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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 E02F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 E02F
管理番号 1156425
審判番号 不服2005-23655  
総通号数 90 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2007-06-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2005-12-08 
確定日 2007-04-26 
事件の表示 平成10年特許願第246003号「建設機械の盗難防止装置」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月 7日出願公開、特開2000- 73411〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯
本願は、平成10年8月31日の出願であって、平成17年10月27日付で同年5月16日付の手続補正を却下する補正の却下の決定および拒絶査定がなされ、これに対して同年12月8日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、平成18年1月10日付で手続き補正がなされたものである。

2.平成18年1月10日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の結論]
平成18年1月10日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「オペレータが乗降する際に油圧操作レバーに触れて操作用リモコン弁が作動して油圧アクチュエータが動いてしまうことのないように、レバーの操作に基づいてロック制御回路を通じて電磁切換弁を作動させることにより機械の油圧動作をすべて停止させる油圧ロック状態とこの油圧ロック状態を解除するロック解除状態とに切換えられる安全装置を備え、かつ、エンジンのスタータモータに通電するスタータモータ回路が設けられた建設機械の盗難防止装置において、エンジン始動キー側のメモリに記憶された識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する照合手段と、遮断手段とを具備し、この遮断手段は、上記照合手段による照合結果が一致しない場合に、
(i) 上記スタータモータ回路を遮断してエンジン始動を不可能とし、
(ii) 上記ロック制御回路を遮断することにより、上記安全装置の電磁切換弁を作動させて油圧ロック状態とするとともに、油圧源である油圧ポンプから上記操作用リモコン弁に導出される吐出油がアンロードされる状態とする
ように構成されたことを特徴とする建設機械の盗難防止装置。」
と補正された。
上記補正は、補正前の請求項1(平成16年7月26日付手続補正書で補正した明細書における特許請求の範囲の請求項1)に、それぞれ同項を引用する形式で記載されている補正前の請求項2および補正前の請求項4に係る限定事項を加えるものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、即ち、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するかについて以下に検討する。

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、特開平9-175329号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「盗難防止装置付き産業機械」に関して、図面とともに、次の記載がある。
(イ)「【特許請求の範囲】
産業機械の各作動用電気機器と、電源部との間の回線の中途を、それぞれ引き出して1ケ所に集中させ、その回路内に、メインスイッチと、電圧変換部と、暗号番号判断部と、キーボードと、メインリレーと、回路リレーとの回路を形成した盗難防止装置を介在させ、メインスイッチをオンし、キーボードにて予め設定した暗証番号を入力し、暗証番号判断部にて信号を照合し、信号が合致しない限り、スターターキーを入れても、電源部から作動用電気機器の回路リレーへ通電されず、産業機械が作動しないことを特徴とする盗難防止装置付き産業機械。」
(ロ)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、土木機械や建設機械等の産業機械の盗難防止に関するものである。」
