5と6では空気流入用の小孔1がそのまま内服用吸着剤取出口2となる。球形炭素質吸着剤の集合体は流動性が高いため、そのような小孔からでも取出すことが可能である。
【0016】
この出願発明の分包包装体の分包包装袋材料は、医薬容器に使用可能な材料であれば、任意のものを用いることができる。例えば、紙類、プラスチック類、アルミニウム箔等の金属類、あるいは、これらの材料を重ねた複合材料等である。
医薬品のあるものは、空気や湿気によって、劣化したり活性が低下する。この出願発明で用いる内服用吸着剤は、大気中で、経時的に、吸着能が低下する恐れがあるが、気密包装することにより、吸着能が保持される。
吸着能の安定保存のため、防湿性とガスバリア性に優れた気密性包装材料からなる分包包装袋を用いるのが望ましい。又、空気や湿気を比較的容易に透過する紙類やセロハン紙を用いて一次包装を行い、次に、防湿性の包装材料を用いて、二次包装をすることもできる。これは二重包装である。しかし、内服用吸着剤に吸着されている空気による体積膨張、体積収縮が速いため、二重包装体の一次包装を空気や湿気が比較的自由に流通する、紙類等の材料を用いても、気温変化による一次包装体の変形をまぬがれない。従って、この場合でも、この出願発明の主旨である分包包装体の変形を抑制するような工夫が必要である。
気密性包装材料は、通常の取扱いにおいて、空気及び湿気を透過しない材料である。好ましくは、透湿度0?20g/m2・24hの材料である。より好ましくは、透湿度0?5g/m2・24hの材料である。透湿度は、JIS Z0208[防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法)]により、湿度40℃、相対湿度90%の条件で測定される。
【0017】
気密性包装材料からなる包装体において、開封した切り口と内壁に対する、帯電による内服用吸着剤付着により、内服用吸着剤を分包包装袋から取り出しにくいという問題を生ずることがある。しかし、アルミニウム層を含む包装材料からなる分包包装袋を用いた場合、このような帯電の問題は殆どない。
又、外層にグラシンやセロハン又は引裂方向性を有するプラスチツクフィルムを積層する場合、開封用のミシン目やノッチなしで、又ハサミなしで、指で容易に引裂開封し得るという利点がある。
【0018】
この出願発明の分包包装袋に用いる包装材料のフィルムの厚さは、好ましくは、10?500μm、より好ましくは、20?300μmである。
分包包装袋の形と大きさは、充填する内服用吸着剤量と任意の添加剤量に応じて任意に選ぶことができる。1回服用量ないしその整数分の1量、0.1?10gの内服用吸着剤を充填できるスティック状の分包包装袋、三方シール又は四方シールの分包包装袋、有底袋等が好ましい。
分包包装袋材料の引張強さは、0.1?30kgf/15mm幅であることが好ましい。0.2?15kgf/15mm幅であることが、より好ましい。分包包装袋材料の引張強さは、JIS Z 1707[食品包装用プラスチックフィルム]により測定される。
【0019】
気密性包装材料の例には、防湿性包装材料として市販されている種々のフィルムがある。
例えば、単層フィルムでは、紙類、アルミニウム、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフロロエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。積層フィルムでは、紙類の層、アルミニウム層、シリカ層、ポリエステル層、ポリ塩化ビニリデン層、ポリ塩化ビニリデン共重合体層、ポリクロロトリフロロエチレン層、エチレンビニルアルコール共重合体層、ポリビニルアルコール層、ポリアクリルニトリル層、セルロース層、ポリスチレン層、ポリカーボネート層、ポリエチレン層、ポリプロピレン層、ポリエステル層、ナイロン層、ポリ塩化ビニル層、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル層、ポリプロピレン層、ポリ-4-メチルペンテン-1層、ポリエーテルイミド層、又はポリアリレート層等を含むフィルムがある。
【0020】
一般に、積層フィルムは、加工性がよく、防湿性に有利なため、単層フィルムより好ましい。ポリ塩化ビニリデン層、ポリクロロトリフロロエチレン層、又はアルミニウム層を含むフィルムが好ましく、特にアルミニウム層を含むフィルムがより好ましい。
