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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F16C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16C
管理番号 1156274
審判番号 不服2005-1561  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-01-27 
確定日 2007-04-19 
事件の表示 平成 7年特許願第259409号「スラストころ軸受用の合成樹脂製保持器」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 3月25日出願公開、特開平 9- 79269〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要
本願は、平成7年9月11日の出願であって、平成16年12月24日(起案日)付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成17年1月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、平成17年2月28日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成17年2月28日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成17年2月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の請求項1に係る発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
同心に設けられた外側環状部と内側環状部との間に、複数の柱部を所定間隔毎に架設し、各柱部の相互間に、ころを収容するポケットを形成しているとともに、各柱部の縁部に、ポケット側に張り出すころ止め部を形成しているスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器において、
当該合成樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチック及び、ポリアミド系の合成樹脂のいずれか一方に、強化繊維を充填したものであり、
各柱部に、当該柱部の軸方向厚みTが各環状部の軸方向厚みtよりも薄くなるように肉盗み部を形成し、この肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、前記軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある前記軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成しているとともに、当該ころ止め部の端部を各環状部に連結し、且つ当該ころ止め部の径方向の途中部に切欠部を形成していることを特徴とするスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器。」
と補正された。(なお、下線部は、請求人が付与した本件補正による補正箇所を示す。)

上記特許請求の範囲の請求項1に係る補正は、請求項1に係る発明の技術事項である合成樹脂製保持器の材質について「当該合成樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチック及び、ポリアミド系の合成樹脂のいずれか一方に、強化繊維を充填したものであり、」との限定を付加したものであって、特許法第17条の2第4項第2号に規定された特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2)引用刊行物の記載事項
<刊行物1>
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭60-75882号(実開昭61-190028号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、合成樹脂成形品から成るころ軸受の保持器に関して、下記の事項ア?エが図面とともに記載されている。
ア;「〔従来の技術およびその問題点〕
ラジアルころ軸受やスラストころ軸受のころ保持器、あるいはローラスライドのころ保持器を合成樹脂の成形品とする場合、通常、第6図乃至9図に示すように、保持器本体10に形成したポケット11の両側のころ案内面12に保持爪13を設け、この保持爪13によってころ14の抜け止めを図るようにしている。
ところで、上記保持爪13は、ポケット11の両側のころ案内面12の両側縁それぞれに形成する必要があるため、保持器を成形する場合、ポケット11および保持爪13の成形用抜き型を無理抜きする必要があり、脱型時の保持爪13の変形を避けることができない。
従来の合成樹脂製保持器においては、ポケット11のころ案内面12に形成された保持爪13がポケット11に組み込まれたころ14の長さ方向全体に係合可能な長さを有し、その両端部がポケット11両側面に連接する構成であるため(第8図中a部参照)、ポケット11および保持爪13の成形用抜き型の脱型時において、保持爪13の両端部に亀裂が発生し易く、保持爪13が損傷し易いという不都合がある。
また、保持器本体10の幅面15と保持爪13の表面とが同じ高さであるため、成型用抜き型の脱型によってその脱型方向に変形した保持爪13は、第9図に示すように、上記幅面15から立ち上がり保持器の組み込みを阻害したり、ころ転走面に保持器13が接触して保持器の動きを阻害するなどの不都合がある。
〔考案の課題〕
そこで、この考案は上記の不都合を解消し、成形抜き型の脱型時における保持爪の損傷を防止し、脱型によって変形した保持爪が転走面に接触するのを防止することを技術的課題としている。」(明細書第1頁16行?第3頁10行)