(ハ)「【0003】【発明が解決しようとする課題】この盗難防止用の技術は、確かに、組合せスイッチの組合せの設定は、容易に判読解明できないので、エンジンに導通せず、エンジンを作動させない効果はある。しかし、この構造では、盗難防止装置を各作動部品間にそれぞれ介在させており、その存在が目に付き易い。悪く考えるなら、組合せスイッチの両端の入力端と出力端の回線を切断し、直結すれば導通してしまうと言う問題点を有している。
【0004】また、各装置の間にそれぞれに組合せスイッチをそれぞれ設けるので、個数が多く、かつ各組合せ符号のセットするのが大変であると言う問題点もある。
【0005】本発明は、従来のこのような問題点を解決するために更に改良したもので、その目的とするところは、電源、燃料、油圧回路の作動用電気機器の作動カットを集中制御することによって、1つの装置で行い、走行機能をすべて停止させる盗難防止装置を、人目につかない位置に配置し、仮に見つけられても、回線が錯綜して容易に解明できない確実な盗難防止装置を備えた産業機械を提供しようとするものである。」
(ニ)「【0008】
【実施例】本発明の実施例について、図1?図3を用いて説明する。この産業機械の実施例は、パワーショべルである。図において10は電源部で、バッテリー12V、2個を直列に設けている。電源部10から電源部リレー11を介してスターターモータ12に接続し、エンジンキースイッチのオンで、スターターモータ12が駆動し、エンジン13が始動する。又、エンジン13と直結して油圧ポンプ15が設けられている。油圧ポンプ15は、油圧制御用電磁弁20を介して走行モーターや、旋回モーター、アームやブームやバッケットを作動させる作業油圧モーターにそれぞれ油圧を送る。一方、エンジン13には燃料タンク14から燃料ポンプを介して燃料が供給される。更には、車種によって燃料調整用コンピューター18を介してエンジン13内へ燃料供給を自動調整させるものもある。これらの走行装置の電気機器への電気をカットするために、本発明の特徴である盗難防止装置1を電源部10と各作動用電気機器12、18、19、20との各回線の途中を引き出し、1ケ所に集中させて電気回路を形成し、その回路内に盗難防止装置1を介在させた。即ち、図1に示すように、電源部10に対し、スターターモータ12と、燃料ポンプ19と、燃料調整用コンピューター18と、油圧制御用電磁弁20は、並列に接続されている。電源部10とエンジンを作動させるスターターモータ12との間の回線を盗難防止装置1に導き再び戻す。燃料をエンジン13へ供給させる燃料ポンプ19との間の回線を盗難防止装置1に導き再び戻す。エンジン13への燃料タンク14からの燃料を自動的に調整供給させる燃料調整用コンピューター18との間の回線を盗難防止装置1に導き再び戻す。油圧ポンプ15からの油圧制御用電磁弁20との間の回線を盗難防止装置1に導き再び戻す。そして各導いた回線は盗難防止装置に集中して直列に接続される。
【0009】盗難防止装置1は、電源部10からの電流をオン、オフするメインスイッチ4と、DC-DCコンバーター5と、回路リレー7と、メインリレー6に接続する暗証番号判断部3と、更にキーボード2が設けられている。DC-DCコンバーター5は、メインスイッチ4からの24Vの電圧を5Vに下げる。キーボード2の盤上に、0?9とA?F、RESETの数・文字のキーが有り1?9、A?Eの4桁の組合せの暗証番号が打てるように設定されている。暗証番号判断部3は予め設定した暗証番号1個のみ受入れる構造になっている。暗証番号判断部3とキーボード2との間にある線は、2本は電源用、5本は暗証番号の信号用である。この盗難防止装置1は、小型のケースに収納でき、配線さえ上手に処理すれば、パワーショベルのどの位置にでもセットできる。操作が出来るなら、盗難防止装置が目に付かないように、隠せる場所に付けるのが望ましい。」
(ホ)「【0010】次に、作用を説明する。予め、暗証番号が設定され、暗証番号判断部3に設定された暗証番号のみ受容する構造になっている。パワーショベルを作動させる場合は、まずパワーショべルの隠し場所に設定してある盗難防止装置1のメインスイッチ4をオンする。電源部10から、電圧が印加され、DC-DCコンバーター5で電圧が下げられ、暗証番号判断部3及びキーボード2まで電圧が印加されるが、メインリレー6には電圧が印加されず、回路リレー7にも電圧が印加されない。キーボード2にて予め設定した4桁の暗証番号を入力すると、番号データーが正しいか否か暗証番号判断部3にて照合し、暗証番号が設定した番号と合致したとき、メインリレー6に電圧を印加励磁させ、メインリレー6を接続させる。もし、暗証番号が異なる場合は、メインリレー6は接続されず、反応がない。
