• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 B32B
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 B32B
管理番号 1156347
審判番号 不服2004-6256  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2004-03-29 
確定日 2007-04-23 
事件の表示 平成 8年特許願第 6088号「粘着性積層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成 9年 7月29日出願公開、特開平 9-193308〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
この出願は、平成8年1月17日の特許出願であり、平成15年10月15日付けで拒絶理由が通知されたが、その指定期間内に応答がなく、平成16年2月26日付けで、拒絶査定がされたところ、同年3月29日に、これに対する審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、さらに、当審において平成18年11月6日付けで審尋がされ、平成19年1月10日に回答書が提出されたものである。

II.平成16年3月29日に行った明細書の補正についての補正却下の決定
[結論]
平成16年3月29日に行った明細書の補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成16年3月29日に行った明細書の補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についての以下の補正事項aを含むものである。
補正事項a:
特許請求の範囲において、
「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された内外層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、該原反フィルムの縦方向及び横方向にそれぞれ2?6倍の延伸倍率で延伸したフィルムであって、フィルム全体の厚さが40μm以下であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%であることを特徴とする粘着性積層フィルム。
【請求項2】 接着層が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項3】 接着層が、酸変性ポリオレフィンエラストマーを含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項4】 接着層が、酸変性ポリオレフィン樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂および/または酸変性ポリオレフィンエラストマーを、比エネルギー0.3kw・hr/kg以上の条件下に溶融混練して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。」とあるのを、
「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された内外層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、該原反フィルムの縦方向及び横方向にそれぞれ2.5?4倍の延伸倍率で延伸したフィルムであって、フィルム全体の厚さが40μm以下であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%であり、しかも、おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験によるフィルムの裂け長さが127mm以上であることを特徴とするラップ用粘着性積層フィルム。」に補正する。

2.補正の目的の可否についての検討
補正事項aにより、請求項1に係る発明については、
(1)「粘着性積層フィルム」が、「ラップ用粘着性積層フィルム」に変更されるとともに、
(2)「おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験によるフィルムの裂け長さが127mm以上である」ことが、特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項(以下、「発明特定事項」という。)に追加された。
(1)及び(2)を含む補正事項aが、特許法第17条の2第4項各号に掲げる事項のいずれかを目的とするものであるとすることはできない。以下、補足的に検討する。

まず、(1)の点について検討する。
「ラップ用粘着性積層フィルム」は、「粘着性積層フィルム」という、補正前の請求項1に記載した発明特定事項(以下、「補正前特定事項」という。)を限定するものではない。
すなわち、「粘着性積層フィルム」を「ラップ用粘着性積層フィルム」とすることは、用途の付加であり、発明特定事項のいわゆる直列的付加であるから、減縮に当たることは明らかである。しかし、「ラップ用」という用途は、「粘着性」の下位概念でも、「積層」の下位概念でもないから、補正前特定事項のいずれかを限定するものには当たらない。
また、補正前特定事項における「粘着性積層フィルム」が、「粘着性」という特性を備える積層フィルムを意味することは明りょうであるところ、「ラップ用」という用途を付加することによって、「粘着性積層フィルム」という記載における何らかの明りょうでない事項が、明りょうとなるものとも認められない。
次に、(2)の点について検討する。
「おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験によるフィルムの裂け長さが127mm以上である」ことの追加は、補正前特定事項を限定するものではない。
すなわち、フィルムの裂け長さに関する特定を発明特定事項に新たに追加することは、発明特定事項のいわゆる直列的付加であるから、減縮に当たる。しかし、フィルムの裂け長さに関する特定は、「粘着性」の下位概念でも、「積層」の下位概念でもないから、補正前特定事項のいずれかを限定するものには当たらない。
また、「おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験によるフィルムの裂け長さが127mm以上である」というフィルムに関する何らかの物性値は、JIS等標準的な測定方法により得られる物性値であるとする根拠はなく、しかも、測定サンプルの特定や裂け長さの方向の特定もないものであるから、明確なものとはいえず、そうである以上、明確でないフィルムの裂け長さに関する特定を発明特定事項に追加することは、何らかの明りょうでない記載を明りょうにするものでもない。
したがって、(1)、(2)を含む補正事項aは、特許請求の範囲の減縮(特許法第36条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものであるとも、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであるとも認めることはできない。
そして、補正事項aが、請求項の削除又は誤記の訂正を目的とするものではないことも明らかである。
よって、補正事項aを含む本件補正は、特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項をも目的とするものではない。