積層フィルムの構成例は次の通りである。(1)弾性率が高く、寸法安定性の良いプラスチックフィルム、セロハン、紙等からなる外層、(2)ガスバリア性と防湿性に優れるアルミニウム層等からなる中間層、及び(3)ヒートシール性や超音波シール性のあるシーラント層等からなる内層。中間層が弾性率が高く、寸法安定性の良いものである場合、外層はプラスチック塗膜層でもよい。更に、これらの各層の間に、プラスチックフィルム層やプラスチック塗膜層、セロハン層、紙層等を形成することもできる。目的に応じて、外層又は中間層を省略することもできる。シーラント層は内表面全面或いはシール部分のいずれかに形成され得る。又、多数の小孔を有するシーラント層を用いてもよい。シーラント層なしで、通常の接着剤を用いて分包包装袋を形成することもできる。
プラスチックフィルムやプラスチック塗膜層に用いるプラスチックの例は、ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン酢酸ビニル共重合体、延伸ポリプロピレン、ポリプロピレン、延伸ポリエチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、エチレンアクリルアルキレートコポリマー、ポリクロロトリフロロエチレン、テフロン、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル、セルロース、ポリスチレン、ポリカーボネート、ナイロン等である。ポリエステル、ポリ塩化ビニリデン、各種ポリエチレン、各種ポリプロピレンが好ましい。又、高温充填には、耐熱性ポリマーが好ましい。耐熱性ポリマーの例は、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリプロピレン、ポリー4ーメチルペンテンー1、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリレート等である。
【0021】
紙の例は、グラシン、乳白グラシン、コーモラント紙、セロハン、ハトロン紙、上質紙、模造紙、硫酸紙等であり、特にグラシンや乳白グラシン、コーモラント紙、セロハンが好ましい。
ガスバリア性と防湿性に優れる中間層の例は、アルミニウム箔やアルミニウム蒸着層等のアルミニウム層、ポリクロロトリフロロエチレン層、ポリ塩化ビニリデン層、ポリ塩化ビニリデン共重合体層、エチレンビニルアルコール共重合体層、シリカ蒸着層等である。特にアルミニウム層、ポリクロロトリフロロエチレン層、ポリ塩化ビニリデン層、又はエチレンビニルアルコール共重合体層が好ましく、アルミニウム層がより好ましい。
シーラント層の例は、各種のオレフィンポリマー、オレフィン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニリデン、エチレンアクリルアルキレートコポリマー、ポリブタジエン、コポリエステル系ポリマー等である。特にポリ塩化ビニリデン、各種ポリエチレン、エチレンアクリルアルキレートコポリマーが好ましい。又、高温充填には、耐熱性ポリマーが好ましい。耐熱性ポリマーの例は、ヒドロキシ安息香酸ポリエステル、ポリプロピレン、ポリー4ーメチルペンテンー1、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリレート等であり、特にヒドロキシ安息香酸ポリエステル又はポリエーテルイミドが好ましい。
以上に示した包装材料は、多重包装でない場合の包装材料、及び、多重包装の場合の最外包装袋用包装材料として好ましい。
【0022】
アルニミウム層を含む包装材料として、特に好ましい構成例は、以下の通りである。
外層:グラシン、乳白グラシン、コーモラント紙、セロハン、ポリエステル、ポリエチレン、上質紙、又は耐熱性ポリマー
中間層:アルミニウム層(箔又は蒸着)
内層:ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレンアクリルアルキレートコポリマー、又は耐熱性ポリマー
必要に応じて、各層の間に接着層としてエチレン-酢酸ビニル共重合体層又はポリエチレン層等を設ける。
又、それぞれの層自身の構成も1種の材料を用いた構成に限定されず、2種以上の材料を組合わせることもできる。
【0023】
アルミニウム層を含まない包装材料の好ましい例を、表1および表2に示す。
【表1】

【0024】
【表2】

[林 直一、三浦秀雄(1990)医薬品の開発 第12巻 製剤素材2、pp.475?536、広川書店、東京、より引用]