【0011】次に、メインリレー6が接続すると、回路リレー7に電圧が印加励磁させ、走行装置の電気機器との回路が形成され、各電気機器、即ち、エンジンを始動させるセルモーター12、燃料タンク14から燃料をエンジンへ供給する燃料ポンプ19、同じく油圧制御用電磁弁20に通電し、各電気機器は作動可能となる。従って、パワーショベルで通常操作する如くエンジンキーをキー孔に挿入し、キーを回せば、スターターモーター12が回り、燃料ポンプ19が燃料をエンジン13に送り、エンジンが始動する。同様に、油圧ポンプ15からの油圧を遮断していた油圧制御電磁弁20が油圧の制御を開始し走行が可能となる。
【0012】パワーショベルの作業を終了し、パワーショベルを止めるには、通常操作する如く、キーをオフにし、キーを抜く。その後、盗難防止装置1のメインスイッチ4をオフにすると、メインリレー6、回路リレー7、キーボード2、暗証番号判断部3に、電圧が印加されず、メインリレー6、回路リレー7が切断し、各電気機器12、18、19、20との回路が解放されるので、各電気機器に電圧が印加されず、電気機器は作動しない。
【0013】又、暗号番号を複数設置することも可能である。その場合、暗証番号判断部3を更に並列に増やせば良い。、本発明は、従来の電気回路とは大きく異なる電気回路、即ち、電源部10からの通電を積極的にオン、オフさせるように、電源部10から作動用各電気機器に並列に接続していた回線を、一旦、盗難防止装置に集中して導き、回線しているので、その分、回線の量は増えるし、接続の作業も必要である。しかし、一旦、接続が完成すると、素人では、この電気回路を判読解明できない。」
(ヘ)「【0014】
【発明の効果】本発明は、産業機械の走行装置の作動用電気機器の回路に、盗難防止装置を直列に介在し接続することにより、以下の効果を有する。
【0015】回路リレーを接続しない限り、電気機器の電気回路が解放状態になり、電源部から電気機器に導通されず、電気機器は作動不可となる。暗証番号を入力することにより回路リレーが接続され、電気機器との回路が形成され、通常の電気機器の作動が可能となる。又、回路リレーは、メインリレーによって集中的に制御される。
【0016】たとえ、別の電源から通電させても、各電気機器は、複雑な配線構造になっているので一度に全て接続できないし、又、各電気機器は盗難防止装置と直列に複数ケ所で配線されているので、全ての回線を外部より接続させるのは非常に困難である。
【0017】又、盗難防止装置を抜き取っても、盗難防止装置を接続して、初めて、1つの電気回路を形成している状態なので、盗難防止装置を抜き取った時点で、回路が解放状態となり、全く産業機械を走行させることは出来なくなる。従って、産業機械は自走出来なくなり、盗難防止になる。」
(ト)引用文献1には、産業機械本体側の暗証番号判定部3が暗証番号を記憶するためのメモリを有していることは明記されていないが、「暗証番号判断部3は予め設定した暗証番号1個のみ受入れる構造になっている。」(上記(ニ)参照)としていることから、暗証番号判定部3はメモリを有していることは明らかである。
これら(イ)?(ト)の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。
(引用発明)
「エンジン13のスタータモータ12に通電する回路を備えたパワーショベル等の産業機械の盗難防止装置において、
キーボード2にて入力された暗証番号と、産業機械本体側のメモリに記憶された暗証番号とを照合する暗証番号判定部3と、メインリレー6とを具備し、このメインリレー6は、暗証番号判定部3により照合結果が一致しない場合に、
(i)電源部10とスタータモータ12との間の回路リレー7を接続しないことによりエンジン13の始動を不可能とし、
(ii)メインリレー6が切断されて油圧ポンプ15からの油圧を遮断して走行モーターやアームやバケットなどの作動を不可能な状態とする
ように構成されたパワーショベル等の産業機械の盗難防止装置。」

同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物である、実公平7-19932号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「建設機械の盗難防止用スイッチ装置」に関して、図面とともに、次の記載がある。