イ;「〔考案の構成〕
上記の課題を解決するために、この考案は合成樹脂成形品から成る保持器本体に複数のポケットを形成し、隣接するポケット間に形成された柱の表裏両面に、ポケット両側のころ案内面の軸方向中央部の厚みを軸方向両端部の厚みより薄肉部とする凹部を形成し、ころ案内面の薄肉部にころ抜け止め用の保持爪を設けた構成としたのである。
〔実施例〕
以下、この考案の実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図乃至第4図に示すように、いま例えばスラストころ軸受の合成樹脂製保持器を例にとって説明すると、環状の保持器本体1にはころ収納用の複数のポケット2が設けられており、そのポケット2間に形成された柱3の表裏両面に凹部4が設けられている。
上記凹部4は、第1図に示すように、柱3の幅寸法全体に亘って形成する場合と、第5図に示すように、柱3の両側部に設ける場合とがある。その凹部4の形状によってポケット2の両側におけるころ案内面5の中央部の厚みは、両端部の厚みより薄くなり、その薄肉部の上下縁にポケット2の内方に突出するころ抜け止め用の保持爪6が設けられ、この保持爪6の表面は、凹部4の底面と同一面になっている。
上記のように、ころ案内面5の薄肉部に保持爪6形成して保持爪6の両端とポケット2の両端面との間に間隙を設けることにより(第3図、第5図中b部参照)ポケット2および保持爪6の成形用抜き型の脱型方向に保持爪6がきわめて容易に変形し、脱型時における保持爪6の損傷防止に効果を挙げることができる。また、脱型時において変形した保持爪6は成形時の状態に復元し易く、仮に脱型方向に変形したままであっても、保持爪6は凹部4の対向肩部間に納まる寸法であるため保持器本体1の幅面7より突出せず、上記保持爪6がころ転走面に接触するのを防止することができる。」(明細書第3頁11行?第5頁9行)

ウ;「実施例の場合は、スラストころ軸受の保持器を例にとって説明したが、ラジアルころ軸受の保持器およびローラスライドの保持器を上述と同様の構成とすることができる。」(明細書第5頁10行?13行)

エ;「〔効果〕
以上のように、この考案によれば、ポケット両側のころ案内面の中央部に薄肉部を設け、その薄肉部にころ抜け止め用の保持爪を形成して保持爪の両端とポケットの両端面との間に間隙を設けたので、ポケットおよび保持爪成形用抜き型の脱型方向に保持爪が変形し易く、その脱型によって保持爪が損傷するのを防止することができる。
また、隣接するポケット間に形成された柱の表裏両面に、ポケット両側におけるころ案内面の中央部の厚みを両端部の厚みより薄肉厚とする凹部を形成し、その凹部底面の端縁に延長して上記保持爪を形成したので、脱型時に変形した保持爪がそのままの状態であっても、保持器本体の幅面から保持爪が突出せず、保持器の組み込み時において保持爪がころ転走面に接触するのを防止することができる。」(明細書第5頁14行?第6頁10行)

<刊行物2>
同じく引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭57-5048号(実開昭58-108622号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という。)には、ころ軸受用保持器に関して、下記の事項オ?キが図面とともに記載されている。
オ;「本考案は前記内外輪軌道面ところの接触面の潤滑状態を向上させ、かつ保持器ところの組立体に内側から潤滑油の圧力が作用しないようにしてフレツティング摩耗を生ぜしめないころ軸受用保持器を提供するものである。」(明細書第3頁10行?14行)

カ;「第3図、第4図(第3図は第4図の断面B-Bで、第4図はポケット部の正面図である)に示す保持器は第1実施例であって、図において、ポケット部を形成するころ案内面には保持器外径および内径側に突設部24、25を夫々設け、ころ1をポケット内に保持し、前記ころの長手方向の大略中央部に、該案内面内で夫々対向位置に切欠部27を設け、前記切欠部寸法Wはポケット幅W1よりも大となっている。」(明細書第6頁3行?11行)

キ;「以上説明した如く本考案のころ軸受用保持器は、特にポケット部に設けた切欠き27、28によって、吐出された潤滑油がポケット内を保持器外径側へ向けて容易に通過することが出来るので保持器ところの組立体に圧力を与えて公転すべりを阻害することがなく、軌道面におけるフレツティング摩耗が生じない耐久性の高いころ軸受用保持器を提供出来る。また、実施例の第7図および第8図の如く保持器環状部の外径部および端面部に溝を設けることによって、さらに軸受部における潤滑油の流れを容易にする効果が付加されるので、前述の効果をさらに高めることが出来る。尚、実施例においては円周方向で分離されていない一体型保持器について説明したが、これに限定するものでなく、一つ割れ型保持器、二つ割れ型保持器においても全く同様に適用実施するものである。又、ラジアル型ころ軸受用保持器の他、スラスト型ころ軸受用保持器においても、適用実施するものである。」(明細書第8頁14行?第9頁12行)

(3)対比・判断
刊行物1に記載された上記記載事項ア?エからみて、刊行物1には下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「保持器本体1の外側環状部と内側環状部(刊行物1の第1図等参照)との間に、複数の柱3を所定間隔毎に架設し、各柱3の相互間に、ころを収容するポケット2を形成しているとともに、各柱3の両側(縁部)に、ポケット2側に張り出すころ抜け止め用の保持爪6を形成しているスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器において、
各柱3に、当該柱3の軸方向の厚みが各環状部の軸方向厚みより薄くなるように凹部4を形成し、この凹部4の両側に位置する保持爪6を凹部4の底面と同一面となるように先細り形状(刊行物1の第4図参照)に形成しているとともに、当該保持爪6の端部と各環状部との間に間隙を設けたスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器。」