【0025】
記号の意味は、PVC:ポリ塩化ビニル、PVDC:ポリ塩化ビリデン、LDPE:低密度ポリエチレン、PE:ポリエチレン、OPP:延伸ポリプロピレン、HDPE:高密度ポリエチレン、PET:ポリエステル、CPP:共重合体型ポリプロピレン、OEVAL:延伸EVAL、OHDPE:延伸HDPE、EVA:エチレン-酢酸ビニル共重合体、J2:セロハンの一種(藤森工業の社内規格)、OPE:延伸PE、PT:プレーンタイプ、PVA:ポリビニルアルコール、EVAL:エチレン-ビニルアルコール共重合体、MO:1軸配向、PP:ポリプロピレン、ONylon:延伸ナイロン、OPVA:延伸ポリビニルアルコールである。
【0026】
以下の実施例は、この出願発明の内服用吸着剤の分包包装体を、更に説明する。
参考例1.内服用吸着剤製造
特公昭62ー11611の実施例1に従い、球形炭素質吸着剤(試料1;粒径0.05?1.0mm、細孔半径80オングストローム以下の空隙量0.70ml/g)を得た。試料1は、10℃から30℃までの昇温で1g当たり1.46mlの空気を放出する。JCLーSD系ラット経口投与による急性毒性試験では、投与可能な最大量(雌ラット18000mg/Kg、雄ラット16000mg/Kg)においても異常は観察されなかった。
【0027】
【実施例】
実施例1
表3の5種類の積層フィルムからなるスティック状の分包包装袋(シール部を除外した長さ8cm、幅2cm)を用いた。
【0028】
【表3】

(PE:ポリエチレン、AL:アルミニウム箔、PVDC:ポリ塩化ビニリデン、PET:ポリエステル、EAA:エチレンアクリルアルキレートコポリマー。ミシン目はPET層に付けた。ミシン目の位置は、スティック分包包装袋の上部シール下方約1cm以内である。()内は各層の厚さ(μm)を示す。)
【0029】
スティックパッカーSPー135Pー4MH型((株)小松製作所製)を用いて分包包装体を得た。各分包包装袋に2gの試料1を充填して、ヒートシールして、分包包装体を得た。室温は15℃であった。
充填時の試料1の温度はそれぞれ0?10℃、20?25℃、50?70℃である。シール後、室温に放置し分包包装体の外観の変化を観察した。又、指で引裂開封して切りやすさを調べた。
何れの包装材料についても、0?10℃で充填後分包包装袋がしぼむことなく内服用吸着剤が動いた。20?25℃で充填後3?4分で分包包装袋がしぼみ内服用吸着剤が動かなくなった。この場合、手でさわっていると体温により徐々に膨らみ内服用吸着剤が動くようになる。50?70℃で充填後、1分程度で急速に分包包装袋がしぼみ内服用吸着剤が全く動かなくなり、体温程度の温度でも変形することはない。
引裂開封は、何れの包装材料についても、容易であった。dとeについては、ミシン目がないものは引裂開封しにくかった。
室温付近での温度変動、10℃から30℃までにおいて、0?10℃で充填したものは体積変動があり、20?25℃と50?70℃で充填したものは体積変動がほとんどなかった。
【0030】
実施例2
包装材料aの構成のスティック状分包包装袋を用い、充填時の試料1の温度を130℃にし、ヒートシールして得た分包包装袋体は、充填後の室温放置で急速に分包包装袋がしぼんだ。
又、耐熱性ポリマー、ヒドロキシ安息香酸ポリエステルをシーラント層とする積層フィルム(PET/AL/ヒドロキシ安息香酸ポリエステル)を用い、充填時の試料1の温度を250℃にし、ヒートシールして分包包装体を得た。充填後の室温放置で急速に分包包装袋がしぼんだ。
更に、耐熱性ポリマー、ポリエーテルイミドをシーラント層とする積層フィルム(ポリエーテルイミド/AL/ポリエーテルイミド)を用い、充填時の試料1の温度を300℃にしてヒートシールした。充填後の室温放置で急速に分包包装袋がしぼんだ。
何れの場合も、外観は良好で、開封してみると内層軟化の状態は認められなかった。また室温付近での温度変動、例えば10℃から30℃までにおいて、いずれも、体積変動はほとんどなかった。
【0031】
実施例3
実施例1において包装材料a、eを用い、各温度(0?10、20?25、50?70℃)で充填した、分包包装体の体積膨張量を、各外部温度において、測定した。測定法は次の通りである。