(チ)「【請求項1】運転席の左右両側に前後方向に傾転可能にコントロールボックスを設け、そのコントロールボックスの上方端位置傾倒によりリモコン弁用操作レバーによる各種油圧アクチュエータの操作を不能としている建設機械において、パイロットポンプと、各種油圧アクチュエータ操作用のリモコン弁との間の油路に電磁弁を介設し、その電磁弁用ソレノイドと電源を通じるソレノイド駆動用の電気回路に、上記コントロールボックスの傾倒を検出するリミットスイッチと盗難防止用キースイッチを直列に介設し、そのキースイッチを機体のいずれか任意位置に取付けたことを特徴とする建設機械の盗難防止用スイッチ装置。」(公報第1頁左欄2?13行)
(リ)「産業上の利用分野 この考案は、主として建設機械,産業車両などの盗難防止用スイッチ装置に関する。」(公報第1頁左欄15行?右欄2行)
(ヌ)「次に、従来技術における操作レバー用ロック回路の構成を第3図および第4図について述べる。運転席4の左右前側に前後方向に傾倒可能なコントロールボックス6を設け、そのコントロールボックス6上部に各種油圧アクチュエータ用パイロット切換弁19を切換制御するリモコン弁23用操作レバー5をそなえ、さらに上記コントロールボックス6に接触子16を設けている。一方、運転席4側部のベース台8にリミットスイッチ17を固定して取付け、上記コントロールボックス6を後方端イ位置に回動させたとき上記接触子16がリミットスイッチ17に当接し、パイロットポンプ26と上記リモコン弁23とを連通する油路に介在する電磁弁27を油路遮断位置に切換作動せしめるように構成した。
次に、従来技術における操作レバー用ロック回路の作用機能について述べる。コントロールボックス6上部に設けてあるノブ7を下方(矢印ロの方向)に押すと、その押圧力は、プッシュバー14およびプッシュプルケーブル15を経て、メカニカルロック機構13に作用し、メカニカルロック機構13のロック作動を解除する。それで、ノブ7を押したままの状態にしていると、コントロールボックス6を軽い力で傾倒調整できる。コントロールボックス6は、後方端イ位置より角度αの範囲で傾倒調整できる。運転者が操作に最適な所望の角度位置にコントロールボックス6を傾倒させたときに、ノブ7から手指を放すと、ノブ7は元の位置に戻るとともに、メカニカルロック機構13はロック状態となり、コントロールボックス6は固定する。それで、運転者が機体の点検などのために、エンジン用キースイッチ30を投入状態にしたままで降車することがある。そのときに運転者は、コントロールボックス6を後方端イ位置に戻しておく。そうすると、コントロールボックス6に設けた接触子16が、運転席4側部のベース台8に取付けたリミットスイッチ17に当接し、リミットスイッチ17はオフ作動する。それにより、電磁弁27のソレノイド28は非通電となり、電磁弁27は油路開通位置ハより油路遮断位置ニに切換わる。したがって、パイロットポンプ26からの圧油供給は、リモコン弁23に対して遮断してしまう。この状態では、操作レバー5をホ位置方向あるいはヘ位置方向に操作しても、パイロット切換弁19に対して導出されない。そのために、運転者が降車するときたとえば運転者の身体の一部が操作レバー5に接触しても予期しないアクチュエータが作動を開始することはない。すなわち、コントロールボックス6を後方端イ位置に戻すことにより、操作レバー5は操作不能となる。」(公報2頁左欄7?50行)
(ル)「次に、この考案にかかるスイッチ装置の構成を第1図について述べる。パイロットポンプ26とリモコン弁23とを連通するパイロット圧用油路に介在する電磁弁27の、その電磁弁27のソレノイド28より電源31に通じる電気回路に上記リミットスイッチ17と直列に盗難防止用キースイッチ34を配設した。それとともに、上記キースイッチ34を機体のいずれか任意の位置に取付けた。なお盗難防止用キースイッチは1個だけでなく、複数個のキースイッチを直列に連結し、その複数個のキースイッチをそれぞれ複数箇所の隠し位置に配設するようにしてもよい。
次に、この考案にかかるスイッチ装置の作用機能について述べる。コントロールボックス6を後方端に戻し、かつエンジン用キースイッチ30を開いて油圧ショベルの作動を停止させる。そして油圧ショベルを放置するときには、油圧ショベルのいずれか隠し位置に配設した盗難防止用キースイッチ34をオフ操作しておく。こうしておくと、エンジン用キースイッチ30を投入、かつコントロールボックス6を前方へ傾倒させて、バッテリリレー29およびリミットスイッチ17を閉じるようにしても、盗難防止用キースイッチ34は開いているので、ソレノイド28は通電しない。それにより、電磁弁27は油路遮断位置ニにあるので、操作レバー5は操作不能のままである。したがって、油圧ショベルに搭載したエンジン(図示なし)は回転作動させても油圧ショベルを運転して動かすことはできない。また、上記盗難防止用キースイッチ34を油圧ショベル機体のいずれか隠し位置に配設したので、その位置は上記油圧ショベルの運転者など限られた人だけが知っている。したがって、他の人が上記キースイッチ34を見つけて、その回路を閉じることは困難である。それにより、油圧ショベルの盗難は防止される。」(公報2頁右欄36行?第3頁左欄15行)