そして、上記引用発明の「柱3」は本願補正発明の「柱部」に機能的に相当し、以下同様に、「ポケット2」は「ポケット」に、「保持爪6」は「ころ止め部」に、「凹部4」は「肉盗み部」に機能的に相当するものと認めることができるものである。

そこで、本願補正発明の用語を使用して本願補正発明と引用発明とを対比すると、両者は、「同心に設けられた外側環状部と内側環状部との間に、複数の柱部を所定間隔毎に架設し、各柱部の相互間に、ころを収容するポケットを形成しているとともに、各柱部の縁部に、ポケット側に張り出すころ止め部を形成しているスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器において、各柱部に、当該柱部の軸方向厚みTが各環状部の軸方向厚みtよりも薄くなるように肉盗み部を形成し、この肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、先細り形状に形成しているスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点1;本願補正発明では、合成樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチック及び、ポリアミド系の合成樹脂のいずれか一方に、強化繊維を充填したものであるのに対して、引用発明では、合成樹脂の材質については不明である点。

相違点2;本願補正発明では、肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成しているとともに、当該ころ止め部の端部を各環状部に連結し、且つ当該ころ止め部の径方向の途中部に切欠部を形成しているものであるのに対して、引用発明では、凹部4の底面に位置する保持爪6を凹部4の底面と同一面となるように先細り形状に形成しているとともに、当該保持爪6の端部と各環状部との間に間隙を設けたものである点。

上記相違点1及び相違点2について検討した結果は次のとおりである。
《相違点1について》
引用発明において、保持器に使用する合成樹脂材料としては、格別限定されるものではなく、従来普通に知られているスラスト型軸受やラジアル型軸受の保持器に使用されている合成樹脂材料を使用することができることは、当業者であれば普通に理解できる事項と認められる。
そして、保持器に使用する合成樹脂材料として、適宜強化繊維を充填したポリフェニレンサルファイト(本願補正発明でいうところの「スーパーエンジニアリングプラスチック」に相当)やポリアミド系の合成樹脂を使用することは、本願出願前当業者に普通に知られた事項(もし、必要なら、特開平4-102718号公報、特開平7-197936号公報等参照)にすぎないものであって、何ら格別なことではない。
してみると、刊行物1に記載された事項及び上記本願出願前当業者に普通に知られた事項を知り得た当業者であれば、引用発明の合成樹脂製保持器に使用する合成樹脂材料として、適宜強化繊維を充填したポリフェニレンサルファイト等のスーパーエンジニアリングプラスチックやポリアミド系の合成樹脂を使用して上記相違点1に係る本願補正発明の構成とすることは、適宜採用することができる程度の設計的事項であって、格別創意を要することではない。

《相違点2について》
引用発明では、凹部4の底面に位置する保持爪6を凹部4の底面と同一面となるように先細り形状に形成しているとともに、当該保持爪6の端部と各環状部との間に間隙を設けたものとしているが、保持爪の形状については格別限定されるものではなく、脱型時に保持爪が破損することがないものであれば、ラジアル型軸受やスラスト型軸受に採用されている保持爪形状の中から所望の形状(構造)のものを採用することができるものである。
そして、保持爪の形状として、突設部(保持爪)の端部を各環状部に連結し、且つ当該突設部のころの長手方向の大略中央部に切欠部を形成したものは、上記刊行物2にも記載されているように本願出願前当業者に知られた保持爪形状にすぎないものである。
また、刊行物1の「また、脱型時において変形した保持爪6は成形時の状態に復元し易く、仮に脱型方向に変形したままであっても、保持爪6は凹部4の対向肩部間に納まる寸法であるため保持器本体1の幅面7より突出せず、上記保持爪6がころ転走面に接触するのを防止することができる。」との記載からも理解できるように、引用発明においても、保持爪は、凹部4の底面と同一面となるように先細り形状に形成することに限られることなく、脱型方向に変形したままであっても、保持器本体の幅面から突出しないもの(本願補正発明でいうところの「肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成した」ものに相当)であれば十分なものであることは当業者であれば普通に理解できる事項といえるものである。
そして、保持器において、保持爪をポケットの外周側の開口の周方向両側に径方向外側に向かうに連れて互いの距離が小さくなるように突設させること(本願補正発明でいうところの「肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成した」ものに相当)は、本願出願前当業者に周知の保持爪の一形状にすぎないものである。(もし、必要なら、実願平1-26843号(実開平2-117427号)のマイクロフィルムの「一対のつめ18,18」を参照)
してみると、刊行物1及び刊行物2に記載された上記事項及び上記本願出願前周知の保持爪形状を知り得た当業者であれば、引用発明の保持爪6に代えて、刊行物2に記載されたような大略中央部に切欠部を設け、両端部を各環状部に連結した突設部(保持爪)構造を採用するとともに、凹部4の底面から各環状部の軸方向厚みの範囲内で先細り形状に形成して上記相違点2に係る本願補正発明の構成とすることは、必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であって、格別創意を要することではない。