メスシリンダ(100ml)内壁に、実施例1において同一条件で得られた分包包装体3包をセロハンテープで固定する。これに流動パラフィンを加え分包包装体全体が流動パラフィンに浸るようにする。10℃における容積(70ml)を基準として各温度における容積増加量をメスシリンダの目盛りから読みとる。一方で流動パラフィン(10℃で70ml)をメスシリンダに入れて各温度における流動パラフィンの体積膨張量を出す。この体積膨張量を先の容積増加量から差し引き、その値を3で除して、1包当たりの分包包装体体積膨張量(ml/包)を算出した。結果を表4に示した。充填温度20?25℃及び50?70℃の場合、室温(15℃)付近における体積膨張量は0ないし0に近いことがわかった。又、10℃から30℃までの分包包装体体積膨張量より算出した分包包装体の体積膨張率、即ち、30℃の体積膨張量を2(g)×20(℃)で除した値は、充填温度20?25及び50?70℃の場合、0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)以下であった。しかし、充填温度0?10℃の場合、0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)を越えた。
実施例1で、包装材料aを用い、0?10℃で、試料1を充填しないでシールして得た、カラの分包包装体の体積膨張量を、表4に示す。内服用吸着剤を充填した分包包装体の変形は、内服用吸着剤に内包される空気量の変化によることが明らかである。
また、室温(15℃)付近での温度変動、例えば10℃から30℃までにおいて、20?25℃と50?70℃で充填したものは体積変動がほとんどなかった。
【0032】
【表4】

【0033】
実施例4
包装材料aを用いて、実施例1と同様にして、包装袋を作製し、一方のシール部分をハサミで切り取り開封し、内服用吸着剤を60℃に加熱し、充填シールして、分包包装体を得た。その場合、シール部が図1?6の様になる様にそれぞれ対応する金型を用いてヒートシールした。室温に放置すると、分包包装袋がしぼんで内服用吸着剤が全く動かなくなった。これを引裂開封した場合、切り始めに小孔1が生じたところで空気が流入するため、内服用吸着剤の飛び散りは全くなかった。一方、実施例1の同一条件で充填した小孔のない分包包装体では、開封時に、内服用吸着剤が飛び散ることがあった。また、室温付近での温度変動、例えば、10℃から30℃までにおいて、体積変動がほとんどなかった。
【0034】
実施例5
実施例1に示した包装材料a、eを用いて室温で減圧充填を行った。包装材料を20cm四方に切りとり、二つ折りにした。折り目以外の三辺の内二辺を、ヒートシーラーを用いて、ヒートシールして袋とした。この袋に、球形炭素質吸着剤(試料1)10gを入れた。富士インパルス製のガス充填ヒートシーラーFGー400EーNGー10W型を使用して、700mmHg及び500mmHgの圧力下でヒートシールした。比較例は大気圧下で普通にヒートシールした。これらの分包包装体の体積膨張率を測定した。測定法は以下の通りである。
メスシリンダ(200ml)内壁にこの出願発明の分包包装体をセロハンテープで固定する。そして、流動パラフィン(150ml)を加え、分包包装体全体が流動パラフィンに浸るようにする。10℃から30℃までの容積増加量をメスシリンダの目盛りから読みとる。一方、流動パラフィン自体の体積膨張量を出す。この体積膨張量を先の容積増加量から差引き、その値を10(g)×20(℃)で除して分包包装体の体積膨張率[ml/℃・g(内服用吸着剤)]を算出する。結果を表5に示す。
700mmHgと500mmHgの圧力下でシールした分包包装体の体積膨張率は0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)以下であった。しかし、比較例の大気圧下でシールした分包包装体の体積膨張率は0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)を越えた。また、700mmHgと500mmHgの圧力下でシールした分包包装体は室温付近での温度変動、例えば、10℃から30℃までにおいて、体積変動がほとんどなかった。
【0035】
【表5】

【0036】
実施例6
室温、大気圧下に、空気排出充填を行い、分包包装体を得た。実施例1に示した包装材料aでできた分包包装袋(2×10cm)を用いた。袋に球形炭素質吸着剤(試料1)2gを入れた。手で挟み込む事により、分包包装袋内部の空気を排出して、直ちにヒートシール(実施例5記載のヒートシーラー使用)した。分包包装体の10℃から30℃までの体積膨張率測定結果を表6に示す。比較例は、空気排出無しで得た分包包装体である。