(ヲ)【第1図】および【第4図】から、電磁弁27が油路遮断位置ニにある状態で、パイロットポンプ26から吐出される吐出油がリリーフ弁32を介してタンク33に排出されるようになっている点が読み取れる。
以上(チ)?(ヲ)の記載からみて、引用文献2には、
「建設機械において、運転者が降車するときに身体の一部が操作レバー5に接触してもアクチュエータが作動を開始するようなことがないように、コントロールボックス6を回動させる動作に基づいて電磁弁27のソレノイド28より電源31に通じる回路を通じて、電磁弁27を作動させることにより機械の油圧動作をすべて停止させるロック状態とこのロック状態を解除した状態に切換えられる装置を備えた」点
および
「建設機械において、盗難防止用キースイッチ34が、電磁弁27のソレノイド28より電源31に通じる回路を遮断することによって、ロック状態とするとともに、パイロットポンプ26からリモコン弁23に導出される吐出油がアンロードされる状態とした」点
が開示されていると認められる。

(3)対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「エンジン13」、「スタータモータ12」、「パワーショベル等の産業機械の盗難防止装置」、「メインリレー6」、および「油圧ポンプ15」は、本願補正発明の「エンジン」、「スタータモータ」、「建設機械の盗難防止装置」、「遮断手段」、および「油圧ポンプ」にそれぞれ相当する。
そして、引用発明の「キーボード2にて入力された暗証番号と、産業機械本体側のメモリに記憶された暗証番号とを照合する暗証番号判定部3」と、本願補正発明の「エンジン始動キー側のメモリに記憶された識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する照合手段」とは、「操作者側の識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する照合手段」である点において共通している。
また、引用発明の「(ii)メインリレー6が切断されて油圧ポンプ15からの油圧を遮断して走行モーターやアームやバケットなどの作動を不可能な状態とする」と本願補正発明の「(ii) 上記ロック制御回路を遮断することにより、上記安全装置の電磁切換弁を作動させて油圧ロック状態とするとともに、油圧源である油圧ポンプから上記操作用リモコン弁に導出される吐出油がアンロードされる状態とする」とは、「(上記照合手段による照合結果が一致しない場合に、)油圧源である油圧ポンプから導出される油圧を遮断してロック状態とすることで機械の油圧動作を不可能な状態にする」点において共通している。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、
「エンジンのスタータモータに通電するスタータモータ回路が設けられた建設機械の盗難防止装置において、操作者側の識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する照合手段と、遮断手段とを具備し、この遮断手段は、上記照合手段による照合結果が一致しない場合に、
(i) 上記スタータモータ回路を遮断してエンジン始動を不可能とし、
(ii)油圧源である油圧ポンプから導出される油圧を遮断してロック状態とすることで建設機械の油圧動作を不可能な状態にする
ように構成された建設機械の盗難防止装置。」
点で共通して、以下の点で相違する。

[相違点1]本願発明が、オペレータが乗降する際に油圧操作レバーに触れて操作用リモコン弁が作動して油圧アクチュエータが動いてしまうことのないように、レバーの操作に基づいてロック制御回路を通じて電磁切換弁を作動させることにより機械の油圧動作をすべて停止させる油圧ロック状態とこの油圧ロック状態を解除するロック解除状態とに切換えられる安全装置を備えているのに対して、引用発明がそのような安全装置を備えていない点。
[相違点2]操作者側の識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する照合手段が、本願発明では、エンジン始動キー側のメモリに記憶された識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合する方式のものであるのに対して、引用発明では、キーボード2にて入力された暗証番号と、産業機械本体側のメモリに記憶された暗証番号とを照合する方式のものである点。