また、本願補正発明の効果について検討しても、刊行物1及び刊行物2に記載された事項並びに本願出願前周知の事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ところで、請求人は、審判請求書中で「また、引用文献1と2(上記刊行物1及び刊行物2)とを互いに組み合わせると、(b)、(d)及び(e)の点を備えた合成樹脂製保持器があり得ることになりますが、(a)合成樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチック及び、ポリアミド系の合成樹脂のいずれか一方に、強化繊維を充填したものである点及び(c)肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成している点を備えていない点において、依然として、本願発明(本願補正発明)とは相違しています。」(平成17年3月15日付け手続補正書(方式)の【本願発明が特許されるべき理由】の4.本願発明と引用文献との対比の項参照)旨主張している。

しかしながら、保持器に使用する合成樹脂材料として強化繊維を充填したスーパーエンジニアリングプラスチック等を採用することが本願出願前当業者に普通に知られた事項にすぎないものであって、引用発明の合成樹脂製保持器に上記周知の強化繊維を充填したスーパーエンジニアリングプラスチック等を採用することは、当業者であれば適宜採用することができる程度の設計的事項であることは、上記《相違点1について》の項で検討したとおりである。
また、引用発明に採用する保持爪の形状としては、脱型時に保持爪が破損することのないものであれば適宜の形状のものを採用することができるものであって、引用発明においても、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状とすることを妨げないものであること、及び、軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状とすることが本願出願前当業者に周知の事項であって、当業者であれば必要に応じて容易に想到することができる程度の事項であることは、上記《相違点2について》の項で検討したとおりである。
よって、請求人の上記審判請求書中の主張は採用することができない。

(4)むすび
以上のとおり、本願補正発明(本件補正後の請求項1に係る発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)本願発明
平成17年2月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成16年6月10日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
同心に設けられた外側環状部と内側環状部との間に、複数の柱部を所定間隔毎に架設し、各柱部の相互間に、ころを収容するポケットを形成しているとともに、各柱部の縁部に、ポケット側に張り出すころ止め部を形成しているスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器において、
各柱部に、当該柱部の軸方向厚みTが各環状部の軸方向厚みtよりも薄くなるように肉盗み部を形成し、この肉盗み部の両側に位置するころ止め部を、前記軸方向厚みTの端面から同一の軸方向端側にある前記軸方向厚みtの端面までの範囲内で先細り形状に形成しているとともに、当該ころ止め部の端部を各環状部に連結し、且つ当該ころ止め部の径方向の途中部に切欠部を形成していることを特徴とするスラストころ軸受用の合成樹脂製保持器。」

(2)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である実願昭60-75882号(実開昭61-190028号)のマイクロフィルム(上記刊行物1)及び実願昭57-5048号(実開昭58-108622号)のマイクロフィルム(上記刊行物2)の記載事項は、前記「2.(2)引用刊行物の記載事項」に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、前記2.で検討した本願補正発明の技術事項である合成樹脂製保持器の材質について「当該合成樹脂は、スーパーエンジニアリングプラスチック及び、ポリアミド系の合成樹脂のいずれか一方に、強化繊維を充填したものであり、」との限定を省いたものに実質的に相当する。
そうすると、本願発明の構成を全て含み、さらに構成を限定したものに実質的に相当する本願補正発明が、前記「2.(3)対比・判断」に記載したとおり、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、実質的に同様の理由により、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明並びに本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-14 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-06 
出願番号 特願平7-259409
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F16C)
P 1 8・ 121- Z (F16C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 稔  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 町田 隆志
藤村 泰智
発明の名称 スラストころ軸受用の合成樹脂製保持器  
代理人 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所  

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