3.新規事項追加の有無についての検討
2.で述べた(2)の点について検討する。
「おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験によるフィルムの裂け長さが127mm以上である」ことは、この出願の願書に最初に添付された明細書(以下、「当初明細書」という。)に記載された事項ではない。
この点、当初明細書には、フィルムの裂け長さに関係すると解される記載として、段落0041に、
「カット性
米国のTESTING MACHINES INC.社製のPPTティアーテスター(商品名)を用いてフィルムの裂け易さを評価した。本テストはフィルムサンプルに対して針を備えた一定荷重のおもりを一定高さから落下させ、フィルムの裂ける長さで裂け易さを定量化したものである。裂けがフィルムの横方向に入る向きにサンプルをセットして、裂け長さを測定する。裂け長さが大きい方が軽い刃で切ることができる。カット性の良好なサンプルと云える。測定条件は荷重30g、落下高さ50cmとした。」との記載があり、また、段落0062の表6に、実施例1?9、比較例1?5のケースにおける「カット性(mm)」の数値データが記載されている。
してみれば、当初明細書には、一応、「米国のTESTING MACHINES INC.社製のPPTティアーテスター(商品名)」を用いて、「裂けがフィルムの横方向に入る向きにサンプルをセット」して、「針を備えた」荷重30gのおもりを落下高さ50cmから落下させることにより測定したフィルムの裂け長さについては記載があったと認められるものの、測定に用いる機器も、サンプルのセット方向も、針の有無も特定されない、「おもりの荷重30g、落下高さ50cmの条件下でのおもり落下試験」によるフィルムの裂け長さの測定方法及びそれによる測定値について、当初明細書に記載があったと認めることはできない。
したがって、補正事項aは、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
よって、補正事項aを含む本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第159条第1項の規定により読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、結論のとおり決定する。

III.本願発明
本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、それぞれ、当初明細書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載される事項により特定される以下のものと認める。
「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された内外層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、該原反フィルムの縦方向及び横方向にそれぞれ2?6倍の延伸倍率で延伸したフィルムであって、フィルム全体の厚さが40μm以下であり、かつ、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%であることを特徴とする粘着性積層フィルム。
【請求項2】 接着層が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項3】 接着層が、酸変性ポリオレフィンエラストマーを含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項4】 接着層が、酸変性ポリオレフィン樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂および/または酸変性ポリオレフィンエラストマーを、比エネルギー0.3kw・hr/kg以上の条件下に溶融混練して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。」

IV.原査定の理由の概要
要するに、本願発明1?4は、本願の出願前に日本国内において頒布されたことが明らかな、以下の刊行物1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、というにある。
刊行物1: 特開平6-155677号公報
刊行物2: 特開平8-1880号公報
刊行物3: 特開平6-23925号公報
刊行物4: 特開平7-285200号公報