[相違点3]建設機械の油圧動作を不可能な状態にするのに、本願発明では、ロック制御回路を遮断することにより、安全装置の電磁切換弁を作動させて油圧ロック状態とするとともに、油圧源である油圧ポンプから上記操作用リモコン弁に導出される吐出油がアンロードされる状態としているのに対して、引用発明では、油圧を遮断してロック状態とした際に、安全装置の電磁切換弁を作動させて油圧ロック状態としているのか、あるいは油圧源である油圧ポンプから上記操作用リモコン弁に導出される吐出油がどのような状態となっているのか明らかではない点。

(4)判断
上記相違点についてそれぞれ検討する。
[相違点1について]
引用文献2には「建設機械において、運転者が降車するときに身体の一部が操作レバー5に接触してもアクチュエータが作動を開始するようなことがないように、コントロールボックス6を回動させる動作に基づいて電磁弁27のソレノイド28より電源31に通じる回路を通じて、電磁弁27を作動させることにより機械の油圧動作をすべて停止させるロック状態とこのロック状態を解除した状態に切換えられる装置を備えた」点が記載されていることから、このような建設機械における安全装置を引用発明においても設けるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
そして、上記安全装置の作動非作動状態を切換るための手段として、レバーを回動させる方式とするか、コントロールボックスを回動させる方式とするかは、当業者が適宜設計選択することができる範囲の事項であるということができる。
[相違点2について]
車両盗難防止装置における識別情報の照合の方式において、エンジン始動キー側のメモリに記憶された識別情報と、車両本体側のメモリに記憶された識別情報とを比較するものは周知の技術であって(例えば、原査定の拒絶の理由に引用された特開平10-194087号公報参照)、当該周知技術を引用発明における照合の方式として用いるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
[相違点3について]
引用文献2には「建設機械において、盗難防止用キースイッチ34が、電磁弁27のソレノイド28より電源31に通じる回路を遮断することによって、ロック状態とするとともに、パイロットポンプ26からリモコン弁23に導出される吐出油がアンロードされる状態とした」点が記載されていることから、引用発明において油圧ロック状態を実現するのに、上記引用文献2に記載されているように、ロック制御回路を遮断することにより、安全装置の電磁切換弁を作動させて油圧ロック状態とするとともに、油圧源である油圧ポンプから上記操作用リモコン弁に導出される吐出油がアンロードされる状態とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

ところで、本件請求人は、審判請求の理由の中で、「ところがこの引例2では、油圧ロック用の電磁弁27の通電回路中に盗難防止キースイッチ34(第1図参照)を組み込んだだけであるため、このキースイッチ34を直結すればロックは簡単に破られてしまう等、盗難防止の実効はきわめて低い。
補正却下の決定の謄本には、本願発明とこの引例2の関係について、『引例2の技術を引例1に適用することによって本願発明が容易になされる』旨、指摘されている。
ここで『適用する』とは、既存の安全装置を盗難防止の油圧ロックに利用する思想を、引例1の二重ロックの油圧部分として利用する』の意味であると思われる。
しかし、引例2は、盗難防止キースイッチ34を追加する技術思想しか開示されていない以上、この引例2の技術思想を引例1に組み合わせたところで、油圧ロック用の電磁弁の通電回路に盗難防止スイッチ34を設置する構成が想到されるに過ぎない。」旨主張しているので、以下この点について付記する。
既に説示したとおり、引用発明は、「【0005】本発明は、・・・その目的とするところは、電源、燃料、油圧回路の作動用電気機器の作動カットを集中制御することによって、1つの装置で行い、走行機能をすべて停止させる盗難防止装置を、人目につかない位置に配置し、仮に見つけられても、回線が錯綜して容易に解明できない確実な盗難防止装置を備えた産業機械を提供しようとするものである。」(上記2.(2)(ハ)参照)ことから、引用文献2に開示されている技術を引用発明に「適用」するのに、盗難防止用スイッチ34を盗難防止装置1とは別個の独立したスイッチとして設けることはなく(上記引用発明の目的からしても敢えて別個のものとすることは不自然である)、上記の「適用する」とは、引用発明における盗難防止装置が油圧ロック状態とする際の対象を引用文献2に記載されているような安全装置のロック制御回路とすることである。