【0037】
【表6】

【0038】
実施例7
充填時の試料温度の異なるスティック状分包包装体の内部圧力を測定した。
実施例1に示した包装材料aを用いたスティック状分包包装袋に、試料1を各2g充填した。充填時の試料温度をそれぞれ、25℃(室温)、30℃、35℃、45℃、及び65℃にして、ヒートシールした。なお、対照品として空のスティック状分包包装体も作製した。
同じ充填温度の分包包装体3包を実施例3と同様にメスシリンダ(100ml)内壁に固定した。これに流動パラフィン(温度:25℃)を加え、70ml標線に合わせた。この全体を、テーハー式アナエロボックス(ANX-1型;株式会社ヒラサワ)のエントリーボックス内に入れ、流動パラフィン液面をメスシリンダで読みとった。この時の圧力を760mmHgとした。次いで、真空ポンプを稼働し、圧力10mmHg間隔で、各圧力(750?430mmHg)における流動パラフィンの液面目盛りを読みとった。この試験を同じ充填温度の分包包装体について3回実施し、流動パラフィン液面目盛りの平均値を算出した。圧力の低下に対して、流動パラフィン液面目盛り平均値をプロットして、流動パラフィン液面目盛りが増加し始める直前の圧力をスティック状分包包装体内部圧力とした。結果を表7に示す。なお、上記圧力下における流動パラフィンのみの体積増加は認められず、補正の必要はなかった。
【0039】
【表7】

【0040】
室温で充填した試料の圧力低下に対する膨張率を比較すると、試料を充填した包装体の値(0.056ml/mmHg)は、対照品の値(0.025ml/mmHg)よりも大きく、試料1がかなりの空気を保有していた。
また、室温付近での温度変動、例えば10℃から30℃までにおいて、試料温度が30℃、35℃、45℃及び65℃の場合の分包包装体の体積変化は0.064ml/℃・g(内服用吸着剤)以下であった。
【0041】
【発明の効果】
この出願発明の内服用吸着剤の分包包装体は内服用吸着剤に内包される空気量の変化による分包包装体の変形がほとんどない。こうして、内服用吸着剤の箱詰め、保存、輸送における分包包装体の体積変化に基づく不都合が解消される。分包包装袋の材料が、気密性包装材料である場合は、内服用吸着剤の吸着能が保持される。
【図面の簡単な説明】
【図1】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【図2】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【図3】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【図4】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【図5】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【図6】
分包包装体の引き裂き開封時に、空気流入用の小孔が生ずるようにシール部を形成した一例を示す図である。
【符号の説明】
1 小孔
2 内服用吸着剤取出口
3 ノッチ
4 ミシン目
5 シール部分
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2006-03-24 
結審通知日 2006-03-29 
審決日 2006-04-11 
出願番号 特願平5-246036
審決分類 P 1 123・ 851- ZA (A61J)
P 1 123・ 853- ZA (A61J)
P 1 123・ 121- ZA (A61J)
P 1 123・ 856- ZA (A61J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 多喜 鉄雄石井 淑久  
特許庁審判長 阿部 寛
特許庁審判官 北川 清伸
川本 真裕
登録日 1997-02-13 
登録番号 特許第2607422号(P2607422)
発明の名称 内服用吸着剤の分包包装体及びその製造方法  
代理人 磯田 直也  
代理人 緒方 雅子  
代理人 平山 晃二  
代理人 弓削田 博  
代理人 弓削田 博  
代理人 平山 晃二  
代理人 岩坪 哲  
代理人 鈴木 修  
代理人 野矢 宏彰  
代理人 磯田 直也  
代理人 鈴木 修  
代理人 野矢 宏彰  

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