V.本願発明1についての検討
1.各刊行物の記載
1-1.刊行物1には、以下の記載がある。
ア: 「【請求項1】 エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された粘着層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、フィルムの引取り方向に2?6倍の延伸倍率で延伸して得られる粘着性積層フィルムであって、該フィルムの全体の厚さが40μm以下で、しかも、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%であることを特徴とする粘着性積層フィルム。
【請求項2】 接着層が、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂を含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項3】 接着層が、酸変性ポリオレフィンエラストマーを含有していることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。
【請求項4】 接着層が、酸変性ポリオレフィン樹脂とエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂および/または酸変性ポリオレフィンエラストマーを、比エネルギー0.3kw・hr/kg以上の条件下に溶融混練して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の粘着性積層フィルム。」(特許請求の範囲)
イ: 「【産業上の利用分野】 本発明は食品包装用等に好適に用いられる粘着性積層フィルムに関する。詳しくは、本発明はカット性、透明性、耐熱性、ガスバリア性、層間接着性、非熱収縮性、環境適性及び食品安全性に優れた包装用フィルムに好適な粘着性積層フィルムに関する。」(段落0001)
ウ: 「上記ポリオレフィン樹脂組成物から形成される粘着層(内層及び外層)は、接着層を介してエチレン-ビニルアルコール共重合樹脂から形成される中心部の層に設けられる。」(段落0018)
エ: 「本発明の粘着性積層フィルムは、上記粘着性のポリオレフィン樹脂とEVOH樹脂及び変性樹脂とを特定の共押出成形によって3種5層の層構成、例えば〔ポリプロピレン系樹脂/変性樹脂/EVOH樹脂/変性樹脂/ポリプロピレン系樹脂〕の多層フィルムを共押出成形し、次いで該フィルムをその引取方向(縦方向)に一軸延伸することにより、成形される。
該共押出成形としては、Tダイ成形法又は、水冷式インフレーション成形法が採用される。すなわち、溶融押出しされた樹脂を上記成形法により急冷することにより、通常よく用いられる空冷式インフレーション成形法と比較してより透明性に優れたフィルムが得られる。
上記共押出成形により得られた未延伸多層フィルムは、次いでフィルムの引取方向(縦方向)に延伸倍率2?6倍、好ましくは2.5?4倍に一軸延伸する。該延伸倍率が2倍未満ではフィルムのカット性が不十分であり、また6倍より大きいと延伸性が低下し、破断もしくはフィルムに延伸むらができるので望ましくない。該延伸処理は上記未延伸フィルムをそのまま或は所定の幅にスリットしたものを加熱し、例えば延伸ロールの周速度を変化させることによりフィルムの引取方向即ち縦方向に延伸させる方法等により行なわれる。該延伸処理における予熱温度としては、通常〔ポリオレフィン系樹脂の融点-20℃〕以下、望ましくは40?120℃の範囲で行なうのが好適である。
また延伸後の熱固定温度は該予熱温度より高い温度とし、さらにフィルムのシワ防止、横強度向上のためには、出来るだけ高い温度とすることが好ましく、通常は〔ポリオレフィン系樹脂の融点-20℃〕以下、望ましくは80?150℃の範囲で行なうのが好適である。
該予熱及び熱固定温度が〔ポリオレフィン系樹脂の融点-20℃〕より高い場合は、延伸ロールにフィルムが溶融付着し、また、予熱温度が40℃未満ではEVOH樹脂が予熱不十分のために延伸困難となり、フィルム破断が起こるので望ましくない。」(段落0033?0035)

1-2.刊行物2には、以下の記載がある。
オ: 「【請求項1】 少なくとも外層、中間層および内層の3層を有し、外層および内層がポリプロピレン系樹脂からなり、中間層が4-メチル-ペンテン樹脂からなることを特徴とする積層フィルム。
【請求項2】 ポリプロピレン系樹脂からなる外層および内層と4-メチル-ペンテン樹脂からなる中間層を共押出成形して得られるものであって、フィルム全体の厚さが40μm以下で、且つ、中間層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%である請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】 外層および内層が、(A)ポリプロピレン系樹脂100重量部、(B)ポリブテンまたはポリイソブチレン3?30重量部、(C)ポリグリセリン脂肪酸エステル0.2?5重量部および(D)炭素数2?6のアシル基および炭素数8?22のアシル基を有するグリセリド0.2?5重量部からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】 積層フィルムが、一軸または二軸方向に2?8の延伸倍率で延伸したものである請求項1乃至3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】 積層フィルムが包装用フィルムであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の積層フィルム。」(特許請求の範囲)
カ: 「【産業上の利用分野】 本発明は食品包装等の包装用フィルム等として用いて有用な積層フィルムに関する。詳しくは、カット性、透明性、耐熱性、粘着性、水蒸気バリア性、非熱収縮性、食品安全性及び焼却時の毒性ガスの発生が少ない点に優れた包装用フィルムとして用いて好適な積層フィルムに関する。」(段落0001)
キ: 「共押出成形により得られた未延伸の積層フィルムは、次いでフィルムを一軸、又は二軸で延伸倍率2?8倍、好ましくは3?5倍に延伸する。該延伸倍率が2倍未満ではフィルムのカット性が不十分であり、また8倍より大きいと延伸性が低下し、破断もしくはフィルムに延伸むらができるので望ましくない。該延伸処理は上記未延伸フィルムをそのまま或は所定の幅にスリットしたものを加熱し、例えば一軸の場合は延伸ロールの周速度を変化させることによりフィルムの引取方向即ち縦方向に延伸させ、二軸の場合は更にテンター延伸法により横方向に延伸する方法等により行なわれる。該延伸処理における予熱温度としては、通常、ポリプロピレン系樹脂の融点以下、望ましくは70?160℃の範囲で行うのが好適である。」(段落0019)
ク: 「本発明の積層フィルムの層構造は、本質的には外層/中間層/内層の少なくとも3層の樹脂層からなるものであるが、本発明の主旨を逸脱しない限りにおいて、更に他の樹脂層を加えて4層以上の構造とすることも差し支えない。このような4層以上の構造としては、例えば外層と中間層、又は内層と中間層の間に接着層等を有するもの等が挙げられる。接着層としては不飽和カルボン酸をポリオレフィンにグラフトした変成ポリオレフィン等が用いられる。」(段落0023)