したがって、出願人の上記主張は、これを採用することはできない。

そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献2に記載された事項、および周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項、および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
平成18年1月10日付の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明4」という。)は、平成16年7月26日付手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】オペレータが乗降する際に油圧操作レバーに触れて油圧アクチュエータが動いてしまうことのないように、レバーの操作に基づいてロック制御回路を通じて電磁切換弁を作動させることにより機械の油圧動作をすべて停止させる油圧ロック状態とこの油圧ロック状態を解除するロック解除状態とに切換えられる安全装置を備え、かつ、エンジンのスタータモータに通電するスタータモータ回路が設けられた建設機械の盗難防止装置において、建設機械に割り当てられている識別情報と入力された識別情報とを照合する照合手段と、この照合手段による照合結果が一致しない場合に上記スタータモータ回路及びロック制御回路をそれぞれ遮断する遮断手段とを具備することを特徴とする建設機械の盗難防止装置。
【請求項2】請求項1記載の建設機械の盗難防止装置において、ロック制御回路の遮断時に電磁切換弁の油圧源である油圧ポンプからの吐出油をアンロードさせるように構成されたことを特徴とする建設機械の盗難防止装置。
【請求項3】請求項1または2記載の建設機械の盗難防止装置において、遮断手段は、エンジンへ燃料を供給する燃料供給路をも遮断するように構成されたことを特徴とする建設機械の盗難防止装置。
【請求項4】請求項1乃至3のいずれか1項に記載の建設機械の盗難防止装置において、照合手段は、エンジン始動キー側のメモリに記憶された識別情報と、建設機械本体側のメモリに記憶された識別情報とを照合するように構成されたことを特徴とする建設機械の盗難防止装置。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1,2、およびその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明1は、前記2.で検討した本願補正発明から本願発明2および本願発明4において限定されている構成要件を省いたものである。
そうすると、本願発明1の構成要件をすべて含み、さらに本願発明2および本願発明4において限定されている構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記2.(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献2に記載された事項、および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も同様の理由により、引用発明、引用文献2に記載された事項、および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用発明、引用文献2に記載された事項、および周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明2?4を検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2007-02-26 
結審通知日 2007-02-27 
審決日 2007-03-12 
出願番号 特願平10-246003
審決分類 P 1 8・ 575- Z (E02F)
P 1 8・ 121- Z (E02F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 久夫鹿戸 俊介  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 宮川 哲伸
西田 秀彦
発明の名称 建設機械の盗難防止装置  
代理人 小谷 悦司  
代理人 村松 敏郎  
代理人 村松 敏郎  
代理人 小谷 悦司  

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