1-3.刊行物3には、以下の記載がある。
ケ: 「【請求項1】 少なくとも外層、中間層及び内層の3層を有し、該外層及び内層を(A)ポリプロピレン系樹脂100重量部、(B)ポリブテン又はポリイソブチレン3?30重量部(C)粘着付与剤0.2?5重量部(D)脱臭剤0.5?30重量部からなるポリプロピレン系樹脂組成物で構成し、中間層をポリエチレンテレフタレート樹脂又は脂肪族ポリアミド樹脂で構成してなる積層フィルムとし、該積層フィルムを少なくとも縦方向に延伸倍率2?6倍に延伸してなり、延伸後の積層フィルム全体の厚みが40μm以下であり、かつ上記中間層の厚みがフィルム全体の厚みの10?90%の範囲であることを特徴とする包装用フィルム。」(特許請求の範囲)
コ: 「「【産業上の利用分野】 本発明は食品包装用等に用いられる包装用フィルムに関する。詳しくは、カット性、透明性、耐熱性、粘着性、ガスバリア性、非熱収縮性及び食品安全性に優れ、かつ脱臭性を有する包装用フィルムに関する。」(段落0001)
サ: 「共押出成形により得られた未延伸多層フィルムは、次いでフィルムの少なくとも縦方向に延伸倍率2?6倍、好ましくは3?5倍に延伸する。該延伸倍率が2倍未満ではフィルムのカット性が不十分であり、また6倍より大きいと延伸性が低下し、破断もしくはフィルムに延伸むらができるので望ましくない。PETが中間層の場合には縦、横両方延伸する二軸延伸が望ましい。この場合の延伸倍率は縦・横とも2?6倍、好ましくは3?5倍である。該延伸処理は上記未延伸フィルムをそのまま或は所定の幅にスリットしたものを加熱し、例えば送り側と引取側のロールの周速度を変化させることによりフィルムの引取方向即ち縦方向に延伸させることにより行なわれる。二軸延伸の場合には、次いでテンター延伸法により横方向に延伸する方法等により行なわれる。該延伸処理における予熱温度としては、通常(ポリプロピレン系樹脂の融点-10℃)以下、望ましくは70?140℃の範囲で行なうのが好適である。」(段落0017)
シ: 「本発明の延伸積層フィルムの層構造は、本質的には外層/中間層/内層の少なくとも3層の樹脂層からなるものであるが、本発明の主旨を逸脱しない限りにおいて、更に他の樹脂層を加えて4層以上の構造とすることも差し支えない。このような4層以上の構造としては、例えば外層と中間層、又は内層と中間層の間に接着層等を有するもの、あるいは外層の外側や内層の内側に更に他の種類の樹脂層を設けたもの、等が挙げられる。」(段落0021)

1-4.刊行物4には、以下の記載がある。
ス: 「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の樹脂フィルム層(A)の片面または両面に、次式(I)で示されるグリセリド(a1)
【化1】
〔式中、R1 、R2 とR3のうち一つは炭素数が2?6のアシル基、他の一つは炭素数が8?22のアシル基であり、残りの一つはHまたは炭素数が2?22のアシル基である。〕 および、炭素数が12?22の高級脂肪酸と脂肪族多価アルコールとのエステルであって、少なくとも1個のアルコール性水酸基を有する脂肪酸エステル(a2)より選ばれた防曇剤を0.5?15重量%含有する結晶性プロピレン系共重合体フィルム層(B)を積層した積層樹脂フィルム。」(特許請求の範囲の請求項1。なお、【化1】の化学式は、摘示を省略した。)
セ: 「【産業上の利用分野】 本発明は、粘着性、耐熱性、カット性、風合い、ガスバリヤー性に優れた食品包装用ラップフィルムに関する。」(段落0001)
ソ: 「エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物樹脂層(A)と結晶性プロピレン系共重合体樹脂層(B)の間に無水マレイン酸グラフトポリエチレン、エチレン・アクリル酸共重合体等の接着層を介在させても良い。 更に、エチレン-酢酸ビニル共重合体ケン化物の層(A)と結晶性プロピレン系共重合体層(B)との間に、耐熱性、カット性を向上させる目的で、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂フィルム層を介在させても良い。」(段落0034)
タ: 「この積層フィルムは、前記(A)層および(B)層、必要により接着層、ポリ(4-メチルペンテン-1)フィルム層の樹脂を、複数の押出機を用いてインフレーション成形又はTダイ成形による共押出法又は押出ラミネート法等の公知の方法で積層して成形される。インフレーション成形法の場合、縦方向と横方向の引裂強度等機械的強度を充分にバランスさせたフィルムとするため、ブロー比は1.5?20倍、好ましくは2?16倍とするのが好ましい。また、この積層樹脂フィルムは、フィルムのカット性を向上させるために、フィルムの引取方向に1.2?5.0倍の一軸延伸、又はフィルムの縦に3?4.5倍および横方向に6?10倍の二軸延伸したものであっても良い。」(段落0036)

2.刊行物1に記載された発明、及び、本願発明1との対比
2-1.刊行物1に記載された発明
摘示ア?エからみて、刊行物1には、「エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された粘着層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、フィルムの引取り方向に2?6倍の延伸倍率で一軸延伸して得られる粘着性積層フィルムであって、該フィルムの全体の厚さが40μm以下で、しかも、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%である、食品包装用等に好適に用いられる粘着性積層フィルム」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。

2-2.本願発明1と刊行物1発明との対比
本願発明1(以下、「前者」という。)と刊行物1発明(以下、「後者」という。)とを対比すると、両者は、「エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂からなる層の両側に、酸変性ポリオレフィン樹脂から形成された接着層を介して、ポリオレフィン樹脂100重量部に対して、ポリブテンまたはポリイソブチレンを3?40重量部含有してなる樹脂組成物から形成された粘着層を設けた積層フィルムを共押出成形した後、延伸して得られる粘着性積層フィルムであって、該フィルムの全体の厚さが40μm以下で、しかも、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂層の厚さがフィルム全体の厚さの10?90%である粘着性積層フィルム」で一致し、
共押出成形した後にされる延伸が、前者では、「該原反フィルムの縦方向及び横方向にそれぞれ2?6倍の延伸倍率で延伸」であるのに対して、後者では、「フィルムの引取り方向に2?6倍の延伸倍率で一軸延伸」である点で相違する。

2-3.相違点についての検討
食品包装用に用いられる粘着性積層フィルムの分野において、共押出成形した後に、延伸を行うこと、及び、該延伸として一軸延伸と二軸延伸が採用可能であることは、例えば、刊行物2の摘示オ?ク、刊行物3の摘示ケ?シや刊行物4の摘示ス?タにも開示されるように、当業者に周知慣用の方法であるから、刊行物1発明において、一軸延伸を二軸延伸に転換してみようとすることは、当業者が容易に想到する程度のことである。更に、二軸延伸を行うに当たっての「縦方向及び横方向にそれぞれ2?6倍」の延伸倍率の範囲は、摘示サ、タに示される、何らかの「カット性」を向上させるために行う二軸延伸の延伸倍率の範囲と一致し、また、摘示オ、キにおける延伸倍率の範囲とも重複することから、当業者であれば、適宜決定可能な設計事項にすぎない。
そして、先の相違点を発明特定事項に備える本願発明1の効果は、当業者が予期できないような格別顕著なものとは認められない。

この点、請求人は、先に、II.において補正却下の決定がされた審判請求時の明細書の特許請求の範囲の補正である補正事項aを前提として、本願発明1が、「カット性に優れるとともにバランスのとれた」ものである旨を主張し(審判請求書)、更に、「フィルムの裂け長さが127mm以上であるという極めて優れた効果」を奏するものである旨(回答書)を主張しているので、補足的に検討する。
本願発明1の効果に関わる「カット性」については、明細書の段落0040に、「カット性」の測定方法が記載され、更に、段落0061に、比較例5として、「実施例1において、延伸を縦延伸のみ(予熱温度60℃、熱固定温度110℃)にしたこと以外は同様な方法でフィルムを得た。その結果を表6に示す。」と記載され、段落0062に記載の表6によれば、実施例1と比較例5における「カット性(mm)」の値が、それぞれ「139」と「52」であることが記載されている。
しかしながら、明細書の段落0040の記載をみても、「カット性」の測定方法は不明である。
すなわち、前記段落0040には、「(5)カット性
米国のTESTING MACHINES INC.社製のPPTティアーテスター(商品名)を用いてフィルムの裂け易さを評価した。本テストはフィルムサンプルに対して針を備えた一定荷重のおもりを一定高さから落下させ、フィルムの裂ける長さで裂け易さを定量化したものである。裂けがフィルムの横方向に入る向きにサンプルをセットして、裂け長さを測定する。裂け長さが大きい方が軽い刃で切ることができる。カット性の良好なサンプルと云える。測定条件は荷重30g、落下高さ50cmとした。」と記載されているが、ここに記載の測定方法が、JISやISOなど当業界において標準的な「カット性」の測定方法であると認めるべき根拠がないばかりか、測定に供するフィルムサンプルの大きさ、フィルムの保持方法、おもりに備える針の形状や大きさ等が不明であるために、忠実な追試が不可能なものである。
加えて、二軸延伸を施した実施例1と一軸の縦延伸を施した比較例5の「カット性」の値に差があることについても検討すると、「カット性」の測定方法が、先に摘記したとおり、「裂けがフィルムの横方向に入る向きにサンプルをセットして、裂け長さを測定する。」ものであることを考えると、縦延伸を施したフィルムが、二軸延伸を施したフィルムと比較すれば、延伸が施されていない横方向には裂けにくいことは当業者であれば当然に予測できることにすぎないから、実施例1における「カット長」、すなわちフィルムの裂け長さが、比較例5における「カット長」より大きくなったことをもって、当業者が予期することができない効果が奏されたと認めることはできない。
してみれば、本願発明1が、「カット性」に優れるという予期できない顕著な効果を奏するものであるという請求人の主張は、具体的根拠がなく採用できない。
また、「バランスのとれた」なる効果の主張についても、予期できない顕著な効果を確認するに足る具体的な根拠を欠くから、採用しない。
したがって、本願発明1の効果に係る請求人の主張は採用しない。

3.まとめ
本願発明1は、刊行物1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、これについては特許を受けることができない。

VI.むすび
以上のとおりであるから、本願発明2?4について更に検討するまでもなく、本願発明1は、刊行物1?4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである、という原査定の判断は妥当なものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-15 
結審通知日 2007-02-20 
審決日 2007-03-05 
出願番号 特願平8-6088
審決分類 P 1 8・ 561- Z (B32B)
P 1 8・ 57- Z (B32B)
P 1 8・ 121- Z (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平井 裕彰  
特許庁審判長 鈴木 由紀夫
特許庁審判官 鴨野 研一
野村 康秀
発明の名称 粘着性積層フィルム  
代理人 江幡 敏夫  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